キンジとワトソンが決着を着ける数分前
「うー・・・ももまんラッシュ・・・むにゃ・・・」
氷牙と理子が第2展望台に着くとエレベーターのすぐそばの長椅子にアリアは横たわって眠っていた
にへら顔でよだれまで垂らして・・・こいつ自分がどんな状況に置かれてるのか分かってんのか・・・
「まだ薬が効いてるのか・・・しょうがねえな・・・」
――カシュッ――
氷牙は先程ワトソンからキンジの武器を取り返すドサクサで奪った注射器、ネビュラをアリアの首に当てると打ち込んだ
「う・・・ん・・・」
すると気付けが効いたのかアリアはゆっくりと目を開け
「ようアリア、気付けが効いたか?」
「・・・え?氷・・・牙?理・・・子?あた・・しなんでこ・・・こに?」
「まだ意識がはっきりしてないか・・・まあじき目が覚めるだろ。立てるか?」
「う・・・ん、なんとか・・・」
アリアは少しふらつきながらも氷牙に手を引かれて立ち上がり
「んじゃお前は先に降りてキンジとワトソンと合流してくれ。俺はヒルダに灸据えてやらなくちゃいけないんでな」
「・・・え?ワト・・・ソン?ヒル・・・ダ?―――――ッ!!」
その名前を口にした瞬間、薬が効いたのかアリアのぼんやりとした頭は一気に目が覚めた
「そうよ!!あたしワトソンと会話してたら急に意識が遠くなって・・・ここどこ!?アタシなんでこんなところにいるの!?というよりワトソンは!?それにヒルダに灸据えってどういう事!?」
アリアは氷牙に掴み掛かって質問攻めにする
「出来れば丁重に一つずつ答えてやりたいところなんだが・・・そうもいかないな・・・」
氷牙は左手にレッドクィーンを持つとそれを振り上げた
「アリア、そこ動くなよ」
「な!?ひょーたん!?」
「え!?ちょっ!?何するの!?」
アリアと理子は状況がまるで呑み込めずその場で固まってしまい
「オラァッ!!!」
そして渾身の力でレッドクィーンが振り下ろされた
「――ッ!!」
アリアは咄嗟に目を閉じ、
――ドガンッ――!!
レッドクィーンはアリアの足元のアリアの影にコンクリートの地面を割って深々と突き刺さり
「え?」
――ブシュッ――
地面からわずかに血のような赤い煙が噴き出した
「いるのは分かってんだよ!!2度も同じ手が通じると思うな!!」
氷牙はレッドクィーンの柄を捻ると
「出てこい!!ヒルダァ!!!」
――ズドォォォン――!!
爆発とともに地面を抉りレッドクィーンの切っ先にはヒルダが胸を貫いた状態で刺さっていた
――ブシュッ――
そして振り上げている最中にヒルダはレッドクィーンから抜け落ちて投げ飛ばされ近くの柱に叩きつけられた
「お前の手品のタネは分かってんだよ!電気で素粒子を操って地面を分解して潜り込む。影移動でもなんでもねえ、穴掘って移動してるだけだ!」
「ヒルダ!?いつの間にあたしの影に!?まあいいわ!あんたには借りがあるのよ!!それにママの裁判の証人にもなってもらうわよ!!後どうしてママが未だに囚われ続けてるのか・・・それも洗いざらい吐いてもらうわ!!」
アリアはガバメントを抜いて構えるが
「アリア!お前は下がってろ!」
――グィッ――
氷牙はアリアの首根っこを持ち上げエレベーターに放り込んだ
「きゃっ!?ちょっと氷牙!!なにすん――」
アリアはすぐさま立ち上がるが
――ガシャン――
時すでに遅くシャッターは完全に閉じられエレベーターはそのまま下へと降り始めていった
「こいつの相手は俺がする。お前は先に降りてキンジとワトソンと合流しろ。二人に護衛してもらえれば俺も後ろを気にせず戦える」
「氷牙!アンタ何考えてんの!!まさかヒルダと二人でやり合う気!?この大バカ!!いくらアンタでも無理よ!!無謀にもほどがあるわよ!!」
エレベーターが降りてゆく中で必死に止めようとするアリアに対し氷牙は
「何言ってんだ?無理って言うの禁じたのは他でもないお前だろ?」
笑顔でアリアを見送っていった
「なっ!?あのバカ野郎!一人でヒルダと戦う気か!?」
「そうよ!すぐに救援に向かうわよ!あんた達も手伝いなさい!!」
「言われるまでも無いだろ!急ぐぞ!!」
そしてキンジがエレベーターに向かおうとすると
「―――!!遠山!アリア!下がれ!!」
ワトソンが咄嗟にキンジとアリアとエレベーターから引き離し
――ガガァァァーーーーーーンッッ――!!!
