東方煩悩漢   作:タナボルタ

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今回はかなり短めです。

やはりスパロボZ天獄篇とスパロボBXとスパロボVとポケモンオメガルビーとモンハンXとガンダムブレイカー2とダンジョントラベラーズ1とネプテューヌR1とディスガイア4Rとサイバースルゥースと地球防衛軍3とトトリのアトリエと艦これとFate/GOを平行して攻略しつつ続きを書くのは無謀だったのでしょうか……。


第四十四話『お礼とお詫びを』

 

 部屋の中に、眩い朝の日差しが差し込んでくる。瞼を透過する光が美鈴の意識を刺激し、彼女を眠りの淵から呼び覚ます。

 

「……」

 

 うっすらと目を開ければ、映りこむのは知っているようで知らない天井。何故ならば美鈴が目を覚ましたのは自分の部屋ではなく、永琳の部屋だからだ。

 美鈴は身を起こし、しばらく呆けたように天井を見つめ、やがて俯き瞳を閉じる。

 

「……えへへ」

 

 ふと、笑いが込み上げてきた。今彼女がいるのは夢の世界ではない。もちろん妄想の世界でもない、ちゃんとした現実だ。それを認識して、だからこそ絶えず笑みがこぼれる。

 

「えへ、えへへへへ……」

 

 にやけが収まらない。緩みきった頬を両手で押さえ、身体をいやんいやんと左右へ振り、それでも尚収まらないこの感情。

 ――それは歓喜。

 昨夜、ついに愛する男性へと想いを伝え、それを受け入れてもらえた。今の所その男性には他に二人の恋人が存在し、かつ自分が恋人三号であるという中々に倒錯した状態であるのだが、今の美鈴はそんなことはどうでもよかった。

 今の美鈴は幸せいっぱい夢いっぱい。恋人二号である自らが仕える主、レミリアの妹であるフランは前々から可愛いと思っていたし、そもそも本人同士の仲も良好だ。恋人一号である妹紅とは今までそれほどの親交はなかったのだが、ここ最近彼女はよく紅魔館へと遊びに来るので以前よりは親しくなった。少々癖はあるが人柄も問題なく、好ましい人物であることに間違いはない。きっとより良い関係を築いていけるだろう。

 

 実際はそこまで簡単な話ではないだろうが、やはり今の美鈴は気にしない。意外とお気楽な性格をしている彼女のことだ。今までが何とかなっていたのだし、これからもきっと何とかなるだろうと考えているに違いない。

 

「……はっ!!」

 

 と、ここで美鈴がようやく気付く。今自分がいる部屋は永琳の部屋であり、自室ではない。この部屋で寝かされていたの人物は、もう一人いたのだ。ということはつまり、先ほどの一人悶えていた恥ずかしい姿をばっちりと見られていたのかも知れないということ。

 美鈴は慌ててもう一人の人物――昨夜晴れて恋人となった、横島忠夫が寝ていた隣のベッドへと向き直る。

 

「――!?」

 

 そこに横島はいた。しかも既に起きていた。しかし、彼は美鈴の方を見ていなかった。何故ならば彼は、ベッドの上で跪き、シーツに自らの頭を擦り付けていたから――!! 要するに、土下座である。

 

「すんまっせんしたぁっ!!」

「え、えぇー……?」

 

 

 

 

 

 

 

第四十四話

『お礼とお詫びを』

 

 

 

 

 

 

 

「すんまっせんしたぁっ!!」

「もうやめてくださいってば!!」

 

 あれから数分。相変わらず横島は土下座しているし、美鈴は何故彼に土下座されているのかが分かっていない。このままでは埒が開かない。美鈴は横島のベッドへと移り、頭を下げ続けている彼の背中に胸を押し付け、耳元で吐息交じりの声で何故土下座するのかを問い質した。

 

「あああああ、決闘をしかけてきたのは俺のことが嫌いなんじゃないのかと思って、それで何かこう裏切られたような気持ちになって、それで八つ当たりというか何かそんなんで攻撃しちゃいましたあああああああ……!!」

 

 横島は耳と背中に全神経を集中させ、顔を盛大に崩壊させつつそう答えた。その答えに美鈴は疑問を持つ。

 

