東方煩悩漢   作:タナボルタ

31 / 96
大変お待たせいたしました。

今回やっと横島君とさとり様が絡みます。
てゐも出てきます。あと独自設定もあります。
ちょっと書き方も変更してみました。

それではまたあとがきで。


第二十六話『ココロの形』

 

 陽もやや傾いてきた夕刻。慧音との大図書館での歓談は未だ続いていた。レミリアとパチュリー、咲夜が横島の恥ずかしい失敗などを語り、横島の羞恥心を煽る。特にパチュリーが率先して話し、横島を悶えさせていた。それを眺めているパチュリーの肌はどんどんと艶を増していき、表情は色気を帯びていく。どうやら厄介な扉を開いたようだ。

 

 そんないつもの様子とは明らかに違うパチュリーに親友のレミリアだけでなく他の者も戸惑っているが、それでも一番動揺しているのは横島だった。いや、それに関してはパチュリーは関係していないのだが。

 

「……あれ? ただお兄様、どうかした?」

「ああ、いえ。何でもないっすよ、フラン様」

「あの、何かあったらちゃんと言ってくださいね、横島さん」

「……うん。分かってるよ、小悪魔ちゃん」

 

 横島が動揺している理由。それはフランと小悪魔の行動にあった。

 

 現在フランは横島の膝の上に座っており、時折体を横島に擦り付けている。小悪魔は横島の隣の席に腰を下ろしているのだが、その距離は肩が触れそうなほどに近い。最初は肩が触れると体を少し跳ねさせるほどに緊張していたのだが、今では横島の手を握り、指を絡めたりなど大胆な行動をしてくるようになった。

 

 これには本人達の前で「ワイはロリコンやない!!」と言って憚らない横島も心を揺さぶられる。

 

(何なのだ、これは! どうすればいいのだ!?)

 

 この心の声で、彼がどれほど動揺しているかが分かっていただけたと思う。いつもなら動揺したときには関西弁が出てくるのだが、今はそれすらも通り越してやたらとシリアスな言葉遣いとなっている。もはや彼にいつもの余裕は無く、二人の少女の行動にただただ翻弄されている。流石に、ここまで露骨に行動に起こされては、横島もとある事実に気付かざるを得なかった。

 

 フラン達がこのような行動に出た理由は、いたってシンプルなもの。『横島が寿命で死ぬ前に沢山ラブラブしたい』というもの。何せ二人は魔族であり、人間とは寿命の桁が違いすぎる。二人としては横島を人外にして寿命を延ばしたいのだが、思い人である横島はそれを望んでいない。

 

 ならば、どうするか。

 

「ただお兄様、このクッキー美味しいよ? お兄様も食べてみて?」

「あ、ああ、はい。いただきます」

「はい、あーん」

「ぅえっ!?」

「それではこちらもどうぞ、横島さん」

「ふおぉあ!?」

 

 全力を以っていちゃいちゃする。それが二人が出した結論だった。そうやって横島が自分達に靡けば、寿命を延ばしたくなるかもしれないという打算も無きにしも非ず。横島が他に恋人を作ったり、元の世界に帰ったりということを最初から度外視しているが、それには彼女達なりの考えがあった。

 

「……モテモテね、横島」

 

 レミリアはフラン達の様子を見て溜め息と共にそう呟いた。それには横島に対する少しの嫉妬も混じっていたが、それよりも寂しさの方が強い。言わば娘を嫁に出す父親のような心境だろうか。

 

 レミリアとしてはフランが横島に好意を抱いていることに文句は無い。何しろ彼はフランの恩人であり、自分も彼には恩と好意を抱いている。その内容はフランとは別のものだが、好いているということには違いは無い。しかしフランと()()()()()になるのなら、寿命は延ばしてほしい。だが横島の意見も尊重したい。

 

 レミリアは咲夜と同様、横島のことを()()()()()()()()()

 

「……ん?」

 

 レミリアは紅茶を一啜りする。そこで、ソーサーの横に小さく折り畳まれた紙切れがあることに気付いた。それにはデカデカとやけに丸い文字で『ゆかり』と書いてあり、レミリアは何とも言いがたい微妙な気分になった。

 

「……ふむ」

 

 レミリアは紙切れを開き、内容を読む。そこには『横島君と一緒にゲストルームにまで来て』とだけ書かれていた。

 

「……」

 

 レミリアはフランの邪魔をしたくないのだが、()()()()横島を連れて行った方がいいかという思いが頭を過ぎる。別にフランが自分以外にくっついているのが気に入らない訳ではない。出来ればその笑顔を自分にも向けて欲しいとも思っていない。とにかく、レミリアは泣く泣くフランの邪魔をすることにした。

 

「……フラン、お楽しみのところ申し訳ないんだけど、急用が出来たから横島を連れて行くわ」

「えぇーーーー!? そんなのやだ!!」

「やだじゃないの、やだじゃ。大事な用なんだから、我慢しなさい」

「む~~~~……」

「……フラン様、まだまだチャンスはありますから」

 

 レミリアの言葉に反発するフランだったが、結局は小悪魔の説得に折れた。去り行く横島の後ろ姿を指をくわえて見つめる様は動物的な可愛さを連想させる。それを慰めるのは小悪魔だ。

 

 慧音は一連の流れを眺めていたのだが、どうにも疑問が膨れ上がっていく。

 

