「ーーーーーここ、は……?」
気がつくと白百合の咲き乱れる平原で横になっていたセイバー。辺りを確認するも永時やアスモの姿はなく、ただ一人、ポツンとその場に立っていた。
もしかして敵の罠に嵌ったのか?いや、それはないはず。確かあの後永時と共に拠点に戻ってきたはずだ。それは間違いないはず。
では、何故私はこんなところにいる?
「ーーーッ!」
思考の海に潜っていたセイバーの前に、突然それは姿を現した。
「……これは?」
白いテーブルの上に白いテーブルクロスとティーセットらしきものが置いており、そのテーブルの周りには同色の椅子が二脚、互いに向き合える形でセッティングされており、そんなものが目の前に現れ流石の彼女も困惑の様子を隠せなかった。
『ーーーどもども〜』
「誰だっ!?」
頭に直接語りかけるように話しかけてくる陽気な男の声に警戒し、自身の得物である不可視の剣をーーー
『まあまあ、んな危ないもん出さんと、一旦落ち着かへん?』
「ーーーッ!?」
取り出そうとして、取り出せなかった。
相手の宝具かスキルによる封印?いや、もしかしたら武器自身を使えなくするものか?
あくまで冷静に慎重に状況を理解し、それらが当てはまりそうな存在を聖杯に知識から検索するも結局見つからなかった。そんなセイバーの心境を知らず、男はおちゃらけた声色で話を続ける。
『とりあえず、君の得物はこっちに預からせて貰うな?いやぁ、流石の俺も
「……何が目的だ?」
『目的?そやな……お話、しよう?かの?』
「お話……?」
『そそ。まあ危害は加えるつもりはないから安心して……とは言うても信じてくれへんとは思うけど……まあとりあえず座って座って』
「はあ………失礼します」
とりあえず危険がないのを確認し、呆れつつも仕方なく席へと座る。
「やあいらっしゃい。初めましてセイバーちゃん、いや、アルトリア・ペンドラゴンちゃん?」
席へ座ったセイバーの前の椅子に男は遂に姿を現した。
黒いパーカー、黒いジャージに中肉中背と分かるが、フードを深く被っているためか何故か顔が見えない。
だが、そんなことよりだ。何故この男は自身の真名を知っているのだ?
「……何故その名を?」
「残念ながら秘密事項やから言えまへーん」
「……」
「おお怖い怖い、そう怒りなさんなや。折角の美人が台無しやで?」
「それで、話とは?」
「無視か、お兄さん悲しいのぅ」
「は・な・しとは?」
「真面目にやるからそんなに睨まんといて………ゴホンッ、では本題に入ろっか?」
男が指を鳴らすとボフンとアニメのような煙が辺りを包み、
「『第1回!這い寄れ!○○○さん!in第四次聖杯戦争編!』?……何ですかこれは?」
「いやぁ、なんか『BBチャンネル』なるものがあるらしいからそれに対抗して?一応○○○は俺の名前が入んねんけど、いきなり出したら読者の皆さんもつまらんやろ?………あと、言うとくけど一応これトークショーな?」
「はあ……」
「まあとりあえず気にせんといてっちゅうことや。では、張り切って参りましょう!今回のゲストは……ジャン!第四次聖杯戦争にて優勝候補、セイバーこと、アルトリア・ペンドラゴンさんです!はい、読者の皆さんも拍手〜!」
先程まで白百合の咲き乱れる平原にいたはずなのにいつの間にかテレビの収録スタジオへと早変わりしていた。しかしテーブルと紅茶セット自体は変わらず、どうやら周りの背景だけを強制的に変えたようだ。いや、よく見ればご丁寧なことにカメラなどの撮影セットが追加されており、突然の男の意味の分からない行動にセイバーはただ呆然と眺めているくらいしかできなかった。
「すみません、お義兄様はいつもこうなんです……」
「貴女は……?」
いつの間にかテーブルの横に現れたお茶汲みらしい少女が目の前の
白髪赤眼のアルビノ、しかし右眼だけは金色のオッドアイ。
触ったら一瞬で壊れてしまいそうなガラス細工をイメージされられるような細身で青白い肌のか弱そうな身体。
そしてそんなイメージとは違う淡い紺色の着物を身に纏い、帯は黒が多めの紫だった。そして少し力を込めたら潰れそうな首には真紅の首輪らしき物が装着していた。
そしてセイバーが自身と目を合わせたのに気づくと弱々しく、しかし異性でも同性でも酔わせそうな妖艶さを備えた笑みを見せた。
「あっ、失礼しました。初めまして、名を………すみません、名を名乗ることを禁じられているもので……Aとお呼びください」
「ではAと……ところで、お義兄様とは……それに、その首輪は……」
