ばいにんっ 咲-Saki-   作:磯 

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14.ばいにんテール(三)

14.ばいにんテール(三)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 宮永照の瞳が捉えているのは、厳密に言えば卓上に積まれる136枚の牌ではない。照は漠然と総体としての『場』を把握しているだけだ。石戸月子や須賀京太郎が思うほど、突き詰められた怜悧なロジックを常に脳裏で組み合わせているわけでもない。彼女はまだ自分の麻雀の完成形にたどり着いていない。おぼろげにその形を想像することさえしていない。彼女は今のところ、ただ才能と感覚と牌が命じるままに麻雀を打っている。

 

 宮永照の麻雀は演繹的な思考と無縁である。

 

 手元に並んだ13枚の牌と相対したとき、そして14枚目の牌を山から自摸ったとき、照はその局の行き先を非言語的な感覚で悟る。それは皮膚に吹き付ける風から三日後の天気を言い当てるようなもので、曖昧極まりない直感である。アナログな人々が「流れ」と呼ぶものを、極めて繊細な粒度で照は察している。そこに根拠や法則はない。はっきりと「解る」といえるものでもない。照自身も仕組みをよくわかっていないから説明のしようもない。ただ彼女は思念して、そしてその感覚はほとんど外れることなく実現する。それはだから、実際的には明確な神秘ではない。感性としかいいようがないものである。

 

 麻雀に全く同じ局はないという。照もそれは理解している。同じ手牌、同じ山であっても、人が変われば結果も変わる。照自身が和了るための道筋を見出すには、ノイズを極力削ぎ落とす必要がある。

 だから彼女はまず自分の態勢を把握する。麻雀において照が信じられるものは自分だけだからだ。『宮永照』という要素の入力だけは決して揺らがないし、揺らいではいけない。いまの照はとりあえずそう感じている。それが正しいと思うからそのように打っている。

 

 彼女はまず配牌から都合20回弱の自摸と辿りうる和了目を読み、次に他家の動静を捕まえる。卓上に座る自分以外の三人に顔はない。彼・彼女らは照にとって牌と同じ情報であり、その性質や志向は一定しない。彼らは万化するたんなる変数である。照が彼女の思う最適解を卓上で実現させるためには、変数の中身によってしばしば向き先を変える風を捕まえる必要がある。無貌のそれらに解を当てはめる作業が要る。そればかりはただの感覚でやり通せるものではない。

 

 ――そこで照は、他家の『中身』を視る。彼らを識るプロセスを踏む。照がイメージするのは水面か鏡である。()()()()である。そこにある()()の性質や能力や傾向や機嫌や思考や運を浮き彫りにする()()である。

 

 そして照はそれをつかまえる。

 

 今の宮永照が麻雀において異能らしきものを駆使するとすれば、この瞬間だけだった。

 宮永照は、結局のところ未だ少女である。好悪も得手不得手もある小学生でしかない。打ち手としての才能も実力も異常なほどに際立っていても、自身の力を持て余している節がある。孤独であることは強者の条件ではないけれども、強者は必然的に孤高を強いられる。強さは勝利が証明するものであり、勝利は他者に敗北を突きつける。勝利を重ねて塔に登るということは、敗北の山を築く行為と同義である。麻雀という領野において、照はだから孤独である。もちろん現時点の照より上位の存在はいて、照も彼らの存在を知覚している(純粋に性質的に、宮永照は井蛙(せいあ)とはなりえない)。けれども彼らは皆遠い世界の人である。子供である宮永照にとって、彼らは不在の人々でしかない。

 充実した時間を、等し並みに照も求めている。だから彼女は本を読む(宮永咲と異なるのは、それが物語に留まらないところである)。甘味も好む。麻雀という競技において、宮永照は将来的にはある種の超人になりえる。それだけの可能性と実力を彼女は具している。けれどもそれは照が人間であることを拒む要素ではない。照は怪物である。少なくともやがて()()()()胚芽を身の内に秘めている。けれども彼女はもちろん人間で、そして少女だった。

 

(――どうして)

 

 照がいつか須賀京太郎に問うた言葉は、実のところ照自身に向けた言葉でもある。

 

(麻雀をするのか――)

 

