東方煩悩漢   作:タナボルタ

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お待たせいたしました。

今回は皆様が忘れているであろうキャラが登場します。

何か前にもこんな感じの前書きがありましたよね。うふふ。

それではまたあとがきでお会いしましょう。


第十五話『満月の夜』

 

 横島が幻想郷に墜落して初めての満月の日の朝。ゲストルームの窓からぼうっと晴れ渡る空を見つめる幼い少女が居た。

 

 頭に兎の耳を生やし、少し癖のある黒い髪を風になびかせる彼女の名は因幡てゐ。紅魔館でお世話になっている、永遠亭の住人の一人だ。

 

 てゐの頬はやや紅潮し、目もとろんと潤っている。熱を持った頬を撫でる風が心地よく、彼女の心に芽吹いた感情と共に、心身を柔らかな感覚に浸らせてくれている。

 

 静かに流れる時間の中、不意にてゐの兎の耳がぴくりと動く。ゲストルームに向かって来る足音を捉えたのだ。

 

「さて、お仕事お仕事」

 

 向かって来た人物はそのままガチャリとドアを開け、入室してくる。それはメイド服を着た鈴仙であった。

 

「どうしたのさ鈴仙、そんな格好して?」

 

「あれ、てゐ? ここ最近まるで姿を見なかったけど、どこで何してたのよ?」

 

 てゐの質問に返ってきたのは、鈴仙の質問であった。確かにてゐは十日間以上皆に姿を見せていなかったので、それも仕方がないと言える。

 

「いやぁ、ちょっとその……お師匠様に色々と……」

 

 てゐは視線どころか顔を大きく背けて小さな声で答える。彼女は額から冷や汗を流し、大きく動揺しているように見える。

 

「……何かされたの? お仕置きとか、そういうの」

 

「何かって……」

 

 何気ない鈴仙の質問だったが、それはてゐにとっては特大の地雷であった。突如としててゐの体は小刻みに震え始める。全身から冷や汗をだらだらと流し、目の焦点も合わなくなった。

 

「うぶっ!? ぅおえっ、ぅおおうぇっ!!?」

 

「ちょ、てゐ!? しっかりしてー!!」

 

 その場に膝をつき、盛大にえずき始めるてゐ。これには鈴仙も驚き、慌てて介抱を始める。何やらとんでもないトラウマを刻み込まれたようだ。

 

「はー……! はー……! はー……!」

 

「本当に大丈夫? どこかで休んだ方がいいんじゃないの? 私の部屋のベッド貸すけど……」

 

「だ、大丈夫。大丈夫だよ。……ダメだダメだ、思い出すなら楽しい事。さっきの事を思い出せー……」

 

 ふらふらと頭を揺らしながら、てゐはぶつぶつと何事か呟き始める。次いで自らの頬をむにむにと触り、しまいには怪しくにやけ始めた。その姿は傍目からは異常であり、鈴仙の目からも異常に見える。

 

「て……てゐ……? 本当にどうしたの……?」

 

「んー、いやなに、ちょっと執事さんに会った時の事を反芻してるんだよ」

 

「え……? 執事さんって、横島さん? 彼と何かあったの?」

 

(ん……?)

 

 てゐの変調に横島が関わっていると知り、多少勢いが増す鈴仙。その事を少々訝るてゐだったが、実は誰かに話したくて仕方がなかったのか、途端にいつもの調子に戻る。

 

「んふふ、そうだね。まあ、鈴仙には話してあげようか」

 

 何故か上から目線で膨らみの無い胸を張るてゐ。鈴仙はそんなてゐにイラッとしながらも、静かに彼女の話に耳を貸すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、今日の朝飯も旨かったなっと」

 

 咲夜や妖精メイドの皆との朝食が済んだ後、横島は膨らんだ腹をさすりつつ永琳の部屋の掃除に向かっていた。

 

「しっかし、何で永琳先生は俺を名指ししたんだ? 厄介な機材が多いって話だし、咲夜さんの方が安全確実だと思うんだけどなぁ……? 聞いても答えてくんなかったし」

 

 横島は独り言を呟き、首を傾げている。彼が朝食に入る前、主達の食事中に頼まれたのだ。その際に永琳は視線を逸らしていたので、また何かうっかりをやらかしたのかもしれない。

 

 そうやって一人廊下を歩き、やがて永琳の部屋へと到着した。

 

「んじゃ、失礼しまーすっと」

 

 横島は少々の不安と、多大な期待を抱いて入室した。上手くすれば永琳の下着を入手出来るかもしれない。(その後命の保障は出来ないが)

 

「んじゃまずは部屋の確に……ん?」

 

 横島は室内の状況を確認しようとしたのだが、室内に何やら霊感に引っかかる気配を感知した。それは恐れや怯えといった感情を発しているものであり、彼は何らかの超感覚により、その気配の主は美少女だと確信。ちなみに彼の額には稲妻の様な閃光が迸っていた。

 

「これは……助けを求める美少女の気配!? 待っててくださいお嬢さん! 今、貴女の横島忠夫が参ります!!」

 

