私「何かおすすめのゲームない?」
友人「ときメモ2」
私「何だ古いゲームじゃん。本当に面白いの? まあやってみるけどさ……ときメモにはハマッたりはしないけどね」
信じてときメモ2をプレイした私がときメモ2にドハマリして投稿するのが遅れに遅れてしまうなんて……
ときメモ2には勝てなかったよ……
こんな感じで遅れてしまいました。お許しください……
月が空に浮かび、その柔らかな色を夜の闇に照らし出している現在、横島と妹紅は慧音の家からの帰途についている。と言っても、二人は道を進んでいるのではなく、寄り添いながら空を飛んでいるのだが。
まだ飛ぶことに慣れていない横島を妹紅が支える形で飛んでいる。そうなると当然二人の身体は密着しているわけで、妹紅の小さくともちゃんと存在を主張している胸が横島に当たり、横島としてはとても喜ばしい状態となっている。
鼻の下を伸ばしに伸ばした間抜けな顔となっているのだが、妹紅にはそれが何故か嬉しく思えた。
――私にくっつかれて、喜ぶんだな……。
妹紅は自分の体型にコンプレックスを抱いている。何せ自分のライバルは傾国傾城の美少女である輝夜。彼女はその容姿に負けないほどに素晴らしいプロポーションの持ち主だ。見た目の年齢と身長・体重、果ては腕や脚の長さまでもが計算しつくされた黄金比の様に完璧な体型の持ち主。それに対して妹紅はつるーんぺたーんすとーんである。膨らみはあるが誤差の様なものだ。これでコンプレックスを抱かないわけがない。
だからこそ妹紅は自分の様な貧相な体でも、横島が喜んでくれていることを嬉しく思う。思わず頬が緩んできてしまう。実は初対面の時にもわりと喜ばれていたのだが、そのことを妹紅はすっかりと忘れている。
「……どうかしたか、妹紅?」
「うぇっ!?」
急に横島が顔を引き締め、真剣な様子で問い掛けてきた。挙動不審気味な妹紅の様子が気になったようだ。妹紅は慌てて「何でもない」と取り繕う。
「……何かあったら言えよ? ただでさえ今も支えてもらってんだし」
「このくらいなら大丈夫だって。それより、横島って空を飛べるようになってたんだな。ちょっと驚いたよ」
妹紅の言葉に横島は曖昧に笑う。横島は今まで空を飛べなかった。だと言うのに急に空を飛べるようになったのは、
蓬莱人とは肉体ではなく魂を主とした存在。当然肉体と言う枷は取り払われており、訓練さえすればありのままの魂の力を引き出すことが出来るようになるのだ。
横島は蓬莱人となる前から、知識はともかくとして能力は一人前の霊能力者だった。霊力とは魂の力。ならば、横島が今までよりもスムーズに力を扱えるようになったのは自明の理と言えるだろう。
「……まあ努力の結果かな。それよりもうすぐ霧の湖だけど、このまま進んでいけばいいのか? いつもは一号達に運んでもらってたから、ちゃんとした抜け方を知らねーんだよ。さっき紅魔館から人里まで飛んだ時はまっすぐ進んだら抜けたけど……」
紅魔館の周辺に存在する湖にはいつも霧が立ち込めている。その原因は定かではないが、横島はレミリアが紅魔館を隠すために、吸血鬼としての能力か魔法かで霧を生み出していると考えている。もちろんそんなことはないのだが。
横島の言葉に妹紅はきょとんとした顔を浮かべ、次にはくすくすと笑い出した。
「……何だよ?」
「いや、悪い悪い。でも、私が普段何をしているかを忘れてないか? 私は『案内人』だぞ?」
妹紅はそう言って横島に微笑みかける。その様は非常に可愛らしく、横島の胸をときめかせるのには充分だったのだが、そこで横島は冷静に言い返した。
