東方煩悩漢   作:タナボルタ

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お待たせいたしました……。
8月に入って滅茶苦茶忙しくなり、かなり時間が掛かってしまいました。
恐らくもうしばらくはこんな感じの更新速度になるかも知れません。
楽しみにしていただいている皆様には申し訳ありません。




さて、それとは別にお知らせです。
東方煩悩漢、UA数が遂に30万を突破いたしました。
これもいつも応援してくださる皆様のお陰です。これからも、東方煩悩漢をよろしくお願いいたします。


第五十四話

 

 博麗神社の境内に御座を敷き、暖かな陽の光を浴びながらの昼食。その文字だけならば大変情緒溢れる情景に思えるのだが、実際にその光景を見てみると、そういった風情やら何やらは完全に吹き飛んでしまう。

 

「美味しい……!! 肉……!! 私、生きてる……!!」

「……何も泣かなくても」

 

 とある1人の少女が横島が作った牛丼を食べながら、感涙に咽び泣いているのだ。言わずもがな霊夢である。

 霊夢は他の人と比べてやたらと分量が多い肉を、ほっぺたを膨らませつつ幸せそうに噛み締めて嚥下していく。横島のちょっとした計らいだ。ちなみに萃香の前には少しお高めのお酒、チルノには冷めても美味しく食べられるように味付けを変えたりもしている。

 

「たまらないわ……!! 肉、肉、油、肉、油……!! いくら食べてもご飯が見えてこない圧倒的なボリューム!! そして申し訳程度の野菜!! うおォン 私はまるで人間火力発電所だわ!!」

「もぐもぐ!! もぐもぐ!!」

 

 霊夢は圧倒的ボリュームの牛丼を何事か実況しながらも凄まじいスピードで食いつくしていき、チルノは一心不乱に……というよりは一生懸命に食べ進めていく。2人とももはや牛丼しか見えていないといった様相を呈しており、周囲はそんな2人を苦笑しつつも温かく見守っている。特に横島などはその食いっぷりに親近感を覚えているほどだ。

 

「いやしかし、本当に美味いね。このレシピは咲夜に教わったの?」

 

 萃香は気分良く酒を呷りながら横島へと問い掛ける。返ってきたのは当然肯定だ。

 

「ふふふ、こう見えて今の俺はけっこう料理を作れるんだぜ? 今なら“お料理タダちゃん”と名乗れるぜー」

「真面目に仕事してるんだね~……でも、大丈夫なのかい? この牛丼、ニンニクが使われてるみたいだけど?」

「えっ!? こ、この牛丼、ニンニクが入ってるの!?」

 

 萃香の指摘に真っ先に反応したのは当然フランだ。何せ彼女は吸血鬼。陽の光と同様、ニンニクは吸血鬼の弱点なのだから。現に横島とフランは隣り合って座っているが、2人の頭上には日傘が広がり、陽光を遮断している。横島が用意した日傘用のスタンドが役に立っている。

 横島は慌てるフランの頭を1つ撫で、ニヤリと口角を上げて微笑む。

 

「ふふふ、今の俺がそんなミスを犯すわけないだろ? フランちゃんのと俺の牛丼にニンニクは入ってないんだよ。ちゃんと別々に作ったからな」

「そっか、良かった……」

 

 ホッと安堵の息を吐くフランに、横島は「もう少し信じてくれても良いと思うんだがなー」といった感想を抱くが、一応言っておくとフランは横島のことをレミリアと同等に信じている。だがそれはそれ、これはこれというやつだ。むしろ横島はこういうものでうっかりと凡ミスをかましそうで少々恐ろしくもある。

 

「ふーん、色々と気を付けてるんだね。……でも、他の子達は(にお)いとか気になるんじゃないの?」

「その点も抜かりはねーぜ。今回使ったのは無臭ニンニクだからな」

 

 無臭ニンニクとは、その名の通り臭わないニンニクのことである。大きさは普通のニンニクの6倍以上、臭いはニンニクの14分の1というニンニクであり、しかも普通のニンニクと変わらない栄養分を含んでいる。

 これだけでも充分ではあるが、横島は更に臭いを抑える為に蒸してある。咲夜から教わった調理法だ。

 

