緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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コミケ前に何とか書き上げました!!


93話<二人の犠牲者>

ヒルダの逮捕(処刑)から数日後

 

「おやっさん!大トロ5人前追加!後ウニと伊勢海老!!」

 

キンジや氷牙、アリア、理子、レキ、凛香といったバスカービルの面々は市街地にある高級寿司屋にてヒルダの逮捕そしてレキのSランク復帰を祝って祝賀会を開いていた

 

「次、ズワイガニとアワビも追加ね!あとフグ刺し5人前持ってきて!」

 

「それ・・・全部時価って書いてあるよね・・・」

「氷牙・・・あんたに遠慮ってもんは無いの?」

「ひょーたん、さっきから容赦なく高いネタばかり注文してるよねー」

凛香やアリア、理子は目の前の盛り合わせを半分も食べていないというのに氷牙はそれだけに飽き足らず次々と追加注文を飛ばしていた・・・しかも全て時価の高級品ばかりを・・・

 

「いいじゃねえか。どうせ払うのは俺じゃねえんだ。向こうもそれ了承してんだから遠慮なくやらせてもらおうじゃねえか」

そう言って目の前に置かれてた薄く切られて綺麗に皿に盛られていたフグ刺しを箸で一気にざかーっと20切れほど豪快に取るとそのまま一口で食べだ

 

「氷牙・・・せめてもう少し味わって食べなよ・・・」

「あんた・・・ホントに遠慮しないわね・・・」

「ああ、遠慮しない。ほらキンジもどうした?全然箸付けてないじゃねえか。最近まともに食ってないんだろ?遠慮せずにどんどん食えよ?」

「いや・・・でもここの品書き・・・ほとんど時価って書いてあるし値段がついてるのも0が普段の二つくらい多い値段なんだが・・・」

「だから言ってんだろ?気にすんなよそんなの、今日はスポンサーがいるんだしよ?」

 

そう言って席の端を見れば・・・

「ああ、今日の代金は全て僕が持つ。気にせず食べてくれ」

ワトソンは限度額無限ともいわれるブラックカードを片手にもって返答した

 

「だが・・・本当にこれだけでいいのかい?周りから頼み込まれたとはいえ本来は君に敵であるヒルダを助ける義理なんて無い。なのにそれを分かっていて魔力を提供してもらったんだ。魔力なんてそう簡単に用意できるものじゃない。専門機関に依頼しようものならそれこそ億単位の金をふっかけられる。君だって僕らやヒルダに同じ額を請求してもよかったんだよ?なのにその代金は「今日の食事の費用を全て持つ事」たったそれだけでいいのかい?」

「いいんじゃねえの?魔力提供した本人がそれでいいって言ってんだ。なら他に誰が不満を言うんだ?」

「・・・すまない・・・今は医者として・・・ヒルダを助けてくれて感謝するよ・・・」

「そのかわり遠慮はしないけどな?おやっさん!大トロと伊勢海老5人前追加!あとフグ刺し10人前お替わり!」

 

「・・・いい加減止めないとこの二人、ワトソンが破産するまで食べ続けるんじゃない?」

 

氷牙と・・・その隣に座っているレキを見てみれば・・・

 

レキは寿司を一貫ずつ、刺身を1切れずつ、箸でひょい、ぱくと言った感じで相変わらずのマイペースを保ちながら黙々と食べ続けていた。

だが周りから見ればのんびりと食べているように見えるがその行動には間が無く。実際に食べている量は氷牙とほとんど同じ量であった

 

「レキはあれで氷牙よりも大食い、学食の大食いチャレンジ歴代1位の記録保持者でもあるからな・・・」

「まあこれくらいで破産するほどヤワな家ではないよ。額が額だけに痛手には変わりないがヒルダと比べればはるかにましと思って割り切るさ・・・」

 

「ヒルダか・・・そう言えばあいつも体は大丈夫なのか?バラバラにされた体を繋ぎ合わせて理子の血と氷牙の魔力でくっつけて・・・吸血鬼の生命力がどれ程かは知らないけど重症なのは間違いなだろ?」

