緋弾のアリア 狂牙の武偵   作:セージ

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2日目入ります



95話<文化祭・2日目>

「んじゃあ料理は作り置きしといたしレシピも残しておいたから後は頼むぞ?」

 

「うん、あとは任せて」

「ああ、何とかやってみせるよ」

「食材も輸送ヘリ総動員でたんまり仕入れといた!心配するな!」

 

文化祭2日目、俺とレキと凛香は午後からはシフト外で自由なので制服に着替えて学園を回ることになった。本当は繁盛しすぎてホールは人手を増やして回せてはいたがキッチンは人手が足りなく、その上氷牙と白雪どちらかが常にキッチンにいないと料理の質が劇的に落ちることが判明してしまい離れる事が出来なかったのだが・・・

 

「ワトソンも頼んだぞ?レシピあるとはいえほとんど一夜漬けで覚えたんだろ?大丈夫なのか?」

 

「心配は無用だよ。それに先日の借りを返す時が来たんだ。頑張らせてもらうよ」

ワトソンが実は高い調理スキルを持っていることが判明して何とか交代で自由時間を作る事が出来たのだ。

 

「なら俺はもう行くぜ?後は頑張れよ?」

そして白雪、キンジ、ワトソン、武藤に見送られ俺達は変装食堂を後にした

 

 

 

 

 

 

「で?自由になったはいいがどうする?まさか自由行動時間取れるだなんて思わなかったから何も計画立ててないだろ?」

「でしたらこちらを見て気の向くままに回ってみてはどうですか?行き当たりばったりでも楽しめると思いますよ?」

レキは学園祭のパンフレットを差し出してきた。

武偵校のパンフレットはそこらの学校のコピー機で白黒印刷したのをホチキスなんかで止めたパンフレットとは違いカラー印刷の背表紙もある1冊の本になっていて付録に着け札までついている。

これは諜報科が各クラスの出し物とPRを集め、それを元に情報科が一冊の本にまとめ、装備科が印刷した共同作品でもあり学園入り口や各所でいくらでも無料配布している。

その証拠に裏表紙には情報収集:諜報科、編集:情報科、印刷・出版:装備科としっかり書いてある。

毎年の事だがあいつ等はここで自分の科の情報収集力や分析・解析技術、生産技術をアピールしてるからどうあがいても先手は必ず取られる。

 

まあその代わり俺達の事もしっかり書いてくれてるから誰も文句は言えないんだよな・・・むしろ宣伝にもなるからありがたいくらいだ。

最後のページなんかには教務科以外の全ての科のPRも記載してくれるから尚更ありがたい

 

え?なんで教務科以外なのかって?だって入学して所属する場所じゃないだろ?それに考えてみろよ。強襲科もだが武偵高三大危険地域の一つだぞ?前職が特殊部隊・傭兵・マフィア、挙句の果てには殺し屋と聞かなきゃよかった経歴をお持ちの方々が大集合している場所だぞ?いいところなんて期待するだけ失礼だろ?むしろ触れない方がいいだろ?知らない方がいいだろ?

 

 

 

 

「じゃあまずは、昼飯もまだだし何か食べに行くか」

そう言うと凛香が

「食堂なら真後ろだよ?」

と先ほど出てきた食堂を振り向いたが

「・・・あそこの料理・・・作ってるのはほとんど俺と白雪だぞ?」

「あ・・・確かにそうだよね・・・」

「私達、ほぼ毎日食べてますね」

 

我が家の家事は分担して行っている。掃除は全員で、洗濯は凛香とレキに「絶対に私たちがやる!!」と顔を赤くして押し切られた。まあ・・・下着とかあるしな・・・

ちなみに炊事は俺と凛香が交代で行っている。レキは?修行中だ・・・白雪曰く今までちゃんとした物を食べたことが無かったのかどうも味覚がズレているらしい・・・レシピ通りに作れば完璧に再現できるようにはなったのだが・・・知らない物やアレンジした物を作るとそれは殺人レベルの代物になる・・・

(視覚、聴覚は超1流でも味覚は3流か・・・今まで薬とカロリーメイトしか口にしていなかったわけだから無理もないか・・・)

 

ちゃんとした調理を覚えさせるためにもまずはその痩せ細った舌をある程度肥えさせてやらねばならない・・・

そうなるとまずは色々なちゃんとした物を食わせてやらないとな・・・

ならいい機会だし・・・適当に屋台を食べ歩いてみるか・・・

ひとまずの目的が決まるとパンフレットに目を通し

「じゃあ、近くで車輌科が屋台出してるからまずはそこに行くか」

目的地を決めて歩き出した

 

 

 

 

 

 

「あ、氷牙先輩だ」

 

車輌科の屋台の暖簾をくぐると俺を見るなり金髪に近い茶髪をポニーテールにしてまとめた背の高い女の子が屋台から身を乗り出してきた

「よう、貴希ちゃん。調子どうだ?」

この子は武藤貴希、武藤の妹でこの子も武藤と同じく車輌科の生徒だ

「繁盛してるよー!来るお客さんはみんな一番大きい箱、20個で買って行くからね!」

「買っているんじゃなくて買わせてるんだろ?貴希ちゃんも平賀ちゃんと同じでそういう商売勘定はSランクだからな・・・」

「大ジョーブ!20個買ってくれた人にはもれなくウィンクと投げキッスもサービスしてあげてるから!」

それが余計に繁盛させてる事を分かっててやっているのか・・・貴希ちゃんは顔は美人で女子なのに170はあるモデルみたいな高身長、サーキットじゃ有名なレースクィーンでもある。そんな子にこうやって身を乗り出して迫られた挙句そんなサービスまでされたら大抵の男は落ちて20個買って貢いでいくのだろう・・・末恐ろしいよ・・・

