緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

97 / 133
更新遅れてすみません・・・

この一か月殺人的な残業が続いて書くどころか家にまともに帰れない日々が続いてます・・・



92話〈コールドゲーム〉

――ザッ――!

 

「終わりね!!やっと追い詰めたわよ!!」

 

氷牙はヒルダの攻撃を躱し逃げ続けてきたがやがて崖っぷちに追い詰められとうとう鬼ごっこも終わりを迎えた

 

「うーん・・・飛び降りてもいいんだが空中戦になったら向こうが圧倒的に有利になっちまうしな・・・」

(まだカードが揃わないな・・・あと十数秒・・・いけるか・・・)

 

「観念しなさい!!ちょこまかとしぶどかったけどもう逃げ場も打つ手も無いわよ!!」

「どうかな?どんな事にだって必ず突破口はあるもんだぜ?それにこんな絶体絶命の修羅場なんてもう1度や2度じゃねえんだ。今更これくらいで観念どころか狼狽えもしねえよ」

「・・・ここまで来てまだそんな減らず口をたたくのかしら!?」

「当たり前だろ?言っとくが減らず口なら死ぬまで吐き続けるぜ?それが俺だからな?」

「それがお前の遺言ね・・・最後まで不愉快な男だわ!!」

「は?遺言ってのは死ぬ予定のある奴が残すもんだぞ?ちゃんと日本語勉強して来い?あ、そっか。その電気でお前の脳味噌ショートして焼けてるからしょうがないのか」

そう言って最後までヒルダを小バカにするとまたあっさりと引っかかり

「いいわ!!お父様を斬り刻んだだけに飽き足らず!!私をここまで侮辱した罪は重いわよ!!お前は生きたまま真っ黒な串焼きにしてお父様へのプレゼントにしてあげるわ!!」

ヒルダは三叉槍に電気を供給させると槍の先端に青白い雷球が生成され、それを俺の心臓に向けて構えた

 

だが氷牙はそれでも少しも臆することなく鼻で笑うと

「俺なんか煮ても焼いても食えないと思うぞ?それと頭の悪いお前の為に二つ教えてやるよ。一つ、俺を食っていい、つーか嚙んでいいのはレキと凛香だけだ。そして二つ、―――」

氷牙はニィッと口を歪めると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

「狩人は三流は獲物を罠に追い立てるけど一流は誘い込むもんだぜ?」

 

そいう言った直後

 

――ビシビシッ、ビシッ、ビシィッ――

 

「あっ!?」

どこからか飛んできた銃弾がヒルダの両翼の付け根と膝の関節を撃ち抜きヒルダは翼を折られその場に跪いた

 

そして耳のインカムから声が聞こえる

 

『氷牙さん、無事ですか?』

『お待たせ!レキさん試験終わったよ!』

 

「凛香!レキ!待っていたぜ!タイミングばっちりだ!!」

 

『はい、狙撃科Sランク、九狂レキ、ただいまを持って戦線に復帰します』

 

「ああ!合格おめでとう!帰ったら祝杯だな!!」

「傷が再生しない!?これは・・・法化銀弾ね!?でも無駄よ!今の私ならこの傷でも数秒で治せるわ!でもその前に全員ケシ炭にして―――」

ヒルダは膝を着いたまま俺に矛先を向けるが

「数秒?そんなにあれば十分だ。それに言ってんだろ?お前はもう罠の中に誘い込まれてるんだよ。大体そんな大電力槍先に集中させて・・・守りは大丈夫なのか?銀弾がそんなに効いてるってことは無防備になってるんじゃないのか?」

 

――ジャキッ――

 

何かが作動する音が聞こえ、横を見ればそこにはショットガン、ウィンチェスター・M1887を構えた理子がいた

「積もりに積もった積年の恨みだ!しっかり貰っとけ!」

 

――ガゥンッ――!

 

「うぁっ!?」

そして銃身から発射される、100発以上の超小型軟鉄弾が無防備になったヒルダの全身を余すことなく穿ち

 

――バチィッ――!!

