緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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今月の残業が100時間いってました・・・
そんな中よく書けたなと思います・・・
俺・・・生き残りましたよ・・・


86話<前哨戦>

ワトソンが転校してきてからというものキンジからアリアを奪い取る根回しは日々着実に進んでいった。

 

平賀ちゃんはワトソンが学園に大金を寄付して行わせた教務科からの備品修復の緊急依頼で金欠で支払いが滞っていたキンジの依頼を二の次にさせて注文していた『オロチ』の左手の制作を止めて武器を封じ。

武藤は先日キンジ抜きで行ったワトソン主催のホームパーティーで美味い物をたらふく食わせ、打ち解けたところでキンジがよく借りているバイクを長期で借りて足を封じた。

 

その上、元々あった社交性で女子をはじめとするクラスメイト達とはすぐに打ち解け、一部の男子からは女子にちやほやされていることで快く思っていない者もいたが・・・

 

先日、追っておこなわれた変装食堂で行う衣装を決めるクジでワトソンが引いたのは

 

『武偵校女子制服』

 

つまりは女装、大外れを引いたのにも関わらずワトソンは

「イヤだなぁ・・・少しイヤだけど・・・仕方ないか・・・」

『それに、疑われたくない事は、逆にすることで疑われなくなるからね』

と後半の部分は誰にも聞かれないようにするためか訛りのある英語で呟くと女子から制服を借りて着替えに行った

 

そして着替えたワトソンを見るなり

周りは「ほう・・・」とか「わぁー!」という歓声が沸き上がったがそれも無理も無かった。

元々ワトソンは中性的な顔立ちと背も低めなのもあってかその外見はボーイッシュな美少女と言った感じで見事に着こなしてしまったのだから

「まあ大外れを引いちゃったけどやるからには完璧にやって見せるよ」

とP226Rを構えてドヤ顔になるが

『何が大外れだよ?お前にとっては大当たりだろ?』

と俺も訛りをつけた英語で返すと

ワトソンはピクリと眉を寄せたがすぐにドヤ顔に戻した

 

それからというもの、この出来事をきっかけにワトソンを快く思っていなかった一部の男子からも『ノリのいい奴』と好印象を得て完全に打ち解けることになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日

 

「キンジ?起きてるか?まあ起きてるか」

朝、キンジが一人で部屋で呆けていると氷牙が尋ねてきた

「氷牙か・・・何の用だ?」

「何の用だじゃねえよ。今そこでアリアが項垂れた様子で俺とすれ違ったんだぞ?しかも俺が呼びかけても全然返事しないしよ。どう見ても何かありましたって感じじゃねえか、何があったんだ?」

 

「別に・・・何でもねぇよ・・・」

「なら鏡で自分の顔見てみろ。あからさまに何かありましたって顔と態度だぞ?隠すならもっとうまく隠せ。言っちゃなんだがお前探偵科向いてないぞ」

「・・・大したことじゃねえんだよ・・・」

「・・・大したことじゃねえなら言えるだろ?」

「・・・・・・・・・・・」

 

キンジは取り付く島もなく口を閉ざすが・・・

「わかった、ならこうすればどうだ?」

そういうと氷牙はキンジの目の前にここに来る前にあらかじめ自室で作ってきたクラブサンドを差し出した。

しかもパンも焼き立てで食欲をそそる香ばしい香りが漂ってきて、ここ最近まともな物を食べていないキンジの胃はそれを求めるかのように

 

――グウゥゥゥゥ――

 

と低い唸りを上げた

「食いたいなら・・・分かるよな?」

「・・・・・・わかったよ・・・」

そう言ってキンジはため息をつくと昨夜からの出来事を語り始めた

「昨日理子が来てな・・・ここ最近様子が変だと思っていたけどその理由がようやくわかったよ。あいつ、ヒルダの事で怯えていたんだ。ヒルダと再会したことで過去のトラウマがフラッシュバックするようになっちまったそうだ」

「まあ、察しはつくよ。かつてブラドに家畜以下の扱いをされて監禁されていたんだ。その娘のヒルダにもどう考えたってまともな扱いはされなかっただろうな」

「それで泣きついてきたのをあやしていたらそのまま寝ちまって・・・それの痕跡に気付いたアリアに問い詰められたもんだから・・・」

「話逸らそうとしてみたら余計に泥沼行き、そのまま互いに逆ギレして喧嘩別れってか?ホントに分かりやすいっつーかワンパターンだよなお前等」

的確に当てられてしまいキンジの空腹な腹でさえ文字通りぐうの音も出なくなってしまった

「その通りだよ・・・話逸らそうとしたら・・・今度はワトソンの事で揉めっちまった・・・」

「またワトソンか・・・ここ最近ワトソン絡みの悩みが絶えないな。この前はなんだっけ?金欠でコッペパン一つだけ食って飢えをしのいでた目の前で霜降りステーキ食われたんだっけ?」

