東方煩悩漢   作:タナボルタ

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今回は慧音の家での話ですー。


※今回は少し特殊な性癖描写が存在します。気分が悪くなったり、嫌悪感が湧くかもしれません※











※……でも好きな人はとことん好きかもしれません※


第四十七話

 

 影狼と赤蛮奇を抱えた横島達一行が民家の屋根や塀を越えて進むこと数分、あれから特に何の障害も無く横島達は目的地、慧音の家へと到着した。

 ここに来たのはつい先日であるのに、何故だか随分と間が空いてしまったような錯覚に囚われる。横島はそんな不思議な感覚を抱きながらも戸を叩き、中へと声を掛ける。

 

「すんませーん、慧音先生はいらっしゃいますかー?」

 

 普段よりも少し大きく、よく通る声。ちゃんと声が届いたのか、数秒後には中からやや遠い声で「はーい」と返事が聞こえてきた。

 パタパタと足音が聞こえ、程なくして戸が開かれる。

 

「はい、どちら様――と、横島……?」

「ども、慧音先生」

 

 突然の来訪に驚いたのか、慧音は横島の顔を見るなり動きを止めた。その間に横島と他の皆に挨拶をされてすぐさま返していたのは流石だが。

 

「あー……。とりあえず中に入ってくれ。また中々に面倒なことがあったようだからな」

 

 そう言った慧音の視線は横島が未だ担いでいる影狼と、美鈴が担いでいる赤蛮奇に注がれている。

 

「あの……そろそろ、下ろしてください……」

 

 影狼が消え入りそうな声で恥ずかしそうにそう呟いているのだが、横島はこういった肝心なときにその言葉を聞き逃す。

 ちなみにどのように影狼を担いでいるのかというと、まあ簡単に言えば“米俵”といったところか。これはこれで乙女のロマンらしい。(小悪魔的には)

 結局影狼は慧音宅の居間に腰を落ち着けるまで担がれたままだったという――。

 

 

 

 

 

 

 

第四十七話

『彼を知りたい』

 

 

 

 

 

 

 

「――――で、何やかんやありましてここまでやって来たわけっす」

「ああ……うん、なるほど。何というか、本当に巻きこまれ体質なんだな、横島は」

 

 慧音に事情を説明し終えた横島に、慧音から同情的な視線が送られる。それに対して横島が出来る事と言えばただ苦笑いを浮かべることのみだ。

 

「それにしても……そうか、あの時にそんなことが……」

 

 慧音の眼がどこか遠くを見るかのように細められる。

 慧音が見ているのは()()()の景色だ。陽も落ちた夜、妹紅が血まみれでやって来た時のこと。

 

「……」

 

 視線をちらりと横島と妹紅の方へとやると、隣同士に座っていた2人は「あの時は大変だったよなー」などと、どこか他人事のように話している。……あくまでも表面上は、だが。

 妹紅の視線は宙を彷徨い、そわそわと体の落ち着きも無くなっている。やはりまだ吹っ切れてはいないようだ。……それも当然だが。

 しかし、それを察知したかは定かではないが、横島が妹紅の手を握り、笑いかけることで落ち着きを取り戻させた。変わりに別の意味で妹紅の落ち着きが無くなったが。

 どうやら2人の仲は良好であり、それは応援していた慧音としても喜ばしい限りである。

 

「ま、何はともあれ影狼も助かって良かったじゃないか。横島もよくあの子を助けてくれたな」

「いやー、そんな!! なははははっ!!」

 

 慧音の言葉に横島は後頭部を掻き、不自然な笑いを零す。照れているのだ。

 

「横島さん、あの時は本当にありがとうございました。貴方が身を挺して守ってくださらなかったら、私はあの場で死んでいたと思います……」

「い、いやあのちょっと、頭を上げてくれって!?」

 

 影狼は先ほどの慧音の言葉でまだちゃんとした礼を横島に言っていないのを思い出し、横島に対して深々と頭を下げる。それはほとんど土下座に近いものであり、横島はそれを見て慌てふためく。

 ぺこぺこと頭を下げる影狼に頭を上げるように頭を下げて頼み込む横島の姿は見ていて非常に面白い。だが、ここで慧音が横島の体の異変にようやく気が付いた。

 

「お、おい横島、その背中は……っ!?」

「ぅえっ? ……あっ、忘れてた」

 

