今回、何故か全然書けませんでした。書きたいことはプロット立てたりしてちゃんと決めてあったのですが、それでも何故か全然進まず……
そのせいか、今回はかなり文が乱れまくっております。
この煩悩漢を読んでくださっている皆様には申し訳ないです。許してください、何でもしま(ry
それではまたあとがきで。
それは、いつもと変わらぬ夕暮れ時のはずだった。永琳が紫と共にゲストルームで何かを話すでもなく、お茶を飲む。そんな静かな時間に、普段とは少々違った事態が舞い込んできたのだ。
トントントン、と控えめなノック。ドアの向こうから聞こえてくる声は紅魔館唯一の男性、横島の物。2人は入室の許可を出し、横島を部屋に入れた。その時の横島の顔は、何やら深刻そうな、複雑そうな物であり、永琳達は彼にまた何かあったのではないかと危惧の念を抱く。
横島は始め少々話し辛そうにしていたが、やがて意を決したのか、いつになく真剣な表情で切り出した。
「ついさっき、文珠を生成出来ました」
「――――!!」
その言葉は、2人にとてつもない衝撃を齎す。それも当然だ。文珠とは紫ですら一度しか見たことがないような代物なのだ。話には聞いていたが、まさか本当に創れるとは、と思ってしまっても仕方がない。
横島は紫達に先頃生成された文珠を見せる。横島の掌の上で
「……すごく、綺麗ね。こうやって実物を見るのは、どれくらいぶりかしら……」
紫の声に熱が篭る。文珠はその特性故に変幻自在の『威力』をこそ重要視されてしまうが、その実宝石のように鑑賞に耐える美しさをも有しているのだ。
紫も宝石は嫌いではない。美しい物を見て、それにうっとりとした視線を向けても何ら不思議なことはない。綺麗な宝石に心を奪われる、美しい少女。何とも絵になる光景だろう。
「……それにしても、どうしてそんなに複雑そうな顔をしているの? 文珠が生成出来たという事は、つまり元の世界に帰れる可能性が高まったということよね?」
紫は横島に当然の質問をぶつける。それを受けた横島だが、やはり表情は暗い。俯いたその顔には、強い疑問が浮かんでいた。
「……実は俺、
「……どういうこと?」
紫は横島の言葉に何か不穏な物を感じてしまう。事実、横島はその表情を先程よりも更に複雑な物へと変えていた。
「……」
「……?」
だが、ここで紫は横島の雰囲気が微妙におかしなことに気付く。それは危機感を煽る様な物ではなく。横島と交流を重ねた紫はまた何かくだらないことなのだろうかと勘繰ってしまう。
「あー……何が切っ掛けになったのかが分からないので、今日一日の事を話しますね」
「……ええ、お願い」
そうして横島は語りだす。内容は本当に大した物ではなかったのだが、それも彼が1つの事柄について話し始めた時から変わり始めた。
そう、妹紅との一件である。始めは冷静にうんうんと頷いていた紫だが、横島が妹紅との間にあったことを話し出すと、今までの姿から想像が出来ないほどにその瞳が輝きだしたのだ。
いくらえっちな事にあまり免疫がない紫とて、そこは女の子。あまりいきすぎた物はダメだが、こういった健全(?)な恋愛話は大好物なのだ。
だが、そうして甘い話に浸ったのも一瞬だ。紫は次の瞬間には難しい顔になった。
「……何が切っ掛けはまだ分からないけれど、少し難しいことになったわね」
紫の言葉に横島はゆっくりと頷いた。2人が懸念しているのは、簡単なこと。即ち、世界についてだ。
横島は元の世界に帰ろうと霊力を使いこなす為の修行を行っているし、紫も自らの能力で横島が帰還する為の方法を探っている。それに対し、妹紅は当然この『幻想郷』が存在する世界の人間だ。
横島も紫も考えていないわけではなかった。だが横島はともかく、紫が想定していた以上に早く表面化しただけなのだ。