「それでも気になるなら、食後にチルノに冷やしてもらってるリンゴジュースを飲んだらいいよ。リンゴに含まれるアップルフェノンっていう成分が臭いを抑えてくれるから」

「ほえー……それもあのメイドに?」

「いや、これは永琳先生に教わった」

 

 萃香と横島の問答に皆は食べながらも感心している。ニンニクを食べて臭いがしないというのは中々に驚きだったようだ。……ただしニンニクの臭い成分は体内に残っているので、それが体臭として現れる。それの対策として水分を多く取り、入浴などで汗を掻くことでその臭い成分を体外に出すことが出来る。横島はそれを皆に教えた。幸い使用した無臭ニンニクは少量であるので、そこまで気にするほどでもないだろうが、乙女としてはその情報はありがたいだろう。

 

「……」

 

 大妖精は横島の話を聞きつつ、何故フランだけでなく自分の分の丼にもニンニクを入れなかったのか、ふと気になった。単純に肉が入ってないから? 確かに肉がないのにニンニクを入れるのは少し妙な気もする。自分が知らないだけでそういう調理方法もあるのかも知れないが、この丼には合わないような気もする。

 大妖精は何となく横島を見つめ、その隣に()()()()()()()()が寄り添うように座っているのを見て――――。

 

「――――ッ!!?」

 

 ボンッ、と一瞬で顔を真っ赤に染めた。

 

()もぐもぐ(大ちゃん)!? もぐもぐもぐ(どうしたの)っ!?」

「何でもないっ、何でもないから!! ……あとお行儀が悪いよチルノちゃん!!」

 

 一体ナニを想像したのか、大妖精は横島とフランを見て「お、大人……!!」という感想を漏らした。大妖精の隣に座っていたはたてはその言葉で大体の事を察し、生温かい眼差しで大妖精を見やった。外見年齢に似合わず、意外と耳年増なようだ。そして何気ない様子を装って密かに写真を撮っている。

 

「いや、実年齢からすると別におかしくないのかなー?」

 

 大妖精の実年齢は知らないが、少なくとも見た目通りとは限らないだろう。

 外見年齢とつりあわないと言えば、大妖精はその外見に比して胸が大きい。巨乳……というほどではないが、それでもそこそこの大きさだ。ややスレンダーな体型のはたては大妖精の胸に少々嫉妬を覚える。はたてがまだ大妖精ぐらいの外見年齢だった時、彼女の胸はフルフラットだったのだ。

 

「そういえばさー、アンタ達随分と仲良くなったみたいね」

「ん?」

「え?」

 

 はたてがぱるぱると大人気なく嫉妬心を燃やしている間に、霊夢が横島とフランにそんな言葉を投げかけていた。

 横島とフランは寄り添い合うように座っている。それはまるで兄妹(きょうだい)のようで――というには、少々距離が近過ぎるように思える。

 

「あー……そういや言ってなかったか。実は……」

「ふむふむ……」

 

 横島はやや遠い目をしながら説明を始める。これから先の展開が分かるからこそそうなるのだが、案の定霊夢の横島を見る眼が犯罪者を見る眼へと変化していた。ちなみに萃香は感心したように頷いている。「女を3人も囲うとは中々やるじゃないか!!」とは酔っ払いの談。

 

「……妹紅に美鈴、そしてフラン……」

「……」

 

 霊夢の鋭い視線を真っ直ぐに見返すことが出来ない。横島自身、今の状態が一般的にどのような目で見られるかは理解しているのだ。これから先、更に恋人が増えるかもしれないというのを霊夢が知れば、彼女はどのような反応を返すだろうか。

 冷や汗をだらだらと流す横島をじーっと見つめていた霊夢だが、ふと微笑むと、今度はフランへと視線をやる。

 

「まあ、何はともあれおめでとう。祝福はさせてもらうわ」

「えへへ、ありがとう霊夢」

 

 にこやかにフランを祝福する霊夢だが、次に横島を見た彼女の眼は、何というか形容し難い生温かさがあった。犯罪者を見るような眼でなくなったのは嬉しいが、この眼も少々……というより全力で遠慮願いたい眼だ。

 

「アンタは……あの時、初めてここに来た時に言ってた言葉通りになったわね」

「……」

 

 横島が初めて博麗神社に来た時に言い放った言葉。

 

 ――――ワイがロリコンになってまうかも知れんやないかあああああああーーー!!!!

