東方煩悩漢   作:タナボルタ

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大変お待たせいたしました。

うーん、ダメだなぁ。最近こっちの更新が凄く遅れてきている……気を付けないと。

※注意※
今回オリキャラがでしゃばってきます。苦手な方はご注意ください。


第六十一話

 

 香霖堂から離れてまたも空の旅。フラン・チルノ・大妖精の三人は顔いっぱいに笑顔を咲かせ、楽しそうにおしゃべりをしている。

 互いに可愛い、似合っていると褒めあう姿は可愛らしく、はたてもパシャリとシャッターを切るほどだ。

 何が似合っているのか。それは横島から贈られた髪留めだ。それぞれフランは赤い丸型、大妖精はオレンジ色の三角形、チルノはひまわりの形の髪留めをしている。

 フランの金の髪に赤が映え、大妖精の穏やかな緑の髪に活発な印象を与えるオレンジがアクセントとなり、青く冷たいチルノの髪に暖かさの象徴とも言える太陽の花――――ひまわりが咲くことで、これまでのチルノとはまた違った雰囲気を醸し出している。

 横島は当初、あまりに安っぽいその髪留めに「こんなのでいいのだろーか?」と疑問を持ったのだが……特にフランの衣服は最上級の布が使われており、髪留めのチープさと服の高級感の釣り合いがまるで取れていない。しかし、それでもと横島は考える。

 フランは喜んでいる。大切な友達とお揃いの髪留め。形は違えど、それは初めて贈られた、他の誰かと思いを共有出来る物である。友人がいなかったフランにとって、それは憧れの物だった。

 フランの笑顔を見て、横島は考えを改める。確かにチープであるが……それでも、そこに込められた思いは何物にも変えがたい。フランが喜んでくれているのなら、それが一番なのだ、と。

 

「――――これから向かうのは妖怪の山……というか、守矢神社なんだよな?」

「うん、そうよー。やっぱり幻想郷の案内なんだから、あそこはおさえておかないとねー」

 

 守矢神社――――。

 幻想郷に突然神社と湖ごと外の世界からやって来た神様の一団。外の世界で信仰を得られなくなったのがその原因であるが、力を失っている状態でそんな荒業を実行出来るのだから恐ろしいものがある。

 彼女達の計画性、決断力、そして実行力は驚異の一言であり、彼女達の行動は(色んな意味で)幻想郷の注目の的である。

 例えば里の人間達から信仰を得るために索道――――つまりロープウェイを建設したり、次世代のクリーンなエネルギーの開発として核融合を提唱したりなどしている。

 

 ()()()()()()であり、山の神である八坂神奈子、風祝にして現人神(あらひとがみ)である東風谷早苗、そして()()()()にして土着神の頂点であり、ミシャグジ様の統括官である洩矢諏訪子が守矢神社のメンバーだ。

 横島達はそんな神様である彼女達の住まう場所へと向かっているのである。

 

 

 

 

 

 

 

第六十一話

『とびだせ妖怪の山』

 

 

 

 

 

 

 

「あ、悪いんだけどみんなここで一旦地上に降りてくれるー?」

 

 言うが早いか、はたては地上……山の中腹辺りに下降していく。横島達もはたてに倣い地上へと降り立つが、そこは何の変哲もないただの山中。何か特別な結界があったり、何らかの意匠があったりなどもない、普通の場所だ。

 

「ここに何かあんのか?」

「んー、そういうわけじゃないんだけど……まあ、もう少ししたら分かるから」

 

 はたては特に何をするでもなく、面倒そうに息を吐きながらも動こうとしない。皆はそんなはたてに疑問を持つが、とりあえずは彼女の言う通りに待つことにした。何があるのかは分からないが、そうそう危険なものではないだろう。

 そして着陸してからわずか数十秒。横島が何者かが近づいてくる気配を捉える。

 

「これは……はたてちゃんや文ちゃんってよりも、椛ちゃんに近いか……?」

「……流石ね、横島さん。そう、こっちに向かってるのは――――」

 

 はたてがその正体を明かす刹那、二つの影が頭上から落ちてくる。間違いなく森の中から気配が近付いていたというのに、頭上から現れるとはかなりの速度の持ち主のようだ。

 