 何故永琳の部屋からそのような気配がするかなど、彼は欠片程も気にしない。おっ嬢さーーーん! と叫びながら部屋を家捜しする彼の姿は、紛うこと無き変態のそれであった。

 

 結果、対象はすぐに見つかった。否、『そこ』に居るであろう場所を見つけた。

 

―――クローゼット。そこから夥しい程の昏いオーラが撒き散らされている。

 

(うわぁ……)

 

 横島が思わず腰を引く程の圧倒的負のオーラ。どうやら彼の霊感は同時に二つの事を察知出来ないらしい。つまり、『美少女が助けを求めているよ!』という事を捉えても、『ただし凄く苦労するよ!』という事は捉えられないのだ。

 

 しかし、だからと言って横島は諦めることをしない。ここ半月あまりナンパをしていない。バインバインの美女と出会っていない。―――ぶっちゃけ色々と溜まっているのだ。

 

 このクローゼットの中にバインバインの美女が居るかもしれない。シュレディンガーの猫だって箱を開けないと結果が分からないのだ。横島は自らの煩悩に忠実に従う事にした。

 

「大丈夫ですかお嬢さん! この横島忠夫が来たからにはもう大丈……夫……?」

 

 クローゼットを開け放ち、精一杯笑顔を浮かべる横島であったが、そのクローゼットの中に居た者の姿を見て、みるみる内に勢いが減衰していった。

 

「……っ!?」

 

「……兎の耳?」

 

 バインバインの美女など当然居ない。そこに居たのは、膝を抱えて俯く、頭部に兎の耳を生やした幼けない少女であった。

 

 急に開いたクローゼットに彼女はがばっと顔を上げる。震える視線が横島を捉えた瞬間、彼女の感情が爆発した。

 

「ご……ごめんなさい! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! 私の……私のせいで……!!」

 

「ちょおーーー!? 何? 何が!? 何の話!?」

 

 いきなり土下座して謝罪の言葉を叫ぶ少女。その声は精神的に追い詰められているせいか、痛々しいまでに掠れ、涙を含んでいる。

 

 突然の事に激しく狼狽する横島であったが、今も謝り続ける少女の言葉と、永琳や紫から聞いていた『異変の発端』についての情報から、目の前に居る少女こそが自分が幻想郷に墜落することになった原因だと推測する。

 

(確か、あの宴会の夜に俺の話を聞いてた子の一人だよな? 名前は……)

 

「もしかして……君が、『因幡てゐ』……ちゃん?」

 

「……っ」

 

 横島の問い掛けに、少女は頷く事で答えた。

 

「……そうか」

 

 てゐの事は紫達から聞いていた。当然言いたい事は山の様にあるし、それを弱みに『一発!』などと、最低な事も考えていた。しかし、目の前の少女を見ていると。怯え、震える少女を見ていると、そんな邪な願望は綺麗さっぱりと無くなってしまった。勿論てゐが想像以上に幼い見た目をしているという事もあるが、流石の横島も泣き濡れる少女に何かを出来る程腐ってはいなかった。

 

「……ふむ」

 

「っ」

 

 吐息一つ、言葉一つにも敏感に反応し、ビクビクと震えるてゐ。そんな彼女に対して横島が取った行動は……。

 

「……えっ?」

 

―――まず、優しく抱き締める事であった。

 

 それは抱き締めるというよりも、もしくは抱き上げるという表現の方が近いかもしれない。自らの頭部に当たる胸の奥から、横島の力強い鼓動が伝わってくる。

 

 突然の行動に戸惑うてゐだったが、それと同時に温かさ、安らぎといった感覚も覚えていた。それは横島がてゐを落ち着かせようと発した優しい霊波の影響もあるだろう。

 

「あー……、言いたい事は色々とあったんだけどさ。とりあえず、今は反省してるってことで良いんだよな?」

 

 横島は腕の中のてゐにゆっくりと、強い刺激を与えないように優しく問い掛ける。てゐは始めこそ今の体勢に戸惑っていたがやがて収まり、おずおずと頷く事で答える。

 

 この怯えよう、謝りようからそれは真実であると窺える。ならば今の横島には、もはやてゐを脅かすつもりはない。

 

「反省してるんならさ、もういいよ。俺はもう怒ってねーし、今後ああいう事をしなけりゃ、それで」

 

「で、でも、私のせいで執事さんは幻想郷に墜落しちゃったんだよ!? 元の世界に帰れなくなったんだよ!?」

 

 横島の言葉にてゐは声を荒げて反論する。話に聞いていたのと、随分反応が違う様に思える。それほど追い詰められているのか、はたまた別の何かがあるのか。

 

「おいおい、まだ帰れないって決まったわけじゃねーんだって。紫さんも頑張ってくれてるし、俺だって切り札を『使えれば』帰れる様になるかもしんねーんだし」

 

 

「でも……、でも……! 私が、あんな事をしなければこんな事には……!」

 

 やはりてゐは納得が出来ない。それも仕方のない事かもしれない。彼女は悪戯好きで知られているが、それは一応、全てが悪戯で済む範囲で抑えている。

 

