Fate/Evil   作:遠藤凍

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アイリスフィール争奪戦

 

 

「……で、何でこんなところにまで呼び出しやがった?」

 

 

さっき届いた手紙をヒラヒラと揺らしながら永時は送り主である人物に話しかける。

しかし空いた手で銃を持っているあたり、警戒を怠ってはいないようだ。

 

 

「おやおや?要件なら中に書いてあるのでは?」

「……その話し方はやめろ、気持ち悪い」

「まあまあそう言わずに、今はこの話し方が気に入ってます故……」

「そうかよ。……じゃあ言い方を変えよう。ここに書いていた内容は冗談抜きか?」

 

 

手から炎を出して手紙を燃やし、威圧しながらそう言った。

だが肝心の相手は不気味な笑みを崩さぬまま話を続ける。

 

 

「ええ、貴方が思っている通りの内容ですよ」

「そうか……まさかまたお前と組むことになろうとはな」

「おや?了承して下さるのですか?」

「遠回しに脅してる癖によくもまあ……」

「何言ってるんですか、交渉とは脅してなんぼでしょ?」

「いや違uーーーベルフェだと?」

 

 

永時の携帯に着信が入り、肝心の相手はいいとアイコンタクトを送ったのを確認すると電話に出た。

 

 

「……報告?一体何の?」

 

 

どうやら手紙を見た後、出かけて行った永時を心配したベルフェが掛けてきたようなのだ。

 

 

『ん〜、あれだよ〜。永くんが血なまこになって探し続けていた例の聖杯の場所だよ〜』

「……何だと?」

『どうやら〜、“前回”のことを踏まえて〜やり方を変えたようだね〜。どうやらアイリスフィール・フォン・アインツベルンの体内に埋め込んでいるようなんだよね〜』

「……なるほど、戦術の欠片もない奴らでも考えはあったんだな」

『そのようだね〜。で〜、こんなこと調べてどうするの〜?“前回同様聖杯を破壊”するの〜?』

「……いや、前回はあと一歩のところまで行ったのだけど力不足で止むを得ず破壊したんだ。まあ今回は一応上手くいくようにしてある」

『そうなんだ〜』

「……ところで、ネルフェはどうした?」

『ん〜?ネルフェちゃんなら〜、今奥の方でアスモと遊んでるよ〜』

「そうか……」

『後悔してるの〜?ネルフェちゃんをこっちに帰らせたことを?』

「……本当なら戦場に子を連れてくる馬鹿はいないだろうな」

『でも〜、今ネルフェちゃんを側に置いとかないと危ないからね〜』

「分かってる、分かってるつもりだが……」

『……大丈夫、私が守ってあげるから』

「……すまない」

 

 

そう言って電話を切ると空気を読んで黙り込んでいた相手が口を開いて言った。

 

 

「……お子さんですか?」

「まあな」

「そうですか。では、死なせないよう努力しなくてはなりませんね」

「……ノット相手に死なないようにするは無理だろ?」

「さあ?やってみないと分かりませんよ?」

「まだ本気を出してない奴にどうやって?」

「さあ?……そうそう言い忘れてました。一つ面白い情報をお伝えしますね?これから起こるであろう未来のことを」

「……何?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaaa!!」

 

 

アインツベルンの森の中、ビギナーの叫び声と荒々しい足音が響き渡る。

その彼の視線の先にはライダーらしき人物に抱えられたアイリスフィールの姿があった。要は誘拐されているのである。

 

見回りのため、アイリスフィールの側を離れたのを狙ったのか定かではないが突然拠点へと乗り込んで来て誘拐などという行為に及んだのを知り、ビギナーの心に憤怒と落胆を孕んだ。

正々堂々とした勝負を好んでいたライダーを見てきたためにマスターの関係者を誘拐するという愚行に走ったのがビギナーには信じられなかった。

 

 

だがもうそんなことは関係ない。何故ならーーー“奴を殺せば全てが解決するのだから”

 

 

「Riderrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!!」

 

 

ライダーを殺さんと全力で飛びかかる。

自身が持てるだけの筋力の全てを使って頭を潰そうと全力の拳を繰り出す。

 

