魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮)   作:カボチャ自動販売機

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まだ続く夏休み編。あの二人が早くも再登場です。


夏の二人旅①

「雪花……タイムだ」

 

「もう使っちゃうの?まだまだ序盤なのに」

 

背中合わせに立てたモニターで対戦しているのは魔法大学軍事学部戦術研究室がシナリオを作ったリアルタイム・シュミレーションゲーム。

画面には将輝のタイムにより一切の動作と変化がフリーズした市街地を上空から見た俯瞰映像が映し出されている。

 

 

「マッキー水波ちゃんより弱いかもね」

 

「くっそ、このまま勝てると思うなよ」

 

 

画面を食い入るように見つめる将輝を雪花がちゃかし、将輝が悔しそうに返す。

それを微笑ましく見守っていた真紅郎は隣に姿勢良く座る少女に声をかけてみる。

 

 

「桜井さん、雪花君はこのゲーム得意なの?」

 

「本人はボードゲームの方が得意だと言っていましたが……少なくとも私は一度も勝てたことがありません」

 

 

水波は一度負けて以来何度かこのゲームで勝負をしていた。こっそり特訓を積み自信満々で挑むも敗北、屈辱を味わった苦い記憶が頭を過る。『にゃん』やら『なり』やらの語尾シリーズに加え「なんか面白いことやって」という無茶振りシリーズ。いつか勝ってこの屈辱を晴らしてみせる、と水波の小さい目標にもなっていた。

 

 

「へー雪花君強いんだ、あっ将輝がまたタイム使ってるよ…後半どうする気なんだろ?」

 

 

真紅郎の疑問にはあっさりと回答がなされた。将輝は結局、残り時間が半分も残っている状態、つまり後半戦へと突入する前に負けてしまったのだから。

 

 

 

 

 

「ご友人とお出掛けになられたりはしないのですか?」

 

「ああ~うん、そうだね皆忙しいし」

 

 

夜、旅行から帰ってきてからというものの、全く家から出ようとせず今日も一日を家でダラダラと過ごした主に呆れ返えった水波がそう聞いてみると、読んでいた本から顔を上げ雪花が気のない返事を返した。

何日間かの共同生活の中でこのくらいの会話が出来るくらいには二人は馴染んでいた。

 

 

「でも折角の夏休みだし遠出したいよね。といっても海は行ったし……水波ちゃんどこか行きたいところある?」

 

「いえ、特には」

 

 

水波の答えに「う~ん」と暫く唸っていた雪花だったがやがて何かを思い付いたのかにっこりと笑う。

 

 

「水波ちゃん、庭園とかお城に興味ある?」

 

「ガーデニングは好きなので庭園には少し興味がありますが」

 

「じゃあ決まりかな…明日行こうか、石川県!」

 

 

元石川県金沢市には日本三大庭園の一つに数えられる兼六園や城址が国の史跡に指定されている金沢城などがあり観光には事欠かない。そしてその金沢市の外れには九校戦において一校と優勝を争った国立魔法大学付属第三高校がある。

 

 

「突撃!お宅訪問だ!」

 

 

そうだ石川行こう。

そんなノリで急遽決定した石川県金沢市への旅行。さすがにメイド服ではなく可愛らしい私服姿の水波と用意されるが間々に着た中性的な服装の雪花、一見姉妹にも見える二人の旅行はこうして始まった。

 

羽田空港から飛行機でおよそ一時間、石川県小松空港に降り立ちそこからバスで四十分。金沢市に辿り着いた二人は予定通り兼六園や金沢城などの名所を観光し夕方まで楽しく過ごし、そろそろ宿泊先に向かおうというところで水波は訊ねる。

 

 

「宿泊先は決まっているとのことでしたが、どこなんですか?」

 

「マッキーの家に泊めてもらうよ?」

 

 

マッキーというのが誰のことかは分かっていない水波であったが親しげな呼び方から推測するに仲の良い友人だろうと結論付け、旅行先を石川県金沢市にしたのにはそういうわけがあったのかと納得する。

それから雪花に言われるがままにバスへと乗車。『国立魔法大学付属第三高校前』で降り、自然豊かな景色を堪能しながら、のんびり歩いて三十分。水波は宿泊先を雪花に任せたことを後悔した。

 

目の前にあるのは平均的な一戸建て住宅のおよそ十倍はあろうかという大邸宅。その表札には『一条』の文字。

 

 

「雪花様、まさかと思いますがアポイントメントは取ってあるんですよね?」

 

「取ってないけど大丈夫。何時でも遊びに来いって言ってたし」

 

 

それ、社交辞令では?と水波が疑問の声を上げようとするも既に雪花の指はインターフォンを鳴らした後だった。水波は黙って近くの宿泊施設を調べ始めた。

 

 

しかし数分後、水波の予想に反し一条家の門は開かれた。四葉を知っているが故にアポイントメントなしで十師族の本邸に入れるとは思ってもみなかったのである。

 

 

「やあ、マッキー!」

 

「お前、連絡くらいしろよな。来客があったらどうする気だったんだ。というかなんで家分かった?」

 

「あっ来客とか全く考えてなかったよ。家の場所はググったら出てきたよ?」

 

「……はあ、取り合えず入れよ」

 

 

水波は頭痛を堪えるように頭を押さえる一条将輝に妙な親近感を覚えた。




雪花、石川へ。

次章は結構シリアスになりそうな予感なので夏休み編はたぶんシリアスないです。あれ?この小説って大体そんな感じじゃ…。


…さて明日も0時に投稿します。

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