「ああ、ヒルダも・・・重症ではあるが体は順調に快復へと向かっている。逮捕されてから抵抗するそぶりは一切なく素直に司法取引にも応じた。九狂君は納得できないだろうが・・・怪我が治り次第、釈放される予定だ」

 

ワトソンがそう言うと氷牙は一度箸を置いて

「まあ・・・そうなるとは思っていたが・・・やっぱり苦労して捕まえたのにこうもあっさりと出られるとやりきれないもんがあるよな・・・」

「あそこまでなぶり殺しにしといてどの口が言ってるんだよ・・・下手したら精神崩壊して一生刑務所に引きこもっちまうぞ・・・」

「その代わり当然だが聞きだせることは全て聞き出した。こちらが質問する事には全て躊躇せずに返答したよ。そして何よりも・・・」

 

ワトソンはテーブルの上にピルケースを置いてその蓋を開けた

 

中に入っていたのは緋色の小さな宝石・・・

 

「これは・・・殻金か!?」

「ああ、ヒルダが持っていたものだ。わざわざ僕を通して君たちに渡すよう頼んできたよ。「あんな奴がいるって分かっていればこんな事しなかった!!」って怯えながらね・・・」

「そうか、まあ何はともあれやっと1つ取り返したな、全部で7つの内2つはアリアの中に戻っているから・・・残りは4つ・・・他の連中については何か話したのか?」

「残念だがヒルダも詳しいことは知らなかった。どうやら眷属の連中は同じ所属だからと言って無暗に情報を明かしたりはしていないようだ。その上ヒルダがバスカービルに敗れて逮捕されたことは既に知れ渡っているはずなのに眷属の連中には何の動きも無い。おそらくヒルダは・・・他の眷属に見捨てられたんだ。所属が同じだけど仲間じゃない。敵は同じだけど仲間じゃない。敵じゃないけど仲間じゃない。味方だけど仲間じゃない。連中にとっては眷属の繋がりなんてその程度だって事さ・・・」

だから一つ潰しても他の連中にとっては知った事じゃないし痛くもかゆくもないってか・・・けどそれは裏を返せば横の連携が取れていないって事だ。ならこっちは連中を1つずつ確実に叩いていくだけだな

 

「最後にもう一つ・・・司法取引の内容にも含まれているが・・・神崎かなえの裁判に証言することも約束した。だが君たちが知りたがっている事、どうして神崎かなえに罪を擦り付けたのか、どうして神崎かなえが未だ拘留されているのかについても・・・やはり何も知らなかった」

 

「・・・知らない事ばっかりだな・・・一応聞くけど隠している可能性は?」

「おそらく無いだろう。悪いとは思ったがヒルダが知らないと言った後に「九狂君の前でも同じことが言えるんだな?」と確認を兼ねて聞いたら顔を真っ青にして震えて頭を抱えながら「知らないの!!本当に知らないのよ!!何でも言うから!!!何でもするから!!!お願いだからもう許してぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」と、鎮静剤と麻酔を投与するまで錯乱しながら叫び続けたよ・・・」

「・・・氷牙の名前出しただけでそこまでかよ・・・やっぱりトラウマ植え付けてるじゃねえか・・・」

「ヒルダは釈放されてもカウセリング通院が必要と診断された・・・しばらくは監視の届く場所に置かれることになるが君はヒルダに会うのは控えてあげてくれ・・・本当に精神を壊してしまいかねないからね・・・」

「まあ本当に知らないならそれ以上追及しても仕方ないし・・・あいつがいい子にしてるなら会いに行く理由もこれ以上何かする理由も無いさ、それに思わぬ収穫というか慰謝料も貰ったからな」

そう言ってヒルダの魔臓を触媒に召喚した武器、クトネシリカを見せてきた

 

「その刀についても念のため言っておくがそれはあまり人目に出さないように隠しながら使った方がいいよ。クトネシリカはアイヌ民族が長年一族総出で探し続けている至宝でもあるんだ。君が所持していることがばれたら連中はどんな手を使ってでも君から取り返そうとするよ?」

「奪えるもんなら奪ってみろよ?闇魔刀もそうだが武器だって主を選ぶ、こいつが主を定めている限りは呼べばどこにいようと即座に俺の手元に具現するんだ。主が死なない限り奪い取る事なんて無理だろうよ?」