直後、エレベータ全体に電流が走り二人を庇ってまともに電撃を受けてしまったワトソンはその場に倒れ込んだ
「――っ!?ワトソン!!」
キンジとアリアは慌ててワトソンに駆け寄ると
「ワトソン、大丈夫か!?」
「・・・・・・だ、大丈夫だ。このコートは耐電性だ・・・致命傷にはなってない・・・二人共・・・急ぐぞ・・・」
ワトソンはふらつきながら立ち上がるが
「バカ言うな!そのコートにいくら耐電性があったとしてもあの威力じゃ限界がある!お前立ってるのもやっとだろ!」
「急ぐんだ・・・いくら九狂君でもヒルダ相手に一人なんて無謀だ・・・それに・・・ネビュラが・・・無いんだ・・・もしかしたら九狂君が・・・さっきのドサクサで・・・」
「ネビュラ!?お前が最初に自分に打った薬か!?あいつドサクサに紛れて持って行ったのか!?」
「なら大丈夫よ!それならあたしの目を覚ますのに使ったみたいだからもう―――」
「・・・あのカートリッジには3回分入ってる・・・アリアに使ったとしても・・・後1回ある・・・あの薬は意識が朦朧している時に強力な気付けになるだけじゃない・・・平常時に打てば興奮作用は劣るが集中力と戦意の向上は『Razzo』の比じゃない・・・もしかしたら九狂君はシャーロックの時のように暴走と相打ち覚悟で・・・」
「・・・あいつはもうそんな死にたがりじゃねえよ・・・多分一人、もしくは理子と二人でヒルダを仕留める気だ・・・」
「だとしたらダメだ・・・あの薬は平常時に打った場合、効果が完全に出始めるまで十数分はかかる・・・ヒルダと相対してから打ったのでは間に合わない・・・」
「いや・・・あいつはアリア以上に薬が効きやすいんだ・・・多分もう出始めてる・・・それに・・・俺達が心配してるのはそういう勝敗云々の部分じゃねえんだよ・・・」
「・・・え?」
キンジは氷牙がエレベーター前に置いて行ったキンジの装備を身に着けるとワトソンを背中にしょって
「と、遠山!?」
「ほら急ぐぞ!!俺は仲間を助けるためにここにいるんだ!俺が何が何でも助けてやる!!」
「キンジ!急ぎましょう!エレベーターは完全に壊れちゃったわ!階段で登るわよ!!」
アリアと共に上へと続く階段を駆け上っていった
氷牙と理子がアリアを見送った直後、前を見るとヒルダはすでに胸の傷は完全に消えこちらを睨みつけていた
「んで?ひょーたんどうするの?ヒルダの魔臓の位置はあたしも分かんないよ?言っとくけど目玉模様の場所はもう関係ないよ?何でもヒルダは外科手術で魔臓の位置を変えちゃってるし、場所は手術した医者も口封じに殺したらしいからヒルダ自身も知らないよ?」
