東方煩悩漢   作:タナボルタ

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お待たせいたしました。……いや、本当にお待たせいたしました。

最近何をやってもモチベーションが上がらず、何も手につかない状況です。

なのでエロと下ネタに頼りました。

そういうわけですのでR-15タグが仕事をしています。苦手な方には申し訳ない。

それではまたあとがきで。


第七十二話

 

 時は横島が龍神と決着を付けたあと。龍神が消え去り、横島が意識を失ってからのこと。

 気絶し、空から落ち行く横島を受け止めたのは諏訪子と幽香の二人であった。生きているのが不思議なほどに冷たくなっている身体を抱きしめ、諏訪子は横島の顔を眺めて感心したように笑みを浮かべる。

 

「とっくに限界ギリギリだっただろうに、最後までやりきるとは……大したもんだよ、横島君」

「ええ。それに、龍神に似た能力も持っていたようだし……つくづく飽きさせないわね、この子は」

 

 龍神が去ったことで雨も止み、穏やかな空の上で二人は暫し横島の労をねぎらった。だが、いつまでもこうしてはいられない。忘れてしまいそうになるが、横島はつい先程まで氷漬けにされていたのだ。それこそ前述したように、今こうして生きているのが不思議に思えるほどに身体が冷たくなっている。

 

「おっと、流石にこのままじゃいけないね。いくら蓬莱人だからってそのまま死なせればいいってわけじゃないし、なるべくなら死んでほしくないしね」

「ええ。八意永琳の元まで急ぎましょう」

 

 二人は横島を抱え、永琳がいるであろう場所まで空を駆ける。ほどなくして着いたその場所では、永琳と鈴仙、てゐが怪我人達の手当てをしていた。

 

「おーい、横島君のことも頼むよ」

「執事さんっ!?」

 

 諏訪子の声に真っ先に反応したのはてゐであった。数分前までは鈴仙にくっつき、先程までは治療の為に怪我人達にひっつき、そして今は横島へとかぶりついている。

 てゐは横島の身体に触れると一瞬でその顔を青くし、急いで永琳を呼びに行った。死体の様に、あるいはそれ以上に冷たい身体となっているのだ。その判断は流石と言える。

 

「横島君……!!」

 

 やがててゐに連れられてやって来たのは永琳と妹紅、フランの三人。本来ならば美鈴も連れてきたかったのだが、未だに意識が回復していなかったので断念したのだ。

 永琳は横島の脈を測ったりなどてきぱきと動く。妹紅とフランはそんな永琳の邪魔をしないようにただ見守るばかりだ。

 横島のことが心配だからと居てもたってもいられずに行動に移したのだが、自分達に出来ることは何もないという現実に胸を痛めている。

 

「……なるほどね」

 

 ほどなくして永琳は診察を終えた。

 

「どうなんだ、永琳?」

「ただお兄様、大丈夫なの?」

 

 永琳の元に駆け寄る二人。そんな二人に落ち着くように促し、永琳は横島の状態を簡単に説明する。

 

「全身が凍傷に掛かってるわね。とにかく、すぐに身体を温めないといけないわ」

「分かった。――――燃やせばいいんだな?」

「お待ちなさい」

 

 背中より紅蓮の炎翼を生み出し、妹紅は横島に火炎(ぬくもり)を届けようとするが、それは永琳に遮られた。

 

「燃やさなくていいの。温めるだけでいいから」

「でも、こんなに冷たくなってるんだぞ!? だったらこっちもそれ相応に火力を高めないと……!!」

「高めすぎだから!! 横島君が消し炭になっちゃうから!!」

 

 どうも妹紅は横島の生命の危機にポンコツと化してしまったらしく、思考が短絡的かつ直接的なものへと変化してしまったらしい。

 とにもかくにも永琳は何とか妹紅の説得に成功し、応急手当のやり方を教える。永琳は他にも治療をしなければならない者達が大勢存在する。少し不安はあるが、横島のことは妹紅とフランに任せようというのだ。

 

「いい、まずはこうして横島君の氷で濡れた服を脱がして……」

 

 永琳が物凄く手慣れた様子で横島の衣服を剥ぎ、上半身を露出させる。服の上からではあまり想像がつかない意外にもかなり引き締まった肉体は、妹紅とフランの頬を赤く染めるには十分な破壊力を持っていた。

 

「そ、それでどうするんだ? ……燃やしちゃダメなんだろ?」

「何でそう頑なに燃やしたがるの……。まあ、あとの処置は簡単よ。さっきも言った通り、横島君の身体を温めてあげるの。そこで……」

「そこで……?」

 

 もったいぶるようにタメを作り、永琳は妹紅の肩へと手を置き、爽やかに笑顔を浮かべてこう宣った。

 

