ばいにんっ 咲-Saki-   作:磯 

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19.ばいにんテール(八)

19.ばいにんテール(八)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:16

 

 

 南二局0本場

 【北家】花田 煌  :31700

     チップ:-3

 【東家】宮永 照  :23700<割れ目>

     チップ:-5

 【南家】須賀 京太郎:35800

     チップ:-5

 【西家】宮永 咲  : 8800

     チップ:+13

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 08:16

 

 

 照におかわりのココアを渡し終えてから、あらためて月子は呆然とした。

 

「なにあれ」

 

 目の前で起きた出来事が、眼球を通って脳に届き、咀嚼されて腑に落ちるまでたっぷり数秒を要した。

 瞬間の出来事だった。

 少なくとも京太郎が咲の打った牌を叩くまで、咲は完全に追い込まれていたのである。

 その趨勢が、一瞬で覆った。

 半ばオリていた体勢からの電撃的な和了を目の当たりにして、月子は喪心した様子で嘆息した。

 

「さすがに、あれはどうなのよ。連開花(レンカイホウ)からの五筒開花とか、出来すぎでしょう」

「おまえがいうなよって感じではあるけど、まァ、そうだねえ」

 

 半畳を入れる池田の面貌にも、驚愕が色濃い。

 彼女の言葉に月子は何度も頷く。

 古役において{⑤}は花に擬される。咲が当然のようにその牌を嶺上から引き和了った様子はあまりにも暗示的で、麻雀らしからぬ光景だった。

 ()()()()()()()

 月子が自身の特異性を棚に上げてそう零さざるを得ないほど、咲の和了は鮮烈だった。

 

「槓ドラが乗ってないのが幸いではあるけど、あれで必ずドラも乗りますとかだったらもう、手がつけられないわね。お姉さんよりどうしようもないわよ」

「槓する特徴のひとつがそれだから、そうなっても不思議じゃないけど。いまのところあの子の手牌、槓ドラが乗ったことはないね」

 

 呟いた池田が、伸ばした指を折り始める。

 

「東二の二本場は――{⑧}槓の嶺上は{5}。東三は{⑥}槓してツモ切りだったけど{7}。東四は大きいほう()が{⑤}槓してのツモ{4}。南一の0本場では須賀が{②}を邪魔槓してツモ{⑨}。で、南一の一本場、つまりいまが――{3}と{北}を槓して{赤⑤}を2枚を引いた。筒子がよく槓刻になってるけど、ぱっと見わかりやすい特徴はないね」

「……毎度思うんだけど、池田さんよくそんなん覚えてられるわね」

「え、これくらい須賀もできるよ? てかあいつも基本自分が打った譜面はおぼえてるよ。まああたしが覚えろっていったんだけど」

「まじでっ!?」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:16

 

 

 卓上にありえないことはない。どんな奇遇も起こりえるし、ときに奇跡に近い現象がひとつの卓で複数起きることもある。そうとわかっていても、京太郎は目前の事象に乾いた笑いをこぼすほかなかった。

 

(ありえない)

 

 と、かれは思った。

 宮永咲は、二連続で槓をした。嶺上開花で和了ってみせた。嶺上に埋もれていたのは、二枚とも{赤⑤}だった。待ちはタンキだった。

 つまり雀頭がない状態から都合三連続で自摸を行い、咲は一息に照と花田を抜き去ったのである。

 和了を構成する一連の流れの内、一つ一つは多少珍しい程度の要素でしかない。しかしそれらが全て連続したとなれば、もはや偶然や奇跡という言葉で言い表せる出来事では、それはない。

 咲の自摸には確信があった。端から嶺上にいる牌を知っているとしか思えない振る舞いだった。()()()と――だから出来たのだと、そう説明されればいっそ納得できると京太郎は思う。けれどもそれはあるまいとも思う。咲はただ道筋が見えていただけなのだ。恐らくは照の和了や回避と同じく、京太郎を含む大多数の人間には見えないものが見えているだけなのだ。

