緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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久しぶりの1万字オーバー、
そして一気に完結させます!


54話<想い、取り戻した果てに>

「ギャハハハはハははハはハハは!!!!!!」

 

 

「死ねっ!」

 

 

「死ねァ!」

 

 

「シャァロックゥ!!」

 

 

「さっさと死ねぇ!!!!」

 

 

氷牙は絶叫に近い笑い声を上げながらシャーロックを攻め続ける・・・

だがその手足からは絶えず流血が飛び散り続けていた・・・

 

「さっきから死ね死ねって・・・今にも死にそうなのは・・・アンタじゃない・・・」

 

「くそっ!あの時と同じだ!!あのバカ野郎・・・完全に暴走してやがる!!」

 

「氷牙さん・・・泣いてるんですか・・・」

 

「「え?」」

 

そう言われ氷牙を見れば・・・

 

奇声を上げながらシャーロックに襲い掛かる氷牙の目からは・・・血涙が流れていた・・・

 

「―――!!!」

 

キンジには・・・あれは氷牙が・・・助けてほしいと叫んでいるようにしか見えなかった

 

 

ああくそっ!!何やってんだよ遠山キンジ!!

お前はもう決めたんだろ!!もう間違えないって!!もう迷わないって!!もう・・・逃げないって!!

「アリア!レキ!・・・氷牙を止めるぞ!!今度こそ・・・絶対に助けるぞ!!」

 

「・・・でも・・・どうすればいいの?アイツ・・・完全に暴走して・・・もうアタシたちの声も届かないわ・・・」

「・・・一瞬でいい・・・アイツの目的を達成させてやるんだ・・・」

「え?」

「ブラドと戦った時もそうだった・・・ブラドの頭を撃った直後にアイツは動かなくなった・・・おそらくは引き金を引いた瞬間にブラドを殺したと確信したからこそ・・・アイツは動きを止めたんだ・・・だから今度も・・・一瞬でもいい・・・アイツにシャーロックを殺したと思わせるんだ・・・」

 

「・・・でしたら・・・私に考えがあります・・・」

そう言ってレキはドラグノフを構えた

 

「レキ!?でもアイツは今絶えず音速に近い速さで動いてるのよ!?そんな体で・・・」

「やらせてください・・・どちらにせよ私の残弾は後一発・・・薬も切れ始めてきました・・・腹部のダメージも無視できません・・・これが最後のチャンスなんです・・・」

 

そうは言うが・・・腹部のダメージと体力の消耗からか・・・その構えはまるで安定していなかった・・・

 

キンジはレキの腰から下げている氷牙のMP5Kを取った

「・・・キンジさん?」

「俺の銃は弾切れだ・・・借りるぞ!アリアはレキの体を後ろから支えて姿勢を安定させてくれ!」

 

「わかったわ!」

そしてアリアはレキの体を後ろから支えて姿勢を安定させた

 

「あいつはこんな所で死んでいい男じゃない・・・いや!俺達が絶対にこんな所で死なせない!!レキ!アイツを助けるぞ!!」

 

「・・・はい!」

 

 

 

 

そうしてる間にも氷牙はシャーロックを攻め続ける・・・

 

右手の刀をシャーロックめがけて突きを入れる

「クッ!!」

だがシャーロックはそれを躱すと氷牙の刀の刀身に掌底を入れた

 

そして・・・

 

――パキィィィン――

 

氷牙の刀が・・・折れた・・・

 

「なっ!?」

「やられた!あれは武器破壊よ!!」

そしてシャーロックは宙に舞った折れた刀身を掴むと氷牙に向け突き出した

 

「氷牙!!避けろ!!」

 

キンジはそう叫ぶがその声は届かなかった・・・

 

元々氷牙はここでシャーロックと共に死ぬつもりだ・・・初めから氷牙の中に・・・自分の命など眼中に入っていなかった・・・

氷牙はそんなもの眼中に無いと言わんばかりに左手の刀をシャーロックの心臓へと突き出した

 

「アイツ!刺し違える気よ!!」

 

