魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
雪花の専属メイドである桜井水波は今日から二日間、雪花が旅行で外泊するため仕事は休みだ。とはいえ専属メイドとしての仕事以外にも『四葉』としての仕事がある。その一つである『メイドの仕事に関してのレポート』を提出するため水波はパソコンへと向かい、これまでのことを思い出していた。
七時に雪花を起こすことが専属メイドとしての一日の始まりである。この『起こす』というのが中々に難しく後五分なんて言い始めたら中々に骨だ。なんせ水波はメイド、主人を起こすためとはいえ出来ることには限界がある。
残念なことに初日は結局七時に起こすことは出来なかった。
しかし二日目になると雪花の母、小百合から多少荒っぽくても構わないというお墨付きをもらい、雪花曰く素敵な起こし方(物理)を使えるようになったため七時に起こすことが出来た。水波はメイドとして小さな達成感を得られたのだ。「嘘でしょ…今後毎朝これ?」という雪花の悲痛な声は聞こえない。
故に水波は三日目も意気揚々と雪花を起こすべくまずは優しく語りかける。ぽわわーんとした良い夢を見ているのであろう雪花の寝顔に何の変化もなければ揺すってみたり、軽く叩いてみたりする。が、起きない。水波は薄く笑う。そして素敵な起こし方(物理)を行使するのだ。
「起きてる!ちゃんと起きてますよ!」という雪花の声が朝の定番となることも知らずに。
専属メイドの仕事は朝起こすだけではない。そもそも主な仕事は雪花の身の回りの世話。家全体のことは家政婦である沙世がこなすため水波の仕事はといえば結局のところその一択なのである。
とはいえそうなると水波のやることは意外と少ない。雪花は一日の大半を部屋で過ごすからである。結果、水波も一日の大半を部屋で過ごすこととなった。
「一緒にゲームやんない?」
主人の娯楽に付き合うのもメイドの役目である。水波はゲームの類いは全くと言って良いほどやらないがチェスやオセロなどのボードゲーム、トランプを使ったカードゲーム等の所謂アナログなゲームのルールを全く知らないという程ではなかった。とはいえ決して強いわけではなく。
「チェックメイト」
正しくドヤッという顔でそう言った雪花に水波は表面上は顔に出さず内心で「明日の朝は強めに起こそう」と決意する。
そんな決意を知るはずもない雪花は口元を手で押さえながら「水波ちゃん、チェス信じられないくらい弱いね!」と半笑いで馬鹿にした。
水波は「明日の朝は泣かす」と決意を改めた。
雪花は苦いものが苦手だ。ゆえにピーマンは大の苦手。が、家庭で出される食事は残さない。たとえピーマンが出たとしても。
「うぅ…苦い」
それはこの家で食事を作っている人のおかげだ。雪花がこの世でもっとも頭の上がらない人間は父でもなく母でもなく兄でもなく姉でもなく、幼少より共に暮らしてきた家政婦の沙世である。その沙世が作っている食事を残すことは出来ない。
水波は沙世がただ者ではないと睨んでいる。幼少の頃、雪花がUSNAへと逃げることが出来たのは沙世の功績が大きいと聞き及んでいた。当時、沙世は二十三歳。つまりまだ成人して間もないたった一人の女に四葉の追跡部隊はしてやられたということだ。彼女がいる限りこの家で下手な行動はできない。水波はそれを身を持って知っていた。なんせ水波が初日、あちこちに仕掛けたカメラ、盗聴機が次の日には綺麗さっぱりなくなっているという出来事を実際に体験しているのだから。
「水波ちゃん、ゲームやろうよ」
夜、昼間と変わらず部屋の中で過ごすことの多い雪花がニヤニヤしながらゲームに誘う。自分の勝ちを確信しているのだろう。
水波は「殴っちゃおうかな」と頭の隅で暴力的なことを考えながらも顔は至って無表情。今度こそは負けない、とこっそり闘争心を燃やしながら
「やっぱり水波ちゃん弱いね!」
が、惨敗。ありとあらゆるゲームで完膚なきまでに叩きのめされた。アナログなゲームでは勝てなかったがデジタルなゲーム、対戦型のリアルタイム・シュミレーションゲームには自信があったのだ。操作は簡単なものですぐに覚えることができたし、演習などで戦闘訓練を受けていたからだ。実戦を経験している自分が負けるわけがない。だからノッてしまった。負けた方が一つなんでも言うことを聞くという賭けに。
「じゃあ水波ちゃんは明日一日、語尾に『にゃん』をつけるってことで」
こんな屈辱は生まれて初めてだった。
雪花は水波ちゃんが来てからCADをいじれなくなったので、ゲームしたり読書したり水波ちゃんを弄ったりして過ごしてます。水波ちゃんを弄るのは日頃の仕返しでもありますね。
さて明日も0時に投稿します。
※紗世さんの年齢とちょっと内容も修正しました。
初登場時の年齢が十八でUSNAに逃げるときは成人過ぎてますからね。