東方煩悩漢   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

最近、部屋の隅から消費期限が2007年のペットボトルが出てきて驚きました。
10年越え……だと……!?

部屋の掃除はこまめにしないとなぁ……。

ちなみに今回は短めです。
それではまたあとがきで。


第七十七話

 

 横島が地霊殿へと赴いた日から二日が経った。

 その日の午前、紅魔館の主であるレミリアはもはや日課となりつつある永琳とのお茶会のために、彼女のゲストルームを訪れていた。

 

「……」

 

 二人で紅茶を飲み、歓談する。穏やかで静かなひと時。それはここ最近の紅魔館からは想像が出来ないような静けさであった。

 ふと、永琳は耳を澄ませる。かすかに聞こえてくるのは賑やかだった頃の紅魔館の名残の様なものである。

 

「――――とりゃー……」

「――――てりゃー……」

 

 かつての面影など微塵もなく、妖精メイド達の掃除の掛け声は小声とも溜め息とも区別がつかなくなってしまっている。永琳の口に苦笑が浮かぶが、レミリアの口許はむっすりとまっすぐに引き結ばれてしまう。明らかに機嫌を悪くしている。

 

「横島君が出掛けてから、妖精メイド達の元気が見る間になくなったわね」

「……この館の主である私が居るというのにこの勤務態度……全員おやつ抜きにしてやろうかしら」

「妖精達にはキツイ罰でしょうね」

 

 レミリアの不貞腐れた態度が面白かったのか、それとも可愛らしかったのか、永琳は口許に手を当ててくすくすと笑いを零す。

 

「何がおかしいのかしら、永琳?」

「強いて言うなら唇を尖らせて不貞腐れてる可愛い女の子が居ることかしら」

「む」

 

 永琳からの指摘に再び口を結ぶレミリア。可愛い女の子扱いされるのは嬉しくはあるが、どうせなら綺麗な女性扱いの方が嬉しいのがレミリアである。

 

「……それはどうでもいいでしょ。今重要なのは妖精メイド達のことよ」

「ふふふ、そうね」

「……むぅ」

 

 少しからかい過ぎたのか、遂にはレミリアにジト目で睨まれてしまう永琳。両手を挙げて降参をアピールし、現在の妖精メイド達の状態について意見を述べる。

 

「まあ、あの子達の憧れである横島君が居ないんだから気が抜けちゃっても仕方ないんじゃない?」

 

 そう言って永琳は紅茶を一口含む。予想していた通りの答えだ。何せ横島は妖精メイド達が普段遊んでいるヨーヨーやベーゴマといった玩具の大会で頂点を極めた男である。思わずレミリアは溜め息を吐いてしまう。

 

「まったく……憧れるならもっと相応しい存在がここにいるでしょうが」

 

 誤解の無いように表しておくが、妖精メイド達はレミリアに憧れを抱いている。憧れを抱いてはいるが、それは彼女の圧倒的な力にだ。横島に対して抱いているような身近なものではなく、少々近寄りがたいのだ。

 

「……それにしても、こいつらも()()()()()()()()……」

「あいつら?」

 

 レミリアの言葉に永琳が頤に指を当てながら首を傾げる。そのわざとらしい仕草にレミリアは冷たい視線をプレゼントする。

 

「……分かってて言ってんでしょ」

「ええ、もちろん」

「……はぁ」

 

 今度の溜め息は深く、重く。レミリアは図書館にいるであろう自分の妹の姿を思い浮かべ、肩を落として紅茶を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 

第七十七話

『横島の居ない紅魔館』

 

 

 

 

 

 

 

「うばー……」

「むあー……」

「……」

 

 紅魔館内の図書館、その読書スペースの片隅に、不思議な生物達の鳴き声が響く。その生物とはレミリアの妹であるフランドール、もう一体はてゐだ。二人は小悪魔の胸とお腹に顔を埋め、床に折り重なるようにして寝転んでいる。カーペットが敷いてあるとはいえ、淑女が取って良い行動ではない。

 一番下で圧し潰されるような形となっている小悪魔は、パチュリーに視線で助けを求める。しかしパチュリーはそれを知らないふりをし、優雅に紅茶を飲んでいる。いや、見る者が見れば、少々退屈そうにしているのが見て取れるだろう。

 

「あのー、お二人とも……? もうそろそろ仕事に戻りたいのですがー……」

「うばー……」

「むあー……」

「……パチュリー様ぁ……」

 

 話しかけても先程と同じ鳴き声を返す二人に、小悪魔は涙目で今度は声を出してパチュリーに助けを訴える。パチュリーはちらりと小悪魔を見やり。

 

