いよいよ始まった怪物退治。
さて、永時はどの様に動くでしょうか?
では、どうぞお楽しみ下さい。
とりあえず今もなお増大し続ける魔力の反応の方角へ向かって改造した試作型バイクを走らせたのだが……
「なあセイバー……今夜はたこ焼きにしねえか?」
「お断りします。……流石にあれを見て食べる気にはなれませんので」
「あ、やっぱりダメか」
川についた彼らを待っていたのは巨大なタコのような何かだった。
しかも周りにはランサーやライダーが必死こいて討伐しようと奮闘している。
「どうしましょうか?……エイジ?」
「あ、ああっ……とりあえずあいつらに加勢してやれ。宝具は使うなよ?」
「了解しました。して、エイジは何を?」
「ちょっと知り合いの所へ、な?なぁに、怪物を退治するのは決まって英雄のお仕事だろ?まあ頑張ってくれ」
そう言ってエイジは再びバイクを動かし何処かへ走り去って行った。
「あのギョロ目、なかなか面倒なものを呼び出しおったのう」
一方とあるビルの屋上でルシファー・バーサーカー陣営である柵に腰掛けるルシファーと柵に手をつけている間桐雁夜は英雄たちによるタコ狩りを傍観していた。
「面倒なもの?」
「うむ……ありゃ、邪神に近い類じゃな」
「じゃ、邪神!?」
「まあ紛い物じゃがな」
ルシファーのフェイントの入った言い方に雁夜はズッコケ、さっきの驚きで減った寿命を返せよ!と内心ツッコむ。
流石に今のを発言すると後で何をされるか分からないので内心だけに留めておいた。
「まあ再生力が高いただ図体がデカいタコじゃと思えばよい」
「でも……大丈夫なのか?」
余裕そうなルシファーに対し、高すぎる再生力に苦戦している英雄たちに雁夜は不安を孕ましていた。
「お主が言いたいことも分かる。今は川に留めておるから魔力量の問題で傷をつけられておるから良いが、街の方へ行けば……」
「魂喰いをして、魔力量が増える……」
「そう、つまりあれの再生力は格段に上がり……傷すらつくと同時に再生するようになり、実質上あれを始末するレベルが格段に上がりおるな」
「だったらそんな呑気なこと言ってないでお前も参加しろよ!?」
冬木市の危機に対し呑気なことを言っている魔王に雁夜は怒りの形相で詰め寄る。
だが、肝心の本人は川の方をジッと眺めていた。
「……いや、大丈夫じゃろう」
「……えらく自信があり気だな」
「何、あの男がおるからな……」
「終永時か?」
「左様。彼奴ならあの程度なんとかするじゃろう?それよりーーー」
言葉を区切り、腰掛けていた柵から降りて首を上空を向ける。
雁夜も釣られて見るとそこには上空に浮かぶ黄金の船に乗っている黄金の青年とあごヒゲが特徴の男。
「遠坂……時臣!」
「ほう、やはり諸悪の根源であるか……」
雁夜の恨みの相手を見定めるようにジッと見つめていたが、興味を失くしたのか他の方へ目線を向け始めた。
彼女の視線の先にあるのは、海魔討伐に来たらしき2機の戦闘機。
ふむ、と戦闘機と黄金の船を品定めをするように視線を何回か移した後、思い浮かんだ案を話し始める。
「……あれ墜とすか」
「……は?」
「バーサーカー、あの戦闘機を自身の宝具で奪って、アーチャーの船を墜とせ」
ルシファーがそう言った直後、2人の真横で実体化したバーサーカーが柵を力いっぱい蹴り飛ばして空を跳び、戦闘機へと向かって行った。
「……えっ?」
雁夜が唖然とする間にもバーサーカーは戦闘機を1機叩き落とし、もう1機を自身の宝具にしてアーチャーの船へ突撃して行った。
「……うむ」
「いやいや、なんでワザワザ喧嘩売りに行ってんだよ!?」
「まあまあ良いではないか。それにお主、元々あれに喧嘩を売るのじゃろ?だったら軽く喧嘩を吹っ掛けて様子見することも大事だと思わんか?」
「うっ……」
ルシファーの言うとおり、元々は別の理由でそんなことを考えてはいた。
「じゃが、お主の考えは少しは変わったようじゃな」
「えっ……?」
「何、目を見ればすぐ分かること」
最初出会った時は命の灯火が消えたような濁った目をしていたのが、少し経っただけで今や力いっぱい灯火を燃やし命を吹き返したように輝きを取り戻した目をしていれば誰だって分かるものである。
「じゃが、それでもお主は遠坂時臣……あのあごヒゲに喧嘩を吹っ掛けるが……何故じゃ?」
「それは……」
「ほれ、遠慮せずに言うてみよ」
ルシファーに急かされ、雁夜はポツリポツリ話し始めた。
「……聞きたいんだ」
「何を?」
「どうして時臣は……桜ちゃんを間桐なんかに養子として出したのか……俺はそれが知りたいんだ」
