東方煩悩漢   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

半年近く何をしていたのかというと何か色々あって胃に穴が開いたりしてました\(^o^)/
それもあってもう本当にモチベが……
こんな感覚だったんだなぁ……(継続中)
これで私も胃痛キャラの仲間入りだぜ!(吐血)

さて、前回妹紅が何かやらかしそうな雰囲気でしたが、いったい何をしようというのか。

それではまたあとがきで。


第九十一話『男の子なら』

 

 しっかりと前を見据える。

 『()()()』も同様に私を見つめ返してくる。無表情にも見えるが、何となく身に纏う雰囲気が変化したようにも思える。

 私を見る……と言えば、当然だが他の皆もそうだ。レミリアはもちろんフラン達も「何をする気なのか」という目で見てくる。大したことではないし、誰もがやっていることだ。

 ……とは言え、皆に見られながら、というのは流石に恥ずかしい。鏡を見なくても顔が赤らんでいるだろうことが分かる。

 だが今更だ。何せ私は横島とのキスを大勢に見られてしまっている。それに比べたら全然大したことなどいや嘘吐いたどうしようすごいはずかしい。

 と、横島が凄いスピードで(こっち)に突っ込んでくる。……なるほどなるほど。待ち切れないんだな? そんなにも私を求めてくれるなんて女冥利に尽きるなあ。(やけっぱちの思考)

 横島が右手を突き出してくるのを、私は左手で受け止める。……指が絡んだこの状態、いわゆる恋人繋ぎか!?(違います)

 今度は左手が突き出され、それを右手で受け止める。がっぷりよつ、だったかな? あんまり可愛くない名前と体勢だ。それに力比べなんて私じゃ数秒も保たないだろう。

 

「横島ぁ!!」

 

 だから、私がするのは別のこと。

 拳で語り合うなんて出来ないし、言わなくても伝わる……なんていうのは怠慢だろう。

 私達のようにパスが繋がっていても、さとりのように心を読めても、()()を怠っちゃ駄目だったんだ。

 

「私は────」

 

 今からでもきっと遅くない。すべての霊力を……想いを言葉に込めて、声にして届ける。

 私の想いを、横島の心へと。

 

「お前が────横島のことが、好きだ!!!」

 

 ────一瞬、周囲の時が止まったように感じられた。

 

 …………みんなが「はぁ?」って顔をしているのが目に浮かぶようだよ……。

 

 

 

 

 

 

 

第九十一話

『男の子なら』

 

 

 

 

 

 

 

「横島のことが、好きだ!!!」

 

 突然の妹紅の告白に、皆は唖然とする。

 『横島』は妹紅の手を振りほどき、今度は拳を突き出した。しかしその速度は美鈴やレミリアと戦った時と比べてあまりに遅く、妹紅は余裕を持って回避する。

 

「初めて会った時から気になってた! スキマから墜落してきて博麗神社の境内に頭から突き刺さって生きてたり! 全身に負った真新しい傷も既に塞がり始めてたみたいだし! 私や輝夜達と同じ蓬莱人かと思った!」

 

 大声で出逢った……目撃した? あの日のことを妹紅は語る。その間も『横島』は休まずに攻撃を繰り出し続けている。だが、やはり遅い。先程までと比ぶべくもなく拙い。

 あまりにも大振りな拳。腰が全く入っていない蹴り。鋭さの欠片も無い肘、膝、手刀。

 その動きはまるで────そう、まるで相手を止める気がないのに、形だけ止めようと下手な茶番を演じているようにも見えた。

 ここまでくれば皆も気付く。『横島』には()()()()()()()()()()のだということに。

 

「別の世界から来たことを知って! 元の世界に帰れないかもって知って! それで女の名前ばっか出した時は何だこいつって思っちゃったけど!」

 

 何故かは分からない。だが、妹紅の()()は、『横島』の目的と合致するのであろうことは理解出来た。

 そして────。

 

「元の世界の話を聞いて! 家族の話を聞いて! ……お前と話してて、一緒に居て! 私は────私は、楽しかった! もっと話していたいと思った!

きっと私は、あの頃からお前に惹かれ始めていたんだと思う!!」

 

 ────ようやく、『答え』に辿り着いた者が居た。

 

「私だって! 私だって執事さんのことが……! ────()()()()のことが! 大・好き・だーーーーーーっ!!」

 

 てゐが立ち上がり、そして叫んだ。その瞳には涙さえ浮かんでいる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それを悔やんでの涙だ。

 

「私の悪戯のせいで横島さんはこっちに墜落しちゃって、帰られなくなって! 私に言いたいことだっていっぱいあったはずなのに、それを全部飲み込んで……! そのうえ私に優しくしてくれて……!!

