Fate/Evil   作:遠藤凍

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どうも、遠藤凍です。

いよいよ聖杯問答も終盤に。

さて、どうなるでしょうか?

では、どうぞ。




聖杯問答ーー王とはーー

 

 

前回のあらすじ

 

セイバーの発言によって空気が凍った、以上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなわけですっかり静まり返ってしまった場。

 

セイバーは分かる言葉で言ったはずなのに誰も反応せず、静まり返ったことで困惑した。

 

 

「お主……今なんと言った?」

「ですから、祖国の滅びの運命を変えると……」

「やはり聞き間違いではなかったか……」

 

 

ライダーとアーチャーは黙り込み、ルシファーは哀れむような視線をセイバーに向け、ビギナーはあまり興味なさそうに酒を飲んでいた。

 

 

「セイバー……それはつまり、己が歴史に刻んだ行いを否定するということですか?」

「その通りだビギナー。例え奇跡を以ってして叶わぬことでも、万能である聖杯があれば必ずーーー」

「くっ、ふふふふ……ふはははははっ!!」

 

 

突然黙り込んでいたアーチャーが大声で笑い始める。

それは王の気品もない、ただセイバーの願いが笑い話だったかのように笑う。

 

 

「……何がおかしい、アーチャー!」

「ははは……オイオイ聞いたかライダーにカラスに無個性よ!これを笑わずにいられるか!?何とも王とは思えん願いよなぁ……!」

 

 

ライダーは黙って酒を飲んでおり、ビギナーとルシファーはコクコクと首を縦に振った。

 

 

「つまり……あれですね」

「なんとも救いようのない馬鹿じゃな」

「そこまでにしておけ……だがセイバー。アーチャーの言うとおり、それは王の願いではないぞ?」

「ッ!ふざけるのも大概にしろ!国のため、民のため、その平穏を願うのが王であろう!?」

「ははははははっ!!本当に面白い奴よ!こんなに笑ったのは道化以外は久々だぞ、セイバー!」

 

 

セイバーが反論すればするほどアーチャーは笑い、ライダーの顔から笑みが消え、ルシファーの哀れむ顔がだんだん蔑みに変わり、ビギナーは相変わらず興味なさげに振る舞ってはいるが聞いてて呆れたのか大きな溜め息を吐いていた。

その態度に怒りが蓄積されたセイバーは怒りをぶつける。

 

 

「貴様らどうかしているぞ!?命を捧げた故国が滅んだのだぞ!……それを慎まなくて何がおかしい!?」

「『命を捧げた故国』、のう……」

「貴様らも王なら、身を呈してまで、己が国の繁栄を願うはずであろう!」

「いや、それは違うぞセイバーよ」

 

 

声をかけたライダーの顔は呆れ、悲しみ、そして若干の怒りが混じっていた。

 

 

「王が全てを捧げるのではなく。国が、民が、その命を国に捧げるのだ」

「それは暴君の治世ではないか!」

「然り、余は暴君が故に英雄だ。だがなセイバーよ……自らの治世を悔やむのはただの暗君だ。暴君よりもなおたちの悪い……」

「貴様とて世継ぎを葬られ、築き上げた国を三つに引き裂かれて終わったはずだ!その結末に……貴様は何の悔いもなかったというのか!?今一度やり直せたら、故国を救う道もあったと……そう思わないのか?」

「ないな。それが余の決断、余に従った臣下の生き様の果ての姿ならば滅びは必定。慎み、涙は流せど悔やむことはせん」

「しかし、それではーーー」

「まだ気付かんのか、セイバーよ」

「……何が?」

「ましてそれを覆すなど、そんな愚行は余とともに築いた全ての人間対する侮辱であるのだと!」

「ーーーッ!?」

 

 

らしくないライダーの怒りに一瞬怯むセイバー。

 

だが、彼女にも譲れないことがある。ライダーには悪いが肯定するわけにはいかない。

 

 

「滅びを華と称するのは武人だけだ!正しき統制、そして治世こそが、民の望むものであろう!」

「ならば貴様は己を正しさの奴隷と称すのか?」

「それでいい。理想に重んじてこそが王だ」

「それが王だと……?愚言も大概にしろセイバーッ!」

 