 

その銃撃で魔臓は全てやられたようで頼みの電気も制御を無くして周囲に放電し第三態も解除してしまった

「り、理子!?そんな・・・あの電撃をまともに受けて動けるどころか意識を保てるはずが・・・」

 

――カランッ――

 

理子の足元には氷牙がワトソンから奪った注射器、ネビュラが空になって転がっていた

 

最後の一回分は・・・理子に投与されていたのだ

 

「薬のせいか・・・それとも夢にまで見た恨みを晴らす日が来たからか・・・あたしは今最高の気分だ!まさに・・・素晴らしいよ!!」

 

そしてヒルダの全身が穿たれる間に氷牙は左手にレッドクィーンを背中に、右手に闇魔刀を左脇に構え、レッドクイーンは内部機構を限界まで駆動させその熱で真っ赤に染まってゆき、闇魔刀も氷牙が今引き出せるだけの魔力を限界まで込められ蒼く光り輝いていった

 

「最後は俺だぜ?とっておきを見せてやるよ!!」

 

こいつは今の俺が出せる最強の連撃技だ!溜めが必要な欠点があるけど・・・・・・威力はそれを補うほどだ!!

 

そして両方の武器に限界まで蓄えられた力を一気に解き放つと

 

「ショウダウン!!」

 

レッドクィーンと闇魔刀、赤と蒼の2刀の乱舞がヒルダの全身を斬り刻み理子の銃撃で穴だらけにされていたヒルダの体は頭と胸部だけを残して全てバラバラに斬り刻まれていった

 

「あぐっ!!」

そしてヒルダの頭部が床に落ちるとそこから声が聞こえた

「流石は吸血鬼、言ってた通り首だけになっただけじゃ死なないんだな?不細工な胸像になったじゃねえか?」

だが魔臓の再生能力も無くしてしまいヒルダの胸から下は吸血鬼の持つ生命力だけの力で止まって見えるほどの速度でしか再生していかない。

今のヒルダは文字通り手も足も出ずかろうじて残った頭と心臓だけで命を繋ぎ止めている存在でしかなかった

 

そして氷牙は転がっているヒルダの首の前に立つと・・・

「お、お前よくもやってくれ――ドガッ――ハガッ!?」

そのままヒルダの顔を蹴り飛ばした

 

そして蹴り飛ばした頭が血と何か白い欠片を撒き散らしながら壁に激突してこちらに跳ね返ってくると左手でヒルダの髪を乱暴につかんでキャッチした

「あうっ!?」

 

その時ヒルダの顔を見てようやく蹴り飛ばした際に飛び散ったのが何なのか分かった・・・

顔を思いきり蹴り飛ばされたヒルダの顔は・・・鼻は潰れ、歯は数本が折れていたのだ・・・

「は、はなひなはい!!はたひのはみはほまへはんははばっ!?(は、放しなさい‼私の髪はお前なんかがばっ!?)」

だが氷牙はそんな事お構いなしにヒルダの髪を左手で掴んだまま右手で殴った

あの時と・・・ココの時と同じように手加減無しで何発も・・・

「がっ!?」

さらに殴る

「ぎゅ!?」

まだ殴る

「ぶぁ!?」

殴る

「がぁ!?」

そして殴る音に水音が混じり始めたところで・・・

「ま、待ってひょーたん!いくらヒルダでもそれ以上やったらまずいよ!!」

理子が呼びかけると一度手を止め

 

「は・・・はめへ・・・ふぉおはふぁいへ・・・(や・・・止めて・・・殺さないで・・・)」

ヒルダも魔臓の再生能力が無い状態で本気で何度も殴られ顔はグチャグチャに腫れ上がり歯は折られ、顎も砕かれた状態で必死で声を絞った

 

「安心しろ?聞きたいこともあるから殺しはしない、命は助けてやるよ」

「ふぉ・・・ふぉんふぉお・・・ひ?(ほ・・・本当・・・に?)」

「でもその前に気が済むまでとことん殴ったら目と耳は片方だけ残して潰す、髪も全部引きちぎる、そんでもし質問に少しでも躊躇したり偽った場合は手で無理矢理生皮剥いで生きたまま人体標本にしてやる」