この外見と末恐ろしさからではとても武藤の妹だなんて信じられない。初めはそう思うだろうが・・・

 

「それと氷牙先輩、また勝負してよ!今度の改造はかなりの自信作なんだよ!!」

「これ以上改造って何したんだ?まさかロケットエンジンでも搭載したのか?」

冗談半分で質問してみると

 

「ううん?ジェットエンジン搭載した」

・・・やはり武藤の妹だ、血は争えないのかこの子もまた武藤に並ぶ乗り物オタクで俺の隼の改造にも携わっており、超がつく程のスピード狂である。

新婚旅行から帰ってきた時、修学旅行Ⅰで誰かに勝手に改造されていた俺の隼を見て武藤や平賀ちゃんは勿論だったがそれ以上に貴希ちゃんは俺に掴み掛かって誰が改造したのかと問い質してきた。

だが俺だって詳しくは知らない。東京から持ち出されてその後京都の国道で発見されたときにはもうこうなっていたんだ。としか答えようが無かった。

そして制作者が不明と知ると貴希ちゃんは俺の隼をネジの1本から配線と一つまでを寝食も忘れ不眠不休で穴が開く程に分析し始め。

心配になった俺と武藤と平賀ちゃんとで交代で様子を見ていたが5日目の夜に全ての解析が終わると貴希ちゃんはバイクの前に膝を着いて目の下には隈が濃く浮かび、煤だらけになった顔を俯かせた状態で放心した。

驚いてどうしたのか肩をゆすって問い詰めると貴希ちゃんは焦点の合っていない目でこちらを振り向くとやがて口を動かして

 

「無理だ・・・こんなバイク・・・私には作れない・・・」

 

そう呟くとそのままぶっ倒れて救護科へと運ばれていった

 

 

そしてさらに数日たって容体が回復した貴希ちゃんから話を聞くと

 

改造個所や内容などを省いて結論だけ言うとあの改造はマシンの性能を完璧に限界以上に引き出している。それも氷牙の乗り回し技術や運転のクセ、何よりも人間ではない体を熟知した上で調整されて他の人間というよりも人間が乗りこなすことを前提としていない改造がされており、まさにこのバイクは氷牙のために改造された氷牙だけが使いこなせる氷牙専用のバイクだと。この改造をした人は紛れもない天才だと。賞賛の混めた説明をしてくれた。

 

そして・・・

 

「私はこの人には敵わない、でもスピードだけならこの人に勝ってみせる!!」

そう意気込んで以来貴希ちゃんはいつか必ずこのバイクを超えるスピードを出せるバイクを作って見せると、以前にもましてスピードを追求するようになってしまったのだ・・・

 

 

 

「で?氷牙先輩?何度も聴くようで悪いんだけどあのバイク誰が改造したのか本当に分かんないの?」

「ああ、何度も言うが俺だってわからない。バイクは勿論だが実際に京都まで行って発見された現場だって調べたんだろ?結局手掛かりも何も無し・・・もう探しようが無いんじゃないのか?」

ちなみにあの手紙の事は伏せてある。見せたところでムカつくだけだし・・・あいつ等の事はお互い詮索は無しって約束だからな。それに・・・

「ハァ・・・制作者が分かれば今すぐ武偵校中退してでも弟子入りに行くんだけどなァ・・・」

やっぱり言わなくて正解だな・・・もし俺のせいで貴希ちゃんが学校辞めたりしたら俺が武藤に戦車で轢き殺される・・・いや、戦車でも小型ならなんとか勝てるか?戦車砲は喰らったことないけど榴弾みたいに爆発さえしなければデカい銃弾みたいなもんだし打ち返せるかな?

 

「それで?話し戻すけど氷牙先輩は幾つ買ってくれるの?彼女っていうか奥さん2人も連れてるんだからいい所見せてよォ?轢いちゃうぞーーーー?」

「3人で食うからな、20個で頼むよ」

「まいど!さすが氷牙先輩!!ビンボーな遠山とは大違いだね!!」

「俺が言うのもなんだけどあんなのでも一応先輩だぞ・・・ちょっとは敬えよ・・・」

「氷牙先輩みたいに尊敬できる人は敬うよ?武偵は実力主義でしょ?氷牙先輩だって去年は2年3年の先輩方、力でねじ伏せてたんでしょ?去年の文化祭準備じゃ毎年1年がやるも同然の大掃除、薬莢拾いを2年3年にやらせたって話、私たち1年じゃ生きる伝説だよ?」

 

薬莢拾い、文化祭に向けて普段はそこら中に落ちている銃の薬莢をひとつ残らず拾って掃除する、各学年が代表者を出して三つ巴戦をして負けた学年が行う文化祭準備行事である。そうなればどうあがいても1番未熟な1年が負けるのは当然だ。だから毎年1年がやるも同然になっている。