 

森中に広がる怒声により、付近の小動物や鳥は一斉に逃げ去って行く。

 

 

「その言葉は我ら王に対する侮辱!王とは、誰よりも豪笑し、誰よりも激怒し、清濁を含めてヒトの臨界を極めたる者。その姿に臣下は、民は見せられ、王に尽くすのだ」

「そんな治世にどんな正義があると言うのだ!?」

「いい加減にしなさいっ!」

 

 

突然上げた怒声により、言い合っていた2人が止まる。

 

 

「ビギナー……?」

「王道に正義?国に命を捧げる?全くもってくだらない!」

「何……?それはどういうーーー」

「黙りなさい」

 

 

負けじと食らいつくセイバーだが、ビギナーが一睨みするだけで怯んでしまった。

 

 

「王道に正義などは必要かもしれない」

「なら「ですが!」」

「その正義のせいで国を滅ぼしたのは誰ですか?」

「ーーーッ!」

「ええ、確かにあなたは民のためにその命を捧げることは素晴らしいことです、私には到底できないでしょう。ですが、あなたは民を救ったあと何かしましたか?」

「ッ!そ、それは……」

「確かに暴君はダメかもしれないせん。ですが、他の王は民をキチンと導いています。王に認められようと必死に頑張って努力して尽くしてきた。はたや、王とともに夢を叶えるために強くなろうと民は努力した。はたや魔界を統べようとと力でのし上がって王とともに戦うために民は努力してきた」

 

 

だが、それでは力のない弱者は見捨てられるではないか!とビギナーに問うと溜め息を吐いて続ける。

 

 

「確かにアーチャーは我儘過ぎ、ライダーは夢に夢中になりすぎ、ルシファーは……いえ、もうあの男に改心されているのでいいでしょう……の治世では弱者は見捨てられる。……弱者は救う、いいことです。だが、所詮はその程度」

「その程度、だと?」

「ええ、所詮はあなたの自己満足による正義ではないですか?」

「自己満足?」

「そう、ただ救うだけ救ってあとは放置……民はあなたのために強くなろうと考えたか?……いえ、違う。私ならこう考えますね、別に何もしなくとも何かあったら王が助けてくれるから大丈夫だろう、と。これが国民中に広まった結果、堕落していくのは明白。そしてその現状を知らないあなたは民を形だけの救いに満足する。……それは自己満足と言えずなんと言いますか?」

「それは……」

「確かにあなたの理想は素晴らしい。ですが所詮理想。理想ばかり見ていてあなたは現実を見てなかったのではないですか?これではただ人を救うだけの舞台装置。もはや人でも王ですらない」

「あなたに何が分かる!?」

 

 

セイバーはもはやまともな反論もできず、ただ怒りをぶつけることしかできなかった。

 

反論しようにも、自身の国が滅びた光景を思い出し、何も言えなかった。

 

その姿はまるで死刑執行に怯える受刑者のようだった。

 

 

「分かるわけないじゃないですか。私はあなたではないし、王になりたいとも思わない。私が言いたいのは、あなたの正しさは度が過ぎていることなのですよ」

「度が過ぎている……?」

「正義と悪の基準とはとても曖昧で分からない。いき過ぎた正義は悪となる、とかですね。……例えばそうですね……あなたのマスター、終永時を例にあげましょう」

「ーーーッ!」

 

 

一瞬反応を見せたセイバーを見ながらビギナーは語る。

 

 

「魔術師の皆さんはご存知の通り、彼は自らを悪と評しています。では、何故彼はそう評しているのでしょうか?」

「確かに坊主からそう聞いておるが……何故だ?」

「それはですねーーーッ!」

 

 

ビギナーの言葉を遮るように彼の頬を何かが掠めた。

掠めた物が飛んできたはずの方向を見て、大きな溜め息を吐いた。

 

 

「なんのつもりですか、永時?」

「おい、ノット……それ以上話すと流石に手を出さなくてはならねえが……構わねえなら話を続けろ」

 