 彼女は宮永咲のことを想う。照は当然、咲が家庭内の麻雀を倦厭する原因を知っている。誰でも自分に不利益しか押し付けない存在を好ましく思うことはできない。その点で咲の気持ちは理解できる。ただ咲は、自分がなぜ他人の怒りを買うのかについて深い考えを持っていない。()()()()()()()()()()()()()のだと思っている。それが厭だから回避している。

 照の眼から見た咲は、幼さゆえかそれとも純粋に性質に由来するものか(照の見立てでは後者である)、とにかく人の機微に(うと)いところがある。自分の世界に埋没しがちで、ほとんどの世事に興味らしい興味を抱かない。流行になど目を向けない。娯楽といえば活字ばかりで、それも恐らくは照の影響だった。そんな咲にとって、麻雀はただ『いやなもの』でしかなかったのだろう。

 

 咲が採った回避策は照をして呆れさせるようなものだったけれども、問題は咲がそこで停止した点にあった。咲は明らかに麻雀を嫌っていた。もちろん咲をそう仕向けたのは環境である。照自身もその原因には含まれる。けれども、理不尽と知りながら照は疑義を抱かずにいられない。

 咲は――咲もまた、才能に恵まれた少女である。これまで、照の身近で照に比肩しうる(あるいは凌駕しうる)存在として、咲はほとんど唯一の存在だった。けれども咲は、他に何をするでもなく、ただ麻雀を見放した。絢爛たる才覚を持ち、それを操る術を知りながら、咲は麻雀にどんな種類の拘りも見せなかった。麻雀という存在をあっさりと心理的に切除してみせた。

 

(そういうひともいる)

 

 その行為に照がどういった感情を抱いたかは問題ではない。ただ照は不思議に思うのである。照と咲はほとんど同じ場所にいる。条件も似通っている。けれども咲は照と異なる道を選びつつあった。

 

(でもここにいる)

 

 照は咲を見る。視ざるを得ない。対面に座る見慣れた顔は、卓を挟んで見るとなぜか少しだけ懐かしく感じられる。

 

(――京太郎に呼ばれてここにいる)

 

 照は京太郎を見る。かれもまた、照を見ている。直向な視線である。直線的で妥協がない。かれにも顔がある。上家の花田も含め、今日この場にいる面子に顔のないものはいない。照自身が、対局者をただの変数として扱うことをしたくなかった。理由はわからない。京太郎の言葉を借りるならば、ただ()()だから()()なのだ。

 

(考えたこともなかった)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 1巡目

 照:{一二六六九③⑨245南南北} ツモ:{九}

 

(私は、どうして麻雀を――)

 

 打:{⑨}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 京太郎はこの一局、他家への警戒を犠牲にすることを決めた。少なくとも立直の発声が掛からない限り、かれは照を観察し続けることにする。伏せた牌も崩した理牌も苦し紛れの小細工だった。偶然性を高める割れ目や祝儀と同様に確度の低い照への対策でしかない。それでも思いつく手立てがある以上は、実行するにしくはない。

 とはいえ、麻雀自体を疎かにしたのでは本末転倒である。京太郎の選択はその見地からすると、自ら設定した境界をいささか踏み越えていた。

 

(何を考えているんだろう。何を思ってるんだ? どんな景色が見えてるんだ?)

 

