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第四十話 主人公達の初戦と、その他諸々
虚夜宮の周囲地下に、蟻の巣の如く存在する地底路。その内から22号に分類される場所に、一護達は居た。
喜助の協力の元、黒腔を通り、虚圏へ侵入。だが真っ先に眼前に広がったのは虚夜宮では無く、窓一つ無い無機質な廊下。
そして直後に背後から現れた、敵らしき巨大な影。
此処が一体何処なのかを調査する暇も無く、一護達は現在進行形でその影に追い掛けられていた。
「うぉぉぉおおおおお!?」
先頭を走るのは雨竜。恐らく逃走しつつも、先に進む道を選択し、先導する為だろう。
後に続くのは泰虎。その右手には一護の後ろ襟が握られており、その当人は驚愕の声を上げながら持ち運びされていた。
「な…何で逃げんだよっ!?」
やや落ち着きを取り戻したのか、今度は抗議の声を雨竜に投げ掛ける一護。
敵と遭遇したのだから、まずは交戦し、打倒する事が普通だろう。
敵の霊圧を調べても、それ程強くは無い。今の自分達なら十分対処出来る。なのに何故だと。
「馬鹿か君は!! こんな狭い場所で、君の馬鹿でかい斬魄刀が振るえると本当に思うのか!!」
「…あ」
雨竜の反論に、一護は今更得心が行ったらしい。何とも腑抜けた声を漏らした。
確かにそうだ。死神の力を手に入れて間も無い頃、実は一護は同じ様な失敗をしている。
廃墟と化した病院の狭い廊下の中で、眼前に現れた虚に斬り掛からんと巨大な斬魄刀を振り上げ―――そのまま刀身が天井に突き刺さって抜けなくなり、窮地に陥った事があった。
今思い返しても、羞恥心で顔が熱くなる。あの時の自分は実に間抜けな姿を晒していたと。
「それに周りを良く見ろ!! これだけ長い廊下に窓が一つも無い!!」
「…つまり?」
「地下なんだよ此処は!! そんな状態で戦って見ろ、建物が崩れて取り返しが付かなくなるぞ!!」
「おおう…わ、悪い」
逃走中にも拘らず語られる丁寧な説明。一護は思わず反射的に謝罪した。
同時に雨竜の観察眼に感心する。流石はあの喜助が褒めるだけあると。
―――決して口に出して褒める様な真似は事はしないが。
やがて一護達が辿り着いたのは、広大な面積を誇る広間。これ程の広さであれば派手に戦ったとしても問題は無さそうだ。
雨竜は安堵しつつも、更に周囲を観察。すると一ヵ所、階段を発見。それは上まで続いており、外への出口である可能性が高い。
「階段がある!! 出口かどうか確認する!!」
「あ! おいっ!!」
制止の声を振り切り、駆け出す雨竜。
だがその行く先を遮る存在が、彼の眼前に降り立った。
「っ!!」
「…何処へ行く、侵入者」
鳥類の頭部を思わせる仮面の名残を持ち、左目の周囲以外、顔の殆どを覆い隠した男―――アイスリンガー・ウェルナール。
胸部から下は完全に人型だが、肩口周辺は妙に肥大化しており、布で覆い隠されている。
「新手か…!!」
雨竜がそう呟くと同時に舌打ちした直後、背後から轟音が鳴り響いた。
振り返ってみれば、其処には先程まで自分達を追跡していた巨大な影がその姿を露にしていた。
目の周りを仮面の名残で覆い、耳に十字架のピアスを付けた巨大な男―――デモウラ・ゾッド。
彼もまた基本的に人型だが、大凡三メートル半のその巨体と、体格に釣り合わない長過ぎる腕が、異形の類いである事を証明している。
一護達は其々に警戒心を高める。
何せ挟み撃ちだ。如何に相手の霊圧が高く無いと言っても、状況的な不利は馬鹿に出来無い。
一護の頬に一筋の汗が流れる。
咄嗟に斬魄刀の柄に手を掛けるが、それを止める者が居た。
「ここは俺達に任せろ」
「チャド!? だけどよ…」
自身の肩に手を置いた泰虎からの突然の提案に、一護は戸惑いを隠せない。
此処は皆で協力して戦うのが正しいのでは、と。