 私は、横島さんが大好きになったんだ!!」

 

 涙で視界が滲むも、大声を張り上げ、必死に想いを口にする。その様を見て、聞いて、妹紅の口元に思わず笑みが浮かんだ。嬉しさからだろうか、涙もこぼれそうになってしまう。

 そして、ようやく。────ようやく、気付くことが出来た。

 

「わ、私だって……ただお兄様のことが大好きだもん!」

 

 今度はフランが立ち上がり、そう叫んだ。

 

「私は……! ずっと地下に引きこもってたし……! せ、性格だってみんなみたいに良くないし、ホントの私は、す、すっごく暗い子だけど……!」

 

 涙を堪えながら、言葉に詰まりながら、それでもフランは胸の内を曝け出していく。

 

「ずっと、ずっと嘘吐きだった私に……! 壊すしか出来ない私に……! わ、私にも、何かを、つくれる……創れるんだって教えてくれて……! それで……す、好きになってぇ……!!」

 

 もはや涙を堪えられず、しゃくり上げて言葉もまともに紡げない。それでも想いを言葉に変えて伝え、届ける。

 

「フラン様……」

 

 小悪魔はしゃくり上げるフランを見て、その小さな背を支えてあげたいという思いを抱いた。しかし、小悪魔の膝には横島がその身を任せている。

 そうして少々まごついていると、横から小さな手が、見た目よりも遥かに力強い動きで横島の身体をその矮躯に引き寄せた。

 

「レミリアお嬢様……!」

 

 そう。その手の持ち主はいつの間にか小悪魔の隣に腰を下ろしていたレミリアだ。

 レミリアはその膝の上に横島の頭を置くと、小悪魔の瞳を見つめ、一つ頷いた。それだけで小悪魔には充分に伝わった。

 

「フラン様」

 

 小悪魔は立ち上がり、フランを後ろから優しく抱き締める。驚きにその身を一瞬固くするも、すぐにその温もりに身を委ねる。

 何せ相手は大好きな()()()()()()()()()()だ。その柔らかな温もりと優しさに、次第に涙も止まる。

 

「横島さん、私は最初あなたに憧れていました。ほんの僅かな時間でお嬢様に気に入られ、咲夜さんに認められて、あの警戒心の強いパチュリー様がすぐに心を開いたなんて、信じられなかったくらいです」

 

 今までと違い、穏やかに胸の内を語る小悪魔。だが、その言葉に込められた熱は、想いは、誰に勝るとも劣らない。

 

「いつからか憧れは別の気持ちに……横島さんのことが好きなんだって気持ちに変わりました」

 

 その当時の事を思い返しているのか、小悪魔はほんの少しの間目を瞑る。

 

「一時は的外れなことも考えました。でも、その時だって、私の気持ちは変わらなかった。そして今も変わらず……いえ。どんどん、どんどんと想いは強くなっています」

 

 小悪魔は息を大きく吸い込む。そしてありったけの想いと魔力を言葉に乗せて、大きな声で叫ぶように告白する。

 

「私は……私も横島さんが好きです!! ずっと一緒に居たいです!!」

 

 小悪魔の言葉に触発されたかのように、ついに最後の一人が立ち上がる。

 霊的中枢(チャクラ)を全力で回し、まだ震えが来る足に喝を入れ、しっかりと前を見据え、他の三人と並び立ち────やがて、美鈴は口を開いた。

 

「正直に言うと、私はいつ・なぜ横島さんに惹かれるようになったのか、全然覚えてないんですよね」

 

 己の未熟によって受けたダメージとは、また別の意味で身体に震えが走る。上手く頭が回らない。それでも自分の想いを口にしていく。

 

「初めて会った時に優しくしてくれて、それが何か気になって。妖精メイドのみんなと一緒に働いてるのを見て、過去の話を聞いて、それからちょっと無理矢理でしたけど太極拳を一緒にやることになって」

 

 胸に手を当て、出逢いからの出来事を大切そうに話していく。

 

「模擬戦をしたり、その後妖夢さんの下で剣術を習うことになって、パーティーをしたり、バーベキューをしたり、『あの事件』があって────えー、っと……あー……」

 

