Fate/Evil   作:遠藤凍

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異常と最速

 

 

ライダーとビギナーのぶつかり合いにより、山道の道路が爆発を起こし、舞い上がるかの如く、炎が炎上していた。

 

そんな中から出てきたのは金髪碧眼の筋肉質な身体の男、ビギナーである。

 

 

「フッ、この俺があの程度の爆発くらいで死ぬと思っていたのか?」

 

 

特徴的な足音を鳴らしながら炎の中を悠々と歩いて出てくる。その身体には火傷などの傷が存在せず、彼の肉体の強さを物語っていた。

 

 

「……もう終わったか?」

 

 

詰まらなさそうに呟き、炎に背を向けて歩き出す。

 

 

「ん?」

 

 

ビギナーに電流が走り、ある人物の居場所が出てきた。

 

 

「……まあいい、奴ならいつでも殺れる」

 

 

そう言ってビギナーは空を飛んでどこかへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方アイリスフィールを追いかけていたセイバーはバットとの戦闘に苦戦していた。

 

 

「おらおらおら!」

「くっ……!」

 

 

ビギナーと同じように高い筋力と敏捷により苦戦は強いられてはいたがビギナーとは違い、大した傷を負ってはいなかった。

 

いくら相手が速かろうと冷静に観察して上手く避け、弾いているのだ。狂化によって理性がなく、それ故単純な攻撃しかできなかったビギナーとは違うのである。

 

 

「はぁっ!」

「ぐっ……!まだまだぁ!」

 

 

セイバーの切り上げがバットの身体にかする。しかし、バットは手に持つ槍で心臓に一突き。

しかしセイバーは剣を横にすることで軌道を逸らし、急所を外すことに成功したが、代わりに逸れた槍は横腹に突き刺す形になった。

 

そして身の危険を感じ取ったバットは槍を抜いて後ろへと跳ぶ、すると案の定セイバーが剣を横に薙ぐように振るっているのを確認した。

 

 

「チッ、外したか。流石は騎士王というべきか?」

「そちらこそかなりの武芸の持ち主のようで……是非ともその真名を聞きたいものですね」

「アホか、これは戦争なんだぞ?安々と自分の名を名乗る馬鹿がいるか。いたとしたら相当な大馬鹿者だがな?」

「……」

 

 

図星であるため、黙り込むセイバー。永時との契約がなければ今頃会話をするかのように名乗っていたであろう。

 

 

「えっ……まさか図星?」

「……いえ、違います」

「ふぅん。まあどうでもいいけど……さっ!」

 

 

セイバーに向かって飛び出すーーーかのように見えて更に一歩後ろに下がって横に薙ぐように振るい、バットに向かって飛んできた緑の何かを弾いた。そして弾いたそれは軌道を変えて近くに落ちて、爆発した。

 

 

「新手か!?」

「チッ……もう来やがったか」

 

 

セイバーは新手を警戒して剣を構えて辺りを見渡し始め、バットは首を上を向け、ある一点を眺めていた。

 

 

「バットォォォォォォォォォォ!!」

 

 

雄叫びと共に物凄い形相でこちらに飛んでくる男を二人は視界に捉えた。

 

 

「あれは……何者だ?」

「ノットだよ、ノット。しかしあいつ……もうこの段階に来ていたか」

「ノット?……ああ、ビギナーのことですか。しかし………」

「明らかに変わってる、か?まあそれが奴の宝具なんだよ。気にしたら負けだ」

 

 

黒髪と白い伊達メガネ以外特に特徴がなかった男が金髪碧眼に引き締まった筋肉と特徴だらけの男へと変貌しているのだ。驚くなという方が無理である。

 

だが、醸し出している闘気と殺気から先程の比ではなく、変わったのは見た目だけでないことを物語っていた。

 

 

「バットォォォォォォォォォォ!!」

「はいはい、そんなに叫ばなくてもいいから。それとも俺が恋しい?……な訳ねえか」

「オオオオオオオオオオ!!」

 

 

流星のように落ちてきて、その勢いのまま拳を振り下ろす。

しかし敏捷が高いバットにそんな単純な攻撃は聞かず、槍を使って横へとズラし、ビギナーは道路に衝突した。

 

 

「ゲッ!」

 

 

しかしビギナーのパワーが強力だったためか、はたまた本来の持ち主でないからか。手に持っていた紅槍が折れていた。

 

 

「あちゃー……やっぱり自分の得物じゃないから無理かぁ」

「バッ……トォォォォォォォォォォ!!」

 

 

怒りの声を上げ、圧倒的な殺気と闘気を振り撒いて大地を揺るがしながらビギナーは立ち上がり、バットは自身の得物を取り出した。

 

 

「……鎖?」

「ああ、いつ俺の得物が槍だけと言った?……まあいい。おい騎士王!一旦ここらで停戦にして共闘といかねえか?」

「……同感です。今それを考えていました」

「それは了解ってことでいいか?」

「ええ」

「おk。じゃあ……いくぜぇ!」

「はい!」

 

 

バットの叫び声と共に二人は飛び出す。

 

 