 

 霊夢は眼を閉じて空を仰ぎ、やがて柔らかく微笑みながら横島の眼を見つめる。

 

「横島さん……ついになったのね。――ロリコンに……!!」

「やめてくれ霊夢ちゃん。その言葉は俺に効く」

「……」

「……」

「ロリコ」

「やめてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

第五十四話

『力の源』

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさまでしたー……!!」

「あいよ、おそまつさーん」

 

 霊夢が満足気に手を合わせ、幸せの溜め息を吐く。他の皆は既に食べ終えており、1番量の多かった霊夢が今食べ終わったのだ。あれ程のスピードで食べ進めながら、1番食べ終わるのが遅かった……一体、どれほどの量だったというのだろうか。

 霊夢はチルノからリンゴジュースを受け取り、それを一気に呷る。

 

「っかぁー!! キンキンに冷えてやがるっ……!!」

「随分と親父臭いな……」

 

 流石はチルノと言うべきか。預けて十数分のリンゴジュースはかなり冷たくなっていたらしい。当たり前だが果汁100パーセントである。

 

「あ、キンキンに冷えてるので思い出したんだけど、今ウチにあれだけの食料を保管しておく場所がないのよ。冷蔵庫が故障中で、紫に預けてるのよね」

「そうなのか? ……っていうか、冷蔵庫あったのか」

「……アンタ、今回といい前回といい、知らずにあんな大量の食材を持ってきてたの? ここは一応外の世界と繋がってるから、電気とか水道なんかは紫が何とかしてくれるのよ」

「ふーん……」

 

 横島は博麗神社が外と繋がっていることを改めて思い出した。確かに初めてここに来た時にそれを説明されていた。そういえば紅魔館も外の世界に繋がっていると聞いた事があるし、どのような力が働いているのかは分からないが、設備が近代化されている場所は例外なく外の世界と繋がっているのかもしれない。

 

「んー……じゃあ、氷室でも建てようか?」

「お、いいねぇ。丁度氷精もいるし、良いのが出来そうだよ」

 

 氷室とは雪や氷を貯蔵することで食材等を貯蔵する施設のことである。世界各地に存在し、日本では洞窟や地面に掘った穴に小屋を建てて保冷していたようだ。この氷室、何と冬に出来た自然の氷が夏場でも溶けずにそのまま保管することが出来たらしい。

 この氷室にチルノの氷を使えば、それはもう今までに存在したどんな氷室よりも素晴らしい性能を持った氷室が完成することだろう。

 

「というわけで」

「ああ。――――それじゃあ、行こうか」

「うん。――――氷室を、建設(つく)りにね」

 

 横島と萃香は風に衣服を棚引かせ、力強い足取りで境内の空いたスペースへと歩き出した。

 

「……いや、何で意味もなくかっこつけてんのよ?」

 

 それは本人達にも分からない。

 そしてそれから数十分後、そこには立派な氷室の姿が!!

 

「おかしいでしょうが!! 何でたったの30分くらいでこんな立派なのが出来てんのよ!?」

「――――ふっ。どうやら本気を出し過ぎたようだな」

「――――ふっ。そうだね。また世界を縮めてしまったみたいだよ」

 

 霊夢のツッコミに2人は髪をかきあげてよく分からないことを返す。凄い事をしてのけたのだが、何だか褒めるような気にさせてくれないのは2人の人柄故か。

 

「でもまあ、これで完成ってわけじゃないんだけどな」

「肝心の氷がまだだもんね~」

 

 横島と萃香はフランと大妖精の2人と雑談に興じているチルノの元へと向かう。横島達の背後にははたてがカメラを構えてついて来ており、パシャパシャと写真を撮っていた。労働の汗を流している横島の写真が欲しかったのだろう。

 

「おーいチルノー? ちょっと頼みがあるんだけど」

「ん? あたいに?」

「そうそう。ちょっとついて来ておくれ」

 

 横島達はチルノを伴って氷室の中へと入る。中はがらんとしており、備え付けられている棚には当たり前だがまだ何も置かれてはいない。今からこの氷室の中に、チルノの能力で以って氷を造り出してもらおう、というわけだ。

 

