Fate/Evil   作:遠藤凍

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暴食と嫉妬を継ぐもの

ライダーと宝具を発動していたビギナーの戦闘の余波によりボロボロになり一部では炎が炎上している道路にて忙しそうに動き回る複数の人影、彼らは今は亡き言峰璃正の後を継いだ息子の言峰綺礼の命により聖杯戦争での戦闘の痕跡を跡形もなく消すため、道路補修に伴って証拠隠滅を行っていた。

 

だがそれは2人の美女によって今や絶叫と悲鳴が響き渡る殺戮現場へと変貌を遂げていた。

 

 

「なっ……なぜ貴様がここに!?」

「ちょっ、まっ……待tーーーギャアアア!!」

「う、腕がぁ!俺の腕がぁ!?」

 

 

逃げ回るスタッフを特に追うことなく光の光線が1人ずつ貫いていく。

 

 

「ふむ……やはり手応えのある人間はおらぬか」

「お言葉ですがルシファー様。永時様のような人間は稀なので……あまり期待しない方が良さそうですよ?」

「それもそうか……やはりそこらの人間とは比べ物にならんか。流石妾の夫になる男、そこらの有象無象とは格が違う!」

「しかし……何故このようなことを?魔力回復が目的であればそこらの人間を襲えばよいのでは?」

 

 

絶望に染まったスタッフに笑みを浮かべつつ、ゼツは指先から禍々しい黒弾をスタッフの1人へと打ち込みながら主へそう尋ねた。

 

するとルシファーは無表情で光線を打ち込みながら語った。

 

 

「仕方なかろう。無関係の者を巻き込めば追われるのは必須、それは妾の望むことではない。それに比べ奴らはこの世界の裏側に属する者、殺されるぐらいの覚悟は持っておろう?」

「ですが実際は……」

「戦う意思を見せず逃亡する……実に人間らしい愚かな者よ。エイジの爪垢を飲ませてやりたいものだ」

「先程も言った通り永時様のような人間は稀なこと。ですが今は英霊が存在する聖杯戦争中。永時様、とは言えませんが骨のある英霊が出ることを望んでおきましょう」

「……そうだな」

「で、本当の理由は何でしょうか?」

「……何?」

 

 

ピタッと一瞬だけだがルシファーの動きが止まる。しかしすぐに殺戮を再開する。

 

 

「何を言うておる?」

「いえいえ、ただ長い長いそれらしい言い訳を語るルシファー様に疑問を抱いただけですよ?」

「別に言い訳ではない。れっきとした本心だ。ただ……」

「ただ?」

「……無関係な者を巻き込むのは彼奴が好まんと思っただけじゃ」

「ふふっ、そうですか」

「わ、笑うでないわ!」

「いえいえ、ルシファー様も魔王である前に乙女であったことが証明されたので満足いたしました」

「くっ……後で覚えておれよ」

「はて?何のことでしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結婚してください』

 

 

その言葉に永時は固まった。

 

急に知り合いのそっくりさんのプロポーズを受けたのだ。驚くのも無理はない。

 

 

「……どういうことだ?」

『……そのままの意味』

 

 

疑問を浮かべた永時に答えるかのように紙切れを追加して見せてくる。

 

 

「(いつの間に書いたんだ?)……何者だ?」

『それは貴方がよく知ってるはず』

「ブb……ベルゼブブの関係者か?」

『正解。私はNo.6。リヴァイアサンからシーちゃんと呼ばれている。貴方の推測通り暴食の魔王ベルゼブブと貴方の血をひいている』

「暴食、ねえ……んで、それがどうしたらプロポーズに繋がる?」

『まだ私が生まれたての頃に見た貴方の戦闘記録を見て惚れた』

「……」

 

 

永時は目を閉じ思考する。まともなプロポーズなんていつ以来だろうかと。

 

 

ーーー君と一緒に世界を見て回りたいんだ!