だが去年は代表者であった俺が2年3年を叩きのめしたため去年の薬莢拾いは2年3年が合同で行う事になったのだ

 

「まあ楽は出来たけど・・・あの悔しさと恨みが混じった顔で延々と薬莢を拾い続ける先輩方の姿、今でも忘れられねえっていうか今でもあの時と同じ顔で睨まれるよ・・・」

 

雪辱を果たせず卒業してしまった元3年の方々はさぞ無念だっただろう・・・卒業式の日には2年に「俺達の代わりにこの屈辱を晴らしてくれ!!」と託してゆく姿があちこちで見られたらしい。ちなみに自ら留年を頼み込んだ生徒もいたらしいが数が多すぎて「こんなに留年させたら武偵校の評判に響く!!」と全部突っぱねたそうだ。なにせあの事件の後だ、これ以上悪評につながることは避けたかったんだろうな

 

「はい、20個お待たせ!」

「ああ、ありがと」

タコ焼きを受け取ろうとすると貴希ちゃんはそう言えばと思い出した顔になって

「20個買ってくれたけどウィンクと投げキッスのサービスは・・・いらないかな?」

「遠慮しておくよ。無暗に受け取ったら俺と貴希ちゃんの心臓本当に7.62㎜×54㎜R弾と7.62×51mmNATO弾で撃ち抜かれるからな」

「おー怖い!それじゃあ先輩方のように熱いうちに召しあがってくださいねーー!!」

 

 

 

そして先に席を取っておいてくれた二人の元に戻ると

「ほい、買ってきたぞ」

テーブルの上に買ってきたタコ焼きを置く

「随分あるね?幾つかってきたの?」

「20個買ってきた。3人で食うからちょうどいいだろ?それに凛香も、この後まだまだ回るからまずはちゃんと食べとかないとな?食べれば少しは消耗した魔力も回復するだろ?」

「え?」

「今日の午前どころか昨日からずっと受付で列整理してただろ。それも力まで使ってたじゃねえか」

「・・・やっぱり気付いていたんだ?」

「当たり前だろ?確か魔力消費激しくて何度も使えるものじゃなかったんじゃないのか?」

そう聞くと凛香はなぜか顔を赤くして

「そうだけど・・・それはほら・・・氷牙から魔力貰ってるから・・・」

「は?俺から?そんなものやった覚えなんてないぞ?」

「ええとね・・・その・・・魔力を持つ人にとっては血や・・・精は魔力の塊みたいなものなんだ・・・その上、氷牙は悪魔の血を濃く引いているから・・・魔力の濃度だって普通の人間の比じゃないよ」

そう言って俺の下半身、ある部分を指して説明してくれた

 

「あー・・・そうきたか・・・」

まあ、確かに最近じゃ夜も魔王になって二人にブチかましまくってますよ・・・だって二人がかりなんだからこっちも本気で頑張らざるを得ないんです・・・

「だからその・・・氷牙がくれた精が私の中で魔力になって吸収されたんだ・・・そのおかげで力を使っても元気だよ」

つまり俺は本当に二人に搾り取らていたわけか・・・

「待てよ?てことはだ・・・その理論で行くとレキはもしかして・・・」

「うん、ただでさえ契約で繋がれた経路で魔力が供給されている上に毎晩のようにあんなに撃ち込まれてるんだよ。もう人間の限界どころか純粋な悪魔にだって引けを取らないほどの魔力を所持しているよ」

 

レキ・・・もしかしたら俺やキンジよりもあいつが一番人間辞めつつあるんじゃないのか?

「・・・てかそれって大丈夫なのか?レキは俺や凛香と違って多分純粋な人間だろ?」

「それなら大丈夫、身体能力が上がったり、人によってだけど性格が少し変わったりする事もあるけど氷牙が心配するようなことはまずないよ」

性格が変わるか・・・確かにその兆候ともいえるのか最近・・・

 

「ん?あれ?これ爪楊枝2本しか入ってないよ?」

箱の中も探すがやはり爪楊枝が2本しかない。

これでは1本足りないので貴希ちゃんの所に貰いに行こうかと思ったら

 

――クイクイッ――

 

「ん?」

袖を引かれてレキの方を見ると

 

レキはタコ焼きを俺に突き出してジーっと見つめていた

 

それも爪楊枝に刺したのではなく自分の口に銜えた状態で・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

行けってか?こんな面前で?行けってか!?

 

ま、行くけどね!!

 

氷牙はレキの後頭部に手を回すと

「ん・・・」

タコ焼きを一口で頬張るとレキもすかさず俺の頭に手を伸ばして両手でホールドすると

「んっ」

ペロリと俺の唇についていたソースを舐め取った

 

「ご馳走様です」

「・・・それは俺の台詞じゃないのか?」

性格に変化が出た影響なのかレキの奴・・・最近肉食になってきているな・・・まあこれもこれで好きですけどね!!

