緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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一般高校編開始します。



115話<潜入開始>

「今日から転校してきた遠山キンジです」

「同じく九狂氷牙です」

潜入先の一般高校への転校初日、俺とキンジは防弾性も防刃性も無い布製のブレザー制服を着て自己紹介をした。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

だがクラスの皆さんは氷牙を見て完全に固まっていた。

そりゃ担任がいきなり今日から転校生が二人いると言ってどんな奴か期待させておいて入ってきた片方が顔半分を眼帯で覆って右手にだけ黒の革手袋を嵌めた男なんだから無理もない。

 

「あー・・・皆、質問はあるか?」

担任が固まった空気を何とかしようとすると一人の生徒が意を決して手を上げた。

 

「あの・・・失礼なこと聞くかもですが九狂君・・・それってファッションですか?」

「ファッション?もしかしてこの眼帯や手袋?」

「う、うん・・・けどうちの学校じゃそうゆうのって確か校則違反なはずなんだけど・・・」

そう聞かれると担任もどう説明した物かと顔をしかめた。ちなみにこの人は俺とキンジが潜入捜査でこの学校に来ている事は知らない。それを知っているのは校長と一部の教員のみだ。それ以外の人にとって俺は・・・

 

「いや、そういう訳じゃないよ。まあ・・・見てもらった方が早いかな」

と言って氷牙が何てこと無いように右腕の手袋を外して袖をまくり、義手のカバーで覆った右腕を見せた。

 

『―――っ!!!』

 

「俺、右腕義手なんです。顔にも大きな傷があって眼帯してます。ちなみに眼帯や手袋付ける許可は先生からも校長からも頂いてます」

「あ、ああ。そういう事だから特別に許可を出してある」

それ以外の人には体にハンデがある転校生としか知らせていない。まあそれが一番納得できるところだろう。

 

「ご、ごめん・・・悪いこと聞いて・・・」

気まずそうな空気になったので

「別に気にしなくていいよ?ほら?」

氷牙はその場で軽くバク転を決めると片手で逆立ちして見せた。

「え?ええ!?」

「この通り運動は得意ですのでお気になさらず。むしろ運動部の方は俺と競って自信失くさないようにしてくださいね?」

と、クラスの運動部へ挑戦的な自己紹介を決めた。

 

「それで?他に質問ありますか?」

そう言うと他のクラスメイトも堰を切ったように手を上げて質問責めにしてきた。

 

「2人の趣味は何ですか?」

「料理かな?特にスイーツ系は得意です」

「テレビで映画を見るくらいかな・・・」

「何か特技あります?」

「さっきお見せした通り運動は得意です」

「特技は・・・別に無いな・・・」

質問に氷牙は一つ一つそつなく答えてゆくが、もともと社交性の無いキンジは一言二言でしか返さないため

「彼女います?」

「そんなもん・・・「こいつには今んとこ8人います。これからも増えてゆくでしょう」・・・は!?」

しびれを切らした氷牙はキンジに代わって代返、そして大暴露してやった。

 

そしてクラス全体がざわつく

「え?8人?マジで?しかもさらに増えるって・・・」

「はい、こいつは天然ジゴロで特級フラグ建築士。それなのに本人は無自覚で常時発動してるものだから余計にタチが悪いんです。なので女子の皆さん注意してください?いつの間にか攻略されてるかもしれませんので」

「何だよそのラブコメ主人公みたいな特性・・・」

「違う!!全部デタラメだからな!!俺に彼女はいない!!作る気も無い!!」

キンジは弁解するが氷牙やクラスの皆の興味は止まらず。

「というか九狂君と遠山君って知り合いなの?」

「ええ、2年位前からの腐れ縁です。あ、それと男子の皆さんにも忠告です。こいつ彼氏持ちには手を出しませんが恋人未満の方がいたら急いで先手を打ってください?でないとこいつに先取りされ「お前もう黙れ!!」

銃が無いので拳で黙らせようとするが氷牙はそれを何てことはなく躱して捌いてゆき、武偵校ではありきたりなどつき漫才へと発展していった。

 

 

 

 

 

 

 

「あー・・・そろそろ授業だ!二人共漫才の続きは後にしろ。委員長、二人が何かわからない事があれば教えてやってくれ」

「あ、はいっ、わかりました」

やがてHRの終了時間になり、担任が委員長と思しき女の子に俺達の世話を頼むと授業の担当の先生と入れ替わるように去っていった。

俺達もどつき漫才を止めて指示された席について支給された教科書を開き

「それじゃあ授業を始めます。昨日のページを開いてください」

どうやら昨日の続きをするようなのだがそう言われてもどこなのかわからず途方に暮れていると

 