「……もう少しそのままでいてやりなさい」

 

 と、返すのであった。

 パチュリーには二人の気持ちが理解できる。二人とも付き合い始めであるし、何よりまだ四九五歳に一八〇万歳と幼いのだ。まだまだ甘えたい盛りなのだろう。……何もおかしくはない。

 

 ――――横島と一緒の時間はちょっと減ってたみたいだけど、その分べったりくっついてたし、そのせいで人肌恋しくなっちゃってるみたいね。

 

 紅茶を飲みつつ、パチュリーは二人の状態を分析する。斯く言うパチュリーもちょっとした寂しさを感じているのだ。横島をねちねちとイジメて泣き顔を見たい……。そんな可愛らしい思いを抱いている。

 

「ふふ、ふふふふふふふ……」

 

 横島が戻ったら何をするかを思い描き、パチュリーの顔に笑みが浮かぶ。笑い声を聞いた小悪魔が「ひぃっ!?」と怯えずにはいれないほどに、それは邪悪なものだったという。

 

 

 

 

「……」

 

 紅魔館正門前、門番である美鈴は門柱に背を預け、イメージトレーニングを行っていた。彼女はただ静かにそこに立っているだけに見えるが、脳内ではあまりにも激しい戦闘が繰り広げられている。

 時折美鈴の身体がぴくぴくと動いており、リアルに思い描いている戦闘に身体が反射運動を起こしているようだ。

 

「……う、ん」

 

 美鈴の眉間にしわが寄り、こめかみから一筋の汗が流れ落ちる。イメージによる戦闘もとうとう佳境に入ったようだ。

 

「……横島さぁん、激しすぎますよぉ~……ふへ、ふへへへへ」

 

 口端から涎を垂らし、美鈴は甘えたような声を出した。……そう、彼女の脳内戦闘とはつまり、横島との濃厚な()()()()だったのである。

 いつかは本当にそういう時を迎えるだろうし、その際に慌てて迂闊な言動をしないように備えておくことは重要なのだ。

 

「……」

「むふふふ、むふふふふ……」

 

 そして、そんな美鈴を近くで見守る少女が一人。

 

「ふはぁっ!? もっ、ももももも妹紅さんっ!? い、いつからそこに!!?」

「あ、やっと気付いたか」

 

 妹紅が美鈴の隣に立って見守ること五分ほど、美鈴は隣人の存在にようやく気付いた。脳内で思い描いていたモノがモノなので、美鈴の頬は瞬時に赤く染まる。妹紅は様子がおかしな美鈴に首を傾げるが、原因がよく分かっていないので特に気にしないことにした。

 

「横島の名前を口に出してたけど、横島との模擬戦でもイメージしてたのか?」

「……ッ!? え、ええっ、そうなんですよ! いやーっ、イメージの横島さんは強敵でしたねーっ!!」

「ふーん、やっぱ達人は違うなぁ」

 

 妹紅の言葉から咄嗟に言い訳を思いついた美鈴は、わざとらしく大きな声で横島との脳内戦闘(意味深)の様子をぼかしつつ口にする。妹紅はその内容に踏み込むことなく、純粋に「そこまでリアルなイメージトレーニングが出来るとか達人って凄いなぁ」という感想を抱くのみであった。

 

「そ、それで今日はどうしたんですか妹紅さんっ? ご存じの通り、横島さんはまだ帰ってきてませんよ?」

「あー、それなんだけどさ」

 

 妹紅は視線を彷徨わせ、照れ臭そうに赤みを帯びた頬を掻く。やがて意を決したように顔を上げ、何事かを告げようとしたその瞬間、妹紅は突然の衝撃に吹き飛ばされる。

 

「もーーーーーーこーーーーーーおーーーーーーっ!!」

「ぷろっ!?」

 

 それは飛び蹴りだ。猛スピードで飛んできた何者かが妹紅の名を叫びながら蹴り飛ばしたのである。ちなみに美鈴は薄情にもその攻撃を防ぐでもなく、普通に避けている。相手の正体も妹紅との関係も知っているからだ。

 

「だ、誰だ!? いきなりこんなことすんのは――――って、お前は……」

「ひっさしぶりー! 元気してたー?」

「菫子……!」

 

 何の罪悪感も抱いていないような笑顔で小さく手を振り、吹き飛んだ妹紅に駆け寄るのは宇佐見菫子。妹紅の親友の一人である。

 

