我ながら異常なまでに筆が速い・・・
時間を少し遡って
キンジとアリアは氷牙を追って水上バイクを飛ばしていたが
「くそっ!完全に見失った・・・」
走りながらも氷牙を必死に探すが明かりは月明りとバイクのライトだけの闇夜では見つかる可能性など0に等しかった
「キンジ、もうレキの援護範囲を出てるわ・・・一度引き返し――」
――タァァ・・・・・・ン――
突如響いた遠い落雷みたいな音
波の音と混じってよく聞こえなかったが・・・
「―――?今変な音がしなかったか?」
「キンジ・・・逃げ・・・て・・・」
そう言ってアリアの腕からは力が抜け
「アリア?」
キンジが振り返ると同時に
――サシャア――
アリアは海に落ちその時見えたアリアの背中には・・・撃たれたばかりの跡があり血が流れていた!アリアは狙撃されたんだ!
「――ッ!アリア!!」
迂闊だった!スナイパーがいるのにこんな遮蔽物がない海の真ん中に来れば恰好の的になるのは明確だったじゃないか!
キンジはすぐさまバイクをUターンさせ引き返し浮かんでくる気配さえないアリアを必死で探そうとしたら・・・
いつの間にか自分の背後にあったものに目を見開いた
「―――ッ!!そんな・・・あれは・・・」
キンジは自分の目を疑い尽くした、自分の目の前にある物があまりにも衝撃的だったのだから・・・
キンジの目の前にあったもの、それは・・・喫水線は沈みそうなほど低く、甲板まで数メートルもない上に甲板には巨大なピラミッドが立っていたが・・・間違いない!あれは半年前に金一と共に海に沈んだはずの・・・豪華客船アンベリール号だ!
だがそれ以上に目を疑いたくなる光景はその甲板にいた人物だった・・・
一人はジャッカル男と同じく金銀財宝でその身を飾った、半裸の女
恐らくあの女がジャッカル男達の親玉だろう・・・
一人は黄金の棺の中でぐったりとしてるアリア
撃たれたところを捕まったようだが息はあるようだ
そしてもう一人は・・・
「何でだよ・・・なんで・・・」
はっきり言って状況は最悪だ・・・
アリアは撃たれて昏睡状態なところを捕われ
既にレキの射撃範囲からは外れてしまい援護は期待できず
氷牙とはいまだに連絡が取れず
ラッシュ達の援軍も到着まではまだ時間がかかる
そんな孤立無援な状態で目の前には・・・
「なんでそこに居るんだよ!兄さん!!」
死んだはずのキンジの兄、遠山金一が立っていたのだから
「ではキンイチ、構わんな?」
「ああ、ただし傷の手当てはしておくんだぞパトラ?」
「わかっておる。大事な交渉材料じゃ、今はまだ殺さん」
そう言うとジャッカル男達の親玉、パトラはアリアを連れてピラミッドに入っていった
「なっ!?待て!!」
すぐに追いかけようとしたら
「止まれ!!」
「―――ッ!!」
と一喝され足が止まり金一は語りだした
「夢を・・・見ていた・・・」
「夢?」
「永い眠りの中でお前達が第2の可能性を導き出してくれる夢を・・・だが・・・」
金一はキンジを見下し
「目覚めてみればどうだ?愚弟は兄という目標がいなくなっただけで腑抜けてしまい、アリアからも自分からも目を背け続け・・・氷牙君は記憶を失くして自分を見失い彷徨い続けている・・・そんなお前達では第2の可能性は無い。夢はしょせん夢でしかなかったのだな・・・」
「兄さん・・・何言ってんだよ・・・第2の可能性ってなんだよ!?」
「緋弾のアリア・・・儚いひと夏の夢だったな・・・」
「質問に答えてくれよ!・・・何があったんだよ!イ・ウーで・・・無法者の超人どもに何をされたんだよ!!」
「無法者・・・か。そうだ、イ・ウーは無法。どこまでも自由で何をしても許される無限の可能性が広がる世界・・・だがその世界も間もなく終わる・・・」
「・・・?イ・ウーが・・・終わる?」
「この無法の世界を束ね続けてきたイ・ウーのリーダー『教授』、彼がいたからこそイ・ウーは存続してこれた・・・だが『教授』は間もなく寿命で死ぬ。『教授』はアリアをイ・ウーの次期リーダーに・・・後継者に置くつもりだ」
「なっ!?アリアがイ・ウーの次期リーダー?馬鹿言うな!アリアがそんな事受けるわけが――」
「アリアの意思など関係ない、いや・・・アリアはおそらく断れない!だから俺は・・・アリアを殺す!イ・ウーのリーダー『教授』が死に、そして後継者であるアリアを殺せば空位になったリーダーの座を巡ってイ・ウーに跡目争いが起こり内部分裂が起きる。これはイ・ウーを潰す・・・千歳一隅のチャンスなんだ!」
「・・・アンタは武偵のくせに・・・人を殺して事を収めるつもりか!?」
「武偵である前に俺は遠山の男だ。そして遠山家は義の一族だ!悪を討つためならば喜んで悪に堕ちよう!大を救うための小の犠牲、それを厭っていては・・・何一つ助けることなどできはしない!」
「―――ッ!ふざけるな!」
キンジは水上バイクを走らせ船体に衝突し投げ出されると同時に甲板に向けてワイヤーを投げて引っ掛けて甲板に上った
そして甲板に上り間近で向き合った金一の目は・・・怒っていた
その眼はまるで鬼か龍の眼、もはや人間のレベルを超越した修羅の如き殺気を放っていた
金一は・・・キンジに対して本気で怒っているのだ・・・
怖い・・・今すぐにでも逃げ出したい・・・
けど・・・
それがどうした?
