『ごめんね・・・私せいで・・・こんなことに・・・』
『いいさ・・・俺自身、自分の人生にはうんざりしていたところだ・・・それに・・・武偵の世界にいけるんだ、むしろ喜ばしくさえ思ってるさ。あのヘタレ主人公いっぺんぶっ飛ばしてやりたかったからな』
『でも・・・本当にこんな生い立ちでいいの?』
『構わないさ・・・これくらいの方があいつ等を理解するには必要だと思うしな・・・』
『それじゃあ転生させるよ・・・君に付与する力を教えて?』
『それじゃあ・・・人間離れした身体能力・・・特に脚力を・・・あと戦意とか向上させたりする・・・自己強化の力と・・・それに神をもぶっ殺すってゆう力を・・・あとは―――』
『わかったよ、最初はほとんど記憶と一緒に封印されてるけど必要な時が来ればやがて目覚めてゆくから・・・』
『ああ、それまでは自力でやるさ』
『じゃあ・・・頼んだよ・・・彼らを・・・助けてあげて・・・頃合を見て私も君達を助けに行くから・・・』
『任せろ・・・ところで一つ聞いていいか?』
『何?』
『≪クリエイター≫ってのは役職だろ?お前の名前は?』
『私?・・・私の名前は・・・そう言えば無いな・・・』
『え?お前、名前無いのかよ?』
『うん・・・特に必要なかったから・・・』
『じゃあ俺が付けていいか?』
『え?君が?』
『そうだよ?だって向こうの世界で会った時、名前が無かったらなんて呼べばいいのか困るだろ?』
『そうだけど・・・名前なんて簡単に浮かぶの?』
『・・・うーん・・・そうだな・・・見た目から付けるとすると・・・』
綺麗な桜色の髪、優し気な聖母のように母性的な顔、
芯はしっかりしてるのにどこか抜けてそうでほっとけない雰囲気・・・この見た目から名付けるとすると・・・
『・・・なんかまじまじと見られるとちょっと恥ずかしいな・・・』
『仕方ないだろ・・・見た目と雰囲気しか名づける材料が無いんだから・・・・・・あ!』
『どうしたの?』
『一つ思いついた』
『本当に!?何て名前!?』
『ああ、お前の名前は―――――」
そこで誰かの名前を言おうとする直前に目が覚めた
そして氷牙が目が覚めるとその目には見知らぬ天井が映った・・・
「・・・・・・目を覚ますと見知らぬ天井ってのも何度も来ると慣れるもんだが・・・」
今度の天井は一面に護符や呪詛が書き綴られた何とも気味が悪い天井だった・・・
そして周りを見渡せば壁や襖にも護符や呪詛、床には大きな方陣が書き詰められ、氷牙はその中心に敷いた布団に寝かされており、まるで結界の中にでも閉じ込められた悪霊みたいな気分だった
「何だこの部屋は・・・悪趣味にも程があるぞ・・・こんな部屋で寝ていたからか・・・あの時の記憶が出てきたのか?」
まあそのおかげか思い出したよ・・・あの時路地裏で俺に声を掛けた少女・・・あの子は俺の事を・・・俺もあの子の事を知っている・・・
だけどまた肝心なところで途切れた・・・あの子の名前・・・俺が付けたはずなのに・・・思い出せない・・・だけどこれだけは覚えてる・・・あの子に名前を付けた時・・・あの子はすごく嬉しそうな顔をしていた・・・初めて自分の物が出来たって・・・喜んでいたんだ・・・
だから・・・思い出してやらないとな・・・あの子にまた会った時に・・・今度は名前で呼んでやるために・・・そして今度こそ知ってることを教えてもらうために・・・
けど今は・・・それを脇に置いておこう・・・もっと懸念すべき問題がある・・・それは・・・
「ここ・・・どこだよ・・・」
今更ながら言うが俺はこんな場所知らない・・・こんな悪趣味な場所知っていてたまるか・・・
・・・それに・・・頭がまだ寝ぼけてんのかここで寝てた前の記憶が浮かんでこない・・・何か大事なこと忘れてるような気がする・・・
「・・・というか俺は何でこんな所で寝ていたんだ?」
左手で床に手をついて体を起こしながら頭を抱えつつ辺りを見回してこれまでの事を思い返そうとする
・・・そこで違和感を感じた
俺は・・・今何をしている?
