「あら?お久しぶりですわね、ルシファー?」
「久しいのう、強欲よ……ちと、“妾の”エイジに触れすぎではないか?」
「あらあら、嫉妬はレヴィアタンの役目ですわよ?」
「ほざけ、あんな犯罪者予備軍のような存在と一緒にするでないわ」
「そういうあなたは立派な犯罪者ですわよ、ストーカーさん?」
「貴様……ふん、貴様こそ『永時様教団』なる頭のイかれたようなものを創っておるではないか。何が永時様の愛は我ら悪魔の皆で分け与えてもらうじゃ、エイジの全ては妾のものに決まっておろう?」
「……言いましたわね?」
「言ってやったな」
正直言うとどちらも犯罪者である。てか、お願いだからここで暴れないでくれ。と永時は呆れ顔で目の前の馬鹿2名に告げる。
マモンは自身の獲物である弓を使い、ルシファーは自動防御性能がある盾を使って目の前で殺りあっているわけで……。マモンが矢を放ち、ルシファーの盾がそれを防いでお返しとばかりに光線を飛ばし、マモンはそれを矢で射抜いて相殺し、また矢を放つという無限ループが完成していた。
売り言葉に買い言葉、それに伴う攻防の応酬。そして時間の経過と共に変わっていく地形。
そしてーーー
「……お前ら、今すぐやめないと今後一切口を聞かんぞ?」
マッハで募った永時のストレス。
と同時にピタッとその動きを止める魔王(笑)達。
普段の永時ならこういう場合ほっといてこの場を去って行くが今はくだらぬことで喧嘩している場合ではないから止めただけである。
まあ単にここで喧嘩されると他のマスターに見つかって面倒なことになりかねんと思ったからである。
「2人とも、正座しろ」
「いや、しかし……」
「いくらお主といえど……」
「正・座」
「「はい……」」
反論しようとした2人だが、永時の目が本気と書いてマジの目だったので渋々正座することにした。
そしてそこから説教が始まったのが数分前のことである。
結局それはセイバーの念話が聞こえるまで続いた。
『……ジ……エイジ!聞こえますか!?』
珍しく焦ったように早口になっていることから事の重さを理解し、渋々説教を中止して念話に集中する。
『ああ、聞こえてるぞ。……どうした?』
『……今すぐ宝具使用を許可してください!』
『……は?』
突然の宝具使用を求める声に時が止まったかのような錯覚を永時は感じた。
宝具使用はいわば真名を晒す、更に切り札を晒すようなものである。そんなことを何の前振りもなく言ってきたわけで……。
つまり、ついに馬鹿になったかこいつ?ということだ。
『……とりあえずどういう過程でそうなったか簡潔に説明してくれ』
『実はーーー』
『……なるほどね。再生力が高すぎるため、自身の対城宝具を使用しないと打倒できない状態だと?』
『そういうことです』
『確かに、ランサーやライダーの宝具は対人・対軍だからな……』
ついでに言うならバーサーカーもそんなもの持ってそうにないし、アーチャーなら可能だが向こうは完全に傍観する気満々だから無理。知っている魔王の中にはそれらしいものを持っているが今惰眠を貪っているために来られないので現状だけで考えると可能なのはセイバーとなってしまう。
いや、まだいた……
『おい、ビギナーはいるか?』
そう、彼ならば、異常の塊ともいえるあの男なら。この現状を打破できるのではないか、と。
『ビギナーなら先程参加してきましたので……いました!』
『よし、ならあいつにあれをなんとかできるか聞いてくれ』
『……ダメです。彼でもできないと』
『……クソが』
遂に最後の希望が絶たれてしまった。
永時としては発動したいのは山々だが発動すれば確実にセイバーの真名がバレるのは明白。永時はどうしてもそれだけは避けたいリスクだった。だからと言って躊躇なんかしていられない状況に陥っているのは確かであった。
『セイバー、宝具の使用を許可する』
『よろしいのですか?』
『ああ……クソー、真名をバラすようなことだけはしたくなかったんだけどなぁ……』
『……すみません』
『別にお前は悪くねえよ。気にすんな』