 

ーーーわたくしの玩具になりなさい、終永時

 

ーーー私のものになってよ!実験台としてだけどね?

 

ーーーあたしのマネージャーになりなさい!

 

ーーー婚姻同意、許可、懇願

 

ーーー未来永劫、妾のものになる気はないか?

 

ーーー俺の嫁になれ!

 

ーーーこれからも、相談相手になってくれませんか?

 

ーーー安心しろ、我しか見えないようにしてやる。なぁに、食事と我の愛情だけは欠かさずくれてやるから安心しろ

 

 

……うん、ほぼまともなものがなかった。

 

今回はまともなプロポーズなのは分かる。分かるが……自分の娘に、だ。

 

 

「ああ、あれか。子供が『将来パパと結婚する!』ってやつだろ?」

『違う、割と本気』

 

 

……なんか無性に泣きたくなってきた。誰だよこんな風に育てた奴は!

 

 

『まさか泣いてる?』

「そのまさかだがな」

 

 

涙を流さず、永時は心の中で泣いた。

 

 

『……それで、返事は?』

「……もちろん断r「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 

また面倒なことが来たと永時は直感し、これから起こるであろうことを考えると胃が痛くなってきた気がしてきた。

 

天井を突き破り、忍者のようにシュタッと降り立つ馬鹿弟子。

 

 

「そこの貴女!プロポーズするなんて例え師匠が許しても私は許しませんよ!」

『……何者?』

「よくぞ聞いてくれました!私こそは終永時の一番弟子であり、将来この貞操を捧げると誓った間柄。終ニルマルだ!」

『何……だと………!?』

「いや、違うし」

『ですよね〜』

「な、なんだってー!?し、師匠!嘘だと言って下さい!」

「誰もお前の貞操を頂くとも捧げるとも言ってねえよ」

「そ、そんな……!私とは遊びだったのね!?」

『最低……』

「一旦黙ってろ!……んで、何の用だ?」

「えっ?いや……師匠にプロポーズしようとする愚か者に制裁をと……」

「……はぁ」

 

 

本来なら怒っているところだが今はそれどころではないのでため息を大きく吐いた。

 

 

「……ニル。今からセクター2へ向かってくれ」

「セクター2、ですか……?」

「さっきマモンらを送ったんだけどな……さっきアリスから被害状況を聞いて……」

「静観できる状態ではないと?」

「主に空調被害が酷くてな。ネルフェを連れて制圧、修理を頼みたい」

「はあ……ちなみにそれだけですか?」

「2人の戦闘のせいでピストレとグロートとかの飼育ケースが壊れたらしくてな、今は交戦中だそうだ」

「分かりました。今すぐに向かうべきですか?」

「いや、向こうの警戒レベルはレベル3まで上がっているからな。万が一もあるからベルフェに用意させてるスーツを着て行ってくれ」

「了解しました」

 

 

チラチラとシーちゃんを見つつも渋々部屋から出て行った。

 

 

「さて、話を戻そうか?」

『挙式はどこであげるって話?』

「いや違うからな。アヴェンジャー、いつまで空気になってやがる」

「おや?覚えていらしてましたか」

 

 

今まで空気だったアヴェンジャーは覚えられていることに感動しながら再びその姿を現す。

 

 

「で、私を呼んだのはいかなる理由で?」

「頼みがあるんだが……いいか?」

「……?何でしょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キェェェェェェェ!!」

「キシャァァァァァ!!」

 

 

一方セクター2。横が飼育ケースに囲まれた場所にて、2人のアホ共による戦闘の余波で飼育ケースを破壊。中で伸び伸び過ごしていた生き物たちの逆鱗に触れてしまい更に中の水が漏れているせいで通路は彼らの戦場へと化していた。

 

蟹と魚を混ぜて人型にしたような何かの雄叫びと共に蟹の爪のような異形な手から水鉄砲が放たれ、ラボの床を易々と貫通させた。

 