左手で床をついて体を起こしながら・・・頭を抱えた!?
「―――ッ!?」
ありえない!!出来るわけがない!!
俺には左手しかないんだ!!頭を抱えられるわけがない!!
じゃあ今俺の頭を抱えている物は何だ!?
俺は慌てて左手で自分の頭を抱えている物を掴み引きはがした
それを見た瞬間俺の顔は恐怖で引きつった
「―――ッ!!」
俺の左手には全体が水色に輝き、手の甲から肘にかけては赤黒い装甲のようなもので覆われていた腕が握られていた・・・
そして明らかに人間の物ではないその腕は・・・紛れもなく俺の右腕に繋がっていた・・・
「なんだよ・・・これ・・・これは・・・俺の腕なのか!?」
疑問に思うが本能が告げている・・・これは・・・紛れもなく俺の右腕だ・・・
その証拠に感覚もある、自分の思い通りに動かせる・・・そしてその腕を凝視しているうちにあることにも気が付いた・・・
「まさか・・・」
試しに一度右目を覆ってみたが
「―――ッ!!左目が・・・見える!?」
眼球が潰れてしまいもう2度と見える事は無い筈の左目が・・・見えたのだ・・・
どういうことだよ・・・何でこんな腕が付いてるんだ!?何で左目も見えるんだ!?俺に何があったんだ!?
あまりの出来事に困惑していると
――スゥ――
突然襖が開くと巫女装束を着た少女が入ってきた
「え?」
「―――ッ!!」
(誰だ!?敵か!?武器は・・・クソッ!取られている!!)
そして少女と目が合うと考えるよりも先に体が動き少女への飛び掛かった
(――!?体が軽い!?)
体が右腕を失くす以前の全盛期の頃、それ以上に思うままに軽く動き、そして少女へと間合いを一気に詰めた
「なっ!?」
少女は咄嗟に懐から小刀を出したが、氷牙は左手で少女の右手を掴み右手で少女の首を掴んで押さえ付けた
「がはっ!?」
そしてひるんだところで小刀を奪い少女の顔に突き付け問い詰めた
「おい!!ここは何処だ!?俺は何でこんな所にいる!?」
少女は両手で俺の右腕になっている物を掴み必死に声を絞った
「く・・・九狂様・・・お・・・落ち着いてください・・・こ・・・こに・・・貴方の・・・敵は・・・いません・・・」
「なんで俺の名前を知っている!?お前は誰だ!?俺をこんな体にしたのはお前か!?この腕は何だ!?お前、俺に何をした!?」
「ち・・・がいます・・・わ・・・たしは・・・」
「「「風雪!!」」」
「――ッ!!」
廊下の向こうから声が聞こえ振り返れば・・・キンジ、アリア、白雪が血相を変えて駆けつけていた
「氷牙!!落ち着け!!その子は敵じゃない!!離すんだ!!」
「まさかアンタ・・・また記憶が無いとかいうんじゃないでしょうね!?アタシが誰だかわかる!?言ってみなさい!?」
「氷牙君!風雪を離して!!大丈夫だから!!何も心配しなくて大丈夫だから・・・」
キンジ達は氷牙を落ち着かせるために説得しようとしていたが
「―――――――」
氷牙のキンジ達を見るその目は・・・怯えていて話が出来る状態ではなかった・・・
氷牙は風雪を人質にしたままキンジ達から後ずさってゆくが
「氷牙さん!」
「―――ッ!!」
その名前を呼ぶ声に氷牙の体は止まった
そしてキンジ達が左右に分かれて廊下の真ん中を開けると・・・
その奥には・・・レキがいた
「レキ!?起きて大丈夫なのか!?」
キンジが問いただすがレキは氷牙の前へと歩み寄ってきた
「氷牙さん・・・私が誰か分かりますか?私の名前を言ってみてください・・・」
そう聞かれ氷牙も怯えながらも口を動かして彼女の名前を紡いだ
「レ・・・キ・・・」
「はい・・・氷牙さん・・・大丈夫です・・・その子は敵じゃありません、離してあげてください・・・」