「そこな人間と外部の妖怪共よ、これ以上妖怪の山を進行することは許されん!!」

「即刻立ち去るのならば手荒な真似はせん! だが、手向かうならば容赦はせんぞ!!」

 

 横島達の前に現れたのは白髪に犬の様な耳を生やした二人の青年。背が高く、顔が良く、凛々しい雰囲気の二人の登場に横島の額に井桁が浮かぶ。

 彼等は妖怪の山の見回りをしている白狼天狗。横島が気付いた通り、椛と同種族の妖怪だ。

 

「我等流浪の見張り番!! 狗我(くが)兄弟が長男“一狼(いちろう)”と!!」

「同じく次男“三四狼五六左衛門宗徳(さんしろうごろうざえもんむねのり)”が!!」

「妖怪の山の恐ろしさを味わわせてくれる!!」

 

 そうやって綺麗にハモった二人は背に抱えていた大剣を構え、威嚇をしてくる。二人にはツッコミ所が多数あったが……というかツッコミ所しかないが、それでも明確に敵対行動を取っている。その事実にチルノは怯み、大妖精は怯えを見せる。フランは自分の認識が甘かったことを理解し、自分達に剣を向ける二人に敵意を募らせるが……横島が、庇うかのように一歩前へと踏み出す。

 

「ふん、潔く立ち去る気になったか?」

「それとも我等に手向かうか? ……答えを聞こうではないか」

 

 狗我兄弟は横島へと切っ先を向け、応否を問う。横島は(いびつ)に歪んだ笑みを浮かべ、全身から霊波を放出する。

 

「ぬうっ!?」

「何という禍々しい霊波……!!」

 

 それは怒りに染まった霊波だ。自分達に剣を向け、害を及ぼそうとした。チルノや大妖精を怯えさせたこと。そして何よりも二人が美形であること――――……。

 

「ふふふふふ……!! 俺達に剣を向ける美形は屠るべし。慈悲は無い」

 

 横島の両腕が甲高い音を立て、霊波の鎧に包まれる。集束し切れなかった霊波が亀裂から靄のように立ち上るそれは、現在の横島の切り札、“栄光の手(ハンズ・オブ・グローリー)・プラス”。何気に両腕に展開可能となっており、もう完膚なきまでに叩き潰す気満々である。

 最早場の空気は一触即発。周りの者が固唾を呑んで見守る中、少しの刺激で戦いが始まろうとしている闘争の場に、一人の少女が踏み込んでくる。

 

「はいはい、ちょっとみんな落ち着いて。別にケンカをするためにここに来たわけじゃないんだからー」

「……なっ、貴女は……!?」

 

 少女――――はたての登場に狗我兄弟の顔は驚愕に染まる。まるで見てはならない物を見てしまったかのようなその反応は、はたて本人にも疑問が浮かぶ。

 

「何をそんなに驚いて……」

「馬鹿なっ!! 引きこもりで有名な姫海棠はたてさんが外に出ているだと……っ!!?」

「――――は?」

 

 はたての額に井桁が浮かぶ。自らの記憶が確かならば、この二人とはこれが初対面のはずだ。だというのに何故そんな失礼なことを言われなければならないのか。

 

「はたてさん! 何故貴女が人間と共にいるのです!? まさか、その男にかどわかされたのですか!?」

「いや、何でそうなるのよ。この人は……その、私の友人で、私が幻想郷の案内をしているだけで――――」

「何……だと……!? あの引きこもりで有名なはたてさんに、人間とはいえ友人がいたというのか……!!?」

「なにアンタら、さっきからケンカ売ってんの?」

 

 あまりにもあまりな狗我兄弟の言い様にはたての体から怒気混じりの霊波が溢れ出る。それは先程までの横島に勝るとも劣らぬ物であり、曲がりなりにも神魔に匹敵する霊力を誇る横島と並ぶとは幻想郷最強種族(自称)である天狗の面目躍如といったところか。

 

「申し訳御座いませんでした」

 

 当然そんな天狗であるはたての威圧に彼等下っ端の白狼天狗が耐えられるわけもなく、狗我兄弟は綺麗な土下座を披露するのであった。

 

