三日月は流離う   作:がんめんきょうき

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決算月はデスマーチ。
はっきりわかんだね。





第五十話 虚無と給仕と、妖婦とかませと、邪淫と魔人と…

 突然の藍染からの召集。それを終えたウルキオラは帰路に着いていた。

 とは言っても、向かう先は自身の宮では無い。召集前まで身辺警護等を目的に待機して居た織姫の宮へである。

 急いでいるのか、移動速度はやや早足。だがその顔は斜め下を向いており、何か考え事をしているのが丸判りだ。

 

 

「………」

 

 

 その内容は藍染に言われた事と、自身の他にも呼ばれていたもう一人の人物であるスタークについてだった。

 召集の主な用件については、スタークも交えて聞かされた。

 恐らくは護廷十三隊との最終決戦になるであろう、間も無く実行に移される予定である現世侵攻作戦。藍染が話したのは、それの詳細の打ち合わせだ。

 

 スタークは侵攻組のリーダーとして、他のメンバーであるバラガンにハリベルと上手く立ち回る事を命令された。

 厳密に言うと、出来ればそうしてほしいと頼まれた形ではあったが、藍染に対して多大な恩義を感じているスタークが断れる筈も無く、実質は命令に等しかった。

 当人は多分バラガンが仕切りたがる筈だとして、全面指揮についてだけはやんわりと断ったが。

 

 残るウルキオラはと言うと、上位十刃三名とは別に虚夜宮へと残り、侵入者を殲滅するという任務を言い渡された。

 現在虚夜宮に侵入している一護を含めた五名の他にも、ほぼ確実に護廷十三隊から援軍が来る。

 自分達の出発と同時に、彼等が虚園まで渡って来た道を塞いで幽閉する。その後、一人一人確実に仕留める様にと。

 ちなみに帰刃も許可が降りている。

 

 此処まで聞いた限りでは、特に不自然な点は無い様に思える。

 だがウルキオラが気に掛かったのは、その話が終わった後。

 藍染の自室から退室したのはウルキオラのみで、何故か途中でスタークは呼び止められて残ったのだ。

 ウルキオラは視線で藍染に問い掛けたが、大した事では無いから気にしなくて良いと言われ―――現在に至る。

 

 第1十刃の彼にしか話せない内容となると、相当重要な案件なのだろう。

 正直、詳細を知りたくないと言えば嘘になる。

 ウルキオラは普段より、藍染から相当な優遇措置を受けている。頻繁に呼び出されては、他の十刃には知らされない情報等を与えられたり等、色々と。

 必要とされないよりはずっと良いとして、ウルキオラ自身は特に不満は抱いていない。

 だが今回の様な事は初めてだった。藍染と二人きりで話していた途中、東仙やギンといった副官が報告に来た時も、退席しないで構わないと止められ、そのまま一緒に報告を聞いていたりしていたにも拘らずだ。

 

 一体何故なのか。そう悩みながら歩いていると、気付けばウルキオラは目的地の近くまで到着していた。

 だがその直後、決して見逃す事の出来無い異変に気付く。

 織姫の霊圧が無いのだ。

 別な事に意識を向けていたせいか、探査神経が疎かになっていたらしい。

 

 だからと言ってこのウルキオラが焦る筈が無い。

 至極落ち着いた様子で、部屋の入口の扉まで移動する。

 すると其処でもまたもう一つ異常を発見する。

 

 

「…鍵が、開いている?」

 

 

 鍵を所持しているのは、世話役たるウルキオラにノイトラ、そしてこの宮担当の雑務係であるファエナの三人のみ。

 ノイトラは現在忙しなく動き回っている。そして自分は先程まで藍染の元に居たし、鍵は確り懐に仕舞ってある。

 ならば必然的にこの扉を開けたのはファエナのみに絞られる。

 だが所詮彼は只の雑務係であり、扉を開ける際は許可が必要。

 本人の性格的に考えても、無断でそれを行うとは思えない。

 

 

「一体誰が…―――ッ!?」

 

 

 ウルキオラは一度部屋から出ると、自身が通って来た別の方向にある通路等を集中して見渡す。

 すると見付けた。壁に付いた僅かな血痕と、極めて微弱な霊圧を。

 

 近付いてみると、其処には先程候補として挙げていたファエナが地面に仰向けに倒れていた。

 彼の身体からは夥しいまでの血が流れ出しており、致命傷であることは一目瞭然。

 

 

「ウル…キオラ…様…」

 

 

 霊圧反応から息があるのは判っていたが、僅かに意識も残っていたらしい。

 ファエナは掠れ声でウルキオラの名を呼んだ。

 

 

「言え。何があった」

 

「鍵を…“崩姫”を奪われました…!」

 

 

 膝を折りながら問い掛けるウルキオラへ、ファエナは息も絶え絶えながら必死に返答した。

 その表情は何処か悔しげに歪んであり、忸怩たる思いがこれでもかと伝わって来る。

 

 通常であれば、失態を犯してしまった自身に下されるであろう罰を恐れ、口を噤んでしまうところだ。力の無い雑務係の破面であれば尚の事。

 だが今のファエナに怯えは一切感じられない。

 ウルキオラはその事に疑問を抱いた。

 