「――――――ッ!!」

「お前には理子の事でもアリアの事でもたんまり礼もあるからな?お前が蒔いた種だからなぁ?ちゃんと落とし前付けないとなぁ?」

「ふぁ・・・ふぁっへ!!はやはふはら!!やっはふぉとふぇんふはやはるはら!!ひっへふほほおへんふひふはあ!!はらふぁへほひはえふぇふのほふぇふあふはあ!!はっへ!!(ま・・・待って!!謝るから!!やった事全部謝るから!!知ってることも全部言うから!!殻金取り返すのにも手伝うから!!待って!!)」

「ほう?いい心がけじゃねえか?そうだな・・・ご褒美にお前の好物を腹いっぱい食わせてやる事にしよう」

「ふぇ?(え?)」

 

氷牙はそばにあった変圧器のケーブルを引き千切り

「ほら?お前の好きな電気だ!腹いっぱい食えよ!!」

 

それを聞いてヒルダは今から何をされるか察すると顔を青ざめて

「ふぃ・・・ふぃはぁーーーーーーーー!!!!(い・・・いやぁーーーーーーーーー!!!!)」

ヒルダが叫ぶが氷牙は知ったことかとケーブルをヒルダの目に突っ込んだ

 

ヒルダは電気を操る超能力者ではあるが自身は電気を受けても平気というわけではない。全身に強力な電気を纏う第三態も魔臓の耐電能力と無限回復力もあって為せる力だ。魔臓を無くして耐力も回復力もほとんどない今では強力な電気は・・・人間同様、毒でしかなかった

 

「ひゃああああああああああ!!!!!」

漏電した高圧電気がヒルダの眼球を焼き激痛を訴える悲鳴を上げ

 

「――ッ!!」

理子もその悲鳴とヒルダの目が焼け焦げる臭いと光景に胃から何かがこみ上げてくるのを感じて顔を伏せて口を押えた

 

「どうだ?目を潰されるってのは想像を絶するほどに痛いだろ?俺も分かるぜ?一度はシャーロックに左目を潰されたからな!」

そしてケーブルを離すと、ヒルダの顔は次第に再生を始めた

「ほらどうした!電気たらふく食わせてやったんだ!さっさと再生しろよ!歯ならもっかい全部へし折ってやるよ!!鼻ならもう一度蹴り飛ばして潰してやるよ!!目ならまた焼いてやるからよ!!早く再生しろよ!!!!」

 

「ふぁ・・・ふぁめへ・・・ふるふぃへ・・・はふへへ・・・(や・・・止めて・・・許して・・・助けて・・・)」

「・・・お前はその言葉を何度聞いてきた?それは俺を余計に怒らせる言葉だ!!!」

そう言って今度は耳を掴むと力づくで引き千切った

 

「ひああああああああああああああ!!!!!」

そしてヒルダは再び悲鳴を上げ

 

「ひ、ひょーたん!!もうやめ―――え?」

理子が止めようとしたところで

 

――ダァン――

 

弾丸が氷牙の顔をかすめた・・・

 

「・・・・・・・・・・」

これは・・・ベレッタの銃声・・・てことは・・・

「またか・・・やっと来たと思ったら今度はどういうつもりだキ――」

後ろを振り返ると同時に氷牙はキンジに思いきり殴られ、その際に氷牙の手から離れたヒルダの首をキンジは自分の胸へと抱き寄せた

 

「は・・・え?」

 

氷牙はキンジを睨み付けると

「・・・何のつもりだ・・・そいつを寄越せ・・・」

「・・・断る、お前本気でヒルダを殺す気だろ?だから平気で頭をマグナムで撃ったり、バラバラに斬り刻んだり、なぶり殺しに出来るんだろ?」

「心配しなくても殺さない・・・ちゃんとそいつが化け物だって事計算づくでやってる・・・だからまだまだ徹底的に苦しめてやる・・・自分がやった事どころか生まれてきた事さえも後悔するくらいに痛めつけてやる!!だからこっちに寄越せ!!」

「・・・断る、お前がヒルダを苦しめるのは半年後に殻金を全部取り戻せなかった場合だけだ。それまではこれ以上は手を出させない」

 