 

「ああもう!鬱陶しいですわね!」

 

 

水浸しのドレスを鬱陶しく思いながらそれを後ろに下がることで避け、弓を構えて頭部を狙って矢を放つ。

 

グェッ!と呻き声に近い声を上げながら頭に刺さり、床に倒れ伏し青い血液で染め上げていた。

 

 

「ああ醜い……醜過ぎて吐き気がしますわ」

「ゴァァァァァァァァァ!!」

 

 

ハンカチを取り出して口元を抑えるマモンの死角。脆くなった飼育ケースを突き破って5つに割れた大顎を持つ巨大な魚?のような生物がマモンを噛み砕かんと口を開いて飛び込んでくる。

 

 

「……本当、醜いですわ」

 

 

そう言って弓を分解して一閃、当てるつもりだった。

 

 

「やめなさい!」

 

 

その一言を聞くまでは。

 

 

「……あら?」

 

 

その一言の後急に大人しくなった魚。すると床に着地した後いそいそと飼育ケースの中へと戻っていった。

 

声が聞こえた方を振り向くと黒と青がベースのスーツようなものを身につけ、フルフェイスのヘルメットを装備した2人組みがいた。

違いらしい違いと言えば額のところ辺りに01、02と書かれたナンバーぐらいだろう。

 

 

「ご無事でしたかマモンさん」

「その声は……どなたですか?」

 

 

それを言われてコケそうになるがなんとか踏ん張ってヘルメットを外す。

 

01は深緑の髪が特徴な幼い少女。02は群青色の薄褐色の少女が姿を現した。

 

 

「確かネルフェさんと……ダニエルs「ニルマルです」うふふ、冗談ですわよ?ところでどうしたのですか?こんな辺境な場所で」

 

 

失礼な!とベルフェの声が聞こえた気がしたがスルーし、本題に入る。

 

 

「いえ……貴女たちが暴れているせいで被害が凄いんですよ」

「それで止めに来たと?」

「まあそういうことです」

「なるほど……ところでですが、ここの生き物たちは彼女、ネルフェさんには懐いているのですか?えらく素直に言うことを聞いていましたが……」

 

 

現にさっき殺した半魚人っぽいものの同種の生物が銃口?を向けてはいるがそれは全てマモンとニルに向けられているのだ。

 

 

「この人たちは私のお客さんだから安心して」

 

 

それに気づいたネルフェがそう語りかけると渋々といった感じで銃口?を下ろし、飼育ケースへと戻っていった。

 

 

「これは……洗脳の類?しかしベルフェゴールがそのような能力を持っている報告はなかったはず……」

「簡単ですよ?彼らは皆、ネルフェちゃんがお世話をしたからですよ」

「彼女が、これらの飼育を?」

「ええ、新種の幼体を1人で育て上げ、ある程度になれば飼育ケースに放つことをやってきました。そしてやがてボスとなるその個体は彼女に懐いているため、自然にその種の群れは彼女に従う、というわけです。前は師匠自らやっていたそうですが最近は彼女自らやってます。まあ後から増えていく個体は自身の能力でなんとかしているそうですがね?」

 

 

マモンは素直に驚いた。この研究施設の生物全てが彼女に掌握されているのだ。その技量と努力、そしてそれを実現する能力に大変興味を持った。

 

前にベルフェゴールに聞かされた『イーヴィル計画』とやらは魔王たちの遺伝子を使っていると聞いた。

 

自身の遺伝子を使った子供はまだ見つかってないらしいので将来会うのが楽しみになってきた。

 

 

「ところでマモンさん。リヴァイアサンはどうしたのですか?」

 

 

その子はきっとわたくしに似てさぞかし強く、優美で可憐な少女でしょうね、と想像に浸っているとネルフェにそう言われて意識を元に戻した。

 

 

「リヴァイアサン?……ああ、それなら」

 

 