 一瞬で和了をもぎ取った張本人は、やや上気した顔で集めた点棒を手元に仕舞っている。

 

(槓刻ができやすい。槓材がどこにあるのかわかってる。嶺上にある牌がわかる――もしくは、嶺上をすれば和了れる。照さんほどじゃないけど、それなりの確かさでこっちの手牌や打点を読んでくる)

 

 その顔を眺めながら、京太郎は胸中で咲の個性を列挙した。

 

(このうち、どこまでが偶然で、どこからがそうじゃないのかはわかんねえけど)

 

 京太郎の肌が粟立つ。咲が披露したわかりやすい異常性が、かれの琴線に触れる。

 

(どっちかというと照さんより月子よりな感じだな。運が良ければ――まァ、ようするに()()()できればそれなりに抑えるかもしれない。逆にいえば、槓材がなけりゃどうしようもないってことなんだけど。聴牌入れた瞬間に槓材があったら即和了ってことだから――)

 

 南二局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 配牌

 京太郎:{三五九①②⑧⑧67東西中中}

 

(嶺上でしか和了れねーならひとりだけ12枚で麻雀やってるようなもんだし、たいしたことない。でも東二の三本場の和了形はふつうに平和(ピンフ)手だった。牌姿は{二三六七八①①①②③789}で{四}の出和了、河は{南①九白}の並び――つまり槓できる形を捨てたんだ。月子みたいな、()()()()()()()()()()()()()じゃない)

 

 習い性というべきか、配牌を整えつつ京太郎は咲の特徴に対する推理を進めていった。この場において、京太郎にとり咲だけは未知数の範囲が大きい要素である。

 京太郎が面子に花田と咲を選んだのは、たんなる手遊びではない。かれはかれなりに、己が宮永照に勝ち得る条件と状況を突き詰めた。その結果として選んだ面子とルールである。そんなかれが咲に期待したのは、照に対する直接的な抑止力だった。咲と交わしたわずかな会話で、少なくとも咲がある程度照を相手に立ち回る器量があることは伺えた。勝率についても幾度か確認した。咲は照との勝負に「勝ったことがない」とは言っていたけれども、それは所謂合計収支を基準にした場合の結果だった。局面においては(つまり一度の半荘の収支においては)、咲の着順が照を上回ることも、かつてはあったという。

 麻雀であれば、それは当然のことである。この偶然性が高い競技で永遠に連対し続ける人間がいれば、それはもはや怪物という言葉さえ生ぬるい埒外の存在である。少なくともプロフェッショナルに敗北を喫した現在の照がそうではないことは京太郎も心得ている。

 それでも、どこか危うく散漫なところがある咲が、照を一時的にでも上回るという事実は重い。先の対戦においては、京太郎も、片岡優希も、そして月子も、ついにはかなわなかった照からの勝利である。

 照と同等かはともかく、咲もまた彼岸の打ち手であった。そんな彼女を招くことには、当然リスクもあった。

 

(全員、おれより麻雀が巧いし強い。そういう卓だ)

 

 南二局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 照:{■■■■■■■■■■■■■■}

 

 打:{北}

 

(でも、いちばん実力がある奴が、いつだって勝てるわけじゃない――)

 

 親の照が一打する。

 相も変らぬ拍子である。

 彼女のリズムが変わるそのときが、京太郎は恐ろしくも待ち遠しい。

 

 南二局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 京太郎:{三五九①②⑧⑧67東西中中} ツモ:{一}

 

 打:{九}

 

(それも麻雀だ)

 

 南二局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 咲:{■■■■■■■■■■■■■}

 

「……?」

 

 一瞬、下家(シーチャ)である咲の摸打が滞った。

 彼女の目線は京太郎が切り出した牌に向いている。

 

(腰牌か?)