「ふざけたこと言ってんじゃねえ!!いいから寄越せ!!でなきゃお前ごと斬り刻むぞ!!」

 

「ああ上等だ!!ならこっちも本気で相手してやるよ!!絶対にこいつに手は出させないぞ!!」

 

「ふざけんな!!何でそいつを庇う!!そいつが女だからか!?」

 

「お前がやるべきことを間違えてるからだよ!!」

 

「――ッ!?俺が!?」

 

「お前、今の自分の顔を鏡で見てみろ!!今のお前の目は人殺しの目だ!!あの時と、シャーロックやココ達の時と同じ殺意と憎悪に囚われた人殺しの目だ!!俺はもうお前のそんな目を見たくないんだよ!!」

 

確かに今の自分を鏡で見ればもしかしたら我に帰れたかもしれない・・・

なぜなら氷牙の髪はヒルダを斬り刻んだ返り血で赤く染まり制服も顔も血で赤く汚れ、真っ黒に染まった目からは殺気と狂気が溢れ出ていたのだから・・・

 

「俺は決めたんだ!お前が道を踏み外しそうになったら俺が絶対に止めてやるってな!だから絶対に手は出させないぞ!!」

キンジが氷牙を止めようとしていると

 

――ヒュン、ヒュン――

 

同じく止めるかのように氷牙の目の前を2発の銃弾が掠めた

「レキ・・・凛香・・・お前等もか・・・」

 

『私達もキンジさんに同意します。貴女にこれ以上ヒルダに手を下させるわけにはいきません』

『氷牙・・・悪いけどそれ以上ヒルダに手を出すならその前に私たちがヒルダの頭を打ち抜くよ・・・絶対に貴方にヒルダは殺させない』

 

「・・・・・・・・・・・・・」

二人にも止められて少し頭が冷えたのか氷牙はキンジに問いかけた

「・・・分かってんのか・・・こいつが何をしたのか・・・」

「・・・分かってるよ・・・正直俺だって割り切れてない」

「なのにお前はそいつを庇うのか・・・そいつを許すっていうのか・・・」

「本音を言えば俺だって許せない・・・けど俺達は武偵だ、俺達にこいつを処刑する権利は無い。俺達がするべきことは逮捕するだけだ」

「お前は甘すぎるんだよ・・・こいつは逮捕したってすぐに司法取引して逃げられる・・・それじゃあ誰も納得しない・・・」

氷牙が怒りの矛先を収められずにいるとアリアが氷牙とキンジの間に割り込んだ

 

「氷牙・・・止めなさい!あんたがやろうとしてることは仕返しでもなければ報復でもないわ!ただの虐殺よ!!」

氷牙はギリッと歯噛みをすると

「・・・お前は何も知らないからそんなことが言えるんだろ・・・こいつのせいでお前がどうなってるか「知ってるわよ!!こいつがあたしに何をしたか、そのせいであたしがどんな状態にあるのか!!全部知ってる上であんたを止めてんのよ!!」

「――ッ!?何で知って・・・」

「ここに来る道中で・・・僕が教えた・・・いずれ分かる事だったし・・・ヒルダに何かされていたこと自体は思い出していたようだったしね・・・」

「止めるんだ氷牙・・・お前が今血塗れになってるのは誰かの為じゃない・・・ただ自分の怒りと欲望のままに手を汚してるだけだ・・・」

キンジが氷牙を諭そうとするとアリアが氷牙の前に出て

「勿論納得出来ないのは分かってるわ。だからあんたを納得させるためにも落とし前も付けるわ!」

「・・・どうする気だ?言っておくが今更そいつに土下座させたって俺を余計に怒らせるだけだぞ・・・」

 

「あんたがこれ以上ヒルダを痛めつけるっていうなら・・・その前にあたしもそれ以上に痛めつけなさい!!」

 

「ーーっ!?アリア!お前何言ってんだ!!」

「そもそも殻金を無くしたのも・・・元はと言えばあたしが勝手にキンジの後を付けて・・・後先考えずに先走ってあいつらにケンカ売ったせいでこうなったのよ・・・ならこうなった責任はヒルダ以上にあたしにあるわ!」

