ふと思いついたFate/zeroのネタ作品   作:ふふん

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金ぴかはオリ主

 その儀式は、万全であり完璧だった。幾度思い返しても、それしか言葉が出てこない。それほどの完成度。

 少なくとも、儀式自体には欠片の欠点もない。そう遠坂時臣は自負している。呼び出したサーヴァント・アーチャーは万全のステータス、スキルでここに在った。

 ならば、何が悪かったのか。臣下の礼も取った。落ち度は無かったはずだ。

 しかし、現実として黄金のサーヴァントは、時臣の語りに答えることすらせず。一瞥をくれると、すぐにおもむろに『何か』を取り出し――

 瞬間、令呪に激痛が走った。慌てて見てみると、そこには三画ある筈のうち、二画が消えており。さらに、アーチャーとのラインも消えていた。

 何が起きたのか知る暇も無く、アーチャーは巨大な何かを取り出す。それは、家を内部から軽々吹き飛ばし、そしてサーヴァントはいずこへと去って行く。

 これが、遠坂時臣の、最悪な聖杯戦争の幕開けだった。

 

 

 

 訳が分からん。空を高速で飛翔する宝具に乗って、俺は頭を抱えた。がしがしと頭をかく指も、靡く金髪も、当然俺本来のものではない。この肉体、と言っていいかどうかは分からないが、とにかく元の持ち主、ギルガメッシュのものだ。

 目が覚めたら、目の前に何かを勘違いしたとしか思えないアゴ髭親父がいた。しかもなぜか頭を下げてくる。この時点で反応に困らない奴はいないだろう。自分を気の利かない人間だとは思わないが、こんな状況で気の利いた事を言えるほどボキャブラリが豊富ではない。

 現状は、幸か不幸かすぐに把握できた。知らないはずの知識が、頭に膨大に詰め込まれていたからだ。その中でも重要だったのが、聖杯やらサーヴァントやら令呪やら。あとは戦争やらと物騒な単語。

 Fate、という物語がある。今の自分の環境は、正しくそれだった。しかも、スピンオフ作品であるFate/zeroの登場人物の一人、アーチャークラスのギルガメッシュ。

「訳分かんねー……」

 さらに深く頭を抱えて、背中を丸める。現状を把握できたところで、それを理解できるわけじゃないのだ。

 とりあえず、と。飛行宝具、おそらくヴィマーナを近くのビル屋上に着陸させた。別に冷静さが戻った訳じゃ無い。無駄に魔力を消費するのは避けるべきだと、そう思ったからだ。

 高所から、人工光に彩られた雑踏を見下ろす。それで何となく、自分が日常に混ざった気分を味わった。所用現実逃避だ。

「とりあえず、マスターを見つけないと……」

 このまま消えるという選択肢は、最初からない。アーチャーは単独行動スキルが高く、今のままでも数日は現界可能だろう。しかし、それを幸いと言うには、マスター候補に問題がありすぎる。

 まず、魔術師ですら無い雨竜龍之介は論外。同時に、サーヴァントを呼び出し済みの言峰綺礼も除外。魔力供給に不安が残る間桐雁夜もない。

 ここからは、まだサーヴァントを呼び出していないという前提の話になる。ウェイバーは、魔力供給量の問題で優先順位は低い。それに、ごちゃごちゃと文句をつけて来そうな奴はごめんだ。信頼関係を築けば話は違うのだろうが、生憎とこちらにも余裕が無い。

 次に切嗣。そもそも会話を放棄する時点で、文字通りお話にならない。こっちはなんとしても生き残りたいのだ。それに、物理的な距離も遠い。彼はセイバーに苦労してもらおう。合唱。

 最後はケイネスだ。こいつは限りなく本命に近い。魔術師として申し分なく、個人の戦闘能力も高い。切嗣ほどではないが頑なな部分こそあるが、あれはランサーも悪い。初っぱな寝取り能力発動さえなければ、もうちょいマシな主従関係だった筈である。天敵である切嗣にも、防御宝具を2、3貸しておけば問題ない。ただし、こちらも距離が遠い。