「――――脱ぎなさい」

「……へ?」

「――――脱ぎなさい。脱いで横島君と肌を合わせなさい」

「……は? ………………は???」

 

 理解が追い付かない妹紅であった。ようするに、お約束と言うやつだ。

 

「雪山で遭難した時のあれよ。互いに肌を合わせて寒さをしのぐってやつ。幸い妹紅の体温は結構高い方だし、横島君の回復も早くなるでしょうね」

「え、いや、でもそれは……」

 

 もごもごと口ごもり、ちらちらと横島の身体を見やる妹紅。横島を助けるためだと理解しているが、乙女の純情が彼女の行動を阻害している。のっぴきならない状況だと分かっているが、妹紅の乙女心ものっぴきならない状態なのである。

 

「ほら、ぼやぼやしない! 横島君だって脱いでるんだからおあいこよおあいこ! むしろ横島君は気絶してるからあなたの方が得してるわよ!」

「え、ええ……?」

 

 永琳の勢いに呑まれ、妹紅はあれよあれよという内に普段から愛用しているシャツの前を解放させられ、その小さいながらもちゃんと女の子らしい丸みを帯びた胸を曝け出されてしまっていた。

 

「ほら、早くくっついて! まずは正面からそっと寄り添うように!」

「ん……っ!」

 

 羞恥に悶える暇もなく、妹紅は永琳の指示通りに動かされる。それだけの有無を言わさないだけの勢いが永琳にはあった。

 敏感な胸の先に横島の冷たい身体が触れ、思わず全身が跳ね、声が漏れてしまう。しかし、これは横島のためなのだ。妹紅はそこで止まらず、先端だけでなく胸全体、そして全身で横島に密着してその身体に熱を贈る。

 冷たい横島の身体に触れているというのに、妹紅の身体は熱くなる一方であった。むしろ、触れた部分が熱くなってくるような、そんな感覚さえ覚えてしまう始末だ。

 胸の先端が痛い程の熱を帯びている。だが、痛みだけでなく、どこか心地よさ――――ささやかな快感すらも感じ始めていた。

 

「いいわ! いいわよ妹紅! もっと密着して!! 横島君の首筋に顔を埋めたりとかしてごらんなさい!!」

 

 どこか興奮しているかのような声で永琳は妹紅に指示を与える。気のせいでなければ妹紅の耳にはバシャバシャとカメラのシャッターを切る音も届いている。

 しかし、今の妹紅にはそんなことはどうでもよいことであった。こうして横島と肌を合わせる――――それがどこか途方もない程に大切なことなのだと思い始めていたからだ。

 自らの体温が横島に伝わり、その熱が彼を温める。それの何と素晴らしいことか。互いの体温の交換。妹紅はこの行為に、確かな“何か”を感じたのだ。

 

「あ、あの……私も何か出来ることはないかな……?」

「フランちゃん……」

 

 おずおずと永琳に話しかけたのはフランだ。妹紅達の姿を見て顔を真っ赤に染めており、それでも己も何かをしなければという決意を持っているのである。そこにはどこか妹紅に対する対抗心もあったかもしれないが、フランは基本的に己よりも他人を見て行動する少女だ。横島の――――愛する男の為に何かをしたいというのは当然であろう。

 

「フランちゃん……分かったわ。――――あなたも脱いで、今度は背中にくっつきましょう! フランちゃんも体温は(吸血鬼にしては)高い方だし、これで治療は盤石だわ!!」

 

 そして、そんな健気な少女相手にこういうことをやってくれるのが月の頭脳改め月の煩悩である八意永琳様である。

 フランはいつの間にか服の前をはだけさせられ、永琳の導くままに横島の背中に張り付いた。フランは敏感な部分が触れてもそれだけで()()()()()()を得られるほどに身体が成長してはいないが、それでも大好きな人と肌を重ねることには心地よさを覚えていた。

 その感覚をフランは不謹慎であると感じているが、それでもその感覚には抗えず、少々の自己嫌悪が混ざったある種の快感を享受する。

 

「いいわよ二人とも!! もっと……もっとくっついて!! 横島君の足を自分の足で挟み込んだりして!! それから……そう!! 肌を擦り合わせるの!! 摩擦でより高い熱を生み出すのよ!!」

 

 事ここに至って妹紅もフランも永琳の言葉には逆らわない。否、逆らえない、と言った方がより適切か。永琳の言葉通りに動けば、二人は気持ちよくなれるのだ。その快感の誘惑に二人は抗うことすら考えない。

 触れ合う肌が熱い。自然と息が上がってくる。横島も意識は無いのに何をされているのか身体が理解しているのか、彼の男の象徴たる部分が強烈にその存在をアピールし、ラインが繋がっている妹紅に更なる興奮を呼び起こしている。