 

 

 

 

そう考えていると

 

――クイクイッ――

 

今度は凛香から袖を引かれた

 

そして振り返ってみれば

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

対抗心を燃やしたのか今度は凛香がタコ焼きを自分の口に銜えた状態で俺に突き出していた。

ただし目を閉じて顔は真っ赤、かなり無理して頑張っているのも手に取るように分かる・・・

 

先程と同じように凛香の後頭部に手を回すと

 

「ん・・・」

 

タコ焼きを一口で頬張ると凛香はそれ以上は何もしてこなかったのでそのまま咀嚼して飲み込んだ。

 

その間も凛香は顔を真っ赤にしていたが飲み込むと同時に目を開けたので氷牙は凛香の後頭部に回した手でそのまま顔を引き寄せると

 

「んっ」

 

ペロリと凛香の唇についていたマヨネーズを舐め取った

 

「―――ッ!?」

 

目を開けたと同時に唇を舐められたことを認識すると真っ赤な顔を更に赤くして

「え、ええと・・・ご、ごちそうさまでしたっ!!」

と礼を言ってきた

「だからそれは俺の台詞じゃないのか?」

 

そうやって俺は爪楊枝を必要とする事無く、まるで雛鳥に食事を与える親鳥のように二人から交互にタコ焼きを食わせてもらい、結局ほとんど俺が食った辺りで

「あのー氷牙先輩・・・お熱いところすいませんが他のお客さんがドン引きしてるのでこれ以上乳繰り合うなら他所でやってくれませんかねぇ?」

流石に商売の邪魔になってきたようで貴希ちゃんにもジト目で突っ込まれてしまった

「あー・・・悪い悪い、じゃあ次行くわ」

そう言って20個全部食い終わると俺達は次へと移動した

「夜道には気を着けてよ!!氷牙先輩いつか轢かれちゃうよ!!」

「そりゃ俺の隼に追いつける奴が来るってか?だったら楽しみだよ」

 

 

 

 

 

そして再び気ままに歩き回っているととある模擬店の前で足を止めた。

入り口はドアの代わりに黒のカーテンで覆われ中は全く見えない、ただ入り口前には「予言の間」と書かれた看板と受付には修道服を着た生徒が座っていたのでどこの科の何の模擬店なのかはすぐに察しがついた。

 

ここは・・・SSRの占いか・・・それも予言・・・ってことはいるな・・・

「・・・レキ、凛香、ちょっと寄っていくぞ」

「ここに?何か占ってもらうの?」

「ああ、それに・・・せっかくだ。これを逃したら次は何時になるかわからないからな。ついでに話も付けておこう」

 

そして3人で受付に向かうと

「あ、九狂さん」

受付の子が俺に気付いた

「3人、入れるか?」

「ええ、中に入ったら7番の部屋にどうぞ。九狂さんが来たらそこに通すように仰せつかっています」

予知済みってわけか・・・

そして俺達は教室の扉に下げられたカーテンをくぐった。

 

中に入れば教室の中には番号が振られた2人くらいが向き合って入れそうないくつかの小型のテントが吊るされておりその中も黒のカーテンで覆われて中の様子をうかがう事は出来なかった。

 

レキと凛香も空いているテントへと入ってゆき、俺も受付で言われた通りに7と書かれているテント・・・

 

と見せかけて隣のテントの幕を開けて中に入ると

「いらっしゃい・・・待っていたよ九狂君。でも入る場所が違うんじゃないかな?」

予想通り水晶玉を置いた小さな机に両肘を着いた女性が佇んでいた

 

「・・・よく言うよ、俺がこの時間に来て、あえてこのテントに入ることも予知してたんだろ?だから普段は引きこもりなあんたがここにいるんじゃねえか。なら用件も分かってんだろ?ミレイユ先生?」

この人はミレイユ・ノートルダム、SSRの主任教員で預言者ノストラダムスことミシェル・ド・ノートルダムの子孫だそうだ。

ただこう言った行事でもない限り滅多に人前に出てこない人でSSRの生徒でさえ3年間顔を合わせることなく卒業していった人も珍しくないらしい。

 

「どうだろうね?用件と言うのはもしかして気が変わってSSRに転科する気になってくれたのかい?」

「ハッ、それこそ白雪にまで説得するよう命じた時点で尚更行く気は無くなったな!」

「残念だねえ・・・君は私としては喉から手が出るほどの逸材なのにねえ・・・」

「よく言うよ。あんたらが欲しいのは俺じゃなくて俺に流れてる悪魔の血だろうが」

「私が欲しいのは君の悪魔の血だけじゃないさ、それとは別の取り込んだ力、そして君の連れている彼女達もまた―――」

そこでミレイユ先生は言葉を止めた。

 

氷牙がミレイユ先生の喉元にMP5Kの銃口を押し付けたのだから

「・・・ミレイユ先生、本題に入ろう。今日はあんたに警告しにきたんだ。もしそれ以上2人の事を詮索したり手を出したりしてみろ・・・その時はSSRの宣戦布告と受け取ってやる。全面戦争だって受けて立つぞ・・・」

 

俺が悪魔の血を引くと発覚してからSSRは何度も俺をスカウトしに来た。

それ自体はうっとおしいが仕方がない事だとわかってはいる。白雪も庇ってくれているし適当に流してあしらえば大して取るに足る事ではない。

だがその過程でレキと凛香が契約者と神姫である事がばれたら二人まで目を着けられてしまう。

それだけは避けたかったがそういうのを見抜くのはあいつ等の18番だ。いずれ感付かれる。

だからこそ事が起こる前に水面下で話をつけるべく今日ここに来たのだ。俺に目を着けているミレイユ先生が今日この時間に俺がここに来ることを予知して店に立っているだろうことを想定して。