「……こうしていざ直面してみると、すんげー大変なことなんだなって実感してますよ」
横島は若干の胃痛を感じているのか、腹をさする。
時間を置き、誰かに話すことによって冷静さを取り戻すことが出来たのか、横島は自分がどういう立場に居るのかを強烈に思い知った。
「……」
紫は横島に何も言わない。もしかしたら何も言えないのかも知れないが、それを横島が知ることは出来ない。
横島は『異世界人』。いつかは元の世界に帰るのだ。そしてその日は、文珠が生成されたことによってぐっと近付いてきたと言える。未だ検証は済んでいないが、帰ることが出来るのであれば。
「……もういっその事、こっちに骨を埋める事も考えといた方が良いっすかね?」
そして横島がどこか作ったような笑顔でそう言った。紫は顔には出さなかったが、心の中では驚きと、そして納得を抱いていた。
「……焦って答えを出しちゃダメよ? ちゃんと考えて考えて、それから答えをださなくちゃ」
「……分かってはいるんすけどね……」
横島は力のない声で返す。モテ期だなんだと騒いでいても、本当の彼は小心者。色々な不安やらで弱気になってきているようだ。そして、理由はそれだけではない。
「妹紅は横島君が元の世界に帰りたがっていることを知っているのかしら?」
「あー、知ってるはずですよ。普段から言ってることですしね」
紫は分かりきったことを何となしに呟く。横島がそれに答えを返すが、紫はそれに反応を示さない。紫が考えているのは一連の流れについて。
「……まあ、今は置いておきましょうか。理由は想像がつくし……」
結局、紫は静観を決め込むこととした。大事なことではあるが、今最も重要なのは横島が元の世界に帰れるかどうかだ。
紫は横島が何故あのようなことを言ったのかが理解できている。妹紅と同じ女の子として、彼のそういった考えは好意に値するが、それでも紫は横島の為に行動したいと考える。
妹紅には……他の者達にも申し訳ないとは思うが、紫は横島を元の世界に帰してあげたいのだ。
「とりあえず今ある文珠は6つですね。そこで、紫さんには文珠を2つ預けておきます」
「え、私に……?」
紫は横島の言葉に驚きを隠せないでいる。文珠といえば超がつくほどの希少霊具だ。しかもそれを2つも預けるという。
「流石に今の状態で『帰還』を試そうとは思えないんすよ。なので、とりあえず紫さんに文珠を預けて色々調べてもらおうかなーって」
横島は笑いながら頭を掻いている。特に何でも無さそうにしているのは信頼の証だろうか、紫にはそれが嬉しく思えると同時に困惑もしてしまう。何やら想像以上に横島に信頼されているようで、今までの自分の扱いからは考えられない。
「……その期待に応えられるかは分からないけれど、精一杯やってみるわ」
紫が出せたのは、そんな台詞だけだった。横島は「そんなに気負わなくても……」などと言っているが、6つしかない文珠の内2つを預けるという意味をもう少し理解した方がいいだろう。
「それじゃ俺は夕飯の仕込みに入りますね。今日はビーフシチューっすよ!」
「あら、それは横島君の苦手なタマネギがいっぱい入ってそうね」
紫の言葉に横島が嫌そうな声を上げるが、紫に頭を撫でられたことで鼻の下を伸ばしながら部屋を出て行った。彼も色々と考えているのであろうが、こうして煩悩に素直な反応を隠せないのは良いことなのか悪いことなのか。
紫も横島に続き部屋を後にする。横島は自分のことで手一杯だったようで気付かなかったようだが、様子のおかしい永琳をちらりと見る。紫はそれが何に起因するかに気付き、そしてどのようなことを考えているかも凡そ察しがついていた。
第三十話
『永琳と高島』