「・・・・・・・・・・・」
氷牙は怯えながらも風雪と短刀を手放した
「げほっ、げほっ!!」
そして風雪は咳込むと氷牙は右腕を隠しながら後ろへと後ずさった
「お・・・俺・・・は・・・」
だがすぐにレキが俺の前に来て俺の右手を両手で握りしめた
「大丈夫です・・・」
「え・・・」
「例え貴方が人間でなくても・・・私の気持ちは変わりません・・・私はどんな時でも氷牙さんの味方であり続けます・・・だから怖がらないでください・・・」
「あ・・・ああ・・・」
そう言われると氷牙は膝をついて項垂れた
ああ・・・まただ・・・また俺は・・・レキに救われた・・・レキが味方でいてくれる・・・レキがそばに居てくれる・・・それだけで俺は安心できる・・・それだけで俺は救われる・・・それだけで・・・俺はどんなことがあっても大丈夫とさえ思える・・・本当に・・・何て頼もしく愛しい人なんだ・・・
だけど・・・・
「氷牙・・・お前・・・その右腕・・・」
キンジが声を掛けると氷牙は項垂れたまま返事をした
「アリア・・・キンジ・・・見ての通りだ・・・右腕・・・どう見ても人間の物じゃない・・・左目も・・・自分じゃわからないけど・・・多分人の形をしていないだろうな・・・俺は・・・人間じゃなくなっちまった・・・だから・・・」
そう言うとキンジとアリアは顔を合わせた後
「「だから何なの(だ)?」」
と返答してきた
「・・・え?」
「人間辞めてる奴なんてこれまで何度も見てきて戦ってきたんだ、今更誰が人間じゃなくたって驚かねえよ、それにお前はそんな人間辞めた奴等をことごとく打ちのめしてきたんだぞ?」
「人間じゃないっていうならアタシだって指先から光弾出したりしたことあるのよ?それに半年足らずの付き合いでもアンタは散々無茶やってどんな絶体絶命な修羅場も何だかんだで乗り越えてたのよ?」
「「むしろアンタ(お前)が本当にただの人間だったならそっちの方がビックリよ(だ)!!」」
そう言われ氷牙は唖然としたのち
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふっ・・・ははっ・・・・・・・ハーハッハッハッハッハ!!!」
迷いすらも吹き飛ばすように大笑いした
「お前等・・・そこまで言うかよ・・・こちとら一応精神的にもかなりきてたんだぞ・・・」
「開き直りはお前の18番じゃねえかよ?」
「言ったでしょう?アンタみたいな問題児武偵、まともに相手できるのはアタシ達くらいだって?他の奴等ならこんな事言わないわよ?」
「ったく・・・当たり前だ・・・こんな、人のデリケートなところにまで土足でズカズカ入り込むような奴等・・・お前ら以外にいてたまるか・・・」
そう言いながらも氷牙の顔は呆れたように笑みを浮かべていた
そして・・・
「あの、すみません」
横から先程の女の子、風雪が声を掛けてきた
「あ・・・そう言えば・・・さっきは本当に申し訳なかった・・・混乱してたとは言えあんな事して・・・」
そう言って氷牙は風雪に謝罪するも
「いえ・・・どうか面を上げてください。こちらも配慮が足りませんでした、九狂様が倒れる前までは戦闘中であったことを踏まえれば見知らぬ場所で突如現れて咄嗟に刀を出してしまった私を敵と認識しても仕方がない事です」
「ああ・・・でも俺は何であんな悪趣味な部屋で寝てたんだ?それに戦闘中だったって・・・確か・・・・・・・・・・―――ッ!!」
俺はようやくこれまでのことを思い出した・・・そうだ!!レキは・・・あの時撃たれて意識不明にまで陥ってたんだ!!