もうこうなったってしまったなら仕方がない。やるならとことんやってやろう。
『令呪の補助は要らないな?』
『はい、大丈夫です』
『よし。……そうだ、ビギナーに伝えてくれーーー』
『……了解しました』
永時の言葉を聞き取るとセイバーは念話を切って急いでビギナーの元へと駆けていった。
そして、先程まで落ち込んでいた永時は今や無意識に笑みを浮かべていた。
かのアーサー王の『約束された勝利の剣』が間近で見られるのだ。研究者としては大変興味があった。
「……おい、お前ら。場所を移すぞ」
「えっ?何故でしょうか?」
「ちょっと面白いものが見れるぞ?」
「ほう?……なら妾が案内してやろう。丁度、いい場所を知っておるのでな」
「そう、ならよろしく……」
この後、どちらが永時を運ぶかで一悶着あったのは言うまでもないだろう。
「ーーーーーー!!?」
巨大な海魔は自信に伝わった強烈な痛みに声ならぬ声を上げ、体全体が強制的に川の真ん中へと移動させられる。
セイバーは海魔を動かした程の怪力を持つ人物に衝撃を覚えると同時にこう思った。
本当にあれは人間か?と。
海魔の側面からたった一蹴りで動かしたビギナーに恐怖を覚える者などもいた。
だが、今そんなことを考えている場合ではない。
今は己に与えられた使命を果たすべく、宝剣を強く握り直す。
『風王結界』が解け、聖剣がその姿を晒し、光り輝きだした刀身が闇夜を照らし、その美しさに誰もが惹かれていた。
「ほう、中々の物じゃのう」
「そうですわね」
その美しさに傲慢や強欲までもが賛美し、それに応えるかのように聖剣はその光を強く輝かせる。
それだけでなく至るところから光が集まり、凄まじい魔力を練り上げ、更にその輝きを強くさせる。
さあ、常勝の王よ。今こそ高らかに叫べ、謳え
その手に執る願いを、希望を、奇跡を、その真名に込めろ
其の名はーーー
『
『ーーー
その叫びと共に膨大な光が、闇夜を照らし切り裂く光が、斬撃となって轟音をたてながら海魔の方へ向かっていく。
そしてその光は海魔へ飲み込まれていたキャスターにも届いた。
「おお…………この輝きは……間違いない……これは……あの日見た………」
狼狽えながらもキャスターはそれを掴もうとゆっくりと手を伸ばす。
彼の目の前にはあの日見た光景が広がっていた。
聖母のように微笑み、自身に手を伸べる金髪の彼女。
「私は……一体ーーー」
自身にはない光を、人々を魅了する光を輝かせる彼女から差し伸ばされた手を、もう1度掴むため彼は手を伸ばした。
「ーーー奴も安らかに眠れるといいな」
「どうしたのじゃエイジよ?感傷に浸るとはらしくないではないか?」
「いやな、やり方は間違っているが、あいつも1人の救済のために必死だったんだなって今気づいちまったんだよ……」
「永時様……」
「……クカカ、あまりらしくねえことはするもんじゃねえな」
もしもこの場にアスモが今の永時を見ていたらこう言っただろう。
今のエイジは出会った時と同じ、死人のようだと。
「……わたくし達はいつまでもあなた様のお側に居ります。……だからあなた様だけではありませんことをお忘れなきよう」
「マモン……」
「強欲の奴の言うとおりじゃ、暗い過去があるのならば、膨大な明るい未来で塗りつぶせば良いだけじゃろう?」
「すまんなお前ら……」
「ふん、別にお主のために言うたわけではないわ」
「「ツンデレか(ですわね)」」
「違うわ!」
過去を未来で塗りつぶす、確かにいい案とも言えよう。
だが、彼らはまだ気づかない。
新たな魔の手がすぐ側まで近寄って来ていることに……
「ようやく会えるぞ……愛しき我が父に」
「それは良かった……まずはどういたしましょうか?」
「そうだな……まずは目障りなあの女から消していこうか。……できるな?」
「仰せのままに」
「なら良い、行くがよい“アヴェンジャー”」
「はっ……では、始めましょうか“ネバー”」
人はそう簡単に過去から逃げられないということを、後に思い知ることになる。
噛み合わない
いかがでしたか?
最後の2人は誰なのかは次回と言う事で、
では、また次回で。