一人となった部屋で、永琳は紅茶を飲みながら考えを巡らせている。と言ってもそのほとんどが意味のないものであり、実際は何も考えてなどいないに等しい状態となっている。
「……ふぅ」
溜め息を1つ。永琳は部屋に備え付けのロングソファーを見る。
「晩御飯まで、少しお昼寝しちゃおうかしら」
今はお昼じゃないけれど、なんて呟きながら永琳はソファーに寝転がる。紅魔館のインテリアはどれも一級品だ。当然今永琳が横になっているソファーも。
永琳は思っていたよりも精神的な負担が大きかったのか、はたまたソファーがふかふかだったためか、あっさりと夢の世界へと旅立っていった。
眼前に広がるのは血に塗れた
随分と懐かしい光景。それが永琳の抱いた感想だった。どうやら明晰夢というやつらしい。永琳ははっきりとした意識を持ちながら夢を見ている。
これは輝夜と共に生きることを選び、自分と共に来た月の使者達を皆殺しにした時の光景だ。場面が飛び飛びになっているが、間違いはない。
永琳はこの後輝夜と共に都から遠く離れた地に居を移す。鬱蒼とした竹やぶで出来た天然の迷路。数百年後に幻想郷へと流れ着く前の迷いの竹林、高草郡。人も滅多に来ることがないそこは隠れるのに絶好の場所だ。
それから1年余り。今までこつこつと住居を建てたり輝夜と遊んだりしていたのだが、ここ数日は竹林の様子が明らかにおかしかった。
この時点ですでに
――だが、その油断とも言える傲慢さが後の事態を招いたのだ。
「……どうやらこっちに来るようね」
永琳の視界の奥。雑草を掻き分けて進み来る人影が見える。それは狩衣を着た男性のようだ。
狩衣とは当時の貴族達が狩りを行う時に着ていた物。麻布で出来た素朴な代物であり、動きやすい服装だ。よって普通ならその男は何か獣を狩りに竹林へと入ってきたのであろうと推測される。
だが、永琳はその推測を即座に捨てた。
男の体から、膨大な霊力が放射されたからである。
男はその後一直線に永琳の元へと向かってきている。どうやら発見されたらしい。その霊力の質、量、そして永琳を発見するほどの探知力。永琳はその男を自分達を追ってきた陰陽師であると判断する。
「……」
永琳は動かない。何か特別な事情があったわけではない。ただ相手の顔くらいは見ておこうと思っただけだ。普段ならば絶対にしない無駄な行為。それは輝夜の好奇心が伝染したのか、彼女の
「――――!!」
ついに男の姿を完全に捉える。彼我の距離はおよそ10メートル程。永琳が1つまばたきをする。
「っ!!?」
目を開けた時には、男はすぐ目の前にまで迫ってきていた。
永琳の頭を驚愕が支配する。だがそれでも思考とは別に体は動く。男を迎撃しようと腕が動く。しかし男の方が動きが速く、ギリギリで間に合いそうに無い。
そして、永琳に生涯で最大級の衝撃が襲い掛かる。
「産まれる前から愛してました~~~~~~!!」
「え――キャアアアアアアァァァァッ!!?」
それはこの世に生を受けて数億年で初めての出来事だった。
目を血走らせ、鼻息が荒い男が尻からのジェット噴射によって一瞬で距離を詰め、挙句の果てには訳の分からないことを叫びながら自分を押し倒してきたのだから。
「こんな所でこんな美少女と出会えるなんて!! これは普段から上司の嫌味にも負けずに日夜頑張っている俺への仏様からの贈り物に違いない!! ありがとう仏様!! 運命の出会いにぼかーもー!!!!」
「いやああああああ!? 何っ!? 何なの!!?」
予想だにしていなかった突然の貞操の危機に、永琳は叫びを上げる。その当時の映像を見ている今の永琳は「私も若かったのね……」とまるで他人事のように呟いている。永琳の年齢からすれば千年などほんの誤差でしかないのだが、気分の問題らしい。
「あったかいなーやーらかいなーいーにおいだなー!! 俺が求めていたのはこれなんやー!!」