「頼む」
「……わかったよ…」
だが泰虎の向けて来る目から感じる強い意志。
―――信じてくれ。
悩んでいたのだろう。暫し間を置いた末、一護は折れた。
今の雨竜と泰虎の持つ実力は、あの勉強部屋に入った際に見せて貰った為、大凡知って居る。
恐らく敗ける可能性は極めて低いだろう。そう結論付けて。
だが心配なものは心配なのだ。
一護は一先ず戦闘に巻き込まれる心配は無いであろう、離れの壁際まで移動。雨竜や泰虎が万が一にも危ない状況に陥った場合、直ぐに救援へ入れる様に身構えながら、傍観態勢に入った。
「俺はデカい奴と戦る。石田はそっちを頼む」
「…それが理想だね。了解だよ茶渡君」
喜助からの指摘を覚えていた御蔭か、泰虎は冷静に敵の戦闘タイプを予想。どちらと戦うべきなのかを判断する。
アイスリンガーについては、此方が視認出来ぬ程の速度で現れた時点で、判断材料としては十分過ぎた。明らかに機動力に特化していると。
デモウラは言わずもがな。何処から如何見てもパワータイプで、頭の回転は極めて鈍そうな雰囲気がありありと見て取れる。
同意見だった雨竜は直ぐにその提案を承諾。アイスリンガーの方向へと歩を進める。
泰虎はその逆側のデモウラへと向かって行く。
自らが戦うべき敵と対峙した二人は、互いに己の武器を具現化する。
泰虎は以前より角張った部分が無くなり、肩口までの右腕全体を包み込む様な形状に変化した鎧を。
雨竜は五角形の
「…さて、始めるとしようか」
雨竜のその声を皮切に、二人は其々に構えを取った。
虚圏に一護達が侵入して数分後。ノイトラは自身の拠点の宮の屋上にて、一人黄昏ていた。
だが無駄に立って居る訳では無く、先程から絶えず探査神経を発動している。それは勿論、一護達の状況を確認する為だ。
二つの破面の霊圧。それと対峙する、これまた二つの霊圧。
前者はアイスリンガーとデモウラだろう。そして後者は―――思えばこれが初めて感じる滅却師、そして人間の霊圧。つまり雨竜と泰虎だ。
史実であればこの二人は序盤、対戦相手の組み合わせを誤り、その相性の悪さから少々苦戦した後、敵の入れ替えを行って逆転勝利する形で収まる筈である。
だが探査神経によって得た情報によると、現状はやや異なるらしい。
何せ対戦相手が初めから―――泰虎とデモウラ、雨竜とアイズといった形で出来上がっているのだから。
「まァ、これ位は誤差の範囲内か…」
これだと早目に勝負が付くだろう。そう結論付けたノイトラは、そそくさとその場を後にした。
向かう先は何時もの十刃達の会議場所。今から大凡一時間後を目処に召集が掛けられているからである。
だがその時間を考えると、随分悠長としている。侵入者が現れた状況下で出された指示とは到底思えない。
まあ史実ではこの会議中、初っ端から優雅にティータイムを宣言する藍染だ。彼にとっては一護達の侵入も計画の内なのだから、焦燥が欠片も感じないのも納得だ。
―――例え想定外な事が起きたとしても、楽しげに笑みを浮かべて構えているのだろうが。
「紅茶よりか、緑茶の方が好きなんだがなぁ…」
通路を移動しつつ、如何でも良い事を呟くノイトラ。
それは少しでも自身の張り詰めた精神を和らげんとする意図があった。
緊張感を持つ事は大事だが、過ぎては駄目だ。元来ノイトラは憑依前からそのきらいがある為、こうして独り言をつぶやく事は時折あった。
最近では寧ろ日常的となりつつあるのだが、本人は自覚していなかった。
「おや? これはこれはノイトラ様」
「…ビエホか」
そんなノイトラの前に現れたのは、虚夜宮の祖父と名高いビエホ。
胸の前で互いの両袖に手を通した体勢で、年配とは思えぬ整った背筋で佇むその姿からは、やはり長い時間を生きねば出ない独特の風格が感じられる。
「グラも居ますぞい」
「……ど、ども…」