 

拳銃をこちらに向けて威圧してくる永時に対して動じもせずに続けたいところだが、彼は自身の弱点を知っているので、続ければ面倒だと判断し、とりあえずやめることにした。

 

 

「すみませんセイバー、少し熱くなってしまいました」

「い、いえ……」

「それに……それどころではなくなったようですしね」

 

 

そういうビギナーが指差すのはーーーライダーのマスター。

 

 

「えっ?僕?」

「違いますよ、その後ろ」

 

 

ライダーのマスターが後ろを恐る恐る見ると……それはいた。

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

そして、それの出現に他のサーヴァントやマスターも目を見開く。

 

 

「アサシンッ……!」

 

 

初日に倒されたはずのアサシンが再び現れたのに驚いたがそれよりその数にもっと驚いた。

 

ローブ姿の者、巨漢の男、中肉中背の若い男や女など、老若男女問わず、たくさんのアサシンがいた。

 

唯一の共通点といえば、同じ白い髑髏の仮面と全身黒ずくめということぐらいだ。

 

ライダーのマスターはライダーの方へ寄り、ビギナーとセイバーは己のマスターの近くによって守るように立って威圧する。

 

 

「何で死んだアサシンがこんなにいるのだよ!」

「つまり、余たちは最初から謀られてたというわけか?」

「時臣め……下種なことを……」

「奴もここまでかのう……」

「貴様ら全員アサシンなのか!?」

 

 

これがアサシン、ハサン・サッバーハの1人『百の貌のハサン』の実力である。

 

多重人格であるハサン故にできる宝具『妄想幻像(ザバーニーヤ)

 

人格を1人の個として生み出すため、“多数で個人”を主張できるのだ。

 

 

「どうするのだライダーよ……ライダー?」

「狼狽えるでない魔王よ。少々礼儀がなっておらんが、あれも客だぞ?」

「思いっきり殺気出しまくっとるがのう……」

「まあそういうでない。アサシンたちよ。そんなに殺気だたんと我らと共に語ろうではないか。この酒は貴様らの血と共にある」

 

 

ライダーはニッコリと笑って柄杓をアサシンに向けて掲げるが、アサシンは短剣を使って柄杓を斬り、酒を地面にぶちまけた。

 

ライダーはぶちまけられた酒を一瞬見やると立ち上がる。

 

そしてライダーを嘲笑い、各々が暗殺武器を構えた。

 

 

「ーーー余の言葉を聞き間違いわけではあるまいな。暗殺者どもよ?」

「……」

「余は言ったはずだぞ?この酒は“貴様らの血である”と。それをぶちまけたたいのならーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーー是非もない」

 

 

 

 

 

 

 

 

直後、ライダーを中心に暴風が吹き荒れる。

 

寒い季節のはずなのに熱せられるような熱い風を肌で感じた。

 

ルシファーは盾を使って風を防ぎ、ビギナーとセイバーはマスターを守るように立ち、アーチャーはその場で動かず風を正面から受けており、アスモは吹き飛ばされそうになるが飛ばされまいと永時にしがみついた。

 

永時がライダーを見るといつの間にか紅いマントの戦闘服に変わっており、暴風の中で堂々と立っていた。

 

 

「貴様らには!余が今ここで、真の王たる姿を見せてやらねばなるまいて!!」

 

 

そう宣言すると暴風とともにその場の全員が光に包まれる。

 

そして光が止むと、瞑っていた目を開けた一同はその顔を驚愕に染めた。

 

何故なら目の前に広がる光景が“中庭”ではなく、じりじりと肌を焼く灼熱の太陽のある、広大な砂漠のだったからだ。

 

そう、それはーーー

 

 

「固定結界、ねえ……」

 

 

本来それは魔術師が目標とするもののひとつで、魔法の領域に近い魔術である。

 

 

「あなた、魔術師でもないのにどうして……」

「確かに余は魔術師ではない……しかも、これは余一人でできるものではないのだ……」

 

 

ライダーの言葉に驚く自身のマスターやアイリスフィールにライダーは笑みを見せる。

 