 こうして見ると、時臣はかなりの安パイだった。迂闊に飛び出したのが悔やまれる。まあ、最終的に裏切ってくるので、遅いか早いかの違いだと思って諦めよう。

 幸い、時臣から奪った令呪が二画、手元にある。これを使って、新しくマスターを作ってもいいのだが。

「誰かいるか? マスターにして角が立たない人間って」

 ぶっちゃけどこもヤバい。

 アイリスフィールは切嗣の言いなりだ。信頼関係を気付いて話を聞くようになっても、最終的には伴侶を選ぶだろう。あと下手したら修羅場。

 ソラウ。不可能である。今でさえ修羅場ど真ん中。能力を見せて、ちょっとそそのかせば内部に入るの自体は難しくない。戦力的には間違いなく全陣営最高だが、必ず自滅する。修羅場を見るのは楽しいが、強制参加はごめんだ。

 最終手段ですらない地雷、みんな大好き間桐臓硯。メリットを得るためにリスクを振り切ってどうするって話だ。

「あー、マスターさえいれば何とかなるのに……」

 そう、俺は、まともなマスターさえいればどの陣営と戦っても、絶対に勝てると思っている。

 ぶっちゃけギルガメッシュのスペックは異常だ。ただでさえステータスが高いのに、強さイコール宝具だというのが最高である。これが、宝具よりも本人が強いアルトリアやディルムッドではこうはいかなかった。

 加えて、王の財宝は初見殺し。考えてみて欲しい、相手の攻撃方法が分からず構えていると、いきなりミサイルが百発以上降ってくるのを。これをなんとかできる英霊など、まずいまい。

 イスカンダルも宝具頼りの英霊だが、能力の桁が違う。常時飛び回っているのは確かに驚異だが、逆に言えば、白兵戦能力が低いと言っているようなもの。少なくとも、セイバーやランサーに接近されてなんとかする能力はあるまい。当然俺にも、ギルガメッシュにも、密着されると普通に勝つ能力はない。

 宝具を発動されても、なんとかする自信がある。ランクの高い宝具は、螺湮城教本、騎士は徒手にて死せず、約束された勝利の剣、王の軍勢あたり。他にもあるが、ひとまず置いておく。まず前者二つは問題ない。俺は宝具が汚れるのなど気にしないし、奪われようとも対処不能な物量を投げればいい。状態異常やステータス低下系の道具を撒いてやるのも手だ。

 星の聖剣は、エアを使わずとも防御宝具を多数動員すれば、防ぎきれる。とは言え、セイバーの場合、迎撃や防御不可能なタイミングで放ってくる可能性が高い。油断は禁物だ。

 王の軍勢は……正直、コメントに困る。独立サーヴァントの連続召喚、確かに凄いだろう。凄いが、これが聖杯戦争でどれほど役に立つかと問われると、首を傾げる。考えてみて欲しい、宝具の殆どは『対軍宝具』以上なのだ。そう、軍隊をぶっ飛ばすのに適した宝具を持つサーヴァントが、山のようにいる。そんな中で軍隊を召喚? まあ、王の威厳を見せつけるには、この上無いのだろうが。そういう意味では、俺の憑依先がギルガメッシュで本当によかった。イスカンダルでは飛んで逃げる以外に何も出来ない。

「……思考が横にずれた。とにかく、マスターだよ。魔術師としての能力低くてもいいから、供給魔力多くて、あんまりごちゃごちゃ言ってこない奴。そんなのいるか? ……いや、一人だけいたか」

 俺は立ち上がった。同時に、移動用宝具を取り出す。漠然とした考えでも、最適な宝具を取り出してくれる王の財宝は便利極まる。

(確か、残りのサーヴァント召喚タイミングは殆ど同時だったか?)