 周囲の者達……意識のある少女達はその桃色空間を興味深そうに眺めている。大妖精はもじもじとしながらチルノを抱きしめる力を強めているし、霊夢は紫の面倒を見ながらも両の眼を見開いて観察し、ついさっき目が覚めたパチュリーは「むきゅー」と鼻息を荒くしながら後で永琳に写真の焼き増しを頼もうと決意している。写真をネタに横島をいじめるつもりらしい。

 

「いい……!! いい表情よ妹紅!! 素晴らしいわね!! 若い子達の肌と肌とのぶつかり合い!! んっんーんっんーんっんー!!」

 

 くねくねと身体を揺らしながら、それでいて手に持ったカメラは一切揺らさずに姿勢を低くしてシャッターを切り続ける姿は正に変態であり、変質者そのものであった。

 このまま永琳の蛮行を止める者は現れず、永琳の欲望のままに最後の一線を越えてしまうのか?

 

「――――おい」

「ひょ?」

 

 当然そんなわけはなく、永琳は小さな手で背後から頭を掴まれ、万力の如き強烈な握力で頭蓋を砕かれんばかりに締め付けられる。

 

「人の妹達に何をやらせているんだ、お前は……?」

「あ、あば、あばばばばばば……!!?」

 

 永琳を以ってしても逆らえないほどの強靭な腕力で無理やり首を後ろに向けさせられる。果たして、そこにいたのは“闇”であった。

 獲物の返り血で染まり、その身をどす黒く彩る、闇よりも尚禍々しい紅い月。その者を形容するならば、そんな言葉が似合いそうだ。

 最愛の妹と、未来の妹(倍以上年上)に対する狼藉に、レミリアは怒りからそれはもう先程までの消耗など考えられないくらいに魔力を溢れさせている。その強さ、普段の十倍……否、五十倍はあろうか。今ならば単身月に乗り込んでもレミリア無双が出来てしまう程に魔力が充実している。

 

This way(こっちだ)……Follow me(ついて来い)

「つ、ついて来いも何も頭ぁーーーーーー!?」

 

 永琳はレミリアに頭を掴まれたまま、森の奥へと連れ去られてしまう。他の者達はもちろん、妹紅達もそんな永琳を無言で見送った。妹紅もフランも未だ眼がとろんと緩んでおり、一体何が起きたのかまでは分かってはいないが、流石に至近距離であれ程までに強烈な魔力が渦巻いていてはそちらに注目せざるを得なかったのだ。

 横島と肌を合わせた状態で放置された妹紅達二人はこれからどうすればいいのかが分からない。とりあえず横島への治療を最優先で行いたいのだが、永琳は連れ去られてしまったし、同じく頼りになりそうな鈴仙は妹紅達に視線を合わせないようにしながら動き回っている。てゐは鈴仙に何故か拘束されていた。

 

「妹紅妹紅」

「……ん? あ、輝夜」

 

 途方に暮れていた妹紅の前に現れたのは輝夜であった。

 

「どうやら横島さんは回復してきたみたいよ」

「……そうなのか?」

 

 ぴったりとくっついていた上半身を離し、妹紅は横島の裸体を見やる。先程までの行為を思い出して顔がまたも赤く染まるが、それを抑えて注視してみれば、なるほど、確かに横島の血色は良くなっていた。

 

「横島さんは元々回復力が凄く高かったし、それが蓬莱人になって更に強化されたみたいね」

「そっか……良かった」

 

 そう、永琳が全身凍傷の横島にあのような措置をとったのは、実は横島を診た時点で既に回復していたからなのだ。後は冷えた身体を温めるだけ……。ならば、ここは恋人達にひと肌脱いでもらいましょうか、と欲望の囁くままに暴走してしまったのが真相だ。活躍の機会がなく、鬱憤が溜まっていたらしい。

 横島とラインが繋がっている妹紅がそれに気付かなかったのは、元々二者間に繋がっているラインは精神的なものであり、肉体的なものではないからである。特に蓬莱人は肉体を魂の付属物としてしまっているので、余計に感知することが難しくなっているのだ。

 

「それはともかく、妹紅? あなた、こう、身体が熱くなって胸や下腹の辺りがキュンとして疼いてるような感覚はない?」

「え? ……っと、ある、けど」

 

 妹紅は乱れた服を直しつつ、輝夜の問いに答える。それは今まさに妹紅の身体を襲っている、やり場のない焦燥にも近い感覚を指していた。もどかしそうに身をよじるその姿は、少女然とした妹紅の容姿に似合わぬむっとした色気を醸し出している。

 