ビエホの背後である、通路の曲がり角。其処にはコソコソと隠れながらノイトラの様子を窺うグラが。
だが虚夜宮に存在する破面の中でもトップクラスに位置する巨体の持ち主だ。当然、隠し切れる筈も無く、ノイトラはビエホの姿を確認した直後に気付いていた。
「…何してんだオマエ」
「うぇっ!? す、すんません…」
ノイトラは指摘しつつ、考える。
このグラだが、自分と接する時は何時も決まってオドオドとした態度を取る。それは何故かと。
単に怯えているという可能性もあるが、これでも以前までは普通だったのだ。それだけにノイトラの抱く疑問は更に深まっている。
ルピやザエルアポロの様に脅し付けた訳でも無し、原因が全く分からない。
グラは食い意地が張っている以外はある程度常識的で、気兼ねなく話せる相手だけに、ノイトラとしては少々ショックだったりする。
―――まさかその態度の理由が、尊敬故に来ているとは欠片も思いもせず。
「二人して如何した。何かあったのか?」
「いえいえ、実は先程藍染様に呼び出されましてな。この先に待つ、死神達との戦いに関して少々御話を―――」
「…話だと?」
グラについては特に重要な案件でも無い為、別に解らないままでも良い。
そう結論付けたノイトラは、ふと疑問に思った事をビエホに問い掛ける。
「つー事は…アレか。もしかしてオマエ達もその戦いに参加すんのか?」
記憶を辿る限り、史実に於いてビエホにグラという破面は存在しない。それらしき存在は居た様な気もするが、その辺は曖昧だ。
もしかすると、本来ならば物語に全く関わらない―――脇役と言うよりギャラリーに等しいキャラクターだったのかもしれない。
だが見てみろ。現に眼前に居る二人の破面は其々に役割を担い、藍染が呼び出す程の重要性を持った者として確かに存在しているではないか。
―――やはり完全にはアテに出来無い。
ノイトラは改めて、自身の持つ知識の欠点を認識した。一つのレールを進む物語とは異なり、現実とは常に移ろうものなのだと。
「申し訳ありませぬ。如何にノイトラ様と言えど、こればかりは御教えする訳には…」
「す、すんません…」
返答は拒否。とは言え、その表情からは謝意がありありと見て取れる。
恐らくビエホ達側としては教えても構わないのだが、藍染から他言無用の指示を受けでもしているのだろう。
だがノイトラとしてはそれも想定内。答えてくれれば良いな程度の意図があって投げ掛けた問いだった。
此処は大人しく引き下がるべきかと考えたその時―――何を思ったのか、不意にビエホが小さな声で語り始めた。
「これは独り言ですが―――護廷十三隊は恐らく主要戦力のほぼ全員を、藍染様にぶつける御心算でしょうなあ」
「…?」
「すると瀞霊廷はさてより、尸魂界の守りが薄くなりますのう? 席官クラスは残すやもしれませぬが、所詮はその程度。実に迂闊極まりない」
「―――ッ!!」
ビエホが言わんとしている事を理解したノイトラは息を吞んだ。
内容は単純。敵勢力の視線が一点に集中している隙に、手薄となる拠点を付く。
敵の拠点を制圧してしまえば、その時点で勝利は確定する。つまりはそう言う事だ。
互いに武力を用いて争い、制圧を目指すスタンダードな戦争の形とは異なり、素人目に見ても味方の損害が少なくて済むのが魅力のこの戦略。部下や仲間を大事に、またはスマートな勝利を求める者であればまず選択するだろう。
「藍染様や上位十刃の皆様方が奮闘している内に、手の空いている者が別働隊を率いて尸魂界まで攻め込めれば完璧ですが―――はてさて、一体誰が行く事になるのやら…」
白々しく語るビエホ。もはや隠す気など皆無である。
少しでも情報が欲しいと願っていたノイトラにとっては有難い限りだが、御蔭で一つ懸念が生まれた。
全盛期より力が落ちたとは言え、ビエホの実力は相当である。