 

「・・・そうするよ、私も死にたくないからね・・・一瞬だけど君が我々を蹂躙する光景が見えたよ・・・君は諦め切れないけどこれ以上二人には手を出さない事はノストラダムスの名に懸けて誓おう」

「そう言われると信用ねえな?大体、世界滅亡の予言が外れてからはノストラダムスの信用は墜ちて、名は忘れ去られていく一方じゃねえか」

「あんな預言外れて当り前さ、未来は無限の可能性を秘めている。しかし我々が進めるのはそのうちの一つに過ぎない。私の先祖が予言した未来もそんな無限にある未来のたった一つに過ぎないのさ。未来は遠ければ遠いほど変えるチャンスも多い。まして500年も先の変えようとする明確な意志さえあった予知なんて・・・書き換えるチャンスが何度あると思うんだい?当たるわけも無いだろう。意志があれば心も変わる、心が変われば人も変わる、人が変われば歴史も変わる。人も歴史も変わるときはあっけなく簡単に変わる。あの人も人の心だけは予知できなかったんだよ。そんな物・・・誰にも読める訳が無いのにねえ・・・」

 

ミレイユ先生がそう言うと氷牙もMP5Kを下ろした。

確かに・・・シャーロックも人の心だけは推理できなかったって言ってたからな・・・

 

「それじゃあ気を取り直して。せっかく来てくれたんだ。このノストラダムスの末裔が占ってあげよう。何を占って欲しいのかな?」

そしてミレイユ先生も先程のやり取りが無かったかのように占いの仕事に戻った

「なら俺達バスカービルがこの先どうなるか見てくれよ」

「君ではなくバスカービルのこの先をかい?若いんだからもっと別の事を聞かないのかい?君自身の恋愛運とか金運とか気になるだろ?」

「なら逆に聞くが俺の恋愛事情知ってるのか?」

「・・・確かに・・・相思相愛な奥さんが二人もいる君に恋愛運は占いうだけ無意味だね・・・」

「だろ?」

「金運も・・・少し前にたんまりせしめて文字通り掃いて捨てるほどあるみたいだしねえ・・・」

「だから消去法でこれしか聞く運が無いんだよ」

「でもいいのかい?そもそも私の予知を君は信じるのかい?」

「根から信じたりはしない。だから参考程度に聞く事にするよ。未来が少しでも分かれば欠片でも変えようという意思が生まれる。それだけでも聞いた意味はあるってものだろ?」

「そういうことなら私も手が抜けないね。久しぶりに本気で予知するとしよう!!」

ミレイユ先生は極限まで集中すると俺をじっと見据えて微動だにしなくなった

 

 

そして数分後

 

「ぶはっ!!」

息を吐いて集中を解くと椅子にもたれかかった

「どうだ見えたか?」

「ああ、これはすごいねえ。九狂君、というよりバスカービルにはこの先数知れない波が迫ってきているよ」

「波・・・波乱の波か?嫌になる予知ありがとよ・・・」

「いいや?確かに波乱の波も多いがそれだけじゃあないね。時には波が思わぬものを運んでくるようだね」

「思わぬもの?なんだそりゃ?」

「さあねえ、そんな細かいところまでは私も予知できないさ。先ほど言ったように未来は無限にあるのだからね。私の予知なんて所詮数ある未来の一つでしかない。そんなもの変えようとすれば自分の意思一つであっけなく変えられるからね」

「何とも参考にすらならない予知だな・・・てかそれ自分の予知真っ向から否定してるじゃねえか・・・」

「かもねぇ?まあ私に言えるのはここまでさ。どう捉えるかは君次第ってことさ」

「ま、適当に捉えとくよ。予言ありがとね」

そう言って氷牙は椅子から立ち上がった

 

「ああ、それと最後に一つアドバイスだよ」

「アドバイス?」

「予知なんて当たらなくて当り前さ。未来は自分の力で切り開くものだよ」

「だから・・・あんたどこまで自分の事否定する気だよ・・・」

そう言って氷牙は呆れながら部屋を後にした

 

 

 

その背中を見送ったミレイユ先生は

「そりゃあ否定したくもなるよ・・・君は死の運命ですら何度も否定して書き換えたんだ。そんな君に私の予知なんて言うだけ無意味さ・・・」

そうして水晶に目を落とせば

「おや?早速一つの波が目の前に来ているねえ・・・退けるか受け止めるか見物だね」

そう小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

占い館を出て先に出ていた二人と合流して次に行こうとしたら道中で武偵校の女子生徒が何か揉めている場面に出くわした。

何かトラブルか?まあ、祭りにトラブルはつきものだし俺達には関係のない話だな。

 

無視して通り過ぎようとしたら

「あ!!九狂君ちょうどよかった!!聞いてちょうだい!!実は・・・」

そうは問屋が卸さなかった・・・女子の一人が氷牙を見つけるなり藁にも縋るような勢いでこちらにやってきて逃がさないと言わんばかりに腕を掴んで勝手に説明しだしてきた・・・

 