「なあ、フランと小悪魔。二人に質問があるんだが……」

 

 それは抑えきれず、ついには二人に対する質問として口に出していた。

 

「なぁに?」

「何ですか、慧音さん?」

 

 揃って首を傾げる姿は良く似ている。何故互いに平然としていられるのか、それが慧音には分からない。

 

「二人とも、横島のことを好き……なんだろう?」

「……っ!?」

 

 二人の反応は劇的だった。一瞬で顔を真っ赤に染め、視線が右へ左へと移動し、最終的には同時に頷いた。そのあまりにも分かりやすい反応は、皆に生暖かい目で見られるほどだ。

 

「……言わば二人は恋敵なわけだが、それについて思うところは無いのか?」

 

 慧音の疑問は尤もだ。男一人に対し、女は二人。本来なら男を巡って骨肉の争いが繰り広げられるのだろう。事実、人里でもそういった事件はいくつか存在した。それを鑑み、慧音は当然この二人も横島を取り合うことになるのだと思っている。思っているのだが……。

 

「?」

「……あはははは」

 

 フランは先程と同じく首を傾げ、小悪魔は苦笑いを浮かべていた。

 

(……んんんんんんん?)

 

 その様子を見て慧音は何か自分が的外れなことを言ったのではないかという錯覚に陥ってしまう。

 

「あの、慧音さん」

「……あ、ああ。何だ?」

 

 慧音は少々呆然としてしまったのか、反応が遅れてしまう。小悪魔は慧音の様子に申し訳なさそうにしていたのだが、慧音の疑問には答えなければいけないだろう。

 

「えっとですね。慧音さんの言うことも尤もだと思うんです。確かに私達は恋敵、本当なら横島さんを取り合うんでしょうけど……私達は、魔族ですから。そういうことはあまり気にしないんですよ」

「……」

「あ、勿論そういうのに凄く厳しい魔族の方もいますよ? ですが、私は()()()()()()()低級魔族の『小悪魔』であり、フラン様は()()()()()()()()()()()()けれど、()()()()()()()吸血鬼ですから。そういうことに特別な意識は持ってないんですよ」

 

 小悪魔のたどたどしい説明を聞き、慧音は得心が行く。

 

(……なるほど、種族としての性質か。しかし、それでは……)

 

 小悪魔のような低級魔族はそれこそ有り余るほどに存在する。それは自分達という種が弱者であるが故に多くの子を産み、血を絶やさない為に。フラン達吸血鬼の場合は圧倒的強者であるが故にその絶対数が少なく、増えづらい為に多くの血を残そうとする。そういった場合、心身共に健康で霊力も強く、精力旺盛な男性が望ましい。横島はその条件に見事に合致する。フランと小悪魔の遺伝子……霊基構造にも、それが刻み込まれている。それを鑑みて今回の場合、本来ならば強者特有のプライドが低級な魔族との馴れ合いなど認めないのであろうが、フランにはそれが無い。勿論、小悪魔にも圧倒的強者たるフランへの忌避感などは皆無だ。

 

 慧音が小悪魔の話を聞き、抱いた一つの心配事。それは次の言葉で吹き飛ぶこととなる。

 

「お嫁さんがいっぱいで、しかも魔族とかなら横島さんも長生きしたくなるかもしれませんし。それに、私はフラン様のことも横島さんと同じくらい大好きですから」

 

 何の屈託も無く飛び出た言葉に、慧音だけでなくフランも驚いた。

 

「そ、そーなの、小悪魔……?」

「はい。勿論ですよ、フラン様! ……恋愛的な意味では、ありませんよ?」

 

 心底から驚いたという顔をして尋ねるフランに、小悪魔は即答を返す。ちょっとした注釈も加えたが。

 

「フラン様は昔から私達の前でもあまり笑顔を見せない方でしたけど、レミリア様と横島さんのおかげで、最近は凄く可愛らしく笑ってくださるようになりましたから。妖精メイド達をお手本に他人との交流を計ったり、何回も失敗して、それでもそれを飲み込んで前に進んで行って……。そんな姿を見ているうちに、私はフラン様を尊敬するようになったんです」

「……」

 

 小悪魔の語る内容に、フランは脳の処理が追いつかない。それでも彼女の頬は赤く染まり、何か喋ろうにも言葉が出てこないのか、ただ口をあうあうと開閉させるだけの結果となった。

 

「横島さんと出会ってからは、それがもっと顕著になりましたし、フラン様が輝いて見えるようになりました。フラン様が横島さんを好きなんだと気付いたとき、私は嬉しくなったんです。私が好きな人を、フラン様も好きになってくれたんだ、って。……もしかしたら、私の方が後かもしれませんけどね」

「小悪、魔……」

「だから、えーっと……。その、私はフラン様が大好きなんですよ!」

「最後は勢いだけじゃないの……」

 

 照れ臭そうに話す小悪魔は、自分の内心を上手く言葉に出来ず、最後は鼻息荒くフランへの好意をはっきりと示した。それはパチュリーには少々呆れられたが、それでもその不器用ながらも真っ直ぐな気持ちは、フランへと届いた。

 

「……」

 

 フランは小悪魔の言葉に応えたい。だが、何と言えばいいのかが分からない。目を閉じて深呼吸をする。繰り返し行い、高揚していた気分も幾分か落ち着いてくる。

 

