クラウドが斬る!   作:ばうむくうへん

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一年以上、間を空けたことを深くお詫びします。


帰還

帝国軍全滅。

 

  その報にオネストは思わず手に持っていた燻製肉を床に落とした。たかだが数名で構成されていると目されるアバランチに対し約五百もの軍勢を送りつけたのは、万全を期した訳でもなく、式典の舞台を彩るための演出に過ぎなかった。プレジデント神羅との賭け事を反故にしてまで「テロリスト集団アバランチ壊滅」を目論み、帝国の威光を国民に知らしめるまたとない機会と踏んでいた。

 

  その結果、耳にしたのは『全滅』の二文字、屈辱の他なかった。

 

「おやおや、賭けに勝って勝負には負けた、ということですかな、オネスト様?」

 

  プレジデントのあからさまな嫌味節にその場にいた兵等が顔をしかめる、いかに帝国の発展に多大な貢献をしたとは言え一機関のトップに過ぎない男の発言に誰もがオネストの逆鱗に触れたと身体を縮み上がらせた。

  暫しの沈黙の間に例えようのない重々しい空気が流れる中、オネストは静かに左手に持った壺から燻製肉を一つ取り出すと実に上品に口に含んでみせた。

 

「・・・・・・んっふっふ、一本取られましたよ、プレジデント卿」

 

 その落ち着いた物の返しに、兵の一人は思わずオネストの対応に感動すら覚えたほどであった。それほどまでにオネストの姿勢は敢然たるものであり、常に手に口にするものを持っている仕草すら今に至っては大国の大臣の余裕というものを感じさせた。

 

「それで、報告にあった兵達の状況、もう一度聞かせてもらえますかな?」

「は……はっ!数十名の兵達には呪毒による呪印が施されておりました!おそらく帝具村雨によるものかと……」

 

  兵士の報告によれば現場にあった遺体のうち、何体かは呪毒による呪印の痕跡があった。このことからも帝具 村雨によるものだという事が容易に想像できる、そしてその使い手でもあるアカメがその場にいたことも。

 

 何故、アバランチと共にナイトレイドのアカメがその場にいたのか。その疑念を踏まえつつも、オネストの関心は別のところにあった。

 

  現場に転がっていた遺体のほとんどはそのどれもが輪切りにされたかの如く、上半身と下半身を綺麗に分かれていたそうだ。遺体のみならず重火器や運搬車、果ては周囲の草木や岩すらも。

 

 そんな奇異なことができるのは帝具以外には考えられなかったが、帝国の文献からもそれ程までの能力を持つ帝具は当てはまらない。

 

 だがオネストは思案することを止める、それが意味を為さないと理解していた。何よりも優先すべきはアバランチ、またはナイトレイドの連中を始末し今回の失態を帳消しにする必要があった。

 

「帝都内の巡回を5倍、いや、10倍にしなさい。日中夜通しで」

「10倍・・・・・・ですか!?しかしそれでは兵達の休息の時間が――」

「・・・・・・帝国の為に働くのが兵の務め、ではないですかな?」

 

 進言した兵長にオネストは犬歯を覗かせるほどの笑みを浮かべた、しかしその瞳は欠片も表情を見せない。

 

「し、失礼いたしました!直ちに手配します!」

 

 足早に駆けていく兵長を尻目にオネストはまた一つ薫製肉を口に頬張ると厳格な帝国の会議室には余りに不似合いな音が静かに響いた。

 

 

 

 

 

「――よいしょっと、ティファさん!頼まれた荷下ろし終わりました!」

「ありがとうタツミ、少し休憩しましょうか」

 

 日中でありながら薄暗い日陰がかかる貧民街エリア、ミッドガルでは眩し過ぎるほどの快活さを見せたタツミは額に滲んだ大粒の汗を拭った。帝都に着いてからここまで汗ばむ事が絶えなかったがこれほど気持ちのよい汗をかくことは久しくない。

 酒瓶の詰まった箱の運搬は決して楽な仕事では無かったがタツミは心地良い気分だった。

 