「・・・つまりは軽音楽部のライブがあるのだが出演するはずだったメンバーが演出用の爆薬調合に失敗して救護科送りなって来れないと?」

事情を聴いてみれば・・・なんとも武偵校らしい理由での欠場が出たんだな・・・

「うん、それで「断る、じゃあな」ま、まだ何も言ってないよ!!せめて最後まで聞いてよ!!」

「うるせえよ!もうオチは読めたんだよ!!どうせ俺に代理でステージ出ろって言いたいんだろ!!」

「そ、そうだよ!九狂君楽器弾けるし歌上手いでしょ!?代理でステージ立ってほしいの!!」

「お断りだ!!俺は今日はレキと凛香と学園を回るんだ。他をあたってくれ!!」

受ける義理も無いし今日の午後の時間は全て二人の為に使うと決めているので断って手を振りほどき立ち去ろうとすると

 

「そ、そんなこと言わないで!!このままじゃスケジュールに穴が開いちゃうの!!」

今度は俺の腰にしがみついてきて離そうとしなかった

「いや知らねえよ!?別にたかだか一組分の穴なんて空いてたっていいじゃねえか!休憩だとか言ってごまかせよ!」

「そうにもいかないのよ!!入り口にもパンフレットにもノンストップライブ開催中って告知しちゃってるからたとえ1分だろうとも止めるわけにはいかないのよ!!」

「だから俺が知るかよ!!大体なんで俺に固執するんだよ!!別の奴に頼めばいいじゃねえか!!」

「そうしたわよ!でもみんな自分のクラスや科の催しもあって来れる人がいないのよ!!お願い!!勿論タダでなんて言わないから!!ちゃんと報酬も払うから!!」

「生憎だが俺はキンジと違って別に金には困ってないからいらねえよ!!」

「う・・・だ、だけど引き下がるわけにはいかないのよ!!お金じゃないならその・・・わ、私のから「尚更いらねえよ!!!!」あばばばばばばばばっっ!!??」

クトネシリカの力を使って体に電気を纏い感電させると女生徒の髪がハリネズミのように逆立ちやがてビクビクと痙攣しながらズルズルと足元に崩れ落ちた。

 

「手加減はした、数分で動ける。じゃあな」

そう言って今度こそ立ち去ろうとすると

 

「に、逃がすかぁーーー!!!!」

這いつくばりながらも今度は足にしがみついた。なかなか根性あるな・・・

「い、今のスタンガン!?酷過ぎるでしょ!!というか、本当にせめて最後まで言わせてよ!!すごい勇気ふり絞ったんだよ!!!」

「Sランクの嫁が二人もいる男にそんな事ほざけいてるお前のそれは勇気じゃなくて無謀だよ!!!大体モブキャラの分際でそんな展開ハナから期待してんじゃねえよ!!!」

「無謀だろうと今は譲れないときなの!!それにモブにだって意地はあるんだよ!!たとえ女生徒Aって名前しかなくても、たとえもう2度と出番がなくても存在意義は示すんだよ!!」

「だったらお前はもう存在意義を示してるよ!ど根性な残念ウザキャラとしてな!!それで満足してそのまま忘れ去られて行け!!」

言い争いながらもしつこくしがみつく女生徒Aを足を振り回して振り落とそうとしているが一向に離れようとしない・・・

 

次は全身麻痺レベルの威力で喰らわせてやろうかと思っているとやがてレキと凛香が割って入り

「その辺にしておいてください。そろそろ禁則事項というよりも触れてはいけない境界に触れてきています」

「氷牙、さすがにそれ以上は可哀想だからやめてあげて・・・」

 

氷牙は心底嫌そうな顔をしながら足を下ろし

「あのな・・・別に俺達にはこいつに恩も借りも無い、受ける義理も無い。そもそも、こいつがどんな無理難題言ってるかわかってるのか!?30分も無いのに1曲覚えろって・・・」

「ごめん・・・2曲なんだ・・・」

「ふざけんな!!2曲、頭に叩き込めってか!?なおさら無理に決まってんだろ!!」

「う、うん!わかってる!!だから何を歌うかは任せるから!!」

「だからってカラオケするのとはわけが違うんだぞ!!リハも無しのぶっつけ本番で楽器弾きながら2曲歌えって出来るかよ!!」

言うまでも無いが楽器を弾きながらボーカルを務めるのは容易な事ではない。

1度に2つの事を同時にこなすというのは数十回、数百回の反復練習を重ねて初めてできる芸当なのだ。

ましてやそれをリハーサルも無しでぶっつけ本番、2曲分も行うなどそれこそ無謀以外の何でもない

 

「でしたら提案があります」

「提案?」

「私とレキさんでボーカル受け持つよ。氷牙は楽器だけを受け持って」

「私達も出ます。構いませんよね?」

「え?・・・う、うん!!勿論だよ!!レキさんも姫神さんも声綺麗だからボーカル務まるよ!!」

「お前達代役する気か?」

「ええ、選曲はお任せします。楽器だけなら受け持てますね?」

「・・・そりゃ知っている曲なら出来るけどよ・・・そもそも俺は受けるだなんて言ってないし、何度も言うが受ける義理なんて無いんだぞ?」

「私達が代役を引き受ける理由は義理ではありません。ただ単純に私たちは出てみたいんです」

「出てみたいって・・・ステージにか?」

「うん、私たちライブがしてみたい。もちろん氷牙も一緒に三人でね」

「・・・曲はどうするんだよ?3人とも知っている曲じゃないと無理だろ?」

「私達同じ部屋に住んでるんだよ?氷牙が聴いてる音楽は私たちも聴いてるよ?氷牙だって私達の聴いてる音楽聴いてるでしょ?」

そりゃそうだ・・・

 