「てことは持ってることがばれたらお前を殺しに来るわけで・・・アイヌと全面戦争勃発ってか・・・」

「つまりは・・・おやっさん!ズワイガニとウニ10人前追加!!そうなったら北海道が焦土になって海産物はもう食えなくなるから今のうちに食っておこう!」

氷牙はそうさらっとおっかない事を注文ついでに言い放つが・・・

 

⦅もしそうなったらこいつ・・・本気でやりかねない・・・つーかやる・・・⦆

 

全員がそう思った・・・

 

 

 

「それと・・・ずっと気になっていたんだが九狂君は最初のうちに僕が転装生・・・女だと気づいていたようだが・・・なぜわかったんだい?」

「そういえばそうだ・・・氷牙?お前はどうしてワトソンが女だって気付いたんだ?」

「は?何言ってんだお前?俺達の間近にもいるじゃねえか?ワトソン以上の転装生っつーか転装が得意な人。あれに見慣れっちまえば姿を誤魔化してるくらいで隠せるのはお前くらいだよ」

 

「あー・・・・」

 

そう言われて思い出してみれば確かにいた・・・キンジの兄、遠山金一はカナに化ける時、容姿や声、雰囲気や物腰だけでなく人格や記憶までもを完全に入れ替える。文字通り別人になることができるのだ・・・確かにあれと比べれば見破るのはわけもないだろう・・・

 

「え?あんた達の知り合いに転装生っていたの?」

「あ。そう言えばアリアは知らなかったか?」

「・・・別に言うものでも無いだろ。一応言っとくが誰なのかは言えないぞ?お前も武偵ならそれくらいわかるだろ?」

「ええ、もちろんよ。その人だってワトソンみたいに何かしらの事情があるから転装生やっているんでしょ?だからあんたの口からは言えない、知りたいなら自分で見破れってことでしょ?面白いじゃない」

「まあ・・・そんなところだ」

 

(そんなところね・・・ま、そういう事にしとくか)

本当に言えないのはもっと別の理由だろうが・・・

自分の兄がそうなんです。なんて言えるわけがないだろう・・・

第一、キンジの口からカナさんが男だとか金一さんだとか言ったのがばれたらそれこそ金一さんにタコ殴りにされて殺される・・・

折角カナさんは無所属でいてくれてるんだ。これ以上敵が増えて面倒事が増えるのは御免だし、厄介事の火種は出来るだけ触れないようにして燃やさないようにしておこう・・・

 

そう決めると氷牙は再び箸を持ち食事を再開した

 

 

 

「それで・・・最後に聞きたいのだけど・・・遠山、君は・・・バスカービルは僕をどうするつもりだ?」

「は?いきなり何の話だ?」

「君達バスカービルは僕の処遇をどうするのか聞いているんだ。僕は未遂とはいえ眷属に着こうとして君たちに敵対する意思を示したんだ。それに僕が君たちにしてきたことを考えればたとえ殺されても文句は言えない。僕だってそれを分かっていて実行したんだ。どうなろうと覚悟はできている・・・」

 

「別に・・・あれくらいなぁ・・・」

キンジは今までされた事を「あれくらい」と軽く流していた。確かに殺人未遂くらいは日常茶飯事な武偵校ではこんなのは「あれくらい」の部類に入るのだろうし・・・この半年間の出来事に比べればそれこそ「あれくらい」で流せてしまう出来事である・・・

 

「あたしは・・・家の事情とか思う所があるから・・・責める気になれないのよね・・・」

誘拐されたアリアも事情が事情だけに同じ貴族として共感というか同情する所もあり責める気は無かった

 

「ただなぁ・・・」

「ただねぇ・・・」

キンジとアリアは氷牙をちらりと見た。2人が許した所でこいつが許さなければ意味がない・・・

 

だが氷牙は箸を持ったまま

「俺も別に?ワトソンはヒルダとは本当に無関係だったみたいだし・・・ワトソンに関しての処遇はキンジとアリアに任せたんだ。2人がこれで手打ちにするっていうなら俺ももう何も言わないよ」

と言って二人に丸投げした

 