 今まで誰かを悪戯で死に至らしめる事はなかったし、何らかの障害が残る様な物もなかった。然るに今回の横島に降りかかった事態。これは、彼と、彼の周囲全ての人生を狂わせた事となる。

 

 恐らくは、そこを永琳に突かれたのだろう。一体どのような仕置きを施されたは定かではないが、彼女の心身の磨耗具合がその苛烈さを物語っている。

 

「……まあ、責任は感じちゃうよな。でも、もう起こっちゃった事だしさ。これは受け売りだけど、『こうしなければ良かった』とか、『ああしておけば良かった』とか、そういう事はこれっきりにしようぜ? これからは『今何が出来るのか』とか、『この先何をすればいいか』とか、そういう事を考えていった方が良いと思うんだよ」

 

 横島の声音が変わる。それは今までの明るいものから、若干の昏さが滲んだ、静かに響き渡る様な声であった。

 

「……」

 

 てゐは思わず横島と視線を交わす。優しさの中に潜む、どこか悲しげな色。自分を優しく抱き締める少年は、同じ事を言われた事があるのだろうか? それは、もしかしたらあの夜に語っていた事が原因なのだろうか?

 

「ほら、顔が涙と鼻水でぐしゃぐしゃだぞー?」

 

「んむむっ」

 

 結局、何かを言う前に機先を制されてしまった。横島はポケットから取り出したハンカチでてゐの顔を拭う。その後またてゐを優しく抱き締め、安らぎを与える様に、慈しむ様に、ゆっくりと頭を撫でる。

 

「ま、何とかなるからさ。あんまり気にしすぎない様にしてくれよ。俺は大丈夫だからさ」

 

「……」

 

 てゐは不安げに横島を見上げる。てゐの視線を受けた横島も彼女の気持ちを理解しているのか、苦笑を浮かべている。

 

「ほらほら、そんな顔すんなって。せっかくの可愛い顔が台無しだぞー? うりうり」

 

「んむむむっ」

 

 横島はむにむにとてゐの頬を揉む。ぷにっとした感触と強い弾力が手に気持ちいい。てゐも横島にされるがままになっているが、不思議と嫌悪感はなかった。むしろ、もっと触れてほしいとさえ思った程だ。

 

「うしっ、もう泣き止んだな」

 

「え? あ……」

 

 横島の手がてゐから離れる。それに伴う強い喪失感に内心戸惑いつつ、てゐは既に立ち上がっている横島を見上げている。

 

「ほれ、いつまでも座り込んでないでさ」

 

 そう言って手を差し出す横島を、てゐは数瞬不思議そうに見た後、何故か込み上げてくる微笑みを隠さずに、横島の手を取って立ち上がった。

 

「ははは、偉い偉い」

 

「……子供扱いは止めてほしいね。これでも執事さんよりずっと年上だよ?」

 

「あ、やっぱりそうなのか? でもまあいいじゃんか、そんな事は。俺は見た目を重要視してるから」

 

「……はっきり言うねえ」

 

 そうでもしなければ彼の中の正義が壊れてしまうのだろう。今の彼の笑顔は何か切羽詰まって見える。

 

「んじゃ、俺はそろそろ仕事に戻るけど、さっき言った事は忘れない様にな。俺の師匠の一人が『昔より今、今より未来』って言ってたし」

 

「……うん。覚えておくよ」

 

「そんじゃなー」

 

 横島はてゐに手を振って部屋から出る。一人残されたてゐは横島と同じように手を振って見送った後、その手を自らの頬へと当てる。

 

「……」

 

 何やら頬が熱い。鼓動も少々高鳴っているようだ。てゐは自分の身に表れた症状に多少の驚きを覚えるが、心の隅で納得もしていた。

 

「うん、仕方ない。この場合は仕方ないよね」

 

 てゐは両頬をむにむにと触る。また彼に触れてほしい。今度は力強く、頬と言わず全身を貪る様に。

 

「んふふふ……」

 

 てゐの口端はだらしなく緩み、現在の心理状況を分かりやすく伝えている。どうやら、彼の事がいたく『気に入った』様だ。

 

 

 

 

 

 

 部屋を出た横島は難しい顔をしていた。何てことのない理由なのだが、彼には重要な事だった。

 

「今の俺の仕事は永琳先生の部屋の掃除だったんじゃねーか……。今更戻るのも何か気まずいし、もうちょっと時間を置くか……。怒られないかなぁ……」

 

 横島はブツブツと独り言を呟きつつ廊下の先へ消えた。

 

 そして、そんな彼を見つめる一つの影が有った。言わずもがな、永琳である。永琳はばふーと安堵の息を吐いた。

 

(良かった……。横島君はてゐを立ち直らせてくれたようね。いくら怯えてる姿が可愛いからって、ヤり過ぎちゃったからねえ……)

 

 やはり永琳はついうっかりとヤり過ぎてしまったようだ。これでは鈴仙が言っていた事を否定出来ないだろう。

 

(それにしても、横島君……)

 

 永琳は先程までの空気を払拭するかの様に腕を組み、深く思案する。覗き見ていた横島とてゐとの会話。そこから横島の精神状態をいくらか察したようだ。

 

