緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

94 / 133
連休はあまり休めなかった・・・



89話<自由を求めて・・・>

――バッ、ババッ――

 

ワトソンがP226Rを発砲するが

 

――ギィン、ギィン――

 

キンジは撃ってきた弾丸を銃弾撃ちで弾き、反撃にもう一手で後ろの柱で跳ね返った弾丸をワトソンの背中に命中させ

「あっ!?」

ワトソンは前のめりに倒れた

 

「どうだ?レキみたいに2重3重とはいかないが俺も跳弾射撃は出来るぜ?」

そう言ってキンジは銃を向けるがワトソンは倒れたままピクリとも動かなくなった

 

「・・・ワトソン?」

動かない?・・・あたり所が悪くて死んだか?だとしたら俺も9条破りと武偵3倍刑法で死刑だがいくらなんでもそれは無いだろう。急所も外したし防弾制服越しに当たってるしそもそもこいつは氷牙に分けてもらった非殺傷弾だ。あいつは犯人にこの銃弾を平気で10発以上は撃ち込んでるんだぞ。それを一発背中から喰らったくらいで死ぬわけがない。

「気絶でもしたのか?案外撃たれ弱いんだな・・・」

氷牙なら「まだ終わらねえぞ!さっさと起きろ!!」と脇腹、運が悪ければ下顎蹴り飛ばして叩き起こすだろうが俺にはそんな真似できそうにも無いのでワトソンに近づいて

「おい?」

と言って首根っこを掴んで顔を覗き込むと

 

ぱちっとワトソンがいきなり目を開けると

「フッ」

口から鋭い息を吐き

「うっ!?」

左目に激痛を感じワトソンを押し返し、瞼をまさぐると

「針か・・・口に仕込んでやがったのか・・・」

眼球はやられなかったが、瞼の縁からこめかみにかけてが痺れて目が開かない!毒も仕込んでるな・・・

死んだフリに含み針かよ。さすが『西欧忍者』だな。手口が汚い

 

――ドスッ、ガッ――!!

 

「がはっ!」

そしてワトソンがその隙を逃すはずも無くすかさずキンジの腹と顎を蹴り上げた

キンジもやられながらもベレッタを撃ち返すが銃弾はワトソンの横を通過していった

「どこを狙ってるんだい?もっとちゃんと狙って撃たないと僕には当たらないぞ?」

そう言って立ち上がりながら

 

――チャキチャキチャキンッ――

 

ワトソンの肘や膝、ブーツの踵からナイフが飛び出した

「全身武器・・・なるほど、それがお前の二つ名の由来か・・・」

厄介だな・・・銃を含めて7つの武器に対応しなくちゃいけないからな・・・

ワトソンが飛び掛かってくると

「クッ!!」

キンジはワトソンに対抗するかのように右手にベレッタを左手にデザートイーグルを構えて発砲するがあっさりと柔軟な動きで躱され、反撃にナイフを繰り出されたのでそれを避けようとするも

 

――ビッ――!

 

「ーーーッ!!」

死角になっている左側から巧みに攻撃を繰り出して来るものだからヒステリアの眼力をもってしても完全に見切る事が出来ず何度もキンジの体を斬りつけていった

 

――バッ、ババッ―― 

――ドンッ、ドドンッ――

 

こちらも負けじと撃ち返すがことごとく躱されあっという間に弾切れになり2丁ともスライドが開いた

(クソッ!左目が開かないせいで距離感が分からねえ!!)

最初の騙し打ちによって左目を一時的に潰され距離感がうまく掴めなくなってしまったせいで攻撃が見切りきれないし狙いも付けづらい・・・

(片目が見えなくなるだけでこんなにも不利になるなんてな・・・氷牙の奴は一時期とはいえこんなハンデを負っていたのにココ達とやり合っていたのか・・・)

 

「認めてあげるよ遠山。君はやはり逸材だ。僕とここまで張り合ったんだ。アリアが夢中になるのも分からなくはない。君ならリバティー・メイソンの一流エージェントとも互角以上に戦えるだろう。だが残念だったね。僕はその上を行く超一流なのさ」