「それの解消法を私は知っている……さ、ついて来て。早くスッキリしたいでしょ?」

「え? いやでも横島とフランを置いていくわけには……」

「いーからいーから! フランちゃん、ちょっと妹紅借りるからねー!」

「お、おいちょっと!? ――――あれ? 何か前にもこんなことがあったような……?」

 

 永琳、更には妹紅まで連れ去られて、フランはただただポカンと口を開けて呆けるしか出来なかった。これから私にどうしろと……? そんな言葉が頭をぐるぐると回るが、周囲を見ても誰も自分を助けてくれそうにない。そのことにフランは少しだけ頬を膨らませるが、なに、物は考えようだ。

 

「……ただお兄様」

 

 自分を守ってくれた人。自分を救い上げてくれた人。そんな人が、今は自分の腕の中で眠っている。安らか……とまではいかないのが残念ではあるが、それでも今の現実に比べれば大したことではない、と思ってしまう。そんな自分をどうかと思うが、彼はこんな自分を好きになってくれたのだ。遠慮なく、今はこの温もりと重みを堪能させてもらうとしよう。

 

「……ふふふ」

 

 胸いっぱいに横島の匂いを吸い、ほうと息を吐く。フランは一人、幸せに包まれていた。

 ……ちなみに横島の前面を覆い隠していた妹紅がいなくなったことにより、横島の男の象徴がズボン越しに屹立しているのを多数の少女が目撃している。

 ある少女はそれを見てよだれを垂らし、ある少女は興味のないふりをしながらもチラチラと視線を送り、ある少女はその規格外っぷりに顔を真っ赤に染めながらも恐怖に慄いている。

 その後、同時に二つの場所から超巨大な真紅の十字架と火柱が出現したりしたが、そんなことはその場の皆からすればどうでもよいことであった。ただ、夜空に二人の蓬莱人の爽やかな笑顔が浮かんだ気はしたが……完全に無視されたのでした。

 

 

 

 

 

 

 

第七十二話

『ずっと前から』

 

 

 

 

 

 

 

 さて、そんなこんながあった夜から数日後の夜。紅魔館の中庭では今回の龍神による異変解決の宴会が開かれていた。椅子とテーブルを用意したりシートを敷いたり、皆が思い思いの形で宴会を楽しんでいる。

 妖精メイド達が騒々しく叫びながら配膳したりする姿をしり目に、招待された者達は酒に食事に大忙しだ。

 中にはチルノ・龍神と一緒に酒を呑む霊夢・紫といった静かな組もあるが、多くは普段通りの騒がしさである。

 

「いやー、正直どうなることかと思ったが、何とか丸く収まって良かったな」

「そうですね。龍神様が張っていた結界で被害が最小限に済んだおかげですね」

「……まあ、発端もあっちだから何か微妙な感じだが……」

「あはは……」

 

 横島は紅魔館の執事であるが、ここ数週間で大怪我を何度も負っていたために準備やら何やらを免れていた。本人は嬉々として準備に参加しようとしていたのだが、これを紅魔館、永遠亭総員で説得。横島は渋々それを受け入れるのであった。横島は女の子達への承認欲求からワーカーホリックになったタイプの人間なので、何もせずに休んでいるのは逆に精神的に辛いことになってしまっている。

 ちなみに咲夜も横島同様にレミリア直々に休むように言われているため、給仕はしていない。彼女は完璧主義プラスレミリアへの忠義からワーカーホリックになったので、妖精メイド達の仕事の出来に、胃が破れる思いである。……二人とも体調が悪化するのでは?

 

「それにしても……」

 

 横島はちらりと己の胸を見やる。現在、横島と席を共にしているのは二人の少女。シートの上で背中合わせに座り、地に着いた手を重ね合わせている小悪魔。これは彼女が憧れていた座り方の一つであるらしく、終始ニコニコと笑顔を絶やさないでいる。

 そしてもう一人なのだが、その少女は横島の前面に抱き着く……と言うよりは張り付いており、その姿勢、格好からも抱っこちゃん人形を彷彿とさせる。横島の胸に顔を擦り付け、匂いを堪能するのはてゐだ。彼女の表情はとても幸せそうに緩んでおり、餅や饅頭で出来ていると言われてもついつい納得してしまいそうになるほどのとろけぶりだ。

 

「普段からはあまり想像出来ない……いえ、そうでもありませんね」

「そうか?」

 

 小悪魔もてゐの様子が気になったのか、いったん姿勢を崩し、片方の手を繋いだまま横島の隣へと移動する。横島は空いた手をてゐの頭に置く。するとてゐはその手に自らの頭部を擦り付けるように動き、ぐいぐいとその内側へ入り、今度は掌に頬を擦り付けた。その小動物が甘えてくるような仕草に興が乗った横島は小悪魔に断って繋いでいた手を離し、てゐの両頬を挟むように弄り始めた。

