魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
ネタバレしないように、内容を良い感じに表したタイトルって難しいですね。
中条あずさは困っていた。初対面の相手と二人きりというこの状況に。論文コンペにも来ていた様なのだがあずさには覚えがなかった。
「大変なんじゃないですか?雪花くんの専属メイドというのは」
「はい、家から出られると途端にウロチョロするので大体の場合、今日の様なことになります」
苦笑いを漏らすしかない。なにせ自分から迷子になるから手を繋ぎましょう、と言い出す始末だ。本当にそうなるのだろう。
この娘は雪花のことを良く知っているんだな、とあずさはふと考えた。専属メイドの仕事は住み込みらしく、雪花の家に住んでいる。一緒に住んでいれば良く知っているのは当然なんだろう。しかしあずさは何故かそれが寂しかった。自分が知っている雪花は雪花の極一部でしかないような気がしたからだ。そんなことを考えてしまったのは朝のことがあったからに他ならない。
あずさは正直、今日は二人きりだと思っていた。
もう十回は二人で遊びに行っているだろう。しかしそれは全て、放課後、学校が終わってからのこと。だからこうして休日に一緒に出かけるというのは初めてだったりする。
故にあずさは緊張していた。
休日に男の子と出かける。そんなシチュエーションが初めてでどうすればいいのか分からず、服選びも友達にニヤニヤとされながら考えて精一杯オシャレした。その友達から言われたデートという言葉も緊張に拍車をかけていたのだろう。
しかし集合場所に着いたとき、そこにいたのは雪花とその専属メイドだという女の子。
デートだとか考えて緊張していた自分が馬鹿みたいで恥ずかしくなった。そのせいで雪花とろくに話もできないまま、雪花は迷子となってしまった。
「賢者の塔…見えませんね。凄く大きいはずなのですが」
「その内見えてくるのではないのでしょうか。あーこちらの方が近いですね」
あずさは水波に言われるがまま、賢者の塔とは正反対の方向へ進んでいく。
◆
「十三束くん、ハーレムだね。美少女三人に囲まれて」
「端から見たら女の子を二人侍らせた美少年に絡まれる哀れなピエロって感じだろうけどね」
「ナチュラルにぼくを美少女にカテゴリーするの止めてくれないかな!」
『賢者の塔』の前に仮装した十三束と美少年のような少女里美スバル、それに引っ付く明智英美、迷子の雪花は集まっていた。
「そういえば、雪花くんは誰と来たんだい?二人とはぐれたって聞いたけど」
「あーちゃん会長と水波ちゃん。あっ水波ちゃんって言うのはぼくの専属メイドね」
雪花の答えに三人は目を丸くした。特に二人、と聞いて司波兄妹と来ていると思っていた十三束は思わぬ修羅場の予感に他の二人とは違う驚きがあった。まあ仮面でその表情は見えないのだが。
「意外な組合せだね、想像もしていなかったよ」
「うん、私はてっきり深雪と司波君と来ているのかと思ってた。なんか雪花くん仲良いし」
「ああ、そのせいで深雪は百合なんじゃないかって噂がたって大変だったな。本気で告白しようとする女子が結構いて」
専属メイドがいる、ということに何のツッコミも入らなかったのは魔法科高校の生徒は比較的裕福な家の者が多く、メイドがいるのが当たり前というような環境で暮らしている生徒も珍しくないからだ。実際、十三束の家は百家なだけあって国内の魔法師で有数の資産家と言われる一族であり、明智英美の実家はイングランドにおける現代魔法の名門、ゴールディ家、メイドというものは身近といえば身近なものだった。
「もう電話してから一時間は経つけど…遅いなー」
「…自分が迷子になったくせに偉そうだね」
十三束が雪花に聞こえないほど小さな声で呟く。
「もしかして、水波ちゃんが嫌がらせで迷わせてる?いやまさか、いくら水波ちゃんでもそこまでは……やりそう。やられたら十倍返しとか考えてそうだし!」
今回の迷子騒ぎを水波の仕業だと考えた雪花は携帯を取り出すと何やら凄い速さで打ち込み始める。
「あー!やっぱり!全然違うところ移動してるし!」
「それは…携帯のGPS情報を見ているのかい?」
雪花の携帯を覗き込んだスバルが尋ねる。
「そう、水波ちゃんは何か対策しているかもしれないし、あーちゃん会長の方のね」
「他人のGPS情報って簡単に見れるものだっけ?」
「ハッキングしたの。…内緒だよ?」
十三束が頭を抱え、英美は「どうやったの?どうやったの?私にも教えて!」とはしゃぎ、スバルはそれを面白そうに見ていた。
「よくもやってくれたな水波ちゃん、お仕置きだ」
雪花は高速で手を動かしながらニンマリと悪い顔で笑った。
次回、水波ちゃんに悲劇が。
さて、明日も0時に投稿します。