煩悩日和の方を投稿してからちょっと重めの風邪を引いてしまい、仕事やら何やらでヒーコラ言ってました。
なので、今回は完全に場つなぎというか、お茶濁し回です……。
申し訳ないです。
※あとがきにちょっとした裏話があります※
第五十七話
『横島君、師匠の物語を知る』
チルノ達が目覚めるまで、白蓮と神子は横島に斉天大聖が如何に凄い存在なのかを説明していた。
曰く、東海竜王から如意棒を奪った。
曰く、閻魔を散々に脅して閻魔帳から自らと仲間の名前を消し、不老不死となった。
曰く、蟠桃を盗み食いし、呼ばれてもいない宴会に強引に参加し、太上老君の金丹を食った。
曰く、天界で十万の神兵を相手に無双した。
曰く、八卦炉で焼かれても生きていた。……どころか目が燻されて赤くなっただけに留まった。
曰く、六人の光の巨人と協力し、仏像を盗んだ犯罪者とたまたまその場に出現したと思われる怪獣達を皆殺しにした。
曰く、五人の仮面を被ったバイク乗りと協力し、敵対組織を皆殺しにした――――などなど、自らの師匠のやりたい放題な話を臨場感たっぷりに聞かされた。
横島としては前半はともかく、後半の二つは「いや、それ本当に猿爺がやったの?」とツッコミたくて仕方がない。その後半のインパクトも凄かったのだが、特に横島が興味を惹かれたのは、師匠の使う武器のこととお仲間のこと。
さて、孫悟空の武器といえば如意棒――――
如意とは自由自在という意味であり、その通りに自在に大きさを変えることが出来る。最大のサイズでは、何と天国と地獄を繋げてしまうほどにまで伸ばせるのだというのだから驚きだ。
悟空はその怪力から普通の武具では満足出来ず、桁外れの重量だった如意棒を武器として使用することにしたのである。
ちなみにその重さは一万三千五百斤。分かりやすく言えば、およそ八トンもの重さである。これには横島も大層驚いた。
――――そうかぁ……。ワイはそんな
「あ、あの……どうしたの、横島さん……? すっごくガタガタ震えてるけど、何かあったの……?」
「何でもない……。何でもないんやはたてちゃん……」
知りたくなかった事実に、今更ながら極上の恐怖を味わってしまう。酷く怯えた様子の横島をはたては何とかしたかったのだが、フランを膝枕している彼女では微妙に動き辛い。しかし、それでもはたては何かをしてあげようと横島の恐怖が安らぐようにと、手を握る。
反対側では急に怯えだした横島に困惑しながらも、はたてと同じように横島の手を握る布都の姿があった。
「ふうぅ……何かごめんね、二人とも」
「こ、こんなことならいつでも私はその……」
「何にせよ、落ち着いたのなら良かったのである!」
二人は対照的な表情ではあるが、笑って許してくれた。頬を染め、照れくさそうなはたてに、天真爛漫な笑顔を見せる布都。横島の心の中の恐怖が見る見るうちに消え去っていくようだ。二人の柔らかな手は、それだけで癒しであった。
「んー……。しかし、俺って師匠のこと何も知らなかったんだな。三蔵法師に弟子入りして天竺を目指す……っていうのは知ってたけど、弟子入り前の話とか仲間とかの詳しいことも全然知らなかったし」
はたて達のおかげで落ち着きを取り戻した横島は、改めて自分の師匠である斉天大聖孫悟空について考える。話を聞いてよく思い知ったが、本当にとんでもない存在だった。天界でも屈指の武神、というのは伊達ではなかったようである。
そもそも斉天大聖孫悟空が活躍する物語“西遊記”は名前を知らぬ者は存在しないくらいには有名であろう。特に調べてもいないのにいくつかのエピソードを知っていたくらいなのだから、その知名度や話題性、影響力といったものは桁違いだ。だからこそ、横島も自らの師匠であるのに知ろうとしなかったようなのだが……。もし仮に孫悟空が美人でナイスバディなお姉様だったら話は別だっただろう。