 

「うりうり」

「んんー……♪」

「てゐさん可愛い……!」

 

 横島に続き、小悪魔もてゐの頬を指でつっつく。二人から責められる(語弊)てゐは、それでも幸せそうに微笑むのだ。

 さて、この二人と横島の距離が以前よりも遥かに近くなっているのには当然理由がある。もうお分かりであろうが、二人の告白を横島が受け入れたためだ。

 三人の雰囲気が変わったことに、皆はすぐに気が付いた。新たな恋人達の誕生に、宴会の熱は更に上がっていく。中には横島に対して「ロリコン」と言って一瞬で横島の胃に穴を開けた紅白の少女がいたり、「……」と無言で祝福するべきか罵るべきか迷っている複雑な視線で横島を睨みつける現人神がいたり、うずうずとお説教をしたそうに横島を眺める僧侶がいたり。

 

「……幸せそうにしちゃって。ま、念願叶ったんだから当然だろうけど」

 

 そして、ここにも小悪魔と……そして、てゐに祝福の視線を送る少女が一人。一号特製ローストビーフを食べている鈴仙だ。互いに見つめ合い笑みを浮かべる三人に対し、鈴仙も知らず微笑みを浮かべる。美鈴の時と同じく彼女達の想いを知っており、そして何よりもずっと長い時間を共有してきたてゐの恋が成就したのだ。その感動も一入だろう。更に加えればもう一つ、鈴仙の視線が強くなる理由が存在する。

 

「やふー、うどんげ。ちゃんと食べてるー?」

「ひ、姫様? どうしてここに……というか食べ歩きはお行儀悪いですよ」

 

 てゐ達を見つめていた鈴仙の元に輝夜が訪ねてくる。彼女は皿の上に盛った和食達を食べながらの登場であり、お姫様であるのにその行儀の悪さは鈴仙として看過出来ないものであるのだが、輝夜はそれを気にしない。例えそういった行為でも輝夜が行えば気品溢れる姿として映え、万人が羨む芸術となるのだ。

 

「まあまあそんなことより。遠くから見つめてないで、あの中に入れてもらったらどう?」

「いやいや、流石にあの中に入るのは出来ませんよ。KYなんてレベルじゃないですし」

 

 恋人達の語らいの中に部外者が入る。これほど無粋なこともないだろう。妹紅達だって新しく自分達と同じ恋人という輪の中に入ってきた二人の為に空気を読んで遠慮しているのだ。鈴仙はそう言って断りを入れるのだが、輝夜は鈴仙の中に存在するほんのわずかな感情のゆらぎを見逃さなかった。

 

「ふーん……? そのわりには随分と眼に力が入ってたけど」

「え?」

「イナバ……てゐを取られたことでそうなるわけじゃなし、あの眼の理由はむしろ……てゐが羨ましかったのかしら?」

 

 鈴仙は輝夜の言葉を聞き、大きく眼を見開いた。自らの心の中に芽生えつつある、とある感情。その萌芽に目の前の少女は気が付いているというのだ。それを知り、そして己の中の淡い感情を改めて自覚したことによって鈴仙の頬は赤みを帯びる。その様子に輝夜は満足そうに頷き、更なる言葉を掛けるのだ。

 

「何年あなたと同じ時間を過ごしてきたと思ってるのかしら? こう見えてあなたのことはけっこう気にかけてるの」

「あ……うぅ……」

「別に気にしなくてもいいと思うけどね。てゐも小悪魔もそういったことを気にするような性格じゃないし、むしろあなたも()()だと知ったら喜びそうなものだけど」

 

 輝夜の言に鈴仙は躊躇いながらも首肯を返す。確かにてゐ達二人は喜びを以って迎えてくれるだろう。しかし、自分が胸に抱く感情を自覚したからと言って、それを今すぐどうこうしようとは鈴仙は考えていなかった。

 鈴仙が横島へと抱く想いは、確かに恋や愛と呼べるものだろう。しかし、それはちょっとしたことで変化が起きそうな本当に淡いものでもある。これから時を過ごし、その想いが自分にとって確固たる自信を持ち、本当に確かな恋愛感情なのだと言えるような時が来るまで、鈴仙はその想いを告げようとは思わない。

 

「うーん、こういうのも頑固と言うのか……まあ、鈴仙がそれで納得出来るならそれが一番だけど」

「ど、どうも……」

 

 別に恐縮する必要はないのだが、輝夜という自らの主君とも呼べる存在に対して鈴仙はどうにも緊張が勝る。地上に逃げてきた時から比べれば随分とフランクになったものであるが、それでも無意識的に肩に力が入ってしまう。輝夜もそのことは理解しているのでそれ以上は追及せず、代わりに鈴仙への余計なお世話とも言える援護射撃を行う。