 慧音が指摘した横島の背中。本人も忘れていたようだが、彼の背中は赤蛮奇の弾幕によって血に染まっているのである。当然先程の説明の時にもこの事に触れていなかった。

 あの時のことを思い出したのか、妹紅・美鈴・フランの体から()()()()()()怒気が漏れた。

 ……ちなみにだが、当の赤蛮奇は美鈴とフランの間に座っており、もろに2人からの怒りの霊波を受けている。

 赤蛮奇の脈拍と呼吸が浅くなってきた。本当にとんでもない連中の男にとんでもないことを仕出かしてしまったものである。

 

「……さすがにいつまでもそんな姿でいるわけにもいかないだろう。ちょっと待っててくれ。たしか男物の着物がどこかにあったはずだから――」

「あれ? 慧音って男の恋人いたっけ?」

「誤解を招きそうな言い方はやめないか」

 

 たまたま貰っただけだ、と妹紅の言葉に返す。その送り主は一体何を思って慧音に男物の着物を渡したのか、気になるところである。

 

「そうそう、今はまだ使えないが、後で風呂に入ってからその着物に着替えてくれ」

「風呂っすか? ……あー、確かに。思い出すと何か気になってきましたよ」

 

 横島は軽く笑いながら背中を掻く。彼は蓬莱人になったが故にその傷も既に塞がっているのだが、乾いた血が張り付き、気持ちの悪い感覚が背中に纏わり付いている。どうでもいいが血を見るフランの視線がどんどんととろんとしてきた。舌が怪しく唇を濡らしている。

 

 皆横島の傷が治ったと理解しているのでそれ以上触れることはないのだが、ここには横島が蓬莱人であるということを知らぬ者もいる。

 影狼は思わず立ち上がってしまった。

 

「……って、何で彼の治療をしないんですか!? あんな、あんなに血が出てるんですよ!?」

 

 影狼は横島の背を指差してそう叫んだ。繰り返しになるが既に傷は塞がっているし、血も乾いている。だが、影狼はそれに気付けていない。彼女も横島があまりにも普通に過ごしていたので、治療という行為にまるで考えが及ばなかった。だからこそ彼女は今完全に取り乱しているわけなのだが……。

 赤蛮奇は猛る友人を見て胸を押さえ「ふぐぅっ」と呻いている。心が痛みを発したらしい。

 

「あ、いや俺は……」

「――そうだ、治療と言えば……!!」

「あれ、この子も話を聞かないタイプなのか?」

 

 影狼の脳裏に稲妻が走ったかのように()()()の光景がフラッシュバックする。

 謎の『男』に殺されそうになり、目の前の横島に助けられた。そしてその際、彼は左足に重傷を負った――!!

 

「あ、あの時……!! あの時、私の、私のせいで左足が……!!」

 

 影狼は眼に涙を溜めて横島の顔を見る。横島はそんな影狼を見て「涙目の女の子も可愛いなぁ」などと戯けたことを考えていたのだが、一先ずは彼女を落ち着かせるのが第一と思い直し、何とか宥めようとする。

 

「いやほら、ここまで走ってきたことから分かる通り、あの時の怪我ももう治ってるから……」

「あんな大怪我がもう治ってるわけないじゃないですかぁっ!!」

 

 ぶんぶんと大げさに手を振って否定する影狼の姿は、見た目よりも随分と幼い印象を抱かせる。

 

「第一今も血の臭いが――……?」

 

 する、と言いかけて影狼の動きが止まる。

 確かに血の臭いは今も漂っている。しかし、それはもう乾いている血の臭いだ。他にはまるで臭わない。

 一体何故――? などと考えたときには既に行動に出ていた。影狼は横島が重傷を負った場所、即ち左足に顔を近づけて臭いを吸う。

 

「ぅおおおおおおっ!!? なななななな何じゃあああーーーーーー!!?」

 

 ――とんでもない絵面になった。

 横島は現在胡坐を掻いて座っているのだが、そこに影狼が足の血の臭いを探ろうと顔を寄せたのだ。

 傍から見れば、突然影狼が横島の股間に顔を押し付けたようにしか見えない。

 

「きっ、貴様横島あああっ!! 私の家で破廉恥な真似は許さんぞぉっ!!! 教育的指導ーーーーーーっっっ!!!」

 

 瞬時に顔を真っ赤に沸騰させた慧音が、横島の顔面にスーパーな頭突きを叩き込む。横島は涙と鼻血を撒き散らしながら、慧音共々吹っ飛んでしまった。

 

「何で俺えええぇぇっ!!?」

「ひゃあぁっ!?」

 

