本年も東方煩悩漢をよろしくお願いいたします。……煩悩日和もネ!
今回とあるキャラの台詞が読みにくくなっております。予めご了承ください。
さて、横島達はどうなってしまうのか。
それではまたあとがきで。
――――声が聞こえた。
機能していないはずの耳がその
歪み切った視界の向こう、頭を押さえ、膝を着く横島の姿がはっきりと見えた。
そして、そのさらに奥。怯え、竦み、這い蹲る横島に、必死に呼び掛ける二人の少女の姿を認める。
――――ああ、そうか。
閃光の如き直感が走る。それに思い至った瞬間、ぼろぼろの身体から鬼神が如き
「ァ――――アアアアァ˝ア˝ァ˝ッ!!!」
獣の様な雄叫びと共にパルスィは吹き飛ぶように飛び出した。
緑の目は稲光の様な残光を走らせ、立ち上る妖気は烈火の如く棚引き、揺らめいている。
ようやくパルスィの存在に少女達――――こいしとお燐が気付いた。だが、気付いたところでもう遅い。引き絞られたパルスィの腕には妖力が込められ、今にも爆発しそうなほどにまで凝縮されていた。
こいしはそれに反応出来ない。
横島の発見、横島の異変。それらに気を取られていたこいしでは気付くのが致命的に遅れてしまったのだ。
「――――ぁ……」
叩きつけられる重い衝撃。吹き飛ぶ身体。
護るべき者を抱え、支え、パルスィは吹き飛んだこいし達を睨み、
「……ぉ˝前、だ、ぢの、ぜぃで……!!」
まさに、血を吐くかの様な声。
パルスィの瞳は普段の嫉妬ではなく、完全なる憎悪と怒りに染まっていた。
第八十四話
『今の僕を』
「……ぅ、ん……!」
痛む身体を起こす。ふらつく頭を振り、混濁する意識を何とか繋ぎ止める。
こいしには何が起こったのか分からなかった。
横島を見付ける事が出来たかと思えば、彼は自分を見て絶叫し、地に這い蹲ってしまう。
苦しみに喘ぐ横島に呼び掛け続けたが、今度は突然の衝撃に吹き飛ばされた。まるで、
しかし妙だ。襲い掛かってきた衝撃に比べ、痛みがやけに弱い。
あの瞬間に感じた妖力の強さ。あれを喰らったのならもっと大きな怪我をしていてもおかしくないはずだ。
「……お燐!?」
一気に意識が覚醒する。一緒に吹き飛んだはずのお燐はどうしたのか。
「おり……!?」
どうして気付かなかったのだろう。こいしの膝の上、覆いかぶさる様にお燐が倒れ伏している。
「お燐っ!? お燐っ!!」
こいしは理解した。お燐が自分を護ってくれたから大した怪我もなく済んだのだ。
お燐の名を呼び身体を揺する。
「あだだだだだっ!? ちょっ、痛いですってこいし様!!」
気絶していたわけでもなく、痛みに涙目になりながらもこいしの呼びかけにすぐさま身を起こし、そのせいで身体に走った更なる痛みに悶えるお燐。
「良かった……無事だったんだ……」
「無事じゃありませんよ……」
こいしの言葉に応えるお燐は確かに無事と言うには聊か怪我が重い。だが、致命的かと問われれば否と言えるくらいには軽い怪我だ。
身体を強く打ったせいか手足には強い痺れがあり、しばらくはまともに動くことも叶わないだろう。
「今はあたいのことより、横島さんの方を」
「……うん」
視線を、自分達を吹き飛ばした相手――――パルスィに向ける。パルスィは力なくもたれかかる横島を支えながら、強い敵意の籠った目でこいし達を睨みつけていた。
「……っ」
その“瞳”に、恐怖を覚える。吹き飛ばされながら微かに聞こえてきた、パルスィの声。あの時、彼女は何と言っていたのか。
「あいつ……さっき、あたい達のせいでって……」
「私達の……?」
お燐は猫でもある故か耳も良い。こいしを庇い、傷を負いながらもその声を確かに聞いたのだ。
パルスィの言う『お前達のせい』……当然、思い当たるものがある。横島だ。
パルスィは明らかに横島の為に怒っている。憎んでいる。
朦朧とする意識の中、自分を護り、支えてくれている少女の顔を見やる。
――――いけない、と思った。
今のパルスィは嫉妬の感情ではなく、怒り、そして憎悪にその表情を歪ませている。
パルスィは横島を離し、ゆっくりと立ち上がる。
そんな力は無いはずなのに。出来るはずがないというのに。上体は揺れ、千鳥足になりながらも一歩また一歩と踏み締める足取りは強く。
「おいおい、何やってんだあいつら……!?」
「ケンカ……にしちゃあ、いやに物々しいが」
その声にこいし達はハッとした。今になって周囲が騒がしいことに気付く。
当然だ。今の時間帯にあれだけのことが起きれば野次馬がどこからでもいくらでも湧いてくる。
――――だが、今のパルスィには彼等が見えていない。
「野次馬連中!! 逃げろーーーーーー!!」
お燐が叫ぶ。それが切っ掛けではないのだろうが、パルスィから弾幕が放たれた。
「うわわわっ!?」
狙われたのは当然こいし達。だが視力がほぼ機能していないせいか、お世辞にも狙いが良いとは言い難く、むしろ滅茶苦茶な軌道を描き、一発も当たることはなく終わってしまう。
だがその分ばらけた弾が野次馬の方に流れていき、付近に着弾、爆発を起こす。
「うおぉっ!? やべぇ、逃げろーーー!?」
「橋姫がご乱心だーーーっ!?
蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す野次馬達。だが、これで物的被害はともかく人的被害は抑えられそうだ。
「く……っ!」
「あっ、こいし様!?」
こいしは動くことが出来ないお燐から離れ、何とかパルスィの注意を引こうと問いを投げかける。
「パルスィ! その血はどうしたの!? 何があったの!?」
その答えは返ってこない。ただ弾幕が返ってくるのみだ。ならば、とこいしは絶対に答えを返さざるを得ない問いを投げつけた。
「じゃあ――――横島さんに何があったの!?
その問いには、『バキンッ』という音が返ってきた。パルスィが奥歯を噛み砕いた音である。
「何、を˝……じだ、か……?」
「……っ!? わぁっ!!?」
不意に、こいしに弾幕が命中する。先までの滅茶苦茶な軌道とは違う、正確な狙いだ。
「何を、じ、だが、も、理がい˝、じでい、ない、の˝が……!!!」
「ぅあっ、くううぅ……!?」
避けられない。躱し切れない。今まで以上に弾幕の狙いが鋭くなる。
「お˝前、だぢのぜい、で……横島ざん˝は、ぎおぐを、失ぐじたんだ……!!」
「――――!?」
およそ想像し得ない答えに、こいしの身体が硬直する。
「あ˝の夜、横島ざんは、震、えでい˝だ! お˝び、えでいだ! 何かに、責め立でら˝れるように、逃げる˝ように、私、のも˝どまで、来だん、だ!!」
動けぬ……動かぬこいしにパルスィの弾幕が次々と着弾する。
「な˝にか、を思い˝、出じぞう、になる、度に、泣いで、ふる˝え˝て、怯え˝で、吐いで……!! ぞれ˝だけのごどを……お˝前達があ˝あ˝あ˝ぁぁぁ˝っ!!!」
もうこいしは動かない。頭の中でぐるぐるとパルスィの言葉が巡る。あの時の行いによって、今のこの結果が生まれたのだ。
――――ああ、きっと、これが罰なんだ。人の心を暴いて、操作して、それを善い行いだなんて思い込んで。
いつか白蓮が言っていた事を思い出す。
「善い事をすれば善い事が、悪い事をすれば悪い事がいずれ返ってくる。――――これを“因果応報”と言います」
自分にも分かる様に簡略化して教えてくれた、一つの真理。それが今この時に実現している。ならば受け入れよう。
今まで積み重ねてきた悪行の報いを。それが、今まで人生を狂わせてきた人達へのせめてもの罪滅ぼし……善行になると信じて。
「こいし様ぁーーーーーーっ!!?」
お燐の悲痛な叫びが響く。それはこいしの耳にも届いたが、こいしは動かない。もう身体が動かない。
パルスィから放たれるだろう弾幕の痛みに耐えられるよう、ギュッと目を瞑る。『ドンッ』という鈍い音が響き、身体に強い衝撃が走る。
それは想像していた冷たく恐ろしい痛みではなく、温かく、そして柔らかい痛みであった。
混乱の中でそっと目を開けば、そこにあったのは翼を広げ、パルスィを弾き飛ばすレミリアの背中。そして視界の端に映り込む、特徴的な癖の桃色の髪。
「こいし……!!」
「お、お姉、ちゃん……?」
涙混じりの声。それを認識する間もなく、二人は地面へと着地し、そのまま尻餅をつくように座り込んだ。
「お、お姉ちゃ……」
ぎゅっと、ぎゅっと。大粒の涙を流しながら抱き締めてくる姉の姿に、こいしは巨大な罪悪感を抱く。これ程になるまで心配を掛けてしまった事に今更ながらに気が付いた。