 

 

 

「なるほど、そういうことでしたか……」

「守矢神社に参りに行くと……そして、そのために妖怪の山に入ることへの許可を取ろうとしてくださっていたとは……」

 

 はたては土下座をしている狗我兄弟に横島達が妖怪の山へと入った理由を語る。

 妖怪の山は他の陣営と比べるとかなり排他的であり、外部の者がみだりに進入することを許さない。妖怪の山に入るには今回のような特別な伝手を頼るか、もしくは無断で進入するしかない。もっとも、無断で進入した場合にその命の保障は出来ないのだが。

 最近では守矢神社が妖怪の山だけでなく、人里での信仰を集めるために索道を造ろうとしている。これには反対の者も多く、一応はトップの了承を得ることが出来たのだが、それに対し不満を持つ者も少なくない。形は出来てきているのだが……運行は、まだ先だろう。

 

「すまぬ、人間と外部の妖怪達よ。最近、妖怪の山に無断に入り、山の獣を食い荒らす得体の知れないモノが頻繁に現れていてな。我等の仲間も何人か犠牲になっていたのだ」

「それ故普段以上に警戒が強くなっていてな。いや、はたてさんのお客人に失礼をしてしまった」

 

 狗我兄弟から剣を向けられた理由を聞き、横島達は顔を見合わせる。詳しく話を聞いてみると、被害に遭った者達は例外なく血と(はらわた)を刳り貫かれていたらしい。どうやら妖怪の山にも『男』は出現していたようだ。

 思わぬ所で『男』の話を聞いた横島達はアイコンタクトを交わし、とりあえずは詳細を省き、その得体の知れないモノが退治されたという事実だけを伝えておく。どうやら積極的に外の情報を仕入れたりはしていないようである。はたては文が既に新聞にしていたと思っていたのだが、どうも文の遅筆癖のせいか、未だに記事は出来上がっていないらしい。

 

「……そう、でしたか。これで食われた者達も安心して旅立てるでしょう」

 

 狗我兄弟の兄、一狼は黙祷するかのように目を閉じ、そう言った。次男の三四狼も胸に手を当て、目を閉じて空を仰いでいる。

 

「――――さて、はたてさんのご友人でいらっしゃるのなら、我等が止める理由もありません。紅白の巫女や黒白の魔法使いやナイフの召使や半霊を連れた少女剣士のように無断で進入してくるばかりか、何事も力で解決しようとはしていませんからな」

「……おかしいな、何か凄く俺の知ってる人達のような気がする……」

「残念ながら本人達でしょうね」

 

 気分を切り替えようと、一狼はややおどけたように妖怪の山黒便覧(ブラックリスト)に載っている人物達の特徴を挙げるが、何の偶然か、それは全て横島の知人であった。しかも内二人は横島の師匠である。

 

「霊夢ちゃんと魔理沙はともかく、咲夜さんと妖夢ちゃんも何やってんのさ……」

 

 はっきり言ってしまえば横島が言えたことでもないのだが。とりあえず原因は守矢神社にあったということは記しておこう。

 

「ふふ……彼女達のおかげで残業は増え、休日と給料は減り、頭には円形ハゲが……」

「ふふ……家のローン、まだ払い終わってないのに……」

「……あんたらも苦労してんだな」

「紅魔館はそういうの聞いたことないけど……」

「あそこは逆にホワイトだよね。あんなに赤いのに」

 

 横島には狗我兄弟の苦労が身に沁みて理解出来た。横島も自業自得な場合がほとんどだが職場で苦労していた身。特にお金のない辛さに関して、狗我兄弟にシンパシーを感じるほどだ。

 逆にフランやチルノは白狼天狗のブラックさ加減に驚いている様子。比較対象となっている紅魔館は悪魔の館と呼ばれる割にホワイトなので、そのギャップが凄まじいのだ。

 

「では、我々は詰め所へと戻ります。先の情報を皆にも知らせたいので」

 

 狗我兄弟は横島達に一礼すると、そのまま振り返ることなく空を飛んでいった。何となくだが、現れた時よりも足取りが軽くなっているような気がする。

 