「そんなわけでいっちょよろしくお願いします!!」

「それはいいけど……どのくらいの大きさのがいるの? “ビキイイィンッ!!”くらい?」

「いや、もう少し大き目の“バキイイイイィン……ッ!!”くらいで」

「どういうことなの」

 

 どうやら横島とチルノの2人だけにしか伝わらない表現らしい。大妖精もチルノの何でも擬音で表す癖は知っているが、ここまで正確に内容を把握することは不可能である。大妖精は不機嫌そうに唇を尖らせると、横島の背後からチルノのすぐ後ろに移動した。

 

「んー……とりあえずやってみようかな」

 

 チルノは1枚のスペルカードを取り出すと、何か集中するかのように目を閉じ、何事かを呟き始めた。「想像(イメージ)するのは常に最強の自分(あたい)……!!」という言葉が聞こえてくる。氷の創造理念を鑑定したり基本骨子を想定したりするのだろうか。

 チルノの様子に横島が苦笑を漏らし、霊夢が大丈夫なのかと心配に思った瞬間、()()は起こった。

 

「……っ?」

 

 横島はチルノに渦巻く力に違和感を抱く。何か、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そんな違和感だ。だが、そんな違和感を覚えたのも束の間、チルノは眼をカッと見開いて、前方の空間にその力を解放する。

 

「凍符『マイナスK』――――!!」

「うぉわっ!?」

「きゃ――――っ!?」

 

 チルノが翳した手から発せられた、今までまるで感じたことの無いほど圧倒的な冷気。それは横島が思わず霊力を全力で稼働させ、左手で顔を防護しなければならないほどだ。それでもなおその身を刺す冷気に、横島は身体をぶるりと震わせる。

 

「んー……このくらいの冷たさなら大丈夫かな? ねーねー、あたい上手く出来た?」

 

 横島を振り返るチルノは屈託の無い笑顔を浮かべている。それこそ、チルノの背後の氷塊とは真逆の暖かな笑みだ。そのチルノの姿に、横島は心の底から「チルノって(すげ)え……!!」と思ったそうな。

 ちなみに横島は空いた右手で大妖精を咄嗟に抱き締める形で庇っており、彼女は突然の事態に眼を白黒させ、先程抱いた嫉妬だとかチルノから発せられた冷気だとか、そんなものは遠くの方へとうっちゃってしまった。もちろんはたてが(羨ましそうに)撮影済みである。

 

「……」

「……」

 

 横島やはたてが驚愕し、チルノを誉めそやしたり写真を撮っている背後、霊夢と萃香は視線を交わしあい、互いに頷き合った。何か、今のチルノの力に覚えがあったらしい。

 

「さて、氷室の方はこれで完成したし、食材を運び込まねーとな。ああ、洗い物もあったな」

「いやいや、それなら私がやっておくよ。流石にお客さんにそこまでしてもらうのはね~」

「ん、いいのか? 俺は別に気にしないけど……」

「流石にそこまで図々しくはないのよ、私は。色々と幻想郷を回ってるんでしょ? あんまりここで時間を取り過ぎるのもどうかと思うわよ?」

 

 まだまだ働く気満々だった横島を宥め、霊夢と萃香は博麗神社で無駄な時間を過ごさないように言い含める。それは横島達を思っての発言にも聞こえるし、何か意図的に横島達を博麗神社から遠ざけようとしているようにも聞こえる。

 幸い横島はその発言の裏を疑うようなことはしなかった為に霊夢達の言葉に消極的ながらも頷いたが、これが他の人物だったならば言葉の裏を探られただろう。

 

「んじゃ、俺達はもう行くけど、偶には紅魔館にも遊びに来いよ? お嬢様が霊夢ちゃんに会いたがってたし」

「レミリアが? ……分かったわ。近い内にそっちに行くから」

「それじゃーねー」

 

 横島達が氷室を建てている間に食休みも済んでおり、皆は元気な様子で空を飛び、次の目的地へと進んでいく。チルノ曰く、「さっきが神社だったから、次はお寺に行こう!」だそうだ。その時霊夢の眉がぴくりと跳ね上がったが、それに気付いたのは萃香だけだ。

 

「……どう思う?」

「……どう、って言われてもねえ」

 

 萃香の問いに霊夢は難しそうに空を仰ぎ、腕を組む。そのままあらゆる思考を巡らせるが、明確な答えなど出てこない。つまりは全くもって分からない。

 