そして、これ程自分を心配してくれた事に喜びと嬉しさを感じてしまい、色々な感情が高まってこいしの目から涙が溢れてしまう。
「ご、ごめ……」
「ごい˝じ様˝ーーー!! ざどり˝様˝ーーーーーー!!!」
「キャーッ!?」
泣きながら抱き合う姉妹に、更に大泣きしながらお燐とお空が倒れ込む。身体が麻痺して動けないお燐を、お空がここまで運んだのだ。
「まったく……。何を考えて無防備に弾幕を受けてたのかは知らないけど、後でみっちりと叱られなさいよ?」
もつれる様に倒れた四人の傍にレミリアが降り立つ。言葉はこいしに向けられているが、視線は地面に墜落したパルスィから離していない。
レミリアはパルスィを睨み付けながらも、かなり複雑な表情をしている。そしてそれはレミリアだけでなく、その場に駆け付けた全員が、だ。
「あー、
「……」
ぽりぽりと頭を掻きながらの言葉に、皆は一様に頷いた。血を吐く様なパルスィの叫び。皆もそれを聞いていた。
パルスィの行動原理を知り、怒るに怒れなくなったというか、振り上げた拳をどう下ろせばいいのか分からなくなったのだ。
横島の近くに墜落したパルスィは激情のままに身を起こし、立ち上がろうとする――――が、それは出来なかった。
足に力が入らず、今までの比ではないほどに視界が揺れる。
「ぅ……ぶっ」
脳から、内臓から齎される圧倒的な不快感に耐え切れず、パルスィは激しく嘔吐した。先までの強大な妖力も完全に霧散し、もはや意識を保つ事で精一杯になってしまう。
「あ˝……ぅ」
「パルスィさんっ!」
ぐらり、と倒れる寸前、這う様にパルスィの元へと移動していた横島がパルスィの身体を支える。
血と吐瀉物で汚れる事も気にせず、横島はパルスィを優しく抱き締める。小さく軽いその身体。これ以上無理をすれば、例え妖怪と言えど本当に死んでしまう。そんな事はさせられない。そんな事は絶対に許さない。
そう思った時――――身体の中から、不思議な力が漲ってきた。
「ねえ、永琳。妹紅と横島さんのパスが切れたのって……」
「ええ。横島さんが記憶を失ったのが原因と考えて良さそうね。蓬莱人は魂が主、肉体が従の関係にあるから、人格を形成するのに重要な記憶が欠落したせいで機能不全に陥ったのでしょう」
輝夜の問いに永琳は自らの見解を述べる。
蓬莱人の肝を食して蓬莱人になったのも、当人同士でパスが繋がったのも前例のない事ではあるが、間違ってはいないだろうと当たりをつける。
二人の会話を聞いていた妹紅が、一歩一歩地面の存在を確かめる様に、ゆっくりと前へと歩み出る。
これ以上二人の繋がりが零れ落ちぬ様に、強く強く胸を押さえながら、ただ、横島の元へ。
皆はそれを見守る。
フランも、美鈴も、小悪魔も、てゐも。横島の元へ駆け寄りたいのは一緒だ。
だけど、一番は。最初に横島の元へと向かうのは妹紅だと、誰も、何も言わずともそう考えていた。
「――――横島……?」
身体から知らない力が溢れ出る。だが、記憶を失う前の使っていたものなのか、何となくその力の使い方が分かる。
この力があればパルスィを傷付ける者を排除する事が出来る。パルスィの惨状を見た横島の心に、凶悪な思考が過ぎる……と、その時。
「――――横島……?」
「え……?」
いつの間にか、ほんの数メートル前にまで一人の少女が近付いて来ている。銀に近い白い長髪の、悲しげな、不安げな表情の少女。
――――誰だ、この子?
