タツマキとフブキの姉妹が好き。でも1番好きなのはバングの爺ちゃん。あと無免ライダー。
……短編でもあげてみようかな(ボソッ
暗闇の海のような世界の中を己は漂っている。
その場所は酷く冷たく、身体は何かに縛られているように身動き一つ取る事が出来ない。
何故自分がここに居るのか、この場は一体どこなのか。そも自分は生きているのか、それすらも分からない。
暗闇は容易く心を蝕む。それは不安に、やがては恐怖に。感情を一つのものへと塗り替えていく。
――こわい。
心を占める、強烈な感情。それは恐怖だ。この暗い闇の世界は、彼女の記憶を揺り起こし、トラウマを刺激する。
この闇はかつての自分がいた世界。孤独と恐怖に囚われた、進んでその身を浸した世界。自分は、かつての自分に戻ろうとしているのだろうか?
――こわい。
またあの時の自分に戻るのが怖い。かつては今のように自分自身が幸せだと、恵まれていると思ってはいなかった。だからこそ自分から暗い地下へと閉じ込めることが出来た。
では、今は? 今はあの時のように閉じこもりたいとは思わない。思えない。今の自分には無くしたくないものがたくさんある。今の自分がかつての自分に戻るということは、全てを捨てることと同義なのだ。
自分を大切に思ってくれているあの人達と離れるのはいやだ。幸せを手に入れたからこそ、それを失うのがたまらなく怖い。
――たすけて。
声が声にならない世界で、彼女は“たすけて”と叫んだ。光の無い世界で自らを照らす光を求め、ただがむしゃらに身体を動かそうとする。しかし身体を縛る闇は強固で、身動ぎ一つすら叶わない。
――たすけて。たすけて。たすけて。
助けを呼ぶことしか出来ない。ここから助け出してほしい。この暗い世界から連れ出してほしい。彼女は叫ぶ。
だが、それと同時に頭に疑問が過ぎる。
『こんな自分を、一体誰が助けてくれるのだろう』、と――。
そんなことを考えたくない。しかし、不安は膨れ上がる。自分は、周りの人達に迷惑しか掛けていないのだ。
能力のことも。地下に篭ったことも。不安定な心も。あの『男』との戦いも……。自分は迷惑を掛けて、色んなものを与えられてばかりで。誰かに、何かを返したことが一度でもあっただろうか?
――何も、ない。
自分はいつも助けられてばかりだ。彼女の心を闇が侵食していく。不安は恐怖に、恐怖は絶望に。その姿を変え、彼女の心身を支配していく。
いつしか彼女は、それを受け入れ始めた。彼女は元々、皆の笑顔をこそ望んでいたのだ。それが、例え
――……。
頬に、何かが流れる。それは水の雫だ。どうしてこんなところに? 一瞬の間だけ疑問に思う。しかし、それは考えるまでもないこと。泣いているのだ。他ならぬ自分が。
どうして、とは考えない。これも分かりきっている。
――いやだ。こわい。もどりたくない。
彼女の心が叫ぶ。あの頃に戻るのは嫌だ。あの頃の暗く、狭い世界に戻るのは嫌だ。皆には笑ってほしい。そして、出来るなら自分もその輪の中で、皆と一緒に笑い合いたい。
それは彼女の中に芽生えた、強烈なまでの願望。これほど激しい感情を発露させるのは、初めてと言ってもいい。
――たすけて。
それでも。
――たすけて……!
ああ、それでも。
――たすけて!! ――お姉様!! ただお兄様!!
愛する者達に、助けてほしいと願うのは、間違いなのだろうか――?