「……いや、お前は迷いの竹林の案内人であって、霧の湖の案内人じゃねーじゃん」
「……そうだけど。いやそうだけどさ、もっと何かあるじゃん。せっかく私がこう、何と言うか、ああ言ったわけじゃんか。だったらもっと何かこう……何かあるだろ?」
どうやら頼られたり褒められたりしたかったらしい。『好き合ってるわけなんだし、何か甘い言葉を』と横島に求めることは酷なのだろうか。妹紅は頬を赤く染め、ふてくされた様な声を出しながら軽く横島の頬を抓る。その肌は意外とスベスベで、弾力にも富んでいた。咲夜の料理と美鈴達との修行、そして漲る霊力のおかげである。
「……あ、何だかんだ言ってる内に紅魔館が見えた」
「え? あ、本当だ。案内人ってすげーな。実は妹紅の能力って『他人を目的地に案内する程度の能力』とかなんじゃ」
「そろそろ怒るぞー?」
横島を支える妹紅の腕の締め付けがどんどんと強くなる。それは結果的により強く密着するということなので、横島としては願ったり叶ったりなのだが。
「あ、美鈴がこっちに気付いたみたい」
妹紅の言葉に久々の心眼・横島アイを発動。月の光が分厚い雲によって遮られているせいで見えにくいが、確かに門番として門の前にいた美鈴がこっちに手を振り、同じく門番をしていた二号に何らかの指示を与えている。恐らくはレミリア達を呼びに行かせたのだろう。……二号が館内に戻って約十秒、皆がぞろぞろと玄関から飛び出してきた。玄関ホールで待機していたのだろうか。横島は苦笑を浮かべる。
「前も思ったけど、よくそこまで見えるよな」
呆れと感心をふんだんにミックスした声が妹紅から漏れる。妹紅の目をしても美鈴が居ることしか分からなかった。横島の煩悩のなせる業には脱帽だ。いつかはこの煩悩を真っ向から受け止めなければならないことを考えてみれば、不安やら恐ろしいやら。ちょっと嬉しいやら。……妹紅は性知識に疎いのでキス以上の行為についてどれだけの知識があるのかは疑問だが。
そうこう考えているうちに二人は地面へと降り立ち、紅魔館へと急ぐ。横島は有無を言わさず飛び出してきたので早足気味だ。妹紅は黙って紅魔館を飛び出してきたので皆と顔を合わせるのが少々怖いが、そういったことはさっさと済ませようとこちらも早足になる。
「横島さーん!! 妹紅さーん!!」
美鈴が手を振り、大きな声で呼びかけてくる。横島と妹紅は一瞬顔を見合わせ、同時に微笑を浮かべると、美鈴にならい皆に大きく手を振った。
「おーい、皆ー!!」
横島達は走る速度を上げ、皆の下へと急ぐ。
第三十七話
『ミーハー恋心』
――……?
何だろうか。何かがおかしい気がする。横島はそんな疑問を抱いていた。何せ自分達が近付くにつれ、皆は顔を引きつらせるのだ。一体どうしたというのだろうか。
「……ひぃっ!?」
その叫びを上げたのは誰だったのか。雲に遮られていた月の光が横島達に降り注いだ途端、混乱の宴が始まった。
「――――スプラッターーーーーーーーーーッッッ!!!?」
美鈴と小悪魔が抱き合い、恐怖に涙を噴出しながらそう叫んだ。その悲鳴に横島と妹紅は即座に臨戦態勢へと移行する。
「スプラッタ!? まさか、ゾンビかなんかでも出たのか!?」
「気をつけろよ、横島!!」
二人は素早い動きで皆に合流せんと周囲を警戒しながら移動する。今度は一号達と思しき悲鳴が聞こえた。
「くっ、一体何がいるってんだ!?」
横島はとてもシリアスな調子でそう毒づく。二人は未だ気付かない。
「あ、あの、お二人とも……?」
「美鈴!! 皆は一体どうしたってんだ!?」
「ひいぃっ!?」
