ここ最近の話は無駄に文字数が多いんじゃないかと思い、書いては削り、書いては削りを繰り返していました。
なので、今回は最近の中では短い方となっております。
それではまたあとがきで。
慧音とさとりが紅魔館を訪れてから、また幾日が過ぎた。昼を過ぎた現在の時刻は午後の三時と半。咲夜特製のおやつを食べ終えて鼻歌を口ずさみながら廊下を歩くのは、紅魔館の門番である紅美鈴。彼女はある人物に相談を持ちかけようと、その人物の部屋に向かっている。というのも、彼女もまたある少女達から相談を受け、衝撃を受けたからだ。その人物達にも、その内容にも。
「……まさか、妹様と小悪魔ちゃんがあんなことを言い出すとは……」
美鈴は相談された内容を思い返す。『何とかしてただお兄様を長生きさせたい』『だから
何せ自分の感情を理解した矢先のことである。これから横島に対してどのようなアプローチを仕掛けようかと、迷っていたときにこれだ。恐らく、あの二人には全てを見透かされているのだと美鈴は考える。二人が浮かべていた笑顔はとても印象的だった。
しかし、戸惑ったのはそれではない。美鈴自身、フラン達の誘いに関しては特に反論も異論も無い。何せ彼女も妖怪だ。力のある者、魅力ある者がハーレムを築いているのを今までの長い生の中でいくつも目にしてきている。ましてや人間よりもいっそ獣に近い価値観すらも有している妖怪達は、それを当たり前のように考えている者も多い。その中でも幻想郷に住まう妖怪達の価値観は人間寄りだが、だからと言って人間のルールに縛られることはない。ちゃんと管理が出来るならばお好きにどうぞ、と言ったところだ。
問題は
「流石にマズイですよねぇ……」
思わず唸ってしまう。先程までの楽しい気分はどこかへと消えてしまった。美鈴は横島が人外となるのを忌避しているわけではない。むしろ横島が望むのなら、進んでその道を模索したいぐらいだ。だが、横島はそれを望んでおらず、人間としての生を全うしたいと考えているらしい。加えて、ここは幻想郷だ。様々な偶然が重なったとはいえ、今や横島は幻想郷の住人だ。しかも、元の世界に帰れる可能性が限りなく低い。
重ねて言うが、ここは
「むむむ……。本当にどうしたものか……」
美鈴はうんうんと唸り、首をぐるぐると回す。こうすれば何か良いアイディアが浮かぶのではと考えた故の行動だが、その様は非常に不気味である。しかし、そんな何かしらのクスリがキマっているかのような美鈴に近付く少女が居た。
「ちょっとちょっと、私の部屋の前で変なことするのはやめてよ、美鈴」
焦っているような、呆れているような声音で美鈴に声を掛けたのは、膝上20センチという超ミニスカートのメイド服を着用した鈴仙であった。
「あ、鈴仙さん」
「あ、じゃないわよ。こんなところで何してるのよ?」
間の抜けた表情で自らの名前を呼んだ美鈴に、鈴仙はツッコミを返す。美鈴は後頭部をカリカリと掻き、照れたように笑みを浮かべる。
「やはは、実は相談に乗ってもらおうかと思いまして……」
「相談……? 私に?」
意外と言えば意外であった。お互い上司の無茶振りに苦労するという共通点があるおかげで仲が良い方の二人だが、こんな風に相談があると言われたのは初めてだった。
「んー……どんなことなの?」
鈴仙は疑問をそのまま口に出す。それに対して美鈴は少し言いにくそうにして、視線を逸らしながら答えた。
「横島さんのことに関して、です」
第二十八話
『思い立ったが吉日』
「……なるほどね。フランや小悪魔がそんなことを……」
「はい」
現在二人は部屋に備え付けられている対面式のソファに腰かけている。美鈴が鈴仙に詳細を語ってたっぷり数十秒。鈴仙は溜め息混じりにそう呟いた。フラン達が横島に特別な想いを抱いていることは知っていたが、まさかそれほどまでの物とは思っていなかったのだろう。少々深刻な表情を浮かべている。
「……正直なところ、私にはどうすることも出来ないわね。せっかく相談してくれたのに、役に立てそうもないわ。ごめんなさい」
「ああ、いえ、そんな。頭を上げてください」
鈴仙はそう言って美鈴に頭を下げる。実際、鈴仙ではどうすることも出来ないのは確かだ。美鈴とて、それは分かっているはず。だと言うのに、何故このようなことを持ち出してきたのか。沈黙が場を支配する。このままでは気まずい時間がただ過ぎてゆくだけだ。、鈴仙はとりあえず一つの話題を提供してみる。