「しっかし、『ヤロー』が死んだっつーのはここのトップに伝わってないのか? てっきり文ちゃんあたりが報告してると思ったんだが……」

 

 横島は白狼天狗達に『男』に関する情報が行き渡っていないことに疑問を覚える。同じ疑問を抱いていたはたてはこくりと頷いた。はたては考える。もしかしたら……という可能性の一つに、()()()()()()()()()というのがあるのかもしれない。

 狗我兄弟が言っていたように、妖怪の山に力ずくで進入してくる者は多い。まあ相手が神様だったり博麗の巫女だったり大妖怪だったりと相手が悪い場合もあるが、それを除いても人間相手に簡単に倒されてしまっては見張り番の意味がない。そこで、あえて『男』が倒されたことを知らせず、危機感を煽り、白狼天狗達に極度の緊張感と使命感を持たせていたのだとしたら……。

 

「……やっぱり妖怪の山ってブラックよねー……」

 

 ある意味鬼に支配されていた時より酷い、とははたての談。もちろんこれははたての想像であり、実際に天狗達の長、“天魔”が何を考えているのかは分からない。しかし、何を考えていたとしても、苦労を被るのはいつも下っ端なのだ。

 

「私は鴉天狗で良かったー」

 

 天狗は種族によって役職が決められている。鴉天狗は広報担当だ。かつての鬼達や名代の天魔のように、力が強いほど理不尽なのは妖怪の常。はたても余計な苦労は背負い込みたくはないので、この件には関わらないことを心に決めた。

 

「さて、これで俺達は妖怪の山に入っても良くなった……んだよな?」

「うん、そうよ。詳しくは省くけど、妖怪の山の不思議なテクノロジーで横島さんやフランちゃん達は私のお客様って認められたからね。一々突っかかってくる見張りはいなくなったはずだよ」

 

 妖怪の山は河童の技術により、外の世界に負けないほどの暮らしが出来るという。今回もその謎の技術が関わっているらしいが、やはり門外不出の技術なのだろう。はたてもどういったものかは説明せずにその話を打ち切った。あるいは全然詳しくないのかもしれない。

 

「さて、それじゃあ残りは一気に飛んでいきましょうか」

 

 はたての言葉を合図に、皆は再び空を飛ぶ。思ったよりも時間を取られてしまったが、必要なことであったので文句はない。難しい話が続いたせいでチルノは眠たそうであったが、大妖精の尽力により何とか眠らずに済んでいた。ただし、半目に大口を空けて、女の子が誰かに見せてはいけない顔をしていたが……。

 そんなチルノを引っ張りながら空を行き、数分後。ようやく守矢神社に辿り着いた。鳥居をくぐり、振り返ってみれば、そこに広がるのは真っ白い雲と、一面に広がる緑。遠くには人里が見え、掌にも簡単に収まるような大きさに見える。

 

「――――幻想郷が小さいってやっぱり嘘じゃん。山は雲より高いし森はどこまでも広がってるしここから見える湖はでっけーしそもそも土地が余りまくって」

 

 それ以上いけない。

 

「――――あれ、お客さんですか? 珍しいですね、こんな時間に――――って、あなたは……!?」

「あん?」

 

 可愛らしい女子高生と思しき声に再度振り返れば、そこにはやや引きつった表情の少女、東風谷早苗がいた。

 

「おお、久しぶりー! 紅魔館でのパーティー以来だなー!」

「ひぃっ!? ……え、ええ。お久しぶりです横島さん……」

 

 早速人間の限界を無視したスピードで早苗の眼前まで移動し、挨拶をしつつも彼女の手を取る。早苗はそのアクションに一瞬怯えた表情を見せるが、何とか落ち着くと引きつった表情ながらも横島に挨拶を返す。どうやら早苗の中で横島の存在は何とも言えないことになっているようだ。……まあ、目の前でオンバシラに潰され、かと思えばすぐさま復活してきた様を見せられれば恐怖を抱いても仕方がないだろう。

 早苗は未だ外の世界の常識に囚われている。幻想郷では常識に囚われてはいけないのだ。横島は常識を超越する!!