 

「ここは我が軍勢が長きに渡り駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者たちが、等しく心に焼き付けた心象風景だ」

 

 

そう言った直後、全員の後方から足跡が聞こえてくる。

 

それも1つや2つは生温いといいたいように多くの足音が聞こえ、一同は振り向くと永時を含めた全員が驚きの表情を見せ、ライダーは両腕を大きく広げて高らかに叫んだ。

 

 

「見よ!我が無双の軍勢をッ!肉体が滅び、その勇猛なる魂が英霊となってなお、余の忠義を忘れることのない偉大なる伝説の勇者たち!」

 

 

軍勢は一定の距離を開けて歩みを止め、整列して王の言葉を待つ。

 

それを見たライダーは誇り高く叫びを、己の宝具の名を言う。

 

 

「彼らこそ我が軍勢にして永遠の朋友!彼らとの絆こそが我が至宝にして王道の具現!征服王イスカンダルが誇る最強宝具ーーー『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なりッ!!」

『オオオオオオオォォォォォォォォッ!!』

 

 

ライダーの叫びに戦士たちは負けじと雄叫びを上げて、大地を大きく揺るがす。

 

その軍勢の中から、ライダーの巨体に劣らない大きな一頭の馬が彼のところへ歩み寄った。

 

ライダーの生前の愛馬として有名なブケファラスである。

 

 

「久しいな、相棒」

 

 

懐かしそうにブケファラスの頭を撫でた後、ブケファラスに自ら乗馬する。

 

乗ったあと、後ろで控える者たちに向けて高らかに叫ぶ。

 

 

「王とはッ!誰よりも鮮烈に生き、諸人を見せる姿を指す言葉!勇者たちの羨望を束ね、その道標として立つ者こそが、王!故に――!」

 

 

キュプリオトの剣を抜き、高く掲げる。

 

まるで道標を指すように。

 

 

「王は孤高にあらず。その志は、すべての臣民の志のたるが絆故にーーー!」

『然り!然り!然りッ!!』

 

 

ーーーこれが暴君?冗談じゃない。これはまるでーーー覇王じゃないか。

 

 

「それでは始めるか。暗殺者どもよ。我が戦場は広大な砂漠。故に物陰に隠れ、暗殺を得意とする貴様らには不利であろうが、先の行いからして、覚悟はできておるのだろう?」

 

 

暗殺者故に隠れて隙を伺って暗殺するのが基本スタイルだが、ここは遮蔽物のない広大な砂漠、正面からの戦闘が得意でない彼らにとって、数的に、戦力的にも詰んだも同然だった。

 

 

これから行われるのは、一方的な蹂躙劇。

 

無論、白熱のバトルなどは存在しない、一方的な暴力の嵐。

 

 

「蹂躙せよォォォォッ!!」

『オオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

 

アサシンたちにとってその雄叫びは、地獄へ呼び寄せる死神の声に等しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーお客さん、この付近は始めてなんですか?」

「いいえ、数年前はこの付近に住んでいまして……一応私の祖国のようなものです」

 

 

冬木市でそんなことが起こってるとはいざ知らず、不気味なぐらい静かな夜の世界を走る一台のタクシー。

 

客にフレンドリーに話しかける三十代近くの男性運転手に対し、愛想よく答える十代の少女と見れば普通のタクシー内での会話である。

 

 

「へえ、てっきり観光客かと思ってましたよ?」

「確かに、よく言われますね……」

 

 

運転手の言うとおり、少女の容姿はとても日本人とは言えないような容姿であった。

 

 

「……では、今から向かうところはご実家ですか?」

「はい」

「そうですか……親御さんもさぞかし喜ぶでしょうね……」

 

 

そんな他愛ない会話を続けながら、タクシーは闇夜を進み続ける。

 

 






いかがでしたか?

さて、最後に出てきた少女は、一体誰の関係者でしょうか?

何故ビギナーはセイバーの王道を嫌うか。それは前話のクイズの答えと同じく、またいずれにということで。

次回で聖杯問答を終わらせるつもりです。

では、また次回。


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