「いえ、暴走していたとは言え、決闘を申し込んだのは私なんですから攻撃なんて別に気にすることは……」

「でも理不尽な理由だったし、女の子に怪我でもさせたらと思うとおっぱいが背中、いや耳に息あああ……!?」

 

 それは、実に横島らしい理由だった。敵を相手する時には容赦などしない彼ではあるが、基本的に彼は女の子には優しい。例え本人が気にしていなくても、罪悪感を抱いてしまう。これが男相手ならばネチネチと追撃する所だが、美鈴は美少女でしかも自分の恋人となった存在だ。彼が抱く罪悪感は相当なものなのだろう。最後に煩悩が少し漏れているのも彼らしいと言える。

 美鈴は横島の背に抱きつき、先程よりも強く自分の胸を押し付ける。その感触に横島の体がびくりと震えるが、美鈴はそれを気にせず彼へと圧し掛かる。

 

「……!!」

 

 美鈴は嬉しかった。自分をそこまで気にかけてくれることが。横島のネガティブな部分には戸惑いもあるが、それはそれだけ自分を大切に想ってくれているという証拠でもある。だから美鈴の機嫌は良くなる一方だ。それに比例して直接的な接触が更に増え、ある意味で横島を追い詰めていくのだが……それに美鈴は気付かない。否、気付かないふりをしているのだろうか。

 美鈴は、横島との肌の触れ合いが好きであるが故に。

 

 

 そして、やはり気付けないのだろう。自分勝手な考えからの自業自得であったとはいえ、横島が女の子に対して手を上げることが、どれだけ彼の負担になるのか。

 気付けないのだろう。例え、横島本人であっても。

 

 

 

 

 

 時は流れて朝食の時間。横島の隣にはニコニコと笑顔な美鈴が座っており、彼女から巻き散らされる幸せオーラで「何かあったんだな」というのが周囲にバレバレとなっていた。今回対面に座っているフランは嬉しそうにしている美鈴を見て自らも嬉しそうにしており、その隣に座っている妹紅も、美鈴と横島に何があったのか大体のところを察した。上機嫌な美鈴に対して柔らかな笑みを浮かべている辺り、妹紅といいフランといい、やはりというか何というか、自分以外に恋人が出来ることに対してあまり忌避感を持っていないようだ。

 文化の違いと言えばそれまでだが、それでは面白くない人物がいる。例えば紅魔館の魔法使いとか、昨日は紅魔館に泊まった天狗の新聞記者とか。それはそれで悪趣味ではあるのだが。しかし、だからと言ってすぐさま行動には移さないようだ。互いに色々と気になる者がいることであるし、そちらの問題が片付いてから盛大にからかうことにする。

 

「そういえば横島。アンタは今日どうすんの?」

「え、何すか急に?」

「いや、ただ気になっただけ」

 

 レミリアの問いに何かあるのかと思ったが、どうやら単純に話の種がなかっただけらしく、レミリアの目にも態度にも大した興味は宿っていない。

 レミリアに聞かれて横島は改めて今日一日の過ごし方を考える。レミリアと永琳からはしばらく仕事を休んだ方が良いと言われているので基本は暇だ。同じく毎日の鍛錬も控えたほうが良いと言われているのだが……横島は鍛錬を自らの安全装置の一つとしているので、止めるわけにはいかない。昨日の決闘もある意味では役に立っていた。

 

「……慧音先生や阿求ちゃんにお礼とお詫びの品でも持っていこうかな。けっこう迷惑かけちゃったし。……そのついでに人里に遊びに行ってみようかな」

 

 横島が出したのは慧音達に会いに行くというもの。彼は慧音達に迷惑をかけた分、何かお礼をしたいと考えたようだ。女の子には律儀になる横島。早速何が喜ばれるのか考えを巡らせる。

 

「……なら私もついて行っていいか? 私もあの二人には迷惑かけちゃったし」

 

 ここで横島に同行の許可を求めたのは妹紅だ。妹紅はあの時の自分の事を思い返すと、今でもとても恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。二人とも自分の為に随分と骨を折ってくれた。自分も横島同様に二人に何かを贈りたいと考えたのだ。横島はそれを承諾し、人里へと向かうのはこれで二人。

 気になるのは妹紅と同じく横島の恋人であるフランと美鈴。二人とも何かを期待するかのような眼差しを横島へと送っている。フランはキラキラと輝く瞳で。美鈴は何か熱が宿ったような瞳で。