(やはり心の深い所にまで根差しているようね……。徐々に良くなってはいるようだけれど……)

 

 永琳はその場を後にする。横島の事は紫と相談することにし、まずはレミリアにてゐの部屋を用意してもらうことにしたようだ。

 

(それに……まさかてゐが横島君にねえ……。意外……でもないのかしら? お互いに性欲凄そうだし)

 

 永琳は色々と考える事が増えたようだ。

 

 

 

 

 

 

「とまあ、そんな事があってねぇ……」

 

 てゐは赤く染まる頬を押さえ、「いやんいやん」と体を揺らしている。その様子はまさに『恋する乙女』といったところか。そんなてゐに鈴仙は微妙に表情を歪めている。

 

「何というか……、あんたって結構チョロかったのね」

 

「いや、あれは仕方ないんだよ。心身共に追い詰められてる時にあの温もりだよ? あれは反則だよ、凶器だよ」

 

 てゐは鈴仙に何故自分が横島に惹かれたかを語る。だが、その内容は鈴仙には容認出来なかった。

 

「……そんなので好きになるもんなの? 何というか、吊り橋効果みたいなもんじゃないの?」

 

(……ふむ?)

 

 鈴仙はてゐが横島に惹かれたのはいわゆる『勘違い』なのではないか、と感じたようだ。だが、てゐからすればその事は織り込み済みであった。

 

「……どうも鈴仙は難しく考えすぎるきらいがあるようだね。好きだと思ったから好き、それで良いじゃんか」

 

「それは、簡単に考えすぎなんじゃないの? お互いの事を殆ど何も知らないんだし……」

 

「良いんだよ、別に。小難しい理由が必要なのは相手を嫌う時だけだよ。誰かを好きになるのにあーだこーだ考えるのは、ちょっと違うと思うよ?」

 

「……うーん」

 

 鈴仙は未だ納得出来ず、反論の言葉を探すが上手くいかないようで、唸るだけ。その様子に何かピンと来たのか、てゐは口角を釣り上げた嫌らしい笑みを浮かべ、鈴仙に問いを投げかける。

 

「なーんかさっきから噛みついてくるねぇ。もしかして、鈴仙も執事さんが好きなのかなぁー?」

 

「ううん、それは全くないけど」

 

(真顔で即否定した……!)

 

 あまりの即答にてゐは少々驚くが、続く鈴仙の言葉には大いに興味を引かれる事になる。

 

「まあ、特別といえば……特別な感情は持ってるけどね」

 

「ほほう」

 

 てゐはその特別な感情とやらを聞き出そうとしたが、鈴仙の表情を見て止めた。そこにあったのは、正と負の感情が入り混じったような、複雑なものであったからだ。どうやら鈴仙は、てゐが思っていた以上に横島に対して『特別』な感情を抱いているようである。

 

「……今回は聞かない事にするよ。お師匠様が私の部屋を用意してくれてるらしいからそろそろ行くけど、鈴仙はどうすんの?」

 

「あ、私はここの掃除をしにきたのよ。紅魔館に住まわせてもらう代わりに、仕事を手伝ってるの」

 

「ああ、だからメイド服なんだ。……それにしてもスカート短いね」

 

「……言わないでよ」

 

 鈴仙に用意されたメイド服は、永琳お手製の逸品であり、そのスカートは膝上二十センチという超ミニスカートであった。永琳に着用した姿を見せた際には、永琳による永琳の為のメイド鈴仙撮影会が開催された。ちなみにお触りOKである。

 

「そんじゃ、私は行くね」

 

「ああ、うん。また昼食の時に」

 

 そして鈴仙はゲストルームの掃除にかかり、てゐは部屋を出る。が、てゐはドアを閉める前に鈴仙へと言葉を掛ける。

 

「ねえ鈴仙、人生なんてのはね、勘違いの連続だよ。人生だけじゃない。もしかしたら、この世の全てが勘違いで出来てるかもしれないんだ。私がここに居るのも、鈴仙がここに居るのも、全部勘違いからくるのかもしれない」

 

「……」

 

「人を好きになる。人を嫌いになる。それも全部勘違いかもしれない。でも、それでも私らは前に進んでくしかないんだからさ。例え勘違いでも、その時の感情に素直に従うのも大切だと思うよ。……ま、これは私の考え方だけどね」

 

 そうして、てゐはドアを閉め、永琳の下へと歩いていく。残された鈴仙はてゐの言葉を反芻し、ぽつりと呟く。

 

「何よ……、急に真面目になっちゃって……」

 

 鈴仙は何か思い当たる事があったのか、てゐの考えに異論を抱けなかった。自分より遥かに長く生きているてゐの言葉には、真理のような物を感じる。自分では到底持ち得ないような含蓄ある言葉。だが、彼女がそれに反感を覚えてしまうのも、若さ故の真理なのであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「横島さん、今日がどういう日か知ってますか?」

 

「ん……? 何か特別な事でもあんの?」

 