「……それにしても、フランも変わったわね。あの子が誰かを好きになるなんて、未だにちょっと信じられないわ」
その話題とはフランのこと。鈴仙は以前のフランのことを知っている。かつての月侵攻用ロケット完成パーティーの際には、地下に迷い込んだ時にはてゐ共々散々驚かされたものだ。鈴仙のフランに対する印象はその時点で固まっていた。故に、紅魔館に住むようになった今はフランのひととなりに些かならず驚いている。
「妹様だって女の子なんですから。それは当たり前のことですよ」
鈴仙の言葉に美鈴はそう返す。鈴仙は暫し唸ったが、やがて「それもそうか」と納得に至った。
美鈴は思い返す。フランが皆に馴染もうと努力していたときのことを。いつも遠くから仲睦まじい様子の妖精メイド達を眺めていた頃を。その頃を思えば、なるほど、確かにフランは変わったと言えるだろう。変化が顕著に表れたのは、やはり横島が紅魔館に来てからだろうか。
例えば妖精メイド達がヨーヨーで遊んでいた時だ。妖精メイド達が輪になって楽しそうにはしゃいでいる中、フランはそれを羨ましそうに眺めていた。その頃のフランは妖精メイド達と話すことは何でもないことになっていた。だが、玩具で遊んでいるとなると話は別だ。彼女の力、そして能力は妖精メイド達の玩具など塵のように簡単に壊してしまえる。
無論フランにそれらを壊す気は毛頭無い。だが、万が一を考えると一歩を踏み出せなかったのである。
そんな時に現れたのが横島だった。
「お? 皆何やってんだー?」
「あ、横島さんだ」
横島はあっという間に妖精メイド達の輪に入っていった。その自然な様に、フランはどれだけの嫉妬を覚えたことか。自分より遥かに新参者の少年が、皆と笑い合い、遊んでいる。その光景を見るフランの頬は、見事に膨らんでいった。
しかし、そこで転機が訪れる。
「おーい、妹様もやりましょうよー!」
「――――え?」
横島が手を振り、自分を誘ってきたのだ。これには咄嗟の対応が出来ず、呼ばれるままになってしまう。気が付けば横島が自分の手を握り、妖精メイドの輪の中へと連れて来てくれていた。フランは皆に囲まれ、慌ててしまう。
「妹様もやりましょー」
「え、えぇ……?」
「居たならお声を掛けて下されば良かったですのにー」
「いや、ちょ……」
「よーし、お前ら! 横島先生のヨーヨー講座を始めるぞー!!」
「はーい!!」
「……えぇー」
全てが強引に進んでいった。フランは流されるままにヨーヨー講座なるものを受ける。言われたまま、流されるままにヨーヨーの練習をするフラン。最初の頃は壊さないように壊さないように、おっかなびっくりヨーヨーを扱っていた。彼女のヨーヨー暦は無いに等しい。当然失敗ばかりだ。だが妖精メイド達が次々と
それほどまでにフランは熱中していた。ただ、妖精メイド達と遊ぶ。それだけの行為に。
「……」
横島はその光景を目を細めて眺めていた。恐らくは、この頃からフランに対して違和感を持っていたのだろう。横島は大きく息を吸い込むと、手をパンパンと2回打ち鳴らした。
「うっし! それじゃ、俺が今から皆に頂点を極めた
「……頂点?」
横島の言葉に大多数が首を傾げる。それを見た横島の反応は、ただにんまりと笑うだけだ。
「ふっふっふ。何せ俺は子供時代、3年連続日本チャンピオンに輝いたスピナーだからな!!」
「ええええええぇーーーー!!?」
妖精メイド達の悲鳴のような歓声が上がる。妖精メイド達素人からすれば、日本チャンピオンなど憧れの存在以外の何者でもない。横島は時折こういった子供染みた自慢をする。それが横島らしいと言えるのだが、そもそも横島はまだ子供。こういった自慢が似合う年頃ではないが、それでも似合ってしまうのはご愛嬌といったところか。
皆は目を輝かせ、日本一の演技を今か今かと待っている。横島は皆を一瞥し、大きく頷く。最後にフランを見つめ、彼はニカッと笑った。
「――――!?」
フランに正体不明の衝撃が走る。胸が高鳴り、頬が熱くなる。その頃のフランに芽生えた感情が何か、それは理解出来ていなかっただろう。ただ、フランの胸中に何かが焼きついたことは確かだった。
「さ、いくぜ!!」