「それにお仲間もなぁ。猪八戒も沙悟浄も色んな意味でエグ過ぎる……」
元々孫悟空をメインに聞かせてくれた話だったので内容はさらりとしたものだったのだが、その実態はかなり衝撃的だった。
横島の認識ではこの二人は人間に友好的な妖怪で、善意から三蔵法師の手助けをしてくれている……くらいのものだったのだが、その考えは木っ端微塵に打ち砕かれた。
まず猪八戒だが、元々は天帝の水軍を指揮する天蓬元帥という提督であった。しかしこの天蓬元帥、横島と同じく恐ろしいまでの女好きという一面があったのだ。
この頃の彼は
天蓬元帥は天帝によって罰せられ、鎚で二千回打たれた後、身分を剥奪された上に地上に落とされてしまったのだ。
そして彼は人間として真っ当に生きていこうと思っていたのだが、どういうわけか人間ではなく妊娠していた雌豚の胎に宿ってしまい、豚の子として生まれ変わってしまうのである。
そうして彼は何やかんやあって人を食う妖怪となり、山に篭っては人間を襲っては食う生活を送るのだ。
横島はその“何やかんや”のことも知りたかったが、白蓮達は途中から目を覚ましていたチルノ達に配慮したのであろう。血生臭い部分は意図的にぼかされているようだった。
ちなみにその後観音菩薩とその弟子に「三蔵法師の供をして天竺まで行くなら罪は許され、来世では天界に住める」と言われ、罪を詫びた天蓬元帥は二度と人間は食べないと誓い、そんな彼に観音菩薩は“
「猪八戒って三蔵法師が付けた名前だったんですね」
「俺も猪悟能って名前は知らなかったな」
所々かなり端折られているが、それでも白蓮達の説明は大妖精達にも分かりやすかったようだ。チルノは「何で名前が三つも四つもあるの……?」と、首を傾げているが。
「しかし、可哀想なのは沙悟浄だよな。後のはっちゃけっぷりもアレだけど」
「ふむ……酷い話であるの」
横島の呟きに布都も深く同意する。二人だけでなく、他の皆も沙悟浄には同情的であるようだ。
この沙悟浄、彼も元々は天帝の近衛大将である“
蟠桃会とは簡単に言ってしまえば天帝の母である聖王母の誕生会であるのだが、この宴会に呼ばれなかったことを恨んで大暴れし、食事や酒を食い荒らしまくる男がいたのだ。
そう。――――孫悟空である。
この時、捲簾大将は誤って天帝の宝である杯を割ってしまったのだ。これに天帝は激怒する。
哀れ捲簾大将は鞭で八百回打たれ、地上に落とされてしまう。しかもその場所は砂漠のど真ん中だ。
昼は飢えと渇き、夜は凍え、更には七日に一度、天帝は天から剣を飛ばし、捲簾大将の脇腹を抉る。
「猿爺も大概だけど、ここだけ聞くと天帝ってド畜生だよな」
「昔の鬼社会や、今の天狗社会も流石にそこまで酷くないのにねー」
理不尽な目に遭うことに定評のある横島は、遠い目をしながら溜め息を吐く。この後の展開も、「仕方ないんじゃないかなぁ」という同情心が湧き上がり、あまり非難出来ないのだ。
そんな過酷な日々を過ごした捲簾大将はどんどんと歪んでいき、砂漠に迷い込んできた人間を食らう妖怪へと変わっていった。
元は人と同じ姿をしていた彼は、異形の者へと成り果ててしまったのだ。
そうして荒んだ日々を過ごしていた彼の元に、二人の人物が現れる。観音菩薩とその弟子だ。彼等は天蓬元帥の時と同じように、三蔵法師の供をして天竺まで行けば、罪を許されて来世では天界に住めるようになると言う。
天界に戻りたい捲簾大将は罪を詫び、三蔵法師の供になると誓う。そんな彼に観音菩薩は“沙悟浄”という法名を与え、三蔵法師が来るまで待っているように命じたのだ。