どうやらアイリスフィールのことは考慮できておらず、敵を殲滅することしか頭に残っていないようだ。

 

だが単純な攻撃なため、ライダーはヒョイと横に逸れることで避けることに成功する。

 

 

「……ッ!」

 

 

避けられたことで攻撃が止まる訳もなく拳はそのまま地面へとその力をぶつけ、大小様々な土塊が浮くと共に地面が陥没した。そしてその間にライダーはビギナーとの距離をある程度取った。

しかしそこでビギナーの攻撃が終わる訳もなく、埋まった手を抜くと同時に空いている手を地に付けて回し蹴りで自身の周りに浮いていた土塊で自身の胴くらいの大きさの物を蹴り飛ばした。

 

 

「少しは周りを見たらどうだ?」

 

 

しかしそう聞こえてきて一閃、蹴り飛ばした土塊が真っ二つに別れ、ゴロンと地面に転がる。と同時にスタッとビギナーの目の前に降りてくる一人の人物。

 

 

「……ッ!」

 

 

それはビギナーにとって顔見知りの人物、見た目とは違う姉御肌から姉貴分として慕っていた女。

 

 

「……But!!」

「久しぶりだなノット。いきなりで悪いが邪魔させてもらうぜ?」

「Buttttttttttttttttttt!!」

 

 

何故彼女がここにいる?だがそんなことはどうでもいい。

 

かつての仲間とはいえ、敵と認識したビギナーは紅槍を構える彼女に飛びかかっていった。

 

 

 

それが……時間稼ぎが狙いであるとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……どうだセイバー。アリス作の試作型バイクは?』

「はい。中々素晴らしいとは思いますよ?」

 

 

新都の大通りにて、スピード違反で余裕で引っ張られる速度で道路を爆走していた。

しかしただドライブしている訳もなく、耳にインカムを付けて通信を行いながら走行していた。

 

 

『さて、今回お前に頼んだのは他でもない。衛宮切嗣の女、アイリスフィールを連れ去ってくることだ。悪いが俺は今手が放せない状態でな』

「それは構いませんが、何故誘拐などを?」

『……その女の有無で聖杯にかなり近づける、とでも言っておこうか』

「聖杯に近づける?」

『理由はもう一つあってな、どうやら奴はすでに誘拐されてるらしいんだよ』

「すでにですか?」

『幸い、誰かさんが発信機を付けてたらしいから場所が分かってたから発覚したことだ。だから……』

「逆に奪い返して恩を売ると?」

『そういうことだ。奴は俺と同じく手段を選ばない人間だからな、ここで一手打っておけば後に響いてくるはずだ。と踏んだんだよ』

「……」

『不満を感じてるかもしれないが我慢してくれ、聖杯に近づくには必要なことなんだよ』

「……了解しました」

『悪いな。敵は深町の方角へ向かって走っている、どうやらライダーの姿らしいが……別のところで奴を確認済みだ。故に騙されるなよ?多分敵は変身能力を所持している』

「はい」

『……二時の方向だ』

 

 

言われた通りの方角を見ると見つけた。アイリスフィールを抱えて建物の上を走っているライダーを。

 

 

「目標補足。これから追跡を開始します」

『了解、通信は切らずに頼む』

 

 

目標を補足し、バイクを更に加速させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aaaaaaaaaaaaaaa!!」

「ふはははははははははは!!楽しいなぁ、楽し過ぎるぜ!」

 

 

一人は憤怒に満ちた顔で、もう一人は狂喜に満ちた顔で戦い、森を荒地へと変えていく。

 

その戦いは誰にも見えず、ただ戦闘による衝撃と荒れていく森が戦闘の凄まじさを物語っていた。

 

 

「そらっ!」

「Ga……aaa………aa…!!」

 

 

バットの一突きがビギナーの右足に突き刺さる。

 

 

「Bu……tttttttttttt!!」

「何!?」

 

 

しかし槍を突き刺したまま、バットのその小さな頭を掴み、地面へ叩きつけた。

 

 

「うぐっ……!」

「Ooooooooooooo!!」

 

 

