Fate/Evil   作:遠藤凍

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堕ちた天使、少女の救済を試みる

「貴様……何故助けた?要らぬことをしよって……」

「……別にお前を助ける気なんか毛頭なかったんだが……アスモとマモンが助けろってうるさいからな……」

「またまた〜、後半から結構やる気だったじゃない」

「『お前ら、悪いんだが手伝ってくれ(キリッ』なーんて、仰ってましたよね?」

「……ほう?いい度胸してんじゃねえか」

「えっ……?」

「え、永時様?一体何を……?」

「なぁに、一回軽く飛ぶような経験してもらうだけだから安心しろ」

「いやいやそれって単に意識がーーーって痛い痛い痛い!」

「ちょっと永時様!?意識がぁ!意識が飛んでしまいますぅぅぅぅぅぅぅぅ!?(ああ……その鋭い目つき……とてもいいですわね!!)」

「ほおら、だんだん眠くなってきたろう?」

「永時!これって洒落にならないよ!?」

「ああ……これも中々、たまりませんわ………ガクッ」

「マモンンンンンンンンンン!?」

「……」

「堕ちたか?まあいい………覚えとけルシファー、悪魔だろうが人間だろうが天使だろうが誰しもが裏切り、裏切られ続ける生き物だ。故にこう言っておこうーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇夜に包まれた間桐邸にて襖の隙間から見える僅かな光。その部屋には布団の上にて虚ろな目で虚空を見つめる少女、間桐桜がいた。

彼女は先程、誰かさんの要らぬ計らいが原因で絶望に浸っているところであった。

 

 

実の父である遠坂時臣からの拒絶。

 

 

遠坂時臣は遠坂の長としての意見を言ったつもりであろうがまだ幼子と言える彼女にとって、これほど辛いものはないであろう。

 

そんなことがあって希望でもあった父親に捨てられたと解釈した桜はただ何も考えない、誰かさんと会う前の人形へと戻ってしまい、流石にヤバいと感じた誰かさんは色々と手を尽くしていた。

 

 

「はぁい♡こちらをご覧くださーい♪……はいっ!どうです?何もないところから一本の生け花が!」

「……」

「……で、では次です。右手にありますのはただのスーパーボールです。これをこう握り潰すと………あら不思議。スーパーボールがあったはずの手からたくさんの蝶々が出てきました〜!」

「……」

「で、ではとっておきです!今から奇跡の大脱出を行いますーーー!」

 

 

……まあ正確には長い黒髪を地面まで伸ばし、黒づくめの服装で胸元をヘソの上辺りまで開いている淑女のような痴女だが。

 

彼女はルシファーが先程召喚した、ルシファーが最も信頼している秘書兼幹部、絶望淑女ことゼツの相性で呼ばれる女である。

 

 

「……ジャーン!ど、どうです?私は見事に脱出できましたー!」

「……」

「……で、では次は……次は……次、は………………うわーん!ルシファー様ぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

だが、そんな彼女が主に頼まれた仕事は……そんな肩書きとは全く関係ないことであった。

 

 

まあ簡単に言うと間桐桜を何としても笑顔にしろ。

 

 

その指示通りにやっていたものの可哀想なことに何をやっても無表情を貫く彼女にこの場から居たたまれなくなった彼女は部屋から逃亡した。

 

 

「ゼ、ゼツ!何故敵前逃亡しておる!それでも妾の部下を名乗る者か!?というかひっつくでない!汚いぞ貴様!」

「ですがぁ……、去年の忘年会のも、去年の建国記念日のも、あれもこれもそれもどれもぜーんぶ試して無表情なんですよ!?」

「そこをどうにかするのがお主(マジシャン)の仕事じゃろうが!」

「違います!?本来は呪術師ですよ!?」

「ええい、役に立たんやつよのう!マジック以外に能はないのか!」

「ひどいっ!そういうルシファー様は出来るんですか!?」

「……はっ、何を言う。妾はかつて人を救済しておった身、この程度朝飯だ」

「おお、流石はルシファー様!今こそ、その万能性を生かすところではないでしょうか?」

「……はぁ、まあ良い。お主の思惑通り動くのは癪じゃが………今回は妾が原因じゃしの」

「流石はルシファー様!」

 

 

まあ見ておれ、と言って襖を開けて部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小娘……少し良いか?」

 

 

襖の隙間から声を掛け、彼女が無言で頷いたのを確認したルシファーは静かに入室した。

 

 

「一応話は聞いたぞ……大変だったようだな」

「……」

「隣、良いか?」

 

 

ルシファーがそう声を掛けるも、桜は虚空を見つめ続けたまま無言で頷き、確認したルシファーは彼女の隣に腰掛けた。

 

 

「……妾も裏切りを味わった身、落ち込む気持ちは分からんでもない」

「……?」

「信頼していた者に裏切られる辛さはよく分かると言うておるのだ」

「……」

「……今からは妾の独り言じゃからな」

「……?」

「……妾はこう見えて若かりし頃は天使の長を務めておったのだ。仕事内容は……今思い出せば反吐が出るがまああれじゃ、身を粉にして神の駒として毎日仕事をしておったわ。……それが人間の救済にもなっておると信じてな。

しかしな、所詮それは幻想じゃった……。実は人という種を管理するためだったとは知らずにな」

「……!?」

「……人という種はな、最初の方は大した力は持ってなかったがその分数が多かったのだ。それを危険視した神々は人と神の両方のパイプを持つ存在を作り上げたのじゃ。……それが後の世界最古の王ギルガメッシュじゃ。

