『……こちらアサシン3。聞こえますか?オーバー』
『こちらセクシャル。聞こえてるよ、オーバー』
『……では、所定通りにいきましょう』
『うん………けどいきなりだよね、こんなこと頼んでくるなんて……』
『まあそれだけ私達のことを信頼しているとも言えますがね?』
『まあそうだけど……大丈夫?ここには強力な結界が張ってあるって聞いたけど……』
『大丈夫です。そんなのは……まあ正面突破で』
『えっ……』
『では、カウント3でいきます』
『ちょっ、ちょっと!?』
『3……2……1……GO!』
「………」
「マダム?どうなされましたか?」
「これなんだけど……」
「写真ですか?」
アイリスフィールはそう言って1枚の写真を手渡した。
一旦見れば誰かの集合写真のようだが、中に写っていた人物が問題だった。
「これはーーーッ!?」
だが、そこで鳴り響いた轟音に閲覧を中断させられる。その音が敵の襲撃だと感じたのはすぐのことだった。
扉を蹴り飛ばす音と共に終永時と同じような服装で全身を余すとこなく隠した長身の女が冷徹な雰囲気を纏い拳銃を構えて堂々と中に入ってきた。
「ッ!マダム、下がってください!」
「ええ……」
写真を返し、アイリスフィールを奥へ逃がし、舞弥は連絡をしようと携帯を取り出すがそれを察した襲撃者は手に持つ銃で携帯を撃ち抜く。
「くっ……!」
舞弥は手に持つ銃を乱射するが、女は背中に背負った太刀を抜いて弾丸を弾いた。
弾丸を弾かれたことに驚きつつも舞弥は掃射を続けるが、弾切れを起こすと背中に付けていたスプレー缶を放り投げる。するとスプレー缶は煙を上げて部屋全体が煙で視界が悪くなっていく。
「この程度で防げるとお思いですか?」
女がそう言うと彼女の後ろの方から風切り音が聞こえ、彼女の苦悶の声が聞こえた。
床に何かが倒れる音が聞こえ、煙が晴れると目の前には左足が根こそぎなくなった彼女が倒れており、その後ろには自分と全く同じ姿の人物が血を浴びたナイフを手にして立っていた。
「ぐっ……ま、だむ………」
「お疲れ様」
「この女……どうしましょうか?」
「今後の邪魔になりそうですし………とりあえず殺っときましょう」
「そうですね」
そんな軽いノリで決め、前にいた女が拳銃を構えて引き金を引いた。
なんとも軽すぎる命のやりとりであった。
「ところでなんですが……」
「どうしました?」
「……どうして私の真似をしているんですか?アスモ」
「まあいいじゃない、その方が誤魔化せそうだしね」
先ほどの冷徹な雰囲気をあっさりと胡散させ、拳銃を構えながらケラケラと笑う彼女。
「……で?これでよかったのかな?」
「そうですね…………時間ですね」
そう言った後、すぐさまその場から移動を開始し、2人がいなくなると同時に壁が破壊され、
「Aaaaaaaaaaaaaa!!」
川にいたはずのビギナーが白い髪の女性を抱え、ボロボロの姿でそこにいた。
「むにゃむにゃ……ハッ!寝てない寝てない」
数分前同所、全身機械じかけのユニコーンに寝そべるように乗るベルフェはユニコーンの動きに身を任せ、その動きによって誘われる眠気と戦いながらも駆けていた。
だが、そんな眠気もすぐに吹き飛ぶような出来事が彼女の目の前にはあった。
「おお〜!ここは宝庫なのか〜!?」
通路のあらゆるところに設置された侵入者対策の近代兵器の数々、その1つ1つは人間一人殺めるには充分なものだが彼女にとってはおもちゃを大量に置かれたようなものであった。
ユニコーンはまるで自身の家のように悠々と歩み、ベルフェは目をキラキラと光らせながら嬉々としてそれらを一つずつ丁寧に回収していく。
「ん〜?どうしたの?」
宝探しをして数分後、ふといきなりユニコーンは足を止め、その視線は自身の行き先を真っ直ぐ見つめており、ベルフェも釣られて見る。
「「あっ……」」