「この・・・大バカ野郎ォォォォォォ!!!」

 

キンジは氷牙のMP5Kを構え発砲した

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、氷牙の視界は・・・暴走して脳内リミッターが外れているせいか・・・あるいは確実な死が近づいてきているためか・・・1秒が何分にも引き伸ばされて感じられ、刃先がゆっくりと氷牙めがけて近づいてくるのが鮮明に見えた・・・

 

(ああ、ダメだ…避けられない・・・)

俺は・・・これで死ぬのか・・・でも・・・シャーロックと刺し違えるみたいだし・・・まあ・・・いいや・・・

そう思って自分の死が目前に近づいている事を悟ると氷牙の脳裏にいろんな光景が浮かんでは消えていった・・・

 

(ははっ・・・走馬燈っぽいの見えてきたよ・・・)

 

その中でも一番印象強く浮かんできたのは・・・レキの顔だった・・・

 

(何でだよ・・・なんでこんな時までアイツの顔が浮かんでくるんだよ・・・)

 

その答えを教えてくれたのは次の瞬間に頭をよぎった一年前の春の日の記憶・・・レキと初めて出会った時の記憶だった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――1年前、武偵校に入学して数日経ったある日の昼休み

 

なれない授業と春の陽気に誘われて眠気に襲われた氷牙は屋上に来ていた

「くあぁー、ねみぃ・・・」

こういう時はどこかで昼寝でもしようと思ったのだが・・・

「うっかり教室とかで寝ていると先輩方に殺されかねないしな・・・」

先日キンジと一緒に上勝ちして以来、俺達は先輩方の恨みを買ってしまい・・・スキあらば俺達に雪辱戦を挑んでくる方々が後を絶たない・・・

以来、昼寝する時でも人気のないところを探して寝ないとおちおち昼寝もできないのだ・・・

「さて・・・どこかいい場所はと・・・ん?」

屋上を見回して目に付いたのは・・・

「給水タンク・・・あそこの裏なら日当たりも良いし人目にもつかなそうだな・・・」

そう言って俺は給水タンクの裏手に回った

 

「うん、予想通り日当たりもいいし人の気配も無しといい場所だ」

そう言ってもう少し奥に行くと

「ん?」

奥の方で何かが動いた

何かいる?鳥でもいるのか?

そして奥を覗き込むと

 

「・・・・・・・・・・・」

ショートカットにヘッドホンをしてドラグノフを抱えた少女が体育座りで座り込んでいた。

そして少女と目が合い

「あ・・・こんにちわ・・・」

先客がいたことに少し呆気を取られつつも挨拶をするが・・・

「・・・・・・・・・・・・」

少女は無表情のまま何も言わない・・・

「えーと・・・君は・・・日向ぼっこでもしてるの?」

質問しても

「・・・・・・・・・・」

何も答えてくれないない・・・

ひょっとして・・・

「・・・もしかして・・・お邪魔だった?」

と聞いてみたが

「・・・・・・・・・・」

それでも何も言わない・・・

「・・・せめて・・・首振るくらいはしてくれないか?」

でないと挫けそうだ・・・

「・・・・・・(こくり)」

そう言うと少女は首を振った。

あ、やっと反応してくれた・・・

「あ、じゃあ聞き直すけど・・・君は・・・日向ぼっこでもしてるの?」

「・・・・・(ふるふる)」

「ちなみに俺・・・邪魔?」

「・・・・・(ふるふる)」

どうやら日向ぼっこでもなければ俺のこと邪魔でもないらしい・・・

「あ・・・じゃあ・・・ここ・・・座ってもいい?」

そう聞くと少女は

「・・・・・・(こくり)」

首を縦に振って肯定してくれた

「じゃあ・・・失礼するよ」

そう言って俺は少女の隣に適当に座ると給水タンクに寄りかかった。

 