「ちょ、ちょっと貴方、いい加減にやめ……!!」
男は何事かを叫びながら永琳の胸に顔をぐりぐりと押し付ける。当然そんなことをされている永琳は抵抗をするのだが……。
「ぐおおーーーーーー!! 今のワイは狼なんやー!! ちょっとやそっとじゃ止まらへんでーーーーーー!!」
何やら本格的に男は危険な様であった。永琳の目が細められる。
「分かったわ。
「――――え?」
――間――
「……さて、落ち着いてもらえたかしら?」
「は゛い゛……す゛み゛ま゛せ゛ん゛て゛し゛た゛……」
一仕事終えたとばかりに額の汗を拭う永琳の足元には、血塗れのズタボロとなった男の姿があった。
「堪忍やー! 仕方なかったんやー! 数日間ここで迷ってたから飢えとったんやー!!」
「だからって許されるとお思いかしら?」
ペコペコと土下座をする男の頭を踏みつける永琳の姿は何故だかとても様になっている。男も思わず恍惚の表情を浮かべてしまう程だ。
それから永琳は男を縛り上げ、命が惜しくば情報を寄越せと要求する。男の名前、仕事、何故ここに来たか。他にもいくつかあったのだが、特に重要な物はそのくらいだ。
「俺は高島っていいます! 都で陰陽寮の陰陽師やってます! ここへ来たのはクソ上司が都の平和の為に調べてこいって言ったからです!!」
「……随分と正直に話すのね」
「そりゃまあ俺はウンコ食ったら死なずにすむって言われたら食っちゃう派ですし」
「……」
「ああ!? 距離を取らないでー!!」
男――高島の発言に永琳は思わず引いてしまう。今の永琳もその姿に苦笑を浮かべる。
永琳は高島からさらに情報を引き出す。どうやら自分達を追ってきたわけではないようだが、それでも陰陽寮所属の陰陽師となれば色々と情報を持っているだろう。永琳は高島に取引を持ちかける。
「ふむ……高島さん、とりあえず貴方を殺しはしないわ」
「ホントっすか!? いやー助かった……」
「そのかわり条件があります。貴方には都から色々と情報を持ってきてもらいます」
これが、永琳と高島の関係の始まりだった。
高島は妙に永琳に従順な態度を見せ、ひと月に一度は必ず永琳の元へと顔を出す。その際には様々なプレゼントを持ってきては永琳へと貢ぎ、関心を得ようとしている。
時が経つにつれ、永琳の目には高島に犬の耳やしっぽが生えているように見えてきた。
永琳は答えを知りつつも聞いてみた。「何故こんなにもしてくれるのか」と。高島は鼻息荒く「そりゃもちろんこーやって色々と贈ってたら好感度が上がってその内ムフフな展開になるんじゃないかと――――はっ!?」と答えた。……その回答は永琳の想定を色々な意味で超えていた。ここまでストレートに性欲をぶつけられたのは初めてである。
とりあえず、高島は軽めのお仕置きを受けたのだった。
そうやって高島との微妙な関係が続いて2年余り。何だかんだで永琳は高島との時間を楽しみにしていた。彼との会話は純粋に楽しく、彼が齎す情報も身を隠す上で貴重な物だ。期せずして『良い雰囲気』になったこともあった。この段階にもなると永琳は高島に自分がどういう存在か、何故情報を欲しがっているのかを話してある。半ば予想はしていたが、それでも自分に対する態度が変わらなかったことにより、永琳の中で高島の好感度は上がっていった。
――私って案外チョロいのかしら?
夢でとは言え、過去の自分を見ている現在の永琳は少し困り顔だ。永琳は高島の悪い部分をこれでもかと言うほどに知っている。だというのに高島との時間を過ごす彼女は笑顔を浮かべている。これでは過去の自分をチョロいと思ってしまっても無理はない。もっとも、永琳が高島を異性として意識し始めたのには切っ掛けがあるのだが。
――あら?