世界に光が差す。彼女の体を縛り付けていた闇が消え去り、優しく暖かい光が彼女を包む。
頬に、何かが触れた気がした。それは、とても大好きで、彼女が求めてならない温もり。誰かが名前を呼び、笑いかけてくれた気がした――。
第四十話
『傍にいてほしい』
光が瞼を貫通する。強く、しかし優しい光。その光に徐々に意識を揺り起こされ、フランはゆっくりと眠りから目覚めた。
「……起きた?」
「気分はどうだ、フランちゃん?」
すぐ横合いからかけられる男女の声。それはフランが最も頼り、愛する者達の声。未だはっきりと覚醒してしない目をその方向に向ければ、そこには大好きなお姉様とお兄様の姿があった。
「……2人とも、おはよう」
フランの口から出たのは、何故だかその言葉だった。それを聞いたお姉様――レミリアはがっくりと脱力し、お兄様――横島は苦笑を浮かべる。
「おう、おはよーさん。何つーか、案外元気そうだな」
「はいはい、おはよう。……まったく、魘されてるから大丈夫なのかと思えば、まさか目覚めて第一声がそれとはね。ある意味フランらしいと言えばらしいけど……」
レミリアは呆れたような、それでも未だ心配が滲む表情でフランに挨拶を返し、頬を撫でる。横島はそんなレミリアを含め、苦笑を浮かべたままフランの頭を撫でる。
「あ……」
頬に触れる、小さく暖かい手。頭に触れる、大きく暖かい手。その優しい感触に、フランは先程夢に見た冷たい闇の世界のことを思い出す。闇に呑まれようとしていた自分に触れた何か。そしてあの世界を照らした光は、もしかしたらこの2人だったのかも知れない。
そう考えると、フランの目からは大粒の涙がぽろぽろと零れ落ちた。
「ちょ、ふ、フランちゃん!?」
「ちょっと、どうしたのフラン!? ……横島!! アンタ、フランに何をしたの!?」
「何で俺ーーーッ!!?」
急に泣き出したフランに横島は慌て、レミリアはとりあえず横島のせいにし、顔面を思い切り引っ叩く。首が180度回転するくらいの強烈なビンタだったが、横島からすればそのくらいのものは慣れたものだ。精々膝から崩れ落ちて、フランが寝ているベッドの上に上体が力なく倒れ伏してしまう程度のものでしかない。
「ち、違うのお姉様。怖い夢を見たから、2人の手の感触に安心しちゃって……」
「何だ、そうだったの……ごめん横島」
フランは慌てて涙を流した理由を話し、横島の潔白を証明する。レミリアはその理由に頷き、横島に謝りながら彼の頭を撫でる。横島はそれに震える右手を上げることで応え、数秒もしない内に立ち直った。
「それにしても、怖い夢ねぇ。あの『男』の夢でも見たの?」
「ナチュラルに傷を抉りにいきますね、お嬢様……」
「夢の内容が分からないと慰めようもないでしょうが」
「あー……まあ、そう、かなぁ……」
自分達に触れて安心して泣いてしまうほど怖い夢を見たフランに対し、レミリアは直球でその内容を尋ねた。横島はその行動を非難するが、レミリアに言いくるめられる。釈然としない横島であったが、レミリアは自分の意見を曲げないだろう。ここは大人しくレミリアとフランのやりとりを聞くことにした。
「それで、どう? 話せる?」
「う、うん。えっと……」
そうしてフランは夢の内容を話し始めた。レミリアも横島も横槍を入れず、最初から最後まで静かに聞き終える。
空気が重い。フランは困惑する。何故、目の前の優しい2人が
「え……?」
レミリアがゆっくりとフランの頬へと両手を伸ばす。困惑するフランをよそに、レミリアは優しく、優しく彼女の頬に触れる。そして――。
「ッ!!? いひゃひゃひゃひゃひゃひゃっっっ!!!?」
その両手で柔らかな頬を、思い切り左右に引っ張った。フランは抵抗しようとレミリアの手を掴むが、一向に力が緩む気配はなく。