「186ページの5行目からだよ。よろしくね遠山君。私、望月 萌。萌でいいよ。このクラスの委員長もしているから何かわからないことがあったらいつでも聞いてね?」

キンジの隣の席の女子、先程、担任に俺達の世話を頼まれたクラス委員長、望月 萌がキンジに自己紹介を兼ねて教えてくれた。

だがその笑顔は眩しいぐらいに純粋な笑顔でとても直視が出来ず。おまけにスタイルも容姿も白雪とも張り合える美少女でキンジとしてはヒステリア的にあまり関わりたくない、苦手なタイプだ。

 

「あ、ああ・・・よろし―――

だがそれでも挨拶だけでも返しておこうとすると

 

――カチンッ――

 

「――ッ!!!」

近くで銃の撃鉄を起こしたと思しき音がしたので反射的にそちらを振り返ると

「?」

金属製のペンケースを開けようとしていた男子生徒が何?と言った顔でこっちを見ていた。

「?遠山君?どうしたの?」

「い、いや・・・なんでもない・・・」

無意識に何も無い懐に入れた右手を机に戻し改めて教科書に目をやるが

 

――シャカッ――

 

――ピンッ――

 

――カチャッ――

 

あちこちから響く雑音に度々体が反応してしまい。それを抑えようとすると余計体がこわばって全然授業に集中できなかった・・・

お前ら音立て過ぎだ・・・・もしこれが武偵校なら5,6回は間違えて撃たれても文句は言えないぞ・・・

 

ちなみに氷牙は初めから取るに足らないといった様子で何処でどんな音が鳴ろうと眉一つ動かさずノートを取り続け、あろうことか欠伸さえ欠いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで?どうだったキンジ?」

放課後、帰ろうと昇降口で靴を履き替えていると氷牙がキンジに尋ねてきた。

「何がだ?」

「忘れたのか?ここは半年前までは望んで止まなかった場所だろ?今更だけどやっと来れて、今日一日過ごしてどんな気分だ?」

「・・・ああ・・・確かにそうだったな・・・」

確かにキンジは半年前はこの場所に行くことを望んで止まなかった。だが今となっては・・・

「何と言うか・・・こんなにも中身の無い、上っ面だけの世界だったなんてな・・・」

クラスメイト達の雑談を聞いていてよく分かった。本当に雑談だけなんだ。武偵校でなら戦術や資金繰り、装備についてと9割が実用的な会話に比べれば次の日になれば忘れてしまうような他愛ない、くだらない雑談ばかりで真面目な話がまるで無い。

いかにここが、一般高校というものが切った張ったとは無縁な、庇護された平和な世界か思い知らされた。

「まあ、そうだろうな・・・校長も言ってたしな。退学して一般校に行っても大抵は戻って来るって。そいつもきっとこの平和で空虚な世界に耐えられなかったんだろうな・・・」

「ああ、そして・・・間違いなく俺も・・・あの時退学してたとしても・・・また戻ってきていたか・・・それともこの学校すら辞めていたかもしれないな・・・」

 

 

 

「あれ?二人共何の話してるの?」

後ろを振り返ると萌が俺達に声をかけてきた。

「あれ?萌さん?何か用?」

「うん、これからクラス何人かでカラオケに行こうか話し合ってるんだ。よければ二人もどう?」

どうやらクラスメイトとの親睦を深めようと歓迎会の場を用意してくれているようだ。

「お、いいね。キンジも行くだろ?」

「あ、ああ。そうだな」

俺達は潜入捜査でここに来たんだ。わざわざ向こうから情報収集と調査の場を用意してくれるなんて願ったりかなったりだ。

 

萌に連れられて学校を出ようとグラウンドを通りかかると運動部が部活の真っ最中で活気にあふれていた。

「サッカー部と野球部か?どっちも随分気合入ってるな?」

「もう3年の先輩は引退だからね。後輩の育成に余念がないんだよ。ちなみに二人は前の学校では部活は何かやっていたの?」

「俺は運動はしてたけど特に部活には入ってなかったな」

「俺も特には・・・」

「ちなみに私は家庭科部なんだ。男子はいないけど入部歓迎だよ。2人共もどうかな?」

萌はちゃっかり勧誘してきたが残念ながら俺達は本当に転校してきたわけじゃない。意味もなく部活に入るわけにはいかない。

「俺は・・・女子だけの部はちょっと困る・・・」

「俺も今のところ部活に入る気は無いな。ただ・・・」

氷牙は活気よく部活に励んでいる一般高校生たちを見て

「ただ?どうしたの?」

「いや、こんな平和な場所も悪くないなって思ってな」

「ふふっ、何それ?まるで今まで平和とは無縁だったみたいだね」

「そうかもな?なにせ・・・」

 

「「おい!!危ないぞ!!」」

 

「え?」

シュートを外したサッカーボールと野球ボールがこちらに向かって同時に飛んで来た。

 

「伏せろっ!!」

キンジは棒立ちで固まっている萌を引き寄せて庇い

「やっぱりな!!」

氷牙はそう来るのが分かっていたかのようボールへ向かって飛び上がると

 

――パシィッ――!