 ティファが用意してくれたドリンクを口に運ぶとカラカラに乾いた喉が嬉しそうに鳴る。

 そうして大きく息を吐くとふと数日前の出来事を思い返された。それまで自分が見ていたのは全て夢だったのかと思うほど非日常の世界を――

 

 

 

 

 帝国歩兵大隊を退けてから2時間程経過しただろうか、クラウド達は追手の及ばぬ帝都より数キロ先の森林地帯まで逃げ延びていた。

 

 道中、力尽きた芋虫の如く倒れたタツミを拾い上げここまで逃げ延びていたが、タツミの回復を待つと同時に日没となる時間まで身を潜めていたのである。

 

「――全く、命拾いしたぜ・・・・・・!」

 

 ビッグスは深く息を吐きながらあの状況で生還できたことを口にすると続いてウェッジ、ジェシーも深く腰を下ろす。作戦決行前夜からここまで張り詰めていた緊張の糸をようやく解すことができた。

そんな疲れ果てた彼らを他所に追っ手の気配はないかと周囲に気を配り続けていたのはクラウドとアカメの二人。

 

 負傷したタツミを抱えての逃走は実は容易ではなかった。クラウドとアカメの二人だけであればとうに帝都内のアジトまでの帰還を果たしていただろう。そうしなかったのはクラウドにしてみれば依頼の遂行中であり、アカメにとっては父らやクラウドを助けてと請いたマリンとの約束を果たす為である。

 

「追っ手の気配はないようだな」

「・・・・・・そうだな」

 

 お互いに監視を続けていたのだからわざわざそのようなことを確認するまでなかった。だがここまでの沈黙に耐えかねたアカメは思わず他愛のない言葉を口にしたが、淡白な返事しか戻ってはこない。いつもらしいと言えばいつもらしいその反応だったが、アカメは不安だった。

 

「なぁ、クラウド・・・・・・。私が来てしまった事を怒っているか?」

 

 その淡白さがいつもの調子なのか、それとも怒りから来ているのか、それだけが不安でたまらなかった。クラウドに会いたいとの思いで帝都に潜入したがその再会の場はあまりに想像だにしていなかったものであり、どうしてもクラウドの気持ちを確かめたかった。

 

「・・・・・・怒っている」

「そ、そうか。そうだな、その通りだ・・・・・・」

 

 ナイトレイドへの勧誘をはっきりと断り、拒絶された相手が何を血迷ったのか戦場まで舞い込んできたのだ。怒りがあって当然と肩を落とすアカメであったが--

 

「報酬の分け前が減るのは面白くない」

「・・・・・・え?」

「報酬をせびるつもりなんだろう?俺がお前達にしたように」

「・・・・・・・ふ、ふふ。ははは、あははは!」

「・・・・・・何が可笑しい?」

 

 アカメは思わず気配を殺さなければいけない状況で声高く笑った。ここまでの守銭奴とはと。呆れを通り越して最早立派であると。クラウドからしてみれば当然だったかもしれないが、アカメは思いがけずクラウドなりに気を遣った上での冗談だと受け止めたのである。

 

 今の自分達が置かれている状況を思えばとても声高に笑えるものではない。アカメを遠目にウェッジらは気でも触れたのかと眉を顰める中、バレットは自分よりも遥かに体躯の劣るクラウドとアカメの背中を見ながら自身の背中に冷や汗を感じていた。

 

 元ソルジャーの男とナイトレイドの主戦力たるアカメ、2人の強者が何の偶然か居合わせている。それはウェッジらと違い死線をいくつか超えてきた男にとっては畏怖の念を抱かずにはいられなかった。

 

 先の戦闘においてもこの2人がいなければ確実に全滅していたであろうに関わらずバレットの胸中には感謝よりもあの歩兵大隊をたった2人の人間によって壊滅させられたという脅威が渦巻く。

 

「・・・・・・俺達はとんでもねぇものを相手にしてるのかもしれねぇな」

 

 クラウドとタツミの出自を考えると、帝国そのものの強大さを感じずにはいられないバレットはその巨躯に似合わないほどか細い独り言を漏らしていた。

 

