緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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84話<影からの攻撃>

「被告人・神崎かなえを懲役536年の刑に処す」

 

東京高等裁判所で下されたかなえさんの判決はとても信じられないの一言だった・・・

 

かなえさんの濡れ衣を晴らすために俺達はこの半年間死に物狂いで動いた。

そして理子やジャンヌやブラドを逮捕してイ・ウーも壊滅させた。

証拠は揃えた、真犯人も捕まえた、組織も壊滅させた、これだけの武器があれば勝てる。無罪を勝ち取れる。そう思っていた・・・

なのに出来たのはあいつら3人分の刑期を減らすことだけ・・・

執行猶予も無し、事実上の終身刑・・・

俺達の・・・完全敗訴だ・・・

 

「こんなの不当判決よ!!」

アリアが金切り声を上げて椅子から立ち上がった

「落ち着けアリア!心証を悪くするだけだぞ!」

「やり直しなさい!やり直せ!!あんたらが全員結託してママを陥れようとしてるんだわ!!こんなの茶番よ!!」

キンジは押さえつけようとするがアリアは興奮治まらず暴れようとするので

「ったく・・・悪いな!」

 

――ドッ――

 

「あっ!?」

氷牙は押さえつける振りをしてアリアの首に手刀を入れて気絶させ

「――ッ!氷牙・・・」

「・・・っと興奮しすぎて失神したようです。俺が運びますので気にせず続けてください」

と言ってアリアを連れ退出しようとしたが

 

「九狂さん・・・すみません・・・」

出ていく際にかなえさんがこちらに向けて礼を言って小さく頭を下げた

「・・・別に構いません・・・俺自身も納得はしてませんし・・・何となくこの茶番の真相も読めてきましたからね・・・」

 

『―――ッ!?』

 

そして判決を下した裁判官や警備員さえたじろぐ法廷全体を埋め尽くすような殺気を放つと

「だから覚えておいてください・・・こんなふざけた真似したからには関わった奴全員に必ず報いを受けさせます・・・」

そう言って氷牙はドアを開けて退出していった

そして閉まる直前に

 

「当然あなたにもね・・・」

と小さく言い残した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして外で待っていたレキと凛香と合流して帰りの道中で

 

「何であんな事したのよ!!!」

 

アリアは意識を取り戻すなりすぐに氷牙につかみかかったが

「ああでもしなけりゃお前はあそこにいる奴ら全員殴り飛ばしていただろ?」

「当たり前じゃない!あいつらは証拠も不十分!主張も目茶苦茶!!あんなの茶番よ!あいつら全員結託してるのよ!!」

「はぁ!?何当たり前のこと言ってんだ?いくら何でもこんなの筋が通らなすぎる。全員グルに決まってんだろ?」

「――ッ!そこまでわかってて・・・じゃあ何で止めたのよ!!」

「お前がやるべきことを間違えてるからだよ」

「やるべきこと!?そういうことね!!残ったイ・ウーの奴らを捕まえに行くのね!!一人残らず捕まえて証言させて全部の濡れ衣を証明してやろうって事ね!!」

 

アリアは嬉々としてそんな夢物語を叫ぶが氷牙は首を横に振ると

「今まではイ・ウーの連中捕まえて引っ張って証言させればいいと思っていたがこの一件そんな簡単なものじゃない。これだけ証拠を揃えても判決は覆らない、つまりこの裁判は初めから結果は決まっていた。その過程は初めからどうでもよかったんだ・・・おそらくこれ以上いくらイ・ウーの奴らを引っ張ってきてもそいつの分だけの刑期を下げるのが関の山、そして全員捕まえるとなればそれこそ捕まえる前にかなえさんの判決が確定しちまうぞ」

 

「じゃあどうすればいいのよ!!イ・ウーの奴らを全員捕まえても無駄だっていうならどうすればママを助けられるのよ!!」

「かなえさんを助けるためにはまず頭を冷やせ」

「・・・は?」

「どんな事にも必ず手掛かりも突破口もある。だが今のお前じゃ手掛かりどころか目の前も見えてない。だからまず冷静になれ、感情的に動く時と冷徹に物事を判断する時は使い分けろ。そうやって初めてまず手掛かりが見える」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

