緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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めでたく30話達成です
あといつの間にか平均評価ついてました
評価してくれてありがとうございます


30話<崩れゆく意地>

 

 

夕食時、食堂にてキンジは小夜鳴に夕食を出していた

「山形牛の炭火串焼き、今日は柚子胡椒添えです」

といって俺はドームみたいな銀の蓋を開けて串から肉を抜いてあげる

「ありがとう、今日も美味しそうだね。君たちが来てから食事が少し楽しみになってきましたよ」

「お礼でしたら氷牙に言ってあげてください」

そう、この屋敷での料理当番、小夜鳴の食事から俺たちの賄いまで全て作るのは氷牙の役割だ

アリアも理子の特訓で簡単なものは作れるがそれ以外を作るとどういうわけか台所が爆発するため台所への出入りは禁止・・・

 

キンジも手伝おうかと思ったのだが・・・

小夜鳴の注文は・・・『軽く炙った肉、ニンニクは使わないこと』それだけだった・・・

今日だけならまだしも俺たちがここに来てからこれしか注文してこない

氷牙も

「小夜鳴って意外と偏食なんだな、レキといい勝負だ、できれば栄養指導とかしたい所だが、今はコックとして頼まれた以上は注文通りに作るさ」

と言って下ごしらえから盛りつけまで一人で難なくやってのけるため

俺のやることは小夜鳴の元まで運んでゆき、後は特に指示がなければ食事が終わるまで食堂の片隅で突っ立っているだけだった・・・考えてみれば楽なバイトだ

初日に生死の境を彷徨ったことを除けば・・・な

「ええ、しかし九狂君でしたか・・・彼は問題児だが実力は本物で成績優秀な武偵と聞きましたが・・・彼はどこか名のある家系か何かの出身なのですか?」

「いえ・・・あいつは物心着いた時には孤児だったと聞いています。両親の顔も覚えていないそうです」

あいつ曰く・・・転生者らしいが・・・まあ、あいつ自身はっきりとは分からないと言ってたし・・・言うことでもないか・・・

「そうですか・・・雑種なのか・・・だが試してみる価値は・・・」

小夜鳴が何か呟いた

「――?小夜鳴先生?」

「――ああ失礼、何でもありません」

 

そう言うと小夜鳴はフォークを動かし食事を始めたので俺はそれ以上話すことはなく待機することにした

 

 

 

そして潜入14日目・・・この屋敷を去る日で作戦決行の日だ

 

遊戯室にて

 

キンジと氷牙は手にはオープンフィンガーグローブ、頭には赤外線ゴーグル、胴体にはポーチ付きの防弾ベストと特殊部隊みたいな装備に着替えていた

「んじゃ、やるか」

そう言ってビリヤード台を動かすと・・・

 

その下には地下までの穴が掘ってあった

ここからロザリオを奪還するため、この2週間合間と隙を見ては地下金庫へと向けて掘り続けたのだ

「我ながら・・・よくここまで掘ったもんだな・・・」

「この屋敷の管理ほとんど俺一人でやっていたからな」

「それは・・・すまん・・・感謝はしてるよ・・・」

氷牙の白雪ともタメを張れる驚異的とも言える家事スキルのおかげかハウスキーパーの仕事はほとんど氷牙一人でこなしてしまい俺とアリアはほとんど出る幕はなかった

その上小夜鳴は本当に地下の研究室に篭りきりで食事の時間以外は部屋から出てこない日さえもあった

まあ、そのおかげで俺とアリアはターゲットや警備の下調べ、犯行の下準備に専念できたわけだが・・・こっちも一日中掘り続けていた日とかもあったわけだし・・・

「まあいい、アリアが小夜鳴を陽動しているうちにさっさと目標をすり替えるぞ」

「ああ、聞こえるか理子。これよりモグラは畑に入る」

『よく聞こえてますよー?キー君の声って電話越しでもセクシーぃ!』

「遊んでねぇで行くぞ!ふざけてるとまたケツ吹っ飛ばすからな!」

そしてキンジと氷牙は穴に潜って天井を開けて地下金庫に入り込んでいった

「こちらキンジ、モグラはコウモリになった」

「慎重にいけよ・・・汗一滴でも床に落ちればすぐセンサーが反応して警報が鳴るぞ・・・」

 