 

 

 

「――起きろよ、タツミ」

「――起きなさいよ、タツミ」

 

 その懐かしい声に重く閉じた瞳をゆっくりと開けるタツミ、その目の前にいたのは先立っていった同郷のイエヤス、サヨの2人。

 

「イエヤス!サヨ!・・・・・・って俺、もしかして死んだのか!?」

「バーカ、いきなりお前まで来てもこっちはもう定員オーバーなんだよ」

「アンタにはまだ帰る場所があるんだからさ」

 

 これが現実か夢の中なのかどちらでも良い。こうしてまた3人で話せることが出来てタツミは堪らなく嬉しかった。だが2人との距離が近づけども近づけども縮まらない。やがて、あぁこれは夢なんだなと思うと途端に胸が締めつけられた。そこに不意に飛んできたのはイエヤスからの右拳。それは的確にタツミの額を捉えていた。

 

「いってぇ!何すんだよイエヤス!?」

「しみったれた顔してるお前に喝を入れてやったんだよ!・・・・・・それと勘違いしてる大馬鹿野郎にな」

「誰が、何を勘違いしてるってんだよ!・・・・・・くっそ、夢なのに何でいてぇんだよ!」

 

「夢じゃないよ、タツミ」

「・・・・・・サヨ?」

 

 意味深な言葉をタツミに告げたサヨ、だがその言葉の意味を問おうとした瞬間、イエヤスとサヨの2人が急速にタツミから引き離されていく。

 

「待てよ!イエヤス!サヨ!夢じゃないって・・・・・・!」

 

 彼方へと消え行く2人に右手を大きく伸ばすタツミ、次の瞬間その目に飛び込んだのは満天に広がる星空であった。

 

「タツミ!目が覚めたの!?・・・・・・良かったぁ」

「ジェ、ジェシーさん?ここは・・・・・・俺はどうなって・・・・・・って痛てて!」

 

 身を起こすとすぐにジェシーが安堵の顔を浮かべながら駆け寄ってきた。と同時に額から鈍痛が走る、擦過傷や脳挫傷などからような痛みではなく、小突かれたような痛み。それが何なのか考えがまとまらないまま、ジェシー、ビッグス、ウェッジらが駆け寄ってきた。彼らにしても後輩であるタツミの無事は喜ばしいことであった。

 

「起きたか、小僧」

「あ、バレットさん・・・・・・俺、あれからどうなって」

「一応、あいつらに礼だけは言っておけよ」

 

 そう言いながら首を右に軽く振ったバレットに釣られ視線を寄越す。

 

「タツミ、目が覚めたようだな。大事がなくて何よりだ」

「お、お前、アカメ!?なんでここに!?」

「色々と説明が難しい。それより目覚めたのならすぐにここを発つぞ」

 

 何故日中に別れたはずのアカメが今自分の目の前にいるのか、今自分がいるのはどこなのか、そして帝国の襲撃からここまで何が起こったのか。立て続けに頭に飛び込む現実に混乱するタツミであったが--

 

「起きたのなら、さっさと準備をしろ」

「・・・・・・っ!クラウド・・・・・・さん・・・・・・!!」

 

 クラウドを目の前にしてタツミから湧き上がった感情ははっきりとした怒り。混乱の中においてもそれは微塵も揺るがず、薄まらなかった感情がぼんやりとしていた自身の記憶を蘇らせていた。

 

「何で!何でセリュ―さんを斬ったんだ!?あの人は何もしちゃいなかった!!」

「・・・・・・顔を見られた。それだけで十分だ」

「・・・・・・・テメェっ!!!」

 

 タツミの問いにいつもの淡白な返答をしたクラウドだったが、今度ばかりはその冷ややかな態度がタツミの逆鱗に触れた。まだ満足に動ける状態でないにも拘らず、クラウドに飛び掛ったタツミだったがその前をアカメが塞ぐ。

 