 彼は知らないが、実はこのファエナ。さり気に憑依後のノイトラの影響を受けていた一人でもあったりする。

 ヤミーと同様、恐怖の象徴でもあったノイトラ。彼の行動や態度が変化して行く様を、ファエナは何度も目の当りにして来た。

 中でも最も印象的だったのは、自身やその周囲の不手際を素直に認めた上で、相手が誰であろうと一貫して謝罪を行った部分だ。

 今迄の傍若無人な振る舞いに対して。または仲間内でのトラブルによる二次災害や、鍛錬時に建物の一部を破壊してしまった事。何度頭を下げられたか正確には覚えていない。

 

 ―――あんな人でも、本気になればこんなにも変われるのか。

 そんなノイトラの姿や、彼と共に練磨を重ねる十刃落ち達等を目の当りにしたファエナは、勇気を貰うと同時に思い出した。

 自身も破面化したばかりの頃は、当時“(エスパーダ)”と表記されていた、現在で言う十刃に登り詰める事を夢見ていた事を。

 だがその余りの壁の高さを思い知ってからというもの、時の経過と共にその思いは薄れ、何時しか破面の中では最底辺の立場である雑務係となっていた。

 

 以降、ファエナは自身の役割を果たしつつ、空いた時間を只管に己の力を磨く為に費やした。

 すると気付けばその実力は、遊撃要員の破面の平均レベルに及ばないまでも、並の雑務係の破面を凌駕するまでに登り詰めていた。

 

 

「無念です…ッ!」

 

 

 だが―――現実は非情。

 下手人に鍵を渡す様脅された直後、即座に斬魄刀を抜刀したまでは良かった。

 次の瞬間、その刀身は素手で圧し折られ、唯一の武器を失ったばかりか、切り札たる帰刃すら封じられる。

 その後は語るまでも無い。羽虫を潰すかの如く、ものの数秒で蹴散らされた。

 

 ―――時間稼ぎすら出来無いとは。

 理由としては単純に相手が悪過ぎただけなのだが、それでもファエナは己の中から湧き出る感情を止められなかった。

 今迄の積み重ねは何だったのか。何て情けない姿だと。

 

 

「誰がやった」

 

「グリムジョー…ジャガージャック…!!」

 

「!!」

 

 

 その口から飛び出した下手人の名に、ウルキオラは瞠目した。

 ―――成程な。

 そして即座にグリムジョーの行動の意図に気付く。

 

 織姫を連れ出した理由は、恐らく一護と完全決着を付けるため。

 一護は虚夜宮に侵入後、直ぐ様十刃落ちの一人と交戦し、その中で負傷している事は藍染の話の中で把握済だ。

 それを織姫に治療させて万全の状態まで戻し、対等な条件下で戦いたいのだろう。

 

 

「力及ばす…申し訳…ご…ざ…」

 

 

 ファエナは謝罪の言葉を言い切る事が出来無かった。如何やら息絶えたらしい。彼から発せられていた霊圧は完全に消えている。

 見れば彼の右手に握られているのは、刀身が半ばから折れた斬魄刀。

 ウルキオラはその様子から、ファエナが抵抗を試みた事実に気付いた。

 

 

「…無謀な真似を」

 

 

 そう呟きつつも、ウルキオラは不思議とファエナのそんな姿を愚かしいとは思えなかった。

 グリムジョーとの実力差なぞ、説明されるまでも無く理解していただろう。にも拘らず、命尽きるその最期の瞬間まで己の責務を果たさんとした生き様は、組織の一員として実に模範的で誇り高い姿だと。

 

 当然、ウルキオラは戸惑った。自身はこんな事を思う様な者だったかと。

 だが現状では幾ら考えても埒が明かないとして、一先ずその場から立ち合がる。

 そして織姫の宮とは別の―――先程爆発的に上昇したグリムジョーの霊圧を感じた方向へと歩き始める。

 

 何にせよ、グリムジョーの独断行動は見逃せない。直接会い、この落とし前を付けさせるべきだろう。

 胸の内に残るモヤモヤとした何かへの考察を後回しにしながら、ウルキオラは行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 治療室では、ロカが先程焦る様に入室して来たドルドーニと、彼に担がれているガンテンバインの治療に当たっていた。

 主に重傷なのはガンテンバイン。腹部を中心に酷い打撲傷があり、内部では複数の骨折と内臓の損傷が起きているという惨状。

 だが奇跡的と言うべきか、致命傷では無い。恐らく手加減されたのだろうというのが、ロカの見立てだった。

 

 一方その反面、ドルドーニについてはそれ程重くは無かった。

 如何やら事前に簡易的な治療を受けていた事が功を制し、後は簡単な措置を施すだけで十分。

 しかし、ロカは其処で気付いた。その傷があったであろう部分から感じる懐かしい人物―――ネリエルの霊圧に。

 

 彼女が生きていた事に一瞬安堵するが、同時に疑問も浮かんで来た。

 何故彼女がドルドーニに治療を施したのか。今更この虚夜宮に戻って来た意図は何なのか。

 内心頭を捻っていたロカだったが、一先ずそれを後回しにする。

 今の自分には他に優先すべき事があるではないかと。

 思考を切り替えるや否や、ロカは使用した治療用具を所定位置に戻すと、徐々に全身から霊圧を解放し始める。

 

 