フランの両目から、痛みによって涙が零れていく。フランは思い知った。レミリアは、
「フラン? お姉ちゃん、本気で怒るわよ……?」
「もう
フランはレミリアの怒気に当てられ、身体が萎縮する。レミリアに、家族に本気で怒られるのがこんなに怖いのだと、フランは初めて知った。
そして、もう1つ。
「フランちゃん……」
「
横島はフランの額の前に右手を翳す。中指を曲げて親指で抑えた形……つまりはデコピンの形だ。その中指には今にも弾け飛びそうな程にまで力が込められており、ただ見ているだけでも只ならぬ威力を発揮しそうなのが感じられる。
「
フランが思わず口を開く。それが引き金となった。
「――ッ!!!?」
気が付けばフランは弾かれたように天井を見上げていた。さっきまでレミリアと横島を見ていたはずなのに、今は何故だか上を向いている。何故上を向いているのか? その疑問が脳裏を掠めた瞬間――痛みがフランを襲った。
「
フランは額と頬に走る激痛を自覚し、目に涙を溜めてベッドの上でもがく。レミリアは本気で頬を抓んでいたのだが、横島のデコピンの威力によって強制的に放されたのである。この威力にはレミリアも驚いた。彼女には珍しく呆けたような顔で横島を振り返る。これが、かつて“デコピン忠ちゃん”と呼ばれていた男の、本気の
「ううぅ……」
やがて痛みも収まってきたのか、フランが身を起こし、横島を見上げる。横島は自分を見つめるレミリアには目もくれず、ただフランだけをじっと見ていた。その横島の雰囲気に圧され、息を呑む。しかし黙っていても始まらないとフランが横島に話しかけようとするが、またも機先を制された。
「え……?」
横島がベッドに身を乗り出し、フランを強く強く抱き締めたのである。
「あ、あの……ただお兄様……?」
「……」
横島は何も答えない。ただフランの首筋に顔を押し付け、動こうとしない。フランは顔に血が集まってくるのを自覚した。今はさぞ真っ赤に染まっていることだろう。
横島の行動に驚いたのはレミリアも同様だが、彼女は空気を呼んで黙っている。フランを叱るという衝動もぐっと堪え、この後の展開に少しドキドキとしながら、彼女は空気と同化する。
「フランちゃん……」
「は、はいっ!」
不意に、横島がフランの名を呼ぶ。いきなりのことに慌て、フランは上ずった声で返事をしてしまう。そのことに恥ずかしさを覚えるフランだが、横島はそれを意に介さず、フランに語りかける。
「本当はさ、言いたいこととかいっぱいあったんだけど……さっきのことで全部吹っ飛んだ。だから、結論から先に言わせてもらうけど……」
「う、うん……」
フランは身を硬くする。何を言われるのか。もしかしたら叱られるのか。叱られるとしたら、いったい何を?
フランには分からないことだらけだ。しかし、少なくとも横島が何を言うのかはすぐに分かる。そしてそれが、想像の埒外であったということも。
「フランちゃん……俺は、フランちゃんのことが――好きだ」
「――……」
何を言われたのか、フランには分からなかった。フランの頭がそれを理解するのに数秒が掛かる。やがて横島に言われたことの意味を理解し、始めに浮かんできたものは困惑だった。
ただお兄様が? 自分を? どうして? 浮かんでは消えていく疑問。それが脳内を駆け巡り、フランは反応を返せない。しかし、横島はそれを気にするでもなく、フランに自分の気持ちを伝えていく。
「昔の自分に戻るとかさ、 ぶっちゃけ俺は昔のフランちゃんは知らないから置いとくけども……誰が助けてくれるのかって? 周りにいっぱいいるじゃんか。お嬢様とか咲夜さんとか、パチュリー様とか小悪魔ちゃんとか美鈴とか、メイド妖精達、永琳先生達やチルノ達……俺だってそうだ。皆フランちゃんを助けるに決まってるじゃんか」
「……」