 

「早苗の恐怖が伝わってきた!! 不埒者は死すべき慈悲は無い!! “神祭「エクスパンデッド・オンバシラ」”――――!!!」

「おぎゅぶちぎゅ――――」

「ひいいいいぃぃぃっ!!?」

 

 それは、一瞬だった。突如上空から横島を目掛けて二十二本ものオンバシラが殺到する。早苗は何らかの不思議な力により無事であったが、またも横島がオンバシラに潰される所を見てしまった。しかも、今回はぐっちゃぐちゃである。ぐっちゃぐちゃ。人を超えた現人神の動体視力は残酷な物を捉えてしまいました。猟奇殺人現場です。

 

「横島さーーーーーーんっ!!?」

「ききききゅっとしてドカーンッ!! きゅっとしてドカーンッ!! きゅっとして――――!!!」

「よよよよよ横島さんが潰れて、赤いのがビシャって、赤いのがビシャって……」

「早苗に手を出す悪い虫はこの私が許さな――――って、あれ? この子、もしかして……」

 

 はたては急な惨劇に叫ぶしか出来ず、フランは能力を使って横島を潰したオンバシラを破壊し、大妖精は目の当たりにしてしまったとってもグロテスクな光景に意識を失いかける。緑の髪の子は不憫な目に遭う運命なのだろうか? ちなみに下手人である神奈子は何だか見覚えのある光景に冷や汗を流している。「前にもこんなことがあったなぁ」、と。

 

「お兄さぁーーーーーーんっ!! お兄さんお兄さんお兄さんお兄さんお兄さんお兄さんっ!!?」

 

 チルノは横島の名を叫びながらオンバシラによってボロボロになってしまった横島に駆け寄る。普段のチルノの様子からは考えられないほどの取り乱しぶりに、フランとはたては一瞬呆気に取られてしまう。しかし、すぐさま正気に戻り、チルノと同じく横島へと駆け寄る。

 チルノは自分が血で汚れるのも構わずに横島を抱き起こそうとするのだが、ここで思い出して欲しい。横島は、はたしてオンバシラに全身をぐっちゃぐちゃにされたくらいでどうにかなってしまうような人物だっただろうか。

 

「いいいいいっっってえなコンチクショーーーーーーッ!!!」

「お兄さ――――うそぉ……」

「ただお兄様大丈夫!?」

「横島さん、もう平気なの!?」

「ひいいぃぃっ!?」

 

 横島は普通に復活した。目の前で何事もなかったかのように復活して早苗が化け物を見るかのような目で見てしまうほどに普通に復活した。血の痕も衣服のほつれも何もなく、普段と変わりのない姿である。あれほど取り乱していたチルノも一瞬で正気に戻るほどの無茶苦茶ぶりだ。

 

「君は……やはり横島君! 私は……またも君にオンバシラを……!!」

「いやー、俺に激しいツッコミを入れるのは業界のお約束なんで大丈夫っすよ。でも他の子に迷惑が掛かるのでもう少し攻撃範囲を狭く……」

「くうぅ……すまない……本当にすまない……!! というか久しぶりに本編に登場したのに何でまたこんな役回りなんだ……!! 作者は私が嫌いなのか……!?」

「ま、まーまー元気出してくださいよ! 俺は神奈子様好きっすよ! 美人だし大人っぽいしチチでかいし!! これでもう少し外見年齢が上だったらぼかーもう……!!」

「ん、んん……そうまで言われると、流石に照れるなぁ……あはははは……」

 

 何だか問題はとんでもないスピードで解決に至ったらしい。それでいいのかと思わなくもないが、横島は一切気にしていない様子。神奈子の悔し涙や大きなチチに絆されたらしい。実にイヤラシイ目をしている。神奈子も神奈子で横島のセクハラを交えた褒め言葉を喜んでいるし、何やら残念な匂いが漂い始めている。

 

「それにしても本当に久しぶりっすね。あの時と変わらず……いや、神奈子様はあの時より、今の方が確実にお美しい……!!」

 

 そして媚を売るのも忘れない。置いてけぼりのチルノやフランは顔を見合わせ、はたては横島のバイタリティに改めて驚く。「これもナンパになるのでは?」という考えも頭にちらついたが、横島の守備範囲が下がるのは自分にとっても都合が良いため、口には出さない。どんどんと横島の影響を受けてきているようで、これには文もにっこりだろう。椛は……強く生きてほしい。