氷牙に諭されるとアリアはやがて掴んでいた手を離した

「なら逆に聞くけど氷牙、あんたは何か手掛かりが見えてるの?」

「なんだ?気付かなかったのか?今回の裁判思い出してみろ、後ろを見ればマスコミは一人もいない、傍聴席に座る予定だったレキと凛香は非公開裁判と言われて門前払いにされたそうだ・・・あれじゃあこの裁判は表沙汰にはできないって言ってるようなもんだ」

「―――ッ!!そうか!表沙汰に出来ないってことは・・・」

「ああ、必ずそうできない理由が、裏がある。それにこの出来事が仕組まれた茶番なら必ずこの茶番を操っている奴がいる。だからこの出来事の裏側を突き止めてそいつを引っ張り出すんだ!そうすればあの裁判官含めて奴らを炙り出して一掃できる!そうすればもうどうあろうとかなえさんを有罪にはできない!」

「でもどうすればいいの・・・裏があってそれを操ってるやつがいるとしてもそいつがどこの誰かも分からないのよ・・・」

「・・・それに上告はしたが次の最高裁、それですべてが決まる。時間は持って2年しかないぞ・・・」

「だから落ち着いて見渡せって言ってるだろ?こんな事するには当たり前だが莫大な金も人脈も要る。そんな投資をするからにはどうしても達成しなければならない目的がある」

「目的って・・・イ・ウーの連中がママに罪を擦り付ける事じゃないの!?」

「それなんだが・・・何でかなえさんなんだ?」

「え?」

「イ・ウーの連中の目的が結託して誰かに罪を擦り付けるとしても何でその対象がかなえさんだったんだ?」

「それは・・・偶然じゃないの?選ばれたのが偶然ママだってだけで・・・あいつらにとっては身代わりなんて誰でもよかったんじゃないの?」

 

「身代わりが誰でもよかったならこんなイ・ウーの構成員を何人もぶちのめして捕まえて挙句にアジトまで沈めた連中の関係者にいつまでもこだわるか?さっさと新しい身代わり用意して俺達とは縁切るのが普通だろ?」

そう言うと今度は理子の方を向き

「どうなんだ?元イ・ウー構成員にして元武偵殺しとしての意見は?」

と嫌味を混ぜて聞いた

 

「・・・お前の言う通り、神崎かなえにお前みたいな奴が関わっているってわかればあたしならさっさと別の身代わり用意して縁を切るな。お前なんかに敵対して関わっていたら命がいくつあっても足りないし割に合わない事この上ない」

「なら、そこまで分かっていて何で連中は未だにかなえさんに罪を擦り続ける?」

「あいにくだがあたしは何も知らない。あたし達の罪を擦り付けた相手がどうして神崎かなえだったのかはあたしも聞かされなかった・・・」

「念のため言っておくが何か隠してるならやめとけ?手足の1、2本じゃ済まないぞ?」

「本当だ!イ・ウーも壊滅して今更あいつらの為に隠す事なんて何も無いだろう!」

「ま、そうだろうな・・・お前が知ってるなら苦労しないか・・・」

「おい、お前はあたしをバカにしてるのか!?」

理子は氷牙を睨むが氷牙は気にも留めずに推測を立て続けた

 

(かなえさん、終身刑を言い渡されたのにあんなに落ち着いた反応だった・・・あそこまで不十分な証拠であんな判決下されたのに・・・まるでああなることが分かっていた、あるいはああなるように望んでいたとしか思えない・・・もし罪を擦り付けたのがついででしかないとすれば・・・そいつらの本当の目的はかなえさんを捕まえておくことか?ならイ・ウーだけじゃなく間違いなく他にもこの事件に関わっている奴がいる。かなえさんが無罪になったら困るって・・・野放しに出来ないって考えている人間の数だけな・・・それだけの人間にそんなに思われて、かなえさんもそれを自覚しているなんて一体かなえさんは・・・)

 

 

そこで一つ、ふと思った・・・

 

 

(そうだ・・・よく考えれば俺達はかなえさんついて何も知らない。アリアの母親だっていうけど実際かなえさんはシャーロックとの血縁関係はない・・・言っちまえば赤の他人だ・・・ならかなえさんは一体――ギィィィィィッッッ――

 