殺気だけなら1年の時から散々氷牙に浴びせられた!!
2年からはアリアにも殺気と銃弾を嫌になるほど浴びせられた!!
今更これくらいで・・・引けるかよ!!
そう自分を鼓舞して自分を立ち上がらせた
「兄さん!本当はわかってんだろ!アンタは自分を誤魔化してるだけだ!義があるなら・・・正義を謳うなら・・・誰も殺すな!誰も見捨てるな!最後まであきらめずに・・・全部救って見せろ!それが武偵だろ!!」
「そんなことは100万回考えた!!他に方法はないのか!?他に最善な手段は無いのか!?あらゆる方法を考えた!!第2の可能性、お前たちが『教授』を倒してくれるという可能性を信じてお前たちに賭けたりもした!だがそれも叶わなかった!だから俺は第1の可能性を実行するほかなかった!この手段を使うほかなかった!!」
「だからアリアを犠牲にして・・・イ・ウーを内側から潰すってわけか・・・」
「何でも綺麗事だけでやっていけると思うな!帰れキンジ!アリアの事は忘れて・・・武偵を辞めて・・・お望み通り平穏に暮らせ!お前にそこにいる資格はない!!犠牲になるのはアリア一人で十分だ!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「お前には失望した・・・こんな事ならば氷牙君の代わりにお前が記憶を失くせばよかったのにな・・・そうすればこの腑抜けも少しはマシに・・・第2の可能性も十分あっただろうにな・・・」
キンジは俯いたまま拳を震わせ
「・・・は、ははっ・・・ふざけるな・・・ふざけんなぁ!!!」
そう叫ぶとキンジは・・・
「アアアアアアアア!!!」
自分の顔を思い切り殴った。
それも一発では終わらず、何発も何発も・・・鼻血を出しても口から血が出てもキンジは自分の顔を殴り続けた
「キンジ!?何をしている!?気でも狂ったか!?」
「兄さん・・・俺は今日・・・生まれて初めて本気で人を殺したいほどの殺意が沸いたよ・・・」
「・・・それほどまでに俺が憎いか?それほどまでにアリアが大切か?」
「勘違いするな!殺したいと思った奴はアンタでもイ・ウーでもない・・・別の人間だ・・・」
「・・・では・・・誰を本気で殺したいと思ったんだ?」
「・・・俺だよ・・・」
「お前?」
「俺は・・・半年以上も腐って腑抜けて武偵を辞めようとか吠えてたんだと思うと・・・情けなさすぎて殺意すらわいてくるんだよ!!」
そうだ・・・本当はわかっていた・・・兄さんが死んだとか、世間から非難されたとか、いくら頑張っても報われないとか、そんなのは言い訳でしかなかったんだ・・・俺はただ目を背けて逃げていただけなんだって・・・そんなこと最初からわかっていた・・・
だけど・・・どうしても割り切ることなんかできなくて・・・少年時代の憧れを、目標を失って・・・・武偵でいることに迷い続けて・・・気付けばそれが俺の中でずっと湖底の泥みたいに溜まって・・・いつしか目を背けて逃げ続けていたんだ・・・嫌なことから逃げて、考えることを放棄して、ただ流されるままに生きてりゃ本当に楽だったからな・・・
でもよ・・・
逃げ続けた先にはなにがあった?
