どうも、遠藤凍です。
今回はビギナーメイン回です。
あと、ビギナーの召喚時からの過去も少しだけ触れます。
ああ、文才が欲しい……
では、どうぞ。
ビギナーは走っていた。
スキル『異常体質』により、ランサーに近い足の速さは更に加速を続け、道中にある木々を避けているのにも関わらず、衰える気配を見せず、もはや彼の敏捷はEXの域に達している。
「Irisfeel!」
彼の頭の中に浮かぶ、銀を強調したような1人の女性。
今回の聖杯戦争に参加したマスターの衛宮切嗣の妻である女性。
普段何事にも動じない自分が何故か彼女を見て、心が動いた気がした。
だが、恋心ではない何か、それが動力となって彼を突き動かす。
全ては、彼女らのために。
現在彼女が危機に立たされていると出た直感の真偽を確かめるために。
思い返せば、彼女に出会ったのは数ヶ月前だった。
気付けば、眩い光と共に、自分は立っていた。
何事か?と思い、辺りを見渡して警戒する。
一言で言えば、夜の教会だった。
薄暗いが、神聖さを保ち、スタンドガラスから差し込む月の光がより神聖さを強調していた。
そんな教会の床に描いてある魔法陣らしきものの上に、自分は立っていた。
では、自身に異常はないかと確認する。
この間適当に見繕った灰色一色のジャージのままだった。
特に何かされた訳でもないようで安心したのも束の間、
「---ッ!」
突然の鈍痛と共に何かが頭の中に直接流れ込んできた。
---聖杯戦争
ーーー英霊
ーーー7つのクラス
ーーー令呪
ーーー現代の知識・言語
ーーールール
ーーー自分のクラス名
などなど、上げれば切りがない情報量に自分は動揺した。
痛みが引くのを待って再び周りを見ると人影があることに気づく。
その数2つ。
1人は、ぱっと見は黒髪の二十代ぐらいの日本人男性。だが、漂わせる雰囲気と、何よりこちらを見る黒い双眼。それには色がなく、まるで死人のような目でこちらを見つめており、自分はひどい嫌悪感を持ったのを今でも覚えている。
そしてもう1人は、雪のような白い肌とそれと同色に近い白銀の髪、どこか母性を感じさせるような緋色の瞳の女性。
今共通して言えるのは、2人が驚愕に満ちた顔でこちらを見ていたことだ。
「アーサー王、なのか?」
「でも現代の服を着ているわよ?」
「どういうことだ?確かにあの男は間違いなくエクスカリバーの鞘だと……」
「…………a………」
喋ったことで驚く2人をよそに、自分はある疑問が湧き出た。
言葉が話せないのである。
話が出来ないという致命的な状態だけ終わらず、一部の力が使えない形になっていたのだ。そりゃ誰だって驚くだろう。
すると、女性が自分の前に歩みよってきたので、考えるのをやめ、情報収集に徹することにした。
「あなた……アーサー王よね?」
アーサー王?確か『アーサー王物語』の主人公で、ブリテン国を治めた騎士王の名前だったはず……
残念ながら自分は違うので、言葉の代わりに首を横に振ることで否定した。
「……アーサー王じゃ、ない?」
「……まさか!」
男は魔法陣の中心に置かれた、西洋剣の鞘を掴みーーーへし折った。
「えっ……?」
「やられた……贋作を掴まされた!」
話の通りならアーサー王のエクスカリバーの鞘のレプリカらしいので、少し惜しいと思った。
贋作……その言葉に少し嫌なことを思い出したが、すぐに頭の中から消し去った。
「あの男は間違いなく本物を持っているはず……」
「じゃあ、あの男がセイバーのマスターってこと?」
「そうだね……仕方がない、このサーヴァントでやるしかない」
「そうね……どこの英霊かしら?」
英霊?確か、英雄が死んで『アラヤ』に召し上げられたのがそういうらしいが……残念ながら自分はそんな異常者と一緒にしないで欲しいと思う。
だって自分は“普通”なのだから。
そこから自分は2人と交流し、聖杯戦争に参加することにした。
決め手は2つある。
1つは、皮肉なことに彼女、アイリスフィールがなんとなくどこか似ていると感じたのだ。類は友を呼ぶ、というやつだろうか?