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・いいんだな?」

氷牙はアリアの前に立つ

「止めろ氷牙!!アリアにまで手を出すなら・・・俺がお前を撃つぞ・・・」

キンジはベレッタを構えるが

「キンジ!手は出さないで!!ワトソンも・・・レキも凛香もよ!!」

 

「邪魔するなら容赦しない、今更冗談でしたじゃ済まないぞ?・・・後悔するなよ?」

「ええ!あんたの気が済むまで・・・容赦なくやりなさい!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

氷牙はレッドクイーンを振り上げるがそれでもアリアは俺を見据えたまま一歩たりとも動こうとはしなかった

 

「ラアッ!!!」

 

そして氷牙はレッドクイーンを一気に振り下ろし

 

――ドォォンッ――!!

 

切っ先はアリアの顔の紙一重手前を通ると床にめり込んだ

「・・・約束があるからな・・・半年は待つ・・・それ以上は待たないぞ・・・」

「ええ、約束するわ!必ず半年で全部取り返して見せるわよ!!」

 

氷牙はヒルダをギロリと睨むと

「ひっ!?」

「・・・ヒルダ・・・知ってることは全部喋ってもらう。それと・・・次はねぇぞ!!キンジ達に感謝するんだな!!」

「は、はいっ!!」

ヒルダは再生したばかりの歯をカチカチと鳴らしながら泣きそうな声で返事をした

 

 

 

 

そして氷牙が怒りと矛先を収めるとキンジがワトソンに尋ねた

 

「なあワトソン・・・ヒルダを治せるか?」

「・・・勿論だ。僕は武偵であると同時に医者でもある。戦いが終われば敵も味方も無い。過剰攻撃もしないし差別なく治す。ヒルダ、君の血液型は?」

 

「・・・B型のクラシーズ・リバー・・・」

「それ確か170万人に1人しかいない希少な血液じゃない!?そんな血液どこにあるのよ?」

「日本だけじゃなく世界中の血液センターに問い合わせてみるさ、あるいは同じ血液型の人間が近くにいれば話が早くて済むが・・・」

 

――ガシャン――

 

扉が開く音が聞こえ振り向いてみれば氷牙が非常階段の扉を開けて地上へと降りていこうとしていた

「ちょっと待て氷牙、どこ行くんだよ!?」

「帰るだけだが?この後レキの祝賀会しなきゃいけないんでな?後はお前等で勝手にやってくれ」

「・・・九狂君、すまないがまだいてくれないか・・・ヒルダの体を治すとなると魔力も少し必要なんだ・・・」

「なんで俺が?そんな奴、助ける義理なんか無いし、証言に引っ張り出すなら喋れりゃ首だけでも十分だろ。それに他人の心配してる余裕なんてあるのか?没落寸前の所を立て直すために企てたアリアの奪取も失敗してワトソン家はお先真っ暗なんだろ?」

「・・・そこまで調べたのか・・・」

「没落寸前!?どういう事!?」

「お前がキンジを追い詰めてる間に俺が何もしてないとでも思ったのか?ワトソン家はリバティーメイソンでは上位階級みたいたが貴族社会じゃ末端もいいところな没落寸前の小貴族。こいつが転装生やって男の振りしてアリアの奪還急いでたのはな、ホームズ家に取り入ってワトソン家の立て直しを図るためだったんだよ」

「・・・そんな事情があったの・・・」

「・・・本当に油断ならない男だよ・・・遠山なんかよりも君を警戒するべきだったよ・・・」

「実に下らねえ事情だったよ。そうでもしなきゃ潰れちまう家なんていっそひと思いに潰しちまえよ。その方がずっと清々しいぜ」

そう吐き捨てる氷牙にワトソンは何も言い返せずに歯噛みするだけだったが

 

「氷牙・・・ワトソンを攻めないであげて・・・生まれも親も知らないあんたには分からないでしょうけど・・・貴族にとって家の事情っていうのは切りたくても切り離せない事情なのよ・・・」

「ああ、理解できないし、する気も無い。ヒルダを助ける気がないのと同じようにな」

そう言って今度こそ去ろうとするが

 