 

 ――結局、咲が何らかの行動を起こすことはなかった。山から牌を自摸り、

 

 打:{北}

 

 静かに三枚目の{北}を打った。

 

 南二局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 1巡目

 花田:{■■■■■■■■■■■■■■}

 

 打:{一}

 

 そして、次巡――

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:17

 

 

「ツモ」

 

 と、照がいった。

 

 南二局0本場 ドラ:{東}(ドラ表示牌:{北})

 2巡目

 照:{七八③③③⑦⑧⑨345南南} ツモ:{六}

 

「――500通し(オール)は割れ目で1000通し(オール)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:17

 

 

「は?」

 

 花田と京太郎の声が唱和した。

 

「な、なんでダブリーしないんですかっ。そうすれば――安全牌がなければ、やっぱり須賀くんが一発で{九}出したかもしれないのに」

 

 照の牌姿を目にした花田が、次いで言う。それはまったく京太郎の疑問でもあった。

 

(この局面でこの手をダマにする理由なんかねえぞ……実際一発ツモだ。裏次第じゃ一瞬でトップ目だったのに)

 

 その疑問に対する照の回答は、

 

「なんとなく」

 

 であった。

 

「あそこで曲げたら、和了れない気がしたから」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:17

 

 

(……すがくんの{九}をカンしてたらよかった、のかな?)

 

 咲:{六六六七八九九九①③235}

 

(――わかんないや)

 

 咲は無言で、手牌を伏せた。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:17

 

 

 【北家】花田 煌  :31700→30700(-1000)

     チップ:-3

 【東家】宮永 照  :23700→26700(+3000)<割れ目>

     チップ:-5

 【南家】須賀 京太郎:35800→34800(-1000)

     チップ:-5

 【西家】宮永 咲  : 8800→ 7800(-1000)

     チップ:+13

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

 南二局一本場

 【北家】花田 煌  :30700

     チップ:-3

 【東家】宮永 照  :26700<割れ目>

     チップ:-5

 【南家】須賀 京太郎:34800

     チップ:-5

 【西家】宮永 咲  : 7800

     チップ:+13

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

(また照さんが割れ目)

 

 冷や水を浴びせられた心地で、京太郎は居住まいを正した。絶好のチャンスがたんなるノミ手になった。いまの照の和了をそう前向きに捉える気にはなれなかった。ここまで、相当の幸運と他家の力量によって抑え込んでいた照の和了が、ついに遂げられたのである。

 

(たぶん、二度目(ここ)をいかれたらまずい――)

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 配牌

 京太郎:{四[五]八①①④⑦⑧4東南西北}

 

(で、五向聴かよ。うまくいかねえなァほんと)

 

 配牌を一頻り眺めて、京太郎は内心苦笑する。

 

(無駄ヅモなしで聴牌入れたところで、こいつは追いつけないか……)

 

 かれは、意図的に呼吸を深くした。

 焦って視野が狭くなれば、それこそ勝ち目は薄くなる。

 

(――どうする)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 配牌

 照:{二三七九②②③⑤⑦899中中}

 

 打:{九}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 1巡目

 京太郎:{四[五]八①①④⑦⑧4東南西北} ツモ:{1}

 

(定石は打{1}(ツモ切り)だけど)

 

 かれは、山と下家()の手牌に、かすかに視線を送る。

 

 打:{東}

 

(また、こいつに和了ってもらう――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 1巡目

 咲:{二七②④⑥⑧⑨1122白發} ツモ:{白}

 

 打:{⑨}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

(さっきのは事故。そんなのわかってる。け、れ、ど――)

 

 背に張り付く悪寒を拭うように、花田はやや緩慢に牌を自摸った。

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 1巡目

 花田:{三六六[⑤]⑥24456889} ツモ:{發}

 

(わるくない。2向聴はむしろ良い。ですけれども……)

 

 打:{發}

 

(先行している気がしない――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 2巡目

 照:{二三七②②③⑤⑦899中中} ツモ:{①}

 

 打:{七}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

(愚形塔子落とし――面子候補はじゅうぶんって感じか)

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 2巡目

 京太郎:{四[五]八①①④⑦⑧14南西北} ツモ:{西}

 

(花田さんか、下家()から叩きたい)

 

 打:{北}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:18

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 2巡目

 咲:{二七②④⑥⑧1122白白發} ツモ:{3}

 

 打:{發}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 2巡目

 花田:{三六六[⑤]⑥24456889} ツモ:{7}

 

(すばらっ――急所解消!)