『それじゃあレール作戦行くよ!まずはZ1、それにA10――』

 

氷牙が上から指定されたレールパーツを取り出しキンジに渡す

キンジがそれを受け取るとつないで組み上げてゆく

 

『A16、D5、B6、A13、E12―――』

 

キンジがパーツを一つ繋げて次のパーツを要求しようと手を伸ばせばすぐさま次のパーツが手渡される

途中で汗を拭おうと手を止めれば氷牙も止まってくれる

その動作は停滞することもなく流れるように進んでゆきレールはあっという間にロザリオの元までたどり着いた

1年の時から何度もコンビを組んで阿吽のごとく同調した二人だからこそできる

コンビネーションと手際の良さだった

 

「ここからはキンジ・・・お前一人の仕事だ・・・」

「ああ・・・」

キンジは慎重にレールに付けられたフックにロザリオを引っ掛けこちらにたぐり寄せる

「急げキンジ!予定より遅れてる!あと3分ないぞ!」

「分かってる!だが急ぐとロザリオが揺れて赤外線に触れる・・・」

『マズイよ!アリアから暗号来た!小夜鳴がバラ園からそっちに移動始めた!』

「何だって!早すぎるぞ!もう少し持たせるハズだろ!」

『雨降ってきたんだよ!』

クソッ!ついてねえな

「キンジ!俺も小夜鳴の所に行って時間を稼ぐ!お前はすり替え急げ!」

「すまん!」

そして氷牙が上に戻ってゆくと

 

ブツッ

 

誰かの回線が切れる音がした、誰だ!?氷牙か!?アリアか!?理子だとしたらマズイぞ!

『アリア!こうなったら色仕掛けだよ!小夜鳴は女好きって噂だからこれならきっと効くはずだよ!』

理子の声・・・ってことは断線したのはアリアか・・・

『し、仕方ないわね・・・わ、分かったわ』

どうやら氷牙の方だったようだ・・・ってアリア!お前本気かよ!

『でもその前に言わせて・・・キンジ・・・今は我慢して・・・そのかわりアイツにさせることは後でアンタにも・・・あんたがいいってゆうまでさせてあげるから・・・』

 

「・・・は?」

 

『それに・・・あたしホントはあんたと二人きりでここに来たかった・・・氷牙も氷牙よ・・・あいつさえいなけりゃせっかくアンタとアタシの二人っきりだったのに・・・金なんかのためにしゃしゃり出てきて・・・理子が嫌いなくせに金なんかであっさりなびいちゃって・・・ほんと金の亡者よね・・・』

「まっ、待てっ!それは今言うことじゃ――」

『お願い・・・言わせて・・・アタシ・・・アンタのことが・・・』

 

『好き・・・』

 

その告白を聞いた瞬間

 

「―――ッ!!」

 

クソッ・・・なっちまった・・・

そしてわかった・・・

「やってくれるな・・・理子」

『あーわかった?てことはなれたんだぁ?』

全部お前の一人芝居だったってわけか・・・

「いけない子だ、後でお尻ペンペンだ」

『うはー!それは理子にとってはご褒美ですよー!』

なんてやり取りをしながらもキンジの手は高速で動きあっという間にロザリオを手元に手繰り寄せ偽物とすり替えた

今のキンジならこんな赤外線の網容易く突破できた

そして作業を終え天井に戻り蓋を閉めると

 

――ガチャ――

 

ほとんど同時といってもいいくらいのタイミングで小夜鳴が入ってきた

(危なかった・・・)

そうしてキンジは上に戻り、しばらくすると氷牙とアリアも戻ってきた

「キンジ、上手くいったか?」

「ああ、すり替えは完了したよ」

『お疲れ様キーくん!』

「ねえ?途中で無線が切れたけど何かあったの?」

「ちょっとした断線だ作業は問題なく終わった」

「そうか・・・ところで理子・・・」

『なに?』

理子が訪ねたとたん氷牙の口から

 

「・・・金の亡者で悪かったな・・・」

 