「待って!」

 

理子に呼び止められ氷牙は再び足を止めた

「ひょーたん・・・理子にこんな事言う資格ないかもしれないけどお願い・・・ヒルダを助けてあげて・・・それとワトソンも血は理子の血を使って。ヒルダの血液型、理子もそうだよ。だからブラドはあたしを監禁していたんだ。遺伝子だけじゃなく血液も生み出せる便利な道具としてね・・・」

「そうだったのか・・・だがいいのかい?君のヒルダに対する因縁は知っている。それに戦役で敗北したものにある結末は死ぬか配下になるかだけだ。ヒルダがそれに従う保証は・・・」

「それでもいいよ。使って」

「・・・どうしてそこまでできる?お前はそいつを許せるのか?助けたところでまたお前を虐げるかもしれないぞ?それにこいつがしてきたことを考えれば見捨てたところで誰も責めたりなんかしないぞ?」

「勿論許したりなんかできないよ・・・でもここで見捨てたらそれこそ理子はヒルダと同じ・・・外道に堕ちるような気がするんだ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

つまりは俺もここでヒルダを見捨てたら俺もこいつと同じ外道ってか・・・

 

そう思っていると

「氷牙、頼む、助けてやってくれ・・・それにヒルダもお前がこれだけ恐怖とトラウマ刻み込んでるんだ・・・少なくとも2度と刃向かおうとは思わないだろ・・・」

「氷牙、お願い・・・半年後にはどうしようと止めないわ・・・だから今は助けあげて・・・」

キンジもアリアも頼み込んできた

 

そして無線からも

『氷牙?もう答えは出てるんじゃないの?』

『ここまで頼まれて貴方が無下になんて出来るはずがありません。氷牙さんの負けですね?』

レキと凛香からの追い打ちが来て

「・・・覚悟しとけ・・・高くつくぞ」

そんな負け惜しみしか言えなくなったが

 

「うん、言い値で払うよ」

「ええ!好きなだけ請求しなさい!!」

「円はすぐには用意できない、ユーロでいいかい?」

「・・・出来ればツケで・・・」

 

『高くつきますか?さて、いくらでしょうね?』

『たぶん学食の一番高いメニュー一品分くらいじゃない?』

 

効果があったのは金が無いキンジだけだった

「チッ!止めてもらった借りもこれでチャラにしてやるからな!」

さっきまで殺し合っていた相手をまさか助けることになるなんて・・・俺もキンジの甘ちゃんが移ったか・・・

本当に出来の悪い親友を持つと苦労が絶えない・・・なのに・・・

「何でかな・・・それを悪くないと思っている自分がいるよ・・・」

 

「ん?何だって?」

「何でもねぇよ!またお前のハーレムに二人増えたって言ったんだよ!」

「いや、どういう事だよ⁉」

 

 

 

 

 

 

 

そして話がまとまるとワトソンが指示を出した

「そうと決まればまずはヒルダの体を回収しよう。体を繋ぎ合わせてやれば魔臓がなくとも吸血鬼本来の生命力で時間はかかるが回復できるはずだ。」

 

「スライムみたいな奴だな・・・」

「吸血鬼をバラバラにしたのは君だけじゃないってことさ・・・最も、バラバラに斬り刻んだ後に拷問したのは君が初めてかもしれないけどね・・・」

「そうかよ・・・ちなみにヒルダの顔見てこれで分かっただろ?お前は一応手加減してやったんだ、それとも本当に本気で殴ってほしかったか?」

「・・・下手すれば僕もこうなっていたのかと思うと自分がどれほど愚かな事をしたのか今更ながら恐怖しているところだ・・・手加減してくれて本当に感謝するよ・・・」

「まあ、次は無いけどな?それと明日までに俺のバイク周囲に仕掛けたセンサー全部片せよ?一つでも残っていたら残っていた数だけお前の顔本気で殴ってやる」

「・・・もう一度君を敵にするくらいなら僕は敵前逃亡や命乞いでもした方がマシだ・・・バイクに仕掛けたセンサーは今日中に全て撤去させるよ・・・」

 