『その時』のことを思い返していたら、ちょうどその場面が展開されているようだ。
竹林に満ちる強大な妖気。それは月人である永琳ですら手強いと感じるほどの波動。
それの持ち主は巨大な獣だった。
「何だ、こいつ……?」
高島は額に滲む冷や汗を拭いながらその獣を観察する。見た目ならば大きな熊というのが1番しっくりとくる。だが、その背には『鳥のような翼』が生えていた。その尾は『蛇の様』だった。鳴き声はまるで『野犬の様』である。よくよく見れば、他にも体のいたるところにあらゆる動物の特徴が見える。
高島は気付いた。目の前の妖怪と思しき獣を
永琳が前に出る。高島ではその妖怪を無事に祓うことが出来ないと思ってのことだ。しかし、その高島が永琳を背に庇う。
「……どういうつもり?」
「あいつは俺がやります」
高島がいつになく真剣な表情で言う。その顔には決意がありありと浮かんでいた。永琳の目が軽く見開かれる。
「勝てない……とまでは言わないけれど、相当厳しいわよ?」
「ええ、分かってます。それでも……」
高島はそこでちらりと永琳に振り返る。
「やっぱり、好きな女の子の前ではカッコつけたいじゃないっすか」
――~~~~~~~~~~~~~~~~っっっ!!!
現在の永琳が声にならない叫びを上げて身悶える。イメージ映像としては枕に顔を押し付けて、足をバタバタとさせている感じだ。
高島はダラダラと冷や汗を流している。浮かべた笑みは引きつっている。相手に恐怖している。しかし、それでも、永琳には、その時の高島が最高に格好良く見えたのだ。
――そうそう、この時から高島さんを意識しだしたのよねー。我ながらチョロいわー。
当時の気持ちを思い出したのか、永琳は頬を赤くしてほぅと息を吐く。過去の永琳は高島の言葉に暫し呆然としていたが、やがて微笑を浮かべると「それじゃ、たくさん格好良い所を見せてね」と送り出した。
高島は永琳に1つ頷くと、妖怪に向かって突撃する。
「うおおおおおおおおお!!」
高島が霊力を練り上げて右手に集中する。霊力は凝縮し、霊気の篭手を生み出した。
「食ぅらええええええぇぇぇっ!!」
高島による渾身の拳が妖怪に迫る!
▽妖怪は 口から炎を吐いた!
「あんぎゃあああああああ!!? あづっ、あづづづづづ!!? 五行相克・水克火!! 水克火ーーーー!!?」
高島は全身を焼く炎を陰陽術でなんとか相克した。水でぬかるんだ地面をごろごろと転がったせいか、全身が泥だらけである。しかし、高島はその程度ではめげない。
「な、中々やるじゃねーか……。だが、こんな程度で俺を倒せると思うな!!」
高島が再び霊力の篭手を形成し、突撃する!
▽妖怪の 往復ビンタ!
「あぶっ!? あぶぶぶぶぶぶぶぶっ!!?」
高島はビターンと地面に叩きつけられた。両頬が約2倍に膨れ上がり、頬袋がパンパンのリスを彷彿とさせる。痛みのせいで涙が溢れてくるが、それでも高島は諦めない。
「まだ、やるかい……? 俺は、元気いっぱいだぜ……?」
ふらふらと立ち上がった高島は妖怪に対してファイティングポーズをとる。次の瞬間には妖怪のアッパーカットで吹き飛んだ。
「あじゃぱーーーー!?」
高島は頭から地面に墜落した。倒れた姿はヒドイもので、永琳の方へ尻を突き出したような格好だ。しかも狩衣が燃えたせいか、下に着けていた褌が丸見えの状態で。
「……格好悪い」
それが偽らざる永琳の気持ちであった。だがそれも当然である。格好良い所を見せると言ってこのざまなのだ。普通ならば百年の恋も冷めるだろう。
そう、普通ならば。
――ああ、やっぱり高島さんは可愛いわね……。
生憎と永琳は普通ではなかった。いわゆるダメ男好きと言うべきか。高島のダメな部分を知る度に、その部分も含めて全てを支配してしまいたい欲求に駆られるのだ。