 

「横島さん達、おしゃべりに夢中になって新しい料理を取ってないから、持って行ってやんなさい」

「え、いやでもそれは妖精メイド達が気付くでしょうし、さっきもそういうことはしないって……」

「大丈夫、妖精メイド達には手を回してあるから」

「何やってんですか姫様!?」

 

 一体何が大丈夫なのか、ドヤ顔でサムズアップを決める輝夜に鈴仙も今回は遠慮なくツッコんだ。そして輝夜はそんなツッコミなど意にも介さず、いいから料理を持って行けとワガママプリンセスモードに移行するのであった。こうなると輝夜は面倒くさいことこの上ない。このまま固辞し続ければ更に厄介なことをさせられかねない。大きく溜め息を吐いた鈴仙はついに折れ、様々な料理をお盆に乗せて横島達への元へと向かった。

 

「むふふ、これから更に面白くなりそうね……ところで永琳、何で鈴仙をけしかけなかったの? あなたなら率先して場を引っ掻き回そうとすると思ってたんだけど……」

「……流石の私もそんなことはしないわよ……?」

 

 いつの間にか隣に立っていた永琳に、輝夜はとても失礼な言葉を以って話しかける。永琳もその言葉はちょっとショックだったのか、いつもの軽妙な返しが出来ない。ごほん、と一つ咳ばらいをし、永琳は輝夜に逆に問いを投げる。

 

「輝夜こそ、あの輪の中に入らなくてもいいの? 癪ではあるけど横島君はあなたの()()()()()でしょう? それこそ鈴仙に言ったことがそのまま当てはまると思うのだけど」

「分かっててそんなこと聞くんだ? 確かに横島さんはお気に入りだけど……()()()()()()になるのなら、もう一皮剥けてもらわないと」

 

 輝夜の返答に永琳は沈黙する。輝夜の言葉の意味、それが持つ意味を理解したが故だ。

 

「……私が思っていたよりも、彼のことをよく見ているのね」

「そりゃー妹紅の未来の旦那様になる人だもの。よーーーーーーく見極めないとじゃない?」

 

 中々に歪んだ言葉に、永琳は苦笑を浮かべてしまう。妹紅との関係も、随分と変化したものだ。歪な関係が余計に歪な形になったとも言えるが、当初よりは歓迎出来るものである……と永琳は思い込む。輝夜と妹紅、二人の間にある感情が何なのか、それが今後どういった形になるのか、それは永琳にも分からない。というか分かりたくない。よもや横島を挟んでトライアングルなラブ? 三人それぞれ愛し合ってるとか永琳そんなの認めたくない。

 

「一皮むけると言えば……あっちの方はずる剥けだったけどね!」

 

 ばふうっ、と噴き出す輝夜に永琳は慈愛の眼差しを向け、そのまま横島達に視線を戻す。すると、鈴仙に加え、いつの間にか妹紅達横島の恋人達が輪に加わっていた。美少女達の中に冴えない少年が一人。しかしその実、美少女達はその少年の恋人達なのだ。

 傍から見れば理解不能・意味不明な光景なのだろう。しかし、横島という少年に深く関わってしまった人外の者達ならば、この光景は自然に見えるだろう。……人間? マニアックな趣味をお持ちならば可能性はあるかもしれないネ。

 

「……一皮剥ける。そうね、横島君にはいつか乗り越えてもらわないと」

 

 ぽつりと永琳が言葉を零す。横島を見つめるその眼は、どこか憂いを帯びていた。幸せに映るその光景、しかし下手をすれば何もかもを失ってしまう。横島が抱える“闇”とはそういうものだ。

 願わくば、平和な未来を。永琳は祈らずにはいられない。見上げた月は半ば以上が雲に隠れ、その様子がやがて訪れる未来を暗示しているように感じられ、永琳は人知れず溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 静かに酒を呑む四人。霊夢と紫、チルノと龍神。既に龍神からの謝罪は受け入れており、そこにわだかまりはない。しかし、ただ一つあるとすれば、それは霊夢とチルノにこそある。

 チルノは皿に盛られた料理を元気よく頬張り、龍神も慣れない食事という行為に悪戦苦闘しながらもそれぞれ楽しんでいた。対する霊夢はと言うと、チラチラとチルノを気にしながら、普段の姿からは考えられないくらいにちまちまと料理をつまんでいる。それも、肉類はほぼ控えて、だ。

 紫は横目で霊夢の様子を見やり、苦笑を浮かべつつ肩を竦め、肘で霊夢をつつき、行動を促した。

 

「あー、っと。その……チルノ?」

「ん? ふぁに(なに)?」

 