「…如何かしたかね貴婦人(カバジェーロ)? というか、早く治療を済ませてはくれないだろうか。吾輩は一秒でも早く向かわねばならぬ場所があるのだが…」

 

 

 ―――事は一刻を争う。

 ロカが突如として見せた変化に首を傾げながら、治療台に腰掛けたドルドーニは頼み込んだ。

 その理由は勿論、封印の解けたらしいピカロを相手する為に残ったノイトラの援護へ向かう為だ。

 移動中にチルッチと擦違いになった事は知っている。だが約束をした手前、それを此方の勝手な判断で破るのは自身の信念に反するとして。

 

 

「ドルドーニ様が向かわずとも、チルッチ様御一人で十分かと」

 

「しかしだね…」

 

「それに―――」

 

 

 頑なに己の意志を曲げないドルドーニを余所に、ロカは突如として掌に“反膜の糸”を集束させる。

 やがてその上に形成されたのは、一本の斬魄刀。

 

 

「私には、これから遣らねばならない事が御座いますので」

 

「なッ!!」

 

 

 ロカは斬魄刀を左腰に差し込むと、出入り口である扉まで移動し始める。

 当然、ドルドーニはそれの阻止へと動く。

 

 今の虚夜宮は危険だ。第一に侵入者、そしてその迎撃に出払っているであろう遊撃要員の破面達と十刃達だ。

 侵入者は計五人。一護についてはあの性格故に大丈夫だろうとは思うが、他までは知らない。もしかすれば破面は全て敵だと認識している好戦的な者も居るかもしれない。そんな者と遭遇してしまえば危険だとして。

 

 そして何故仲間である筈の破面達も警戒する必要があるのか。移動中に何人かと擦違ったが、彼等は皆総じて何処か張り詰めた様な雰囲気を醸し出していた。

 恐らく侵入者の影響だろう。そんな所に、虚夜宮でも底辺の立場にある雑務係の破面であるロカが現れれば如何なるか。最悪、視界に入っただけで目障りだと始末されてしまう可能性もある。

 

 

「待ちたまえ!! 今外に出るのは危険―――ぬおぉぉぉッ!!?」

 

「…失礼致します」

 

 

 治療台から降りたドルドーニは、ロカへと向かって駆け始める。

 だがそれは叶わなかった。見ればドルドーニの頭部を除いた全身を、光を放つ布の様な物が包み込んでいたのだから。

 

 布の出所を辿ると、其処にはロカが此方へ向けている右掌が。

 彼女がした事は単純。“反膜の糸”でセフィーロの能力を再現し、それでドルドーニを拘束したのだ。

 

 

「後で御叱りは受けます。なので今は御容赦の程を…」

 

「…ッ、止―――!!」

 

 

 ドルドーニが声を荒げた直後、治療室の扉が開いた。

 其処から入室して来たのは、先にノイトラの元へと向かった筈のチルッチ。そして彼女の右腋には、ピカロの群体の内の最後の生き残りである少女の破面が抱えられていた。

 

 

「…何やってんのあんた?」

 

 

 眉を顰めながら、チルッチは眼前に立つロカへと問い掛けた。

 その反面、荷物の様に扱われている筈のピカロは笑顔満点。

 恐らく此処に移動する際に使用された響転の連発の影響か、アトラクションを経験した様な気分になっているのだろう。

 

 

「お姉さんだれ~?」

 

「ちょっと黙ってなさい」

 

「はーい」

 

 

 厳しめな口調ではあったが、ピカロは素直に従った。

 完全にチルッチへと従順になっている。

 傍から見ると、まるで母親と娘の様にしか見えない。

 

 

「私用で…少々外出を」

 

「どこまで?」

 

「…申せません」

 

 

 あやふやな返答に対し、チルッチは即座に追及する。

 だがロカは口を濁すどころか、返答自体を完全に拒否するという暴挙を見せた。

 そんな彼女の瞳には、生半可な事では揺るがない、確固たる強い意志が宿っていた。

 

 暫しの間睨み合う二人。

 やがて折れたのは―――チルッチの方だった。

 

 

「ハァ…冷蔵庫の中身貰うから」

 

「…はい、どうぞ御自由に」

 

 

 チルッチは溜息を吐くと、ロカの横を通り過ぎる。

 見逃してやる。好きにしろ。つまりその態度はそう言う意味だ。

 

 ロカはチルッチの背中へ小さく礼すると、そのまま治療室を出て行った。

 

 

「おい御嬢さん(セニョニータ)!! 何故止めなかった!? 今の虚夜宮は危険だというのに!! というかその腕に抱えたそれは悪戯小僧ではないか!?」

 

「ほっときなさい。ああなったら絶対折れないわよ。それとピカロ(こいつ)については色々解決済みだから安心しなさい」

 

 

 ロカの身が危険に晒され様が如何でも良い、とでも言わんばかりの冷淡な反応に、ドルドーニは更に怒りを滾らせた。

 だがそれは直後に収まる事となる。

 

 

「それにロカ(あいつ)―――本気出せばあたしより強いし、なんも問題ないでしょ」

 

「……は…?」

 

「心配するだけ無駄よ」

 

 