そして空いた手で槍を抜き取り、そのまま彼女の頭を突き立てる、それを察したバットは腕の力だけで横に跳び、槍は地面へと刺さる。

 

 

「はぁぁぁぁぁ!」

「Gu…aaaa……!」

 

 

その隙を見逃さず、すぐ様全力の速度で体当たりをしてビギナーを吹き飛ばし、槍を回収した。

 

 

「Butttttttttt!!」

「まだ立ち上がるのかよ。……よくもまあそんなんでやれるな」

 

 

バットの言う通り、ビギナーの身体は切傷だらけ、刺し傷、血だらけ。対してバットは打撲痕が少々あるが大した怪我ではなく、どちらが優勢か明らかだった。

 

圧倒的な速度とそして互角の筋力による物理攻撃を前に異常を防ぐだけの宝具しかないビギナーには厳しすぎた。

 

 

「……っと、時間だ」

 

 

のだが、そこでバットは構えた手を緩め、槍を仕舞った。

 

 

「良かった。本気出してないお前を倒すのは面白くねえからな」

「……」

「じゃあなノット。……そうだ、ライダーを早く追いかけなくて大丈夫か?」

「ッ!?」

 

 

そこで言われて漸く本来の目的を思い出したビギナー。

何故知っているのか問いただそうにも、彼女は霊体化して去っていってしまったので何も聞くことが出来なかった。

だがここで立ち止まっておく訳にもいかず、すぐ様追いかけることにした。

 

 

「……ッ!?」

 

 

だがそこで問題が発生した。ここに来て再び疼き始めた刺青。これが疼き始めるということはつまり……封印が緩くなっているということだ。

 

タイミングの最悪さにビギナーは怒りを覚えた。

 

この封印を抑え込めるのにはかなりの体力(魔力)と精神力が必要となるのだが今はどうか?

精神力なら根性でなんとかすればいける、だが体力(魔力)は?

今さっきまで瀕死一歩手前にまで追い詰められた。故に漫画やアニメのように耐えれるはずもなくーーー

 

 

「……ココマデカ」

 

 

ーーー身体にあった血脈が赤く、激しく光り、封印は解かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや槍がなんか打ち消したようだが……気のせいだよな?」

 

 

訂正、コイツが封印を解いた原因であるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、バイクで爆走中のセイバーはアイリスフィールに近づけていた。

だが……

 

 

「流石はかの騎士王。一筋縄ではいかないわね」

 

 

突如として現れた車に誘拐犯は乗り込み、代わりに車の天井の上に姿を出したのは……全身黒ずくめで胸元をへそあたりまで開いた女である。

もう誰が主犯か見え見えであるがセイバーにとっては見知らぬ存在、よく考えたものである。

 

と、いう訳でそんな呪術師の妨害のせいで中々ターゲットに近づくことが出来ないでいた。

 

 

「それ〜♪」

 

 

と懐から小銭らしきものを道路へとばら撒く。

 

 

「ッ!またか!」

 

 

それを見るや否や嫌そうな顔をするセイバー。

すると道路へ落ちた小銭が……辺りを巻き込んで爆発した。なんとも勿体ないことをするものだ。

 

 

「更に〜!」

 

 

と楽しそうに人差し指をセイバーに向けて黒くてなんか色々とヤバそうな魔力の塊を指先からマシンガンのように連射してぶっ放す。簡単にいうとどこかの赤い悪魔の得意技の狂化版に近いものである。

 

 

「どう?どう?どう!?絶望を感じてる!?」

 

 

今までのお淑やかな姿はなくし、頬を赤らめてうっとりとした表情で嬉々としてセイバーの妨害を行っていた。

セイバーに対魔力があるのを知っているのか、狙うのは全て道路やバイクであり、流石にバイクに対魔力がないので避けるしかなかった。

 

 

「くっ……!」

 

 

しかしセイバーは騎乗スキルをうまく使ってバイクを操作し、ヒラリヒラリと爆撃を避けていく。

 

 

「あら?これも避けるのね……なら、追加ね♡」

 

 

ふざけるな!と内心言うがそれで止めるはずもなく、小銭の総数を追加し、更に魔力弾を両手撃ちに変更してバイクに狙い定める。

 