霊力だけ見ても現十刃落ちメンバーに匹敵する程。仕事柄か頭の回転も速く、常に先を見通しているその広い視野から来る戦略眼は驚異的。
そんな彼が率いる別働隊が、主要戦力の殆どを欠いた状態である瀞霊廷を襲えば如何なるか。取り敢えず只では済まないのは確実だろう。
席官の中ではトップクラスの実力を持つであろう一角や弓親も、数字持ち相手に満身創痍になりつつやっとの思いで撃破出来る程度だ。
“
他の隊より立場の低い、地味メガネと名高い四番隊の三席は不明だが、情報が少な過ぎる為に判断出来無い。
記憶を辿る限り、他にもある程度の実力はありそうな席官はチラホラ存在しているが、突出した実力を持つ者は居ない。
史実とは異なる想定外の事態に、ノイトラはやや焦燥に駆られる。最悪、そのままビエホ達が尸魂界の残存戦力を殲滅してしまったならば、と。
だが立場的に止める訳にもいかず、歯痒い思いをする。
―――今の自分に出来るのは、信じる事しか無い。
如何に護廷十三隊が藍染打倒に重点を置いているとは言え、流石に自らの拠点や尸魂界の守りを放棄するとは思えない。何かしら保険は掛けている筈だ。
ノイトラは内心でそう自分に言い聞かせ、自身の精神を落ち着かせる。
「おっと、年を取ると独り言が増えて叶いませんなあ」
「…そいつぁ大変だ。下手な内容を漏らしちまう前に、さっさと宮に戻った方が良いかもな」
「ホッホッホッ、全く以てその通り。では御先に失礼させて頂きますぞ」
「…し、失礼しやした」
ビエホは深々と一礼すると、踵を返す。グラも焦る様にだが、軽く頭を下げると即座に移動を開始する。
―――そんなにビビらなくても。
折角会ったのだから、やはり先程の会話の中で原因を突き止め、解決させれば良かった。
ノイトラは少々後悔した。
「なっ!? じいさんちょっ…のわああああぁぁぁ!!!」
だがニ・三歩だけ移動しただろうか。次の瞬間、突如としてビエホの足が止まった。
それに慌てたのか、グラは小走りを開始したばかりの状態から急ブレーキを掛けるも間に合わず、そのまま勢い余って転倒。悲鳴を上げると共に、ボールの如く転がって行った。
「一つだけ、ノイトラ様に御伝えしたい事が御座います」
「…手短にな」
背後から迫る巨大な球体を、ビエホは軽やかな身のこなしで華麗にスルー。そして何事も無かった様に口を開く。
一体何事かと思いつつ、ノイトラは続きを催促する。
「8番目が、最近何やら怪しい動きをしている様で…」
―――はい、とうの昔から知っています。
等と返せる筈も無く、ノイトラは内心で思うだけに留めた。
だがその忠告は決して無視出来無いものでもある。
何せそれは普段から余り関わりの無いビエホが気付く程、ザエルアポロの行動が目立ち始めているという証明でもあるのだ。
偽の情報を流す為に敢えてそうしているのか、単に事が進むに連れて無意識の内に大胆になっているだけなのか。
何れにせよ、ザエルアポロが敗れるその時まで、警戒を怠る訳にはいかない。
「葬討部隊も、如何やら懐柔されているらしき御様子。どうか御気を付け下され」
「…おう」
「それでは、セフィにも宜しく…」
最後にそう締め括ると、ビエホは今度こそこの場を立ち去って行った。
やがて足音が聞こえなくなり、ノイトラは一人残される。
「……これで藍染教に入信してなけりゃなァ…」
ビエホは人格者だ。それも全破面中トップクラスの。
基本的に部下である雑務係の破面達にも優しく、セフィーロの事も気に掛けてくれている。それに望まずして弱者となった者は庇護すべきだという考えもあり、その為であれば自らの命すら賭けられる。
好印象を抱く要素としては十分過ぎる要素だ。
だが如何しても一つだけ大き過ぎる欠点があった。ゾマリと同類で生粋の“藍染狂信者”と言う、それが。
これさえ無ければ、ノイトラはビエホも生存させる仲間の一人としてカウントする心算だった。