 またペラペラしゃべってやがる。今度は俺に打った毒が廻るのを待ってるのか?いや、さっき自分に打ったのも含めて2つの理由でしゃべってるんだろうな。

「君の情報はマイナーで高価だったが資料の通りだよ。東京武偵高の問題児だが戦闘技術・・・とりわけ近接戦にズバ抜けた資質とカリスマ性を持ち。育ち次第ではカナ級のエキスパートになる。と書いてあったのも納得がつくよ。非公式だから知らないかもしれないが、君はアジアのSDAランク・・・日本では超人ランクといったかな?あれにも100位以内に載っている」

「誰だよそんなランキングをつけた奴は?速攻で圏外に戻してくれよ。俺はしょせんEランクだぞ?」

「過大評価もそうだが過小評価はもっと良くないぞ?自らの才能に蓋をしてしまう。そもそも東京武偵校史上最強ともいわれた伝説の1年生コンビ、ゴールド・フェンリルは世界的にも名は知られていたんだ。その一員でもあり1年の時には強襲科Sランク、そして今はバスカービルのリーダーとして君よりもはるかに強い九狂君をはじめとするクセの強い精鋭さえも引き寄せて統率する求心力とリーダーシップも持っている。そんな君を世界が注目しないわけがないだろう」

「・・・じゃあその俺より強い氷牙は何位だ?50位くらいに入ってるのか?」

「・・・彼はランク外だ」

「なんだそれ?だとしたらそのランキングもてきとうだな。あいつは俺より強いんだろ?」

「もちろん分かっているさ、だがこのランキングはあくまで人間が対象でね。一時期は彼もランクインしていたが悪魔の血を引いていることが判明してからランキングに入れるかは現在は保留中だそうだ。ちなみに正式にランクインされれば50位以内は固いね」

 

そう喋ってる間にもお互い薬はどんどん回っていきキンジは不利にワトソンは有利になるばかりだった。

早く決着を!と会話して時間を稼いでいる間もキンジは先程から背中を手でまさぐっているのだが・・・おかしい・・・無い!何も無い!!

 

「ところで・・・さっきからお探しの物はもしかしてこれかい?」

ワトソンが手に持っていたのはキンジのベレッタのマガジンだった

「何時の間に!?さっきの取っ組み合いの時にスッたのか!?」

「今の君には攻撃する事しか頭にない、そういう人間は実に隙だらけで読みやすいよ」

キンジは更に背中を調べるが・・・ベレッタのマガジンだけでなくデザートイーグルのマガジンも無い!マグボーチごと盗られている!!

弾切れになった銃のスライドを閉じてホルスターに戻し代わりにスクラマ・サクスに手を伸ばそうとするも・・・やめた

 

「これは確かシャーロックが使っていた剣だね。流石大英帝国の至宝、並ぶもの無しの業物だ」

ワトソンの奴がスクラマ・サクスをその右手に持ってじっくりと鑑賞していたからだ

 

「ちゃんと手入れもしているようだね。それだけは感心だ。もし少しでも雑に扱おうものなら遠山の一族は末代まで女王陛下の謗りを受ける事になるよ」

スクラマ・サクスまで盗られっちまった!残っているのは兄さんに貰ったバタフライナイフだけ・・・と思ったら

 

「それにこのナイフもなかなかの業物じゃないか。君にはまさに宝の持ち腐れだけどね」

ワトソンの左手にはマガジンと一緒にバタフライナイフも握られていた・・・

よく見たら武器どころかベルトのワイヤーすら無いぞ!盗られ過ぎだろ!!

 

すぐに取り返そうと考えるがワトソンはその前に窓から外へと投げ捨てバタフライナイフとマガジンは遥か下、350m下の地上へと消えていった

 

(マズイ!武器がない!!)

それだけじゃない・・・自分の状況をよく見てみればいつの間にか展望台の崖っぷちにまで追い詰められていた。もう後ろも無い!