「あ、そういえば自己紹介がなかったな・・・俺は・・・九狂氷牙、強襲科1年Sランクだ。君は?」

そう聞くと少女はようやく口を開いた

「知っています、私はレキ、狙撃科1年・・・Sランクです」

「Sランク!?じゃあ一年Sランクの三人目って君か!?」

今年は1年生にSランクが3人いるってんで武偵校は今その話題で持ちきりだ・・・

一人は俺、二人目はキンジ、だが一年3人目のSランクは誰なのか一向に不明なままだった。

基本武偵校は生徒個人の情報はランクを含め絶対に公開しない、知られればそいつの弱点も知られてしまうことがあるからだ。(まあ、それでも腕の立つ奴が調べればある程度はすぐ調べがつくが・・・)

けど俺とキンジは自己紹介でランクも言ってしまったためすぐにSランクだということがバレた

三人目がバレなかったのはそいつが自分のランクを言わなかったからだ

俺もどんな人か気にはなっていたが・・・まさかこんな小さな子がSランクだったなんて・・・

「それで・・・君はここで何してたの?」

「・・・風を聞いています」

「は?・・・風?風って・・・この・・・青空に吹いている?」

俺は空を指してそう尋ねた

「・・・・・・・(こくり)」

もしかして・・・この子あれか?中二病的な電波系ってやつか?

「それ・・・むやみに言わないほうがいいぞ・・・」

「・・・・・・・?」

レキは無表情のまま首を数ミリかしげ

「意味がわからないって感じだな・・・まあ・・・今はわかんなくてもいい・・・とにかく風を聞いてるってことはむやみに人に言うなよ!」

でないと・・・後々、死にたいほどに悶える黒歴史になるぞ・・・・

「・・・・・・(こくり)」

そう言うとレキも意味がよくがわからないまま頷いた。

俺はため息をついて

「まあ大丈夫だ・・・後々意味が分かっても・・・俺は・・・絶対誰にも言わないから安心しろ・・・」

そう言ってほとんど無意識にレキの頭を撫でていた

「・・・この手はなんですか?」

そう言われ気付いた俺は慌てて手を離し

「あ、ああ・・・すまん・・・つい・・・嫌だったか?」

そう聞くと

「・・・・・・・(ふるふる)」

と、レキは首を横に振った

嫌ではなさそうだったのだが俺は流石に気まずくなり・・・

「あ、じゃあ・・・俺、昼寝しに来たんだ・・・少し寝るわ」

そう言って俺は横になった

そしたら・・・

 

――グゥウウー――

 

氷牙の腹が小さく鳴る

そういえば昼ごはん食べてなかったな・・・

まあ・・・眠いのはホントだし・・・少し寝たらご飯食べに行くか・・・

(にしても・・・俺はなんであんなことをしたんだろうか?気が付いたら自然と手が伸びてたんだよな・・・)

そんなことを考えながら俺は眠りに就いた。

 

 

 

 

 

そして数時間後・・・

 

「ん・・・」

目が覚めると陽は落ち始めようとしていた

「結構寝たな・・・今何時だ・・・?」

時計を見ると既に放課後なっており、横を見てみればレキは姿を消していた

「あの子はもう行ったか・・・」

 

――グゥウウウー――

 

また腹が鳴る・・・

「腹減ったし・・・飯食いに行くか・・・」

そう言って起き上がろうとすると・・・

 

――ガサリ――

 

「ん?」

腹のところに何か乗っていた

「なんだこれ?」

そう言って拾い上げると

それは・・・カロリーメイトだった

「どうしてこんなものが?」

だが考えても可能性はひとつしかなかった

レキが・・・くれたのか? 