 昼も大幅に過ぎた、夕方に程近い時間帯。横島は美鈴に差し入れを届に正門まで来ていた。簡易テーブルと椅子を用意し、美鈴にお茶とお茶菓子を振る舞う横島に唐突に投げかけられた質問。当然横島はその答えが分からずに、首を傾げている。

 

 そんな横島の様子が面白かったのか、美鈴は笑みを浮かべて答える。

 

「今日は満月。なんでも、永遠亭の方々が満月の日に例月祭っていうのを行っているらしいんですけど、それを今回は紅魔館で行うらしいんです」

 

「へぇ~。満月……、永遠亭の人達……、餅搗きとかすんのかな?」

 

 美鈴の言葉に連想ゲームで推測を立てる横島だったが、それは見事に当たっていた。

 

「流石ですね、当たってますよ横島さん。なんでも、月から逃げてきた永琳さん、輝夜さん、鈴仙さんが罪を償う為に薬草入りのお餅を搗くのだそうです」

 

「ふーん。……逃げた罪、ねえ」

 

 横島は永琳達の罪とやらにも興味を持ったが、一番気になったのは他でもない。餅の事である。

 

(薬草入りかあ……。どんな感じなんだろ? ヨモギとかそんな感じなのかな。頼んだら貰えるかな? 食ってみてーなー……)

 

 横島にとって罪を犯したとか罪の償いだとかそんなものは二の次三の次。重要なのは美女美少女か否か、それだけである。何せ彼は食人鬼女(グーラー)とキスをしたこともあるのだ。常人とは倫理観や常識が大幅にずれていると言える。

 

「それから私達のお給料日でもありますね」

 

「マジで!? 今日だったのか」

 

 次に美鈴から出た言葉で横島の興味は完全に傾いた。何せ彼は高額の給金(時給千円)目当てで紅魔館の執事となったのだ。この反応も致し方ないであろう。

 

(いくらくらいかなー、多分十五万は越えてるはずなんだよなー。何か気絶したり失敗したりもしてるから自信ねーけど……)

 

 多大な期待と僅かな不安が心を過ぎる中、ふと気になる事が出来た。丁度良いので聞いてみる事にする。

 

「そーいや美鈴も時給制なの? それとも月給制?」

 

「ああ、私は歩合制です」

 

 美鈴の答えを聞いた横島は、彼女の肩をぽんぽんと叩き、生暖かい笑顔で労った。

 

「ちょ、やめてくださいよ! そんな可哀想な人を見る様な目はしないでください!」

 

「うん、今度呑もう。大丈夫、ちゃんと奢るから。割り勘にはしないから」

 

「もぉー、やめてくださいってばー!!」

 

 何だかんだで、二人の間には楽しげな雰囲気が流れているようである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は流れて満月の浮かぶ夜。横島はレミリアに呼び出され、現在彼女の部屋に来ていた。部屋の内装と完全にミスマッチな玉座にふんぞり返るレミリアの側には澄まし顔の咲夜が控えており、何やらコメディチックな雰囲気を醸し出している。

 

「さて横島、今回呼び出したのは他でもない。給料を渡すためだ」

 

「っ!」

 

 途端にそわそわと挙動不審になる横島に、レミリアも苦笑いを浮かべる。

 

「分かりやすい奴は嫌いじゃないが……紅魔館の執事として、もっと慎みを持ってもらわないと困るわね」

 

「うう……すんませーん」

 

 今度は萎れる横島。その姿は何とも情けないものなのだが、レミリアはそれを存外気に入っていた。まるで弟を見る様な目で横島を見る。横島もそんなレミリアの視線をどこか気に入っている。お互いに新たな扉が開こうとしているのだろうか。

 

「まあいいわ。とりあえずこれが給料ね」

 

 レミリアは懐から取り出した給料袋を横島に投げよこす。緩やかな放物線を描いたそれは、綺麗に横島の手の中へと収まった。

 

「ありがとうございます、お嬢様! ……って、あれ? 何か分厚くないっすか……?」

 

「ん、そうか?」

 

 横島の手にある給料袋。それは彼が美神達と共にゴーストスイーパーを営んでいた時の報酬に比べれば遥かに薄っぺらいが、それでも彼が受け取る給料としては未だかつて体感したことが無い程の分厚さである。

 

「あの、今回の私めのお給料はいかほどで……?」

 

 横島は何故か異様に腰が引けており、冷や汗もダラダラとかいている。その様子にレミリアは若干引いているが、質問にはしっかりと答える。

 

「いかほどって、四十万ほどだけど……」

 

「ああ、なるほど四十万……四十万!!? よんじうまんっ!!?」

 

「ひぃっ!?」

 

 レミリア達は恐怖に戦いた。何故なら横島の表情は見事に崩れていたからだ。顔中に血管が浮き上がり、目は血走り、鼻血を盛大に噴き出して歯を剥いている。そんな異様な形相を披露している横島なのだが、その顔からどうやってそんな声を出しているのかと疑問に思うほど冷静に質問する。

 

「いやいや、待ってください。時給千円じゃ半月で四十万になりませんよ?」

 

「あ、ああ、それはえっと……。時給千円×二十四時間×半月で……」

 