「バットォォォォォォォォォォ!!」

 

 

二人が飛び出したのに反応したのか、ビギナーも同じように飛び出す。

 

 

「デェヤァ!」

 

 

ビギナーは掌に緑弾を作り出し、二人に向かって投擲する。二人は横にズレることにより避け、ビギナーの懐へと接近する。

 

 

「チィッ!!」

「はぁっ!」

 

 

ビギナーは最も距離が近いセイバーに拳を振り下ろす。だがセイバーは振り下ろされた腕を足場にして跳び、ビギナーの頭狙って剣を振り下ろすーーーのだが頭突きで防がれ、再び拳で攻撃する。

 

 

「ほらよ!」

「何ぃ!?」

 

 

しかし腕に鎖が絡みついて引っ張られ、軌道が逸れた拳はセイバーに当たらず空振りする形となってしまい、

 

 

「今だぞ!」

「はい!『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

ゼロ距離からの風の鉄槌が頭に叩き込まれ、辺りに砂塵が舞い上がる。

打ち終わったセイバーは剣を構えたまま後ろに下がる。

 

 

「……やったか?」

「ちょっ、それフラグ……「その程度のパワーで、この俺を倒せると思っていたのか?」ッ!」

 

 

バットの言う通り、砂塵から大きな手が伸びてきてバットを掴もうとするがギリギリ気づき、バック転で腕をヒラリと回避し、巻いていた鎖を解く。

 

 

「……相変わらず化け物みてえな奴だな」

「俺が化け物?……違う、俺は悪魔だぁ」

「……ああそうだったな。お前は悪魔(自称)だったな」

「フフ……フハハ………フハハハハハハハハ!!」

 

 

悪魔と言われて嬉しかったのか、悪魔のような笑みを浮かべ、礼と言わんばかりに緑弾を投げ飛ばした。

バットとセイバーはビギナーに向かって走り出し、走りながら身体を捻って緑弾を避ける。

 

 

「はぁっ!」

 

 

セイバーが剣を振るって今度は胴を狙うが難なく弾かれ、緑弾を作り、投げ飛ばさずにセイバーの腹に叩き込んで押し込む形で爆発させた。

 

 

「グハッ……!」

「フハハ!」

「せい!」

 

 

その隙にバットは接近し、顔に蹴りを与える。

 

 

「何なんだぁ今のは?」

「げっ!」

 

 

全然効いておらず寧ろ喜んでいるかのように笑みを浮かべるのをきみわるく感じながら顔を蹴ってバック宙の要領で地に足を付ける。そしてビギナーは踏み潰そうと足を勢いよく下ろす。のだがその前にバットは鎖を絡ませて引っ張りバランスを崩したビギナーは思わず声を上げた。

 

 

「何だと!?ーーーとでも言うと思っていたのか?」

「なっ……ぐあっ!」

 

 

バランスを崩し、地面に倒れる前に地に手を付けて身体を捻って回転蹴りをバットのその小さい体躯にぶつけた。

そして蹴られたバットは地面に1、2回バウンドしながら飛んでいき猛ダッシュで接近したビギナーに蹴り上げられ、更に緑弾を投げられて……

 

 

「『風王鉄槌(ストライク・エア)』!」

 

 

風の鉄槌が緑弾に当たり、壊すことは出来なかったが軌道は逸らすことができ、どこかの虫ケラさんのようなことにはならずに済んだ。

 

 

「チィッ!」

 

 

邪魔されたビギナーは大きく舌打ちをし、邪魔をしたセイバーに掌を向けて緑弾を発射した。

 

 

「なっ…!」

 

 

投げるだけだと思っていたセイバーは不意を突かれ、直撃は避けられなかった。

 

 

「ぐあっ……!」

「はぁっ!」

 

 

爆発でセイバーが吹き飛ぶ中、爆発の中からバットが飛び出してき、ビギナーはすぐ様標的を変更して緑弾を撃ち続ける。だが流石はマッハを超えると言われる女。圧倒的な速度で緑弾をスイスイと避け、一瞬で懐へ入り込んだ。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

「……」

 

 

そして速さを生かした肉弾戦に持ち込み、ラッシュを叩き込むがビギナーも負けず劣らずのスピードでラッシュを捌いていた。

 

 

「チッ、サーヴァントの身じゃ無理があるか「何なんだぁ今のは?」ッ!?」

 

 

強めに叩き込んだ拳が掴まれ、空いた手でバットの顎を撃ち抜いて上へと上げる。顎をやられたために意識が少し揺らぎ、なすすべもなく上に上げられ、

 

 

「ッ!しまっtーーー」

「フフッ……フン!」

 

 

意識を覚醒させた時にはもう遅く。足を掴まれ、下に投げられる。落とされたバットは受け身もできず叩きつけられ、地面は陥没して小さなクレーターができていた。

そしてそのまま降りてきたビギナーに両足で踏み潰され、苦痛の声を上げる。

 

 

「ぐあああああああ!!」

 

 

その叫び声にビギナーは笑みを浮かべ、宙へ浮かび上がり、二人を見つめる。

 

 