「・・・・・・・・・・」

あの子・・・根は優しい子なんだな・・・

「三人目の1年Sランク・・・狙撃科、レキか・・・なんていうか・・・不思議な子だったな・・・でも・・・不思議だけど・・・何か放っておけない気がするんだよな・・・」

そして俺はカロリーメイトを食いながら決めた

 

明日もここに来よう・・・またここであの子に会うために・・・

もっとあの子のことを知ってみたくなったから・・・

 

それが俺と・・・レキの出会いだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ・・・思い出した・・・

初めて出会った時も・・・今でもそうだったよな・・・

 

・・・君はいつも無表情だった・・・

 

感情表現が下手で・・・無口で・・・不愛想で・・・それでも・・・根は思いやりのあるいい子で・・・まるでかつての自分そのものだった・・・

だからこそ放っておけなかった・・・

守ってやりたいとさえ思った・・・

気が付けばいつも君の事ばかり考えていた・・・

いつか笑った顔が見たいと思っていた・・・でも・・・見れたのは泣き顔だけだったな・・・

俺は・・・君を悲しませてばかりだった・・・

それが不甲斐無くて・・・悔しくて・・・胸を刺す痛みは増してくばかりだった・・・

(ああ・・・そうか・・・こうゆうことだったんだ・・・)

今更ながら遅すぎたけど・・・ようやくわかった・・・ようやく気付いた・・・

一度は失ってそして取り戻した今だからこそわかる・・・俺は・・・

 

(俺は・・・レキの事が・・・好きなんだ・・・)

 

でも・・・もうこの想いは届くことはない・・・

いや・・・届かせる必要はない・・・届かせちゃいけないんだ・・・

俺がきっと好きだと言えばレキは間違いなく受け入れる・・・

でもそれは掟に従ってだ・・・レキの意思じゃない・・・

そんな掟なんかでレキを束縛しちゃいけないんだ・・・

この想いは永遠に俺と共に消し去ろう・・・

消し去らなくちゃいけないんだ・・・それに・・・

 

消えてゆく人間の好意なんて・・・足枷にしかならないんだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

そして・・・眼前に刀が迫った直前・・・

 

――バスッ、バスッ――

 

「ガァ゛!?」

キンジの撃った銃弾は氷牙の体に当たりその衝撃で氷牙の体はわずかに右へと動いた。

 

そして・・・

 

――ガッ――

 

刀は眼帯に刺さり・・・

 

――ぶちゃっ――

 

何かが潰れる音がしたと同時に

 

――ドガッ――

 

「がっ!?」

氷牙の刀はシャーロックの心臓からズレて左脇腹に突き刺さった

 

 

 

「ダメだ!逸らしきれなかった!!氷牙の奴、刺し違えっちまった!!」

「氷牙さん!!」

 

 

 

 

「ガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

氷牙は一層に強い雄叫びをあげた

 

 

 

 

「まだよ!!お爺様も氷牙も生きてるわ!!」

「・・・・・・・・・!!」

 

 

 

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」

痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!

左目が潰れたみたいに痛い!視界がひっくり返る!意識が飛ぶ!

けど・・・そんなのはどうでもいい!!痛いってことは生きてるってことだ!!生きているなら戦え!!生きている限りは体を動かせ!!!!

そして氷牙は本能のまま刀を強く握るとシャーロックに刺した刀の刃を上に向け

 

「ジャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!」

 

――ドキュゥン――

 

一発の銃声の直後

 

――ガキイィィィィィィン――

 

力任せに刀を上へと斬り上げシャーロックを左脇腹から右肩にかけて斬り裂いた

 

「殺っタ・・・」

氷牙はそう確信して呟いた直後

 

――ドオォォォン――

 

突如頭上で起きた爆発によって天井が崩れ

「あ・・・」

氷牙は崩落に巻き込まれ瓦礫ごと床を抜いて下層へと落ちていった

 

「氷牙ぁあああああ!!!!!」

 

氷牙が落ちていった直後

 

「ごはっ」

シャーロックが血を吐いた、深手を負っているがまだ息はあったようだ

 

「シャーロック!?腹から肩を深く斬られてるはずなのに・・・生きてたのか・・・」

「・・・肩の斬り上げの傷はそこまで深くはないよ・・・彼女が撃った弾丸それは氷牙君の刀に当たったんだ・・・そして刀身が僕の中で折れてくれたからか・・・急所には届いていない・・・・」

そう言ってシャーロックはレキを見た

「見事だよ・・・僕の推理が外れたのはこれで2度目だ・・・この傷は曾孫とその仲間達が僕を超えた証としてこの体に刻んでおこう」

 