 

「む……ん。そんな風に褒められるのは最近はなかったな。そうか、美人か……ふふふ」

 

 神奈子も満更ではないようで、照れ臭そうに笑みを浮かべ、頬にかかる髪をいじる。その様はまさに美少女であり、横島もデレデレである。

 流石に“横島をぐちゃぐちゃにした人物が横島に口説かれている”という今の状況は面白くないのか、フランとチルノが「横島の仇」と神奈子にグルグルパンチをお見舞いする。見た目には可愛いそれだが、相手は並の妖怪をも越える氷精と吸血鬼だ。効果音のほうは「ボスボスボスッ!!」「ドゴドゴドゴッ!!」など、実に重々しい。

 

「ああ、本、当に、悪、いと、思っ、てい、る。だ、から、みぞ、鳩尾はやめげふぅっ」

 

 神奈子は負い目からか二人の拳を甘んじて受けているが、そろそろ本当に苦しそうだ。涙目になっている。結局二人は横島のとりなしにより落ち着いた。二人そろって頬を膨らませているのは可愛らしいのだが、容赦なく鳩尾を狙ったりするところは恐ろしい。

 

「はーっはっはっはっはっはっはっ!! はぁーっはっはっはっはっはっはっはっはっ!!!」

「……!? この笑い声は……!?」

「あの時と同じ無様を晒すとは……!! 修行が足らないよ、神奈子っ!! だぁから神奈子はアホなのさぁっ!!」

 

 神奈子が少々咳き込みながら腹を押さえ、早苗がそんな神奈子の背をさすっていると、どこからか幼い少女特有の甲高い笑い声が響く。驚いた横島達が辺りを見回すが、一行に謎の笑い声の主の姿は見えない。一体どこにいるというのか。

 

「どこを見ているのかなっ!? 私はここだよっ!! ここにいるっ!!」

「――――!! 神社の屋根の上だ!!」

 

 横島の指摘に、皆が一斉に視線を向ける。守矢神社の屋根の上、そこにいた人物は――――市女笠に目玉を付け、青と白を基調とし、各所に鳥獣戯画の蛙の絵が描かれた壷装束を着た少女が腕を組み、仁王立ちをしていた。そう、彼女こそが守矢神社最後の神――――。

 

「諏訪子様……!? 何でわざわざ高い所に!?」

「いやあ、こういう時のお約束だしねー」

 

 早苗のツッコミに「たはは」と笑いながら答える諏訪子。高い場所にいるので、当然下の者達にはパンツ丸見えである。

 諏訪子は「とうっ」と気合を入れてジャンプし、そのままくるくると抱え込みの宙返りをして地面に着地した。壷装束はスカート状になっているので、当然パンツ丸見えである。

 

「はしたないですよ諏訪子様!!」

「いやー、ごめんごめん。長らく男の子と絡んでないせいか、感覚が麻痺しちゃって」

 

 早苗の注意にも悪びれた様子のない諏訪子に、早苗は大きな溜め息を吐く。

 

「その気持ちも分からなくはありませんが、今はお客さん――――横島さん達がいらっしゃってるんですから、そういうのは止めてください」

「あはは、気を付けるよ。……それにしても久しぶりだね、横島君。元気してた?」

「はいっ! お久しぶりでございます諏訪子様っ! ご無沙汰してしまい申し訳ありません!! 諏訪子様もお元気なようで、胸の痞えが取れたような気分でゲスよ!!」

 

 横島は諏訪子の前に跪き、揉み手をしながら全力で媚を売り始めた。はたては「ええ……」と困惑し、神奈子は「仕方ないなぁ」と苦笑し、早苗は「……」と、無言で軽蔑の視線を送っている。

 諏訪子は土着神の頂点であり、祟り神として有名なミシャグジ様の統括官。信仰が神の物だった時代には、このような光景はありふれたものだったのだ。

 

「んんーふふふ。私の前に跪き、媚を売る少年……。イイねぇ、ゾクゾクしてきたよ……!!」

 