考えている最中、突如目の前で車が急ブレーキをかけて止まり

 

ボゴンッ、ドゴンッと後続車が次々と玉突き事故を起こした

 

「――ッ!!交通事故だ!!」

俺達は唖然としている先頭車両の運転手に駆け寄ると

「武偵です!!大丈夫ですか!?どうしたんですか!?」

「は、はい・・・それが・・・信号が消えているんです・・・」

 

「え!?」

そう言われて信号を見れば・・・横断歩道のランプも全てが消えていた

「これは・・・停電か?」

「それよりもこの車エンジンオイル漏れてるぞ!運転手降ろして避難させろ!凛香とレキは怪我人の手当てだ!!」

キンジの指揮で皆は行動に走るが

 

「――――――」

どうしてか理子は上を向いたまま震えて立ちすくんでいた

「おい!?どうした理子!?」

「あ・・・あ・・・・」

氷牙の呼びかけにも理子は口をワナワナと震わせていた

 

「一体何が――ッ!?」

氷牙はその視線の先を見ると

 

 

「久しぶりね、理子。元気そうじゃない」

いつの間にか信号機の上に日傘を持ってゴスロリ服を着て優雅に腰掛けていた少女がいた。忘れるわけがない、あいつは・・・

 

「ヒ・・・ルダ・・・」

そしてヒルダは背中の漆黒の翼を広げるとふわりと車道に降りてきて

「そんな顔しないで、私はお父様と違って貴女を虐めたり閉じ込めたりなんてしない。大切に扱ってあげるわ」

そう言いながらカツ、カツ、とヒールを鳴らして理子に歩み寄ろうとするが

 

「・・・・・・・・・」

その間に氷牙が割って入った

「あ・・・氷・・・牙?」

「わざわざそっちから会いに来てくれるなんてな・・・探す手間が省けたよ・・・それに実のこと言うとな・・・俺だってアリア以上にキレそうだったんだよ・・・それこそあそこにいた奴ら全員拉致して拷問して知ってる事全部吐かせた後なぶり殺しにしてやりたいくらいにな・・・」

そして口を歪ませるとヒルダに先ほど法廷で放ったものとは比べ物にならないほどの殺気を放つと

「テメェ殻金持ってるか?素直に出してほかの眷属の連中について知ってる事全部吐くなら命ばかりは許してやるぞ?」

「あら?東洋の猿が何か鳴いてるみたいだけどごめんなさい?私、狼の言葉ならわかるんだけど猿の言葉は分からないわ?目障りで臭いから消えてくれない?」

ヒルダは氷牙を目もくれずにあしらうと

『じゃあ、ルーマニア語で言えばいいか?お前をぶっ殺すって言ったんだよ!このアバズレコウモリ女!!』

と氷牙はとても流暢なルーマニア語を喋るとヒルダもピクリと眉を寄せた

「へえ?猿が人語を言うなんて芸達者じゃない?でも言葉がなってないわよ!躾が必要ね!!」

そう言ってヒルダが足元の影を踵でたんっと踏むと

 

――バチィイッィッ――!

 

辺りに強烈な電撃が走った

 

「ぐぁっ!?」

「きゃあっ!?」

キンジとアリアはまともにくらいその場に倒れたが

「甘いんだよ!」

氷牙は闇魔刀を出現させ鞘尻で地面を突くと雷を打ち消した

「―――っ!?私の電撃が!?まさかその刀・・・闇魔刀ね!?」

これにはヒルダも驚いて闇魔刀を凝視した

「ああ、魔力で形成してるものなら生半可な火力じゃこいつに消されるだけだぞ?」

 

氷牙は闇魔刀を構え

「さて?お前に並の武器は効かないだろうが・・・こいつで斬られたらどうなるのかな?」

そう言って闇魔刀に魔力を込め刀が蒼く輝いてゆく

 

それを見てヒルダは顔をしかめ

「イヤだわ、とってもイヤなニオイ・・・それもあちこちからするわ。早く終わらせましょう」

影へと沈み消えていった

 