そう言うとシャーロックの後ろにあるICBMがゆっくりと上に上がっていった

 

「どうやら時間のようだ」

シャーロックはせり上がってゆくICBMに乗り込んでゆく

「シャーロック、どこに行くんだ!逃げる気か!?」

「僕はどこにも行かないよ『老兵は死なず。ただ、消え去るのみ』だ。さあ、卒業式の時間だ。大きな花火で彩ろう」

 

「待って!お爺様!まだ話したいことが―――」

「アリア君、短い間だが楽しかったよ。何か形見をあげたいがもう僕には君にあげられるものは何もない。だから代わりに二つあげよう。名前と・・・仲間を」

 

「名前・・・仲間?」

「氷牙君を助けたくはないのかい?」

 

「「「―――!?」」」

 

「僕の推理では彼が落ちた先はおそらく最下層の倉庫前の通路だ。瓦礫の下敷きになっているだろうが彼はまだ生きている。だが先ほどの戦闘による反動で今の彼では自力での脱出は不可能だ」

 

「「「――――!!!」」」

 

「君たちがすぐに助けに行けば助けられるかもしれない、だがそうすれば下手をすれば君たちも逃げ遅れる可能性がある。それでも―――」

 

レキはすぐさま下層へと向かっていった。

俺達も迷う必要も考える必要もなかった。

 

俺達もシャーロックに背を向け・・・

「いつか必ず捕まえに行くぞ・・・首を洗って待っていろ!!」

「お爺様・・・次は必ず逮捕します!!」

そう言って氷牙のいる最下層へと降りて行った。

 

「そうだ・・・それでいい・・・君達は君達の思うがままに行けばいいんだ・・・」

 

 

 

「さようなら・・・緋弾のアリア・・・」

そう言い残しシャーロックはロケットに乗って脱出していった

 

 

 

「ウ・・・・・・」

シャーロックの推理通り氷牙は下層ブロックで瓦礫の下敷きになっていた。

 

体はもう動かなかった・・・俺の体は・・・とっくに限界を迎えていた

ここまでだ・・・俺はもう助からない・・・俺は・・・ここで死ぬ・・・

思えばロクな人生じゃなかった・・・

この世界に生まれ・・・生まれた意味も分からぬままマッド・ファングとして生きて・・・たくさんの人間と戦った・・・何人もの人を傷つけた・・・人を傷つけて・・・苦痛に叫ぶ悲鳴を聞いて・・・恐怖に染まった顔を見て・・・すっとそれを日常にしてきた・・・戦うことに・・・血塗れな日々に・・・それだけに生きがいを感じていた・・・

だが・・・ようやくキンジと出会って・・・生まれた役目を果たして・・・ようやくこの狂った人生も終わる・・・やっと死ねる・・・

冷たい血溜りが俺の居場所・・・こんな場所にいるのは俺ひとりでいい・・・

一人誰にも看取られることなく死ぬ・・・相応しすぎる最後だ・・・

 

これで終われて良かった・・・いつか俺が完全な戦闘狂に成り果てる前に・・・九狂氷牙という人間として死ねて本当に良かった・・・

 

「いい・・・これで・・・いい・・・」

そう自分に言い聞かせ目を閉じた

 

だが・・・

 

『いいわけねえだろ!』

 

(・・・え?)

 

そんな声が聞こえ・・・俺は目を開いた・・・

 

そして・・・

 

「氷牙!一緒に帰るわよ!一人で死ぬなんて許さないわ!」

「アリ・・・ア?」

 

「氷牙・・・俺はもう逃げない!だからお前も・・・生きることから逃げるな!!」

「キ・・・ンジ?」

 

「帰りましょう・・・一緒に・・・」

「レ・・・キ」

 

目の前には・・・キンジ達が俺を助けに来ていた

 

「お前ら・・・何してる・・・早く脱出しろ・・・」

「ああ!早く脱出するよ!!お前を助け出したらな!!」

 