 

飛んできた野球ボールを氷牙は左手、素手でキャッチすると同時に

 

――ドンッ――!!

 

サッカーボールをオーバーヘッドキックで蹴り返し

「らぁっ!!」

着地すると同時に野球ボールをアンダースロー投球で投げ返した。

 

そして蹴り返したサッカーボールはグラウンドの向かい側にあるゴールへと一直線に入り、投げ返した野球ボールもほぼ向かい側にいるキャッチャーのミットへと入ったが受け止めきれずにミットから弾き飛んでしまった。

「俺、神には死神にすら嫌われてるくらい不運なんだ。油断してるとすぐこれ・・・」

キンジと萌の方を振り返ると

 

萌はキンジに肩を抱き寄せられてキンジの顔まで数センチの距離にまで詰められて顔を真っ赤にしていた。

「あ、あの・・・遠山君?」

「あ、ああすまん!!ボールが飛んできたからつい・・・」

キンジは萌を慌てて離すが

「う、うん。その・・・ありがとう」

萌は顔を赤くしたまま礼を言った。

 

そんな二人を見て

(早速攻略してやがるよ・・・今度は何日で落とすかな?)

氷牙もそう呆れていると

 

――ブロロロロロォォォォーーー――!!

 

「「ん?」」

 

直管のバイク音が校庭に響き渡り、俺達がそちらに目をやればノーヘルで2ケツ乗りした一台のバイクが校内に入ってきた。

それに驚いた部活の連中は慌てて逃げだすがキンジと氷牙はバイクを見て唖然とした・・・

「な、なあ氷牙・・・あれは・・・何だ?」

「・・・見たところカワサキのゼファーだとは思うが・・・随分改造っつーか改悪してるな」

「あのカウル空気抵抗大きそうだな」

「マフラーも切ってあるな、うるさいだけで何の意味もないのによ」

「ステッカーも無駄に貼ってうっとおしそうだな」

「あんなの武藤が見たら激怒するぞ」

「ってか・・・あいつらこっち来てないか?」

「・・・もしかしたらこれも俺の不運のせいか?」

 

「あ、貴方達、停学中に何してるの!?それにバイクでの登校は禁止で・・・」

突っ込んでくるバイクに対して微動だにしない俺達に何を思ったのか萌は止めようと俺達の前に出ていった。

「っておい!?何してんだよ!?」

 

「――ッ!?どけぇ!!」

その間にもバイクはこっちに向かって真っすぐ突っ込んできており、萌に気付いて慌ててハンドルを切ろうとしたようだがすでに正面衝突まであとの数mの距離にまで差し掛かっていたため

「ヤバいぞ!!避け切れない!!」

「くそっ!!氷牙!!フォローしてくれ!!」

キンジは慌てて萌へと駆け寄り抱き上げるとバイクを躱し、すれ違いざまにバイクの後輪ブレーキに蹴りを入れてバイクの速度を落とし

 

続いて氷牙がバイクのハンドルを掴むとフロントブレーキをかけながら自身を軸にバイクを一周振り回し

 

「「うぉっ!?」」

 

その際にバイクに乗っていた二人も振り落とされて受け身も取らずにグラウンドに転り、その際の痛みでか悶えていた。

 

「って、受け身くらい取れよ!?取れないくせにヘルメット脱ぐんじゃねえよ!?後さっさと立てよ!?」

車輌科じゃ振り落とされるなんて日常茶飯事だからヘルメットを着けてると受け身が取れないとみなされて馬鹿にされる。だから1年はまずヘルメットを脱ぐために受け身と痛みの耐性を必死に身に付ける。それに振り落とされてもすぐさま立ち上がって立て直さないと後続車に容赦なく轢かれるぞ。

 