 まるでハムスターの様に頬をパンパンに膨らませたチルノは、遠慮しがちに声を掛けてきた霊夢のことを気にせず、普通に応える。何も気負った様子の無いチルノに霊夢はどこか気圧されるように呻き、それでもちゃんと正面から向き合い、チルノに頭を下げた。

 

「今更だけど、あの時の言葉のことを謝らせてほしいの。……ひどいこと言って、ごめん。ごめんなさい」

「……」

 

 チルノは突然の謝罪に眼を見開き、咀嚼を止める。霊夢は紫と龍神から事の顛末を聞いていた。霊夢が現れた瞬間、どうしてチルノの意識が龍神に呑み込まれたのかもその時に聞いたのだ。

 霊夢としては特に悪気無く言った言葉であった。ああいった悪態は常であったし、弾幕ごっこの際には挑発といった煽り行為は茶飯事である。そして、“その言葉”もそういった中の一つだと思っていた。

 

 ――――冷気を好む動植物はいないわ。何処に行ってもあんたは嫌われ者。

 

 それは紛うことなき真実であり、残酷なまでに現実であり、だからこそチルノの心に深い傷として残った。何事もないように振る舞っても、その心には蟠りが残り続けていたのだ。

 

「……」

 

 チルノは口内の食物を飲みこむ。霊夢の謝罪についてどう返すか、言葉を探しているのだ。沈黙したまま数十秒が過ぎ、やがて数分が経つ。チルノは霊夢を真っ直ぐに見つめ、ようやく口を開いた。

 

「……アタイは霊夢の言葉はウソだって思ってた。だって大ちゃんがそばにいてくれたし、リグルやルーミア、みすちーも一緒だったから。でも、霊夢に言われてみんなをよく見たら……霊夢の言うとおりだった」

 

 チルノは誰かと触れ合うという経験がほとんどない。保護者役の幽香はチルノから漏れる冷気から植物を守るために気を張っているし、喧嘩友達である諏訪子はチルノと肉弾戦をする時以外は触れてこない。冷気の影響が少ない龍神(しぜん)の触覚である大妖精でさえ、近くにいることは出来ても無意識的に過度の接触は避けていたほどだ。

 真実を前に打ちのめされそうになるも、それでもチルノは気丈に振る舞ってきた。己は最強なのだから誰もついてこれないのは仕方がないのだと。そうやって己を誤魔化してきたのだ。

 そして、燻った日々の中で出会ったのが横島であり、繋がったのが龍神であったのだ。

 

「龍神と合体したおかげでアタイは少し変わったみたい。前は周りが勝手に凍っていってたけど、今は凍らせるぞって思わないと凍らなくなった」

 

 チルノの言葉に霊夢はそういえば、と思考を巡らせる。チルノから漏れていた強烈な冷気が、今はまるで感じられないではないか。紫に眼を向けると、彼女はこくりと頷いた。どうやらチルノは龍神と同期したことにより、力のコントロール法を身に着けたようだ。

 

「今のアタイならみんなに嫌われないと思う。もっと、色んな人と遊べると思う」

 

 自分の両手を見つめ、ぎゅっと握り込む。開いた手には、綺麗な氷の結晶が収まっていた。透明な、ひまわりの形をした結晶。氷であるのに冷気を伴わず、それでいて確かな冷たさを感じる不思議な結晶体だ。チルノはそれを霊夢に投げ渡すと、屈託のない笑顔を浮かべた。

 

「だからさ、今度アタイといっぱい遊んでよ。それでよかったら――――アタイと、友達になってほしい」

「……!!」

 

 霊夢の謝罪を受け、チルノが求めたほんのわずかな望み。それは、霊夢と友達になりたいという思いだった。あれほど深く傷つけた。あれほど心を痛め付けた。それでもなお、チルノは霊夢との繋がりを求めたのだ。

 じわりと霊夢の視界が歪む。今の気持ちをどう言葉で表そう? 上手く口が動かない。途切れ途切れの息を吸う音と吐く音が断続的に響くだけだ。ただ、その手に持つ結晶、その冷たさ(ぬくもり)だけが鮮烈に感じられて。――――気付けば、霊夢はチルノを抱きしめていた。力をコントロール出来るようになったと言ってもその身体はまだ冷たかったが、それでも、命あるものとしての温もりを充分に感じることが出来た。そしてそれは、きっと初めからそうであったのだ。ただ、自分が気付かなかっただけで。

 

「うおぉーーー!? 何だ弾幕ファイトか!? やってやんよこんにゃろー!!」

 

 何を勘違いしたのか、チルノが素早く戦闘態勢を整えようとするが、首筋に温かい雫が落ちてきたのを感じ、動きを止めた。自分を抱きしめる力は強く、チルノは少しだけ息が詰まる。