そんな冷たい声が出てきた

『え・・・ひょーたん?聞いてた・・・の・・・?』

「俺の無線・・・この携帯とじゃあ相性悪くてな・・・念の為に回線もう一つ中継器繋いで飛ばしてたんだ・・・」

『げ・・・まじで・・・』

「好き放題言ってくれるじゃねえか理子・・・そうか・・・あれはご褒美なのか・・・」

『いや・・・それはー・・・あの・・・』

「おい・・・落ち着け氷牙・・・」

「言いたいことはあるが・・・まあ仕事を成功させるためだ・・・其の辺は後にしとこう・・・」

(た、助かったー)

「因みにだ理子?」

『何?』

「木槌とメイス・・・どっちがいい?」

(―――――ッ!!!! )

理子の血の気が引いた音がした・・・

『待って・・・それでどうするつもり?』

「・・・どうすると思う?」

答えは一つしかなかった・・・

「で?どっちがいい?」

『どっちも嫌ー!やめてー!キー君のお嫁にいけなくなっちゃうー!二度と座れなくなっちゃうー!』

「それは来なくていい!」

「よく考えとけよ・・・楽しみだな・・・」

そう言って氷牙は無線を切った

今、理子の尻は死神に撫で回されていた・・・

「ねえ?一体何の話?」

アリアは何も分かっていなかったが・・・

キンジは・・・とりあえず胸で十字を切っておいた

 

 

そして俺たちは屋敷を後にすると理子が待つランドマークタワーへと向かった

 

 

「ほら、約束の品だよ」

「うっほい!!!」

ロザリオを渡すと理子は歓喜のあまり奇声をあげて踊りだした・・・尻を押さえながらも・・・

「さあ約束よ!ママの裁判に証言して!イ・ウーについても話してもらうわよ!」

「カナについても話してもらうぞ」

「お礼はちゃんと上げますよぉ。はい、キーくん頭のリボン解いてください」

「・・・?あ、ああ・・・」

 

よく分からずもキンジは理子の頭のリボンを解こうとした

そしたら・・・

 

ちゅっと

 

理子はいきなりキンジにキスをした

「な、なな、何やってんのよ!」

「ごめんね~キー君、このロザリオさえ手に入れば理子的にはもうカードは揃っちゃたんだ~」

「悪い子だ、理子、約束は全部嘘だったてことだね」

「うん、そんなわけで「――!!氷牙!止めろ!」え?」

 

いつの間に氷牙は理子の目前に迫り

 

「なっ!?」

 

そのまま首を掴みそのままそばにあった柱に叩きつけると

 

「ごばっ!?」

 

首を掴んだまま持ち上げ口の中に銃口を突っ込んた

理子は体が宙に浮き藻掻く他なかった

「いい度胸じゃねえか理子・・・そのふざけた頭叩き直してやるよ・・・」

「あ・・・ぐ・・・」

「氷牙、手を離せ!・・・俺は理子を許すよ、女性の嘘は罪にならないものだからね」

「お前は許しても俺とアリアはそうはいかねえよ・・・」

「頼む・・・お前とやり合いたくはない・・・」

「・・・・・・・・・」

「大丈夫だ、俺が何としてもアリアの要求は絶対呑ませる・・・」

「・・・・・・チッ」

氷牙は舌打ちをすると銃を下ろし理子の首から手を離すと下がっていった

 

「がはっ・・・はぁっ・・・」

「理子・・・どうしてそこまでアリアを倒すことに拘る・・・」

「繁殖用雌犬って知ってる?」

「繁殖用雌犬?」

「悪質なブリーダーが人気の犬種を殖やすために檻に閉じ込めて虐待してるってやつだよ・・・お前はそれの人間版・・・そう言いたいのか?」

「そう・・・かつてのあたしがそうだった・・・何日かに一度しか腐った肉と泥水しか与えられず・・・狭い檻の中で生きてきた・・・有能な5世を産むためだけに・・・・」

理子の顔は裏側の顔になる

「ふざけんなっ!あたしはただの遺伝子かよ!どうつもこいつも4世って・・・あたしは理子だ!数字じゃない!5世を生む為の道具じゃない!だから今日・・・あたしは理子になる!オルメス!!お前を倒して、あたしは―――」

 

――バチィッ――

 

「え?」

小さな雷鳴のような音が鳴ると・・・

理子の体が前のめりに倒れていった

「なんで・・・おまえ・・・が・・・」

「本当に・・・無能な4世ですねぇ・・・」

理子の後ろに居たのは・・・

 