だからこそなのか、彼女を幸せにしてやりたいという使命感が生まれた。
そしてもう1つはーーー聖杯が欲しいからだ。
願いはもう決まっている。
ーーー殺伐とした聖杯戦争もまだ先なので、日記をつけながら聖杯戦争まで過ごした。
マスター衛宮切嗣とはあまり交流は出来ていない……というか、徹底的に無視された。更に、仲良くなったアイリスフィールのことをアイリと呼ぶと扱いが酷くなった。
子供かあれは!?と言って、アイリスフィールに愚痴ったのを今でも覚えている。
アイリスフィールはよくもまあ、あんなのを旦那にしたな……と思っていたのは確かである。
そんな彼でも、娘がいた。
名前はイリヤスフィール、通称イリヤ。
アイリスフィールに似て、あの衛宮切嗣との子供か!?とツッコミたくなるような無邪気さに癒された覚えがある。
最初、少し遠くから眺める程度だったが、アイリスフィールの勧めで遊ぶことになった。
ビギナーお兄ちゃん、と呼ばれた時は鼻から情熱が出た。
とても可愛らしく、将来いいお嫁さんになりそうな気がした。
今では文通し、イリヤと呼べるぐらい仲良くなっている。
切嗣の協力者である久宇舞弥を紹介された時は、最初の頃は警戒されていたが、彼女がケーキ好きだと聞いて、ケーキを作ってあげた時から仲良くなって、今では舞弥と呼んでいる。
舞弥は切嗣の愛人ではないか?と、出会って僅か1週間で自分の言いたいことを理解してくれたアイリスフィールに相談すると「違うわよ?」と殺気を出されながら言われた時はサーヴァントである自分でもかなりビビったものだ。
女は怒ると怖いと知ってはいたが、もう怒らせないでおこうと肝に銘じた。
結論として、彼らは魔術とかアインツベルン家とか関係なしに、ただ普通の家庭だった。
もしも、アイリスフィールがホムンクルスでなければ?衛宮切嗣が聖杯にこだわらなければ?多分彼らは普通の家庭として幸せになっていたはずだろう。
だからこそ自分は協力するのだ。
恒久的な平和の実現?戦いの根絶?くだらない。
自分が幸せになっていない人間が人類の幸せを求めるなんてなんという馬鹿なのだろうか?
そもそも人類は戦い、争うことにより成長する生き物だ。
成長の元といえる戦いを消した時のメリット・デメリットは考えているのだろうか?
少数を捨てて大勢を救う。確かに素晴らしいと思う。
だが、それならアイリスフィールは?舞弥は?イリヤは?
大勢のためなら彼女らも切り捨てるというのか!?