当然
だから、つい。ぽろっと。横島はその言葉を口に出してしまった。
「――――も、こう……?」
目の前と、腕の中と。息を呑む音がした。
妹紅は口許を押さえ、驚きに目を見開いた。そしてその瞳からぽろぽろと涙を零す。記憶を失ってしまっているのに自分の名を呼んでくれた。忘れているはずなのに、自分の事を憶えてくれていたのだ。
――――これほどまでに、幸せなことがあるだろうか。
パルスィはぽかんと口を開き、驚きに目を剥いた。そしてその瞳からぼろぼろと涙を流す。記憶を失っているのにその名を呼んだ。忘れているはずなのに、彼女の事を憶えていたのだ。
――――これほどまでに、妬ましいことがあるだろうか。
「――――ぁづっ!!?」
「うぐっ!?」
突然、横島と妹紅が苦痛の呻きを上げる。再びパスが通り始めたのだ。
それが切っ掛けとなったのか、横島の頭に自身の中にある不思議な力――霊力の使い方が浮かび上がってくる。
そして、それと同時に今にも気を失ってしまいそうな程に激しい頭痛も襲い掛かってきた。それは浮かんできた知識のままに霊力を使おうとすれば、より激しい痛みとなって横島を苛む。
「ぎ……あ、が……ぁああ˝……っ!?」
一体なんだというのだろうか、この痛みは。まるで霊力を使わせたくない――――いや、もし痛みの原因が霊力の使い方を思い出した事ならば。身体が、否、
「横島!!」
「よ˝ご、じまざん˝……!!」
余りの痛みに叫ぶことも出来ず、ただ呻き声を上げるしかない横島に妹紅が駆け寄る。妹紅だけではない、今まで成り行きを見守ってきたレミリア達も横島の元へ走る。
今にも頭が割れてしまいそうな痛みに苛まれながらも、横島はパルスィを離さない。薄っすらと目を開く。腕の中のパルスィと目が合った。
――――ああ、そうだ。
腕の中の女の子はボロボロで。まともに立つ事も話す事も出来ないくらいボロボロで。
でも、そんなにボロボロなのに、自分よりも僕の事を心配してくれているのだ。
「ぐ――――ぅ、あああああああああっ!!!」
横島の掌中に莫大な霊力が集中する。それは形を成していき、やがて球形のシルエットを構築する。
「ぎぃっ、いい……いい、ぁぁぁああ……!!」
「横し――――」
「よご――――」
痛い。痛い。痛い。
目の前の妹紅の声も、腕の中のパルスィの声も聞こえない。駆け寄ってきたレミリア達の声など以ての外だ。このままこの力を使えば死んでしまうかもしれない。
――――それが、どうした!!
本気で死を身近に感じる程の痛みに曝されて尚、横島は奇跡をその手に具現化せんと力を揮う。その手から迸る強い輝きに、皆は視界を白く焼かれる。
――――脳裏に浮かびあがる、ノイズ混じりの光景。力無く壁にもたれかかり座り込んでいる女性。
その女性に背を向け、どこかへと急ぐ
そうだ。あの時。あの時にもっと
その瞬間、神の奇跡の具現――――文珠は完成した。
目が眩んでいる皆に、文珠に刻まれた文字は読み取れない。その中で、さとりは横島の心の声を聞いた。とても、とても強い、絶対の意思。
――――パルスィさんは……パルスィさんは、僕が護るんだ!!