「成程、だからアイツ模様を隠そうとしないのか・・・ま、弱点が分からないなら全部ぶっ潰すしかない。そのための手はあるんだろ?」
理子はため息を吐くと
「・・・なーんでバレてるかなー・・・言っとくけど使い時は理子の判断に任せてもらうよ?2度は無いチャンスを誰かに委ねるなんてお断りだからね」
「わかってる。その代わりその2度は無いチャンス・・・しくじるなよ?」
話がまとまると氷牙はレッドクイーンを、理子は両手に銃を構えた
「東洋の猿がよくもやってくれたわね・・・私の体に2度も傷を負わせて・・・その上お気に入りのドレスもこんな穴をあけて・・・」
ヒルダは氷牙に憤怒の目を向けるが
「あ?何だって?コウモリが何か呟いてるけど俺コウモリの言葉は分かんねえな?てかコウモリがモグラの真似なんかして何のつもりだ?泥汚くなっただけだろ?臭いし汚いしで目障りだからさっさと知ってる事全部吐いて殻金だけ残してこの世から消えてくれねえか?」
氷牙は取るに足らないといった感じでいつかヒルダに言われた罵倒をそのまま言い返した
「・・・どうやらよっぽど死にたいようね!いいわ!!その命知らずな蛮勇に免じてお前は本気で殺してあげるわ!!」
ヒルダが手に持っていた三叉槍の先端を空に向けると
直後、ピカッと空が光り
「ッ!理子!飛べ!!」
「え?」
――ガガァァァーーーーーーンッッ――!!!
巨大な雷が三叉槍めがけて落ち、その余波は地面を伝って周囲一面に放電した
「うぁ!?」
氷牙は咄嗟に飛び上がって逃れたが逃げ遅れた理子は感電してその場に倒れた
「理子!クソッ!落雷か!?」
確かに今日は夜から雷雨になるって聞いていてた・・・いくらなんでも偶然って訳じゃないだろうな・・・雷まで操るのか・・・
理子を掴み上げ容態を確認するも
「・・・・・・・・・」
完全に落ちている・・・目が覚めるまで数十分はかかるな・・・
やがて視界が徐々に晴れていくと、目の前では降り始めた雨が落雷の余熱で蒸発して水蒸気が大量に吹き荒れ、その中に心地よさそうに立っているヒルダの姿は
「・・・・・・生まれて三度目だわ。第三態になるのは」
その全身に青白い雷光を纏い、服は耐電性の下着とハイヒール、タイツを残して全て燃え尽き、リボンも消失してほどかれた髪が風になびいて暴れている
その姿はまさに・・・
「お父様は、パトラに呪われて、この第三態になる機会も無いまま、第二態でお前に討たれた。私は体が醜く膨れる第二態は嫌いだから、それを飛ばして第三態にならせてもらったわ」
帯電したヒルダは三叉槍の石突きで床を叩いた。
――ガスンッ――!