そうしてヒルダの体を拾い集めていると・・・

「ん?なんだこれ?」

氷牙の目にバラバラになってもいまだに脈を打つどす黒い臓器が入った

「これ何の臓器だ?・・・まさか・・・」

「ああ!!私の魔臓!!」

ヒルダがその臓器を見たとたん顔色を変えてそう言った

 

「へぇこれが魔臓か?SSRあたりに売り飛ばしたら高値で売れそうだな?キンジ、金欠なんだからせっかくだし今回の慰謝料代わりに貰っと――」

そう言って氷牙は魔臓を拾い上げようとして魔臓と氷牙の右腕が触れた瞬間、

 

――キィィィィィィーーーー――

 

突如魔臓と右腕が共鳴するように輝き始め

 

「―――ッ!?」

 

やがて魔臓は右腕に吸い込まれるように消えていった

 

「な、なんだ!?」

 

今・・・魔臓を取り込んだのか?

 

「うっ!?」

 

突如全身に違和感が生じた

まるで体の奥底から激しい勢いで何かがあふれ出していくような・・・そんな例えようもない感覚が生まれ・・・

 

「グアアアアアア!!!」

そして氷牙の体に電気が駆け巡りやがてそれは右手に収束してゆくと眩い閃光と共に一気に弾けた

 

 

 

そして光が収まり右手を見ると氷牙の右手には一振りの刀が握られていた。

長さは小刀程度、柄には狼のレリーフが彫られていた

だが何よりも目を疑うのは・・・

 

その刀から電気が流れ出ていることだった

 

「な!?こいつは・・・」

「それは・・・まさかクトネシリカか!?」

「クトネ・・・なんだそれ?」

キンジが訪ねるとワトソンは呆れて

「自分の国の歴史くらい勉強したらどうだい!?クトネシリカ、アイヌに伝わる獣神と雷神が宿った守り刀だよ!持ち主であったポイヤウンペが亡くなってからずっと消息不明だと聞いていたがどうしてこんなところに突然・・・」

 

「・・・たぶん俺がヒルダの魔臓を触媒にしてこいつを呼び出したんだ」

「え!?どういうことよ!?」

「風雪ちゃんが言ってたじゃねえか、触媒があれば力を飛躍的に引き出せるってよ。まさか力といっても武器を呼びだすことになるなんて思わなかったけどな」

「・・・確かにヒルダ、吸血鬼の魔臓なんてこれ以上ない対魔武装の一級素材だ。だがそれを触媒にこんな神話級の武器を召喚するとは・・・」

「まあなんだっていいさ。思わぬ戦利品が手に入って、こうして新しい力を得た事には変わりないんだからなっ!!」

 

――ドォォンッ――!

 

突如響いた雷鳴と同時に氷牙が消えた

 

「え!?どこいったの!?」

 

「上だよ」

 

上からそんな声が聞こえ上を見上げれば

 

氷牙は・・・天井に逆さまに立っていた。

そしてどうしてか体や制服の一部が焦げて煙を吹いている・・・

 

「こいつの使い方も手にしたと同時に当たり前に分かるようになった!雷に乗って高速移動できるし鉄骨とか磁力で付く場所なら貼り付けるぞ!やりすぎると空気摩擦で燃えっちまうのが玉に傷だがな」

 

氷牙はまるで新しいおもちゃを買ってもらった子供のような顔をしていたが

 

「・・・・・・お前・・・どこまで人間辞める気だよ・・・」

 

キンジは自分よりも遥かに人間を辞めていく親友に呆れてゆくばかりであった

 

 

 

 

 

 





クトネシリカ:ヒルダの魔臓を触媒にして呼び出されたアイヌに伝わる獣神と雷神が宿った守り刀
攻撃よりも守りに特化して所有者に雷神と獣神の加護を与える




時間がかかりましたがこれでヒルダ戦も終わりです・・・
ちなみにヒルダは最初からバラバラにする流れでしたが
実は腹に爆弾詰めて吹っ飛ばすというプランもありました
けど結局没にして斬り刻む方向で決まりました
どっちにしろエグイですけどね・・・

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。