「そんな時間あるかよ・・・見ればわかんだろ・・・俺・・・もう体がまともに動かないんだよ・・・それに右腕も・・・瓦礫に挟まれて・・・ここから動けないんだ・・・」

そう言われて氷牙の右腕を見れば・・・肘から先は瓦礫に挟まれていた・・・

 

「クソッ!アリア!レキ!瓦礫をどかすぞ!!手を貸してくれ!!」

「ええ!急ぐわよ!!」

 

「よせ・・・もう時間がない・・・俺なんか見捨てて逃げろ・・・」

「・・・嫌です・・・もう氷牙さんのそばを離れたくありません・・・」

 

「・・・何でお前まで・・・俺はウルスの掟に従ったお前の主なんだろ・・・言うことには従うんだろうが・・・頼むから逃げてくれ・・・」

「・・・お断りします。氷牙さんと離れ離れになるくらいなら私はウルスも風も全てを捨てます。貴方がここで死ぬと言うならば私も貴方と共にここで死にます・・・」

「――ッ!・・・バカ野郎・・・死のうだなんて考えるな・・・」

「それは貴方もです・・・死のうだなんて考えないでください・・・」

「・・・・・・・・・・」

「私も・・・半端者でした・・・掟だからと自分に言い聞かして自分の気持ちも分からぬままに貴方と日常を過ごしていた・・・だからこそ貴方がいなくなってから私はどうすればいいのか・・・私はどうしたいのか・・・私は自分で考えました・・・そうしていくら考えても答えは一つしか出てきませんでした・・・」

「・・・え?」

「氷牙さん・・・私はあなたが好きです・・・愛しています・・・だから・・・風やウルスがあなたと別れろと命じても私は全てを捨ててでもあなたとこの命尽きるその時まで一緒にいたいです・・・」

「・・・なんだよ・・・それ・・・今まで信じてたもの全部捨ててでも・・・こんな俺と・・・ずっとそばにいてくれるのかよ・・・」

「はい・・・帰りましょう・・・一緒に・・・」

 

そう言われた後、何かが俺の頬を伝う感触がした

これは・・・涙?・・・俺・・・泣いてるのか?

なんで・・・泣いてるんだ?こんな狂った人生がやっと終わるんだ・・・こうなることを望んだのは・・・ほかでもない俺じゃないか・・・これでよかったじゃないか・・・なのになんで・・・

 

なんで・・・か・・・そんなの決まってるよな・・・

 

あそこに・・・武偵校に帰りたいからに決まってる・・・

こんな血塗れの俺を温かく受け入れてくれた武偵校に・・・帰りたいから・・・なにより・・・こいつと・・・生きていきたいからに決まってる・・・

マッド・ファングという戦闘狂はここで死にたがっていた・・・でも・・・九狂氷牙という人間は違った・・・

 

「ずるいよなぁ・・・・」

 

「え?」

 

「せっかく死ぬ覚悟決めたのに・・・そんなこと言われたらよ・・・」

 

 

 

 

「死にたくないって・・・生きたいって・・・帰りたいって・・・思っちまうじゃねえか・・・」

 

「氷牙・・・」

「ホントバカね・・・それでいいのよ・・・」

 

あそこは・・・武偵校は・・・ずっと一人で生きていた俺に・・・冷たい血溜りの中で育った俺に・・・人としての生き方を教えてくれた・・・俺を受け入れてくれた・・・俺の人生を変えてくれた・・・俺を救ってくれた場所なんだ・・・

あそこには俺の知らない世界がたくさんあった!俺が本当に駆け抜けたかった日常があそこにはあった!本当に欲しかったものは・・・とっくにそこにあった!