 フランはゆっくりと目を開け、小悪魔を真っ直ぐに見つめ返す。彼女の第一声は――――。

 

「小悪魔が言ってくれたこと、その、すっごく嬉しかった」

「フラン様……!」

 

 小悪魔の顔がパッと輝きを増す。

 

「――――でも、こんな人前で言うようなことじゃないよね?」

「……」

 

 小悪魔の呼吸が止まり、一瞬で顔色が真っ青になった。

 

「私が気にしてることを遠まわしに言ってさ、結局最後はよく分かんない感じになってるしさ」

「す、すすすすみませんすみません!?」

 

 まさに天国から地獄。フランは拗ねたように唇を尖らせ、いかにも不機嫌ですというアピールをする。小悪魔はもう謝ることしか出来ない。フランの口端が柔らかく弧を描いていることを、頭を下げている小悪魔には気付けなかった。

 

「……小悪魔って、ただお兄様に似てるのかもね」

「すみませんすみませ――え?」

 

 小悪魔は気付いてくれていたのだ。変わろうと足掻いていた自分の心。そして、変わっていくことが出来た自分の心を。

 

「えへへ。私も小悪魔のこと好きだよ?」

「え!? ほ、本当ですか!!?」

「うん! 今までよりもずっと好きになったかも」

「そうなんですか? ……なんだか良く分からないですけど、良かったです!」

 

 小悪魔は大きく息を吐き、あからさまにほっとしている。小悪魔もフラン同様気が強い方ではない。フランは小悪魔が自分に似ているかもしれないと思っていたが、思い人である横島にも似ていると感じ始めていた。

 

「小悪魔のこと、今度からお姉様って呼んでみようかなぁ?」

「ええぇ!? そそそそんな恐れ多い!! 何よりレミリア様に殺されちゃいますよー!!?」

「むむむ……。だったら、『お姉ちゃん』はどうかな?」

「お、お姉ちゃん……ですか?」

「うん。――――小悪魔お姉ちゃん!」

「――――!!!!!?」

 

 その時小悪魔に電流走る。胸を貫く衝撃。痛みにも似た、快感ともつかない不思議な感覚が全身を駆け巡る。

 

「あああああ……!! ふ、フラン様可愛いですー!! 可愛すぎますよー!!」

「ぅわっぷ!?」

 

 小悪魔がフランを抱きしめる。小悪魔はただ可愛い可愛いと連呼し、フランも痛いと文句を言いながらもその顔は嬉しそうに緩んでいる。横島の件に対し二人に言葉はいらない。周りのことなどそっちのけで盛り上がっていた。

 

「……結局、どういうことなんだ?」

 

 慧音がぽつりと呟いてしまうのも無理はないだろう。二人の話は二人の中で完結している。それは良い。だが、それを強制的に聞かされて、しかも良いところで自分達には分からないようなことにされてはたまらない。

 

「ふむ。私が要約しましょうか」

「……ああ、頼む」

 

 名乗りを上げたのは今居るメンバーの中で、最もフラン達との付き合いが長いパチュリーだ。彼女は紅茶を一口啜り、唇を濡らしてから結論を述べる。

 

「簡単に言えば……『横島とイチャつきたい』……かしら」

「それは要約しすぎだ」

 

 慧音の容赦の無いツッコミに少々残念そうな表情を浮かべる。小さく溜め息を吐くと、今度こそ真面目に話し始めた。

 

「小悪魔が最初らへんに『取り合いとかそういうのは気にしない』って言ってたでしょ? それがそのまま答えなのよ。妹様も小悪魔も横島が好き。だから二人とも横島と付き合いたい。種族的にも男に嫁が何人かいても特におかしいことではない。人間の常識なんて適用されないしね。……なら、二人が同時に横島と結ばれても良いじゃない。美鈴とか、もっと増えるかもしれないけど」

 

 パチュリーの言葉に慧音は唸る。言われてみればそうなのだ。二人は人間ではなく魔族であり、その常識なども人間とは違うだろう。常識について違いを語り合えばどれだけの時間が掛かるか分かったものではないが、少なくとも恋愛観についての違いは多少理解した。横島さえそれに納得が出来れば二人は晴れて横島と恋仲になり、皆は幸せになるだろう。……レミリアの手によって付き合った日が横島の命日になるかも知れないが。

 

「うー……ん」

 

 慧音は腕を組んで目を閉じ、顔を天井へと向ける。彼女は悩む。本人達がそれで良いと言うならそれで良いのだろう。教師として言いたいことが無いでは無いが、まあ納得も出来なくはない。問題なのは慧音が最も気にしている人物のことだ。

 

「……妹紅のこと?」

「……ああ」

 

 パチュリーが横でキャイキャイとはしゃぐフラン達を気にしてか、小声で聞いてくる。それに慧音も同様に小声で返す。

 

 慧音は妹紅が横島に惚れ込んでいると()()()()()()()。彼女は蓬莱人ではあるが、人間だ。当然常識なども人間のもの。なので思い人である横島に恋人が複数出来る場合、妹紅がそれを看過出来るとは思えない。最悪の場合刃傷沙汰にまで発展するかもしれない。慧音は顔が青くなることを抑えられなかった。

 

 慧音が望むのは妹紅の幸せである。失恋も良い経験になるという考えも理解はしているが、それでも妹紅には好きな人と結ばれてほしい。

 

