魔法科高校の劣等生に転生したら生まれた時から詰んでいた件について(仮) 作:カボチャ自動販売機
その分、今話は結構頑張りました。初の三千文字越えです。
「……お兄様に、お人形遊びのご趣味がお有りとは、存じませんでした」
「とにかくまず、落ち着け、深雪。俺の方から抱きついたわけじゃないぞ。抱きつかれたんだ」
「お兄様の身体能力なら、避けることなど造作も無かったはずです」
妹からは冷たい、ほののんからは咎めるような視線を向けられさすがの兄さんも慌てているのか、モテる男の浮気の言い訳みたいなのをしているけど視線はそのままだ。ピクシーが、がっしりとくっついたままだしね。何かピクシーがにやけてる気がするけどきっと気のせいだろう。
「俺が避けたら、お前にぶつかっていたじゃないか」
なんと兄さんはそこまで計算して避けなかったらしい。流石、我らのお兄様である。姉さんはそれにシュンと萎れて自分の非を詫びた…んだけど落ち込んでいるように見えて、微妙に嬉しそうだ。ほののんも納得という感じで頷いている。ほののん、シスコンは許すんだ…。
「ピクシー、離れてくれ」
兄さんがそう命令するとピクシーは大人しく両腕を解いた。うん、名残惜しそうに見えたのは、単なる見間違えだよね。熱っぽい眼差しで兄さんを見上げているのも錯覚だよね。いやー流石ぼく、細部までこだわってますね。
「美月」
「は、はいっ?」
突然の指名に声をひっくり返したツッキー。どうやら兄さんはツッキーにピクシーを視てもらうつもりらしい。ツッキーが大きなダメージを負わないようにミッキーもサポートに入る。
そういえばまだ幻想眼でこのピクシーを見ていなかった。兄さんの前で使うとバレそうだからあんまり使わないようにしてるんだよね。でも気になるから使っちゃう。好奇心には勝てないのです。
「います……パラサイト、です」
いた。それっぽい、糸のようなものがぐにゃぐにゃとしている。でもこの感じ…見たことがあるような気がする。ぼくは直接パラサイトを見たのは初めてのはずなんだけど。
ツッキーも何か引っかかるようで眉をひそめて「む~っ」と悩んでいる。やがて、ぼくがその違和感に気がつくより早くその正体が分かったらしいツッキーははっと目を見開くと急に振り返った。視線の先にはほののん。じ~っと凝視して、ほののんとピクシーの間で視線を往復させる。
「このパターン……ほのかさんに似てる」
「ええっ!?」
ほののんが仰天の声を上げた。そのおかげでぼくは声を出さずに済んだ。思わず「それだ!」って言いそうになったからね、助かった。
「パラサイトは、ほのかさんの思念派の影響下にあります。…コントロールを受けているとかラインが繋がっているというわけではなく、ほのかさんの思念をパラサイトが写し取ったという感じです。あるいはほのかさんの『想い』がパラサイトに焼き付けられた、残留思念のようなもの、でしょうか」
「残留思念……つまり、光井さんが何か強く思ったことが、偶々近くを漂っていたパラサイトに写し取られ、その後、憑依した?それともピクシーの中に潜んでいたパラサイトに光井さんの想念が焼き付いた……?」
ミッキーの盛大な独り言はほののんにも聞こえていたのだろう。何か心当たりがあったらしいほののんは両手で顔を覆って俯いている。その隙間から見える顔は真っ赤。その反応で大体どんな『想い』なのかは想像がつくわけだけど、それを口にするのはあまりにほののんが可哀想だろう。たとえ周知の事実だったとしても。
『私は、彼に対する、彼女の特別に強い想念によって覚醒しました』
ピクシーの唇が本当に言葉を発しているかのように動いている。実際はテレパシーのようだけど。ピクシーには当然、発声器官がないのだから。
「我々の言語に随分通じているようだが、どうやって修得したんだ」
『前の宿主より、知識を引き継いでいます。それにこの身体にインプットされていた言語情報も参考にしています』
うん、それ参考にしなくて良い奴だから忘れようね!