じゃがギルガメッシュが自己中心に生き始め、計画はあっさりと破綻。それに代わる代案として生み出されたのが人間の管理、その管理者に選ばれたのが妾じゃった。管理こそが人間のためになるという神々の嘘をあっさり信じてな。

 

妾は喜んで毎日仕事をしておったよ。じゃがな、ある日こう思ったのじゃ、『これで本当に人のためになっておるのか?』と。

気になった妾は人間の様子を見て驚いたわ。まさか同じ神を信仰しつつも人々は争っておる、しかも肝心の神々は何の助けも出さずにな。それを見た妾はすぐに神に抗議したがすぐに突っぱねられたわ。……寧ろ奴らは人が減ることに喜んでおったわ。

 

そこで始めて神々との考えの違いに気づいた妾はショックを受けたわ。……そして同時にこうも思ったのじゃ、『なら、妾が神の代わりになれば良い』とな。今思えば馬鹿な判断だったがな。

そして妾は神に反逆という無謀なことをし始めたのじゃ。天使仲間と組み、足りない数を人間と協力することで補った。

 

最初はうまくいっておった。じゃが、結局は妾らは敗北した。

 

原因は簡単じゃ……人間共が妾達を裏切って神側についたのじゃよ。

今思えば馬鹿じゃったと思うよ、当時の人間共は“神々”を信仰しておったのじゃから。

そして、敗北し反逆の罪で妾と同士達は堕ちた天使、堕天使となった。

 

そして地獄に落とされた妾達はどうにか脱出し、魔界へと移住した妾は決めたのじゃ。……もう誰も信じない、自分自身の欲のために生きると決めた。……で、気づいたら魔王になっており、やがて……彼奴に出会ったのじゃ。……今思えば馬鹿な男じゃったよ。会ったばかりの他人のために戦うとはな、そして彼奴に改めて信頼というものを教えてもらったわ……まあ、おかげで惚れてしもうたが………っと、最後は惚気話になってしもうたが結局妾が言いたいのは1つだけじゃ」

「……?」

「信じておった者に裏切られるのは辛い、それは妾はよく知っておる。じゃが……いずれお主の前に本当に信頼出来る者が現れるはずじゃ……とは言わん。それはお主の今後の行動次第じゃな………まあ妾のような罰当たりが救われたのじゃ、お主のような良き小娘が救われんのはおかしいじゃろう?」

「……そうなの?」

「ああ、それが難しいのならまずはお主が信じておる者ではなくお主を信じておる者を探してみよ。そして観るのだ、その者は本当に信頼出来るのかを。それを続けておれば自ずと見つかるぞ?」

「……そんな人、いる?」

「おるではないか。全く関係ないはずの赤の他人であるお主を救おうと地を這いつくばっておる大馬鹿者が」

「……雁夜おじさんのこと?」

「うむ。……まあ彼奴に話しづらいのならば妾に話すが良い。全てお主と妾だけの秘密にしておいてやろう。……何じゃその目は?疑うのなら令呪か契約を使ってやっても良いぞ?」

「……いいの?」

「ん?」

「………本当に、信じて……いいの?」

「信じろ、とは言わん。それはお主が見極めて決めること、まずは練習として妾と屍もどきを観て決めよ。……まあその前にーーー」

 

 

ふと急に桜は背中に暖かく柔らかい感触を感じた。

首を後ろへ回して見るとルシファーが慈愛に満ちた優しい笑みで桜を後ろから包み込んでいた。

 

 

「そんな顔では誰にも顔合わせは出来んぞ?」

「え……?」

 

 

そこで桜は気付いた。

 

自分が涙を流していたことに。

何より、もう無いと思っていた感情が残っていたことに。

 

 

「なぁに、本来ならば情緒豊かな年頃。泣いても笑っても誰もお主を責めたりはせんよ……だから、泣きたい時は泣くがよい」

 

 

その言葉が引き金となり、彼女の中に溜まっていた感情が爆発し、ルシファーは本格的に泣き始めた彼女を黙って抱きしめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……モグモグ」

「……美味いのかそれ?」

「……」

「何?現地調達はサバイバルの基本だと?一応一週間分の食糧は確保しているのだがな……」

 

 

幻想的な光を出す月に照らされるリヴァイアサンは横で食事をする友人に笑って問いかけた。しかしその笑みは引きつっており、ひいているように感じられた。

 

何故なら彼女は……蛇を食っていたからである。

 

 

「確かに美味しいですねこれ、彼が言っていたことは本当だったのですね……」

 

 

しかも、何故か己のサーヴァントが一緒になって食っているのだ。

 

 

「どうです?マスターも食べませんか?」

「結構だ」

「……」

「食えと?結構だ………だからってそんなに落ち込むな!」

 

 

断られるや否や食事を止め、無表情ながら目を潤ませてこちらを見てくる友人。

 

 

「マスター……」

「……ええい!食えばよいのだろ食えば!」

 

 

遂には己のサーヴァントにも裏切られ、罪悪感を募らせたリヴァイアサンは先程勧めてきた物を奪い取って噛み付いた。

 

 

「…………………意外といけるな」

 

 

そう言った瞬間、二人がハイタッチしているのをリヴァイアサンは見逃さなかった。


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