視線の先にいるのは雪のような白い髪の淑女、アイリスフィール・フォン・アインツベルン。かの魔術師殺しの妻である。
一見、同じことを言ってはいるがそれに込められた気持ちは全く別だった。アイリスフィールは、敵に出会ってしまったことへの焦りと、ベルフェが乗っている幻獣種……ユニコーンに対する驚き。よく見ればそのユニコーンは機械じかけというのが分かるが、敵襲を受けていたことによる焦りからあまりよく見る余裕がなかった。
そしてベルフェは……今回の研究対象を見つけたことによる喜びである。
「研究対象はっけ〜ん!」
「ッ!」
研究対象。その言葉を発せられた後のアイリスフィールの行動は早かった。
自身の持っていた針金に魔力を通らせると針金から鳥型の使い魔を形づくりそれを放つ。
「おお〜!これがアインツベルンの錬金術か〜!」
アイリスフィールの錬金術にベルフェは感心している間に別の針金に魔力を通して2体目を使って放った。
本来はあと数体はつくれるのだが、精密操作するには2体が限界だったため、2体で頑張るしかなかった。
「でも〜、それだけじゃ〜火力不足なんだよね〜」
ベルフェはそう言ってアイリスフィールに攻撃を開始する。
「さあ行くのだ〜!ユニコーン!」
だが、あくまで戦闘は他人任せである。流石は怠惰を冠する者である。
そして、そのままの体制でビシッと前を指差すとユニコーンはそれに応えるように、角の部分から蒼い電撃をバチバチと帯電させる。そして、勇ましく鳴いて前足を上げ、それを思いっきり床に下ろすと同時に角から帯電していた電撃が一気に放出される。
放出された電撃は壁や床や空中を力続く限り走り続け、アイリスフィールの使い魔に向かっていく。アイリスフィールは電撃に当たらぬように使い魔を操作しながらベルフェの方へと進ませる。
バチィ!と鳴る電撃音と共に使い魔の1体が蒼い電撃に突きぬかれ、床へ落ちていく。そして隙間を縫うようにもう1体はユニコーンの足元へと入っていく。
「むっ!?」
ユニコーンの足元へと入り込んだ使い魔は自身の身体を解き、針金に戻ったそれはユニコーンの前足2本に絡みついた。
無論、バランスを失った馬の行く末というと……
「ふぎゃ!?」
立つことが出来なくなり、そのまま地面に横たわり、搭乗者は地面に叩きつけられた。
「うう〜、やったな〜!」
プンスカと怒った表情を見せながら起き上がり、懐から1丁の拳銃を取り出して発砲した。
飛び出した弾丸はアイリスフィール本人にではなく、その足元に着弾し、その直後に白い煙を辺りに充満させた。
「令呪を以って我が傀儡に命ず!ビギナー、アイリの元へと向かえ!今すぐに!」
己のマスターの令呪使用の声と共にビギナーは彼女、アイリスフィールの元へと瞬間移動した。
こうなった原因は使い魔がアイリスフィールと舞弥が何者かに襲われているところを捉えたからである。
あの男の仕業だ、と衛宮切嗣は考えた。
しかし、現実ではあの男は先程まですぐ近くにいたというアリバイがある。協力者の可能性も考えたが、現に彼の横にいたため頭の中からその考えはすぐに消え失せた。
彼としては令呪を使うのは躊躇ったが、アイリスフィールが襲われていると聞けば話は別である。今彼女に死なれては色々と困ることがあるからである。
と、いうことがあり現在。ビギナーは令呪の補助を受け、アイリスフィールの側に現界した。
「A……?」
「えっ……?」
彼の視界に入ったのは見覚えがあるビリジアンの髪の美女、ベルフェゴールが眠るように床に横たわっているアイリスフィールの側でしゃがみ込んで彼女に向けて手のひらをかざしていた。
「あ、あのーーー」
かざしていた手を離し、震えた声で何か言おうとしてはいたがそんなのはどうでもいいとばかりにビギナーは彼女に殴りかかった。
「はわっ!?い、いきなりは酷くない!」
「……」
語尾を伸ばす余裕がないぐらいの肉弾戦のラッシュを避けながら何やら文句を言ってはいるが、知らんというばかりにビギナーは攻撃を続ける。