「そもそも、何でチルノが()()()を使えるのよ?」

「さあねえ……いくら妖精が自然の触覚っていっても、()()は使えないはずだし……」

 

 霊夢達は共に頭を捻る。()()()()()()()()からこそ、チルノがその力を振るうことが理解出来ない。そもそもあの力と関係があるのは霊夢と萃香、魔理沙とアリスにパチュリー、そして藍の6人だ。はっきりと言えばチルノは関係がない……はずである。

 

「……今度魔理沙とアリスを誘って、紅魔館に行ってみようかしら?」

「それがいいかもね」

 

 何となくだが、()()()()がする。霊夢の胸中に渦巻く不安は未だ小さなものだが、これから大きく渦を巻き、嵐となる可能性も否定出来ない。

 

「……特訓、無駄にならずに済みそうね」

 

 霊夢がぽつりと呟く。それは、断定にも似た言葉だった。否、あるいは()()()()()()のだろう。その時が、訪れることを。

 

 

 

 

 

 

「んで? お寺ってことはこの人里の外れにある……命蓮寺(みょうれんじ)、だっけ? そこのことでいいのか?」

「うん、そーだよー」

 

 命蓮寺。幻想郷に最近建立された寺であるらしいが、その割には檀家や出家者もそれなりの数がいるようだ。博麗神社涙目である。

 

「寺かー……相性悪いんだよなー、俺……」

「そうなの?」

 

 命蓮寺へと続く道を歩きながら、横島が憂鬱そうにこぼす。

 

「ああ。何せ俺の霊力源って煩悩だからさ、仏教って煩悩を祓うだろ? 俺煩悩が無くなったら何も出来なくなるんだよなー」

「煩悩が霊力源……なんですか」

 

 横島の言葉に大妖精がやや引き気味に答える。先程チルノの冷気から庇ってくれた時は頼もしく思えたものだが、やはり早々見直すことは出来そうにない。

 そうやって談笑しつつ道を進み、一行は長い石畳の階段に辿り着いた。命蓮寺はこの先にある。

 

「思ってたよりも長い階段だな。これを上るのも修行の内なのかね?」

「めんどっちいなー。あたいは飛んで行きたい」

「まあまあ、いいじゃないのー。周りの緑を楽しみながら階段を上るのもありじゃない?」

 

 はたての言にチルノは不満気だが、それでも以降は文句を言わずにその足で階段を上る。周囲に生えている木々や、それから顔を覗かせる鳥や昆虫といった小動物達。そしてその動物達の鳴き声による音楽など、確かに楽しめる材料は揃っている。

 はたても何枚も写真を撮りつつ自然を楽しみ、その写真で皆と会話を盛り上げる。特に横島が聞き上手なお陰か、2人の会話はよく弾み、笑顔も絶えない。はたてにとっては至福の時と言えるだろう。

 

 ――――だが、そんな横島達に迫る影があった。

 

 木の上から横島達がすぐ下を通るタイミングを計る、怪しげな人影が1つ。その手には、何やら()()()()()()が握られている。

 横島達が真下にやって来るまで、あと3歩。2歩。1歩――――。

 

「べろべろばーっ!!!」

「のひょーっ!!?」

 

 横島の眼前にいきなり現れた、上下逆さまとなった少女。その手には一つ目と大きな口がついた傘が握られており、中々にインパクトのある出で立ちをしている。傘の口からにゅるりと出ている巨大な舌がチャームポイントだろうか。どうやら枝に足を引っ掛けてこのようなことをしたようだ。

 

「やったー!! 驚いたー!! あはは、私ったら天才ね!!」

「な、何だこの子……?」

 

 どうやら驚かせるのが目的だったらしく、それが達成出来た為か無邪気に喜んでいる。どうやら妖怪のようだが、特に害意なども感じられない。いや、害といえば害はあったわけだが。

 

「あはは、ごめんねー。わた……わちきは“多々良小傘(たたらこがさ)”。最近人を驚かせてなくてねー、お腹が空いてたんだよ~。許してね♪」

 

 ウインク、舌を出す、片手で頭をこつんと叩く仕草。所謂“てへぺろ”というやつだが、何故だか異様に様になっている。横島も思わず許してしまいそうになるほどだ。

 