「自分が死んだら笑ってくれるとかどうとか、馬鹿かよ。泣くに決まってるじゃんか。少なくとも俺は思いっきり泣く。フランちゃんがいなくなったら、俺は凄く悲しいし、寂しい。好きな女の子がいなくなったら、俺は泣くよ。当たり前だろ」
横島の言葉にフランは何も言えない。彼の声はどんどんと湿り気を帯びていく。彼の身体は震えていく。感情の高ぶりに比例して霊力が高まり、フランを抱き締める力が一層強くなる。
「もう、そんなこと、言わないでくれよ……好きな子がいなくなるなんて、もう嫌なんだよ……。一緒にいてほしいんだ……離れたくないんだ……! ずっと傍にいてほしいんだよぉ……!!」
「……お兄、様……」
それは、
フランは横島を抱き返す。強く強く、自分の存在を主張するように。
「ごめん、なさい……ごめんなさい、ただお兄様……」
フランの目から涙が零れていく。横島が、どれだけ自分を想ってくれているのか、それを強く実感出来たから。
彼の言葉に、抱き締める力に、霊力と共に想いが宿る。霊的存在でもある
横島は、確かにフランを愛しているのだ。
「フラン」
「あっ、お姉様……」
レミリアは割り込むならここしかないと判断し、フランの頬を優しく抓む。そのまま柔らかい感触をむにむにと堪能しながら、レミリアも自分の思いを聞かせる。
「アンタが死んだりしたら、私だって悲しいし、泣くことになる。笑えるわけないでしょうが。アンタは私が守ってあげるわよ。お姉ちゃんは妹を守る為に早く生まれるわけだしね」
レミリアはそう言って少しだけ強くフランの頬をつねる。フランはその手に、その言葉に無上の安心感を得た。いつも守ってくれた、大好きな姉。フランは彼女の凄さを痛感する。それと同時、彼女の思いも伝わってきた。レミリアも、確かに自分を愛してくれているのだ。
「お姉様……ただお兄様……」
フランは2人の名前を呼ぶ。横島はフランの首筋から顔を離し、涙でボロボロになった顔を見せてくれる。レミリアは横島の涙を乱暴に拭いながら、少し困ったような微笑を見せてくれる。
2人とも、自分の為に泣いたり笑ったりしてくれた。それが、とても嬉しい。
「ありがとう、2人とも」
今の自分は、綺麗に笑えているだろうか?
止め処なく流れる涙で歪む視界の先、大好きな2人を見ながら、フランは満面の笑みを浮かべて思う。
昔の自分に戻りたくない。自分は死にたくない。大好きな人達と、ずっと一緒にいたい。
小さな胸に溢れる喜びを表すために、フランは2人に飛びついた。
「えへへへへへへへへ~」
「またえらい緩んでるわね……」
レミリアの言葉が示す通り、フランの顔はだらしのない笑みに緩んでいた。彼女が抱き締め、身体を擦り付けているのは横島の身体。愛する人と両思いになることが出来たのだ。少しくらい緩くてもいいだろう。
「めっちゃくすぐったい……」
すりすりとじゃれ付かれている横島は、若干恍惚とした表情を浮かべながらもくすぐったがっている。レミリアはそんな横島の頬をつねり、表情を元に戻そうとしている。
「ところでお兄様」
「ん?」
「私に言いたいことって、結局なんだったの?」
「ああ……」
フランは横島に言われたことを思い出し、それを尋ねた。横島もそれを思い出し、頭をポリポリと掻く。
「まあ、俺が言えたことじゃないんだけどな。俺のためとは言っても、大怪我をするようなことをしないでほしい……ってな」
「本当に
「……お、おう」
フランのぐさりとくる言葉に、横島は視線を逸らす。フランはそんな横島を楽しそうに見つめ、1番気になっていることを尋ねる。
「それじゃあ、私のどこが好きになったの?」
「んん……?」
フランの顔が赤く染まる。やや恥ずかしそうに、それでも何としても聞きたい、という思いを上目使いに込めて横島を見つめる。そんなフランに横島は煩悩を刺激されてしまい、霊力が少し漏れる。それをフランが察知し、彼女の笑みが深まる。