「理子は・・・ワトソンに関しては完全に蚊帳の外だからね~?」

「私もその件に関しては無関係ですから介入はしません」

「そうなると私もだね?」

 

つまりはもう誰もワトソンを咎めようとする者はいない。ならこの話もこれでおしまい。そう思ったが

「だ、だが!それでも迷惑をかけたことに変わりはないし。僕は君たちに勝負を挑み負けているんだ!それで何もお咎め無しなんて訳にはいかないだろう!」

何故か他でもないワトソン本人が食い下がってきた

 

「いくんじゃないのか?なんせ被害にあった本人がいいって言ってるんだからな」

「いかないんだよ!それじゃあ僕自身が納得できないんだ!!せめて何かしらの処罰は下してくれ!!それに・・・」

「それに?なんだよ?」

「・・・僕が転装生だという事は他言しないでほしいんだ・・・勿論君たちにそんな義務も義理もないのは分かっている・・・」

「ああ・・・そういえばその件もあったな・・・」

 

転装生を見破った場合それを他言することは特に止められていない。見破られたのはそいつの変装がその程度であったとみなされ完全に転装生側の落ち度として扱われる。なので場合によっては口止めをする必要がある。

方法はいくつかあるが、中でも多いのが・・・こちらも相手の弱みを握るか・・・力づくで黙らせるか・・・金を積むか・・・あるいは・・・

 

「勿論ただとは言わない!口止め料は十分に支払う!金じゃないなら何が望みか言ってくれ!!何でもする!!どんな要求でも呑む!!だから望みを言ってくれ!!」

「別にそんなこと言わなくても誰にも言ったりは・・・」

「ダメなんだ!君たちを疑っているようですまないが口だけの約束ほど信用できないものは無い!それにあれだけの事をして、その上君たちにこんな厚かましいお願いまでしておいて僕は何もしないなんて恩知らずにも程がある!だから頼む!!要求を言ってくれ!!」

そう言ってワトソンは頭を下げると微動だにしなくなった

 

 

「キンジ・・・経験上言ってやる。こういう奴は絶対引かない。何かしらの要求しなきゃ平行線だぞ・・・」

「だな・・・」

と言っても金や物を要求しようにも今日の食費もあるからそんな高い額は請求できないし、かといって安い額じゃワトソンは納得しない・・・何かワトソンが納得してそれでいて無理のない請求と言えば・・・

 

「じゃあ・・・凛香と同じく無償で俺達のチームの専属衛生武偵になってくれよ」

「え?」

「この先波乱は何度でも起きるだろうからな・・・戦力は何人いても足りない。ワトソンも衛生科Sランクだろ?ならぜひ引き入れたい人材だし・・・この戦役で負けた奴は配下になるんだろ?ならこれが妥当な所じゃねえか?」

「た、確かにその通りだが・・・だが本当にそれでいいのかい?それに君のチームには既に専属衛生武偵がいるんじゃ・・・」

「だから本人がそれでいいって言ってんだからいいんだよ。それに凛香はどちらかと言えば氷牙専属の衛生武偵だし・・・今言ったように戦力は勿論だが医者だって何人いても足りないだろ。だからワトソン、俺達のチームについてくれ。俺にはお前が必要なんだ」

 

「――ッ!!」

 

キンジがそう言うとワトソンは顔を真っ赤にして自分の胸を手で押さえた

 

 

 

 

その光景を見て・・・

「・・・なあキンジ・・・お前がワトソンを引き込むのはバスカービルの専属衛生武偵にするためだよな?」

 

「え?ああ、当たり前だろ?それ以外何があるんだよ?」

 

「・・・どう見てもそれ以外の何かにしている気がするのは俺の気のせいか?」

「たぶん・・・気のせいじゃないと思うよ・・・」

「またキンジさんの毒牙犠牲者が増えましたか・・・」

 

先日はキンジがクトネシリカを手にして一層人間離れした力を得た俺を呆れていたが・・・

 

今日は本人はちっとも狙っていないのにも関わらずこれでもかというくらい的確にど真ん中を打ち抜いてみせる人間離れした天然たらしに俺だけでなく凛香やレキ、アリアや理子も呆れるしかなかった・・・

 




次回は学園祭に入ります

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