「それに・・・」

「それに?」

「折角の祭りなんです。どうせなら目一杯遊んで行かなくちゃ。ですよね?」

「あ・・・」

それは何なのか忘れるわけがない・・・かつて俺がレキにかけた言葉だ。まさか言い返される日が来るとはな・・・

「まいったね・・・最後にそれ言うか・・・」

「それで最後にもう一度訪ねます。氷牙さんはどうしますか?」

「二人が出たいって言って最後にそれ言われたら俺の答えなんてもう決まったようなもんだろ?本番まで時間がねえ!!俺はセットリスト組んで音響の連中と打ち合わせしておく!!二人は衣装着替えたらすぐに曲、頭に叩き込め!!」

 

「「はいっ!!」」

そうと決まるとレキと凛香はすぐさま楽屋へと向かった。

 

 

 

 

ちなみに・・・

「あ、あのー・・・出てくれてうれしいんだけど・・・私の事は無視ですか!?私の苦労は誰が労ってくれるんですか!?」

モブは最後までモブのまま忘れ去られていくのであった・・・

 

 

 

 

 

と思ったが・・・

 

 

 

――ゲシッ――

 

「あうっ!?」

そうは問屋、ではなく氷牙が卸さなかった。

氷牙は女生徒Aの尻を蹴りとばして強引に叩き起こし

「いつまでも突っ伏してないでお前も手伝え残念モブ!!」

「だ、だからってうら若き乙女のお尻を蹴っ飛ばす!?酷いよ!!」

「ならバットの方がよかったか?それともゴルフクラブか?理子に散々ぶちかまして要領は掴んだからな、一発でホールインワン決めてやるぞ?」

目がマジだ!!直感的にそう感じた女生徒Aは

「・・・二人の衣装調整して来ます・・・」

二度と座れない尻にされてはかなわないとこちらもすぐさまに動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「次が出番だ!!曲は頭に叩き込んだか?二人共いけるな!?」

「はい!お任せください!!」

「うん!とことん付き合うよ!!」

 

俺達は打ち合わせも着替えも終わり舞台裏で出番を待ち続けていた。

ちなみに衣装は俺は二人のサポートに徹するため普段の眼帯にシンプルな黒のジャケットとロングコートを着て、レキと凛香は白を基調としたまるで鏡合わせのように左右反転したおそろいのアイドル風な衣装を着ていた

 

え?感想無いのかって?んなわけないでしょ?もちろん俺もそうだが周りの連中も見惚れてましたよ。俺は褒めるついでに写真も撮らせてもらいましたよ。便乗して撮ろうとした奴には銃弾くれてやりましたよ。

 

「それと氷牙?さっき打ち合わせてた時のあれって・・」

氷牙は笑みを浮かべると

「もしもの備えだ。祭りにはサプライズがつきものだろ?」

そう言うと二人も笑みを浮かべ

「最初はあれだけ渋っていたのにいざやるとなった途端、随分乗り気ですね?」

「ああ、やると決めたらとことん楽しんでやるさ。開き直りは俺の18番だからな!」

 

『ありがとうございました。続いてのバンドですが急遽変更してええと・・・バスカービルの演奏をどうぞ』

 

って、バスカービル?確かにそれ俺達のチーム名だけど何でバンド名まで?

司会も務めている先程の女生徒Aを睨んでやるとあちらもすぐさま察したのかゴメンなさいと両手を合わせていた。

確かにバンド名なんて無いからしょうがないけど無理に名前つけなくてもいいだろ・・・

 

「ま、いいか。それじゃあ気を取り直して・・・行くか!!」

 

「「はいっ!!」」

 

 

そして俺達がスポットライトで照らされると演奏が始まった。

当初の打ち合わせ通り俺は楽器、ギターに専念してレキと凛香がボーカル、選曲は祭りに合わせたアップテンポのアイドルソングを2曲チョイスした。どちらもデュエットで歌う曲で1曲目は凛香が、2曲目はレキがメインで歌うように組んである

ほとんどぶっつけ本番で上手く行くか保証はどこにも無かったが・・・

 

(2人とも息ピッタリだな・・・逆に俺が置いて行かれそうじゃねえか・・・)

 

リハも何もしてないはずなのに二人の声は見事にシンクロしていた。そんなプロも顔負けな歌唱力と歌声に観客も盛り上がらないわけがなく

 

『ワァァァァァァァァァ!!!!』

 

1曲目が終わる頃には会場は大盛り上がりで、そのまま2曲目に突入したものだから盛り上がりは最高潮を突破した。よく見ればスタッフ総動員でカメラやマイク回してるよ・・・後で念押しとかないとな・・・

 

そしてあっという間に2曲目も終わりすべてのライトが消えた。

 

『バスカービルの演奏でした!!どうもあり『アンコール!!アンコール!!アンコール!!アンコール!!』え!?ええ!?』

 

盛り上がりすぎてアンコールが鳴り止まずスタッフたちは慌てているが・・・

 