勇気を振り絞って話しかけてきた美鈴に、横島が必死な形相で現状を問う。それに対し美鈴は怯えるばかりだ。
「何だ!? どうしてそんなに怖がってるんだ!? まるで血まみれの男に迫られてるみたいじゃねーか!!」
「お、おおちおち、落ち着いてください~~~~っ!!?」
「落ち着くのは美鈴の方だろ!? さあ、一体何にそんなに怯えてんのか話すんだ!!」
「へぅっ、えうううううぅぅぅ……!!!?」
「ええい……!! こっちは一体何があったのかと聞いとるんじゃああああああっ!!!」
「ひええええっ!!?」
「落ち着け」
「あふん」
要領の得ない美鈴に横島が怒りの炎を巻き上げながら迫る。美鈴は恐怖に涙を流していたが、レミリアが割って入り横島にげんこつを落としたことで事態は終息したのだった。
――間――。
「で、何でそんなに怯えてんの?」
横島は頭頂部にでっかいたんこぶを乗せて美鈴に問うた。妹紅はそのたんこぶを優しく撫で、痛みを和らげようとしている。その姿は美鈴にとってとても羨ましいはずなのだが、とある要因が全てを台無しにしていた。
さて、ここで横島達の現在の姿についておさらいしてみよう。
横島は両目から血の涙を流した痕があり、トラウマの傷が開いたことによって脇腹を中心に衣服を血で赤黒く染めている。
妹紅は吐血をしたせいで口の周りが血で汚れ、その吐血と腹の傷が開いたことによりこれまた衣服を血で赤黒く染めている。
二人ともどう贔屓目に見ても完全なるスプラッタホラーの被害者である。
「あー……」
「あー、て。気付いてなかったのか?」
横島の納得するような声にレミリアは呆れた視線を向ける。
「いや、慧音先生と阿求ちゃんは必死に『風呂に入っていけ』って言ってたんすけど、こういうことだったんすね」
「……だって、横島ってよく出血してるし……」
横島の言はともかく、妹紅の言には中々の説得力があった。流血が似合う男、横島。水ではなく血が滴っているのは悲しむべきことなのか。
「ところで……」
と、ここで永琳が声を上げる。皆は永琳に目をやり、次の言葉を待つ。
「何で輝夜は隠れているの?」
そう言った永琳が指差す先、そこには木の陰から身を隠す様に横島達の様子を窺う輝夜の姿があった。
「あっ」
横島と妹紅からそんな声が漏れる。まるで輝夜の存在を今の今まで忘れていたかのような反応だ。というか確実に忘れていた。二人はこめかみから汗を一筋垂らし、視線をさっと逸らす。
「……やっぱり忘れてたんだ」
本来なら聞こえるはずがないくらいに小さくぽそりとした声が二人の良心を抉る。結果、二人は視線を合わせたかと思うと輝夜の元へと走り、それはもう見事な土下座を披露した。
紅魔館正門での喧騒から数十分後、皆はグレート・ホール――食堂に集まり、それぞれ自由に過ごしていた。
この場にいないのは永琳、鈴仙、フラン、妹紅、そして横島の五人。フランは未だ意識は戻っておらず、自分の部屋で寝かされている。吸血鬼の再生能力は確かなもので、しばらく安静にしていればすぐに回復するだろう。
横島と妹紅はそれぞれ永琳と鈴仙に診察を受けている。二人とも傷が開いていたのだ。蓬莱人とはいえ適切な処置は必要だろう。
「……戻ったようだな」
まったりとした空気が流れること約一時間。フラン以外の四人は食堂へと戻ってきた。
「どうだった?」
「皆特に心配はいらないわ。しばらく安静にしていたらすぐ回復するわよ」
「そうか……ならいい」
レミリアはほっと一息吐き、横島達に着席を促す。皆がここに集まっていた理由の一つが無事に済んだ。では、次だ。
「それで? 結局『アイツ』は何者だったんだ? お前は何か知ってそうだが……」