 ドルドーニは口を半開きにしたまま硬直した。今チルッチは何と言ったのかと。

 彼女が未だ十刃落ちだった頃、三人の実力はほぼ均衡していた。

 だが今は如何だ。ノイトラの従属官となって以降、その実力は昔とは比較にならぬ程の域まで磨かれた。

 もはやドルドーニとガンテンバインの二人掛かりでも、今のチルッチから勝利を捥ぎ取るのは非常に困難だろう。

 

 主と共に試行錯誤を繰り返しながら、日々の過酷な鍛錬を続けた結果か。元の素質もあっただろうが、妥当な結果とも言える。

 そんなチルッチが、自身より強いと素直に認めた。しかもあの戦いとは無縁そうなロカをだ。

 

 ドルドーニは全く理解が及ばなかった。

 現在進行形で自身を拘束している布については知らないが、何処か異質で凄まじい力を感じ取れる。解放すればより強力になるのは間違い無い、その程度は予測出来た。

 だが当然、それだけではチルッチよりロカが優れている理由にしては弱い。

 

 

「それは……御嬢さんが未解放の状態であればの話だろう…?」

 

「…あんまり詳しく言いたく無いんだけど」

 

 

 恐る恐るといった様子で、ドルドーニは問い掛ける。

 それに対し、チルッチは露骨に態度を豹変させた。

 眉間には皺が寄り、口元はへの字を模っている。

 

 明らかに不機嫌だ。恐らくは本当に知られたく無い内容なのだろう。

 ドルドーニは謝罪すると同時に質問を撤回しようとするが、それよりもチルッチが口を開くのが早かった。

 

 

「…互いに帰刃した上での話だっての! ホンッッットにもうロカ(あっち)セフィーロ(こっち)も、ノイトラと同じ階級詐欺の連中ばっかりで嫌になるわ!!」

 

「んな…」

 

 

 ―――もう大概にしろ。

 チルッチは最後にそう言うと、激しく地団駄を踏み始めた。

 この時点で、ドルドーニは完全に言葉を失った。

 

 

「あ゛あ゛~っ、思い出しただけでもイライラしてきた! こうなったら冷蔵庫の中身空にする勢いで消費してやらァ!!」

 

「お肉! わたしお肉がいい!」

 

「お子ちゃまは野菜で十分よ」

 

「ええ~!? チルッチのいじわる~!!」

 

 

 ピカロを弄る事で自身の気分転換を図りながら、チルッチは冷蔵庫―――所謂業務用に分類される巨大なそれの扉に手を掛けたのだった。

 

 ―――それから数十分後、チルッチは本当に冷蔵庫の中身を空にしてしまい、後に冷蔵庫を管理している人物から極めて手痛い折檻を受ける事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第8十刃の拠点の宮へと続く通路を、ロカは自身の白衣のボタンを外しながら移動していた。

 やがてその白衣の下から、機動性を重視しているだろう黒のスポーツインナーが露になる。

 くっきりと出たボディラインは、やはり全体的に細い。

 だがそれは只痩せているのでは決して無い。良く良く見れば二の腕の部分等は微妙に筋張っており、意外と筋肉質である事が判る。

 つまりロカのその細さは体脂肪の少なさから来ている訳では無く、全身が無駄無く引き締まっている為。

 

 以前までは確かに只の痩せ型で、そして見た目通り華奢な身体だった。少し力を入れてその腕を握れば、容易く折れてしまうのではと錯覚する程に。

 その様な状態では拙いとして、セフィーロはロカの身体作りを提案し、実施。ものの数ヶ月でロカを理想的なボディへ進化させたのだ。

 

 ちなみに参考資料としたのはネリエル。

 秘密裏に“反膜の糸”を接続し、彼女の身体の情報を収集。そしてそれを最終到達地点として設定したのである。

 ―――ちなみに胸については、身体のバランスが崩れる上に視界の一部を遮るとして省いていた。

 

 当時のロカは、セフィーロの考えが理解出来無かった。それに無駄だらけであると。

 収集した情報を元に、自身の身体を作り変えてしまえば手っ取り早い。にも拘わらず、態々時間を掛けて鍛えるなぞ、何の意味があるのか。

 だがセフィーロはそんな意見を一蹴。正規の手順で磨かれた身体にこそ健全な心が宿るのだと力説し、半ば強制的に戦闘訓練と合わせて地道なトレーニングを選択させたのだ。

 

 それも今となっては良かったと、ロカは思っていた。

 御蔭で自信も付いたし、一切臆する事無く戦場へと赴ける胆力も鍛えられたのだから。

 ―――何時ぞやにヤミーに不意を突かれた件については、ロカ自身、不徳の致すところだと思っているが。

 

 そしてこの事実を、ノイトラは全く把握していない。当然、秘密裏にチルッチと何度も模擬戦を繰り返していた事や、そして安定して勝利を収めていた事も。

 御蔭でノイトラは現在もロカの事を力の無い護るべき対象として見ていた。

 

 

「…申し訳御座いません」

 

 

 辿り着いた扉の前に立つと、ロカは不意に謝罪の言葉を零す。

 その対象は、此方の気持ちを汲んで引き止めずにいてくれたチルッチ。そして事前に決めていた予定を勝手に破った事を、セフィーロへ向けて。

 