「ビエホは兎も角、グラも悪い奴じゃねぇんだが…」
尚、グラについては判断出来無い。
実は彼も比較的マシな性格だが、良くも悪くも小物的な思考も持ち合わせてもいる。
上手く協力関係に持ち込めたとしても、ノイトラより強い立場の者から命令されれば、恐らく高い確率で従うだろう。
目的達成まで後もう一歩、といった肝心な所で裏切られでもすれば元も子も無い。
そうしてリスク等を考慮した結果、ノイトラはグラも除外対象として判断していた。
「つーかチルッチの奴、何時まで引き籠ってんだ?」
今更だがチルッチは今、自室に籠ったまま微動だにしていない。
理由は単純。治療室での遣り取りが後を引いているだけだ。
セフィーロに対抗してノイトラを自身の胸元に抱き寄せたは良いものの、後になってその行動が如何に大胆な内容だったかを自覚。羞恥心の余りノイトラの顔を直視出来ず、そのまま自室のベッドに潜り込んで悶えているのだ。
「…ま、良いか」
再び探査神経を発動すると、アイスリンガーとデモウラの霊圧が全く感じられない。一護達の初戦は既に終了しているという事だ。
取り敢えずチルッチはこのまま放置し、早急に会議場所へ向かわねばならないだろう。
後頭部を軽く掻くと、ノイトラは目的地へと歩を進め始めた。
浦原商店地下の勉強部屋とほぼ一緒の、廃工場地下に存在する仮面の軍勢の住居であり拠点。
その中で、彼等は其々に自由なスタイルで過ごしていた。
とは言っても、鍛錬は毎日欠かさず行っており、今はその休憩時間の様なものだ。
女性がしてはいけない様な無茶な体勢で昼寝する白。その近くで黙々と筋トレを行う拳西。真顔でエロ本を読み続けるリサ。鍛錬時に負傷したのか、鉢玄の張った回復効果のある五角形の結界―――“
些か自由過ぎる気もするが、これが彼等にとっては日常であった。
離れでは一人岩の上に腰掛け、刃禅を行う平子が居た。
両目は閉じられ、彼の意識はこの場には無く精神世界にある。だがその表情は非常に険しい。
次第にその蟀谷に血管が浮き上がって行き、やがてそれが破裂するかと思った瞬間、平子は瞼をゆっくりと開いた。
そして大きなため息を吐くと、全身から脱力する様にして体勢を解いた。
「……この性悪斬魄刀が。後で覚えとれよ…」
眼前まで斬魄刀を持ち上げ、苛立ちを含んだ口調でその刀身に語り掛けると、そのまま鞘に納刀した。
次第に感情が冷めて行くと同時に、急激に疲労感に襲われるのを平子は感じる。
理由は判るだろう。全ては彼の斬魄刀―――逆撫のせいだ。
嘘や虚言ばかりを吐く極めて悪質な性格の持ち主であり、それは屈服させた今でも変わらない。
御蔭で刃禅にて対話する度、真子は凄まじい勢いで精神力を削られていた。
だが実は藍染の本性を察する事が出来たのは他でも無い、そんな逆撫の御蔭だったりする。
そんな恩義もあってか、何時も最終的に退くのは真子だった。
―――内心では盛大に悪態を吐きつつ。
「あんま無理すんなよ、真子」
「…そうもいかんやろ」
何時の間にやら、近くまで来ていた羅武が労りの声を掛けて来る。
その気遣いに申し訳無いとは思いつつ、真子はそう返す。
つい数時間前、一護の霊圧が空座町から消えたのを、鉢玄の証言から確認している。
恐らく攫われた織姫を助けに虚圏へ向かったのだろう。そして協力者は間違い無く喜助だ。
そして真子はもう一つだけ、判っている事があった。恐らくこれを起点として、近日中に藍染が動くだろうという事が。
「多分、直ぐに状況は動く。せやから残された時間は少しでも有効に使わんと」
「…一護のヤローも虚圏に行っちまったしな」
平子は考える。藍染の事だ。普通に迎撃するという事はまず有り得ない。
以前より一護の事を気に掛けている事を考慮すれば、恐らく彼に態と試練を与えたり、精神的に追い詰める等して、その反応を観察するに決まっている。