「あぁー……っと、何だ。フランちゃんは可愛いし、優しいし、可愛いし、ネガティブなとこもあるけどそ-ゆーとこも可愛いし……まあ、あとフランちゃん可愛いし」
「……ぇぅ」
「なんつったら良いのか、妹紅もそうだけど、こう、しっかりとした理由が出てこないんだよな。切っ掛けはフランちゃんが俺のために『あのヤロー』と戦ってくれたことだと思う。……いや、自覚したってのが近いかな……? こんなになるまで戦ってくれたのかとか、それだけ俺のことを想ってくれてるのかとか……」
横島がぶつぶつと語る内容に、フランは顔を真っ赤にする。これほど可愛いを連呼されたのは初めての経験だった。ネガティブな部分を可愛いと言われるのもそうだ。その後に続いた言葉も、ふわふわとした意識でしか聞くことが出来なかった。今更ながら恥ずかしくなって横島の胸に顔を埋めてしまう。鼻孔に広がる横島の匂い。少しずつだが落ち着きを取り戻したきた。
「っと、そうだ! フランちゃん、俺の血を吸ってみねーか?」
「えっ?」
唐突に横島がそんなことを言い出した。
「フランちゃんまだ体調良くなさそうだからさ、俺の血を吸えば回復するかもよ?」
横島が自分の体調を心配してくれている。それだけでフランの胸は喜びが広がるが、それ以上に横島に対して困惑する。
「で、でも私が血を吸ったらお兄様が吸血鬼に……」
「ああ、それは大丈夫。永琳先生に色々と聞いたんだけど、蓬莱人は吸血鬼にはならないそうだから」
「そうなんだ。じゃあ私が血を吸っても大丈夫――ほーらいびと? ただお兄様が?」
横島の何でもないような返答を聞いて危うく流してしまうところだったが、フランは衝撃的な言葉を聞いた。横島は、蓬莱人である、と。
「……あ、そういやまだ言ってなかったな」
そんな間の抜けた台詞を皮切りに、横島は自分が蓬莱人となった経緯をフランに話す。それと同時に、自分が現在愛している相手はフランだけではなく、妹紅もそうであるということも。これからも増えていくかもしれないことを。
「……そうだったんだ」
ぽつりと呟く。フランは横島の寿命を延ばそうと考えていた。それが思わぬ形で叶ってしまった。フランの胸に去来するのはいかなる感情か。少なくとも喜びや嬉しさではない。言葉では言い表せられないような、ドロドロとした感情。知らず、フランの身体が震える。
「ま、これで妹紅とフランちゃんとずっと一緒にいられるから結果オーライだな」
「え……ふがっ?」
思いもしなかった言葉が出てくる。フランは横島の顔に視線を戻すが、その瞬間に鼻を摘まれた。その際に変な声を出してしまい、少々恥ずかしさがこみ上げる。
「普通の人間のままの方が俺らしいって言ったけどさ。こうなっちまったんだから仕方ねーって。むしろ妹紅とフランちゃんと、可愛い女の子とずーっとイチャつけるんだから切り替えていかねーとな」
「でも……」
「俺はこうなったことに後悔はしてねーぜ。そりゃさ、俺はまだまだガキだから人よりも長く生きるってのがどんだけしんどいのかは分からねーけど……」
横島がそこで言葉を切る。フランの鼻から手を離し、微笑みを浮かべる。
「一緒にいてくれるんだろ?」
そう聞いてきた。フランは一瞬呆けた後、大きく頷いた。横島は笑顔を浮かべ、嬉しそうにフランの頭を撫でる。
フランは何となく気付いた。横島は本当に、誰かに傍にいてほしいのだと。好きな人に、愛する人に、傍にいてほしいのだと。ならば、自分は彼の傍にいよう。1秒でも長く、彼と共に。
「んで、どうする? 血、吸ってみる?」
「……うん」
横島は着用しているTシャツの首元を広げ、フランに晒す。フランは横島の顔を見つめ、その後首筋に噛み付いた。
「……」
「んっ……む……」