 

そしてワトソンはスクラマ・サクスを背中に収めるとキンジに向けてP226Rを向け

 

「チェックメイトだ、遠山」

 

キンジを完全に追い詰めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、キンジとワトソンが死闘を繰り広げている最中、氷牙は理子を完全に手玉に取っていた

 

「がはっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」

理子は吹っ飛ばされては立ち上がり、飛び掛かり、そして返り討ちにされて吹っ飛ばされる。そんなサイクルを何度も繰り返し体中ボロボロで息は完全に上がっていた

 

対する氷牙は先程からかすり傷一つ無く、息も少しも乱れていない様子で

「いい加減諦めろ?言っておくが俺はさっきから右手を使ってない、かすり傷一つ負ってない、それに引き換えお前はボロボロ、傷が残らないように手加減して戦ってもらってこれだぞ?勝てない勝負はしないのがお前の信条じゃなかったのか?」

先程から何度も降伏を促すが

「五月蠅い!お前だけは・・・絶対に殺してやる!!」

理子は依然として氷牙に屈しようとはしなかった

 

「ああ、そうか・・・これ以上は時間の無駄か・・・」

氷牙はレッドクィーンを背中に収めると右手に闇魔刀を具現させた

「これ以上時間を食うわけにはいかないんでな。次はこいつが行くぞ?おとなしく頭下げて降参しろ?」

そう言って闇魔刀を構え最終警告を言い渡すが

 

「・・・お前なんかに・・・頭なんか下げるかぁぁぁぁ!!!」

理子は目から涙を流しながら突っ込んできた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・及第点だ・・・」

 

氷牙はそう呟いて

 

――キィンッ――

 

すれ違いざまに闇魔刀の一閃が理子の耳に着いたコウモリのイヤリングを真っ二つに斬った

 

「え!?」

そしてイヤリングが地面に落ちると理子も糸が切れた人形のように両膝をついてへたりこんだ

 

「おい理子?もう自分の意思で動けるだろ?こいつは人と魔を分かつ刀だ、たとえ邪念や呪いだって断ち斬る。お前の呪いももう消えたはずだぞ?」

 

「ひょー・・・たん?なん・・・で?どうし・・・て?」

「何言ってんだ?助けてほしいって言ったのはお前だろ?お前そのイヤリングで操られていたんだろ?」

「・・・うん・・・意識はあったけど命令には逆らえなかったし口封じもされて助けを求める事も出来なかった・・・外そうとすれば呪殺されるから外せなかった・・・でも・・・どうしてイヤリングで操られてるって分かったの?」

氷牙は自分の左目を眼帯越しに指すと

「悪魔の目になってからか左目に呪いとかそういう類のものが見えるようになったみたいでな凛香に化けていた時からお前の耳、そのイヤリングからどす黒いオーラが出てたんだよ。因みにこれもさっき一発で見抜いたの理由の1つだな」

 

「それに・・・理子助けてなんて一言も言ってないのに・・・」

「目は口ほどに物を言う。お前は最初からずっとそうだった、口ではさんざん言っときながら目はずっと助けてって叫んでたじゃねえか。それに・・・似た者同士ってやつなのかお前の事、嫌って程分かっちまうんだよ・・・奴隷以下に道具以下に使われて絶望の底を這いつくばっても心の底ではずっと自由を求めて続けていた・・・かつての俺もそうだったんだからよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「で?一応聞くがまだやるか?言っておくが仲間だろうと三度目は無いぞ?」

理子は首を横に振った。もう戦う気は無いようだ

「なら俺はもう行くぞ。あのバカどうせヒルダは勿論だが分かってなくてもワトソンとも本気で戦えないだろうからな」

そして理子の横を通り過ぎようとすると

 

 

「ごめんね・・・後は・・・お願い・・・」

 

 

そう呟いてきたので

「・・・・・・・・」

氷牙は闇魔刀の鞘を両手で持ってゴルフクラブのように振りかぶると

 

――バシィィィィィン――!!

