Fate/Evil   作:遠藤凍

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一方その頃②

 

 

セイバーが聖剣をブッパした頃、その上空では2つの飛行物体が熾烈な闘いを繰り広げていた。

 

方や黒い瘴気に包まれたバーサーカーの戦闘機。

 

方や黄金とエメラルド中心に形どられたアーチャーの船。

 

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ーーー!!」

 

 

バーサーカーの乗る戦闘機に搭載されたミサイルがアーチャーの船に向かって撃つ。

 

 

「チッ……鬱陶しい犬が………!」

 

 

だがそれはアーチャーが打ち出した煌びやかな武具によって撃ち落とされ、仕返しとばかりにバーサーカーに向かって武具を打ち出す。

バーサーカーは戦闘機を上手く操り、機動力とミサイルを駆使してアーチャーの武具を回避する。そして雄叫びを上げながら機体を更に加速させる。

しかし、アーチャーはそれを見るや否、自身の船の速度を急速に落としていき、加速していたバーサーカーの戦闘機はあっという間に追い抜き、不覚にもアーチャーの前へと出てしまい、

 

 

「……フン」

 

 

偉くご満悦な様子でバーサーカーに武具を射出した。

だがバーサーカーはただ喰らうだけではなく、もてなす力の全てを使って回避に専念するーーー

 

 

「……?」

 

 

訳もなく、機体を真下に向け、地へと急速下降しだした。

ついに頭がおかしくなったか、とアーチャーは考えていたがそれは違った。

 

 

「……何っ!?」

 

 

自ら射出した武具が目の前でたった数本の光線にあたかたもなく消し去られたからだ。

 

 

「また会えたのう金ピカよ。……エイジ、やれ」

「へいへい……ったく、人使いが荒いやつだぜ」

 

 

アーチャーの目の前にはモノクロのような盾を複数従えたルシファーと弓矢をこちらに向けて構えるセイバーのマスター……終永時の2人がいた。

 

 

「……アワリタティ・アルクス」

 

 

終永時がそう呟くと弓から矢が放たれ、矢は赤黒い光となってアーチャーの船を見事に貫いた。

 

 

「貴様ら……この我を地に落とすか雑種!」

 

 

船を壊され、上手く地に着地したアーチャーは悔しそうに上空にいる2人を睨み続けていた。

 

 

「……ハッ!この妾をカラス呼ばわりするからじゃ」

「根に持ってたんだな……」

「……フン、そんなことはどうでもよい。……エイジよ、少し頼みがあるのじゃが……よいか?」

「(誤魔化したなこいつ……)……で、なんだ?」

「それはのう……ある者を連れてきて欲しい。面白いものが見れるぞ?」

「ほう?……で、誰を?」

「それはーーー」

「……OK、その話受けてやるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王が……負けた?」

 

 

とあるビルの屋上で遠坂時臣はそう呟いた。

考えていた策が、計画が、予想が、全てが狂い始めていた。

 

終永時が参加したこと。

 

アインツベルンが規格外のイレギュラーを召喚したこと。

 

間桐臓硯が重い腰を上げ、英霊を超えた存在を召喚したこと。

 

もはや聖杯戦争が本来あるべき形を崩し始めたこと。

 

どうすればこの状況を打破できるか……と考えていた時臣に声を掛ける人物がいた。

 

 

「遠坂時臣……!」

「間桐雁夜か……」

 

 

灰色のジャージパンツにパーカーの男が近づいてきた。

片腕を抑え、足を引きずり、弱々しく見えるのは間桐の魔術によって力に手に入れた代償と言えよう。

 

 

「……どうして、桜ちゃんを……養子に出したんだ?桜ちゃんは……葵さんは……それを望んだのか?」

「……魔術の才能がない君が、魔術から逃げた君がそれを言えるのか?」

「いいから答えろ!」

 

 

内心はどうだろうが表側はあくまで冷静に、優雅に対応する。それが家訓であるが故に、だ。

 

 

「おとう……さん………?」

「なっ!?」

「……何?」

 

 

だがそこに自分の娘がいなかったら、の話だが。

 

 

「……桜、か?」

「……うん」

 

 

どうしてここにいる?雁夜はそう思いつつも桜に近づこうとし、

 

 

「桜ちゃーーー」

「ちょっと来いーーー」

 

 

そう男の声が聞こえると雁夜は物陰から何者かに体を引っ張られた。

 

 

「なーーーっ!?」

「静かにしてろ、今いいところだから」

 

 

声を上げようとした雁夜は首筋に鋭利な刃物を向けられ、無理矢理黙らされる。

 

……今いいところ?どういうことだ?

 

だがそんな疑問の答えはすぐに分かった。

 

 

「……どうして…………どうして…………間桐に、行かなきゃ、いけなかったの……?」

「……」

 

 

物陰にいるせいで声しか聞こえなかったが、彼女が泣きながら時臣を見ているのが分かり、途切れ途切れ話す彼女の声を雁夜は黙って聞くしかなかった。

 

 

「魔術なんて知らなくても……よかった………間桐なんて……行きたくなかった……」

 

 

彼女の溜め込んでいた感情が溢れ出るように、その幼き声が少しずつ大きくなっていく。

 

 

「ずっと……いたかった………お姉ちゃん、お母さん……お父さんと………ずっと一緒に、いたかった……!」

「そうか……それがお前の気持ちか………」

 

 