マスターには悪いが、そんな馬鹿げたことを止めてやればいい。
だが、切嗣には令呪がある。止めようとして、自害しろと言われれば即終了だ。封印している宝具を使えばなんとかなるが、魔力不足のせいでほとんど使えない。
なら、勝ち残って聖杯に願えばいいだけだ。
故に、自分は誰にも負けられない。
あるのは、絶対的な勝利のみ。
例え、知り合いが敵だったとしても、負けるわけにはいかない。
なぜなら自分はーーー絶対強者と呼ばれていたから。
全ては、彼女らの平凡な暮らしのために、自分は戦う。
ーーー『サーヴァント生活日記』より、数ページ抜粋。
「ーーーッ!」
目の前の光景に言葉を失った。
真っ白な髪を赤く染めているアイリスフィールと地面に横たわり地面を真っ赤に染めている舞弥が、目に入ったからだ。
「……ビギナー!?」
まるで、予想外と言いたそうな顔でこちらを見ている黒い神父服の男。
男の両手には、指の間に挟んだ長い剣をかぎ爪のようにしているもの……確か、黒鍵と呼ばれた物が血塗られていた。
気づくべきだった。この男、言峰綺礼は、切嗣に会いたがっており、アイリスフィールは切嗣に会わせてはいけないと聖杯戦争が始まった頃から言っていたではないか。なら、言峰綺礼は自分がいない隙を突いてやって来るのが分かっていたではないか。
そして、会わせまいとアイリスフィールは動きだし、2人がぶつかるのは明白であった。
なのに、切嗣がランサーのマスターを倒すための囮としてランサーの足止めに向かってしまった。
「……aa………a………aaaa……」
あの時、ああすれば……こうすれば……と後悔と綺礼に対する怒りが、ビギナーの精神を削っていき、
「……Aaaaaaaaaaaaaaa!!」
理性を失くし、ただ目の前の敵を殲滅すべく、敵との距離を縮める。
「アサシン!」
綺礼の盾になるように現れた白い骸骨を模した仮面を付けた黒ずくめの小太りな男……脱落したはずのアサシンがビギナーの前に立ちはだかることで時間稼ぎをし、綺礼を逃がそうとする。
ズバッ!!
「なん、だと……!?」
だが、一瞬で距離を詰めて手刀を振るい、まるで豆腐ように切られて宙を舞う“アサシンの頭”だったもの。そして、血を吹き出しながら地に崩れ落ちる“アサシンの身体”だったもの。
しかも、ビギナー本人の目にはアサシンなど映っておらず、まるで、道端の小石をのかしたような感じだ。
サーヴァント相手では不利と感じ、逃亡しようと足を後ろに一歩下げた瞬間のことだった。
これは夢か?と思いたかったが、残念ながら現実である。
そして、距離を詰められた綺礼は黒鍵を構えーーーる前に黒鍵をガラス細工のように折られ、腹部に強烈な拳を加える。
執行者としてかなりの実力があるつもりだったが、まるで高さ数十メートルから地面に落ちたぐらいの衝撃だった。
「ぐっ……アサシン!」
口から血を流し、さすがにこのままでは不味いので、1体ではなく今度は4体で足止めすることにした。
筋肉質の細身の男・小柄な体躯の男・衰えを見せない年寄りな男・長身で細長い男。姿は違うが、仮面と黒ずくめの姿だけは全く一緒だった。
それぞれが短剣を手にし、ビギナーへと向かう。
小柄な男が短剣をビギナーの頭に突き刺そうと突き出し、ビギナーはそれを首を傾げるようにして頭を横に傾けて避け、左手を真っ直ぐ伸ばして腕を急速に前に伸ばし、小柄な男の心臓を抉る。その隙に年寄りと細長い男がビギナーの左右から短剣を弾丸のように投擲し、残った筋肉質の男が気配遮断でビギナーの背後に忍び寄り、背中を突き刺そうと短剣を突き出す。
すぐさまビギナーはさっきの小柄な男を突き刺した左手を男を突き刺したまま引っ込めて右に回転し、右から飛んできた短剣の盾にし、残った右腕を振るって左から飛んできた短剣を掴んで後ろの男の短剣を弾き、そのまま投擲して逆に突き刺してやった。
短剣を掴まれたことに一瞬驚くが、すぐさま残った己の肉体を使って、接近戦に持ち込む。鍛え抜かれた己の肉体を用いて、手刀を二人同時にビギナーに放つが、ビギナーは真上に跳ぶことで避けて小柄な男を放り捨てる。2人は驚くも1歩後ろに下がる。