例えば侵入してきた一護を一切相手せず、何処かに監禁。身動き一つ取れない状況へと追い込んだ上で、自分達が尸魂界を蹂躙する光景を映像か何かで見せ付ける等。
―――想像しただけで吐き気がする。
実際は只単に愉悦に浸る為では無く、真意を悟らせぬ様幾重にも策略を巡らせた上で行動するのだろうが。
「ったく、何時もボケッとしてる癖に…そうやって色々一人で背負いこみやがって」
「………」
返答は無い。だが面倒見の良い羅武は気付いていた。真子は責任を果たそうとしているのだと。
昔、同じ隊の副隊長だった藍染。警戒を払っていたにも拘らず、彼の策略を止められずに多くの犠牲を出してしまった。そんな事を考えているに違いない。
「ちったあ俺達も頼れ。仲間だろうがよ」
「…敵わんなあ、羅武には」
真子は苦笑する。
恐らく仲間の殆どが察しているのだろう。そんな皆を代表して、羅武は言っていてくれているのだ。
仮面の軍勢と名乗り始めるよりずっと前―――大凡百年前の護廷十三隊に所属していた頃から、真子達の間には深い絆があった。
遣り方は違えど、死神として同じ志を持つ者同士。それ以外にも普段から頻繁に交流を重ねていた為、非常に親密だった。
それは表面上の薄っぺらい関係では決して無い。
誰かが過ちを犯せば、例え力づくという手段を取らざるを得なくなったとしても迷わず実行。それ以上の罪を重ねさせる前に、他ならなぬ自分達の手で止める。
誰かが完全に理性を失い、周囲に破壊を齎すだけの化け物と化しても見捨てない。生きている限り、最後の最後まで元に戻す方法を探究し続ける。
そういった者達なのだ。真子達は。
真子が一護に目を付けたのも、自分達と同じ空気を感じたからなのかもしれない。
「あ゛…」
真子がその場から立ち上がった直後、彼を中心に地鳴りの如き重低音が盛大に鳴り響いた。
周囲もそれを耳にしたらしく、皆一斉に真子の方向を振り向く。見れば熟睡していた筈の白も起床している。
突然だが、人は空腹時、血糖値が低下する。
それを脳が検知し、胃に対して食事を入れる準備を促す。すると胃は少しでも多くの食べ物が入る様にと、頻りに収縮運動を行い始める。
結果、胃の中の空気も動く為、幅が狭い食道入口部―――“噴門”から音が鳴るのである。
つまり先程の異音は、真子の腹の虫が鳴いたが故に発生した音であった。
「その、なんだ…そろそろ飯にするか?」
「…せやな」
真子は激しい羞恥心を感じつつ、羅武の提案に頷く。
未だに向けられる生温かい視線を誤魔化す様に、大きく跳躍して岩から飛び降りた。
そして着地と同時に小走りを開始。目的地は厨房である。
基本的に真子達の食生活は気まぐれだ。其々に当番制で調理を担当したり、気分によっては外から弁当を買って来たりする。
だが今の真子はマイペースに調理したい気分だった。
一応調理を担当する者の義務として、まずは事前に手を洗おうと、近くの洗面所に方向転換する。
「―――っ、平子サン!!」
突如として慌てた様子で声を上げる鉢玄。
それに真子は首を傾げつつ、振り向き様に問い返す。
「…何やハッチ、そないな慌てて」
「誰かガ…私の結界を擦り抜けて此処まで向かって来ていマス!!」
「…はあ!!?」
鉢玄の返答に驚愕する真子に続き、他の仮面の軍勢メンバー全員にも緊張が走った。
白は仰向けに倒れた体勢から、アクロバチックな動きで一気に飛び起きる。
拳西は筋トレ後のストレッチを中断し、表情を引き締めた。
リサは読み掛けのエロ本を宝箱に仕舞うと、自身の斬魄刀を手に取る。
ひよ里は剣幕な様子で、拠点への入口である階段を睨み付ける。
鉢玄は鬼道で侵入者の正体を探らんと奮闘中だ。
「織姫ちゃん…な訳ねえか」
羅武はひよ里と同様に、入口の階段へ視線を向けつつ、そう呟いた。