「ああ、ちなみにその前は偶然に見せかけてバレースパイク俺の顔面に当ててきたよ・・・」

「その上、武藤と平賀ちゃんは懐柔されてお前の武器と足は封じられたんだろ?」

「二人だけじゃねえよ・・・もうクラスほぼ全員があいつに懐柔されてるよ・・・おかげで俺はクラスでも孤立状態だよ・・・」

言わずもがなではあるが貴族の社交性を持つワトソンと、昼行燈とまで言われているキンジとではどちらに人望があるかなど語るまでも無かった

 

結果、キンジは孤立してゆく一方だった

 

「まあ元々一人には慣れてたけど、自分から一人になるんじゃなくて周りから独りにされると結構くるものがあるんだなって実感したよ・・・ほんと手の届かないところからネチネチと攻めてきやがる」

「で?それを実感したからどうすんだ?それ一般高校なら立派ないじめだし証拠集めて教務科や教育委員会に「転校生のワトソンにいじめられてます」って訴えるか?」

「ここは武偵校だ・・・そんな一般常識は通用しない事なんてお互い分かってるだろ?訴えたところでどうせ教務科には「やられたらやり返せ!」って蹴り返されるだけだし・・・教育委員会へ持っていったら次の日には教務科に握り潰された後に「学校のイメージ損ねるような面倒事起こすな!!」って袋叩きにされて学校中から「虐められて泣きついた情けない奴」と笑いものにされる・・・そうなったら独りにされるよりタチが悪いぞ・・・」

「そうだな、なら答えは簡単じゃねえか。武偵らしく戦えばいい。お前も腐っても探偵科だろ?だったら探偵科らしく証拠集めて直接法廷で戦えばいいだろ?」

「あいにくだが今の俺には裁判費用どころか調査費用も今日の飯代も無いんだ・・・勝負すらできないな・・・」

「何してんだお前は・・・武偵にとって金は生命線、装備や調査にかかる金繰りの管理なんて1年でもやってる基本だぞ?」

「仕方ないだろ・・・ここ最近は場当たり的に報酬が出ない仕事ばかり受けた上に戦闘続きだったんだからよ・・・」

「金がないのは自業自得じゃねえか、修学旅行Ⅰの時だって政府の使いの人間が口止めに来た時も見栄張って貰えるもん辞退したからだろ、俺の場合は東京駅の大暴れで相殺だったけどレキなんて提示された額を見て「これだけでは比叡山で使った武偵弾一発分にもなりませんね?自分だけでなく仲間や夫が殺されかけた上に、何もしないで無駄な議論してた貴方達に代わって事態収めて犯人逮捕したのにこれだけで黙っていろと?そう言えばイ・ウー壊滅の際も貴方達は何もしてないくせに最後の所で手柄を横取っていきましたよね?それに関しては別に口止めはされていませんしねえ?」って言ったら苦虫嚙み潰した顔で最初に提示した額の数十倍払ってくれたらしいぞ?」

「俺はお前等みたいに政府相手に脅迫やケンカができるほど命知らずじゃねえんだよ・・・」

「ま、金がないなら強襲科流に真正面から勝負挑んでボコるしか無いな。それなら金は要らないし断られれば戦う勇気のない臆病者と笑って言えるだろ?」

「そうしたいところなんだが・・・なんだかあいつは危険な気がするんだ。うまく言えないが本能的にあいつは危険だと感じるんだがそれが何なのかわからん・・・だからか仕掛ける気にはなれないんだ・・・」

「お前・・・なんでそういうのは本能的に分かるくせに気付かないんだよ・・・」

ホントこいつのこういう所は筋金入りだな・・・

 

「ん?何がだ?」

「・・・何でもねえ。どうせいずれ分かるだろ・・・それよりもだ。こっちから仕掛ける気がないならお前これからどうすんだ?ここまでされたんだ。完全にやられたよな?」

「ああ、完全にやられた。初戦は惨敗だ」

「初戦は、な・・・けどまだ終わる気じゃないだろ?」

「当たり前だろ?9回裏ツーアウトで逆転サヨナラってのがいつもの俺達じゃねえか」

そうだ、まだ一回戦が終わっただけだ

確かにキンジはワトソンに比べ金も無く、社交性も無い

そしてワトソンによって友人も奪われた、武器も奪われた、足も奪われた、居場所も奪われた

外堀は完全に埋め尽くされた

 