 ならば、これから行く場所にもサーヴァントがいる可能性が高い。同時に、呼び出したばかりでは体制が万全とはいかないだろう。最悪戦闘になる事も考えると、付け入る最高のタイミングは今だ。

 ヴィマーナに乗って、最高速度で飛翔させる。

 目的地は、間桐邸だ。

 

 

 

 ――その瞬間、間桐邸は地獄と化した。いや、この呪われた家が地獄で無いなど、一度たりとて思ったことは無い。少なくとも間桐雁夜にとって、そこは地獄の写し身であった。

 しかし、今日のそれはいつもと毛色が全く違う。最初に感じたのは、衝撃波だった。あらゆる家具が吹き飛び、当然雁夜の体も壁にたたきつけられる。半ば砕かれた家は、残りの部分から崩れ落ちた。体が上げる悲鳴は、建物全体から響くきしみにかき消される。

 すぐに立ち上がれるほどダメージが少なかったのは、奇跡でもなんでもない。危険――それに反応したバーサーカーが、勝手に具現して構えていたからだ。骨を何本か持って行かれたはずの渦は真っ二つに裂かれ、その余波だけを浴びた。

 崩れた壁の向こうに広がる夜空を見ながら、とりあえず体をはたく。全身に被った埃が、霧のように舞った。床がぐらぐらと揺れており、とても頼りない。今にも抜けてしまいそうだ。

 ここは地獄だ。ただし、いつもの凍てつくようなそれと違い、灼熱の煉獄に落とされたような。ただ、地獄であるという事だけが共通している。どう変化しても地獄でしか無い間桐家に、なんだか笑いがこみ上げてきた。非常にばかばかしい。現実的ではない。まるで――そう、まるで、戦争のようではないか。紛争地近くの村であれば、こんな事もある、という程度の出来事。

 そして、そんな戦争に参加している自分も馬鹿馬鹿しい。魔術師の妄執に振り回された自分が、魔術師の怨念に参加した。どこもかしこも馬鹿ばかりの、非常にくだらない話。

 ただ、それでも。どれだけ馬鹿馬鹿しくも、許せないことがあり……救いたい人がいる。それを達成するならば、どんな犠牲を払ってもいい。少女に、もう一度笑顔を――

「桜ちゃん!」

 雁夜は絶叫した。崩れそうな床を無視して、破壊された断面まで急ぐ。縁の部分に手を突くと、がらりと崩れ、体を強くたたき付ける。今度はそのまま落ちないように藻掻き、体を安定させて、やっと下を覗いた。

 彼が休んでいたのは二階だ。床が壊されているのだから、それは当然一階まで貫通している。しかし、その大穴はさらに奥まで突き抜け、深淵のような闇に消えている。

「――――!」

 声にならない悲鳴が、頭の中で反響する。気が狂いそうなほどの絶望感。自分は、英霊召喚の疲れで休んでいたのだ。その次に、蟲蔵に入れられるのは、一人しかいない。

 体は、全身の麻痺も忘れて動き出していた。階段は今消滅した。半分消えた床部分から飛び、一階に置いてあるソファの上に降りる。それでもすり減った体力では衝撃を殺しきれず、強かに体を打ち付けた。痛む体を叱咤して、さらに深くまで続く穴を見る。地中深くまでくり抜かれたそこは、ちょっとしたビル程度の高さがある。さすがに、飛び降りれば死ぬ可能性が高い。

 暗くて何も見えなかった蟲蔵が、一瞬にして全てを照らした。そのあまりの光度に、蔵全体を恐ろしい火力で燃やされているのだと、気付くのが遅れる。

「くそっ!」

 悪態を吐く。もう一刻の猶予も無い。助走をつけて、いっきに飛び降りた。目的は、手すりも無い石をくり抜いて作った階段だ。着地と共に、踊り場にたたき付けられる。体をかばった左腕から、嫌な音がした。構うものか、どう鈍らで役立たずだったものだ。