「やっぱり天界には戻りたいんだな」
「あたいだったら……戻りたいかなー?」
「俺としては天帝が嫌だな。顔見たら絶対ブチ切れるわ」
チルノは何度も首を傾げながらうんうんと唸っている。あんな目に合わされた天界に戻りたいのか、と考えると、どうにも上手く纏まらないらしい。
さて、最後は三蔵法師であるが、彼についても衝撃は大きかった。何とこの三蔵法師、今までに九回も死に、その度に生まれ変わっているのだ。毎度天竺へと旅立つのだが、いつも同じ場所で立ち往生した挙句、同じ妖怪に食い殺される。
では、その妖怪とは何者なのか? 真実を知った横島達はそれはもう驚いた。何故ならその妖怪とは、沙悟浄だったのだから。
沙悟浄が首に巻いている九つの髑髏。あれは他でもない、三蔵法師の前世達の髑髏だったのだ。
「自分を食ってきた奴を仲間にするとか、三蔵法師マジパネェっすよ」
「本当よねー……」
自分を九回食い殺した相手を仲間にする三蔵法師には、横島達も感心するしかない。もし自分が同じ立場であったのなら、絶対に仲間にはしなかったであろう。三蔵法師はお人好しだったそうだが、そのレベルは遥かに超えていそうなエピソードだ。
「ちなみに三蔵法師様が乗っている白馬は玉龍といって、元々は龍だったんですよ」
「へー」
「他にも意外なエピソードといえば、男である猪八戒と三蔵法師が妊娠してしまった話などがあるな」
「どういうこと!?」
白蓮と神子が語る孫悟空とその仲間達の話は大変に面白かった。気付けばチルノや大妖精も夢中になって聞いており、昼寝から目覚めたフランも楽しそうに聞いている。
白蓮は時折説法というか、難しいお話を混ぜるのが玉に瑕であったが、それらも全てが為になる話であった。流石は僧であると言えるだろう。その点、神子は聞く者の好奇心を煽るような話し口調であり、物語を聞かせる話し手としては最高の部類だろう。いつの間にか布都もキラキラとした目で神子に話の続きをせがんでいる。
いつしか話も終わり、その場の皆にはまったりとした、しかし充実感に満ちた空気が漂い始める。面白かった。それが皆に共通する感想だろう。まさに一大スペクタクルと言えるだろう。
特にタイの巨大ロボットである青い
時間を忘れて話し込んで数時間、すっかりと日も暮れてしまった。
「あっと、そろそろ帰らないといけないか。チルノ達も早めに休ませないといけないし」
「あら、私としたことが……。どうもすみません。ついつい話し込んでしまって……」
「いや、久々に子供に戻ったかのような時間を過ごせたよ。非常に有意義な時間だった」
一行の中でも見かけだけは年長者である横島が暇乞いをし、白蓮も顔を赤らめて自省する。神子は楽しげな笑みを浮かべ、どこか満足気に息を吐き、帰り支度を整える。といってもマントを羽織り、アルバムを仕舞うだけであるが。
「チルノ達はどうする? 念のために永琳先生に診てもらうか?」
「あ、お願いできますか……?」
「んー? 大ちゃんがそう言うならあたいもー」
今から紅魔館に戻り、診察を受ければ夜も遅くなるだろう。チルノは霧の湖に住んでいるらしいが、やはり安静にしておかなくてはならない。これで二人は紅魔館にお泊り決定だ。
「横島殿! その、またお会いできますでしょうか……?」
「んー? そりゃあまあいつでもって訳にはいかないけど、都合が合えばな。美女美少女との逢瀬とか大歓迎だし!」
「そ、そうであるか……!!」
最初はもじもじと恥ずかしそうに横島に話しかけていた布都だが、横島から美少女認定されたことで表情が明るくなる。まさに有頂天といった風情だ。