「レキ!?お前怪我はどうした!?あれどう見ても当分は絶対安静の重症だろ!!なのに出歩いてるなんて無茶にも程があるだろ!!」
氷牙はレキに向き直るとレキは服を捲り上げて雪のように真っ白でシミ一つ何も無い肌を見せてきた
そう・・・何もないのだ・・・撃たれた後はおろか・・・自ら撃った痣さえも!
「なっ!?傷が・・・ない?」
「はい・・・私も・・・氷牙さんと同じく・・・人間を辞めています・・・」
レキがそう言うと風雪が口を挟んできた
「・・・それなのですが九狂様に少しお話があります。レキさんも一緒に来ていただけませんか?」
「・・・私もですか?」
「はい、貴方がた二人に対する事なのです。説明いたしますのでひとまずこちらにご足労頂けますか?」
「・・・わかりました・・・」
そう言うと俺達は風雪の案内の元、客間へと向かって行った
「それで・・・改めて聞きたいんだけど・・・俺は確かココ達の配下300人と一人で戦って追い詰められて重傷を負って絶体絶命になってたはずだったんだが・・・ここは何処なんだ?俺は何でこんな場所・・・あんな悪趣味な部屋で寝ていたんだ?そしてどうして俺もレキも怪我は跡形もなく消えてるんだ?それに・・・この腕は・・・一体・・・」
そう聞くと風雪はこれまでの経緯を説明し始めた
「ここは京都の星伽分社の境内です。あの時、遠山様の救援要請を受けて私は星伽の武装巫女達を率いて九狂様の元に急行したのです、ですが我々が到着すると連中は退却していきそれと同時に九狂様は倒れて気を失ったんです。ちなみにあれからもう丸一日は経過しています」
丸一日!?俺はそんなに眠っていたのか・・・
「私達が駆け付けた時には既に九狂様の右腕はそのようになっていました。その時、私はこの腕からただならぬ気配を感じて九狂様が連中から何らかの呪いを受けて魔に憑りつかれたのかと思いこの分社のあの部屋にお連れしたのです。あの部屋は魔力抑制の結界が張っていて祓い落としや修行にも使われる部屋なんです。勝手とは思いましたが私はその腕を浄化、もしくは分離できないかと試みてみました。ですがその腕は何も変化することはありませんでした。出来たのは腕の中からこの刀を取り出すことだけでした」
そう言って風雪は一振りの長刀を差し出した
「これは・・・俺の刀!?でも・・・」
それは間違いなく氷牙の刀であった・・・しかしその刀は折れたはずなのに完全に直っていたのである・・・
「はい、そしてこの刀を見た時、私は自分の推測が根本的に間違っている事に気が付きました」
「え!?」
「この刀の銘は闇魔刀、かつて伝説の魔剣士が使ったと言われる人と魔を分かつ魔刀です。今までは主を失くし魔力を失い折れていましたが、魔の血を引く者が魔力を注ぎ込めばすぐに刀身は再生し本来の姿を取り戻します。そして九狂様はこの刀を再生させ体内に取り込んでいた、そんな芸当が出来ると言う事は間違いありません」
そして風雪は・・・ずっと不明だった俺の正体を宣言した
「この腕と眼は九狂様の中に眠る魔力が呼び起こされて具現化した物。九狂様は魔族、悪魔の末裔です!」