「「「小夜鳴!?」」」

 

「なんであんたがここに!?」

「・・・最初から全部バレてたってことか・・・」

「ええ、あんな学芸会見ていて欠伸が出ましたよ」

「さすが非常勤とは言え武偵校教師・・・でも戦うことは慣れてないだろ?だって気付いてなお泳がしてたってことは・・・ブラドが来るまでは手を出せなかったってことだろ?」

「ええ、そして彼は間も無くここに来ます」

「へぇ?てことはあんたもやっとブラドと会えるってことか?」

「いえいえ、どうあっても私と彼は会えない運命にあるんですよ」

「・・・それは・・・同一人物・・・あんたがブラドだから?」

「そうですね・・・彼が来るまで・・・ひとつ補講をしましょう。私の研究内容でもある・・・遺伝子について・・・」

 

そして小夜鳴は講義を始めた

「遺伝子とは不公平にして気まぐれなものです。両親の長所ばかりが遺伝すれば有能な、短所ばかりが遺伝すれば無能な子が産まれてしまいます。そしてこのリュパン4世は・・・」

 

「やめろ・・・言うな・・・」

 

「優秀な能力が遺伝しなかったんですよ、稀なケースですがそうゆう事もあり得るのが遺伝です。初代のように一人で盗む技量も、先代のように精鋭を率いるリーダーシップも無い、まさにこの4世は才能に恵まれなかった無能な子です。この4世の存在意義は次の世代・・・優秀な5世産む、ただそれだけのために存在してるようなものなんですよ」

そう言って理子からロザリオを引きちぎり代わりに置いてきた偽物を理子の口に押し込んだ

「だからって何で理子をそんなに虐げる?うっかり死んだらそれこそまずいんじゃないのか?」

「絶望が必要だからですよ・・・彼を呼ぶためにはね・・・」

「え?」

 

「さあ かれ が きたぞ」

 

――バキ、バキ――

 

小夜鳴のスーツはビリビリに破けてゆき体が肥大化してゆく・・・

それだけじゃない・・・口からは牙が生えて皮膚の色は赤褐色になって全身が毛むくじゃらになってゆく・・・

まさに・・・化物だ・・・

そうとしか言いようがなかった

「初めまして、だな」

何人かが同時に喋っているような不気味な声だ・・・声帯まで変わったのか・・・

「オレたちは頭の中でやりとりすんでよ・・・お前らのことは小夜鳴から聞いてるよ。今のオレが・・・ブラドだよ」

「そうか・・・人間に擬態するために小夜鳴という姿だけじゃなく小夜鳴という人格までお前の中で作り上げていたってことか・・・」

「まあ――そんなところだ」

とブラドは大雑把に答えた。

どうやら小夜鳴とは違い細かい講義はしないようだ

「う・・・・」

「おぅ、久しぶりだな4世、そういえばお前は俺が人間の姿になれるのを知らなかったな」

ブラドは長く鋭くなった手で理子の頭を掴むと片手で軽々と吊り上げた

「ブラドォ・・・約束が違う・・・オルメスの末裔を倒せば・・・あたしを・・・自由にするって・・・」

「グァバハハハハ!お前は犬とした約束を守るのか?」

「―――――!!!」

リコは悔し涙を流していた

「檻に戻れ、繁殖用雌犬。放し飼いにしてみりゃ面白れぇと思ったんだがあんな出処も分からねえ雑種にもやられてお前は自分の無能を証明しただけだった。お前の存在意義は品種改良された優秀な5世を産む、それだけだ。そいつからならいい血が採れるだろうよ!遠山、お前の遺伝子とでもかけ合わせてみるかぁ?」

 

―――下衆め

 

「ほら、人生最後のお外の光景だよーく目に焼き付けておけよ4世!ゲハハハハ――」

「おい!ブラド!」

突然氷牙が叫んだ

「あ?何だ?まさかこんな4世のために怒ってるのか?」

だが氷牙は・・・

 

 

「いや?補講はもう終わりか?なら俺もう帰っていいか?」

 

 

「「「は?」」」

 

お前・・・

 

 

 

 

今・・・なんて言った・・・・

 




一度は見捨てます
だって氷牙君まだ理子にあれしてもらってないから

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