フランの牙の感触に横島の顔が歪む。フランは何度も何度も横島の首に牙を突きたて、横島の
「……なあ、フランちゃん」
「……んむっ?」
「……甘噛みじゃあ血は吸えないんじゃないか?」
「……あむあむ」
フランの牙は何故か皮膚を貫通せず、甘噛みを繰り返す。そのくすぐったい感触と皮膚に少しだけ触れる舌がもたらす性感に、横島の顔が煩悩で歪みそうになる。というか歪んでいた。
「……だって、いざ血を吸うとなるとただお兄様に怪我させなくちゃいけないし、それにあんまり大きく口を開けるのも恥ずかしいし……」
それが理由だった。横島は何とも困ったような表情を浮かべ、フランの頭を撫でる。そのまま数秒考えた後、ズボンのポケットからある物を取り出す。
「それは……咲夜のナイフ?」
「そ。大きく口を開けたくないなら、これで指先にでも傷を付けりゃいいかなって」
「でも……良いの?」
「いーのいーの。これもフランちゃんの為だ。……
横島は何故か持っていた咲夜のナイフで左の人差し指に切り傷を付ける。そう簡単に治らないようにかなり深く切ったせいで、横島の顔は痛みで情けなく歪み、目には涙が溜まっている。フランは「だから言ったのに」というような顔で横島を見て、しかし自分の為にここまでしてくれる横島に更なる愛しさと申し訳なさを感じつつ、差し出された指を咥えた。
「んっ、ちゅ……む……」
「……」
部屋にフランが横島の血を吸う音が響く。傷を小さな舌先がなぞるたびに鋭い痛みが走るが、それよりも気になることが横島には存在した。
――あああああああああああっ!!!? 何か、何か物凄くイケナイことをしている気分になるうううううううぅぅぅぅっ!!!? 何でや!? ワイはただ血を吸わせる為に指をフランちゃんに咥えさせてるだけなのに……ってそれしかねーじゃねーかアホか俺はあああああああああ!!!?
「ふぅ……ん、ちゅる……う、ん……」
――やめてえええええええ!!? 悩ましげな吐息をやめてえええええええ!!? 傷を舐めないで音を立てないでえええええええ!!?
どんどんと高まり溢れ出す煩悩。それがフランにも
「……いつ頃止めたらいいのかな……」
2人の様子に何だかもじもじと、もぞもぞと身体を揺らす空気なレミリアが呟く。
結局、レミリアは2人を止めることなく、フランは傷が完全に塞がるまでの数分間横島の血を吸い続けた。横島は色々な意味でいっぱいいっぱいとなり、次にフランに血を吸わせる時は他の方法を考えようと心に決めた。
ちなみにだが、吸血鬼姉妹は横島の煩悩の煽りを受けて色々と昂ってしまい、その後久しぶりに姉妹での弾幕ごっこで身体の熱を発散したようだ。
第四十話
『傍にいてほしい』
~了~
「ねえねえお兄様、妹紅と恋人になったんだよね?」
「え、今更聞くの? ……そう、だけど」
「それで、その……私とも恋人同士なんだよね?」
「……おう、俺はフランちゃんとも恋人同士だ」
「……えへ、えへへへへへへ」
「……よしよし」
「これでただお兄様も“ろりこん”さんだねっ!」
「――……ごふっ!!」
「あ、あれ? お兄様? お兄様ーっ!?」
――ああ、美神さん。俺は、貴女の言った通りになっちゃったようです……。
横島の脳裏に親指を立てて笑みを浮かべる美神の姿が見える。美神はその手で首を掻き切る動作をした後、中指を立てて消えていった……。
――ああ、美神さん。ルシオラ、俺は……。
脳裏に浮かぶルシオラは、困ったような、それでも嬉しそうな笑みを浮かべていた――。
お疲れ様でした。
甘噛みと指ちゅぱ……これはフランだけでなく、妹紅にも横島にしてもらわなければ(錯乱)
次回は文達と合流ですね。
どうでもいいけど、文とはたてってどっちかが上司だったりするんだろうか。
文の方が何となく年上っぽいイメージがあるけど……。
それではまた次回。