「迷いの竹林に行っても全然会えないしけっこう探したんだから」

「あ、ああ。悪い……いや、だからって何で蹴られなきゃならないんだよ」

「いやー、何かテンション上がっちゃって」

「ふざっけんなこのやろー!」

「むぁーっ!?」

 

 菫子は妹紅の手を引っ張って立たせ、服に付いた砂埃をはたいて取る。妹紅は蹴られた腹いせに菫子の頬を引っ張ったりと、久々の再会を荒っぽくであるが楽しんでいた。

 ひとしきりじゃれついた後、二人は連れ立って紅魔館に入ることとなる。妹紅の相談事というのは、多くの者に聞いた方が確実であるからだ。

 二人を招き入れ、再び一人となった美鈴は目を閉じ、全身に気を巡らせる。脳裏に展開するのは先と同じ、しかし決定的に違うイメージだ。

 

「……ふふふふふ、どうしたんですか横島さん。これくらいでへばっちゃダメですよ……」

 

 今度のイメージは自分が攻めるもの。守勢に回る横島を巧みに攻め立てるイメージだ。

 

「ふふふ、うふふふふふふふふふふふふふふふふ……」

 

 その日一日、何とも怪しげで不気味な笑い声が、紅魔館の門の前で響き続けたという。

 

 

 

 

 

 妹紅と菫子はレミリアと永琳のゲストルームへと案内される。今の妹紅にとってこの二人は非常に頼りになる存在だ。片や貴族、片や月の頭脳と、妹紅が求める条件を有している。

 

「で、妹紅の相談事って何なの?」

「んー?」

 

 レミリア達と同じテーブルを囲い、紅茶を一口飲んで菫子は切り出した。興味深そうに声を出したのはレミリア。元々横島の居ない紅魔館に妹紅が訪ねてくるとは思っていなかったのもあり、少々ぶしつけな視線を送っている。

 皆の視線を受けたじろぐ妹紅であるが、何もおかしなことを相談しに来たわけではない。照れはあるが、今更このメンバーにそれを気にしても仕方がないだろう。まごつくだけ無駄である。

 妹紅も紅茶を一口含み、緊張で乾いた喉を潤してから口を開いた。

 

「実は……ちょっと、いめちぇん? とかいうのしてみたいんだよ」

「いめちぇ……あ、イメチェンか。イメージチェンジね?」

「そうそう、それ」

「ふむ?」

 

 妹紅の相談事、それはイメージチェンジをしたいとのことだった。もっと言えば、『オシャレをしたい』、ということだろう。

 

「何で急に?」

「いや、大した理由はないんだけど……」

 

 菫子の純粋な疑問に妹紅は顔を赤くして紅茶をティースプーンでかき混ぜる。明らかに羞恥からくるその動きにますます意味が分からなくなる菫子であるが、永琳は既に全てを悟ったらしく、ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべて妹紅を見やる。レミリアはそんな永琳に少々引き気味だが、彼女も妹紅の意図は察することが出来た。しかしレミリアは何も言わない。妹紅の口から直接語られるのを待つのみである。

 

「……今、横島が地底に旅行に行っててな。それであいつが帰ってきた時に普段とは違う服とかそんなんで驚かせたいというか、何というか……ほら、私って普段もんぺばっかりだし、スカートとか穿いたら横島も……可愛いとか言ってくれるんじゃないかと……

「……」

 

 最後の方はほとんど声になってはいなかったが、それでも菫子に内容は伝わった。普段の彼女から聞くことのない話であるからか、しばらくは言葉を発することが出来なくなった。そうしてやっと絞り出すことが出来たのは。

 

「……妹紅もしっかり女の子してるのね」

 

 という、感心しているのか馬鹿にしているのか判断に迷う言葉であった。

 

「どーゆー意味だこの野郎」

「ごめんごめん。……それにしても妹紅がそういうことを言い出すとは……男が出来るとここまで変わるのねー」

「むぐっ……今までが今までだったから何も言い返せない……!」

 

 失礼な物言いであるが、菫子に妹紅を貶めるつもりはなく、純粋に驚いているだけである。

 何せ妹紅は袖がびりびりに破けたシャツを普段使いにして、竹林のみならず人里に現れたこともある。そんなオシャレに何の興味も持ってないような妹紅がそんな事を言い出したのだ。驚くなという方が無理というもの。

 

「――――ハッ!? そういえば、今まで気付かなかったけど妹紅の髪が凄いサラサラになってる!」

「あ、ああ。これは横島が櫛と香油をくれて、それで……」

「カーッ! 嬉しそうな顔しちゃって! カーッ!」

 