ぼくが内心でピクシーにツッコミを入れている間も兄さんとピクシーの会話は続いていく。どうやらパラサイトは宿主を移動する際に引き継ぐことができるのは、宿主のパーソナリティから乖離した知識だけで、パーソナリティと結び付いた記憶は、移動の際に失われるらしい。だから前の宿主がどんな人間だったのかは分からないし、それが一人なのか二人なのかもっと沢山なのかも分からない。ただ、自己保存の欲求はあるようだ。うん、中々どうして面白い。
「お前のことは何と呼べばいい?」
『我々には名前がありませんので…そうですね、我々のことはパラサイトと呼称されているようですし、この個体の名称「ピクシー」と合わせて、斉藤ピクシーというのはどうでしょう』
このパラサイト、ネーミングセンスが壊滅的だよ!たぶん、パラサイト→サイト→斉藤にピクシーをくっつけたんだろうけどもっと良いのがあるでしょ!というか斉藤必要なの!?ピクシーだけで良くない?
どうやらピクシーがぼくのインプットしたデータを参考にしているのは言語だけではないらしい。だから忘れようか、そのデータ。
「……ではピクシー。お前は我々に敵対する存在なのか?」
ピクシーの斉藤をさらっと受け流して、そう質問する兄さん。
「私は貴方に従属します」
「俺に?何故」
『貴方のものになりたい』
なんだか情熱的な眼差しを兄さんに向けてピクシーは続ける。
『私は彼女─個体名「光井ほのか」の、この想念によって休眠状態から覚醒しました』
ここからは酷かった。ほののんが完全に晒し者になったのである。尽くしたいとか貴方のものになりたいとか、貴方に全てを捧げたいとか、ほののんの兄さんに対する想いを全部ぶちまけられちゃったわけだからね。こっちが恥ずかしくなってくるくらいだから、当然、本人は恥ずかしさの限界を突破して床に崩れ落ちた。うん、なのに一切反応を示さないお兄様、流石です。流石は真性のシスコン、ぶれない。まあ単に意識が「情」ではなく「知」に占められているだけだろうけど。
「我々は本来、ただ在るだけのものです。「望み」は宿主によってもたらされます」
「まあ責任の所在は別の機会に追求するとしてだ……ピクシー、お前は俺に従う、ということで良いんだな」
『勘違いしないでよね!べ、別にアンタのためじゃないんだからねっ!それが私の「望み」なだけなんだから!』
ツンデレ挟まなくて良いよ!普通に答えようよ!そしてそのやってやったぜ、みたいな顔止めようか!確かにやっちゃったけどね、盛大に!
「………では俺の命令に従え。今後、俺の許可なくサイキックを使用することを禁止する。表情を変えているのも念動の一種だろう?それも禁止だ」
ツンデレ発言に多少の動揺を見せたものの、そう命令する兄さん。止めて、こっち睨まないで。ピクシーが変なのはたぶんぼくのせいじゃないから!…ごめんなさい、八割ぼくのせいです!
『じゃあ壁ドンして、耳元で命令してもらっても良いですか?…その方が萌えるので』
斉藤ピクシーさん!それぼくのインプットしたデータ以外にも変なもの参考にしてますよね!?いや参考にしているというより少女漫画的なものにハマってますよね!?電子頭脳から余計な知識引っ張ってきてますよね!?萌えとか知らなくていいもの知っちゃってますよね!?いや萌えは重要だけどね!?
ぼくの頭がツッコミでいっぱいになるころにはピクシー先生による壁ドン講座(生徒、兄さん)が勝手に始まって終わったらしく、まあ命令の仕方を変えるだけで素直に従ってくれるなら、と兄さんがピクシーに壁ドンしている。そして耳元で囁く。
「はう、ご馳走さまでした……では、ご命令の・ままに」
ぼくが付けといた機能でわざわざ顔を真っ赤にして、ご馳走さまでした、と言った後はサイキックを切ったのだろう。ぎこちない声だ。勿論、表情もない。そう、作られた仮面の表情のはずだ。なのに、その仮面の表情が、どこかニヤけているように見えるのはぼくだけだろうか。
…はあ、もうやだこのピクシー。
はい、というわけでピクシーはこんな感じでいきます。カオスです。斉藤ピクシーさん、大分濃いキャラに仕上がっています。
さて、明日も0時に投稿します。