 と、ここで雲行きが怪しくなる。想いの強さに言葉が完全に追い付いていない。

 フラン達から心配そうに横目でチラチラと見守られる中、しばらく「あーうー」と唸っていた美鈴は一つ深呼吸をし、「────せいっ!」と気合一閃、両手で己の頬を強かに張った。

 

「……あまり長々と難しいことを話すのは私らしくありませんね」

 

 両頬に立派な紅葉を貼り付けた美鈴が、少々涙目になりながらもそう呟く。そして大きく息を吸い────。

 

「私は横島さんが好きですっ!! 横島さんが欲しいんですっ!!!」

 

 ────と、そう叫んだ。

 その大声に込められた想いと妖力によって空気がビリビリと震える。

 心配そうに見ていた皆も今は笑っている。皆、今はそれだけの余裕があった。

 何故ならば『横島』がその動きを止めているからだ。妹紅の時点で既に動きが大幅に鈍っていた『横島』であったが、てゐがその胸の内を明かす頃には完全に動きを止めており、皆の思いの丈を聞く態勢になっていたと言っても過言ではない。

 故に妹紅も『横島』に手を出さなかった。今も『横島』は俯いて沈黙している。他の皆も、誰も何も話さない。

 やがて、『横島』はその身体から力を抜いた。すぐ近くでそれを見た妹紅の顔に喜色が浮かぶ。

 

「よこ────」

 

 ────と、名前を口にしようとしたその時、『横島』は妹紅の間合いの中へ深く踏み込んでいた。

 

「────!?」

 

 妹紅は反射的に半歩下がって腕を突き出すが、『横島』はその腕を絡め捕り、ハンマー投げよろしく回転して妹紅を投げ飛ばす。

 

「ぅわあっ!?」

 

 空中へと放り投げられた妹紅は上手く姿勢を立て直すと衝撃も何もないかのように静かに着地する。

 遠く離れた『横島』を気にしつつ、先程極められた腕の調子を確認する。……特に問題はない。

 

「妹紅、大丈夫?」

「ん? ……ああ。大丈夫だよ、てゐ」

 

 すぐ隣から掛けられた声に一瞬驚くが、何のことはない。ちょうどてゐ達の所まで投げられただけだ。

 五人並んで『横島』を見やる。妹紅を投げ飛ばしてから動きはない。────否、それもここまでだ。

 流れるような動作で構えに入り、気合を入れる為か力強く地を踏みつけた瞬間、「ズンッ」と身体を地に圧し潰さんばかりの重圧が五人を襲う。

 

「……!!」

 

 幻想郷に墜落することによって手に入れた横島の神魔級の霊力、その完全解放だ。

 それを受け、特に魔力・妖力の低い小悪魔とてゐは圧倒的な力の差にその身を圧し潰されようとするが、それでも何とか踏み止まり、無理矢理に戦闘態勢に入る。

 例え腰が引けていても、身体が小刻みに震えていても、もはや屈することはない。

 それを見た妹紅達三人は笑みを浮かべ、少しでも二人の負担が減るようにと己が力を全力で解放する。

 『横島』とその恋人達五人が睨み合う中で、レミリアとその膝の上で眠り続ける横島は、まるで別の世界に居るかのように静かな時が流れていた。

 眠っている横島の顔を見つめるレミリアの目には、慈愛が宿っているように優しい光を湛えている。

 

「……本当に、どうしてすぐに気付かなかったのかしらね」

 

 横島のやや硬い髪を撫で、レミリアは呟く。 

 

「ここは横島の精神世界、その最奥。……アンタの中心とも言える場所だって分かってたのにね」

 

 レミリアからこぼれる言葉にはとある感情が彩られている。自嘲と、後悔と、反省だ。

 

「心からの気持ちを、想いを、言葉に乗せてただ伝える。……それだけのこと。ただそれだけのことだったのに、私達は気付かなかった。

 ────アンタは、あんなにも簡単に()()()()()()()()()()()()()()()

 

 思い出されるのはこの精神世界の外郭、あのこじんまりとした(ホテル)のことだ。

 ただ呼びかけただけで心の扉を開いた。心を許してくれたのだ。表現方法がいささか特異であったが、もしかしたら()()のせいで気付けなかったのかもしれない。

 

「あの子たちは、本当にアンタのことが好きなんだって……それは、今ので伝わったはず」

 

 レミリアは横島に語り掛けながら、その両頬に手を添える。背を丸めて顔を近付ける。レミリアの視界には眠る横島の顔だけが映っている。

 

「────()()()()()()()()

 