 

「……フランちゃんと美鈴も一緒に行く?」

「行くー!」

「えへへ、よろしくお願いしますね」

 

 二人とも笑顔で即答してくださった。フランはともかく美鈴は門番の仕事があるはずだが、流石のレミリアも今回は空気を読んでそれを許可する。これで横島とその恋人達が人里に出かけることが決まった。

 いくつもの生暖かい視線が横島達に集中する中、パチュリーは隣に座る小悪魔の顔を見る。実に羨ましそうな表情だ。

 

「……あなたはついていかなくていいの?」

 

 気付けば口に出していた。小悪魔はパチュリーの言葉に少々驚いたようだが、小さく苦笑を浮かべるとその笑みと同じくらい小さな声で呟いた。

 

「……今日中に終わらせたい仕事がありますので」

「……そう」

 

 パチュリーは片目を閉じ、小さく溜め息を吐く。どうやら遠慮をしているようだ。恐らく何か負い目のようなものも感じてしまっているのだろう。パチュリーからすれば何をやっているのか、という話なのだが、当の本人からすればそれは重要なことなのだろう。変にこじれずに解決してほしいとは思うが……もっと気にかけてやった方が良いか。

 とにかくパチュリーは今は小悪魔の意思を尊重する。もしこじれたら……その時は強引な手を使おう。パチュリーはこういった面倒ごとが苦手なのだ。

 

「……横島さん、三人の女の子と付き合ってるんだ」

 

 感心したように呟くのは横島のファンであるはたて。多淫の妖怪だと言われる天狗である彼女も、特に恋人の数に疑問は抱いていない様子。文はそんなはたてを横目に見つつ、これではたてにもチャンスが来たのかとほっと息を吐く。何だかんだ言っても文にとってはたては友人。その恋路が上手く行くのならそれは喜ばしいことだ。横島の幻想郷での女性関係について取材する間もなく一気に進展しているのが悔しいところではあるが、言ってしまえばもう今更なことである。

 逆に横島に対して厳しい目を向けるのは椛。彼女もはたての恋を応援していたので、横島が三人の女の子と付き合い、デレデレしている様を見て少々機嫌が悪くなっているようだ。もちろん本人達が納得している様子であり、幸せそうなので自分が口を出すようなことではないと理解はしているのだが、はたての友人としては複雑な心境だ。

 

「ところで、はたてはついていかないの?」

「ええ? いや、やっぱり邪魔をするのは悪いし……」

「そうですね。別に今日じゃなくてもいいでしょう。機会はいくらでもあることですし」

 

 天狗三人はそれぞれ考えることは様々だが、それでも仲睦まじく話しながら朝食を頂いている。ちなみにだが朝食のメニューはパンとスープにスクランブルエッグ、ソーセージとサラダ。和食が中心の天狗社会では珍しい食事であり、その未知の味と食感に三人の耳は絶えず上機嫌にぴこぴこと動いていた。

 

「横島君、人里に行くのなら私のスキマで送ってあげるわ」

 

 優雅に紅茶を飲む紫からの言葉に、横島は感謝を示した。以前は横島に対してスキマを使うのを躊躇していた紫だが、既に『男』との戦いの際にスキマを使用している。横島も特に気にしていない様だし、これからは有効に使っていこうというのだ。

 

 それに、()()()()()()()もあるのだし。

 

「そんじゃ、午後から人里に向かうかな。昼食は食べてから行くか、それとも向こうで食べるか……」

 

 味で言えば当然紅魔館の方が断然良いし、その方がお金もかからない。しかし向こうでは紅魔館では食べられない食事もあるだろうし、せっかくこの四人で出かけるのだ。ちょっとしたデート気分を味わっても良いだろう。

 

「うん、遊びに行くのはついで。ついでに遊びに行くんだ。あくまでもついでに」

 

 本来の目的は慧音と阿求へのお礼である。決してそちらの方がついでというわけではないのだ。……説得力については聞かない方が良いだろう。

 そんなわけで、食事は人里で取ることにしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 ここは人里。その中でも少々入り組んだ所にある、小さな家。そこには二人の妖怪が存在し、片方は今も布団の中で眠り続け、もう片方は眠っている妖怪の寝顔を見ている。