 

「氷牙!答えなさい!あんたはどうしたいの!?」

 

「・・・決まってんだろ・・・帰りたい・・・死にたくない・・・一人は・・・嫌だ・・・」

と泣きながら俺はみんなの前で呟いた

 

 

「・・・ったく・・・やっと折れやがったな・・・」

「了解よ!なんとしてもみんなで帰るわよ!」

「帰りましょう・・・氷牙さん・・・」

 

「そうしたいよ・・・でも・・・もう無理なんだよ・・・お前らだってわかってんだろ・・・この潜水艦が消し飛ぶまでもう時間がない・・・俺を助ける余裕なんて無いことぐらい・・・わかってんだろ・・・このままじゃお前らまで死ぬぞ・・・もういいから逃げろ・・・」

 

「黙ってろ!!俺は絶対にお前を見捨てないぞ!!」

「死にたくないって言ったのはアンタよ!!ならアタシたちが死なせないわ!!」

「絶対に助けます!だから諦めないでください!」

そう言って3人は瓦礫の撤去を始めた

 

ああ・・・ダメだ・・・こいつらはこう決めたら絶対に譲らない・・・そうゆう連中だ・・・

だがこの潜水艦ももう持たない・・・このままじゃこいつらも俺もろともここで死ぬ・・・どうすれば・・・

 

「・・・・・・・・」

そして一つだけ思いついた・・・全員で脱出できる方法が・・・だが・・・

迷ってる暇はないな・・・それに・・・これも因果応報ってやつか・・・

 

「本当に・・・お前らも俺も・・・大馬鹿だな・・・」

そう呟くと俺は左手に持っていた刀を口に銜えると左目に刺さった刀の刀身を抜いた。

そして銜えた刀を下に、左目から抜いた刀を上にして右腕を挟んだ

「――おい氷牙?何してんだ!?」

「氷牙さん!?まさか!!」

レキは察したようだが遅かった・・・

氷牙は歯を食いしばって左腕を思いっきり引くと

 

――ザシュッ――

 

そのまま自分の右腕を斬り落とした・・・

「―――ッ!!」

 

「氷牙!!」

「馬鹿野郎!!何してんだ!!」

「早く止血を!!これ以上の出血は危険です!!」

 

キンジとレキはすぐさま右腕の止血処置をした

「ははっ・・・腕・・・斬り落とされても・・・思ったよりかは痛くねえんだな・・・」

 

「お前・・・自分から腕を斬り落とすなんて・・・何考えてんだよ!!」

 

「・・・これが一番手っ取り早い方法だったからな・・・全員で脱出するならこれしかねえだろ・・・」

 

「だからって・・・」

「キンジ!話は後よ!・・・早くここから脱出しましょう・・・」

「クソッ・・・了解!」

そしてキンジは氷牙を担ぐと俺達は脱出ポッドでイ・ウーの潜水艦を脱出した

 

 

 

そして沈みゆく潜水艦を見て

「これでイ・ウーも壊滅か・・・そういえばシャーロックは・・・どうした?」

「あいつも生きてるよ・・・お前を助けてる間に・・・ロケットに乗って逃げられた・・・」

「・・・なんで・・・せっかくのチャンスを逃して危険を冒してまで俺を助けに来た?俺を見捨ててればシャーロックを逮捕できただろう?そうすれば・・・」

「ふざけないで。仲間を犠牲にしてでも目的を達成するほどアタシは落ちぶれてないわよ!」

 

「仲間・・・か・・・なあ・・・俺・・・本当にお前たちの仲間として・・・武偵として生きてていいのかな?・・・本当なら・・・死んだ方が・・・よかったんじゃないのかな・・・」

そう問いかけると

「――ッ!!お前まだそんな事――」

キンジが怒鳴る前にレキが俺の服の襟を掴み

 

――パァン――

 

俺に平手打ちを入れた

「レ・・・キ?」

そしてもう片方の手でも俺の襟を掴むと・・・

そのまま俺の胸に顔を押し付け・・・

 

「―ぁ、う、ぁ…うぅ、うぁぁぁ……っ、あぁぁぁ……っ」

レキは俺の服の襟を掴んだまま胸に顔を埋め、押し殺したような声で泣き始めた・・・

 

「お願い・・・です・・・生きて・・・ください・・・貴方が死んだら・・・悲しむ人がいるんです・・・貴方がいたから・・・今の私がいるんです・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