 セフィーロ本人は何の問題も無いとは言っていた。実際、その通りの実力があるのは理解している。

 確かに彼女を信じ、治療室で待機していれば万事上手く行くだろう。

 だがロカの心は別な事を訴えていた。

 だからと言って大人しくして居られる訳があるか。自身の大恩人であり大切な者が、極めて危険度の高い場所へ赴いているのだぞと。

 

 自身の胸部の中心に手を置く。

 呼吸は平常、動悸を起こしている様子も無い。

 だが間違い無い。今にもこの胸を内側から引き裂く勢いで、何かが膨れ上がっているのを感じる。

 

 ロカが感じているそれは―――惧れ。

 可能性は低い。だがもし自身が大切に思っている者が傷付いたり、帰らぬ人へとなったら、といった類いの。

 解り易く例えるなら、戦地に赴いた夫の無事を祈りつつ、その帰りを待つ妻の気持ちか。

 まさかそれがこんなにも苦しいものだとは、ロカは想像もしていなかった。

 

 

「今だけ…我儘を通させていただきます」

 

 

 そう呟いた直後、ロカは暫しの間瞼を閉じ、やがて開く。

 その瞳は嘗て人形と呼ばれていた者の面影なぞ欠片も無い。

 何事にも揺るがぬ光―――強き意志が宿っていた。

 

 ロカは白衣を脱ぎ捨てると、斬魄刀を抜刀。

 間髪入れずに扉を開き、中へと侵入する。

 まず真っ先に視界に入ったのは、無数の異形の破面達。ザエルアポロの従属官だ。

 そしてその中心には、ロカにとっては初対面であるバスーラが佇んでいた。

 

 

「…何者だ」

 

 

 バスーラはロカへ向け、その機械的な目を向けた。

 既に補給を完了していたのだろう。その身体には傷一つ無い上、十分過ぎる程の霊圧が満ちている。

 

 

「おぼえてる! そいつ人形!!」

 

「キャハッ! 人形きた! 失敗作きた!!」

 

「ザエルアポロさまに捨てられた役立たずきた!!」

 

 

 次々に発言する異形の破面達。その言い回しや言葉のイントネーションからして、明らかに知能が足りていない。

 それはそうだ。彼等が生み出された目的は、あくまで回復薬としての補給。頭脳や戦闘力といったものは一切考慮されていない。

 数は僅かだが、他には防御のみに特化した盾役も存在している。だが既にそれは実戦投入済みで、泰虎によって始末されていたりする。

 

 

「…成る程、確かにデータに残っている」

 

 

 暫しの間考える素振りを見せたバスーラは、そう呟いた。

 ザエルアポロより与えられた情報を保存している脳内メモリを確認していたのである。

 

 

「その廃品が今更此処に何の用だ。まさかあの“検体”を奪還しに来た訳では無いだろう?」

 

 

 ―――用も無いなら失せろ雑魚が。

 直接口に出してはいないが、そう言っている様にも取れる。

 

 彼が検体と呼んだもの。それは間違い無くセフィーロの事だろう。

 つまり現状に於いては彼女の“計画”通りに進んでいるのだと推測出来る。

 そして周囲が侵入者の事で騒いでいる中でこうも厳重に警備しているという事は、間違い無くこの先にセフィーロが居るのだろうと。

 

 

「そのまさか―――と言ったら?」

 

 

 ロカは一切臆さず、それどころか挑発するかの様にそう返す始末。

 かつての彼女の姿を知る者からしてみると、有り得ないと声を揃えて言う事だろう。

 

 

「…ならば死ね」

 

 

 バスーラは足元の影を広げると、大量の巨大虚を生み出す。

 予め命令を入力されていた巨大虚達は、四方八方より一斉にロカへと襲い掛かった。

 次々へと折り重なり続け、やがて出来上がる山。

 例え攻撃を躱せていたとしても、あの質量に押し潰されて終わりだろう。

 バスーラがそう考えた―――次の瞬間。

 

 

「ッ!?」

 

 

 飛び掛かったのとは逆方向へ弾き返され、宙を舞う巨大虚達。

 バスーラは瞠目しながら、自身へ衝突するであろう個体のみを両腕の刃で切り刻んで迎撃する。

 

 ロカが居た場所には砂塵が舞い、その姿は確認出来無い。

 だが其処からは無数の鳥の嘴の様な口を持つ竜巻の蛇が十匹程、怒り狂う龍の如く荒ぶっていた。

 

 ―――あれは確か、十刃落ちの一人の。

 バスーラは混乱していた。

 確かあの蛇は破面No.103、ドルドーニ・アレッサンドロ・ソカッチオの帰刃形態が持つ能力の筈。それが何故この場面で出て来るのかと。

 本人が援軍に来た訳では無いのは確実。あの場面に於いて、助けに入るタイミングなぞ皆無であり、探査神経で確認してもロカ以外の霊圧は一切感じられない。

 

 

「だが―――これには耐えられまい」

 

 

 迷っている場合では無い。そう判断したバスーラは、すかさず次の手段を取る。

 今度影の中より生み出されたのは数体の中級大虚。

 ロカの能力は全く以て不明。かといって解析している暇は無い。

 ならば確実に仕留めるにはこれだろうと判断したのだ。

 

 

「…何……だと…?」

 

 