 慧音は唸る。どうにかして妹紅が横島と幸せになるように、様々な道を模索する。……慧音は思い込みが激しく、頭が固い。故に失念していた。妹紅が()()()()()()()()()()()ということを――――。

 

 

 

 

 

 

 

第二十六話

『ココロの形』

 

 

 

 

 

 

 

 ゲストルームに向かうレミリアと横島の間に会話は無い。彼らの間に存在するのは気まずげな沈黙だけだった。とは言っても、そのような空気を感じているのは横島だけであり、レミリアはただ単に、先程から何度も話しかけようとしながらも話しかけてこない横島が決意を固めるのを待っているだけなのである。

 

 もうすぐゲストルームに着くだろう。その段階に来て、横島はようやく決心した。

 

「あの~、お嬢様……? つかぬ事をお聞きしてもよろしいでしょーか……?」

「んー? 良いわよ、言ってみなさい」

 

 緊張しきりの横島と違い、レミリアはあくまでも自然体だ。横島にはそれが燃え滾る怒りを押し殺しているようにしか見えない。知らず、横島の喉が鳴った。

 

「あの、もしかしてなんすけど……。フラン様と小悪魔ちゃんって、俺に惚れてたりとかそういう……?」

「まったく……。何を言っているんだ、お前は」

「なはは、そうっすよね! 俺が二人に惚れられるとか、そんなわけ――――」

「あの二人の態度を見ればお前にぞっこんなのは丸分かりだろうに。気付くのが遅すぎるわよ」

「……やっぱり、そうなんすか?」

 

 横島はレミリアの言葉にふざけるのを止め、真剣に返す。横島に去来した感情は、まず喜びだった。彼女達は見た目が幼いとはいえ、それでも頗る付きの美少女達だ。そんな彼女達に惚れられていると知ったのだ。嬉しくないわけがない。だがそれと同じくらい、否、それを超える疑問と戸惑いも沸々と湧き上がって来る。

 

「あの二人が俺に……? ついに俺にもモテ期が来たのか? 俺の時代が来たのか……!? ……いやいや待て待て。俺だぞ? 貧弱なボーヤだの不細工だの言われ続けてきた俺なんだぞ? 本当に好かれてるのか? まさか勘違いなんてことは……」

 

 横島は腕を組んで何事かぶつぶつと呟き始める。横島は何故自分が二人に好かれているのかがとんと理解出来ず、ちょっとした混乱状態に陥ったらしい。普段の横島ならば美少女に好かれていると分かった時点でその対象に飛び掛っているのだろうが、いかんせんその対象の見た目が幼すぎた。加えて、横島はコンプレックスの塊だ。あの二人に懐かれているとは思っていたが、それが色恋にまで達する感情だとは露にも思っていなかったのだ。

 

 横島のその卑屈な態度は既にレミリアも見慣れた物なのだが、それでも今回は看過出来ない。レミリアは横島の頭に軽く拳骨を落とした。

 

「あのね、アンタがコンプレックスの塊なのは今までの言動から理解してるけど、だからってあの子達の気持ちまで疑うのはやめなさい。あの子達は本気でアンタのことが好きなんだから。……それは私が保証してあげる」

「……」

 

 横島は殴られた頭をさすりながら、レミリアの言葉を聞いた。ぐうの音も出ないとはこのことだろう。自分のことばかり考えて、二人の気持ちを勝手に偽物にしてしまうところだった。

 

「……そう、っすね。こんな考えは二人にも失礼ですよね。すんませんでした」

 

 だから、横島は素直に頭を下げる。表情からは、真剣に反省したのだということが察せられる。レミリアは下げられた横島の頭を今度は優しく撫で、「行くわよ」と言って先を歩き出す。横島はレミリアが自分から三歩分進んでから歩き出し、もう一度、小さく頭を下げた。

 

(横島の奴、あれだけ仕事で優秀なところを見せてるのに、何でこんなコンプレックスの塊になったのかしら。一体どんな幼少期を過ごしてきたのか、興味が湧いてきたわね)

 

 レミリアは横島の様子を気配で察しつつ、彼のコンプレックスについて考える。恐らく人格の構成される幼少期に何かしらがあったのだろうが、()()それも置いておく。レミリアが見つめる先、そこにあるのはゲストルームの扉だ。ここを開ければ、そこに居るのは紫ともう一人。いや、永琳あたりが嗅ぎつけてくるかもしれない。

 

 ノックを四回。いつものレミリアならノックなどせずに勝手に入室するところだ。だが、今回は何となくノックをして、相手の返答を待つ。中々に新鮮な気持ちだ。

 

「はーい?」

「レミリアよ。横島を連れてきたわ。……入っても良いかしら?」

「ええ、勿論よ」

 

 レミリアは横島をちらりと見る。本来ならばこれは横島の仕事だろう。だが、これもこれで悪くない。気分は出来の悪い弟の世話をするお姉さんだ。

 

「入るわよ」

「うっす」

 

 横島に一言声を掛け、レミリアは扉を開いた。

 

「いらっしゃい、二人とも」

 

 そこに居たのは紫と永琳、そして横島にとって見覚えの無い少女が一人。

 

(ん? あの子が一号達が言ってた珍しいお客さんか? ふむ……文句なしの美少女だ。もっと成長したらデートしたい)

 

 横島は早速邪なことを考える。その思考スピードはほんの一秒にも満たない非常に短い速度で展開された。そしてそれをおくびにも出さずまず挨拶をしようとするのだが、それは件の少女に遮られてしまった。

 

「デート、ですか。こう見えても私は貴方よりもずっと年上ですので、デートが出来るようになる頃にはお爺さんになっているかもしれませんよ?」

「あ、やっぱそうなんだ。……あれ?」

 

 横島は今の会話に首を傾げる。はたして自分は今声に出していただろうか?