 諏訪子は跪く横島の頭を撫で、「ニタァ……」と笑みを浮かべる。それはまさに“爬虫類のような笑顔”という言葉が似合うものだった。それでも諏訪子の容姿からか、不気味でありながらも可愛らしいという印象を抱く不思議な笑顔である。

 諏訪子が横島の頭をかいぐりかいぐりと撫で回していると、またも何者かの声が守矢神社に響き渡る。

 

「――――よくもアタイの前に姿をあらわした!!」

「むっ、この声は……」

「今度は何だ……!?」

 

 辺りを見回してもやはり声の主の姿はない。もちろん神社の屋根の上にもだ。

 

「ここで会ったが百年目……!!」

 

 響く声には何やら怒りや恨みといった感情が込められている。一体何者であるというのだろうか。

 

「……!! 鳥居の上です!!」

 

 ついに大妖精が声の主を発見する。

 その者は白と青を基調とした服に身を包み、青いリボン、ひまわりの髪留め、そして氷の羽根が特徴の妖精少女――――。

 

「アタイは、アンタに弾幕ファイトを申し込む!!!」

「やっぱり君か――――チルノ!!!」

「何でまたわざわざ高い所に!?」

 

 それは⑨と煙は高い所が好きと申しますので……。

 

 チルノと諏訪子、二人はじっとにらみ合い、互いに闘気を放出し始める。

 

「……あの二人って何か因縁あんの?」

「はい……。チルノちゃんは時々カエルを凍らせては水につけて生き返らせる……という遊びをしているんですけど、たまたま散歩をしていた諏訪子さんがチルノちゃんを叱って、それに反発したチルノちゃんが弾幕ごっこを吹っかけて……」

「百パーセント完全にチルノが悪いじゃねーか」

「そうなんです……。二人とも意外と気は合うみたいなんですけど……」

 

 横島は大妖精の元へと歩み寄り、疑問を口にする。大妖精からの答えでは思ったよりも険悪ではないようであり、これも一種のじゃれあいなのだろうと解釈する。二人の表情を見れば、互いに小さくではあるが笑みを浮かべているのが分かる。

 

「いいだろう……ではここに、第十二回弾幕ファイトの開催を宣言しようじゃないか!!」

「……今までもあんな感じのテンションで十一回も?」

「……はい」

 

 ツッコミ所だ。完全なるツッコミ所なのだが、どうもツッコむ気が起きない。これほどやる気の出ないツッコミ所も珍しいだろう。

 

「それじゃあ始めようか!! 弾幕ファイトォ……!!」

「レディー……!!」

 

 二人の闘気が極限にまで高まり、周囲に塵の様な物が漂い始める。

 緊迫した空気、高まる霊波。――――知らず、大妖精は唾を飲み込んだ。それが、合図となった。

 

「ゴオオオォォーーーーーーッッッ!!!」

 

 二人は同時に叫び、猛然と相手に向かって突き進む。腕を振りかぶり、矢のように拳を放つ。響くは爆砕音だ。

 ――――ぶつかり合う拳と拳。衝撃は伝播し、周囲の空気を弾き、震わせる。二人は同時に弾かれたように飛びのき、空を飛び、空中で幾度も出会いと別れを繰り返す。

 繰り出される拳と拳。交わされる蹴りと蹴り。二人の弾幕ファイトはまだ始まったばかりである――――。

 

 

 

 

 

 

「なに!? 弾幕ファイトとは弾幕ごっこのことではないのか!?」

 

 今度こそ、横島のツッコミが守矢神社に響き渡った。

 

 ※弾幕ファイトは弾幕ごっこです※

 

 

 

 

第六十一話

『とびだせ妖怪の山』

~了~

 




お疲れ様でした。

狗我兄弟のモチーフは遊戯王の迷宮兄弟でした。(過去形)

最近遊戯王熱がまた再燃してきましてカードを買い漁ってます……いい年こいて何やってるんだ私は。

今の使用デッキはややネタ構成の【ブラックマジシャン】、完全ネタ構成の【カオス・ソルジャー】
作りたいデッキは純正の【月光】、純正の【RR】、【真紅眼】も作りたいな……お金ェ……

それでは次回をお待ちください。

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