 だがその見込みは甘かった。

 突如として竜巻の蛇が消えたかと思えば、今度は砂塵の中から無数の巨大な刃が飛来。バスーラが生み出した中級大虚を瞬く間に切り刻んだのだ。

 

 刃はやがて弧を描く様にして、再び砂塵の中へと戻って行く。

 其処から長い何かが持ち上げられると、それに刃が並列する形で装着される。

 そして出来上がったのは無数の刃の羽根を持つ巨大な翼。チルッチの帰刃形である“車輪鉄燕”だった。

 

 ―――今度はあの従属官の能力だと。

 何度此方の想像を覆せば気が済むのか。

 感情の抑制作用が緩んだのか、バスーラの中で仄かに怒りが湧き上がる。そして同時に得体の知れないものへ対する恐怖も。

 

 

「―――産まれを考えれば…」

 

 

 砂塵が晴れ、ロカの姿が露になる。

 背中からは蜘蛛の足状の腕が四本生え、仮面が消える代わりに大量の糸が包帯の如く顔の右半分を覆っている。

 

 

「貴方達の事は、仲間と呼ぶべきなのかもしれません…」

 

 

 ですが―――と、ロカは其処で一旦言葉を区切った。

 背中に生えた刃の翼が、周囲に溶け込む様にして消えて行く。

 

 これが彼女の帰刃―――“絡新妖婦(テイルレニア)”の能力。

 ロカが自らのために力を行使する事態を避ける為、ザエルアポロが意図的に力の使い方を教えていなかったが、過去に彼女に興味を示していたネリエルとの修行で会得したもの。

 今迄にコピーした情報を元に、“反膜の糸”で実際に再現するという驚異的な能力だ。

 その範囲も極めて広く、破面に始まり、死神や滅却師。加えて戦闘経験すら再現可能。

 

 だが同時に欠点も存在していた。

 まず再現された力は所詮は贋作に過ぎず、オリジナルより劣化する。そしてオリジナルが強力な程、自身の身体への反動も大きい。下手すれば使用後間も無くして絶命してしまう可能性も考えられる。

 実はセフィーロの助力によって強化されており、ある一定以下までであれば、反動無しに再現出来るまでに至っていた。

 それこそ現在使用したドルドーニとチルッチの能力と、ある程度の戦闘経験までであれば容易な程に。

 

 

「私の大切な人達に手を出すというのなら…」

 

 

 ロカの背中の蜘蛛の腕が変化し始める。

 バスーラはその変化に、言い様の無い悪寒を感じた。

 ―――この感覚を、自分は知って居る。

 一度は死んだ筈の身。だが間違い無く覚えていると。

 

 

「貴方達は…私の敵です!!」

 

 

 雑務係の破面とは思えぬ膨大な霊圧を放ちながら、ロカはそう宣言した。

 今の彼女は何時もの無表情では無い。その眼は鋭利に輝き、眼前の存在に対して明確な敵意を向けている。

 この瞬間、ロカ・パラミアは自らの意思に基づいて行動する、確固たる個の存在へと完全に昇華した。

 

 

「あ…ああああぁぁぁ…!!」

 

 

 そんなロカの背中の腕が、メキメキと音を立てながら変化してゆく。

 やがて出来上がったのは、昆虫の如き外骨格に覆われた四本の腕。

 その腕に握られるのは、二対の巨大な大鎌。

 

 言葉に成らぬ声を漏らし続けながら、バスーラはその腕を見た瞬間から、全てを思い出していた。

 骨の髄ならぬ、魂の髄まで刻まれたトラウマに等しいそれを。

 

 

「何で…ッ、何でお前が“アイツ”の力を使ってんだよォッ!!?」

 

 

 かつて自身が、何時、何処で、誰に殺されたのか。

 そしてその時感じた恐怖と―――底知れぬ絶望。

 

 幾ら強力な虚達を襲い掛からせても、その外皮を貫く事は叶わず、一切の傷も付けられない。

 大鎌が一振りされただけで、前に立ち塞がっていた虚達は尽が断ち切られる。防御に長けた虚を複数、盾として配置してもみたが、何の意味も無い。

 バスーラ自身も含め、苦し紛れに無数の虚閃を放つも、“アイツ”は棒立ちのままそれに吞み込まれ―――その中を平然と歩いて近付いて来た。

 

 

「其処を退きなさい!!!」

 

「く…来るなあああああぁぁぁ!!!」

 

 

 ノイトラ・ジルガの誇る帰刃―――“聖哭螳蜋”。その力と僅かな戦闘経験を再現したロカは、情けない悲鳴を上げるバスーラとの間合いを響転で一瞬の内に詰める。

 嘗ての己を取り戻したは良いが、バスーラは激しい錯乱状態へと陥っていた。

 そんな状態で真面な対処が取れる筈も無く、彼は自身目掛けて振り下ろされた大鎌を、只々受け入れるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これでもう何度目になるのか。

 地面を転がる様にして吹き飛びながら、泰虎は思った。

 

 朦朧とする意識の中、脚全体に力を籠めて無理矢理立ち合がる。

 敵の情けで与えられた薬で回復した霊圧、治癒した怪我。今となってはもはや全てが無意味。

 既にそれ等を上回る消耗と負傷を、泰虎の身体は抱えていた。

 

 