 

「いえ、声には出していませんよ」

「ああ、そうか。良かった……ん?」

 

 ここに来てようやく横島は気付いた。かつて、同じようなことを経験したことがある。そう、それは――――。

 

「あら、以前にも似たような経験が? ……なるほど、神族の方とお知り合いなんですね。しかも、随分と親しく思えます」

「ああ、なるほど。それが君の『能力』ってやつか」

 

 横島は苦笑を覚える。声に出さずとも会話が成立している。ここが幻想郷ということを考えれば、それは相手が持つ能力なのだろう。その少女は横島の眼前まで歩み寄り、ぺこりと頭を下げた。

 

「はじめまして。私は古明地さとりと申します。お察しの通り、私の能力は『心を読む程度の能力』です」

 

 さとりは横島の目を真っ直ぐに見つめてくる。それは横島の心を読んでいるからなのだろうか。少々眠たそうにも見えるその半目には不思議な力を感じてしまう。横島にはその視線が何だか()()()()()()()()

 

「えっと、俺……いえ、私は紅魔館で執事をしてる横島忠夫と言います。えー、以後、よろしくお願いいたします」

 

 さとりは横島の言葉に驚いたのか、さとりはその半目をまん丸と見開いている。それを見た横島は「あ、こういう顔も可愛いかも」などと考えていた。

 

「……やはり、不思議な方ですね」

「ん?」

 

 さとりはぽつりと何事かを呟くが、それは横島には聞き取れなかった。さとりは一つ咳払いをし、気分を切り替える。

 

「いえ、何でもありません。それより、私には敬語を使わなくても大丈夫ですよ。苦手なのは伝わりましたから」

「あはは、何かごめんね」

 

 横島は頭を掻き、照れ臭そうに笑っている。そこで場が落ち着いたのを見計らい、紫が話しに入ってきた。

 

「横島君が色んな神族と知り合いなのは聞いていたけれど、心を読む神族とも知り合いだったの?」

 

 その質問は他の皆も気になっていたことのようで、興味深そうに耳を傾けている。

 

「ええ。ヒャクメっていう奴なんすけどね、そいつは好奇心の塊みたいな奴で。いつも色んな人の心を読んでたりするらしいっす。……俺の師匠の一人と親友らしいんすけど、その人はいっつもからかわれてるんすよねー。恥ずかしい過去も知られたとか何とか……。まあ、そのせいでいつも過激なお仕置きをされてるみたいですが」

「……何というか、はた迷惑な神族ね」

「というか、本当にそいつらは親友なのか?」

 

 横島からのヒャクメの情報に、皆は容赦なくツッコミを入れる。横島もそれは疑問に思っていたことではあるので、乾いた笑いを浮かべることしか出来なかった。

 

「いや、でもあいつの『心眼』は凄いんすよ? 心を読むだけじゃなく、専用の装置に接続すれば世界中のどこでも『見る』ことも出来るらしいですし、師匠が掛けた封印を解析して簡単に解いたり、その気になれば相手の前世も見れたりするんですから」

「それは……確かに凄いわね……」

 

 横島の言葉に対する反応は、永琳が思わず漏らした言葉が物語っている。そのヒャクメという神族の能力は、やはり横島と同様に常識の埒外にあるようだ。

 

 さとりは我知らず大きな溜め息を吐き、少し沈んだような声を出す。

 

「そこまで見えてしまうなら……そういう性格になっても仕方ないのでしょうね……」

 

 その言葉は思った以上に皆に響き、沈黙を齎した。さとりもヒャクメには劣るが『見る』ことに特化した能力の持ち主だ。当然、その能力を持っているが故の苦労は数多く経験している。さとりは遠くの世界に存在するヒャクメに、親近感を抱いていた。そして、自分以上に身が、心が切り裂かれるような経験をしてきたのだろうと、同情を。

 

「ところで横島さん」

「……んあ? あっ、えーっと、何かな、さとりちゃん?」

 

 急に雰囲気を変えて横島の名を呼ぶさとりに横島は困惑してしまう。さとりとしては自分のせいで沈んでしまった雰囲気を元に戻そうとした結果なのだが、能力も相まって彼女は元来人付き合いが苦手であり、空気を読むということにも慣れていない。相手の心は読めても、何故相手がそう思い至るかがよく分からない。そんな彼女は横島の様子に首を傾げつつも思ったことをそのままに口にする。

 

「私は横島さんの心を読んでいるのですが、それについて何か思うところはないのでしょうか?」

 

 横島はそのストレートすぎる言葉に少々戸惑ってしまう。その瞬間にさとりがピクリと反応するが、ただそれだけだ。彼女は横島の()()を待っている。

 

「んー……。まあ、ヒャクメで慣れてるしなぁ。あんまりプライベートなことまで突っ込んで見ようとしなければ別に構わないというか……」

 