俺は左手でレキの頭を撫でた、そして撫でたレキの髪は俺の手についていた血で汚れてしまった

「・・・こんな触る物すらも汚してしまう程・・・血で汚れた俺でも・・・か?」

「はい・・・貴方は・・・ずっと私達のために・・・手を汚していたんです・・・それを誇りさえすれば・・・悔いる事なんてないんです・・・」

 

俺はキンジに尋ねた

「・・・なあキンジ・・・俺は・・・誰だ?」

 

「・・・九狂氷牙・・・東京武偵校強襲科Aランクで強襲科一の問題児、レキのパートナーで・・・俺の親友の・・・仲間思いな立派な武偵だよ・・・」

 

「そうか・・・俺は武偵か・・・」

「ああ、お前以上の立派な武偵・・・俺は知らないよ」

 

「ああ・・・よかった・・・レキ・・・キンジ・・・」

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・ありがとな・・・」

 

 

 

 

 

「・・・?氷牙?」

 

「・・・・・・・・・」

氷牙は俯いたまま何も言わない・・・

 

「・・・ったく・・・普段から俺に殺意と銃弾ばっかりかますくせに・・・急に感謝なんてお前らしくないぞ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・それと・・・覚悟しとけよ・・・帰ったら・・・入院生活と事情聴取と反省文のフルコースがお待ちかねだ・・・お前の夏休みは・・・これで全部つぶれると思えよ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・まあ・・・安心しろ・・・レキはもちろん・・・俺やアリアや白雪も・・・毎日交代で見舞いに行ってやるからよ・・・お前のために・・・退屈だけはさせないでおいてやるよ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「ああ・・・それとお前武偵手帳失くしたんだってな・・・武偵手帳の紛失は死にたくなるほどの反省文と説教を喰らった後・・・問答無用でEランクにまで降格させられてようやく再発行されるそうだからな・・・これでお前もめでたく立派なEランク武偵だな・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「おい・・・聞いてるのか・・・俯いてないで・・・何とか言えよ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「おい・・・返事をしろよ・・・俺は・・・お前に返しきれないほどの借りがあるんだ・・・それを全部・・・貸したままにしておくんじゃねえよ・・・」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「なぁ・・・・頼むから・・・返事をしろよ!!死ぬんじゃねえよ!!またレキを泣かせる気か!!氷牙ぁ!!」

 

 

キンジの必死の問いかけにも氷牙は何一つ答えることはなかった・・・

その時の氷牙の顔は・・・幸せな夢を見ているかのようなとても安らかな顔押していた・・・

 

 

 

後日・・・ラッシュ大尉が提出した今回の事件の報告書にはこんな文章が記載されてれた・・・

 

 

 

――以上が今回の事件についての概要である

なお当事件において以下の人物が死亡・行方不明になったことを追記しておく

 

ハーメルン大隊総隊長 グレゴリー・バローズ中佐 死亡 戦闘の末ラッシュ大尉によって射殺

 

イ・ウーリーダー シャーロック・ホームズ 行方不明 ロケットにつかまり逃走、重傷を負っていたが生存の可能性大、現在行方を捜索中

 

イ・ウー構成員 パトラ 行方不明 遠山金一と共に逃走、現在行方を捜索中

 

元武偵庁特命武偵 遠山金一 行方不明 パトラと共に逃走、現在行方を捜索中

 

傭兵 ワイルド・ドッグ(本名不明) 死亡 戦闘の末自爆、生存の可能性は極めて低いため死亡扱いとする

 

傭兵 ワイルド・ファング(本名不明) 行方不明 潜水艦の自爆に巻き込まれ行方不明、現在行方を捜索中

 

傭兵 マッド・ファング(本名不明) 死亡 シャーロックと戦闘の末、刺し違えて重傷を負い間もなく死亡

 

なお当情報は極秘情報として閲覧を制限するものとする

 

以上

 

報告者 米軍統合監察部特殊実行部隊 ウィリアム・ラッシュ大尉

 


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