「あっ……私達、血の繋がりはないのですがまあ兄妹みたいなものなので……それと、この首輪はお義兄様がくれたもので……これがないと力の制御が出来ないんですよ………」
「……すみません、失礼なことをお聞きして」
「いえ、気にしてませんので……紅茶でよろしいですか?」
「お構いなく」
本当は力のことについて聞きたかったが、流石に野暮だと思いすんなりと身を引いた。
そしてAがお茶汲みを始め、それを見計らうように男は口を開いた。
「では、早速ですが……ふむ、今回は初回ということで出血大サービス!ある陣営について話をしましょう!」
「ある陣営?」
「ほら、貴女達も会ったはずでしょ?……愉快奇天烈なピエロな男の娘とお父さん大好きっ子と」
「……もしかしてアヴェンジャーのことですか?」
「そうそう正解〜!」
「アヴェンジャーについて何かご教授して頂けると?」
「ん〜……流石に全部は無理ですがね?肝心な部分は伏せさせていただきます。ですが、ただ一方的に話すのはつまらない。なのであるルールを設けさせていただきました……」
男のはビシッとカメラがあるところを指差して言う。
「ズバリッ!聖杯戦争で生き残ることです!」
男の言葉の後からワー!と居ないはずの観客の歓声が響いたような錯覚を覚える。いや、もしかしたらこの男が宝具か何かで幻聴を聞かせているのかもしれないが。
「……美味しいですね」
「あ、ありがとうございます」
「お上手なのですね?」
「そうですか?そんなに褒めても何も出ませんよぉ?」
「あれ……?話聞いとる?」
まあ残念ながらスルー力を身につけたセイバーに見事にスルーされており、男は軽くショックを受けていた。
それに気づいたAはセイバーに気づかせ、話を本筋に戻した。
「………生き残る?それはつまり……」
「つまり、残りサーヴァントが減少し君達が生き残っていれば話が進む、ということですよ」
「……それまでにアヴェンジャーが倒されたら?」
「……いや、私の予想が正しければあれは最後まで残ると思いますよ?(まあ死んだらそこまでやと言うことやけど)」
「……自信があるのですね」
「少し先の未来が分かっていましてね?それに基づき予想した結果を語っているだけでしてね。(まあ若干狂いが生じてきとるんやけどね……)」
「……最後に何か仰いましたか?」
「いや何も……。さて、話を戻させて頂きますが今回召喚されたのはアヴェンジャー……言わば復讐者だそうですね?」
「ええ、そのようですね……」
「なら、ここで一つの疑問が浮かび上がるのですが……」
「疑問……?」
「いえね、その復讐となる火種は一体何が原因なのでしょうか?と思いまして」
「……そういえば」
確かに彼の言う通り復讐するために現界したといえど目的でもある復讐相手が誰か、それによってもしかしたら真名が見えてくるかもしれない可能性が出てきたのだ。
例えば、セイバー自身が対象ならば………。とは言っても彼女にはアヴェンジャーの容姿に心当たりがないが。
「……どうやら彼の真名に一歩近づいたようですね?」
「ええ、まあ……」
「それは良かった。なら次にアヴェンジャーの真名に関すr「残念ながらお義兄様、お時間です」……マジ?」
「マジです」
控えていたAがそう切り出すと懐から銀の懐中時計を取り出し、男に時間を見せる。
すると男は残念そうな顔で言った。
「ありゃりゃ、もうお時間がやって参りました。残念、“今回”はここまでですね。」
「ッ!ちょっと待って下さい!まだ話がーーー」
「それではまた会いましょう。さようなら〜!」
だんだんと男の姿が遠のき、セイバーはその世界から強制に排斥された。
「珍しいですね、いつも傍観を突き通すお義兄様が直接手出しするとは……」
「そう?……まああれや、今回は“あいつ”おるやん」
「あー、確かに居ますね」
「やろやろ?あれでも一応気をつけなあかんやつやねん」
「……えっ?一見対して危険性はなさそうですが……?」
「……あれはな、例えるなら真っ白な画用紙の上にある灰色の絵の具や」
「灰色の絵の具、ですか……?」
「そそ、まあ黒に近い灰色やけどな……こっから先は言われへんけど」
「えっ……?結局はどういうことなのですか?」
「まあ安心し、この戦争が進めばいずれ分かることやから」
「はあ…………」
「なんや、えらい不満そうやのう?」
「いえ、そういうわけではないのですが……」
「ん?それとも、構って欲しいんか?」
「…………………はい………」
「そっか……じゃあ今から二人でどっか行く?」
「……はい!」