「桜ちゃん! 無事だったら返事をしてくれ!」

 冗談のような火力にかき消される声。それでも、声を上げずにはいられなかった。

 まるで神罰が下ったかのような光景だ。間桐数百年の悪夢を、一瞬にして浄化するような熱を帯びた光脈。ただし、それは桜をも巻き込んで滅ぼそうとしている。

「どこだ――お願いだ――」

 体があぶられるのも、喉が張り裂け血が流れるのも無視して、ただ少女を探す。もうだめなのかも知れない、絶望が、脳裏をよぎった時だ。

 光の膜から、さらにまばゆく輝く何者かが姿を現した。黄金の鎧に、黄金の髪、紅の瞳。全てを金で構成した、圧倒的な存在。この煉獄の中にありながら、汗一つ垂らしていない。

 彼のことを、雁夜はしっていた。正確に言えば、彼のような存在の事を。

 ――英雄。到達者であり、世界が誇る奇跡の結晶。時代の輝きを収束させた、英知の具現者たち。バーサーカーを見たときは、知識として知っていても、そんな思いは抱かなかったというのに。目の前のサーヴァントは、まるでそういう存在の中心に立つように、当然と、悠然と、そこにいる。

 その化け物じみた男の脇には、一人の少女が抱えられていた。よく見知った、彼が幸福を願った少女。それが、今はぐったりと意識を失い、抱えられるままになっている。

「桜ちゃん! ……っ、貴様、桜ちゃんに何をした!?」

 一瞬圧倒されていた意識を呼び戻す。この惨状は、間違いなく目の前の男が引き起こした事なのだ。相対した男の反応は、一瞥、それだけだった。無視するように、何かを始めようとして――バーサーカーが、地面を踏み砕いた。

 正気を失っているバーサーカーは、そのトリガーを術者の感情にまかせている。つまり、雁夜が怒れば、バーサーカーも戦闘態勢に入るのだ。普段であれば、悪い事ではない。ただ、今は標的の横に桜がいるのだ。そして、バーサーカーに彼女だけ狙うのをやめるような正気と器用さはない。

「やめ――!」

 言葉は、最後まで続くことはなかった。一瞬前に突撃したバーサーカーは、次の瞬間には、雁夜の脇を通り過ぎて、壁に激突。ぎしりと音を鳴らして、そのまま霊体化した。

「……は?」

 何が起きたか、全く理解できない。いや、何をされたかは、偶然バーサーカーと視線を同調させていたから分かる。

 まず男の背後が揺らぎ、山のように針が飛んできた。騎士は徒手にて死せずという、持ったものを自分の所持物にする宝具。強力ではあるが、小さな武器が山のように降ってくれば、対処しきれない。幾ばくかは握れたものの、全身は殆ど穴だらけ。そして、動きが鈍った所に、巨大なハンマーをたたき付けられた。たった、それだけだ。

 英霊としてのステータスで言うならば、バーサーカーの圧勝だ。殆どが最高ランクであり、恐らく今戦争中最高だろう。しかし、そのバーサーカーが、まるで歯が立たない。一矢報いることすらできなかった。

 このサーヴァントには勝てない――何が起きても。それを刻みつけられるのに十分すぎた。

 それでも、いや、それですら、雁夜の心を折るには足りない。どのような恐怖であろうと、今の彼を折る事は出来ないだろう。死の覚悟も、とっくの昔にできている。――それが、ただの狂気であったとしても。

「こいつはもらっていくぞ」

 黄金のサーヴァントが残したのは、いまだ反骨心を見せる雁夜への手向けだったのかも知れない。

「ふざけるな! 桜ちゃんを――」

 しかし、それだけだ。もう雁夜の言葉に反応せず、背を向ける。そして、また空間が波打ち、出てきた巨大な何かで、男は去って行った。

 後に残ったのは、吹き飛んだ蟲蔵だけだ。雁夜しか、そこにはいない。桜は、もういない。

 火の勢いが衰えたそこで膝を突き、涙を流して絶叫する。いくら泣き叫んでも、敗北の苦さはごまかせなかった。


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