その一言で空気が変わった。今回の異変の犯人である『男』は、何やら永琳達と因縁がありそうだった。
「……」
永琳は暫し目を瞑り、頭の中で考えを整理する。結局、出された答えは今までと変わらなかった。
「あれが何者かは私にも分からないわ。私の
現在あの『男』について分かっていることは、月人であること、竹取の老夫婦を殺害し、蓬莱の薬を服用し蓬莱人になったこと、何らかの理由で蓬莱人ではなくなったこと、文珠を求めていたこと、高島の身体を乗っ取ったこと。重要なのは大体この五つだ。
『男』が月人であり、竹取の老夫婦及び高島の命を奪っていることから永琳とほぼ同時期に地上へやって来たことが窺える。この時永琳が真っ先に除外した可能性は皆殺しにした月の使者が生きていた可能性。
永琳はあの時、使者達の頭部か、心臓を確実に射抜いていった。いくら月人が地上の人間や妖怪と次元違いの力量を持っていたとしても、彼らは
それらを踏まえて考えられるのは、月から新たに使者が送られてきた可能性。何せ月の頭脳とまで言われた程の存在が使者を皆殺しにし、月の姫と共に逃亡を図ったのだ。それらに対する調査隊が送られてくるのは当然と言えるだろう。永琳が高島から得ていた情報にこれらのことも含まれている。
しかし、ここで問題になってくるのが月人の性格だ。
月人は地上の人間を下賤な存在として完全に見下している。地上は月の都の一部と言って憚らず、監獄のような所と断じている。更には自分達月の民が地上へ争いを齎し、文明を発展させている。
かと思えば、月人は地上の人間達を恐れてもいる。数十年前に発見された量子論を始め、現在の地上の民達の科学力の発展には月の都のトップである『
まあ、主な要因は科学力ではなく『穢れ』を持ち込まれることに関してなのだが……。もしかしたら、これは危険とされる動植物をガラス越しやテレビといった映像を介して見る事は許容出来るが、実際にそれらと同じ空間内にいることは許容出来ないということなのかも知れない。
では、そんな潔癖症でプライドの高い月人が長時間地上へと滞在出来るのか。または頻繁に地上へとやって来れるのか。結論から言えば、これは出来てしまうのだ。
事実輝夜が地上で生活をしていた際には月からの監視員が彼女を見張っており、竹取の老夫婦に対して光る竹に黄金を入れておくことで輝夜の世話の報酬を何度も払っている。更に前述の永琳達の調査・捜索に加え、仕事か遊びかは不明だが玉兎達も頻繁に地上へと訪れていることを示唆する会話をしていたこともある。
それに何よりも、かつての永琳の教え子であり、現月の使者のリーダーである綿月姉妹が『
大分話が逸れていってしまったが、結局の所あの月人が何者だったのかは分からない……というのが結論だ。永琳達は上手く隠れることが出来た。否、
そう語った永琳にレミリアは難しい顔をしたが、すぐに大きく息を吐いて表情を緩めた。
「ま、アンタでも分からないんじゃ私達が考えても無駄か。何かスッキリしないけど、もう一応の解決はしたんだし、安楽椅子探偵レミリアの活躍の機会はないか」
「安楽椅子探偵を勘違いしてない?」
レミリアの言葉に永琳が苦笑を浮かべる。それを機に皆の空気が弛緩していくのが感じ取れる。なので、永琳はせっかくなので先程から気になっていることについて横島に尋ねてみることにした。
「ところでぇ、永琳、とっても気になることがあるのぉ~」
――それは、その場に居たほとんどの者に怖気を走らせた。
