魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
食いしん坊のあの人が再登場。
「トミーさん、マジイケメンですわ」
こっそりとシェルターへ避難する一校生徒に
十三束が繋いでいた手を引いて千秋の身体を抱き寄せ、空いている右手で自分の右腰を叩き、崩れ落ちた瓦礫を抜けてシェルターの通路へたどり着いたのである。
「あーちゃん会長もこれで大丈夫そうだ…結構怖がってたけど会長として頑張ってたし」
あずさは悲惨な光景に目を塞ぎたいのを生徒の代表を任せられた義務感から必死で抑え込んで表面上は平静を保った。自分達のために身を盾にして戦ってくれている仲間から目を逸らさずジッと見つめながら。
「うん、良く頑張った」
雪花がそう呟いた瞬間だった。
まだ完全には閉じていなかったシェルターの入り口に白い異形の腕が差し込まれる。そして無理矢理入り口を抉じ開けて入ってきたのは白い虎だった。
正確には剛気功を増幅する中華古式魔法・道術の呪法具、白虎甲を纏った呂剛虎である。その右手には義手というには異形な、まるで虎の腕のような鋼鉄の塊が取り付けられている。この腕は白虎甲と合わせて使うことを前提に開発が進められていた呂剛虎の専用武装を義手としたもの。いかなるものもその腕のみで突き破ることをコンセプトに作られた破壊の剛腕。
すぐに沢木と服部が戦闘体制を取った。攻撃に入らないのは敵に隙がないというだけでなく背後にいる一校の生徒、それ以外の避難している人達の事を考えてのことだった。
『おいおい虎夫くん…いや白虎夫くん。なんだいその右手ー格好いいじゃないか』
だから突然、
『ああ、勇気ある少年達、君たちは下がっていなさい。アレは私が処分しよう』
正体不明の人物、雪花にそう促されるものの警戒を怠るわけにはいかない。沢木と服部はこの白い不審人物を微塵も信用していなかった。
故に雪花が右の掌を突き出すのも見ていた。見ていたが故に信じられなかった。
呂剛虎は瓦礫の海へ吹き飛んだ。
『上でやろうか、白虎夫くん』
そして、その呂剛虎を追いかけるようにして雪花が
沢木と服部を含めたシェルターに避難した人々はその光景を唖然と見ていた。
◆
陥没した路面から何かが上空に打ち上がる。そしてそれを追うように下から飛び出してきた白い物体。
「今度は何!?」
そう叫んだのは千代田花音。
人型の移動砲台を二機、真由美と深雪が破壊した直後だったからである。
『そーい』
雪花は気の抜けた掛け声を出しながら上空で呂剛虎を蹴り落とす。呂剛虎は勢い良く地面に叩きつけられる…かと思われたが何らかの魔法を使ったのであろう。静かに着地した。
『げっ姉さんいるじゃん…うわっ水波ちゃんもいるよ』
上空でそれを確認した雪花はこちらを見つめているというより睨み付けている一校生徒の中に会いたくない人達がいることに気がつき、思わず声を漏らした。
『はーい、皆さん危ないので離れててくださーい。白虎夫くんに噛みつかれますよー』
「なっ呂剛虎!?」
雪花のふざけた口調での警告によって摩利はやっとその存在に気がついた。白い不審者に気を取られるあまり、落ちてきた物体が人であることにすら気がついていなかったのだ。
『君たちは下がっててね、私みたいなプロの猛獣使いじゃないと彼は中々厳しいと思うよ』
上空からゆっくりと降下してきた雪花がそんなことを言って呂剛虎の前に立つ。
「この前のようにはいかぬぞ」
『それは私の台詞だよ、この前みたいに優しい対応は出来ないよ?』
呂剛虎を挑発しながら雪花は背後の二人を意識してどう戦うべきかを考えていた。雪花のCAD『スノー・ホワイト』はもしもの時のために本気の本気で作った完全実戦用CAD。四葉と戦うことになることを想定して水波にも、さらには達也にまで存在を明かしていなかった。しかし、前回の呂剛虎との戦闘で達也にはCADを見られてしまっている。もし、CADの特徴が深雪にも伝わっているとすれば雪花の正体は完全にバレてしまうのだ。それ以前に達也と深雪は『精霊の眼』の知覚情報を、サイオン情報化されたイメージとし、身体の接触によって遣り取りをする事が可能なのだから深雪にCADを見られればこの場ではバレなくてもいつかはバレてしまう。
他にもいくつかのCADを持っているものの、全て一点物である上、達也の手が加わっているものである。
結局のところCADを使えば正体がバレることは確実だった。
─疲れるからあんまり使いたくないんだけど。
『かかってこいよ白虎夫くん、遊んでやる』
雪花はCADを取り出さなかった。
次回、ついに雪花の力が明らかになります。初期から決まってた割に中々出せなかった設定。これも全て中々ピンチに追い込まれない主人公が悪い。
さて、明日も0時に投稿します。