既にこれを何回も繰り返してて機体はボロボロ、そろそろ速度的にも限界も来ており、セイバーは一つの賭けに出た。

 

 

「『風王結界(インビジブル・エア)』!」

 

 

発動と共に幾たびにも重なる空気の層がバイク全体を包み込み、見事な変化を成し遂げた。

 

 

「確か、これを……」

 

 

そして、ハンドルに取り付いた赤い髑髏マークのボタンに指をかける。

実はこれこそがアリスの改造の目玉であり、製作者のアリス曰く、

 

 

『どうしてもスピードアップしたいなら押してください…………まあ死んでも責任は取れませんが』

 

 

とのこと。まあマーク的に危険なことが見え見えなわけだが、

 

 

「ええい、ままよ!」

 

 

押した、押してしまった。

 

ガシャン!ガシャン!ガシャン!ガシャン!!

 

 

「こ、これは……!」

 

 

ボタンを押すとマフラーが二本追加され……火を吹いた。

どうやらブースターのようである。

 

これならいける!

 

直感でそう悟り、敵に向かって突き進む。

 

 

「え……ええ!?ちょっと!まだそんな機能残してたの!?」

 

 

さっきまでとはとても違う俊敏で軽やかな動きで避けるようになった変化を遂げたことに驚きつつも攻撃の手を緩めることをやめなかったが急激な変化についていけるはずもなく、一瞬で距離が縮まった。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!!」

「くっ!絶望的!でも……それもまたいい!」

 

 

追い詰められて剣を振り下ろされたにも関わらず、嬉々とした顔で指を構える。

 

 

「けど……出すタイミングが少し遅かったわね。もう少し早ければ勝てたかもしれないのに」

「本当それな」

「……ッ!」

 

 

しかし第三者の介入により、セイバーの剣が弾かれ、バイクは真っ二つに切られて停止した。

だが車の方には被害がなく、新手は間に位置し、立ちはだかるように着地した。

 

 

「少し遅くない?」

「うっせえ、あそこから五分で来たんだ。少しはありがたく思え。てかノット相手に逃げるのはキツいんだぞ?」

「そう?ならいいけど。じゃあ、時間稼ぎよろしくね?」

「ああ」

「逃がすか!」

 

 

そう言って車は走っていく。それを逃がさないとセイバーは鎧を纏って車へ向かうが新手の者の槍によって阻まれる。

 

 

「……そこを退いていただけませんか?」

「やだね。お前らを邪魔する様命令させてるからな?……少しは楽しませろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルシファー様、ご命令通りに回収して参りました」

「ご苦労。妾たちの正体をバラしてはおるまいな?」

「はい。バーサーカーには雁夜殿の令呪を使わせて何とか宝具を使わせ、ビギナー、セイバーの妨害は彼女が無事に行いました」

「うむ。ん?これは……」

「どうかなされましたか?」

「いや、何でもない。では、留守番は任せたぞ?」

「はい」

 

 

部下の報告を聴き終え、アイリスフィールを受け取るとルシファーはどこかへ飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてとある廃ビルの屋上でルシファーは降り立った。

 

 

「持ってきてやったぞ。言峰綺礼よ」

「流石は魔王だ。礼を言う。……そうだ、令呪の進呈でも如何かな?」

「断る。これで貸し借りはなし、とっとと失せるがよい」

 

 

彼女が言う借りとはキャスター討伐にまで時を戻す。

 

実は永時と会話した後、燃えている雁夜を回収しようとしたが何故か雁夜の姿がなく、周辺を探しても見当たらず、仕方なく一旦帰還するとこの神父が治療して届けに来たのだ。

 

しかし彼女は魔王、永時の影響でマシにはなったが借りは作りたくないと魔王のプライドが許さず、ならばと出されたこの条件を渋々ながらも承諾したのだ。

 

今回バット=エンドを召喚したのもこのためでもある。

 

 

「そうだ。一つ言い忘れていた。教会へ向かってみるといい、面白いものが見られるぞ?」

「何?」

 

 

しかし、綺礼は答えることなく去って行った。

ルシファーは何か嫌な予感を感じ、すぐ様教会へと飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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