氷牙とレキ、凛香はライトが消えている中で顔を合わせて頷くと氷牙はギターからキーボードの前に移動すると手元の照明のリモコンを操作してまずは自分を照らした

 

『アンコールありがとうございます。リクエストに応えて3曲目入ります』

 

そしてキーボードを弾き始めると

 

レキと凛香が再びスポットライトで照らされ

 

『I swear... I wanna steer my way ...』

 

キーボードの柔らかな音と共に先程までとは違い今度はバラード調の2人の見事にシンクロした歌声が静まり返ったステージに響き渡った。

 

(念のため備えておいた3曲目、大当たりだな‼)

 

この歌を選んだのも当然理由はある。

 

この歌はまさに俺達自身に捧げてる歌でもあるからだ。

 

たかだか十数年の人生の間でも様々なことがあっただろう

 

時に迷い、

時に悩み、

時に逃げ、

時に諦め、

時に挫け、

 

何度も躓いて、立ち止まってそれでも必死に前に進んで

 

ある者は絆の存在を、

ある者は進むべき道を、

ある者は守るべきものを、

ある者は己が虚無に触れられる痛みと温かさを知り

 

そうやって自分だけの軌跡を描いていく

 

この歌はそんな者たちと、その仲間たちを優しく労う歌なんだ。

 

そしてその思いがやがて観客にも伝わっていったのか、一人、また一人と無意識のうちに目から涙を流し

 

――パチパチパチパチパチパチパチパチ――

 

そして歌が終われば、会場からの涙を浮かべながらの拍手に包まれながら俺達はステージを後にした。

 

 

 

ライブの代役も終わり楽屋に戻り三人でハイタッチを交わしていると女生徒Aから感謝の言葉と共にこのままうちの部活に入部してほしいとか抜かしてきたのでアイアンクローで頭を掴み上げて黙らせた。

 

「い、痛い痛い!!下ろしてぇ~!!」

「調子に乗ってないでそろそろ舞台から降りろ残念モブ。後今回のライブ映像、無断で販売とかしやがったら2度と座れない体にしてやるからな?他の部員にもきっちり念押しとけ?」

「は、はいぃ~・・・ぐすっ・・・」

俺の手から解放された女生徒Aは涙目で今度こそ舞台から降りていった。最後まで残念な奴だったな・・・

 

 

 

 

 

 

そして着替え終わり改めて学園回ろうと外に出た直後

 

――♪~♪~――

 

氷牙、レキ、凛香、三人の携帯が同時に鳴った。

 

電話?何で三人同時に?

 

3人とも携帯を出すと

「俺は・・・キンジから?」

「私は・・・アリアさんから?」

「私は・・・白雪さんから?」

着信を確認して同時に出た

 

「「「もしもし?」」」

 

『氷牙!!今すぐ戻ってきてくれ!!お前の料理を取材させてほしいってグルメレポーターが有名な食通やパティシエやシェフを連れて取材依頼に来ているんだ!!』

『凛香さん!!今すぐ戻ってきて!!凛香さん・・・女神様を一目拝ませてほしいって宗教の偉い人達が来ているの!!』

『レキ!!今すぐ戻ってきて!!あんたが開発した栄養剤の特許を譲ってほしいって製薬会社の社長以下の重役が直々に来ているのよ!!』

 

「「「・・・・・・・・」」」

 

俺達は3人で顔を合わせると

「キンジが・・・今すぐ戻ってこいだと・・・」

「私も・・・」

「・・・私もです」

なんだろうな?このデジャヴ感・・・てか何度こうも次から次へと面倒事が舞い込んでくるんだ・・・

 

「・・・どうする?無視するか?」

「それ、本気で言ってる?」

「割とな、戻ったら確実に面倒事になってもう学園回れなくなるぞ?」

「でしょうね。だから私達との時間を取る為にそんな提案をするのですね」

「当たり前だろう?まだタコ焼き食って占いやってライブに飛び入り参加しただけで全然回れてねえじゃねえか」

「全然回れてなくてもかなり濃い時間を過ごしたとは思うけどね・・・」

 

 

「で?どうする?このまま無視するか?それとも自由時間捨てて戻るか?」

氷牙が尋ねるとレキと凛香は顔を合わせ、やがて互いに頷くと

「では逆に質問させてください」

「質問?」

「氷牙はどうしたいの?戻りたい?それとも戻りたくない?」

「・・・・・・・・・・・」

・・・俺はどうしたいか?そんなの決まってるだろ・・・

 

「・・・・・・悪い」

「ええ、貴方ならそう言うと思っていました」

「みんなが困ってるんだもの、氷牙が放っておけるわけないよ」

普段は薄情だが本当に困っているときは絶対に何とかする。氷牙はそういう男だ。レキも凛香もそれを分かっているからこんな質問を投げかけてきたんだ。

 

レキと凛香は手を差し出すと

「皆さんが困っています。行きましょう」

「早く戻ろう?助けてあげなきゃね?」

「ああ・・・本当に苦労が絶えないな!!うんざりするよ!!」

 

そう文句をこぼすが氷牙の顔は早く戻って何とかしてやろう。ついでに八つ当たりであのバカをシメてやろう。とでも考えてるようにしか見えないくらい楽しそうな笑みを浮かべていたのを見てレキと凛香もまた微笑ましそうに笑うのであった

 

 


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