そこに、と自分の横の飼育ケースを指差す。2人はマモンの横に移動してみると……リヴァイアサンが確かにそこにいた。

 

こちらに向かって泳いできながら、だ。

 

 

「流石はレヴィアタンの娘。中々の力をお持ちのようでしたが……わたくしの前では話になりませんわね」

「いやいやいや!何終わったな、みたいな顔しているんですか!?こっちに来てますよ!」

 

 

そうニルが言い終わると同時に飼育ケースを突き破って、はっきりと姿を現すリヴァイアサン。だが可憐な、少女の姿はなく、身体の右半分が龍と化し、目を黄色くギラギラと輝かせていた。

 

 

「マダダ……まだ終わッテない!」

「あら?生命力の高さ(しぶとさ)だけは親に似ていますわね」

 

 

下がりなさい、と2人を下がらせ弓を構える。

 

 

「アァァァァァァァァァァ!!」

 

 

異形となった右足で床を踏みしめ、6本となった大きな鉤爪のような手で握り潰さんと腕を伸ばす。

 

マモンは身体を傾けて避け、ニルはネルフェを抱えて横へ跳ぶ。

 

見事に空振りした手はそのまま飼育ケースを握り潰し、中から更に水が溢れ出てくる。

 

 

「怪力A+と言ったところでしょうか?」

「チィッ!!」

 

 

後ろだと気づいたリヴァイアサンは右腕を乱暴に振って暴風を起こし、そのまま水を操作してマモンに襲わせる。

 

 

「……ですが、甘いですわよ?」

 

 

分解した弓を即座に合体させ、矢を放つ。

 

放たれた矢は暴風を纏ったかのように風の音と風を引き裂く音を響かせながら迫り来る暴風を薙ぎ、迫る水を貫き、そのままリヴァイアサンの体も見事に貫いた。

 

 

「ガッ……!!」

「その程度の強化ならレヴィアタンでも簡単に出来ること昔とは言え彼女らと戦争をした我々魔王を舐めないで欲しいですわ」

「ぐっ……まだダァ!」

 

 

痛みを堪えるように床を強く踏みしめ、突貫する。だがそんな簡単な攻撃は易々と見切られ、横にひらりとかわされる。

 

 

「……フッ」

「ッ!?」

 

 

だがリヴァイアサンはかわした直後を逃さず、そのまま腕を床につけ力技で飛んでマモンに跳び蹴りをかました。

 

 

「くっ……!!」

 

 

だが咄嗟に腕を交差させて防ぎきったマモン。しかしその蹴りの重さに少しよろめいてしまった。

その隙を逃すわけもなくそのまま身体を捻って右腕を振るう。

 

 

「……はぁ。もういいですか?」

 

 

だがそれはニルの溜め息混じりの一言でリヴァイアサンの優勢は止まった。

 

マモンとリヴァイアサンに挟まれる形に入り込み、リヴァイアサンの大きな腕を両手に掴み、背負い投げの要領で投げて飼育ケースに叩きつけた。

更にそのまま駆け出し、体制を立て直したリヴァイアサンにスプレー缶を投げつけた。

 

 

「な、に……!?」

 

 

リヴァイアサンに当たる寸前でスプレー缶が爆発し、中から煙が溢れてリヴァイアサンの周辺に充満する。

 

なりふり構わずリヴァイアサンは腕を振るい、煙を払う。

 

 

「……ッ!?」

 

 

つもりでいたが体が重く感じ、振るうことが出来なかった。

まるで体が段々と麻痺していくような動きの鈍さと気だるさを感じた。

 

 

(麻痺、気だるさ?……まさか!)

 

 

それらから推測するにこの煙は毒、及び睡眠薬の類ということに気づいた時にはもう遅く。

 

 

「とりあえず……一旦眠りなさい」

 

 

そう言って懐から銃を取り出して発砲。そして飛び出した弾丸は彼女の体を撃ち抜いた。

 

 

 


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