その声に、さとりは反射的に叫ぶ。
「駄目ですっ! 横島さんっ!!」
だが、その
「……え?」
がばりと身を起こす。
あれほど身体を苛んでいた痛みが、きれいさっぱりと消えている。
何が起こったのかまるで分からず、パルスィは先程まで己を抱いていた横島に目をやった。
そこには精気が抜け落ち、ただかろうじて呼吸をしている
「よ――――横島さんっ!!?」
「横島ぁ!?」
「横島!!」
「お兄様!!?」
誰彼の区別なく、皆が横島に殺到する。今の横島は蓬莱人だ。例え死んだとしても復活する事が出来る。だが、彼は蓬莱人の中でもイレギュラーな存在だ。
その身は蓬莱人の肝を食して変じたものであり、純正の蓬莱人とはまた別の存在である。
また、現在の横島は記憶を失っている状態だ。それが復活にどのような影響を与えるか分からない。
――――と、
この場の誰もがそんなことは考えていない。
横島は蓬莱人だ。/だから何だ。
死んでも復活出来る。/それがどうした。
今この場において、皆の心を支配するのはただ一つ。
――――
蓬莱人だとしても、生き返ると分かっていても、そう簡単に割り切れない想いも当然存在している。
皆が横島の元に集い、何とか治療を始めようとしたその時、皆を一喝する声が響く。
「みんな、場所を空けて!!」
その言葉には力が宿っていた。そう、ヒャクメの声だ。
「私が横島さんに神気を流して治療するのね!! だから私を通してほしいの!!」
呆けること数秒。皆はハッと我に返り、すぐさま場所を空ける。
「……ん! やっぱり!」
空いた場所に身体を滑り込ませ、ヒャクメは横島にヒーリングを施す。
「……す、すごい……!!」
永琳の下で医療を学んでいるてゐと鈴仙が思わず息を呑む。永琳でさえも目を見開き、驚きを示していた。
先ほどまで死人と間違えてもおかしくない程に精気が抜け落ちていた身体が、見る見るうちに回復していっているのだ。
「私のヒーリングは肉体というより魂に作用するの。魂を活性化させて本人の治癒能力を高める……。本来ならこういった重症には気休め程度にしかならないんだけど、今の横島さんは肉体ではなく魂が主軸になっているからこれだけの効果が出ているのねー」
ヒャクメの解説に皆がほっと息を吐く。
更に付け加えるとすれば、ヒャクメの“格”が関係している。
ヒャクメは幻想郷に来たことによって、強制的に神格が上がった。現在最高の神格を持つ神族が術を行使すれば、その術の威力は上がった神格の分だけ上昇する。
「う……ん……」
横島が目を開く。半ば夢を見ている様にぼやけた目だ。
「横島さん……何で、私に……」
あれ程の力を、何故自分に使わなかったのか。パルスィにはそれがどうしても分からなかった。だから素直に問うたのだ。
「……だって」
横島が口を開く。ヒャクメも、さとりも、
「だって――――パルスィさんは、僕を護ってくれたから。だから、今度は僕がパルスィさんを助けないと……」
「……っ」
思いがけない言葉にパルスィの……皆の息が詰まる。
横島が浮かべるその表情、その声音。……皆は、横島が抱く想いに気が付いた。
「そうすれば――――パルスィさんに、
「――――え……?」
その想いに。
「他の僕じゃない……
横島の気持ちに。
「
今更になって、気が付いた。
「――――――――ぁ……」
喉が震えて声が出ない。歯の根が合わず、がちがちと音が鳴る。
「……ぼ、くは……パル……スィ、さん、が……」
再び横島の目が閉じられ、そのまま気を失った。体力の限界が訪れたのだ。
結局、横島はその言葉を最後まで口にすることは出来なかった。だが、その想いはパルスィに伝わった。
「――――あ、ああぁ……」
今の横島は、パルスィが誰に惹かれているかを理解していた。その人物に近付こうとしていた。だが、その本心は異なる。好きな人に自分を見てもらいたいというのは、当然の感情だ。
「あああ……ああああああああぁ……!?」
――――では、
横島を想いながら、横島を護っているのだと思い込みながら、その実裏切り続けていた自分にそんな資格はないと、そう思ってしまったから。
「ああああああああぁ……っ!! ぁあああぁあぁああぁあぁ……っ!!」
パルスィは天を仰ぎ、両手で顔を覆い、哭いた。子供の様に大声を上げて、悲鳴の様な痛切さで。響き渡る泣き声に皆は目を伏せる。
「――――ごめ˝、んなざい……っ!! ごめ˝んな˝ざいぃい˝いぃ˝……っ!!」
そして――――これが、パルスィが
第八十四話
『今の僕を』
~了~
何で私は新年早々パルスィをこんな目に……?(苦悩)
でも今がどん底なら後は上がっていくだけなのでこれからの展開に希望を託そう……。
よくよく考えたら旧プロだと全編通して大体こんな感じの暗いイベントが続いてたことを考えるとまだマシかな……
一例を挙げると、妹紅が横島に惹かれる理由が『横島だけが蓬莱人を完全に殺す事が出来るから』でしたからね。
小竜姫の治療
妙神山から遠く離れた香港でズタボロのピートを一瞬で全快させる
ヒャクメの治療
頸動脈を切られた横島の身体に直接入り何とか止血を施す
……なのであんな感じに。怪我の重さだと横島の方が上なんですが、ピートはどてっ腹に大剣がぶっ刺さっても結構余裕があったことを考えると、実はあの時のピートも死に掛けてたのか……?
……美鈴達の活躍ももうそろそろでしょうか。
それではまた次回。