「無理言うな、素人はバイクから振り落とされるなんて想定すらしてないんだからよ」

「そうかよ・・・まあ、お前が転校初日から女を落とすのは想定していたがな」

「は?」

キンジは自分の状況をよく見ると

「あ、あの・・・と、遠山・・・君・・・」

萌はキンジにお姫様抱っこされた状態で顔をさっきよりも一層に真っ赤にしていた。

「ああっ!!すまんっ!!」

キンジもあわてて萌を下ろし

「あ、あの・・・そ、その・・・・」

萌も顔を真っ赤のままその場で俯いてしまった。

 

そんな二人を見て氷牙も呆れながら

(何日もいらなかったか。ありゃもう落ちてるな)

そう思いながらバイクのスタンドを下ろしその場に立てかけると

 

「く、くそっ!!なんなんだよテメェ!!」

バイクに乗っていた二人もようやく立ち直ったのか立ち上がってこちらを睨み付けてきた。

「なんだ?やっと起きたのか?受け身も取れねえ、すぐに立てねえ、しかも何だよあのバイク、改悪どころかロクにメンテもしてねえのか?」

これじゃあ落第点もいいところだ。武偵校じゃ中等部どころか初等部からやり直せってレベルだぞ。

 

「う、うるせえ!!テメエ誰だ!?そんなスカした格好しやがって!!」

「九狂氷牙、今日から転校してきた。あいつも同じく転校してきた遠山キンジ」

「あ、どうもよろしく。2人共随分痛がってたみたいだけど大丈夫か?」

キンジも二人の前に出て来て挨拶するが

「お前ら!!俺達の愛車にきたねえ手で触りやがって!!ただで済むと思ってんのか!?」

「愛車にきたねえ手?きたねえ愛車に手での間違いじゃねえのか?」

「まあ・・・確かに改悪も手入れも酷すぎるな・・・いいメカニック紹介しようか?まずはこっぴどく説教されると思うけど・・・」

キンジも珍しく氷牙の意見に肯定した。実際ロクにメンテも洗車もしてないのかバイクは汚れまくりだ。武藤が見たらマジで激怒ものだぞ。

 

「んだとゴラァ!!」

「もう許さねぇ!!ぶっ殺す!!」

それが逆鱗に触れたのか二人は殴りかかってきた。なんともキレやすい奴らだ。

 

だが痩せている方は素手でキンジに殴りかかって来るが所詮は素人のパンチだ。キンジは大して痛くも無いので受け続け、

対して太った方は野球部が逃げる際に落としたバットを拾い上げて氷牙に殴りかかろうとするがそれも素人のそれだ。氷牙はヒョイヒョイと難なく躱し続けていた。

 

「や、やめてぇー!!」

そんな俺達にとってはの茶番に萌が必死に泣き叫ぶので

(氷牙、頼む。このままじゃ笑いそうだ)

キンジは氷牙にちらりとサインを送ると

(了解。じゃあそうする)

氷牙も頷いて

「フッ!!」

カウンターで相手の右手にハイキックを入れてバットを弾き飛ばし

 

――ガシャァァンッ――!!!

 

飛んでいったバットは校舎の窓ガラスを割って室内に飛び込み

 

数秒程遅れて

「お、お前らぁーー!!停学中に何やっとるかぁーー!!」

慌てた様子で担任が窓を開けて怒声を上げてきた。

やれやれ・・・最初からこっちに気付いてたくせにやっと出てきたか・・・まあ、こうすりゃ見て見ぬふりはもう出来ないから出てくるしかないよな

 

「や、やべ!!逃げるぞ!!」

「く、くそっ!!覚えてろよ!!」

2人はバイクにまたがると一目散に逃げていった。

覚えてろね・・・それは武偵校じゃ親愛の言葉なんだけどな・・・

 

「ふ、二人とも大丈夫!?」

萌が慌てた様子で駆け寄ってくるが

「別に何とも?」

「い、いやあ・・・痛かったな・・・」

氷牙は全部躱していたので全くの無傷であったが、キンジは一応は殴られているので痛がっているふりをした。

 

実際何て事はないのだ。萌を宥めて気を取り直してカラオケに行こうとしたがいつの間にか担任がこちらに来ていて

「おいお前達!今すぐ保健室に行け!その後で何があったか話を聞かせてもらうぞ!」

 

「「あー・・・・」」

 

一般校じゃ暴力沙汰どころか窓ガラス一枚割れただけでも大事になるんだ。保健室に送られるのも事情を聞かれるのも当然だろう・・・何かあれば担任にも責任が行くのだから・・・

ったく・・・いざ関わると仕事が早いな・・・

 

「悪いな・・・カラオケはもういけそうにない・・・」

「だ、大丈夫!私からも説明するから!!」

そうして俺達は保健室からの生徒指導室へと連行され。ようやく解放されたのはすっかり日が暮れた後の事だった・・・

 

 


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