横島がそう宣言し、軽やかな手つきで演技をスタートする。横島の手からヨーヨーが離れておよそ0.5秒。横島は既に1つの
それは『ストリングスプレイ』と呼ばれるヨーヨーを
「ストリングプレイスパイダーベイビー!!」
ヨーヨー日本チャンピオンの演技は、とても爽やかなドヤ顔から始まりを告げた。
例えば妖精メイド達がけん玉で遊んでいた時も。この時フランはヨーヨーの時の経験を活かし、自然と皆に混ざることが出来た。そうして楽しくけん玉で遊んでいる中、1人の妖精メイドが横島を連れてきたのだ。
「お? 今度はけん玉か。懐かしいな」
「……お兄さん、けん玉も得意だったりするの?」
横島を連れてきた妖精メイドが、物凄く期待した眼差しで横島を見ている。その様子から、フランは横島がヨーヨーと同じく、けん玉もかなりの力量を誇っているのではと思い至った。
「ん? ええ、何せ俺は子供時代、3年連続で日本チャンピオンになってますから」
「ヨーヨーだけじゃなく、けん玉まで!?」
この発言に妖精メイド達が沸いた。目の前に居る執事は、ヨーヨーだけでなくけん玉でも自分達を更なる高みへと誘ってくれる存在なのだ。妖精達は単純である。かつて日本の頂点に立ったと聞いただけで目がハートマークへと変貌している。あまりのチョロさに横島も苦笑いを浮かべるしかない。
横島はどこからともなくけん玉を取り出すと、今度はけん玉についての授業を始める。
「いいかー? まずはけん玉の各部位の名称。それからメンテの仕方について説明するぞー」
「はーい!!」
横島は皆がちゃんと着いてこれるようにゆっくりとした口調で話し出す。フランも横島の話をメモを取りつつ真剣に聞き、まずはけん玉に関する知識を深めた。
そしてけん玉のことを知れば知るほど、かつてチャンピオンの座に着いた者の演技を見たくなる。それは妖精メイド達も同様で、既に何人かの妖精メイドが横島に演技をねだっていた。それに対し横島は「しょうがねーなー」と言いながら上着を脱ぎ捨てる。やる気満々な姿から、1番チョロいのは彼なのかも知れない。
「んじゃ、早速いくぜー!」
そう宣言したと同時、横島の両手が
「ストリングプレイスパイダーベイビー!!」
けん玉日本チャンピオンの演技は、またも爽やか過ぎるドヤ顔から始まった。
次にベーゴマで遊んでいたとき。
「ベーゴマか……。何かレトロな物ばっかりだな。……まぁ、俺はベーゴマでも3年連続日本チャンピオンだったけど」
「やっぱりそうだったんだ!?」
これはフラン達が想像していた通りだった。もはや何でもありな感じが否めない。横島という人間の手先の器用さは計り知れない物がある。
ちなみに横島はヨーヨー・けん玉・ベーゴマだけでなく、ミニ四駆・カラオケ・カードゲーム・メンコ等々、数多くの遊びで頂点を極めている。遊びの天才は伊達ではない。『浪速のペガサス』の異名は今も伝えられており、ホビー界では生ける伝説となっているのだ。
そんな彼がベーゴマでまず始めに披露した技は、ベーゴマ本体を紐に引っ掛け、紐で蜘蛛の巣を、回転するベーゴマ本体を蜘蛛の子に見立てた超大技、『ストリングプレイスパイダーベイビー』であった。その時の横島の表情は、やっぱり爽やか過ぎるドヤ顔であったらしい。
「――何てことがありましてね? 妹様を気遣いながらフォローとかもしてたみたいなんですよ。そういうところも格好いいと私は思うんですけど、個人的には皆と玩具で遊んでいるっていうのが意外とポイントが高くてですね。やっぱり横島さんの魅力の1つに『子供っぽいところ』が含まれると思うんですよ! 一緒に鍛錬をしている時の緊張した面持ちも良いんですが、こう、何と言うか。年相応の表情を見せてくれているのがそういう瞬間だと思うんですね。凄く良い笑顔なんですよ。あんな顔を見ちゃったらもう、横島さんが可愛く感じてきちゃってですね――」
「うん……うん……うん……そうね……」
美鈴は思い返すだけでは満足出来ず、いつのまにか鈴仙に色々と語っていた。尽きることのないマシンガントーク。それに相槌を返す鈴仙は、一見朗らかに笑みを浮かべているように見える。だが、ここで彼女のこめかみに注目してみよう。そこには幾筋もの血管が浮かび上がり、井桁が形成されているではないか。まず間違いなく、お冠である。
(こんにゃろう……さては相談はついでで、本当は惚気たいだけだったのね……!!)