マゾ気質を備える高島には、案外お似合いかもしれない。
「ふ……ふふふふふふふふふふふふ……」
永琳が高島の無様な格好に人知れず恍惚の表情を浮かべていると、高島が壊れたかのような笑い声をもらし始めた。何やら暗いオーラも纏っている。その怪しげな雰囲気に永琳ですら一歩下がった。
「おのれ、この腐れ妖怪め……! テメーのせいで永琳さんに『格好悪い』って言われちまったじゃねーか!! 上手くいけば永琳さんの前でカッコいーとこ見せて俺に惚れた永琳さんを布団に誘って朝まで仲良く(意味深)することが出来たかもしれんとゆーのにー!!」
「……えぇー」
どうやら先程の呟きが高島に聞こえていたようだ。口からは都合の良い妄想が駄々漏れになり、血涙を流している。煩悩に歪んだ酷い顔だ。しかし、そのお陰か彼の霊力は爆発的に膨れ上がった。
高島が右手に形成していた篭手を解除する。
「これだけは使いたくなかったが、もう知らん。一瞬でぶっ飛ばしてやるぜ!!」
突如、高島の強力な霊気が一点に集中した。それは先程の篭手などよりも遥かに凝縮されていく。ただただ一点に。渦を巻き、それは形作られる。
妖怪が吼えながら高島に襲い掛かる。離れた間合いも一気に詰め、その手に伸びる強靭な爪を振るおうと。
それは本能的な恐怖からくる行動だったのだ。妖怪は逃げることも出来た。だが、それは彼の低い知能が選ばせなかった。故に、彼は滅んでしまうのだ。
「せめて苦しまないように……なんて言うと思ったか!! 木っ端微塵になりやがれぇぇぇぇえええええ!!!!」
高島は掌に生成された球体を妖怪に投げつける。それは翡翠のような、美しい珠に見えた。しかし、その珠に内蔵されている霊力は、永琳ですら恐ろしいと思えるほどに莫大だ。
珠の表面に文字が見える。刻まれていたのは『爆』という文字。
――――瞬間、珠が破裂し、内部の莫大な霊気が霊的・物理的な爆発を起こす。
その爆発は強力であり、それを懐で受けた妖怪は体の
「……中々の大きさね」
それが何に対する言及かは高島は知る由もない。
高島はその妖怪の死体を陰陽寮へと持ち帰った。何か、その妖怪に思う所があったらしい。一応名目として、竹林に筍を取りに来た少女(永琳)を襲った妖怪を倒した、ということにするそうだ。
その後、都から陰陽師が高島と共に派遣されてきた。その内のかなり身なりの良い長髪の男が高島に何かとつっかかっていたのが印象的だった。聞こえてきたところによると、名前は西郷と言い、高島の上司らしい。
西郷は永琳と挨拶を交わし、その後一足先に都へと帰っていった。その際に何事かを高島に耳打ちしていたのを、永琳は見逃さなかった。少し目が輝く。
「……こほん。もしかして、彼が前に言っていた『クソ上司』なの?」
「いやあ、あいつは違いますよ。まあ、気にいらねー奴ではありますけどね。……もっと上っす。西郷の奴は陰陽博士っつー役職で、クソなのは
「……それは大変ね」
何かを思い出したのか、高島は顔を盛大にしかめる。その後頭をぼりぼりと掻き、永琳に真剣な表情を見せる。
「……どうしたの?」
「あー……西郷が情報を持ってきてくれたんすけどね。その……
「――――……!!」
永琳の目が見開かれる。空気が一瞬でピリピリと張り詰めた物に変わる。
「……すんません、西郷にはバレてたみたいっす。俺が色々と探ってたこととか、永琳さん達のこととか」
高島はすでに覚悟を決めた顔をしている。ガタガタと震え、思い切り腰が引けているが、それでも逃げようとはしていない。永琳は高島をどうこうする気はないのだが、最初が最初だけにこの反応も仕方がないだろう。
とりあえず、誤解はすぐに解いておいた。