 横島は何とか影狼が巻き込まれないようにと彼女を突き飛ばし、安全なクッションへと着地させることに成功した。……そのクッションとは美鈴のことなのだが。

 影狼は美鈴の持つ圧倒的なボリュームを誇る2つのクッションの谷間に顔から突っ込み、「むぎゅ」と潰れたような声を出した。何の怪我もなく喜ばしいことなのだが、影狼本人はどこか傷ついたような表情だ。きっと女のプライドやら何やらが傷ついたのだろう。

 

「大きい……じゃなくて、それより彼の治療を――」

「うん、私に任せて」

 

 一瞬美鈴の巨大なクッションに意識を持っていかれた影狼だが、今はその時ではない。横島の治療が最優先だと様々な誘惑を断ち切って顔を上げる。

 しかし眼前には小さな、そして綺麗に輝く翼が生えた少女の背中があった。彼女の声は比較的落ち着いて聞こえたが、その足取りはどこか覚束ない。……何だろう、何か不思議な予感がする。影狼は不安とも期待ともつかない感覚に戸惑いながらも、彼女の背を見送った。

 

「ううう……まさか慧音先生にこんな激しく押し倒されるなんて……」

「もう一発いっとくか?」

「ごめんなさい」

 

 横島は鼻を押さえてだくだくと未だ流れ続ける鼻血を止めようとするのだが、思ったよりもイイ感じに頭突きが入ったらしく、止まる気配は今も見えない。

 それを見た慧音は流石にやりすぎたか、と謝罪も兼ねて治療を施そうとするが、それよりも早く小柄な少女が横島の懐に潜り込んだ。フランである。

 

「あれ、フランちゃ――」

 

 鼻を押さえていた手をどけられ、そっちに視線が行ってしまう。何を、と視線を戻すと、舌を伸ばし、上気したフランの顔が、すぐそこまで迫ってきていた。

 

「……――っ!!?」

 

 あまりの驚きに声も出ない。フランの小さな舌が、流れ出た血を舐め取っているのだ。

 下から上へ、丹念に舐め取られ、啜られる鼻血。やがて舌は源流となる鼻へと辿り着き、その鼻孔へと舌先を潜らせる。

 

「ふが、フランちゃん何を……っ!?」

 

 言い切る前にフランの小さな口で、鼻を咥えられた。かぷかぷと甘噛みされ、思わず変な声が出そうになる。その間にも彼女の舌は鼻孔の血をこそぐように蠢く。

 いくらフランの舌が小さいとは言え、当然それは鼻孔程ではない。舌先すら入るか怪しいだろう。

 そこでフランが取った行動は、舌に自らの唾液を溜め、それを横島の鼻孔に送り、更に吸い出すことで血を味わおうというもの。

 結果は成功。フランは余す所無く横島の血を堪能することが出来た。

 

「……えへへ。鼻血、止まったね」

 

 ようやくフランが口を離し、ペロリと自らの唇に残った血を舐める。その表情といい仕草といい、とても幼い少女には見えない。(実年齢495歳以上)

 横島はそんなフランから眼を逸らし、鼻を押さえてぽつりと言葉を零す。

 

「フランちゃん……」

「うん」

「……流石の俺も鼻血とか鼻の穴とか舐められて喜ぶ趣味は持ってないんだけど……」

「あれぇーーー!?」

 

 今回、横島はフランの行動にちょっと引いていた。「流石に鼻血はなぁ……」というのが偽らざる本心だ。

 ちなみに余り関係は無いが、ケルト神話には自分の経血を混ぜた蜂蜜酒を飲ませる女王が存在していたりする。

 

「ううぅ、ただお兄様はこういうのが結構好きそうだって聞いたからやってみたのに……」

「何だその偏見!? 誰がそんなマニアックなことをフランちゃんに吹き込んだんだ!?」

「てゐ」

「あんにゃろう……!!」

 

 この時、紅魔館に住むとある兎の背筋に悪寒が走ったらしい。

 

「……」

 

 当たり前の話だが、フランの行動はその場の全員に見られている。皆が皆驚愕に身を震わせていたのだが、特に顕著だったのが慧音だ。

 

「も……も、ももも、もももももも妹紅!! 何だ、どういうことだ!? 横島の恋人はお前じゃなかったのか!!? 横島は蓬莱人になってお前とラインがどーのこーのじゃなかったのか!!!?」

 

 慧音は盛大にどもりながら妹紅の肩を掴んでがっくんがっくんと揺らす。その慌てっぷりは妹紅に冷静さを取り戻させ、穏やかに現在の人間関係を説明出来た。

 