心の中で暴言を吐く鈴仙は随分とアクティブに思える。横島を前にした時と比べると落差が激しいが、これは何も横島のことが嫌いだからではない。いや、苦手意識は持っているのだが。彼女は未だ横島と上手く打ち解けられず、彼の前では素の自分を出せないでいるのだ。
「はあ……。何というか、美鈴に対する今までのイメージが崩れちゃったわ……」
鈴仙は片手で目を覆い、溜め息を吐いた。それに対する美鈴は「あはは」と笑い、視線を逸らすことで誤魔化した。鈴仙が軽く睨んできているので誤魔化せてはいないだろうが。
「……それで、横島さんのことはどうするの? 寿命のことはともかく、告白とかするの?」
腕を組み、ソファの背もたれに体を預ける鈴仙の言葉に、美鈴は瞬時に顔を赤くした。だが彼女は鈴仙の目をしっかりと見つつ、強く、深く頷いた。
「最近妹様や小悪魔ちゃんとも色々話し合ってるんですよ。人里に行った時にいわゆる女性誌なんかを買ったりして、その内容を横島さんと私達に脳内で置き換えたりして……」
「……そ、そう。案外乙女チックというか、何というか」
「妹様も徐々に変わってきましたね。女性誌に『まずは外堀を埋めていこう』とか、『ただ直球でいくだけでは男は落ちない』とか書かれていたんですけど、それを見て『私もそういうことをしなきゃお兄様は落とせないのかな?』とか、『お姉様の言うとおり、分かっててやれば問題はないのかな?』とか言っていましたしね」
「……ふーん?」
美鈴はフラン達との近況を話していく。それは先程の惚気と同様に中々に饒舌だったのだが、鈴仙にはその姿が先程とはまるで違うことを見抜かれていた。
「美鈴さ、さっきあれだけ力強く頷いていたのに、何で告白のことから話を逸らしてるの?」
「――――……」
美鈴は笑顔のまま一切の動きを止めた。そうして沈黙が場を支配して数十秒あまり。美鈴がぷるぷると震え始める。
「……だっ」
「だっ?」
「だって! 告白なんてどうすればいいか分かんないんですよー!! だからこうやって相談しに来たんじゃないですかー!!」
「あんた最初っからヘタレてたの!? って、ちょっ、こら! 離れなさい!」」
美鈴が涙目になり鈴仙へと縋り付く。鈴仙は何とか美鈴を引き離したいのだが、今現在の二人は腕力の差が大きすぎる。結果、鈴仙は美鈴に絡まれて数時間も『相談』を受けるはめになったのだった。
時は夕暮れ。レミリアの部屋からゲストルームへと続く廊下を、レミリアとパチュリーが歩く。実は数時間前にレミリアの部屋で
今夜は満月。横島達の給料日である。それに関する騒動があった。
「あれだけ滅茶苦茶になった部屋を簡単に元通りにするなんて、横島の技術もかなり凄い物があるわよね」
「私達みたいな能力だとか魔法じゃなくて、単純な器用さだものね。……ふふ、やはりこの私の従者に相応しい……」
廊下の長さに対して少なすぎる窓から差し込んでくる赤い日差しを、レミリアは親友を盾にして防ぎながら他愛も無い雑談に興じる。そんな親友を横目で見つつ、パチュリーはレミリアに気なっていたことを訊ねる。
「ところでレミィ? 小悪魔を含め、貴女の妹や従者達が横島にメロメロにされているわけだけど、この状況をどう思う?」
パチュリーの問いにレミリアの表情が変わる。それは怒りによってではなく、どちらかと言えば拗ねているかのような表情だ。
「……まあ、小悪魔や美鈴、妖精メイド達は別にいいのよ。ただ、フランにそういうのはまだ早いとか思ったり……いや別にダメだってんじゃないんだけどね?」
「ふむ……」
レミリアは少々声を潜め、ぶつぶつと呟く。その内容を聞いたパチュリーは、余計な部分を省き、要約する。
「つまり、姉離れが嫌だ、と」
「ちがっ……わ、ないのかしら……?」
パチュリーの言葉を咄嗟に否定しようとするレミリアだったが、途中でその勢いをなくし、しりすぼみになる。長い間姉らしいことをしてやれなかったため、レミリアはフランに甘いところがある。もしかしたら、姉と妹という関係に何かしらの固定観念を持っているのかもしれない。