「西郷さんについても、恐らく大丈夫だとは思うわ。高島さんがこうしてこっちに来ることが出来ている時点で私達をどうこうしようとしているわけではなさそうだし。さっきの様子だと、高島さんに陰ながら協力しているようにも感じられるわ」
「……そうなんすか?」
「何の根拠もない単なる勘でしかないけれど。こう見えて長生きしているのよ。お姉さんの言葉を信じなさい」
「……分かりました。亀の甲より年の」
高島は血煙に沈んだ。
「……」
永琳は考える。竹取の老夫婦が殺された。この2人は地上における輝夜の育ての親だ。互いに打算はあったが、それでも輝夜と老夫婦は絆を育んでいた。寿命で死ぬのはいい。人間と違う時間を生きているのだ。それは最初から織り込み済みだ。だが、今回は別だ。
「あの2人が住んでいた家はどうだった?」
「え? ……西郷が言うにはかなり荒らされてたそうです。多分夜盗の仕業だって言ってましたが」
「そう……」
永琳は確信を深める。これはもう確定と言ってもいいだろう。永琳の勘がそう告げている。
犯人は、老夫婦に渡した蓬莱の薬が目当てだったのだ。ではそれを知っているのは何者か。
「……」
思い当たる人物は存在しない。一体どこから蓬莱の薬のことを知ったのか。
「永琳さん……?」
高島の声がすぐ傍で聞こえる。ふと見れば高島が傷も無く立ち上がっていた。とんでもない回復力である。
「俺もそろそろ戻りますね。ちょっと調べたいことも出来ましたし」
「あ、そうなの? やっぱりあの妖怪について?」
「……ええ」
「……?」
いつもと違う高島の様子に永琳は首を傾げる。何か、少し機嫌が悪そうにも見える。永琳はそれを見て何を思ったのか、高島の頭を撫でる。
「……なんすか?」
「いや、何か怖い顔をしていたからね」
「むぅ……どうせ撫でるなら別の頭を……」
袴の帯を緩めようとする高島の頭に、永琳のアイアンクローが炸裂した。
――してあげれば良かったのかしらね?
現在の永琳がその光景を複雑な表情で見ている。だが、今そんなことを思ってもどうしようもないのだ。何せ、
目の前の光景が薄れていく。これは夢なのだ。映像が完全に消えれば、きっと目が覚めるのだろう。ぼんやりと映る映像には、西郷が過去の自分に高島からの手紙を渡している場面が展開されている。しかし、それもすぐに消えた。
目の前は、完全に真っ暗だ。
「……」
目を開く。そこはいつものゲストルームだ。寝起きで鈍い頭を軽く振る。出てきたのは溜め息だ。
「……さっきの横島君の影響かしら。今のは良い夢だったのか、悪い夢だったのか。高島さんの夢だから良い夢だと思うのだけど……」
今は亡き想い人の夢だ。良い夢であるに決まっている……と言い切れないのが辛いところだ。と言うのも、なにやら霊感が騒ぐ。何か、嫌な予感がする。
「……色々と気になるわね」
永琳は思考を巡らせる。横島が文珠を生成出来た理由。さっきの夢。他にも様々なことを。
「……」
その後永琳は鈴仙が呼びに来るまでずっと思索に耽っていた。気がついた時には、鈴仙の体をこれでもかと言うほどにいぢくり回していた事はどうでもいい余談である。
第三十話
『永琳と高島』
~了~
お疲れ様でした。
非常にどうでもいいことなんですが、紫・永琳・さとりの3人には『かなりのダメ男好き』という設定を加えています。それぞれ系統は違いますけどね。
さて、今回かなり重要な話だったりするんですよね。と言っても自分でも読んでて「あ……? あ……?」ってなってしまうのですが。読みにくいったらありゃしない。
1番内容を理解している作者ですらこの様……!!
本当申し訳ないです。
次回からは調子が戻っていれば良いなあ。そしていわゆる文章力が上がっていれば良いなあ。
それではまた次回。