ただそれだけで地面に電流が走り、床が割れる
「第一態が人、第二態が鬼なら――この第三態は神。耐電能力と無限回復力を以て為す、竜悴公一族の奇跡。稲妻とは奇跡的にも私が受電しやすい電圧の自然現象なのよ。それはこの現象を作った神が私を神の近親として作った証拠・・・・・・」
歩くたびにバチッ、バチッと帯電したヒールを鳴らすヒルダは恐怖心を煽るつもりか三叉槍を振り回して近くにあった鋼鉄の柱をひん曲げた
「だから、もう人間も人の血が混じった悪魔も取るに足らない虫けらよ!ほら、ほら、ごらんなさい!怖れなさい!神の前に跪きなさい!そして!涙を!流して!命乞いするのよ!」
ヒルダは俺達を見下して甲高く恍惚な笑い声をあげるが・・・
「下らねえ、何が神だよ、俺から見りゃお前はただの化物だよ」
氷牙はちっとも臆することなく理子を壁際に運ぶとゴミ以下の物を見るような目でヒルダを見下した
「・・・東洋のゴミ虫が今なんて言ったのかしら!?」
「聞こえなかったか?お前の親父は怪物だったがお前はそれ以下の化物だって言ったんだよ。大体そのドレスお気に入りじゃなかったのか?なのに自分から焼いちゃ世話ないよな?その頭も雷で焼けてゴミ以下の知能になっちまったか?」
そう言って自分の頭を指でトントンとついてヒルダを挑発した
「・・・いいわ!お前は消し炭になるまで串焼きにしてやるわ!!」
「出来るもんならな!!来いよアバズレコウモリモグラ女!!逆に磔標本にして博物館に展示してやるよ!!」
ヒルダは俺の心臓めがけて三叉槍を突き出してくる。
ブラドのように変態して肉体強化されたのかスピードはキンジの桜花とも張り合える速さだが・・・
(速いだけだな?構えも動きも素人のそれだ・・・何かの罠か?なら・・・)
氷牙は突きを難なく躱すと
「まずは右腕貰うぞ!!」
闇魔刀でヒルダの右腕を斬り落とした
はずだったが・・・
「今、何かしたのかしら?」
ヒルダの右腕はそのままヒルダの体とつながったままだった
「・・・手ごたえはあったんだがな?間違いなくお前の右腕斬ったはずだが?」
ヒルダは再び俺を見下して甲高い笑い声をあげると
「第三態で強化された無限再生能力は魔力での傷だってすぐさま再生するわ!!だからもう貴方の闇魔刀だって効かないのよ!」
「まいったな・・・こんな事ならマジで俺も銀弾用意してくるんだったよ・・・」
そして氷牙は闇魔刀を収めるとヒルダが突き付ける三叉槍を躱しながら後退の一途をたどった
「ほら!もっとしっかり逃げなさい!第三態の前にはお前の闇魔刀も役立たずよ!この電気も自然本来の力で発生したの取り込んだ物で魔力は含んでいない!闇魔刀も魔力で作った電気じゃないと打ち消せないんでしょ?」
ヒルダがそう叫ぶと氷牙は鼻で笑うと
「何自惚れてんだよ?お前武器の使い方が全然なってねえ、力まかせな素人以下の技術だ。そんな攻撃受け止めるまでも無く躱せるぞ?てかお前雷操る超能力者なんだろ?だったら俺に雷の一つでも落してみろよ?もしかして自分にしか落とせないのか?それとも電池切れか?携帯のモバイルバッテリーでよかったら持ってるけど使うか?」
そう言ってヒルダを再び挑発すると
「よほど死にたいのね!!そんなに死に急がなくても殺してあげるわよ!!」
案の定一層に怒りをあらわにして襲い掛かってきた。怒るだけでやってこないってことは当たりだな・・・
本当にプライドの高いナルシストな奴ほどおちょくりやすい者は無いな。自身に絶対な自信を持っているからそれをちょっと小バカにするだけで簡単に引っかかる。そして怒りに任せる奴ほど分かりやすいし読みやすい奴もいない。そんな奴が技術も無く力任せに繰り出してくる攻撃なんてわけもなく躱せる
けど・・・
「ホラホラ!!大人しく殺されなさい!!闇魔刀も役に立たないお前にもう為す術なんて無いのよ!!!」
確かにヒルダの言う通りこちらにも攻め手が無い。魔臓の位置が分からない事にはいくら闇魔刀で斬っても意味がないし全て同時に潰さなければすぐに再生されてしまう・・・闇魔刀に強めに魔力を流し込めばその分再生を遅らせられるだろうが無暗に使えば数分で魔力が切れてしまう・・・
(負けはしないが勝ちにも行けない。このままじゃジリ貧だな・・・まあ、それでも何とかするのが俺達だし・・・どんな事にだって必ず突破口はある!!あのバカの為にもこの不可能何としても覆してやらなきゃな!)
そして氷牙はヒルダの攻撃を躱しながらただひたすらに逆転の時を待ち続けた