「……もうちょっとフランが大人になれば、構わないんだけどね。……まあ、他人はともかくフランに対して横島は手放しにオススメ出来る相手ではないけれど」
「まあ、確かにね。恐ろしいまでの煩悩の持ち主だし。……ま、何とか自制は出来るようだし良いんじゃない? それに優しいところもあるしちゃんと気も使える。仕事も優秀で霊力も莫大、収入も良し。顔もそこそこだし最近は家事の腕も上がってきて……」
「……」
二人の間に沈黙が舞い降りる。
「……横島って、実は優良物件……?」
「うーん……」
二人は真剣に考え始める。まず第一に彼の煩悩を許容出来るかどうか。それが最初にして最大の難関だ。
と、ここでレミリアがパチュリーの横顔を見る。するとレミリアの頬が徐々に吊り上がり、ニヤニヤとした表情になった。
「ところでパチェは横島についてどう思ってるの? 何か特別な物はあったりしないの?」
「私? ……まだこれといった物はないわね」
パチュリーの返答にレミリアの笑みがますます深まる。
「ふーん? 『まだ』ってことは、これから横島に
レミリアは嫌らしい顔でパチュリーに問う。思うのは先程の仕返し。全く持って逆恨みなわけであるのだが、こんなことは二人の間では日常茶飯事だ。パチュリーはレミリアをちらりと見やり、ごくあっさりと答えを返す。
「ええ、そうね。もしかしたらいつか本気になっちゃうかもね」
「――……は?」
レミリアはパチュリーの答えに間の抜けた顔で間の抜けた声を出し、ついつい歩みを止めてしまった。
「……どうしたの、レミィ?」
「いや、どーしたって……否定しないの?」
レミリアは目をしばたたかせ、そう問うた。
「まあね。何だかんだ言って、横島はこの紅魔館唯一の男性よ。私だって彼に対して意識している部分はあるもの。……裸も見られちゃったし、ね」
そう言ったパチュリーの頬は朱を帯びていた。レミリアには何故パチュリーの頬が赤く染まっているのかは判断がつかない。1つ思ったことは、横島は存外に女誑しなのではないか、という疑惑だけだった。
「あら、噂をすればなんとやら。あんな所に横島が」
「え……?」
レミリアはパチュリーの言葉に咄嗟に反応出来なかった。レミリアは辺りをキョロキョロと見回したが、横島の姿を確認出来ない。一体どこにいるのかと、ふと窓の外を見やると、窓から見える紅魔館が誇る時計塔、その巨大な文字盤の前に横島ともう1人が座っていた。
「あれは横島と……妹紅?」
「あら、本当。何やってるのかしら」
見れば、二人は何事か語らっているように見える。人間を遥かに超えた聴力を持つ吸血鬼でも、流石に二人の会話までは聞こえない。
「それにしても、横島はどうやってあそこまで上ったのかしら? 妹紅に運んでもらった?」
「いや、横島はいつも時計塔の近くにある木の下で空を飛ぶ練習をしてたから、その関係じゃないか? どうせ変なことを考えてて、気が付いたらあんな所まで浮かんでいて降りられなくなった……とか、そんなんじゃない?」
「……ありうるわね」
レミリアの言葉にパチュリーは頷きを返す。レミリアは腕を組み、俯き加減になって落ち込む。ああいうところがなければフランを応援するのに、と。思わず深い溜め息が出てしまう。
だが、そんな憂鬱な気分を吹き飛ばすような事件が起こった。
「――ファッ!!?」
突如、隣に佇む自らの親友が奇声を上げたのだ。レミリアは思わず体をびくりと跳ねさせ、驚いてしまう。
「ちょ、急に変な声を出してどうし――ファッ!!?」
レミリアはパチュリーに視線をやり、そのまま流れるようにその視線を横島達に向け……驚きから自らも奇声を発してしまった。
レミリア達の視線の先。そこに広がった光景は、妹紅が横島に覆いかぶさるようにして、自らの唇を横島の唇に押し当てているところだったのだから。
第二十八話
『思い立ったが吉日』
~了~
お疲れ様でした。
今回は横島君がほとんど出てきませんでした。次回は今回の話の横島君サイドの話となります。
次回はてゐも出るよ!
それでは次回をお待ちください。