 

「……まだ疲れは取れない、か」

 

 小さく呟くのは赤と黒を基調とした衣服に身を包んだ妖怪の少女“赤蛮奇”。赤蛮奇は眠る少女“今泉影狼”の髪を優しく指で梳きながら、そっと溜め息を吐く。

 今から数日前のあの日、ここ赤蛮奇の家に影狼が涙を流しながら訪ねてきた。酷く憔悴した様子で最初は何を言っているのかまるで分からなかったが、何やら命の危機に直面したことだけは伝わってきた。赤蛮奇は興奮状態にある影狼を落ち着かせようとしたのだがまるで効果がなく、やがて影狼は電池が切れたかのように急に倒れ伏した。それはただ眠っただけだったのだが、そうと分かるまで生きた心地はしなかったというのが正直な感想である。

 数時間後に目覚めた時には多少は落ち着いていたが、それでもやはり取り乱していたのだが、今度は何があったのかを聞き出すことには成功した。どうやら人間に危ない所を助けてもらい、しかしそのせいで恩人が死ぬかもしれないらしい。

 今すぐ助けに行こうとする影狼だが、あれから既に数時間経っている。それを告げると彼女は涙を流し、悲嘆に暮れてしまった。人間に対してそこまで友好的でもなかった彼女が、こうまで気にするとは思っていなかった。それほどに衝撃的な出来事だったのだろう。

 次の日、影狼と赤蛮奇は連れ立って竹林に“恩人”を探しに赴いた。赤蛮奇の予想では……というより、普通に考えれば生きているはずがない。何かとんでもない奇跡でも起こらない限り、その“恩人”は殺されてしまっているはずだ。

 

 影狼は竹林に着くと迷いなく“恩人”の匂いを探る。雨でぬかるんだ地面で服が汚れるのも厭わず、人狼としての感覚の全てを使って。雨で匂いが流れたのか、芳しい結果は一向に得られない。それでも探しに探して、ついに見つけたもの。

 それは炭化した竹林の一画。その中心にある、不自然に綺麗なまま残っている地面。そして、そこにうっすらと残っていた“恩人”の血の匂い。

 

「……」

 

 良く見れば、地面には内臓と思しき肉片もいくらか散らばっていた。それを発見した時の影狼の様子は、正直言って見ていられなかった。

 赤蛮奇は項垂れる影狼の肩に手をやり、抱きかかえるようにして家へと戻った。それから影狼は自己嫌悪に陥ったのか、私のせいだと呟き続ける。赤蛮奇にはかける言葉が見つからない。それは、今もだ。

 

「影狼……」

 

 赤蛮奇は眠る友人が目を覚ますまで、優しく髪を梳き続ける。友人を助けてくれた“恩人”に感謝しつつ、友人をこんな状態にしてしまった原因でもあると、少しの怨みも抱いて。

 

 

 

 

 

第四十四話

『お礼とお詫びを』

~了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レミリア「このまま順調に行けば、フランは横島のお嫁さんか……」

レミリア「横島フランドール? フランドール横島?」

レミリア「……違うわね。横島を婿養子にすればいいのよ」

レミリア「つまり――タダオ・スカーレット」

レミリア「……イイじゃないの」

レミリア「美鈴も横島のお嫁さんになるんだったら、やっぱり美鈴もスカーレット姓に――!?」

レミリア「待ちなさい。美鈴の苗字は(ホン)。紅とはスカーレット……!!」

レミリア「つまり――(スカーレット)美鈴……!! メイリン・スカーレット……!!」

レミリア「……ふふっ、これは運命だったのかしらね」

レミリア「そして妹紅……モコウ・スカーレット」

レミリア「妹……そして紅……」

レミリア「妹で紅。つまりは――フラン……!!」

レミリア「妹紅は、私の妹(フラン)でもあったのね――」

 

小悪魔「あの、お嬢様……? 太陽に向かって微笑んでますけど、体から煙が出てますよ……?」

パチュリー「ほっときなさい。今のレミィはバカなことしか考えてないわ」

咲夜「お嬢様……」

 

 

 

 

 




お疲れ様でした。

影狼の出番かと思いきや赤蛮奇の出番だった件について。
個人的にこの二人はビジュアルが凄い好きです。

それではまた次回。

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