「そりゃ……あれじゃろう?小娘自身貴重な魔術属性を持しており自身の手に余るから養子に出すことを思いつき、その行き先に間桐を選んだのは腐っていても御三家の1つであるからではないのか?」
「それは分かってる。……それでもハッキリとあいつ自身の言葉から聞きたいんだ」
「それだけか?」
「あともう一つある。……葵さんは、桜ちゃんは、この話に本当に納得しているか気になるんだ」
「……なるほどのう」
遠坂時臣の人物像をアサシン経由で大体理解してあるので雁夜の発言に納得がいった。
ーーー確かにあのような輩なら一方的に事を決めておる可能性が高いか……
だが、それをするに至っての雁夜の悩みを理解した。
「安心せい、お主の手を煩わせはせんよ」
「えっ……?」
「悩んでおるのじゃろ?……もしも、最悪の結果に至った場合どうするかを」
「……」
「お主は今や小娘にとって必要な存在になってきておろう。そんな男がワザワザ自身の手を汚すようなことをするでない」
「でも、それじゃあお前が……!」
「お主は優しいというか甘いというか……のう。まあ安心せい、人々を救うのが天使という存在じゃからな。まあ頭に元、がつくがな?」
「お前、まさかーーー「それ以上言わなくともよい」」
ルシファーの考えを言おうとしたところで、本人に言葉を遮られた。
「分かっておるじゃろう?……いずれはどちらかが消えねばならぬのだからな」
「……」
「まあそんな悲しそうな顔をせんでよい。……もう慣れておるから安心せい」
「でもーーー」
「ああもうっ!こんな辛気臭い話はやめじゃやめじゃ!……ちょっとそこらを見回ってくる、これ持っておれ」
「ちょっ、おい!……行っちまった」
雁夜に黒い十字架のアクセを投げ渡すと翼を広げて夜空へと飛び立って行った。
「本当に自由だなあいつ……ん?」
しかし、彼女には1つの誤算があった。
「……ッ!?あれは……遠坂時臣!」
選りに選って、彼女が飛び立って何処かへ行ったのとすれ違うように隣のビルにあごヒゲが降りてきてしまったことだ。
衛宮切嗣は困惑していた。
先ほど自分はキャスターのマスターである雨生龍之介を射殺した後、付近の建物や河原に潜んでいるマスターやサーヴァントを見ていた。こんな状況でも彼はマスターを直接狙う『マスター狩り』を行ってはいたが撃てずにいた。
今ここでマスターを撃てばキャスター討伐に支障が出ると考えたからだ。
それと若干関係ある原因は1組の男女。
1人は彼が危険視するマスターの1人である傭兵のような男、終永時。
もう1人は間桐が召喚したらしい魔王ルシファーに負けず劣らずのワガママボディを白と金をベースにした強欲をイメージさせるようなドレスに包み込み、何色でも染まりそうな白髪を縦ロールにし、まるで貴族の社交界に出ていたような上品さと妖艶さを兼ね揃えた淑女。
そんな全く真逆の2人が仲睦まじく談笑している。
だが、そんなことは問題外だ。問題は……
「永時様、この方が持つ銃は?」
「ワルサーWA2000。ドイツワルサー社の高性能オートマチック狙撃銃だな」
「なるほど、初めてお目に掛かりましたわ……」
「メモは忘れないんだな」
「しかしこの船……あまり乗り心地がよくありませんわね……」
「お前のとこの奴が高性能過ぎるだけだろうが。これも中々いい代物のはずだぞ?」
衛宮切嗣の横で……そう、この船の甲板に乗って談笑しているのだ。
「そこんとこどうなんだ?切嗣君?」
「……何故あなたがここにいる?」
「無視か、お兄さん悲しくなるねぇ……まあしいて言うなれば暇つぶし?」
「永時様、お知り合いですか?」
「まあな。ちょっと昔俺が揉んでやった奴だよ」
「師事!?そんな……羨まーーーゲフンゲフン、羨ましいですわ!」
「欲求ダダ漏れだぞ……」
と、切嗣にとってどうでもいい会話を聞き流しつつ切嗣は考える。
会話の内容や雰囲気から察するにこの女は終永時と親しい女であること、そしてこの戦争に参加している何処かの貴族出身の魔術師であり、自衛能力がなさそうだということが分かった。
なら、これが終わった後でも彼女を人質にすればーーー
「ーーーなんて、考えてんだろ?」
「ッ!?」
「どうして分かったかって?昔言ったろ?俺は普通じゃないって」
その言葉で衛宮切嗣の記憶の中からある引き出しが抜き出される。
それはーーー
いかがでしたか?
そろそろフラグっぽいものの回収を始めようと思っています、なんかフラグっぽいものを立てているばかりいるような気がするので……
では、また次回。