「ふふ。よほど横島君が気に入ったようだね」
「はい! 太子様がくれたこの好機、必ずや物にしてみせます!!」
「……。? 何だか分からんがその意気や良し!!」
布都は今回の横島との出会いが神子と白蓮が準備したものだと考えている。神子には布都が何を言っているのかよく分からなかったが、とりあえず空気を読んで褒めておくことにする。河童製の新型ヘッドホンはとても高性能であり、彼女の能力を完璧に制御しているようだ。
「そんじゃ、白蓮さんに神子さんと布都ちゃん。俺達はこれで」
「我々も失礼するよ。白蓮、次は貴女がアルバムを用意する番だから、忘れないように。横島君も、元気で」
「うむ、世話になったの。横島殿、いずれ紅魔館に挨拶に向かわせていただきます」
それぞれがそれぞれと挨拶を交わし、家路に着く。チルノと大妖精は念のために横島とはたてに抱えられている。本人達としては既にダメージは感じられないので辞退したかったのだが、心配性な横島がそれを許さなかった。ならば仕方ない、と大妖精が横島に、チルノがはたてに抱えられることになる。
これは大妖精が横島とチルノの距離感に嫉妬した結果、これ以上チルノを横島に近づけさせてなるものかと動いた結果なのだが、現在大妖精は真っ赤に染まった顔を両手で隠し、悶えながら横島の腕の中に収まっている。
横島の『抱っこ』はデフォルトでお姫様抱っこなのだ。彼の温もりやら力強さやら匂いやらで大妖精はいっぱいいっぱいになってしまった。それを羨ましそうに眺めるのはフランとはたて。チルノは悶えている大妖精に首を傾げながらも、「あたいも今度やってもらおう」と考えるのであった。
第五十七話
『横島君、師匠の物語を知る』
~了~
「――――何てことなのっ!? 私が、こんな簡単なことに今まで気付かなかったなんてっ!!」
ここは紅魔館の大図書館。その中央に存在する読書スペースにおいて、この空間の主、パチュリーが悲鳴のような声を上げていた。
パチュリーは数枚の紙を取り出し、それに何事かを書き連ねると、それを魔法で鳥の形に折り曲げて、簡易的な使い魔とする。
「これを魔理沙とアリスの下へ……!!」
パチュリーは魔法を発動し、遠く見える窓から鳥となった手紙を魔法の森へと飛ばす。彼女達ならば、きっと翌日には来てくれるだろうことを信じて。
パチュリーは気付いてしまった。彼女にとって、とても看過出来ないことが起こっていると。
危機感を募らせる今のパチュリーを、親友のレミリアが見たらこう言うだろう。
――――まーたどうでもいいことでシリアスな空気を出して……。
今のパチュリーに普段の冷静さは存在しない。彼女の瞳は、どよどよと澱んでいた。
お疲れ様でした。
次回は三人の魔法少女が紅魔館に集結……!!
何がとは言いませんが、きっと
大:パチュリー
中:アリス
小:魔理沙
なんだろうなあ……。
何がとは言いませんが。
それではまた次回。
※裏話※今だから言えること。
実は、初期プロットでは横島君がお手伝いさんとして色んな陣営に派遣される展開がありました。
その場所は白玉楼、守矢神社、寺子屋、命蓮寺、地霊殿です。
しかし横島が派遣されるのに、咲夜が中途半端な腕で納得するだろうか……? という疑問が発生。
ないな。きっと自分と同レベルになるまで派遣はしないだろう、という結論に至り、ボツとなってしまいました。(個人的な咲夜のイメージ)
ちなみにその名残が第七話のタイトル『横島君のお仕事――見習い執事編――』です。
もし初期プロットのままだったら『白玉楼のおさんどん編』や『命蓮寺の門前小僧編』が展開されました。
ここ数話で白蓮が出てきたのは、実は初期プロットの再利用だったのです。