 

「……れーむ、いたい」

「……ごめん」

 

 また少し、力が強くなった。離しはしないと必死にしがみつく姿はまるで幼子のようであり、チルノは無理に振り払おうとは思えなかった。

 

「……だから」

「……ん?」

「私とあんた(チルノ)は――――ずっと前から、友達だったから……!!」

「……そっか」

 

 胸に充ちる、温かな想い。“お兄さん”に感じていたものとは異なるが、きっと、これもずっと求め続けていたものの一つだ。

 

「ありがと、霊夢」

「バカ――――お礼を言うのは、こっちよ」

 

 強く抱きしめ合う少女達を、紫と龍神が見つめる。紫は龍神の杯に酒を注ぎ、己の酒器にも酒を満たす。二人は同時に酒器を掲げ、一息に呷る。紫は安堵を込めて、龍神は決心を固めて。

 その日呑んだ酒は、龍神にとって生涯忘れられない味となったのだ。

 

 

 

 

 

 

「――――みんな集まったわね」

 

 宴会から夜が明け、陽も登り切った午後のこと。レミリアは横島以外の紅魔館と永遠亭の主要メンバーを図書館に集めていた。レミリアはテーブルの上で手を組み、どこか不穏な空気を発している。せっかく横島と恋人になった次の日に呼び出されたてゐは不満を顔に滲ませているが、永琳から直々に顔を出すように言われては逆らいようがない。ちなみに妹紅も出席している。

 ごくり、と誰かが唾を飲みこむ音が響いた。空気が変わったのを察したのだろう、レミリアはその音を切っ掛けに、口を開く。

 

「……ただいまより、第十三回紅魔館家族会議を始めます」

 

 ――――思い切り気構えていた妹紅と鈴仙は椅子から転げ落ちた。

 

 

 

 

 

第七十二話

『ずっと前から』

~了~

 

 

 

 

 

 

☆龍神戦後の会話☆

 

白蓮「……」

神子「……」

白蓮「また……活躍出来ませんでしたね」

神子「ああ……」

白蓮「戦闘の描写すらも……」

神子「さては作者め……私達を持て余しているな?」

布都「う、うう……」

神子「どうした?」

布都「太子様……今の我では横島殿を受け入れることが出来ませぬ……!! 太子様……!! 我を導いてくだされ……!!」

神子「受け入れ……? あっ(察し)」(横島を見て)

白蓮「あらあらまあまあ」

 

※横島は現在()()()()である。

 

 

☆とある謝罪の時☆

 

大妖精「つーん」

龍神「……」

リグル「まあまあ、大妖精」

るみゃ「そんな膨れてないで」

みすちー「その、龍神様も反省なさってるみたいで……」

大妖精「ふーんだ。いくら龍神様でもやっていいことと悪いことがあるもん。チルノちゃんの身体を乗っ取って暴れまわるなんて」

龍神「……」

大妖精「大体、何で新しい身体がそんなにチルノちゃんにそっくりなの? 角が生えてたり鱗があったり褐色肌になってる以外はチルノちゃんに瓜二つ……」

龍神「……」

大妖精「()()()()()()()()()()()()()()?」

龍神「……?」

大妖精「……ちょっと向こうの人気のない森の奥に行きましょう。大丈夫、怖いことなんて何もありませんから。私に身を任せてくれれば大丈夫ですから」

龍神「……? ……っ?」

リグル「待て待て待て待て待て」

るみゃ「何をする気なのかー!?」

みすちー「大ちゃん正気に戻ってー!?」

 

 

☆おしまい☆

 




安易にエロと下ネタに頼ってはいけない(挨拶+戒め)

そんなわけで次回からは最終章の地底編です。
地霊組で好きなキャラはさとり、お空、パルスィ、ヤマメ……そしてハシビロコウさんですね。
必然さとりも再登場しますが、もしかしたら以前のキャラと変わってるかも……。


とりあえず今までの反省点として

『男』強くしすぎた……弱体化させな!→弱体化させすぎた
龍神の強さ盛りすぎた……弱体化させな!→弱体化させすぎた

なんてことになってるのがもう私バカじゃないのってなる。なった。

ほんと気を付けないとなぁ……。

それではまた次回。




そういえば初期プロを何気なく眺めていたら、訳の分からない展開が書かれていましてね。

横島と芳香が何故か戦ってて、そこに神子が芳香に憑依するという謎なことになって、

神子「何だ……これは、身体が上手く動かん!?」
青娥「芳香といえど身体は死体!! 死後硬直でございます!!」
神子「屍ならば横島と互角!! 度し難き退屈よりの解放!! 
――――死後硬直望むところ!!!

とか書いてあって……。何だろう、当時覚悟のススメにはまってたのかな……?

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