「にじうよじかんっっっ!!?」

 

 鼻に加えてこめかみと耳からも血が盛大に噴き出した。

 

「うわぁっ!? ちょ、怖いからそれやめろぉっ!!」

 

 現在の横島は満月の夜の吸血鬼よりもずっと怖い。しかし顔面から血を噴き出し続ける横島も、美少女に怖いと言われれば(顔面も)冷静にならざるを得ない。

 

「ふぅー……。すんません、落ち着きました。しかし、何で二十四時間で計算してるんです? 住み込みとはいえ休憩とか風呂とか仕事以外の時間も結構ありますけど……」

 

「え? 住み込みのバイトって二十四時間で計算するんじゃなかったの?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 沈黙が場を支配する。この事に関して咲夜が言及していなかったのか気になったが、こめかみに汗を一筋垂らして目を背けていることから『知らなかった』のか『ついうっかり忘れていた』かのどちらかと推測出来る。

 

 レミリアはしばし黙考し、答えが出たのか手をぱちんと合わせる。

 

「うん、いいのよ細かい事は! 横島だって給料多い方が嬉しいしね!」

 

 出した答えとは勢いで誤魔化す事であった。横島とてレミリアの言葉通り確かに嬉しいのだが、ここでとある事実に思い至る。

 

「そういえば俺ってお休みも貰ってますし、気絶だ何だで働けていない時もありましたけど……」

 

「ん、ああそれね」

 

 レミリアは腕を組み、今までの横島の働きぶりを回想する。

 

「横島は仕事覚えるのも早いし、妖精メイド達を上手く纏めてくれてるし、何だかんだで皆を気遣ってくれてるしね。……フランも世話になってるし。まあ今回は横島の頑張りを評価して、それから今後の期待も込めて少し色を付けたのよ」

 

 視線を逸らし、少々照れくさそうにしていることから、どれが一番の理由かがよく解る。レミリアとしては別段気にする程でもない、言わば気紛れに近い気遣いだったのだが、横島にとってそれは、予想外の事態を招く事となる。

 

「え、ちょっ、今度は何よ……?」

 

「横島さん……?」

 

 二人が横島を訝しげに、心配げに見る。横島は気付いていない。彼の双眸からは、涙が止め処なく溢れ出ていた。

 

「……あ、の」

 

 声を出そうとしても上手く出ない。ここで横島はようやく自分が泣いている事に気付く。それからは酷いものだ。息を吸う度に息が詰まりそうになり、嗚咽が止みそうにない。

 

「お、おじょっ、おじょぶざばぁっ!!」

 

「ん、んん……?」

 

「ぼっ、ぼれ、ぼればんばびごごばで……!!」

 

「すまん、ここでは人間の言葉で話せ」

 

 涙と鼻水にまみれた顔をそのままに、嗚咽でしゃくりあげながらの言葉はレミリアには解読出来そうもない。咲夜は二人の様子に苦笑しながらも、ハンカチを取り出し、横島の下へと歩み寄る。

 

「ほら、こんな事で泣いてちゃだらしがないわよ? これで涙を拭きなさい」

 

「でぼ……! ざぐやざんぼばんばぢがぼぼべべ……!」

 

「気にしなくてもいいわよ。こういうのは使うためにあるんだから」

 

(会話が成立してる……!?)

 

 改めて自らの従者である咲夜の何でもあり具合に驚愕するレミリアであった。

 

 流れ出る涙を必死に拭う横島だが、一向に止まる気配はない。幼少期の交友関係や両親、特に母親の躾の影響で女性からの承認欲求が極めて高い横島であるが、これほどストレートに自分を認められたのは非常に稀だと言える。

 

 思えば、彼が知る限り自分が認められてきたと言えるのは、いつだって『自分』ではない。『自分』が創り出す『奇跡の具現』だったのだ。

 

 その希少性、万能性、強力さから、創り出した『自分』の方がおまけ扱いされる場合もある。彼自身を直視し、彼自身を評価してくれる者は、彼の知り合いの中でもあまり覚えがない。

 

 勿論それは彼が知らないだけであり勘違いでもあるのだが、照れくさいから、恥ずかしいからと、本人に伝えられなければ意味のないものとなってしまう。

 

 そして、彼自身を認めてくれる女性として、彼の中に強烈に焼き付いているのは『ただ一人』のみ―――。

 

 どんな言葉も、想いも、伝えなければ気付けないものなのだ。

 

 ただし、横島の普段の言動が言動であるし、告白された直後に彼自らそれをぶち壊すという事もしているので、実は同情に値するのは横島ではなく周りの女性陣の方だったりする。

 

「まったく、早く泣き止まないと例月祭を見に行けなくなるわよ?」

 

 そう言って咲夜は横島の頭を撫で、優しく微笑む。その微笑みに魅せられてか、徐々に横島も落ち着いてきた。

 

「ふむ……。何か色々とあったが、給料の話はこれで終わりだな。では、次だ」

 

「んえ?」

 

 レミリアは玉座から下り立ち、横島へと牙を見せる様に笑いながら近寄って行く。その姿に横島の背筋に冷たい物が走る。

 