「お腹が空いた……驚かせる……つまり、人を驚かせることで空腹を満たせるのか?」

「そうだよ~。お兄さん話が早いね。もっと驚いてくれてもいいんだよ~?」

「ああ、驚いてる。今も驚きっぱなしだ」

 

 横島はうんうんと頷きながらも視線を小傘から離さない。……いや、小傘というよりは小傘の()()()()に、なのだが。はたてもそこを写真に収めまくっているし、大妖精は顔を赤くしている。

 

「……? 何か他の人の反応がおかしいね? 何に驚いてるのさ?」

「何って……驚きの白さにかな?」

「白……? ……――――ッ!!?」

 

 横島の言葉に首を傾げ、小傘は自らの身体に視線をやる。……今更だが、小傘は逆さまの体勢なのだ。そうなれば彼女が履いているスカートは重力に従ってずり下がり、本来隠さなければならない物を白日の下に晒している。つまり――――パンツ丸見え。

 

「キャアアアアアアッ!!? ちょっ、撮らないで!! 撮らないでーっ!!?」

「いやー、ほんとビックリだわー。ビックリしすぎてこれはもう眼に焼き付けるしかないわー」

「やめてよー!!?」

 

 横島を驚かせた代償は大きかった。彼女のパンツは横島の記憶に刻み込まれてしまったのだった。

 

「うう……何でこんなことに」

「自業自得でしょうが」

 

 それから木から下りた小傘は自らの不運を呪うが、それははたても言う通りの自業自得であり、横島もそれを可哀想だとは思わない。そもそも横島が驚かされた場所は階段であり、下手をしたら足を踏み外して転げ落ちたのかも知れないのだ。その罰が当たったと思えば、このくらいで済んだのは幸運だったと思って欲しいものである。

 

「うう……まあでもお腹も満たされたし、さっきみたいのは私も相手にも危険だって分かったから良しとするわ」

「案外前向きなんだね」

「それはそうと、吸血鬼に天狗に妖精に人間って、面白い組み合わせよね。命蓮寺に出家しに来たの?」

「いや、何つーか……見学?」

「そうなんだー。ちょっと残念かもね。でも、命蓮寺は見学も大歓迎だよー! ゆっくりしていってね!」

 

 小傘の大げさに身振り手振りを交えながらの説明は見た目にも可愛らしく、横島はおろかはたてやフランの頬も緩むほどだ。その際にも彼女が手に持つ傘――唐傘お化けは舌をでろんでろんと動かし、何とか横島を驚かそうとしている。正直驚きはないが不気味ではある。

 

「小傘ちゃんだっけ? そんなにオススメしてくるってことは、小傘ちゃんも命蓮寺の信者なのか?」

「全然違うよ?」

「違うの!?」

 

 小傘曰く、何回か遊びに行ったら向こうに信者認定された、とのこと。別に修行を強制されたりしているわけではないし、色々とお世話になっていることもあるので、布教活動のお手伝いをしているそうだ。困った所もある小傘だが、根は善良であるらしい。

 

「――――と、話し込んでる内に着いたね」

 

 小傘が一足先に階段を上りきり、くるりと横島達を振り返る。

 

「ようこそ、命蓮寺へ!」

 

 小傘は笑顔で横島達を歓迎する。命蓮寺が理想と掲げる“人妖の平等”――――。まるでそれを体現しているかのように。

 

 

 

 

 

 

第五十四話

『力の源』

~了~

 




白蓮出せませんでしたー! 命蓮寺に入ることも出来ませんでしたー!

でも小傘を出せたから満足……。
小傘って可愛いですよね。あの溢れるアホの子臭が何とも言えません……。はたしてそんな小傘らしさを出せているのかどうか……。あまりキャラを掴めていないのがアレですが。

チルノに関しては今後とんでもないオリジナル要素がバンバンてんこ盛りになってしまいますので、先にごめんなさいしておきます。
お許しください……。



煩悩漢におけるロリ組の胸の大きさ
みすちー>大ちゃん>チルノ>フラン>レミリア>ルーミア>てゐ>リグル
みすちーは外見年齢の割にはかなり大きめ。リグルは外見年齢の割にはかなりアレ。みたいな。


それではまた次回。

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