 頬に添えられた手に少しだけ力が入る。

 

「あの子たちの気持ちを聞いて、想いを受け取って。それで、アンタはどうするの? このまま何もしないで終わる?」

 

 そこで一呼吸空ける。

 

「そんなわけないでしょう?」

 

 ────そんなことは、分かり切っていることだ。レミリアは横島の額に優しく口付ける。

 

「男の子なら────格好良く、決めてきなさい」

 

 

 

 

 

 高まりゆく霊力と緊張。互いに互いの一挙手一投足を見逃すまいと集中を深めていく。

 そして、まるでコマ送り映像のように、『横島』が皆の間合いに踏み込んでいた。

 八極拳の歩法の一つ、活歩。ヨコシマが好んで多用する歩法であり、それ故即座に対応出来るのはただ一人。

 

「……っ!!」

 

 痛む身体を押して、美鈴が一歩前に出る。受けるにせよ流すにせよ、今の状態ではそれを完全にこなすのは少々難しい。だが、隙を作る程度は何とか可能だろう。

 そう考えた美鈴が更にもう一歩を踏み出さんとしたその時────一陣の風が吹いた。

 

「ぇ────?」

 

 誰かがこぼした言葉の欠片。否、()()()()()()()()()()()。『横島』の繰り出した拳は、がっしりと掌で受け止められている。

 他の誰でもない────()()()()()()()()()()

 誰もが呆けたその一瞬。

 

「破っ!!」

 

 横島は受け止めた『横島』の手を思い切り引き、バランスを崩して前のめりになった『横島』の腹へ交叉法を乗せた崩拳を裂帛の気合と共に叩き込んだ。

 

「────っ!!?」

 

 踏ん張ることも出来ず、『横島』は地をスライドするかのように吹き飛んだ。

 それを呆然と見つめる恋人達。と、残心を解いた横島がゆっくりと振り返る。

 

「みんなの声、ちゃんと届いたから」

 

 そう言い、横島は自らの愛する恋人たちの顔を見つめていく。

 

「妹紅」

「……うん」

 

 まずは妹紅。

 

「フランちゃん。美鈴」

「うん……うん……っ!」

「はい……!」

 

 次にフランと美鈴。

 

「小悪魔。てゐちゃん」

「はい……っ」

「しつじざ……!! よ゛こ゛し゛ま゛さ゛ん゛……!!」

 

 最後に、小悪魔とてゐ。皆一様に目に涙を溜め、てゐなどはもはや号泣寸前だ。

 横島は五人を愛おしそうに目を細めて見つめ────そのまま流れるような動きで地に膝を突き、両手を突き、思い切り頭を下げた。

 

「……え?」

 

 誰かがこぼした言葉の欠片。否、()()()()()()()()()()()

 それはとても見事な────とても美事な、土下座である。とても美事な土下座である!! (大事なことなので二回言いました)

 

「堪忍やー!! 仕方なかったんやー!! ワイも色々といっぱいいっぱいやったんやー!!」

 

 そしてコメツキバッタのように高速で頭を上下に上げ下げアップダウン。脳がとろけてバターになるんじゃないかという勢いだ。

 

「堪忍やー!! ほんまはええやつなんやー!!」

「分かった!! 分かったからもう止めろー!!」

「せっかくいい感じのシーンだったのにー!?」

「でもそんな執事さんも良い……!! 守護(まも)ってあげたくなっちゃう!!」

「さすがにそれは理解できませんよ!?」

「ふぐぅ……っ!? き、気が抜けたからか全身に激痛が……っ!?」

「め、めーりーんっ!!?」

 

 横島を中心にシリアスな空気なぞどこかに吹き飛ばしてワチャワチャと騒ぎ始める六人。

 その喧騒を聞きながら、『横島』はゆっくりと倒れていた身を起こす。

 横島から拳を受けたさする。『横島』の色の無い表情が、一つの形に彩られる。

 

「……」

 

 俯いているせいか、誰にも見えないその表情。しかし、『彼』の顔には、確かに優しげな微笑みが浮かんでいるのだ。

 

 

 

 

 

第九十一話

『男の子なら』

~了~

 




お疲れ様でした。

今回の参考資料:ラブひな、機動武闘伝Gガンダム、OVERMANキングゲイナー、学校へ行こう・未成年の主張

心の中にいるんだから霊力込めて叫んだら応えてくれるよ! っていうのが今回のお話でした。
しかしそれでは色々と疑問が残るが……?

次回、決着です。

それではまた次回。

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