俺が逃げようとしたせいで氷牙は俺のために汚名を被った。
俺が腑抜けたせいでゴールド・フェンリルという騒がしくも楽しかったコンビは無くなった。
俺が不甲斐無いせいでアリアの額には一生消えない傷がついた。
俺が目を背けたせいで白雪は危うく殺されるところだった。
いつもその先にあったのは・・・後悔と虚しさだけだった・・・
そしてその自責の念がまた俺の心に溜まり・・・俺の足枷になり続けていたんだ・・・
そうだ・・・自分で考えてみれば・・・何だったんだよ・・・俺を縛り付けていたのは他でもない俺自身じゃないか!
俺自身が勝手に重荷背負ってありもしないトラウマ抱えてずっと立ち止まって俯いてただけじゃないか!
こんな重荷・・・あいつ等ならきっとこう言うだろうな・・・
『『どうするか?決まってる!そんなもの・・・全部――
――風穴開けるわよ!!』
――蹴散らせ!!』
ああ!そうしよう!こんなもんいつまでも背負ってられるか!
「だから今・・・俺は俺を殺す!!こんな腐りきった俺、誰かの手を煩わせるまでもない!!俺自身の手でぶっ殺してやる!!」
そう言って一発殴るごとにキンジの心の枷は一つ、また一つと外れていくような気がして・・・
最後にキンジは
「死ね!!遠山キンジ!!」
そう叫んで自分の顔に渾身の一撃を入れ、ふっ飛ばした
「がはっ、はぁ・・・」
キンジは仰向けに倒れると息を吐いた
「キンジ・・・お前・・・」
そして立ち上がると
「・・・これで・・・兄に依存していた腑抜けだったキンジは死んだ・・・ここにいる俺は・・・武偵、遠山キンジだ!!元武偵庁特命武偵、遠山金一!!アンタを殺人未遂で逮捕する!!」
そう言って金一を見据えたキンジの目には・・・もう何も迷いなど無かった
「よかろう・・・ならば今度こそ証明して見せろ!お前の覚悟を!第2の可能性を!!緋弾との絆を!!」
あの構え無き構え・・・あれは・・・
「その構え・・・『不可視の銃弾』か・・・」
「一つ教えてやろう・・・この技、氷牙君は難なく防いだぞ。お前にこの技を防げるか?」
「アイツの事だ・・・どうせ刀とかで難なく弾いたんだろ?」
「ああ、相も変わらず人並み外れた反応速度と動体視力だ。ヒステリアのお前や俺だろうと真似できない芸当だったな」
「確かに俺にはそんな芸当出来ないし、その技を防ぐ手段は今の俺には方法はない・・・だから・・・今から作る!」
そしてキンジも金一と同じ構え無き構え・・・『不可視の銃弾』の構えをとった
「浅はかな・・・お前の銃は早撃ちには向かないぞ」
「それでも勝つさ、アンタを倒してアリアを取り返して・・・俺は前に進む!」
「愚か者め!眠れキンジ!兄より優れた弟などいない!」
確かに二人の一力の差は天地ほどの差がある。だがこの時金一は失念していた、遠山家の血に流れるHSS、その力は一つだけではないということを・・・今の金一は通常のヒステリア・ノルマーレ、身体能力の向上倍率は通常の30倍。だがアリアが撃たれ捕まったことによりなった今のキンジはヒステリア・ベルゼ、倍率は通常の・・・51倍!この倍率の差は二人の実力の差を埋めるには十分だった
今のキンジの眼には・・・金一の銃を抜く動きが完全に見えていた
(見える・・・見えるぞ!兄さんの狙いは・・・俺の心臓だ!!)
まるで金一を鏡に映った自分に見立ててるかのようにキンジも同じように銃を抜き金一へと銃を向け
――パァン――
――ガゥン――
そしてお互いがほぼ同時に銃を抜いて発砲しだが銃の性能が影響してキンジの方が僅かに遅い・・・
――キキィン――
だがキンジの撃った弾丸は・・・金一の弾丸を真正面から弾き・・・お互いの弾丸はそのまま銃口へと戻りってゆくがキンジの銃に戻ろうとしていた弾丸はそのほぼ真後ろにあった銃弾に弾かれ明後日の方向に飛んで行った
これは平賀さんに改造してもらって起きた欠陥・・・3点バーストの2発だけでそれが同時に出る欠陥を利用した攻防一帯の返し技だ・・・言うなれば・・・
「鏡撃ち!!」
――バガン――
そのまま銃口に戻っていった金一の弾丸は金一の銃を破壊した
「ぐぁ!?」
顔を歪め破壊された銃を落とした金一にキンジは銃を向け
――バラバラバラバラバラバラバラバラバラ――
「キンちゃん!」
「キンジさん」
『遠山君!無事ですか!?』
同時に白雪たちやラッシュ達の援軍が乗ったヘリが到着し
「俺の勝ちだ!!」
キンジはそう高らかに宣言した
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