そして、降りてきたビギナーに2人は構えるが瞬きした一瞬で距離を詰め、一振りで老人の上半身と下半身をサヨナラさせた。
残った筋肉質の男はビギナーとの距離を詰め、全身全霊の手刀を放つが、ビギナーは振り向きざまにそれを左手で弾き、隙だらけになった男に、残った腕で振り向きざまの回転力を利用しながら、力の限りの手刀を心臓に捻じ込む。男は打ち上げられた魚のようにビクビクと2、3度動き、やがてその動きを止め、とうとう動かなくなった。
つまらなさそうにアサシンだった亡骸を放り投げ、綺礼がいたはずの方へ向く。
だが、肝心の綺礼はおらず、逃亡を許してしまったようだ。
「……ッ!?Irisfeel!Maiya!」
だが、そんなことはどうでもいい。まずは2人の容体を確認する。
舞弥とアイリスフィールの容体は一刻を争うような状態だったので、止むを得ず宝具で治療することにした。
「『原点にて頂点』」
宝具名を呟くと2人の傷口がどんどん塞がっていき、傷口が消えると共に、2人の顔色が良くなっていった。
「ぐっ……ビギナー?」
「Maiya……」
「ビギナー!マダムは!?」
舞弥はアイリスフィールの心配をするが、ビギナーがアイリスフィールの方を指差して状態を見せたことで安堵した。
「……」
「……さすがに今言いたいことは分かります……大丈夫です、自分で立てます」
舞弥は自分で立ち上がって、それを歩けるのを確認したビギナーは眠ったように気絶しているアイリスフィールを抱えて歩き始める。
「……Master………sibaku…………」
「えっ……?」
一方、アインツベルン城では2つの人影があった。
1人は床を血に染め、倒れ伏すランサーのマスター、ケイネス。
そして、そのケイネスに止めを刺そうと銃を向け、引き金に指を掛けるビギナーのマスター、衛宮切嗣の2人だ。
だか、それを良しとしない人物がいた。
「少し待てよ。切嗣君?」
「ッ!?」
指一つで人を殺める道具を、手に掴んで止める男。
いつの間にか現れたこの小説の主人公。
「終永時……!?」
「よぉ……随分と大きくなったじゃねえか?」
「くっ……!」
切嗣は銃の向きを変え、引き金を引いた。
「んな物騒なもん向けんじゃねえ、よっ!」
だが、銃を床に叩き落とすそうと手刀を振るう。
「……腕を上げたな」
永時の肩から血がにじむ……どうやら発泡を阻止できなかったようだ。
「……何をしに来た?」
「なに、久々に可愛い弟子と話がしたかったが……邪魔したな。さっきランサーがロード・エルメロイを連れて行ったしな……」
見ると永時の言うとおり、本当にケイネスが消えていることに気がつき、切嗣は内心舌打ちする。
「まさか、最初からそのつもりで来たのか?」
「……何が?」
「……待てよ、そもそもどうやってここに来た?」
そこで切嗣は気づく、アインツベルン城の周りには結界が張ってあるはずなのに、それを解除せずにどうやってここに来たのだろうか?と。そもそもキャスターの戦闘直後のはずなのにいつの間にここに来たのか?
「ああ!結界のことか?まあ、俺にしかできない裏技を使った、とでも言っておこうか?ちなみに言っておくが、お前が起源弾を俺に打ち込んだ時と同じ方法だからな?」
「何!?」
「クカカ!まあ精々頑張りな?そろそろ俺も本気で行くからよう?」
そう言って永時は窓に掛け、飛び降りる。
慌てて切嗣は窓の下を覗いたが、その姿はもうなかった。
ーーーようやく、彼の謎が紐解かれ始める時が来た。
結末がどうなるかは、誰にも分からない。
いかがでしたか?
今回登場した宝具『原点にて頂点』の強さはというと、
『乖離剣』や『約束された勝利の剣』を余裕で防げるぐらいでしょうか?
ですが、今はある事情と、魔力消費が高すぎるせいで、戦闘時は使えませんので、戦闘時はもう1つの宝具を使っています。
ヒントになりましたでしょうか?
では、また次回。