「いやー。私もそうなんだけど、実はフランと美鈴も横島と好い仲になったんだよ」

「何ぃっ!!?」

 

 首をぐりんと動かして美鈴を見てみれば、彼女は照れ臭そうに頭を掻きながら「実はそうなんですよー」とふやけた笑顔で言ってくる。再びぐりんと首を動かして横島達を見れば、フランは横島と対面する形で膝の上に収まり、横島はそんなフランの鼻を抓まんで彼女に変な声を上げさせている。(性的な意味ではない)

 2人の様子は以前見た仲の良さと変わりないように見えるが、それでも何かが違って見えるようにも思える。2人の顔が近かったり、互いの空いている手が繋がっていたりするからだろうか。

 

 慧音は確かに何かが変わった2人を見て、何だかよく分からない感情から来る昂りをお祝いの言葉にして横島へとぶつけることにした。

 

「何だかよく分からないが、とにかくおめでとうと言っておく!! 妹紅のことをこれからも頼んだぞ!!」

「ありがとうございます――というか何でまた頭突きをぶぅっ!!?」

 

 もっと妹紅を構え、ということらしかった。理不尽な仕打ちである。

 

「――何だか、随分と賑やかですね……?」

 

 襖が開く音がして、そこから幼い少女特有の高い声が聞こえてくる。そこにいたのは阿求だった。

 どうやら風呂上りらしく、濡れた髪を手拭で纏めてある。

 

「阿求ちゃん、久しぶりー」

「横島さん? どうも、先日ぶりですね――それから皆さんも。どうもお見苦しいところを……」

 

 阿求は少々恥ずかしがりながらも皆と挨拶を交わす。風呂上りで肌が赤く火照り、少しの水分や汗で体に張り付いた長襦袢がセクシーと言えばセクシーだが、色々と物足りないのもまた事実。

 

「とりあえず阿求はちゃんと服を着てきなさい。風邪など引かないようにしないとな」

「そうですね。それでは一旦失礼します」

 

 阿求は頭を下げると、退室していった。相変わらず見た目からは想像が出来ないほどに礼儀正しい。横島などとても真似出来ない。

 

「風呂使えないっていうのは阿求ちゃんが入ってたからなんすね。……で、何で阿求ちゃんが?」

 

 横島は首を傾げる。

 今の時刻は昼過ぎ。気温も涼しいもので、汗を掻くような暑さでもない。寒いから体を温める、というのは考えられるが、だからといって風呂を沸かす程でもないだろう。

 別段気にするほどのことでもないのだが、声に出してしまった疑問に対して慧音はしっかりと答えてくれた。

 

「いや、なに。妹紅が横島に取られてしまったんでな。その寂しさを阿求に埋めてもらってたんだが……」

「ああ……やっぱり慧音先生ってそういう……」

 

 途中で遮られてしまった。しかも何だか聞き捨てならない台詞が出てきたような気がする。

 

「ちょっと待て、お前何を――」

「いや、大丈夫っすよ。個人的には非生産的だし、だったら俺が!! っていう思いもありますが――阿求ちゃんとの仲、俺は応援しますよ」

「ちょっと待てぃ!! それは誤解だ!!」

 

 やはり気のせいではなかったようだ。横島の中で、慧音はロリで百合という認識をされてしまっているらしい。これには慧音も慌ててしまう。

 

「いやいや待て!! 私はノーマルだ!! 私は男が好きなんだ!!」

(そんな!?) (私のことは遊びだったんですか!!?)

「こんな時に妙なノリを発揮するな阿求うううーーーーーーっ!!!」

 

 少し遠くから阿求の声が響く。意外にもわりとお茶目な性格だったようだ。今も彼女の笑い声が抑えきれずに横島達まで聞こえている。

 結局この話題は慧音が横島に3度めの頭突きをするまで続けられたのだった。

 

 

 

 

「――すっかり本題を忘れてましたけど、先日はご迷惑をお掛けしました。そのお詫びということで、これを受け取ってください。中身はケーキですんで、お2人でどうぞ」

 

 横島は頭頂部に出来た立派なタンコブを揺らしながら、慧音と阿求に深々と頭を下げ、お土産の咲夜特製ケーキを渡す。ケーキの箱は随分と振り回されていたが、中身は咲夜が時間を止めてくれていたおかげで微動だにしていない。ちなみに箱が開くと時間が動き出す仕組みだ。