 

「にゃぁぁぁぁぁあああ!!??」

ゴルフスイングで理子のケツを闇魔刀の鞘尻でひっぱたいた

「ひ、ひょーたん!?」

「後はお願い?甘ったれんな!俺は正義の味方でも救いのヒーローでも白馬の王子でもキンジでもねぇ!そうやって泣き着いてきたらいつでも後は誰かが全部何とかしてくれるなんて思うな!お前も武偵なら自分の事は自分で救え、自分の道は自分で切り開け!」

そう言って理子を見下して怒鳴りつけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後に息を吐いて

「・・・と言いたいが、お前は俺がボコっちまってもう戦えないだろうしな・・・まあ、もともとあいつはやるつもりだったし、今の穴埋めで俺がヒルダを代わりにぶっ飛ばしてやる」

「・・・え?」

「残念だな理子?俺はこれからお前の長年の仇をもう一人の方も横取りしてやる。これでお前はもう二度と積年の恨みを晴らす事は出来ないな?なにせブラドもヒルダも二人共俺がぶっ飛ばして逮捕するんだからよ」

「っ!?ひょーたん!?まさかすぐにイヤリングを斬らなかったのって最初から理子をこうするつもりで・・・」

「さあな?ま、どっちにしろお前一人で挑んだところで返り討ちどころか首輪つけられた飼い犬のまま再び監禁されるのがオチだっただろ?お前は俺に大きな借りが出来る。もう俺に足を向けて寝られないな?そしてまさかとは思うがいくらお前でもそんな恩を忘れるほど人の道外れちゃいないよな?」

 

最初から全部わかってて弄ばれていたんだと分かると理子は歯を噛みしめ

「氷牙・・・あたしも受けた恩を忘れるほど落ちぶれちゃいない、助けてくれたことには感謝してやるしこの恩も必ず返してやるよ・・・だけどあたしはやっぱりお前が嫌いだ!大ッ嫌いだ!!だからあたしは絶対礼なんて言わないぞ!いつかお前もあたしの糧にしてやるからな!!それまで首を洗って待ってろ!!」

 

「だから前にも言ってんだろ?それは武偵校じゃ親愛の言葉だぞ?・・・理子」

恨みと感謝を混ぜた理子の叫びを聞きながらも氷牙はスカイツリーへと向かっていった

 

 

 

そして背中を向けると微笑んで

 

「いい目だ・・・やっと檻から飛び出したな」

 

そう小さく呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後

 

――ヒュゥゥーッ――

 

「っ!?」

 

――パシッ――!

 

上から氷牙めがけて何かが風切り音を立てながら落ちてきたので咄嗟に右手でキャッチした

「これは・・・ベレッタとデザートイーグルのマガジン?おまけにベレッタの中に入ってる弾丸は俺がキンジにくれてやった弾丸じゃねえか・・・つーか弾丸が入ったままってことは・・・」

そう考えていると

 

――ドスッ――!!

 

「――ッ!?」

今度は右腕に何かが深々と突き刺さった感触がして

 

「がぁぁ!?」

焼ける様な激痛が走り腕を抑えてうずくまった

 

「ちょっ!?ひょーたん!?どうしたの!?理子まだ何もしてないよ!?」

氷牙がいきなり悲鳴を上げてうずくまったことに理子も驚きを隠せずさっきまでの事も横目に氷牙に駆け寄った。

氷牙も激痛に悲鳴を上げながらも右腕に刺さった落ちてきたそれが何なのか見てみると・・・そこにはバタフライナイフが深々と刺さっていた

 

「え!?これって・・・」

「ああ・・・間違いねえよ・・・キンジのナイフだよ!!」

そう言いながら氷牙は右手に刺さったナイフの柄を左手で掴むと歯を食いしばって一気に抜いた

「――ッ!!はぁっ!!俺の右腕を貫くなんてこいつもただのナイフじゃねえな・・・あいつとんでもねえもん持ってやがる・・・それにマガジンだけじゃなくナイフまで落ちて来たってことは・・・」

 

氷牙は上を見上げると・・・

 

「あのバカ、今頃追い詰められてるな・・・マガジンやナイフを落としたってことは・・・そろそろベレッタもデザートイーグルも弾が尽きて残ってる武器は良くてスクラマ・サクス一振り、悪ければ丸腰になってる頃か?」

「なっ!?ちょっとひょーたん!それってヤバいんじゃないの!?」

「ああ、悠長にエレベーター待ってる場合じゃなさそうだな、かといって階段はトラップだらけだし・・・となれば・・・」

氷牙はツリーを見渡し第一展望台までのルートを検索し・・・

 

「まあ・・・行けなくはないだろ?いっちょやりますか!!」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。