魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
雪花達の突然の訪問ではあったが一条家には客室が数部屋いつでも泊まれる状態で用意されているため、別に困ることはない。二人の宿泊はあっさりと認められ今夜の宿は心配なくなった。それから将輝の連絡により一条家にやってきた吉祥寺真紅郎を加え、四人は将輝の部屋へと移動。水波の挨拶もそこそこに雪花は目に入ったゲームで将輝に勝負を挑んだのである。
「というわけで、マッキーはマッキーのままです!」
雪花の言葉に将輝はがっくりと首を垂れた。
次に将輝が何かで雪花に勝つまでマッキー呼びのままなのである。
「将輝は奇策を使われた時の対応を訓練すべきだね。後でもっと実践に近い戦術シュミレーションを僕が探しておいてあげるよ」
「うぇ…」
低く呻いた将輝の声が結構本気で嫌がっているように聞こえて、雪花と真紅郎は思わず声に出して笑った。
「楽しそうだね、真紅郎君。何のお話している…の」
「茜…ドアを開けるのは返事を確認してからにしろって、いつも言ってるだろ」
ノックと同時に扉が開いて将輝のすぐ下の妹、一条茜が部屋に入ってくる。がその顔は何故か固まっており将輝の苦言も耳に入っていない様だ。
「真紅郎君の浮気者!」
「え!?」
茜の声が一条家に響いた。
兄さんが彼女連れてきた、真紅郎君が浮気した、そんなことを叫びながら家の中を走り回った茜をなんとか確保し、そろそろ夕食ということで場所を食堂へと移して事情説明を行う。
「一人は男の子で、もう一人はそのメイドさん?」
事情を理解した茜は自分の間違いに気がついた。
小学六年生の茜は真紅郎に度々「愛の告白」をしている。つまり茜は真紅郎に好意を抱いているということだ。すると先程までの状況がどう写っていたのか。
項垂れる将輝を前にして顔を見合わせて笑う真紅郎と雪花。さらに真紅郎の横にはもう一人美少女が。
茜には真紅郎が将輝から女の子を奪って侍らせているように見えたのである。
「お前、妄想も大概にしろよ」
それを聞いた将輝が呆れたように声を上げるが「だってぇー」と雪花と水波を指差す茜。
「茜が騒ぐものだから、将輝と真紅郎君にも遂に彼女が出来たのかと思ったわ」
「兄さんヘタレだから、彼女なんて当分無理」
将輝の母、美登里がニコニコしながらそんなことを言うと茜の下の妹、瑠璃が将輝の心を抉る一言をボソッと呟く。想い人に連絡先すら聞けなかった将輝は大ダメージを受けたようで戦闘不能。テーブルに突っ伏した。
「姉さんはブラコンだから手強いと思うなー。この間、海へ行ったときも兄さんにべったりだったし。二人でジェットスキー乗ったり、日焼け止めを塗りあったり、あーんで食べさせあったり」
「……」
戦闘不能どころが瀕死に陥った。
◆
桜井水波はショックを受けていた。
水波は雪花が「夕飯をご馳走になったお礼にデザート作りますよ」と言い出した時、「本当に作れんのかよ」という疑いの目を向けていた。というのも毎日家でダラダラと過ごし料理なんてしているところを見たことがないからだ。そんな雪花が一時間足らずで作ったミルクプリンと瑠璃の好物であるチーズケーキ。どちらも茜の好物だという苺を使った苺ソースがかけられている。
「おいしい」
「本当だ!凄くおいしい!」
瑠璃、茜の言う通りそれは美味しかった。ミルクプリンの甘さは控えめで苺ソースの甘酸っぱさが良く合う。
チーズケーキはスフレのようなふんわりと軽い焼き上がりでほんの少しだけ香るレモンが苺ソースを引き立てていた。
まさか、あの主にこんな特技があったなんてと驚愕すると同時にショックを受けたのである。もしかして自分より料理が出来るのでは、と考えてしまったからだ。デザート専門という可能性もあるがこれだけ作れて食事は作れません、なんてことはないはず。水波にも専属メイドとしてのプライドというものがある。主より料理が出来ないメイドなんてメイドじゃない、とは言わないが
「これだけのものを良くこんな短時間で作れたな」
「魔法を使っているんだよ」
料理に魔法。自分にはない発想だった。水波の目標に『ゲームに勝利し雪辱を晴らす』こと以外にもう一つ。
『料理に魔法を取り入れる』が追加された。
後日、雪花の調理風景を見て諦めることになるのを水波はまだ知らない。
次話で夏の二人旅は終わりです、たぶん。そして夏の二人旅が終わると新章に入ります、たぶん。
たぶんなのは、その場の思い付きで当初考えていた内容を変更することが多々あるからですね。
さて、明日も0時に投稿します。