 

 打:{三}

 

(あとひとつっ)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 3巡目

 照:{二三①②②③⑤⑦899中中} ツモ:{②}

 

「……」

 

 打:{①}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 3巡目

 京太郎:{四[五]八①①④⑦⑧14南西西} ツモ:{中}

 

({中}――{中}ねえ。まだ出てないな)

 

 京太郎は思案に暮れる。月子の教えのひとつに、『序盤における役牌の絞りなんて一人でするだけ無駄。ただし例外(わたし)を除く』というものがある。いちいちもっともではある。なんの制約もない局面で手組を窮屈にしてまで役牌を抑えるのは、現代的な定理からは愚策に分類される。

 けれども、何かが京太郎に自摸切りをためらわせた。

 とくに根拠はない。たんなる気分といって差し支えない。

 

(――打点的に照さんは今局二翻あたりを狙ってくるはずだ。速度を考えれば、いちばん手軽なのは役牌を叩くかタンヤオのドラ絡み……初巡に{東}を通しておいて、ここで止めるってのは、デジタル的にはハンパもいいところだけど――)

 

 打:{八}

 

 その判断が結果的に奏効だったとしても、それはただの偶然である。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 3巡目

 咲:{二七②④⑥⑧11223白白} ツモ:{三}

 

 打:{七}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 3巡目

 花田:{六六[⑤]⑥244567889} ツモ:{八}

 

(んー)

 

 打:{8}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 4巡目

 照:{二三②②②③⑤⑦899中中} ツモ:{7}

 

「――」

 

 打:{中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

(止めたそばから……)

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 4巡目

 京太郎:{四[五]①①④⑦⑧14南西西中} ツモ:{③}

 

 打:{中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 4巡目

 咲:{二三②④⑥⑧11223白白} ツモ:{東}

 

 打:{東}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 4巡目

 花田:{六六八[⑤]⑥24456789} ツモ:{⑨}

 

 打:{⑨}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 5巡目

 照:{二三②②②③⑤⑦7899中} ツモ:{赤⑤}

 

 打:{中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

(対子落としかよ。と、いうことは)

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 5巡目

 京太郎:{四[五]①①③④⑦⑧14南西西} ツモ:{北}

 

 打:{北}

 

(――そろそろか)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 5巡目

 咲:{二三②④⑥⑧11223白白} ツモ:{1}

 

({1}――槓材は、……すがくんの手かあ)

 

 打:{⑧}

 

(この巡目で出てないなら、たぶん使われちゃってる)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 5巡目

 花田:{六六八[⑤]⑥24456789} ツモ:{赤5}

 

(ふむ。一通は消えるけど――これはこれですばら)

 

 打:{2}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

(京太郎が“3”)

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 6巡目

 照:{二三②②②③⑤赤⑤⑦7899} ツモ:{⑥}

 

(咲が“2”)

 

 打:{③}

 

上家(シャンチャ)のひとが“1”)

 

 照は眼を細める。

 

(なんだろう)

 

 彼女の眼球に閃く像がある。

 

(鏡みたいなものが――みえる気がする)

 

 その鏡面は、未だ真白で、何も映していない。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 6巡目

 京太郎:{四[五]①①③④⑦⑧14南西西} ツモ:{七}

 

(あんたから対子落としの上に尖張牌がこぼれたなら)

 

 照

 河:{九七①中中③}

 

 京太郎

 河:{東北八中北}

 

 咲

 河:{⑨發七東⑧}

 

 花田

 河:{發三8⑨2}

 

(もう聴牌入れたと思うことにするよ)

 

 照への警戒を深めながら、京太郎は牌を自摸切った。

 

 打:{七}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

(ここで)

 