だが負けたわけじゃない。まだ『外堀が埋まった』それだけだ

ここまで来れば奴の手は読める。だってもう奪えるものはあらかた奪われつくしたんだ。

外堀を埋めたなら後は丸裸になった本丸を攻める以外、アリアを奪い取る以外にない

「けど陣営に座してるだけじゃ本丸は落せない。奴は動くぞ・・・」

「ああ、その時が逆転の時だ。サヨナラ決めろよ?」

「わかってるさ。けど・・・」

「けど?どうした?」

 

――グウゥゥゥゥ――

 

再びキンジの腹が鳴る

「・・・腹が減ってちゃ戦はできん・・・とりあえずこれ食っていいか?それとお前の9ミリ弾分けてくれないか・・・弾も残り少ないんだ・・・」

「・・・部屋から取ってくるからさっさと食え・・・朝食はさっきの情報料でチャラにしてやるが弾丸は金が入ったらきっちり請求するからな」

氷牙は呆れながらも部屋を出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして部屋を出ると

 

「お疲れ様です」

レキと

「はい弾薬」

弾薬ケースを持った凛香が待っていた

 

「あ、すまん。てか二人共どうした?狙撃の特訓で忙しいんじゃないのか?」

「そうなんだけど・・・ちょっと氷牙に伝えておきたいことがあってね」

「俺に?」

「うん・・・どうも理子ちゃんの様子がおかしいの・・・」

「理子が?」

「はい、どうも何かに警戒しているみたいですがそれだけではない気がするんです。私や凛香さんがそれとなく尋ねても何でもないとのらりくらりと躱すばかりで・・・どうにも妙なんです」

「・・・ヒルダに怯えてるからだって言っちまえばそれまでだが確かに妙だな。ヒルダに怯えてるだけだっていうならそれを隠す意味なんかないな・・・」

できれば思い過ごしで終わってくれればいいんだが・・・きっとそうもいかないだろうな・・・

今まで悪い予感は・・・一度だって外れたことがないんだから・・・

 

「いかがします?念のため私達が監視しましょうか?」

「ほっとけ、特にレキはランク考察試験近いしSランクへの返り咲き狙ってるんだろ?なら今はそっちに専念しろ。それに・・・」

 

「「それに?」」

 

「理子の世話はキンジの仕事だ。ワトソンの事もアリアの事も理子の事も本来ならキンジが始末をつけるべきことなんだ。なら俺達が手を出す事じゃないしこれ以上は手助けする義理も無い。ここからはワトソンがどうやってアリアを懐柔するか高みの見物とさせてもらおう。まあ、手荒なことをしたりこっちにまでとばっちりが来たら俺が全員ただじゃ済まさんがな」

そう言って氷牙はキンジの部屋に戻っていった

 

そして扉が閉まるとレキと凛香は微笑んで

「氷牙、素直じゃないね。事が起きた時に備えて水面下で色々準備してるの私達が気付かない訳無いのにね」

「はい、私には氷牙さんが「監視は俺がする。ヤバくなったら俺が何とかするから大丈夫だ」と言ってるようにしか聞こえませんでした」

「何時もそうでしょ?普段は薄情に振舞うけど本当にピンチの時は真っ先に助けに駆け付ける。そういう人なんだよ。氷牙は」

「ですがそのためならばどんな窮地にも迷わず飛び込んで自分の危険は顧みない人でもあります。ですから・・・」

「そうだね。私達がしっかり支えてあげなきゃね?当面は私がサポートするからレキさんは氷牙の言う通りランク考察に専念して?」

「お願いします。私も終わり次第すぐに復帰します」

「うん、本当に・・・氷牙と一緒にいるとお互い苦労が絶えないね」

「・・・後悔していますか?氷牙さんの側妻になったことを」

「ううん?私は好きで氷牙の傍にいる事を選んだんだよ?レキさんだってそうでしょ?」

「はい、私は氷牙さんの妻になった事も含めて出会った事も、傷つけて貰った事も、契約した事も、人間を辞めた事も何一つとして後悔はしていません」

「そうだね。自分が心から決めたことに後悔なんてあるわけないよ。氷牙が出来の悪い親友を持った事と同じように・・・」

「そうですね、「どうして氷牙さんの傍にいるのか?」なんて、氷牙さんに「どうしてキンジさんと親友でいるのか?」と聞くぐらいに愚問でしたね」

「きっと氷牙も私たちと同じ事を言うだろうね」

「ええ、私たちと同じように――」

 

「「自分がそうしたいんだ」」

 

そう同時に答えるとレキと凛香は顔を合わせて笑い合った

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに同時刻

 

「「ぶぁっくしょん!!!」」

 

キンジと氷牙は同時に盛大なくしゃみをした

「――?氷牙?風邪か?」

「そういうお前も風邪か?いや、それはねえな。たとえバイオテロが起きたとしてもお前が風邪ひく訳がねえ。どうせアリア辺りがお前の愚痴でも言ってんだろ」

「そりゃどういう意味だよ・・・」

 


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