「確かに君のパワーは驚異的だ。例え帰刃した今の僕でも、直撃すれば相当なダメージを受ける事だろう」

 

「く…ッ!!」

 

 

 自身の額と眼の周囲にある仮面の名残を指先で弄りながら、ザエルアポロは淡々と語る。

 泰虎は今一度己を奮い立たせると、再度攻撃を仕掛ける為に動いた。

 残り少ない霊圧を下半身へと回して強化すると、思い切り前方へと踏み込む。

 

 響転に負けず劣らずの速度で、ザエルアポロとの間合いを詰めに掛かる。

 周囲の霊子を掻き集めて、左腕を強化しながら。

 

 

「だがまあ―――あくまで直撃すればの話だけどね」

 

「ゴハッ!!!」

 

 

 だがザエルアポロはその上を行っていた。

 彼は突き出された泰虎の拳撃を響転で躱すと、その背後へと回り込む。

 そして振り上げた触手の羽根を、頭上から叩き付けた。

 

 

「茶渡!! くそったれが…ッ!!」

 

 

 苦し気な声を上げたのは恋次。何らかの理由で立ち上がれないのか、口から血を吐き出しながら、這い蹲る様にして地面に倒れていた。

 その隣では雨竜が頭部から大量の血を流して倒れ伏したまま、ピクリとも動いてない。

 

 二人がこの様な状態へ陥っているのも、全てはザエルアポロの仕業である。

 先程登場に合わせて触手の羽で包み込んだ際、同時に“人形芝居”を発動していたのだ。

 対象を模した人形を造り出し、その人形を攻撃すれば本人にも直接ダメージを与えられるという、敵からしてみれば非常に厄介な技。しかも人形の中には内臓や腱の名が刻まれたパーツが入っており、それを破壊しても前述と同様の効果があるというやらしさも併せ持っている。

 

 宮の外へと投げ捨てられた後、何とか戦場へと復帰した恋次と雨竜。即座に泰虎の援護に向わんとした直後―――二人は両手両足の腱を破壊され、地面に這い蹲った。

 序だと言わんばかりに内臓も幾つか潰され、瞬く間に戦闘不能な形へ追い込まれる。

 策を講じられるのを警戒していたのか、雨竜については最後に人形の頭部へと衝撃を加えられ、その意識を刈り取られたのだ。

 

 

「…まだ…だ!!」

 

 

 それから幾度となく、泰虎はザエルアポロへ立ち向かって行く。

 だが展開は一方的。もはやそれは強者が弱者を嬲殺しにせんとしている様にしか見えない。

 全身を触手の羽で打たれ続けた御蔭で蓄積したダメージに、霊圧の消耗が重なる。

 遂に泰虎は真面に立つ事すら困難な状態にまで陥ってしまった。

 

 

「そろそろ終わりみたいだね?」

 

「ガ…グェ…ッ!!?」

 

 

 ザエルアポロは響転で瞬時に間合いを詰めると、膝を着いていた泰虎の首を触手の羽の一部を巻き付かせて持ち上げる。

 徐々に力を籠め、ギリギリと締め上げて行く。

 泰虎は引き剥がさんと抵抗を試みるが、消耗しきったその身体では全くの無意味であった。

 

 

「今助けるぞ雨竜!!」

 

「助太刀するでヤンスよ恋次~!!」

 

 

 その時、ザエルアポロの背後から二つの声が響き渡った。

 そしてそれと同じく二つの影が、彼の背中へと覆い被さる。

 

 その正体は、先程まで瓦礫の下敷きになっていたペッシェとドンドチャッカ。

 彼等は其々に隠し持っていた得物を手に、何とザエルアポロへと背後から奇襲を仕掛けたのだ。

 ―――両名共に泰虎の名を間違えているのは気にしないで置こう。

 

 二人としては初め、この戦場に参戦する心算は毛頭無かった。

 理由は一つ―――自分達の正体がザエルアポロに悟られたりすれば、同時にネリエルの存在も知られてしまうからだ。

 虚夜宮に存在する大半の破面達にとって、ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクは脱走兵の様な認識だ。それは裏切者と言い換えても大差無い。

 つまり自分達の情報を拡散されでもすれば、否応無しにネリエルの命が狙われる事となる。

 力を失った今の彼女では、羽虫の如く潰されてしまう事だろう。それだけは避けねばならない。

 

 しかしだからと言ってこのまま隠れていても、恋次達三人が敗北してしまえば結果はほぼ同じ。

 あのザエルアポロが自分達の存在に気付かない保証は無い。あれよあれよと探り出されるだろうし、結果的に殺されるにしても、それに至るまで一体何をされるか。

 

 悩みに悩んだ末―――二人は覚悟を決めた。

 ならばいっその事、今此処でザエルアポロを仕留めてしまえば良いと。

 考えてみれば、それで全てが解決する。

 友人でもあり仲間である三人の命も助かるし、ネリエルの存在が知られる事も無い。

 幸いにも今迄に重ねた鍛錬の結果、自分達の実力は嘗て無い程上昇しており、ザエルアポロはあの通り慢心に塗れた男だ。確実に隙を突ける。

 

 

「輝け我が愛剣!!」

 

「ドンドチャッカスイーング!!」

 

 

 普段はギャグ属性を撒き散らしている二人だが、この時ばかりは違った。

 そして覚悟を決めたその眼に、もはや迷いの色は欠片も見えない。

 