 

「おお、ありがとう。楽しみに食べさせてもらうよ」

「紅魔館のメイド長、十六夜咲夜さんのケーキですか! 今から楽しみですね……!!」

 

 ケーキと聞いただけで2人のテンションが一気に高まる。やはり女の子は甘い物が好きなのだろう。阿求などはメモとペンを取り出し、何かを書いている。何らかの情報を書いているのだろうが、一体今ので何を得られたのだろうか。

 

「さて、風呂も空いたことだし入ってくるといい。とりあえず案内するが……使い方は分かるか?」

「まあ、多分。現代……っちゅーか、外の世界とあんまり変わらないんですよね? それなら何とかなると思いますけど」

 

 幻想郷の文明レベルは江戸時代末期から明治時代初期辺りとなっている。これは閉鎖的な環境故仕方のないことなのだが、実は幻想郷の管理人である紫の手によって外の世界の技術が使われている物もある。

 その基準はまちまちで統一性があまり無く、言ってしまえば紫の趣味で選ばれているのだが……とにかく、その中には風呂があった。

 紫は幻想郷に良い香りのする石鹸やシャンプー・コンディショナー、更には入浴剤やアヒルのおもちゃなど、風呂に関係する様々な物を取り入れている。

 風呂そのものは昔そのままなので全自動で沸かすことは出来ないが、それでなくても突出して文明的な部分でもある。

 だから横島の言葉に間違いはないのだ。

 

「それならいいが。じゃあ行こうか。シャンプーとリンスの容器なんだが……」

「あー、紛らわしいですよねー。俺も友達の家に泊まった時はよく間違えましたし……」

 

 横島と慧音は連れ立って部屋を出て行った。お互い険悪なところはなく、横島も冷静ならば慧音と相性は悪くないのかもしれない。

 2人が出て行ったあと、阿求は手に持ったペンとメモを前ににんまりとした笑みを浮かべる。

 

「さて……妹紅さ~ん? それから美鈴さんとフランさん? 普段横島さんとどんな風に日常を過ごしているのか、教えてくださいよ~」

 

 阿求の瞳は好奇心に輝いている。それは影狼と赤蛮奇も同じだった。フランが横島の鼻血を舐め始めてから固まっていた2人だったが、横島が蓬莱人だという言葉は聞こえており、さっきまでどういうことなんだろうと話し合っていたのだ。

 曰く、蓬莱人とは不老不死である。

 横島や周りの皆が横島の怪我を前にして落ち着いていたのはその為だったのだろう。だが、かと言って恋人である男の怪我に対して何の処置もしないというのには思うところがある。

 鼻血についてもそうだが、舐め取るのではなく、もっとちゃんとした処置があったはずだ。

 

 ――影狼は横島を思う。このままで良いのだろうか、と。

 

 それは純粋に横島を思ってのことなのだが、彼女は横島のことを知らない。全く知らないと言ってもいいだろう。

 特に、蓬莱人になる前からギャグをしている時に負った傷は次のコマで完治していることとか。生身で音速の壁にぶつかっても生きてたとか。生身で大気圏に突入して記憶喪失になるだけで済んだこととか。

 

 横島にとって、女の子からの激しいツッコミが、段々と快感に変わってきていることとか――――。

 ……これは横島自身も気付いていないことだった。

 

 そして気付いていないこともある。否、気付けなかったのだろう。

 横島が赤蛮奇の弾幕を受けた時、妹紅達が()()()()()()()()()()()()()()()()()――――。

 

 

 

 

 

 

 

第四十七話

『彼を知りたい』

~了~

 

 

 

 

 

 

 

てゐ「ウサァッ!?」

鈴仙「ちょっ、どうしたの?」

てゐ「何か……何か嫌な予感のような、イイ予感のような複雑な悪寒が背筋を走って……!!」

鈴仙「嫌な予感はともかく、イイ予感……?」

てゐ「例えば……そう、例えば執事さんが私をネチネチとイジメてくるような、そんな感覚……?」

鈴仙「うわあ……」

てゐ「執事さんに……イイかも……」(恍惚)

鈴仙「うわあ……うわあぁ……」(ドン引き)




お疲れ様でした。

鼻血はねえ……鼻の穴はねえ……。微妙だなあ……。
実はレミリアにも別のものを用意してるんですけど、向こうはこのまま日の目を見ない可能性が高いんですよねー。

次回はチルノ達がメイン……かなあ。
メインなのかなあ……。

それではまた次回。

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