「でも、こんなことしてていいのかな?君のマスターの助手さん、このままじゃ死んじゃうよ?」
そう言われピタッとその動きを止めるビギナー。そして、それと同時に彼の頭の中で電撃が走った。
舞弥が何者かに襲われているとそう直感が告げていた。
「おっ、隙あり〜!」
そしてその一瞬の隙をつき、ベルフェゴールは床に何かを叩きつける。すると瞬く間に辺りに煙が充満していった。
視界が悪くなる?だからどうした?そんなことは彼の前ではほんの一瞬の時間稼ぎである。
だが、彼女にとってその一瞬さえあればよかったのだ。
「やっちゃえ〜ユニコーン!」
「ーーーッ!?」
どこからか聞こえた彼女の声と共に腹部に痛みが走った。
見れば鋭利な円錐状のもの……ユニコーンの角が自身の身体を貫通させ、傷口から赤い赤い血が床へと流れていた。
更に、その角からバチバチとヤバい音が聞こえ、
「Gaaaaaaaaaaaaaaッ!?」
傷口を中心に高電圧が彼の身体中を巡り、悲鳴を上げる。
確かに彼には異常な攻撃は通用しないために強いーーーならば普通の攻撃をすればいいだけである。
ーーー魔術補正で刺すのではなく、物理的に刺したら?魔術による電撃ではなく、あくまで科学で発生させた電撃ならば?
どちらも異常とは捉えることができない現象であり、ベルフェゴールは完全に彼の弱点を突いていた。
「Aaaaaaaaaaaaaaa!!」
だが、宝具は普通でも彼自身は異常。故に力技でそれを抜き取るのは容易いことだった。蹴りつけながら抜き取る時に生々しい音が聞こえるにつれ、尋常ない痛みが走るがそんなことはどうでもいい、今どうやってこいつを殺すか?痛みと狂化でまともな思考が許されない彼はそれしか考えられなかった。
馬が鳴き声を上げながら電撃を放ってきたーーーとりあえず殴る。
馬が再び突き刺そうと角をこちらに向けて突進してきたーーーとりあえず殴る。
足が壊れてまともに歩けなくなっていったーーーとりあえず殴る。
遂に馬は壊れ始めたーーーとりあえず蹴る。
とりあえず殴る、蹴る、殴る、殴る、蹴る、殴る、殴る、殴るーーー。
もし、アイリスフィールが今の彼を見ていたらこう言っていただろう。
「ーーー!!」
まるで破壊を心の底から楽しんでいるようだったと。
その姿は破壊を快楽とする異常者のようであったと。
「……」
床に崩れるユニコーンだった何かが動かなくなるのを確認すると視線を侵入者がいた方へと向けた。だがそこにはベルフェゴールの姿はなく、代わりに置き手紙らしき1枚の紙が置いてあった。
『もう用は済んだので帰るね〜!PS:私からの置き土産があるから忘れないでね〜!byベルフェ』
読み終わると同時、壊れたはずのユニコーンが起き上がっており目の部分を怪しく黄色く光らせていた。
「自爆モードに移行しますーーー」
ヤバい、とビキナーはすぐさまアイリスフィールを抱えに行こうと駆け出し、ユニコーンを横切ると、
「ーーー!?」
ユニコーンの身体からワイヤーが飛び出し、ビキナーの身体に纏わり付いた。
そして、ピーと甲高い音が辺りに響いた直後、眩い光と爆炎がビキナーたちを包み込んだ。
「2人共、お疲れ様〜。ごめんね〜、個人的なことで巻き込んじゃって〜」
「別に気にしてませんよ?」
「でも、エイジに内緒でこんなことしていいのかな……」
「いいんじゃない〜?永くんもきっと理解してくれるはずだよ〜」
「そう?」
「ところで……データは取れたのですか?」
「うん、バッチリだよ〜!それに〜、ちょっと面白いことが分かったよ〜!」
「面白いこと?」
「うん!アインツベルンも中々考えてるんだな〜って!」
「???」
「ところで……肝心の研究対象ごと爆破させてますが……良かったのですか?」
「……別にあれが死のうが私にはもう関係ないよ」
「そうですか……」
感想・誤字指摘お待ちしております