そこで要約娘がいる現実を理解したのか、時臣から落ち着きが見え始めた。

雁夜はこの会話の邪魔をするつもりはなかった。

それこそが彼が忌み嫌っていた間桐に戻った由縁なのだから。元々桜が養子に出した理由を時臣本人から確認するつもりだったから。その答えはこの会話の先にあるはずだから。例え彼女が遠坂に帰りたいと言っても、それは彼女自身の意見だ。桜本人ではない自分が決めることではないと。だから、彼は黙って見守り続けようと。

 

静寂になった空間に、遠坂時臣の言葉が酷く鮮明に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その考えは間違えている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

何の感情もない彼女の声が響いた。

 

 

「まだ子供のお前には判らないかもしれないが、お前の中に眠る魔術の才能は私を軽く凌駕する凄まじいもの。魔術のことをお前に知らせることのないまま育てる道もあったかもしれないが……。桜、お前の才能は知らないで周囲の危険から守れるほど小さくは無い」

 

 

遠坂時臣は自分の言葉に絶対的な自信を持って告げる。

感じる、何を言われているか判らないーーーあまりにも予想外過ぎて、理解すら出来ない思いーーー。それをこの男は全く感じ取ってない。

ただただ、自分の正しさに従って遠坂時臣は言う。

 

 

「魔術は一子相伝であり、遠坂の魔術は凛に継がせるであろう事は以前から決まっていた。そうなれば自ら魔術を学びその才能と向き合って自分にも他人にも屈しない道は遠坂では作り出せん。間桐へ養子へやったのは、お前を守る為だ」

 

 

そして遠坂時臣は最後の言葉でこう締めくくった。

 

 

「いつかきっとお前にも判る時が来る」

「……」

 

下らん、と雁夜の後ろにいた男はそう呟き始める。確かに人生を魔術に捧げ、思想の根幹を魔術師で染めた遠坂時臣らしい言い草だ。全くもって反吐が出る。と男はそう言った。だが雁夜自身も間桐の魔術をほんの僅かでも知る男だ。遠坂時臣の言い分の中にほんの欠片ほどの正論があるのは素直にそうと認めよう。それでもその言葉は愚策中の愚策と断言する。愚かすぎて笑いすらこみあげてきそうにある最悪の言葉を言ってしまった。

桜は『魔術師』ではなく『遠坂の娘』として家族と一緒にいる事を望んだ。ここ数日、間桐で明るく過ごしたとしても、それは家族じゃなく似た別の何かだった。

寂しいが、今の彼女は雁夜やルシファーよりも遠坂の家族である事を望んでいた。

 

だが、遠坂時臣はそれを否定した。

 

父親として娘から伸ばされた手を自身から振りほどいた。

『遠坂の娘』と『桜の魔術師の才能』が切っても切れない関係だったとしても、それは父親として言ったらいけない言葉じゃないのか?と。

親からの否定。子供にとってこれ以上辛いものは無いと思う。捨てられた、と思ってもおかしくない。家族として共に過ごした時間が楽しければ楽しいほど、それは絶望へと変わる。桜は雁夜のように最初から間桐臓硯に何の価値も見出してなかった男とは違う。家族に希望を持った子供なんだ、と。

気づいたら雁夜は男の拘束を無理矢理振りほどき、遠坂時臣の前に立っていた。

 

 

「お、おい!……はあ………あの子を家に帰してやるか」

 

 

残された男はそう呟くと一瞬にしてその姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその上空にて、ルシファーは全てを見ていた……。

だがそれを見終えた後の表情は蔑みでも、憎しみでも、笑みでもなんでもないただの無表情。しかしそこには期待外れによる残念さと呆れ、そして哀愁が混じっていた。

 

 

「……やはりこうなったか」

「……お前、こうなることは分かってたはずだろう?なんでこんなことを?」

「……妾ももう少しだけ、信じて見たかったのじゃよ……人間の可能性を」

「お前………」

「ハハハ……人間を信じて裏切られた妾がこんなことを言うとは、滑稽なものよな」

「……」

「気にするでないわ。そのおかげで妾はお主に出会い、救われ、人を信じる大切さを改めて教えてもらったからの」

「………俺は誰も救ってはねえよ……お前が勝手に思い違いしてるだけだ……」

「フッ、そう言うと思っておったわ。じゃが、少なくとも妾や怠惰の奴はそう思っておるぞ?」

「……俺は、正義の味方とかじゃねえんだよ。………俺は、悪だ。概念・存在・思想においても正義とは真反対だろうが」

「分かっておる。じゃがその悪に救われた者もおるということを、忘れるでないぞ?」

「……間桐雁夜が燃えてるぞ?」

「おっと、そりゃ大変じゃのう。今から燃えて屍になりかけておる者のレスキューをしなくてはならんから妾はもう行くぞ?あと、話を誤魔化すでない」

「……ああ」

「っと、そうじゃエイジ……同盟を組まんか?」

「はあ?」

「他意はない。……まあそういうことも考えておいてくれということじゃ」

 

 

そう言ってルシファーは飛び立って行った。

 

 

「あいつが同盟?………何か裏がありそうで怖えなーーー」

『……イ…………エイジ!聞こえますか!?緊急事態です!』

『……今度はなんだ?』

 

 

念話越しに聞こえるセイバーの声にデジャヴを感じながら暗い気分を払拭させて気持ちを切り替えた。

そしてセイバーの言葉から衝撃の一言を言われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ランサーが……正体不明のサーヴァントに……殺されました………』

『……はぁ?』

 

 

 


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