「そこまでにしろタツミ、仲間割れをしている場合ではない」

「どけ!アイツをぶっ飛ばさないと気が済まねぇ!!」

「いい加減にしろ・・・・・・!クラウドに手を出すというのなら――」

 

 両者の間に怒気が走る中、不意にアカメの背後にいたクラウドがその身をアカメに寄りかからせた。

 

「ク、クラウド?どうしたんだ、急に・・・・・・」

 

 動揺するアカメであったが自分の肩にかかる重さに違和感を覚える。自重を支える気配がないほど力なく項垂れたクラウドは全体重をアカメに預けていた、そのままアカメの右肩から横滑りしながらその場に倒れ伏すとぴくりとも動かない。

 

「おい、クラウド!?どうしたんだ!?しっかりしろ!!」

 

 必死に呼びかけるアカメ、しかし返事はない。まさかと思い胸に耳を当てると微弱ながらも鼓動は聞こえた。呼吸も極浅く息苦しい様子はない。一通り身体検査をしたがその答えはシンプルなものであった。

 

 

「――寝ている、のか?もしかして」

 

 あまりに唐突だった、幼子が食事中に睡魔に襲われたかのように。タツミの剣幕を正面に受けながら糸の切れた人形のように深く眠りについたクラウドはその後アカメらの呼びかけに応じることはなかった。

 

「駄目だ、クラウドの奴完全に熟睡しちまってるぜ、どうするバレット?」

「俺に聞くんじゃねぇ!ウェッジ、ビッグスお前らで担いでいけ!」

 

 結局、タツミと入れ替わる形となってしまったがこれ以上この場に留まることは危険と判断した一行らはそのまま明かり一つない荒野をアカメの夜目とジェシーの逃走ルートを頼りに帝都への帰路についていく。

 

 まともに戦闘ができるのはアカメのみであり、状況は芳しくなかったが、危険種も徘徊する暗闇の荒野では帝国軍もむやみに捜索を続けることは叶わず空は静かに更け、そして静かに日は昇っていった。

 

 

 

 

 

 

 朝霧が覆うミッドガル、酒場セブンスヘヴンの前でティファはクラウド達の帰還を待ちわびていた。当初の予定では遅くとも日をまたぐことはなく、やはり帝国の襲撃を受けて何かあったのだと悪い予感ばかりが募る。視線の先に何も映らない暗闇を見据えるティファの左肩にそっとレオーネの手が触れる。

 

「まだ外は寒いよ、ティファ。中に入って待ってなって」

「ありがとう、レオーネ。でも待っていたいの、ここで」

 

 レオーネの言うとおり、店内にてクラウド達の帰りを待つことと寒空の中で待つことに何の違いはない。だが不安を父バレットの帰りを願い続け、疲れ果て眠りについたマリンに悟られはしまいかと考えたのだろう。

 

「心配しなくてもアカメ達が帝都に近づいたら匂いで分かるからさ!」

 

獣化したレオーネの嗅覚は常人の数百倍。その気になれば帝都中の匂いすら感知でき、それが馴染みのあるアカメの匂いであればたとえ数十キロ離れていたとしても嗅ぎつくことが可能である。ティファを気遣いつつもレオーネもまた仲間であるアカメの帰還を心待ちにしていた。

 

「ラバックが偵察に出てくれてる。少し休みなよ」

「ううん、ここで待つよ。・・・・・・それにレオーネの毛、あったかいから」

 

はにかむティファに体毛を防寒に使われるとはと苦笑いをするレオーネ、ささやかではあるがお互いにいくらか緊張感を解すことができた。と、レオーネの鼻先がピクリと動く。

 

「この匂い、アカメのだ!近くに違う奴のも混じってる!」

「本当!?クラウドは・・・・・・クラウド達も一緒なの!?」

「ごめん、誰かの匂いまでは分かんないけど、でも4,5人はいるよ」

 

匂いが分かったとなればその行方を追うことも出来たが、昨夜から帝都の警備は厳戒態勢に入っている。早朝から帝都内を駆け回ってはいかに隠密行動に長けたナイトレイドであっても危険極まりない。