 顔を赤らめて髪をつまむ妹紅に、菫子は額に手を当てる。からかいも含まれているが、現役女子高生とは思えないようなオヤジ臭い所作での言葉のため、滑稽に見えるところが何とも若い。

 レミリアはきゃいきゃいとはしゃぐ菫子に視線をやり、こんな奴だったか? と疑問を浮かべるがそれを口に出しはしなかった。レミリアは菫子との付き合いが浅い。とある異変の話を聞き、そこから構築された偏見から未だ人物像を測りかねている。話題も自分が得意でないものに移ろいつつあることだし、ここは静観を決め込むこととした。

 

「ふーん、そっか。妹紅もそういうのに興味を持ちだしたかー。変わった……というか、成長したのねー」

「お前は私の母親か何かか?」

 

 とりあえず満足するまで妹紅を弄り倒した菫子は満足そうに息を吐き、少々ぬるくなった紅茶を飲み干す。咲夜におかわりを要求し、美味しい紅茶に舌鼓を打つ。妹紅から送られてくるじっとりとした視線は完全無視だ。

 

「……ふぅ。――――変化、成長ね。……してるのかな、私」

 

 それは自嘲を帯びた自問だった。

 自分は変化を拒絶する不老不死。決して変わることのない蓬莱人。周囲から簡単に見て取れる自分の変化を、己だけは信じられずにいる。

 

「――――当然。してるわよ、あなたは」

 

 誰ともなく発せられた妹紅の問いに答えたのは永琳だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ん……?」

 

 皆の視線が永琳に集まる。

 

「確かにこの身は変化を拒絶する不老不死。変わることのない蓬莱人。でもね、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それは矛盾である。蓬莱人は永遠の命を持つ。決して老いず、決して死なず。だが、それでも。

 

「あなたが横島君と出逢い、友情を育み、恋を知り、想いを交わし合った。……“想い”とは魂から生ずるエネルギー。私たちの存在そのもの。心からの、魂からの想いをきちんと受け入れることが出来れば、()()()()()()()()

 

 永琳は紅茶を含んで唇を濡らす。

 

「――――というか横島君と出逢う前のあなたと今のあなたでどんだけキャラが違うと思ってるの? 輝夜と殺し合ってた時と横島君と時計塔にいた時のことを考えれば分かるでしょ」

「言われてみればそうだけどそれを言うのはやめろおおおおおおおおお!!」

「私も聞かせてもらったんだよね。夕暮れ……時計塔……横島さんを押し倒し……」

「あああああああああーーーーーー!!?」(高音)

 

 妹紅は羞恥のあまり顔を両手で覆って椅子ごと床に倒れ込んだ。元気はなくともちゃんと掃除は為されていたのか、それでも埃が立つことはなかったが、足元で呻き声をあげながら蠢かれるのは勘弁してもらいたいものである。

 

「……」

 

 永琳の見つめる先、小さな窓の外、青く広がる大きな空。しかし、彼女が見ているのは空ではない。

 レミリアは永琳を見やる。彼女が見ているもの、それが彼女には分かる。

 

「――――受け入れるか、拒絶するか……か」

 

 紅茶を飲み干し、ぽつりとレミリアは呟く。その声は誰にも聞こえることはなかった。

 

 横島が居る紅魔館。横島の居ない紅魔館。小さいようで大きな変化。それは紅魔館だけでなく、人里でも起こっていた。

 

 

 

 

 

「……次で最後だったっけ」

 

 まるで行者のような服を着て、人里で薬を売り歩く者がいた。笠を被り、能力で波長を狂わせていることから容姿が分かりにくいが、その者は少女であり、また人間ではなかった。

 彼女は鈴仙。ようやく薬の再生産が可能となったので、今まで中止していた薬の訪問販売を再開したのである。紅魔館でのお手伝いメイドも続けているので更に忙しくなるが、それでもこうして本業を再開できるのは嬉しいものだ。

 余談であるが、迷いの竹林の入り口には『永遠亭再建中。御用の方は紅魔館まで』と書かれた看板が立てられている。色々と難易度が高いので紅魔館まで実際に訪れた者は未だおらず、訪問販売が再開されたのは喜びを以って迎えられた。

 

「……ん?」

 

 お得意様の家を周ること数時間、遂に最後の一軒というところで、鈴仙はとある大きな家の前に人だかりが出来ていることに気が付いた。大勢の人が祝福の言葉を投げかけているのが分かる。何となく気になった鈴仙は、野次馬の一人に何があったのかを聞くことにした。

 