「あの日から今日まで、随分と待ったからな……。抑えておくのもそろそろ限界なんだ」

 

 レミリアの瞳が妖しく光る。その光に射抜かれた横島は身震いを一つし、これから訪れるであろう未来に冷や汗をかく。

 

「あのー、お嬢様。まさかと思いますが……」

 

「そうだ、吸わせろ」

 

「どストレートに即答!?」

 

 にじり寄るレミリアから逃げようにもいつの間にか咲夜が彼の腕を極めているので逃げられない。「無理矢理はイヤー!」と泣き叫ぶが、時既に遅し。レミリアは横島のタイとボタンを外し、胸元を露出させる。

 

「ほお……。中々に鍛えられているようだな」

 

「おっ、おじょお嬢様ぁっ!?」

 

 レミリアの細く、しなやかな指が彼の胸板をくすぐる。胸元から微かに伝わるレミリアの体温と匂い、背後に感じる咲夜の温もりと香りに横島の精神が一気に追い詰められていく。

 

「ふふ……。まずは、消毒をしないとな……」

 

「ぅひぃ……!?」

 

 首筋に感じる、熱く湿り気を帯びた舌の感触。熱く濡れた舌が首筋を這う度、水気を含んだ音が耳に響く度、否応なしに彼の性感が高められていく。しかし反対の耳にはレミリアの行為に興奮した咲夜の鼻息がうるさいくらいに響いており、それが横島の理性を保つ手伝いをしてくれている。

 

「う、あ……っ。何かどことなく懐かしい感覚……!」

 

 咲夜に加え、彼の弟子やそのライバルのヒーリングを思い出したのか、何とか平静を保てているようだ。

 

「では、そろそろいただくか」

 

 その言葉と同時に首筋にチクリとした感覚が走り、横島は慌ててレミリアに質問する。

 

「ちょ、お嬢様! 血を吸うって事は、俺を吸血鬼にするつもりなんすか!?」

 

「あー? いや、ただ単に血を吸うだけだけど……」

 

「……そうなんすか?」

 

「うん」

 

 返答はいともあっさりと返ってきた。レミリアに自分を吸血鬼にする意図がないと分かれば、彼には十分である。

 

「あー、分かりました。吸い過ぎないのであれば、どうぞ」

 

「……さっきまでみたいに抵抗しないのか?」

 

「いやー、ただ血を吸うだけなら別にいいかなーって……」

 

 そう言ってなははと笑う横島は自然体だ。彼のことだ、本心からそう言っているに違いない。レミリアはそんな横島に驚いたが、彼は初めて会った時からそんな人間だった事を思い出し、笑った。

 

「では、遠慮なくいただこうか……。はぷっ」

 

「って、結構痛いっ!?」

 

 鋭い牙が皮膚を貫くのだから当然である。そうして横島はレミリアに血を吸われ、例月祭を見に行く時には少々貧血気味となっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「吸い過ぎないでって言ったのに……」

 

「悪かったって。……小食なのに美味しいからってついつい吸い過ぎたわね。太らない様に気を付けないと……」

 

 横島達は現在例月祭が行われている中庭に居る。そこには紅魔館、永遠亭のメンバーの他に妹紅、紫、藍、橙、幽々子、妖夢が居た。

 

 幽々子は妖精メイド達が作る餅を片端から食べており、妖夢や藍は幽々子の食べる量を鑑みて妖精メイド達の手伝いに回っている。

 

 永琳は自分達の為に餅を搗いてくれる妖精メイド達の姿に感動し、鈴仙、てゐ、紫を巻き込んで酒宴を開いている。輝夜はあくせく動き回る妖精メイド達を見て何やら癒されており、妹紅と一緒に普通の餅を食べていた。

 

「イナバ達も可愛いけど妖精メイドも可愛いわねー。永遠亭が再建したら何人か連れ帰っちゃダメかしら……?」

 

「どうなんだろうな? ここは辞めるのもまた働くのも自由らしいし。意外と大丈夫なんじゃないか?」

 

 輝夜の横で餅を頬張る妹紅だが、その視線はチラチラと横島に向いている。以前慧音に言われた事が切欠になり、横島を必要以上に意識してしまっているようだ。輝夜はそんな妹紅を微笑ましく見守っているが、何だかんだで仲の良い二人である。急に相方が奪われた様な、そんな不思議な感覚も味わっているのであった。

 

「レミリア様ー」

 

「ぺったんぺったん」

 

「フラン様ー」

 

「ぺったんぺったん」

 

 妖精メイド達は普通に搗くのに飽きたのか、自分達の主の名前を呼びながら餅を搗き始めた。

 

「何か、そこはかとない悪意を感じるわね……」

 

「お兄さんは大きなおっぱいと小さなおっぱいだったらどっちが好き?」

 

「俺も男っすから大きなチチは大好きです。でもだからといって小さなチチが嫌いという訳ではありません。チチに貴賤無し。俺は大きくても小さくてもおっぱいそのものが大好きです。……妹様は今後の成長に期待っすね!」

 