 ペッシェは自身の褌の中から、光り輝く刀身を持つ剣―――“究極(ウルティマ)”を抜き放つ。

 ドンドチャッカは口から、柄以外は棍棒そのものな斬魄刀を取り出すと、野球のバッターの如く振り被った。

 

 

「…やれやれ、これだから低脳は」

 

「グ、オッ!!?」

 

「あばッ!!?」

 

 

 だがその予測は外れていた。

 ザエルアポロは退屈そうにそう零すと、振り返らずに残る三本の内二本の羽を振るう。

 それは泰虎に繰り出していた鞭打とは別物。

 一切手加減されておらず、羽は容赦無くその二人へ襲い掛かり、そのまま地面へと叩き落とした。

 

 

「この僕が君達の存在に気付いていないと思ったのかい? 元第3十刃の従属官諸君?」

 

「…お…のれ…!!!」

 

「ゼヒュー…ゼヒュー…」

 

 

 ザエルアポロは笑みを浮かべながら、顔を僅かに横へと動かすと、倒れ伏したまま動けない二人を一瞥した。

 ペッシェは悔しげに声を漏らしながら、ザエルアポロを睨み付ける。

 その一方で、今の一撃が致命傷となったのか、ドンドチャッカはその巨大な口から血を吐き出しつつ、危うい音を立てて呼吸を繰り返していた。

 

 

「取り敢えず君達については後回しだ。まずはこっちを優先させてもらうよ」

 

 

 二人が戦闘不能に陥った事を確認したザエルアポロは、視線を再び泰虎へと戻す。

 

 

「とは言ったものの―――飽きたね。もう少し遊ぼうかと思ったけど、艶に欠ける雄の悲鳴を聞き続けるのも、ね…」

 

「カ…ァ…ッ!!」

 

「つまらないよ、人間」

 

 

 依然としてその首を締め上げたまま、ザエルアポロは自身の眼前まで泰虎の身体を移動させる。

 見ると泰虎の瞳からは、既に光が失われ始めていた。

 

 

「さよなら、だ」

 

 

 ザエルアポロは右手を手刀の形にすると、後方へと引き絞る。

 恐らく止めとして貫手を繰り出さんとしているのだろう。

 

 元より耐久力もそれ程高く無い泰虎が、それに耐えられるか。勿論、否だ。

 

 

「止めろ!!!」

 

「逃げろ茶渡ォォォッ!!!」

 

 

 ペッシェと恋次が必死に叫ぶが、その手刀は無慈悲にも泰虎の心臓目掛けて放たれた。

 

 

 




虚無さん、モヤモヤする。

妖婦さん「見ろよこの形。命を刈り取る形をしてんだろ?」
かませ「ひぎぃ」
しゅーへー「台詞取られた…(´・ω・`)」

チャドの霊圧が…やっと消える…?





捏造設定及び超展開纏め
①藍染様は虚無さんを結構VIP待遇してる。
・とは言っても、多少与えられる情報量の違い程度かと思います。
・黒猫さんとか店長とか、ゴリラさんとか豹王さんとかが知らない情報を持ってたりしますし。
・上記については、単に二人が聞いてなかっただけな可能性もありそうですが。
②無駄に格好いい散り様な名前持ちモブ。
・“ぽっと出モブは大抵即死する法則”を少しでも覆そうと思ったら、何故か筆が進んだ。どうしてこうなった。
③虚無さんモヤモヤ。
・心情の変化とか、もう少し上手く描ける様になりたいです(真顔
④鉄燕さんと悪戯小僧、完全に親子。
・ツンツンした性格のキャラと無邪気な子供の組み合わせは、重要なほのぼの要素の一つだと思う。
・悪戯小僧を初期に出せてれば、この拙作のほのぼの率が相当上がってた(確信
⑤妖婦さん無双。
・ぶっちゃけ自爆覚悟で力使えば作中でもかなり上位に食い込むクラスなんですよね、彼女。
・そんでもってこういう場面を書いている時、かませキャラという存在がどれ程重要か再認識する(笑
・女キャラが虫系の能力(どちらかと言えば身体を変化させる系)を持っている設定とか、何故か結構好き。
⑥色々ズタボロな刺青さん。おねむ状態なメガネ君。そしてチャドピンチ!!
・前者二人については、戦闘能力とか性格とかその他諸々を考えて書くと、凄く長引きそうな気がしたのでカットしました(爆
・あとチャドについては恒例行事です。
・というか彼、今迄優勢だった時ってあったっけ?(ハナホジ
⑦速攻KOな二人組。
・融合虚閃が直撃しても余裕で無傷だった邪淫さんがそれなりにキレてれば、多分こんなもんかと。
⑧チャドの霊圧が…消える!?
・恒例行事です(笑
・さらばだチャド。君の事は忘れない。
・あと帰刃形態の邪淫さん、爪長いから貫手したら剝れんじゃね?的なツッコみは無しで。
・多分爪も鋼皮の範囲内に含まれてるんですよきっと(テキトー
・例えるなら、烈火の炎の紅麗かな?彼、あの爪でグーパン出来るし、デカい敵の腹でも余裕でぶち抜けるんで。




追記
最後の部分だけ修正。

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