 横島は顎に手を当てて考え込む。さとりは横島の言葉に嘘が無いことを読み、また目を大きく見開いている。心を読まれることに寛容など、非常に珍しい人間だ。

 

「あー、でも……」

「ん……? ――――!!?」

 

 何が起こったのか、横島の言葉に首を傾げたさとりの頬が、一瞬で真っ赤に染まる。第三の目(サードアイ)もくわっと見開かれており、若干だが血走っているその様は完全にホラーだ。

 

 皆が驚く中、横島が頭を抱えて叫びだす。

 

「考えたらいかんと分かっているのに……!! 分かっているのにーーーーーーっっっ!!!! 心を読まれているというシチュエーションのせいでついついヨコシマなことを考えてしまうーーーー!!? い、イヤーーーーーー!!!? さとりちゃんが見とるのに、さとりちゃんが見とるのにワイって奴はーーーーーー!!!!」

 

 さとりと横島を除き、皆は盛大にずっこけた。まさか割とシリアスな空気の中で横島がここまでアホなことを仕出かすとは思わなかったのだろう。横島を甘く見すぎである。今さとりが()()()()()()()()のは数多の美女の裸体。裸体! 裸体!! それはさとりが思わず羨望を抱いてしまうほどに美しい女性達ばかりだったそうな。

 

「ああーーーー!!? そんな目で見んといてっ!! そんな目で見んといてーーーーーー!!!?」

 

 無様に悶える横島をさとりは普段よりも更に細めた目で見つめている。それは恐らく睨んでいるのであろうが、彼女の纏う雰囲気が険悪さを霧散させ、逆に可愛らしさを強調している。

 

「……ん?」

 

 と、そこでさとりははたと気付く。何かおかしくないか、と。

 

「……これは……テリブル……応用……いける……?」

 

 さとりは急に難しい顔で何かを呟き始める。やがてその表情は何かを決意したかのように引き締められ、むんと鼻息荒く横島に向き直る。

 

「横島さん、こちらを向いてください」

「ワイって奴は、ワイって奴はーーーー!! ……え、なに、さとりちゃん」

 

 横島はさとりの声に導かれ。ひょいと彼女の方を見る。その瞬間、強い光が横島の顔に向かって照射された。

 

「想起『リビドースーヴニール』――――」

「――――!?」

 

 突然のさとりの行動に皆は動けない。横島を害する気は無いことは容易に想像がつく。これは相手のトラウマを抉るようなものではない。彼女、さとりは今、何と言った? リビドースーヴニールと言ったのか? 性衝動の思い出? 皆はさとりが何をしたいのかがさっぱり分からなかった。

 

「……」

 

 横島は強い光、何と言うかこう、ピンク色の光を照射された瞬間から、頭を過ぎるには全裸の美女美少女だけになっていた。自分の状態を疑問に思うのに加え、さとりが心を読んでいるのにこんなことばかり考えている自分に嫌気がさしてくる。少しだけ涙目になったのは仕方がないことだろう。

 

――――しかし。

 

「……ふふっ」

 

 笑い声が聞こえてきた。それは横島の真正面に存在する少女から発せられたものだ。

 

「ふふっ、ふふふふふ」

 

 さとりは笑っていた。ころころと、鈴が鳴るような声で笑っている。それは微笑ましいものを見たかのような笑みだった。

 

「さ、さとりちゃん……?」

「あ、その、ごめんなさい」

 

 さとりは横島に名を呼ばれたことではっとし、咳払いをした。だが、それでもその表情は笑みを浮かべており、その可憐な姿に横島は否応なく目を惹きつけられる。

 

「笑うつもりはなかったんです。ただ、横島さんが――――あまりにも可愛らしくて」

 

 

 

「――――!!!!!!!!!?」

 

 

 

 それは、ある意味でこの日最大の爆弾だったかもしれない。レミリアが、紫が、永琳が、()()()()()さとりを見ている。

 

「いえ、横島さんはとてもえっちな方だと聞いてましたので。煩悩を力にする、とも。確かに女の人の、その、は、裸を思い浮かべていたりもしましたけれど。()()()()が出てこなかったんですね。なので、試しに横島さんの()()()()()部分を見てみたんです。……結果は、横島さんも知っての通りですよ」

「うむむ……」

 

 横島は唸ることしか出来ない。プライベートなところはあまり見ないようにとは言ったが、切っ掛けはどうあれ、そういったことを思い浮かべてしまったのは自分だ。普段から煩悩で失敗している身としては強く言い返せないでいる。

 

「ふふ、横島さんって、意外と純情なんですね。上司の下着姿で完全に正気を失って言いなりになっちゃうなんて……」

「い、いやーーーーーー!? ワイの黒歴史がーーーーーー!!?」

「一時的に成長した弟子のふとももで鼻血を出したり……」

「ああーーーー!!? やめてーーーーーー!!? ああ、でも……でも……!! さとりちゃんにワイの恥ずかしい所を見られるなんて――――これはこれで……!!!!」

「おちつけ」

 

 さとりに無邪気に責められ、新たな扉を開きそうになっていた横島だったが、レミリアの激しいツッコミ(拳骨)によって何とか正気を取り戻した。さとりは横島がレミリアに殴られた箇所を慈愛の表情で撫でている。そうするとおかしなもので、横島は大人しく、さとりにされるがままになっていた。照れ臭そうにしているが満更でもなさそうであり、頬も赤く染まっている。チラチラとさとりの表情を窺ってはその度にさとりに微笑まれ、撃沈されている。

 

(何か、妙な雰囲気になってるわね、永琳?)