こと隠密行動においては団内屈指のラバックだからこそ外部に赴くことが出来たのである。そのラバックも偵察を終えたのか、朝霧に紛れるようにセブンスヘブンへと帰還した。

 

「ラバック、どうだった?」

「アカメ達がやられた様子はないみたいっす。それどころか討伐隊が全滅したみたいで」

「全滅・・・・・・だって?」

 

ラバックの報告をにわかには信じられなかった。アカメを戦地へと運ぶ際にその視覚に捉えた軍勢は百や二百では収まらないほどの大歩兵部隊。アカメを投擲した後もその無事を真摯に案じていた。それが逃げおおせたのならともかく、全滅させたとはアカメの実力を疑うわけではないがとても人間業ではないとレオーネは直感する。

 

「クラウド・・・・・・アイツの仕業だな」

「・・・・・・おそらく」

 

レオーネとラバックはあの夜、ブラートと三人がかりで挑んだクラウドの実力を体験したこともあってか、一個大隊に匹敵する程の軍勢を全滅させうる力をクラウドが秘めていることを容易に想像できた。常識的に考えれば帝具を有しているとは言え、一個人が相手にできる軍勢ではない。かつての元・英雄セフィロスか現在帝国最強にして最凶と呼ばれる、エスデス将軍であればあるいはとも考えられる。

 

それが元・ソルジャーとは言え、何でも屋という素性も知れない仕事を生業とした人間一人がこなせるなどと夢物語ではある。それを冗談と一笑に伏さなかったのはレオーネもラバックもそして恐らくブラートもあの夜、あのまま戦いを続けていれば、「確実に」三人とも殺されていたであろうことを感じていたからである。

 

アカメらの帰還を待ちわびながらも共にいるはずの男が徐々に近づいてくる、その静かな脅威を期待と不安が交差する中でレオーネとラバックはティファと共に待つ。

 

やがて朝霧が少しづつ晴れていくと、差し込んだ太陽を背に人影が一つ、また一つと現れる、その一つをレオーネとラバックは見紛うことはなかった。

 

「アカメ!」

「アカメちゃん!」

「・・・・・・ただいま、レオーネ、ラバック。心配をかけてすまない」

 

戦地へと放ってからその行方を確認できなかったが、さしたる怪我もなく胸を撫で下ろすレオーネとラバック。そしてティファもまたアバランチの面々の帰還を喜んだ。

 

「みんな、お帰りなさい!本当に、本当に無事で良かった・・・・・・!」

「ちょ、泣かないでよティファ!私達なんともなかったんだからさ!」

 

ジェシーが涙ぐむティファを気遣うとその光景をウェッジとビッグスがからかう。いつものアバランチの様子が戻ってきたことにようやく安堵したのだろう、その表情は穏やかなものである。

 

「タツミもお疲れ様!本当に大変だったわね!」

「お、俺は別に・・・・・・その・・・・・・」

 

帰還を喜ぶティファの顔を見ながらタツミは赤面した。それは美女に免疫のない年頃の少年らしさくるものであると同時に今回の任務で自分がどれほどまでに役立てたのかという気恥ずかしさからもあった。

 

「それで、クラウドは・・・?クラウドはどこにいるの?」

「俺の心配よりも帝国野郎の心配かよ、くそったれ」

 

恨み節を吐きながらバレットは肩に背負っていたクラウドを放るようにティファへと預けた。未だに深い眠りについているクラウドは静かにティファの両手に包まれる。

 

「・・・・・・お帰りなさい、クラウド・・・・・・!」

 

そっと優しくクラウドを抱きしめるティファとまるで母親の腕の中で眠るように穏やかな表情を浮かべるクラウド、その様子を一向が微笑ましく見守る中、バレットは唾を吐き捨て、タツミは歯痒そうに見つめる。

 

そして日の光が瞼を閉じるほど眩しく昇る中で、アカメはその朱色の瞳の先を鋭くティファに向ける。

 

 

 

――それは、標的を前にした暗殺者のそれとなんら変わらないものであった。

 


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