猫なで声を発しながら一人称を『永琳』と自分の名前にし、くねくねと身を捩じらせながらの言葉。言うまでもなくただただ不気味であった。横島は全身から冷や汗を流しつつ「……何でしょう?」と応える。思い切り思い当たることがある故の反応だ。
「えっと~、どうして~、横島君はそんなにも輝夜にベタベタと引っ付いているのかしらぁ~……!!?」
圧倒的なまでのプレッシャーが横島を襲う。永琳の質問は皆も気になってはいたことだった。横島が空いている席――輝夜の右隣に座ると、輝夜が横島の左腕を抱き込んだのだ。あまりにも自然な動きだったので、当初は皆気にも留めなかったのだが、レミリアと永琳が話している間に段々と気になってきたらしい。
それに対して横島の右隣に座った妹紅は輝夜に怒るでもなく、やや羨ましそうに輝夜を見つめるだけだった。互いに好き合っていると判明したとはいえ、人前で自分から横島に引っ付いたりくっついたりとかはまだ恥ずかしい。妹紅に取れた行動は、横島の膝に置かれた右手に自らの左手を重ねることくらいだった。
「ほら、どうしたの横島君? 私は、『どうして?』って聞いているのよ?」
答えない横島に永琳の威圧が強くなる。両隣の二人はどことなく幸せそうな顔をしているが、横島はそうはいかない。とんでもない緊張感の中、心臓が限界近くまでその鼓動を早めているというのに何故かどんどんと顔から色が抜け落ちていく。最早青を通り越して白い。
流石にそんな状況を哀れに思ったのか、レミリアが割って入る。
「待て待て永琳。あれはどう見ても輝夜の方が……」
「何かしら、レミリア?」
「……いえ、何でもありません」
レミリアはあっさりと屈した。幻想郷でもトップクラスの実力を持つレミリアでもあれはダメだ。とても怖い。永琳は凄く綺麗な笑顔だったというのに、何故だか体の震えが止まらない。横島などはもう気絶してしまった。その口からは何やら魂が抜けているようにも見える。……魂が主となっている蓬莱人の魂が抜けるというのもおかしな話なのだが、そうなっているのだから仕方がない。相変わらず何とも器用な男である。
「まあまあ永琳、落ち着いて。レミリアが言った通り、これは私の方がくっついてるんだから」
輝夜が横島の腕に頬擦りをしながらそう言った。途端に収まる永琳のプレッシャーに、周りの皆はほっと息を吐く。
「それで? どうしてそんなにも横島君にくっついてるの?」
永琳が両手で頬杖をつき、不貞腐れたように言う。対する輝夜は少々考え込むと、あっけらかんと理由を述べていった。
「んー、横島さんは私の難題を偶然とはいえちゃんとクリアしたわけだしね。横島さんがこのまま頑張っていけば私を娶ることも充分有りえる話だし? そのための餌というか何と言うか。私も横島さんは嫌いじゃないしね」
「むむむ……」
永琳は輝夜の言葉に思わず唸る。彼女の口ぶりからすれば、横島の妻となっても良いと言っているのと同義。輝夜自身がそれを望んでいるのなら否定するわけにもいかない。
他の皆は輝夜の発言に驚いていた。横島がいつの間にか輝夜に難題を出されているのもそうだが、それをクリアしたこと、そして輝夜が横島を憎からず思っていることに。それが本当に恋心かはまだ分からないが、少なくとも将来一緒になっても良いくらいには考えているらしい。
横島に好意を抱いているメンバーに少なくない動揺が走る。相手は傾国傾城。勝ち目は薄い。
「この場合妹紅が正妻で私が妾になるのかしら?」
「ん? ……いや、それはお前が正妻になるんじゃないの? あー、でも横島なら家柄とか頭の良さとかは考えないかな。こいつは一号二号とかは気にしなさそうだし」
「あー、それもそうか」
――ぶふぅっ!!