「ああ!?テメエ逃げんのか!?」

「ヒルダ・・・どこに・・・」

「ここよ」

そう言って理子の背後に現れて首に抱き着いた

「―――ッ!!理子!!」

「ほら、怖がらなくていいわよ」

「あ・・・あ・・・」

恐怖で立ちすくむ理子の耳元に口を近づけると

「これは友情の証よ。あげるわ」

と耳元で囁いて理子の片耳に蝙蝠のイヤリングを付け

 

その直後に

 

――ザシュッ――

 

「あっ!?」

ヒルダの左腕に闇魔刀が突き刺さり

 

――ガキンッ――

 

ヒルダの頭にパイソンを突き付けると

「ならこいつは絶交の証だ」

 

――ドォンッ――

 

パイソンを発砲しヒルダの頭を上半分吹っ飛ばすと闇魔刀を引き抜き理子を奪還すると距離をとった

 

そして・・・

 

「感動の再会に無粋ねえ」

と頭が半分無くなっているにもかかわらず何事もなかったかのようにヒルダの頭はすぐさま再生していった

 

「チッ・・・やっぱり魔臓潰さないとダメか・・・それに・・・」

闇魔刀で刺した左腕はまだ血が止まっていないが痛覚は無いのかヒルダは血を流しながらも平然と振舞っていた

「普通の武器よりかは格段に効果はあるけどすぐには消えない傷をつけるのがいいところか・・・こんな事なら銀弾でも持ってくればよかったよ・・・」

だが無い物ねだりしてもそんな物は・・・

 

 

「あるよ」

 

 

どこから声が聞こえ

 

――パァン――

 

銃弾がヒルダの右腕に当たり

「ああっ!?」

ヒルダが顔をしかめて日傘を落として腕をだらりと下げた。そして撃たれた傷も血が流れ続け傷が再生しない。それどころか今尚苦しそうに撃たれた腕を押さえつけた

「―――ッ!?まさか銀弾!?誰だ!?」

銃弾が飛んできた方を振り返れば銃を構えた優男がいた。

「お前確か・・・」

「話は後だ!どうだヒルダ?プロテスタント教会で儀式済みの法化被覆純銀弾だ。吸血鬼の君には効果的だろう?」

そして優男の援護に続くように

 

 

――バァン、ダァン――

 

今度はレキと凛香が放った銃弾がヒルダの両膝に当たった

 

「あっ!?」

その銃撃でヒルダは立つことができなくなり膝をついた

足の傷は血こそすぐに止まったがその傷の再生は止まって見える程に遅い

 

傷がすぐに再生しない!?そうか!レキと凛香は―――

 

「私は神姫だからね。略式の法化被覆弾くらいならこの場で生成できるよ」

そう言って凛香はUPSを構え

「魔力を具現化して作った魔弾、どうやら銀弾には劣りますがこちらも効果があるようですね?」

レキも瑠璃色の目でヒルダをスコープ越しに見据えた

 

そして片腕が使えず立てなくなったヒルダに

「形勢逆転だな、覚悟はいいか!?」

氷牙は闇魔刀を構え

「終わりだヒルダ。ここで僕に斃されて貰うぞ!」

優男が銃を構えた

 

「おい待て!こいつを殺すのは構わないがその前に聞き出せることは全部聞いてからだ!!こいつには聞かなきゃならない事が山ほどあるんだよ!!」

「そうか、ではまずは殺さない程度に痛めつける事にしよう」

「ああ、とりあえず手足はこの場で切り落とすぞ。つーか首切り落としても死なないだろ。首だけ残して後はひき肉にして燃やそう」

そう言って氷牙は居合いの構えをとるとヒルダは鼻であざ笑い

「ホントに無粋で無礼な連中ね、こんな昼遅くに気高い竜悴公姫が本気で相手すると思ってるの?今日の所はこれで失礼するわ。けど、手足と頭の礼はいずれ返させてもらうわよ」

そう言ってヒルダの体が影の中に沈んでゆくが

「逃がすと思ってんのか!!!」

氷牙は駆け出し闇魔刀を振り払うが

 

「さよなら」

一歩遅くヒルダは消え闇魔刀は地面を切り裂くだけで終わり

 

「クソが!!ヒルダァ!!逃げ切れると思ってんじゃねえぞ!!地の果てまで追いかけて自分のしたこと後悔させてやるからな!!」

氷牙の無念の叫びが交差点に響き渡った

 

 


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