(今まで彼の周りに居なかったタイプの女の子だからじゃない?)

(まあ、アイツの煩悩を可愛らしいとかで済ますのはいなかっただろうなぁ)

(何というか……甘えさせてくれるお姉さんって感じかしら? こういうのもおねショタっていうのかしら……! 精神的おねショタって感じかしら……!!)

(永琳……あなた……)

 

 さとりと横島の間に入れず、内緒話で盛り上がるのは置いていかれた者たち。いや、盛り上がっているのは一人だけなのだが。月の頭脳は俗世に染まっている。

 

「ん……?」

 

 レミリアは視界の隅に入った据え置き型の大きな時計――ホールクロックを見やる。現在の時刻は午後五時と少し。咲夜が横島や妖精メイド達と共に夕食の仕込をしている時間だ。

 

 レミリアは()()()()()と横島に声を掛ける。

 

「仲良くしてるところを悪いけど、横島は咲夜と合流して夕食の準備をしてちょうだい。こっちに遊びに来てる慧音と、もちろんさとりの分もちゃんと用意すんのよ」

「あ……っと、了解っす。そんじゃあさとりちゃん、また」

「はい。お仕事、頑張ってくださいね」

 

 二人は互いに手を振り、横島はレミリア達に頭を下げ、退室する。

 

 

 その瞬間、空気ががらりと変わる。

 

「さとり――――()()()()?」

「……はい」

 

 紫の確認に、さとりは沈痛そうに頷きを返す。

 

「私が彼に光を当てた時に浮かび上がった、()()()()()()()の中から、知ることが出来ました」

 

 そうして、さとりは語る。横島の心が、何故()()()()()()()になっているのか、その詳細を。それは、横島忠夫という少年が抱える、最大級のトラウマ――――。

 

 

 

「……」

 

 沈黙が場を支配する。さとりが語り終えてから、既に数分が経過している。皆に共通しているのは、顰められた表情だ。

 

「……ふう」

 

 紫が大きく息を吐く。それはどうにもならないイラつきを吐き出す為の行為だ。その成果は得られなかったが。

 

「なるほどね。そんな理由があったのなら、あの光で思い浮かぶはずだわ」

 

 永琳は顎に手を当て、低く重たい声を出す。そして、こうも思った。彼が飛び掛ってきたのを受け止めたあの時、彼に宿った恐怖はそれが原因か、と。

 

「……ちっ」

 

 レミリアは苛立たしげに舌打ちをした後、ガリガリと頭を掻く。さとりから話を聞き、それがどうしようもないことだと理解は出来た。自分でもどうにかすることは出来ない。だが、どうにかならなかったのかとも思う。理解は出来ても、納得は出来なかった。

 

「彼の心……そして、霊基構造は」

 

 さとりがぽつりと呟く。それは小さい声ながらも部屋に響き、皆の視線を集めることに成功した。

 

「彼の心と霊基構造は、言わば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。だから動揺したときに言動が全くバラバラになったりするのでしょう」

「……」

 

 さとりは事前に紫の心を読ませてもらい、横島の今までの行動などを教えてもらっていた。レミリア達もさとりが言うことに覚えがあったために沈黙を貫く。

 

「……では、何故彼はあれほど不安定な状態であるのに、あれほど安定しているのでしょうか。何故、今もこうして生きていられるのでしょうか。()()()()()()()()()()()()()です。それが、何故ああも……」

 

 その問いに答えられる者は、ここには存在しなかった。しかし、全員の頭に浮かぶ、一人の人物。もしかしたら、それは。

 

「陳腐な言葉になってしまうけれど、やっぱりこう考えた方が素敵よね。これは、貴女の愛が齎した奇跡……なのかもね。――――()()()()さん」

 

 紫の言葉が部屋に広がり、消える。ふと窓の外を見れば、世界は赤く染まっており、黄昏時の訪れを告げていた。

 

 

 

 

 

 

 夕飯時は特に問題もなく過ぎていった。紫も永琳もレミリアも語り合ったことは顔には出さず、いつも通り横島と接している。ただ、慧音は皆と食事を共にしたのだが、さとりはゲストルームで一人食事を取った。「私が居ては皆さんも迷惑でしょう」とは本人の弁だが、それを横島は残念そうな表情を浮かべるだけで止めはしなかった。さとりの方がしんどい思いをするのだと気付いたからだ。それを読んださとりは横島の頬を撫で、柔らかく微笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっふっふ」

 

 怪しげな笑い声を出して廊下を忍び足で移動するのは、ニンジン柄のパジャマを手に持ったてゐだ。彼女が目指しているのはずばり横島の部屋。今夜こそ執事さんの童貞を頂くのだ、と燃えている。

 

 彼女が持つパジャマ、そして今は持っていないが枕とタオルと大きなニンジンのぬいぐるみ。それは横島から贈られた、ニンジン柄のお泊りセット。露骨に子供扱いされているのは気に食わないが、それでも思い人からの贈り物だ。機嫌が悪かったのはほんの最初だけ。今では全てがお気に入りだ。