輝夜と妹紅の話を聞いた皆が噴き出した。いつの間にか妹紅が横島の妻扱いをされている!? 一体妹紅を追っていった先で何があったのか。
「ももも妹紅さんっ! よ、横島さんのお嫁さんになってたんですか!?」
「ぅえっ? いや、それはまだだけど……」
「まだってことはこの先執事さんのお嫁さんに!?」
「ま、まあ、いつかは……」
「というか輝夜さんまでお嫁さんってどういうことなんです!? 妹紅さんはハーレムとかそういうのは容認派だったんですか!?」
「ん、んん……? ハーレムも何も、男は妻を何人娶ってもいいはずだろ? むしろどれだけの女を養えるかが重要なわけで……」
「そういえば妹紅さんは平安時代の人でした……!!」
「よしっ!! これで私も執事さんのお嫁さんになれる!!」
それはカオスであった。小悪魔とてゐが妹紅から話を聞いているのだが、妹紅は平安時代の価値観そのままに天然ボケを発動。それによりハーレム賛成派の小悪魔とてゐは喜びの声を上げている。小悪魔はパチュリーが呆れたような目をしていることにも気付けていない。
さて、妹紅の言葉に喜ぶ小悪魔とてゐだが、逆に複雑な表情を見せる者も存在した。美鈴である。美鈴の様子がどこかおかしいことに気付いた鈴仙は、美鈴にどうしたのかを聞くことにした。
「ちょっと美鈴、複雑そうな顔してどうしたのよ?」
「あ、鈴仙さん……」
美鈴にはいつもの覇気がなく、何か思い悩んでいるようだ。美鈴は鈴仙が以前にも相談に乗ってくれたこともあり、今回もぽつぽつと話していく。
「いえ、大したことじゃないんですけどね。私もハーレムとかそういうのは管理出来るのなら好きにすればいいと思っていた口なんですが……いざ自分がそういった立場に近くなると、何か複雑で……」
「あー……」
鈴仙は納得した。確かに当事者となってしまっては色々と気が引けたり、考え込んでしまうこともあるだろう。鈴仙にとって横島はあくまでも友人である。それくらいには彼に対して好意を持っている。スケベなところもあるが、仕事はきちんとこなすし、優しく思いやりもある。コンプレックスの塊な部分が如何ともし難いが、最近では美鈴と輝夜やてゐ、妹紅が横島を好きなのならば応援はしようと思えるくらいに信頼を抱けている。
今回のことも美鈴が本気で横島のことを好いているのを鈴仙は知っている。どうにか応援をしたいところだが、あまり答えを出すのを急かすのも問題だ。鈴仙にとって恋愛関係の相談事など専門外以外の何物でもない。それが正しい助言なのかは分からないが、鈴仙は発破をかけるに留めておく。
「……何というか、私は今好きな人がいないから何とも言えないけど……黙ったままとか、自分の気持ちに背くようなことはしない方がいいと思う。こういうことは経験がないから月並みなことしか言えないけど、ちゃんと考えて、後悔のないようにね?」
「鈴仙さん……」
美鈴は自分の相談に真摯に応えてくれる鈴仙に深い感謝を抱く。前回の相談の時も嫌な顔はしていたが、根気よく自分の話を聞いてくれていた。美鈴は鈴仙と友人になれたことを永琳と紫、レミリアに感謝するのだった。
「あ、でもあんまり考え過ぎてるとどんどん後回しになっちゃうかも……」
「ううっ!?」
「今は身内で済んでるけど、横島さんも空を飛べるようになって行動範囲も広がるだろうから、もしかしたら人里とかでぽっと出の女の子に先を越されるかも……」
「はうぅっ!!?」
それは鈴仙の無意識による攻撃だった。美鈴は以前自分の恋心を更年期障害だと勘違いしたことがある。そんな彼女にとって、先を越されるというのは我慢ならない物がある。自分はまだ若いという誇りの為に。
異変が解決した夜。紅魔館はいつもの平穏を取り戻すことが出来ていた。
翌日の昼前。妖怪の山のとある場所で射命丸文はピリピリとした雰囲気を撒き散らしていた。その理由は動物達の内臓が刳り貫かれるという異変を警戒しているため。
文は幻想郷最強の種族(仮)の天狗の一員であり、その中でもトップクラスの実力を誇っている。しかし、相手は
文は険悪とも言える雰囲気を纏ったまま、茶屋に入る。文の姿を見た天狗達は皆一様に頬を引きつらせ、徐々に喧騒も収まっていった。
文は一先ずお茶と団子を注文。待っている間に今後の予定を考える。萃香すら倒すような相手をどうやって倒すか。これに対し文は即座に答えを出す。
「……よし、強い人を片っ端から誘って、数の力で制圧しよう」