「あのー、この家で何があったんです? 何かお祝い事ですか?」

「ん? ああ、祝言だよ祝言。ここに居候してる坊ちゃんがここの娘さんと結婚するんだってさ」

「結婚……!!」

 

 野次馬からの情報に興味を引かれた鈴仙は何とか中の様子を窺おうとするが、残念ながら彼女の身長では中を見ることは叶わなかった。空を飛べばよい話であるのだが、流石にこういうめでたい日に他の騒ぎを持ち込むわけにはいかない。少々残念ではあるが、お嫁さんを見るのは諦めることとする。

 

「それにしても急な話しだったよな。二人は許嫁だったとはいえさ」

「本当になぁ。『可愛くねえ色気がねえ』『あんたなんかこっちから願い下げよ』って事あるごとにケンカしてたのにな」

「ああ。それなんだがちょっと小耳にはさんだんだが……」

 

 他の野次馬達が話している内容が鈴仙の耳に届く。どうやら今日夫婦になる二人はあまり仲が良くなかったようだ。しかし、その二人の会話に混ざった人物が言うには、また何か違った要因があったらしい。

 

「何でも、二人とも心の内では互いにぞっこんだったらしくてな。ある日急に坊ちゃんがその思いの丈を娘さんにぶつけたんだそうだ。娘さんの方も普段表に出さなかった気持ちを打ち明けて、あとはとんとん拍子に話が進んでいったみたいだぜ」

「へー、そんなこともあるんだな」

 

 聞こえてくる話に鈴仙は思いを馳せる。ある日突然、好いていた男性に告白される。中々良いシチュエーションではないだろうか。

 鈴仙は何故か頭に浮かんでくる横島の顔を振り払いつつ、その場から立ち去った。頬が熱を持っている。最後の一軒を周り、寄り道せずに紅魔館に帰った方がよさそうだ。

 足早にその場から離れる鈴仙を、野次馬は不思議そうな顔で見送った。

 

 

 

 

「――――でな、坊ちゃんから聞いたんだが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何をしてて、何で告白しようと思ったのかさっぱり分からんらしい」

「何だそりゃ」

「なんかホラーっぽくね?」

「オメーはまたこういうめでたい時にそういうことを……」

 

 喧騒に包まれる人里。大勢の人が溢れかえる大家の門から、一人の少女が難なく抜けてくる。その顔には満足そうな笑みが浮かんでいた。祝言を挙げる二人にお祝いの言葉を贈って来たのだ。

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 黒い帽子、緑色の髪、黄色い服、薄い花柄の緑のスカートと、目立つ格好をしているはずの少女は、鼻歌を歌いながら誰にも見咎められずにその場を後にした。

 誰の耳にも留まっているはずの歌が、誰の耳にも残らない――――無意識の中を歩きながら。

 

 

 

 

 

第七十七話

『横島の居ない紅魔館』

~了~

 

 

 

 

 

 その頃の小悪魔たちは――――!!

 

てゐ「……ぐー……」

フラン「……すー……」

小悪魔「……りー……」

 

 三人そろってお昼寝モードになっていた――――!!

 

パチェ「……妹様もてゐも体温高いものね」

 

 パチュリーは魔法で三人に毛布を掛けてやるのであった。ちなみに小悪魔は仕事中に昼寝をしたのでパチュリーからお仕置きを受ける運命が待っている。

 

 

 

 

☆没ネタ☆

 

咲夜「変化……成長……」

咲夜「そうね。私も今に甘んじるのではなく、常に新しいものを取り込んでいかないと」

咲夜「そうと決まれば……」

 

 

 

 

咲夜「皆さま、お待たせいたしました」

レミィ「……これが」

咲夜「はい。これが私の新作――――“タピオカミルクティー”でございます」

菫子「待ってましたー!」

妹紅「……なあ、これって見た目カエルの……」

永琳「それ以上はいけないわ」

 

 

☆おわり☆

 

 




お疲れ様でした。

横島が居なくなったら紅魔館は凄い静かになるんだろうなぁ。……元の世界は色々と大変なことになってそうだぞ。

薬売り鈴仙の服装……何かよく分かんないんですよね、あれ。行者とか山伏っぽくはありますけど、それとも違いますし……。
しかし鈴仙があの服を着てるとそれだけで独特なエロスが感じられ(ry

タピオカミルクティーは菫子が咲夜さんに教えました。そして咲夜さんがタピオカから手作りしました。
菫子は流行に乗るのは癪だけど内心飲んでみたいと思ってそう。他だと台湾風かき氷とか。

それではまた次回。

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