 

「執事さーん、今貴方のてゐが参りますよー……」

 

 てゐはよだれを垂らしつつ、目を怪しげに光らせて歩を進める。何故彼女がここまで彼と関係を持とうとするのか。それは簡単だ。まず自らの欲を満たす為。そして何より、横島を()()()だ。

 

 てゐはその長い命の中で、粘膜接触、つまりは性交渉によって安らぎが得られることを知っていた。そして横島が抱える傷。それが自分ではどうしようもないものであろうことも予想がついていた。そんな彼女が愛する横島に対して取れる手段は余りにも少ない。そこで考え付いたのが、自らの体を使うことだった。

 

 正直な話、てゐは自分と横島が結ばれなくても構わないと思っている。ただ、横島を癒す一助となれれば、それは身を貫く程の幸せを感じられるのではないか。例え他の誰かと彼が結ばれても、彼が幸せならばそれがてゐの幸せなのだ。……そして、横島を時々貸してもらえるのなら言うことはもう何も無い。愛人という立場でも何も問題は無い。

 

 てゐは永きを生きている内に、考え方がずれていったようだ。そしてそんなてゐは今。

 

「はああああああああううううううぅぅぅ~~~~~~……」

「よーーーしよしよしよし。かゆいとこはあるかー?」

「だいじょうぶ~~~~」

 

 横島に、思い切り癒されていた。

 

 事の発端は夕食の片付けの時。咲夜にてゐを慰撫するように頼まれたからだ。横島はそれを了承し、仕事が終わった後で部屋に待機。やがててゐが訪ねてきたら、彼女を捕獲。そして全力での甘やかしが開始された。

 

 現在横島とてゐは一緒に風呂に入っており、横島はてゐの髪を洗ってやっている。耳に水が入らないように洗うのは中々に骨が折れたようだが、その甲斐あっててゐはぐにゃぐにゃに蕩けている。その状態では体を洗うのも大変だろうと、横島がてゐの体も綺麗に洗い始めた。てゐにとって、思わぬご褒美である。

 

「あったかいね~~~~」

「ああ、確かに良い湯だよなー」

「そうじゃなくて、執事さんの体がだよー?」

「……こういう所で、そういうことは言っちゃダメだと思うぞ? いやマジで」

 

 横島は浸かった湯船の温度以外の要因で顔を赤くした。てゐはしてやったりとほくそ笑んでおり、横島の言葉を気にした様子はない。

 

 その後、横島ははしゃぎ過ぎて少々のぼせ気味になったてゐをお姫様抱っこで運んだり、横島の手ずから着替えさせたり、ドライヤーで髪をかわかしてやったりと、本気で甘やかしている。これにはてゐもご満悦。時々「ハッ」として表情を引き締めるが、それもほんの数秒間。てゐは本来の目的を忘れ、横島の温もりにただただ溺れていく。お休みのキスもねだり、額にしてもらった。

 

 かつててゐは心身共に追い詰められている時にあの温もりは反則だと、凶器だと言った。それは今現在も味わっている。てゐは今日も今日とて追い詰められていたのだった。

 

 

 

 

第二十六話

『ココロの形』

~了~

 

 

 

 

 

 

以下、本編とは関係の無いおまけ

 

 

 

~パチュリーの場合~

 

「なあ、パチュリー」

「何、慧音?」

「お前は横島をどう思っているんだ?」

「いじめたい」

「……ん?」

「いじめたい」

「いじ……そ、そうか」

「いじめて涙目にしたい」

「分かったから」

「今からちょっと涙目にしてくる。大丈夫よ、鞭だけじゃなく飴もあげてくるから」

「……すまん、横島。強く生きてくれ……」

 

 

 

 

~フランと小悪魔の場合~

 

「なあ、お前達」

「何、けーね?」

「何でしょうか?」

「もし、だな。お前達以外にも横島と恋人になりたいという女性が現れたらどうするんだ?」

「うーん……私は別に何も」

「やっぱり、横島さんを長生きさせるための協力を要請しますね」

「……そう、なのか」

「あ、でもそうなるとその人は将来的に私のお姉様か妹になるんだよね? 家族が増えるよ!」

「やりましたね、フラン様!」

(……何だろう、急に二人の会話を止めたくなった)

 

 

 

おまけ

~了~




平安時代は一夫多妻制!!(挨拶)

自分の知らないところで順調に外堀を埋められていく横島君。
彼は今後どうなってしまうのか!? 周りのロリっ子達はハーレムに寛容だぞ!!

はい、吸血鬼と低級魔族についてのあれこれは捏造……というよりは生物として当たり前ですよね。優秀な遺伝子は欲しいものね。

フラン×小悪魔……新しい、かな?

さとり様はなんというかあんな感じのキャラに落ち着きました。
横島の煩悩を受け止め、甘えさせてくれる……そんなお姉さんキャラです。……お姉さんキャラを表現出来てるかなぁ……?

今回はこんな感じの絡みになりましたが、本格的に絡むのはまだ先です。その時までもう暫くお待ちください。

てゐが空回るのはああいう理由でした。久しぶりの恋に浮ついているんです。落ち着きを取り戻せば、もっと深い仲になれるはず。


何かあとがきでダラダラと書いてしまいました。
それではまた次回をお待ちください。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。