要するに袋叩きにしようというわけである。少々短絡的だが、これは理に適っている。どれだけ単体が強くとも、結局は数の前には屈するしかないからだ。尤も、例えば
「何をイライラとしているんですか、文さん?」
「ん? ……げぇっ、
「げぇ、とは何ですか」
近寄りがたい雰囲気の文に話しかけた者、それは白狼天狗の
「全く、ただでさえ最近物騒だというのに、憩いの場で物騒な雰囲気を撒き散らすのはやめてくださいよ」
「悪かったわよ。……ところで、椛がこんな時間にこういう場所にいるなんて珍しいけど、何かあったの?」
そう、椛は真面目で融通が利かないことで有名である。上司である文に振り回されることもあるので性格は軟化していってはいるのだが、それでも折り合いは悪いらしい。文のような鴉天狗を軽視していることも関係はあるのだろうが、今現在はそれ程でもないようだ。文との付き合いでどんどんと悪い部分も伝染している。
「いえ、ちょっと信じがたい光景を目の当たりにしたもので、疲れてるのかと思って……」
「信じがたい光景……? なんですかそれ!? ちょっと詳しく聞かせてくださいよ!!」
椛の言葉に文は瞳をキラキラと輝かせながらメモを取り出す。すっかりと取材モードのスイッチが入ったのか、口調も余所行き用の敬語に変化する。椛はこの状態の文に何度となく振り回されているので勘弁願いたかったが、せっかく話を聞いてくれるようなので話すことにした。
「私の能力で見張りをしていたんですけど、たまたまはたてさんが能力圏内に入ってきましてね」
「あの引きこもりのはたてが? ……それで?」
「ええ、珍しいなーと思ってついつい姿を追ってしまったんですけど、何か、念写をしてはにやにやと笑っていたんです」
「それは、中々に不気味ですね……。それで、一体何が映っていたのかは分かりますか?」
文の握るペンに熱が篭っていく。椛も少々溜めを作り、何だかんだでノリがいい。
「見てしまったんですよ。はたてさんが、
「な、何ですってーーーーーー!!?」
大きな声では言わず、文にだけ聞こえるような声で衝撃の事実を話す。その効果は抜群であり、文はメモを取ることすらせずに驚きに固まっている。
「……はっ!? そ、それはマジなんですか!?」
「ええ、マジもマジ。大マジです。私も能力のおかげでその写真を見ることが出来ましたからね。……悪いとは思いましたが」
「さすが『千里先まで見通す程度の能力』の持ち主ですね!! それで、その男性はどんな方だったんですっ?」
心なしか二人の目が輝いている。こういった恋愛話が好きなのか、声の調子も普段より高めだ。
「画面が小さかったので詳細な表情までは見えませんでしたが、外見的な特徴は覚えてますよ。短めの髪を総髪にして、外の世界の洋服でしょうか? 黒を基調とした衣服に身を包んでいましたね」
「なるほどなるほど!
メモを取る文の動きが止まる。何か、つい最近そんな服装の人を見たような……? 取り合えずお伺いを立ててみることにする。
「他に何か特徴は?」
「……そういえばその方の周りに、西洋の給仕服を着た妖精が映ってましたね」
「あ、これ確定ですね」
射命丸文、思わぬところで身内限定のスクープをゲットする。
「もちろんはたても連れてね!!」
「……急にどうしたんです?」
急に席を立って気炎を吐く文に、椛は不思議そうな顔をするのだった。
第三十七話
『ミーハー恋心』
~了~
おまけ
今明かされる、萃香敗北の軌跡!!
萃香「あ、何か怪しい奴がいる。霧になって近付いちゃえ」
『男』「何だこの霧、邪魔だな。散らそう」
萃香「ぐわあああああ!! 体が散らされるううううう!!」
萃香「……死ぬかと思ったよ」
文「やべえよやべえよ……」
※大体こんな感じです※
おまけ~了~
お疲れ様でした。
はたてはこんな感じでいこうと思います。
はたての詳しい説明などはまた次回ですね。
私「ときメモ2は大変面白かったです。他には何かない?」
友人「オメガバースト」
私「聞いたことないなあ。取り合えず画像検索だ!」
オ メ ガ バ ー ス 大 量 出 現 ! !
私「▂▅▇█▓▒░(’ω’)░▒▓█▇▅▂うわあああああああ」
友人「ごめん、オメガブーストだった」
私「お前ーっ! ブーストをなー! バーストとかなー! ゆるさーん!」
こんなことがありました……
それではまた次回。