「フランに妙な事を吹き込むな貴様ーっ!!」

 

「え゛ん゛す゛い゛っ゛!゛!゛?゛」

 

 まだまだ膨らみのない胸をむにむにと触りながら横島の好みを聞くフラン。それに対し煩悩まみれながらも美しいまでに純粋な瞳で邪な答えを返す横島。そして横島に対し素晴らしい延髄斬りを叩き込むレミリア。それはいつも通りの、和やかな風景である。

 

「妖夢さんー」

 

「ぺったんぺったん」

 

「てゐさんー」

 

「ぺったんぺったん」

 

「橙さんー」

 

「ぺったんぺったん」

 

「妹紅さんー」

 

「ぺったんぺったん」

 

「ああっ!? 妖夢もてゐも橙も気にしてないのに妹紅が体育座りをして膝に顔を埋めるほどに落ち込んでいる!?」

 

 異様な程に説明じみた台詞を宣いながら輝夜は驚いた。どうやら輝夜が想像していた以上のコンプレックスだったようだ。そして、そんな妹紅に近付く影が一つ。

 

「妹紅……」

 

「え、よ、横島?」

 

 言わずもがな横島である。そこ声に過剰に反応してしまいどもってしまう妹紅。彼の真剣な眼差しに、妹紅の胸は期せずして高鳴った。それを知ってか知らずか横島は妹紅の肩に手を置き、元気づける為に言葉を紡ぐ。

 

「大丈夫だ。―――妹紅のチチにも需要はある……!!」

 

「……」

 

 何とも力強いお言葉である。しかし妹紅の視線の熱は氷点下にまで下がり、彼女の胸の高鳴りは別の意味でマックスを迎えようとしている(主に怒りと羞恥によって)。何故こんな男を意識してしまっていたのだろうか。

 

「それは、慰めのつもりなのか……?」

 

「慰めなんかじゃない。これは事実なんだ。その証拠に俺は妹紅のチチを触りたいと思っている……! 何故チチに触りたいのかって? そこにチチがあるからサ!! という訳で我が手にチチシリフトモモをーーー!!」

 

「意味が分からんっ!!!」

 

 今日もまた、飛びかかる横島の顔面に妹紅の燃える拳が突き刺さり、遠くへと吹き飛ばされるのであった……。

 

 煩悩を発散出来ない環境とは恐ろしいもの。横島忠夫、徐々にではあるが順調に正義が削れている―――。

 

 

 

 

 

「大丈夫ですか、横島さん? ……何かテンション高いですね」

 

「あ、小悪魔ちゃん。お疲れー。いや、ちょっとね」

 

 吹き飛ばされた先に居たのは小悪魔であり、彼女の手には自分の分と横島の分の餅が乗った皿があった。

 

 小悪魔は横島の隣に座り、餅を渡して一緒に食べる。しばらくの間、二人は穏やかな空気に包まれていた。小悪魔よりも大分早く餅を食べ終え、小悪魔も餅を食べ終えたのを確認してから横島は質問をする。

 

「小悪魔ちゃんってさ、パチュリー様の使い魔らしいけど休みとかってあるの?」

 

「ええ、ありますよ。基本的には『この日はお休みをください』ってパチュリー様に頼んで貰う形です。後はパチュリー様の気紛れとかでしょうか」

 

「あの人も案外アバウトなんだなー……」

 

 横島はレミリアとどこか似ているパチュリーの性質に苦笑を浮かべる。小悪魔はそんな横島に疑問を持ったようで、素直にそれを聞き出す事にした。

 

「でもどうしたんです、急に? もしかして横島さん、パチュリー様に興味があるとか……!?」

 

「うん、どういう流れでそれに行き着くのかはよく分からんけども、興味はあるよ。それはともかく、ちょっと小悪魔ちゃんにお願いがあってさ」

 

「興味はあるんですね……。それはそうと、お願いですか? 私に出来る事なら……」

 

「ああ、良かった。断られたら困ってたとこだ」

 

 朗らかに笑う横島に、小悪魔は目を惹かれる。男性にあまり免疫の無い小悪魔はそれだけで頬を僅かに染め上げる。脳内では少女漫画の様な甘酸っぱい光景が繰り広げられているのだが、次の横島の言葉でそれは一気に吹き飛ぶ事となる。

 

「今度人里で買い物をしに出掛けるんだけどさ、良かったら付き合ってくんないかな、ってさ」

 

「……え、それって―――!?」

 

 真っ白な頭の中、出て来た言葉はこれだった。

 

―――デートのお誘い。

 

 小悪魔はすぐさま頷き、来たる日に想いを馳せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「咲夜さんー」

 

「ぺったんこー」

 

「よし、その喧嘩買ってアゲル」

 

 紅魔館に、最強の夜叉が降臨する―――!!

 

 

 

 

 

 

 

第十五話

『満月の夜』

~了~




てゐって性欲凄そうだよね。(挨拶)

今回も好き放題やらかしてますね。こういうのが苦手な方には申し訳ねえ……!

次回は小悪魔とのデートとなります。

一体どのようなお話になりますことやら……

それでは次回をお待ちください。

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