鉢玄の張った結界は完璧の筈だ。通常であれば感知など到底不可能。本気で張られれば、自分達でも発見は困難になる程に。
にも拘わらず、現にこうして侵入者が発生している。それは如何いう事なのか。
織姫の様に、鉢玄と同じ能力を所有しているのか。それとも結界を物ともしない実力者なのか。
―――どちらにせよ警戒は必須だ。
そう考えた羅武は精神を研ぎ澄ませ、何時でも瞬時に動ける様に構えた。
「こないな時に、一体誰が―――っ!!」
真子は吐き捨てる様にしてそう零す。だが直後に絶句。
入口の階段から聞こえて来るカランコロンといった足音。次第にその音が大きくなってゆくと、やがて現れる人影。
足音もそうだが、その姿に真子は見覚えしか無かった。
「…ビビらせんなや、バカタレ」
真子はその謎の侵入者の正体を悟ると、一気に肩の力が抜けた。
それは皆も同様。溜息を吐くなり、驚かすなと鉢玄に詰め寄ったりと、何時もの和やかな空気に逆戻りする。
その侵入者は黒いマントで全身を覆い隠しており、唯一判るのは顔。だがそれも大部分は影で負隠れており、殆ど確認出来無い。
「―――いやぁ、皆サン元気そうで何よりッス」
侵入者は軽い口調でそう言うと、その黒いマントを一気に脱ぎ去る。
その正体を確認すると、真子は思わず口元を吊り上げた。
「そういうオマエは随分やつれたんちゃうか?」
特徴的な足音に、先程の言葉使いから、既に判り切っているだろう。
侵入者は―――喜助であった。
彼は階段を降り終えると、右手で帽子を押さえながら小さく御辞儀する。
「…丁度飯のタイミングに来よってからに。さては狙っとったな、喜助」
「あら、じゃあ折角なんで御馳走になっちゃいましょうかねー? 実はボク、前から真子サンの手料理を食べてみたいと思ってたんスよ」
「アホ。べっぴんさん相手ならともかく、誰が野郎なんぞに飯作るか」
久々に会うにも拘らず、二人は長年連れ添った友人にする様にして軽口を叩いた。
「んで、何か用かい」
軽口からそう間を置かずして、真子は問い掛ける。
だが喜助は答える素振りを見せない。
彼は何を思ったのか、徐に被っていた帽子を右手に取ると、普段は余り見せないその素顔を露にした。
「…実はちょ~っと困った事になってるんで―――助けてくれません?」
力の抜けた様な笑みを浮かべつつ、喜助は申し訳無さ気にそう零した。
申し訳無いが…俺tueeeはまだまだ先なんじゃよ。
それまでは他のキャラtueeeで我慢してくだしゃい(懇願
でもBLEACH的御約束展開は忘れない。
捏造設定及び超展開纏め
①BLEACH的オサレ戦闘無しとか舐めてんのか?ああん!?
・チャドとメガネくん、正に暴挙やでそれ(擦り付け
・いや、私としてはもっと強敵に対してオサレ戦闘させてやりたいと思う訳でして。敵である二人のかませレベルは素晴らしいですがね。
・雑魚の筈の敵に苦戦……DB…?うっ、頭が…。
②尸魂界居残り組、さり気にピンチ。
・何時から藍染様が、偽物の空座町のみに戦力を集中させていると錯覚していた…?
・ぶっちゃけ空座町決戦時の状態で、数字持ち数名が瀞霊廷に侵攻すれば詰みそう。
③独り言多い主人公。
・皆そうやろ(笑
・出来る限りは少なくしたいと考えてるんですが…ね。
④実は責任感強くて真面目なオカッパさん。
・前に影の努力家説を出した事もそうですが、私は昼行燈キャラが大好物なんですわ。
・この作品を書き始める前、中村主水をイメージした主役を書こうとして挫折した覚えがあったりなかったり。
⑤仮面の軍勢のパパ、ラヴ。
・正直あのメンバーの中で一番父性高いのは彼だと思う。
・初登場時、顔のデザインを見た瞬間、そんなに長くは使われ無さそうなキャラだなこれ、と思ったのは内緒。
⑥遂に店長がヘルプ!!オカッパさんの返答は…!?
・オカッパさん「取り敢えず飯の後で…」
・店長「orz」