「くっ……!」

「ゲホッ……ゴホッ………!!」

 

 

一人は立てないほどの重症、もう一人は吐血をして身動きすらとれないほどの重症であり、ビギナーの有利は確定し、ビギナーは喜びの笑みを浮かべた。

 

 

「……残念だがとうとう終わりの時が来たようだな。今楽にしてやる!」

 

 

掌を向け、緑弾を作る。しかしその大きさは今までと比にならないぐらい大きいものを作っており、それだけで二人は威力を理解し、本気でなかったことにも気づいた。

 

 

「あれは……!」

「チッ……!こうなりゃ奥の手を……」

 

 

だが、いざ発射となった時。ビギナーはその動きをぴたりと止め虚空を見上げて声を荒げた。

 

 

「……何だと?貴様、何を言っているのか分かっているのか!?」

「何、だ……?」

「多分マスターとの念話なのでは?」

「何ぃ?……チィッ、今回だけは大人しく言うことを聞いてやる。………バット、今回は見逃してやる」

「へえ……?そりゃまたどうしてだよ?」

「貴様には関係ないことだ。……フン、どうせ貴様のことだ。まだとっておきを隠してあるのだろう?」

「まあな……」

「……次は絶対殺してやるからな」

 

 

捨て台詞を吐いてビギナーは高度を上げていき、飛び去って行った。

そしてビギナーを去って行ったのを確認するとバットは回復を試み、呪文を口ずさんだ。

 

 

「……ケアルラ」

 

 

するとバットの身体が緑色の暖かな光に包まれ、光が晴れるとバットの身体にあった傷という傷がなくなっていた。

 

 

「回復魔術?しかし、あそこまでを一瞬で回復させるなど……」

「ん?そうなのか?……よっと」

 

 

治った途端ヒョイと跳んで着地するとセイバーに近づき、同じように処置を行った。

 

 

「ケアルラ」

「……すみません」

「いいってことよ。まあ俺としても楽しめたし良かったよ。じゃあなセイバー、次会った時もよろしくな」

「はい、次も是非よろしくお願いします」

 

 

そう言うとバットは目にも止まらぬ速さで走り去っていった。

 

それを見届けた後、インカムからコール音が響く。

 

 

「……はい」

『俺だセイバー。例の女は見つかったか?』

「いえ、それが……」

 

 

アイリスフィールを見失ったこと、犯人らしき人物を三人であること、その内一人は鎖を使う少女だということを説明する。

すると永時はどこか納得したような声を出した。

 

 

『ーーーなるほどな。鎖を持った少女ねえ……』

「何か心当たりが?」

『まあな。……とにかく一旦帰還しろ。話はそれからだ』

「……了解しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……やはり魔法の力を持っていたか)

 

 

セイバーがいたところより遥か上空にてビギナーはすぐに帰還しなくて良かったと思いつつ思考していた。

 

確かに彼女が回復手段を持っているのは知っていた。しかし、彼女はある病気が原因で衰弱しており魔法どころか本来の実力が出せなかったが今はサーヴァントの身。その人物の全盛期で召喚されるため、最初から回復はすぐに出来るはずである。

 

 

(しかし……何故鎖で勝負してきた?)

 

 

彼女は戦闘狂であり鎖が得物であるのは知っているがそれ故に納得いかない部分がある。

 

 

(なんで鎖なんかで挑んだ?鎖を使った時の実力では俺に勝てるとは到底思えんが……)

 

 

戦闘狂である彼女はただ戦うのではなくそれなりのルールを敷いてやっているのがビギナーが感じる妙な引っかかりの原因であるのは分かっていた。

 

 

(確か……見知らぬ相手には様子見も含めて鎖を、認めた相手には槍を、だったか?まあ槍でやってきたがあれは多分ランサーの槍のはず。あっさり折れるから変だと思ったが……)

 

 

他にもルールはあるらしいがそこはほっといて彼は思考する。

自画自賛ではないが自分は彼女に認められるほどの実力を持っているつもりだ。なのに何故負けると分かっている鎖で挑んだのだろうか?それとも何か別の目的があって……

 

 

(……まあいい、見つけ次第聞けば分かるだろう)

 

 

深く思考するのが面倒になった彼は考えるのを放棄してアインツベルン城へ向かって飛び立った。

 

 

結局彼はバットの目的が時間稼ぎであることに気づかずに去って行ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……了解しました』

 

 

了承の声を聞き、通信を切ったのを確認すると永時は一瞥する。

 

 

「さて……」

 

 

そう言ってモニター越しに見える四人の女性から視線を外し、思考に浸ることにした。

 

 

(ノット、鎖を使う少女………都合よく奴らが揃ってきてる訳だがどういうことだ?……まさか、また奴が?……いや、それにしてもおかしい。それならノットを狂化状態で呼び出すことがまず違うだろうな。そもそも奴の力は暴走すれば星一つ余裕で潰せるんだ。それこそ抑止力が働く……抑止力?…………ああ、そういうこと)

 

 

答えに辿り着いた永時は一人納得し、再びモニターに視線を戻した。

 

 

 


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