 その牌を引いた咲の眉が、わずかにひそめられた。

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 6巡目

 咲:{二三②④⑥111223白白} ツモ:{9}

 

(この生牌(ションパイ)――たぶん危ない、けど、まだ6巡目、だけど――どうしよう)

 

 これまでの普段なら、抱えて沈む牌だった。

 照に対して、一般的な巡目による推量など無意味である。

 骨の髄まで宮永照と相対することの意味を知る咲だ。

 楽観が招く連鎖的な均衡の崩壊を、彼女は何度も体験してきた。

 経験則と感性の、いずれかが危険だと訴えたならば、まだ間に合う可能性はある。

 けれども経験則と感性の双方が警鐘を鳴らすならば、それに逆らうのはただの無謀でしかない。

 

(経験があぶないっていってる)

 

 咲は自問し、

 

()()

 

 咲は自答した。

 

()()()()()()()は、まだ通るって、思ってる)

 

 打:{9}

 

(――なら打つよ。打って、勝負する)

 

 咲が打った牌に対して、だれの声も上がらない。

 

 安堵よりも強く咲のからだを駆けるのは、昂揚だった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:19

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 6巡目

 花田:{六六八[⑤]⑥44赤556789} ツモ:{西}

 

(おや、生牌)

 

 打:{西}

 

(ま、この手で抑えるとかないですけどー)

 

 軽々と打たれた西に、

 

「その{西}――ポンだ」

 

 京太郎の発声が掛かった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 7巡目

 京太郎:{四[五]①①③④⑦⑧14南} ポン:{西横西西}

 

 打:{③}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 照:{二三②②②⑤赤⑤⑥⑦7899}

 

(京太郎)

 

 自摸番を飛ばされた照は、とくに素振りも変えずに、おかわりのココアに口をつけた。

 

(少しいじわるになった)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 7巡目

 咲:{二三②④⑥111223白白} ツモ:{白}

 

(間に合って――)

 

 打:{2}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 7巡目

 花田:{六六八[⑤]⑥44赤556789} ツモ:{九}

 

(むぐっ)

 

 打:{九}

 

(――あとひとつなのに、聴牌がとおいっ)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 8巡目

 照:{二三②②②⑤赤⑤⑥⑦7899} ツモ:{⑧}

 

 打:{9}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 8巡目

 京太郎:{四[五]①①④⑦⑧14南} ポン:{西横西西}

 

(もうがんばれねえぞ。安牌増やしてくれ――)

 

 打:{①}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 8巡目

 咲:{二三②④⑥11123白白白} ツモ:{⑤}

 

(――はいった!)

 

 聴牌を入れる牌を引いて、咲は静かに手元に置いた。

 

({白}は、山にいる。このままなら次にお姉ちゃんが引く――立直は掛けられない。だったら、ここは、他のヒトから出ても、和了る)

 

 打:{②}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 照が静かに息を吐いた。

 嘆息に近い音程だった。

 

「カン」

 

 と、彼女はいった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

「――――え?」

 

 咲が呆然と、対面の照を見返した。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:20

 

 

 南二局一本場 ドラ:{四}(ドラ表示牌:{三})

 9巡目

 照:{二三⑤赤⑤⑥⑦⑧789} カン:{②②横②②}

 

嶺上(そこ)が見えなくても)

 

 四枚の{②}を場に晒して、

 

()()()()()()()()()()()()、牌は透ける)

 

 照が、嶺上牌へ手を伸ばした。

 

(この卓のうえに、独り占めできる場所なんてないんだから)

 

 リンシャンツモ:{一}

 

「――ツモ。1100通し(オール)は、割れ目で2100通し(オール)の一枚オール」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:21

 

 

 【北家】花田 煌  :30700→28600(-2100)

     チップ:-3→-4

 【東家】宮永 照  :26700→33000(+6300)<割れ目>

     チップ:-5→-2

 【南家】須賀 京太郎:34800→32700(-2100)

     チップ:-5→-6

 【西家】宮永 咲  : 7800→ 5700(-2100)

     チップ:+13→+12

 

 


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