 京太郎は照のことを考える。彼女の表情や一挙手一投足を凝視する。呼吸さえ忘れかけるほどにかれは集中する。手牌に触れる照の指は少女らしく細い(とはいえ京太郎と手の大きさはあまり変わらない)。爪は綺麗に整えられており、蛍光灯の光を受けて輝いて見える。日常的に麻雀を打っているにしては指の関節の()()は随分少なかった。上半身は温かそうなダークブラウンのポンチョ風ニットを纏っており、いまは卓に隠れて見えないがボトムスは濃い赤のキュロットを黒地のアーガイルタイツに合わせている。襟ぐりからは鎖骨の輪郭が見え隠れしている。顎から頬にかけての線は子供らしい丸みと女性らしい角度の中間を描いている。髪は肩口まで伸びていてやや癖があり、質は少し硬そうに見えた。瞳は大きく、力がある。睫は長く、眉のかたちは当世風に整えられている。唇は赤く、触れずともその柔らかさを感じさせる程度に瑞々しい。リップが塗られている、と京太郎は思う。かすかに綻んだ上唇と下唇の隙間に白い歯列が見え隠れする。歯並びは良い。麻雀には全く関係ないけれども京太郎は照がそれなりに美人であることに今さら感じ入った。万人を黙らせる器量ではない。それでも十人並みの容姿ではない。彼女が笑って快活に振舞えば人を魅了するだろうという不思議な予感がある。そしてそんな振る舞いは照の性格にはそぐわないというのに、京太郎はかんたんにそんな風に笑う照を思い浮かべることができる。空想を切り捨てながら京太郎はなおも照を凝視する。彼女の呼吸は深く遅い。呼吸に合わせて一定の拍子で上下する胸は薄く、起伏はなだらかである(というよりも、ほとんどない)。稀に喉が動く。暖房で乾燥した空気に喉を湿そうとして唾液を呑んだのかもしれない。姿勢はほとんど揺るがない。視線は揺らがないように見えて、実際は固定もされていない。山や河や他家の顔を照は凝視はしていない。彼女の視線の焦点は無限遠に結ばれている。あるいは他の誰にも見えない何かを見据えている。咲の自摸と切り出し――花田の自摸と切り出し――いずれも照はただ見送っている。それでも彼女は要所で動くことを京太郎は知っている。京太郎の観察に晒されているが故の無反応ではない。思い返せば照はいつでも同じだった。静かで密かで淡々として、ただし苛烈で容赦がない。彼女は仕草や物理的な情報から対応を行っているのではないと京太郎はふいに感得する。

 

 京太郎の自摸番、

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 2巡目

 京太郎:{②8⑦⑨一東四9發東⑦南③} ツモ:{2}

 

 京太郎は山から自摸り、伏せたままの手牌から一枚抜いて河へ打つ。

 

 打:{一萬}

 

 照から目線は逸らさない。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 2巡目

 咲:{五七七八④⑥⑥⑧1223中} ツモ:{三}

 

 {打:中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 2巡目

 花田:{二三四[五]①②⑦79發發西西} ツモ:{1}

 

 打:{1}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 2巡目

 照:{一二六六九九③245南南北} ツモ:{二}

 

 {打:北}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 3巡目

 京太郎:{②8⑦⑨東四9發東⑦南③2} ツモ:{[⑤]}

 

 打:{⑦}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 07:34

 

 

「孤立してる(オタ)風残して両面対子見切って、{⑥⑧}両嵌(リャンカン)受けの打{⑦}」

 

 淹れ立ての茶を啜りながら、池田が京太郎の手牌を言い当てる。

 月子は口を開閉させつつ、池田の横顔を見やった。

 

「……須賀くんの手牌、伏せられたままなんですけど」

「覚えた。――あつっ、あつっ」池田は猫舌らしく、湯の熱さに涙を浮かべる。「ま、やりたいことはちょっとわかってきたな。攪乱したいんだろ、あれは」

「それはそうなんでしょうけど、奇をてらうとフォーム崩れるじゃない」

「フォームがどうとかいうレベルにはなってないだろ、須賀は」池田は微笑んだ。「いろいろ試してみればいいんだよ。仮に駄目でも無駄にはならない。金は賭けてるかもしれないけど、そいつはちょっとばかり高い授業料になるのさ。それに、どんなめちゃくちゃな打ち方したって、普通に打ってれば自摸は平等に18回やってくるんだ。この場限りで見れば、和了れないとも限らない」

「周りの自摸があんまり悪ければね」

 

 期待薄だと言外に込めて、月子は嘆息した。手元にはココア2杯、梅昆布茶、コーヒーに菓子が揃っている。

 

「それじゃ、給仕してきます」

「いってらっしゃい」真剣な目つきで湯呑に息を吹きかける池田だった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 3巡目

 咲:{三五七七八④⑥⑥⑧1223} ツモ:{③}

 

 打:{2}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 3巡目

 花田:{二三四[五]①②⑦79發發西西} ツモ:{6}

 

 打:{9}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:34

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 3巡目

 照:{一二二六六九九③245南南} ツモ:{①}

 

 打:{2}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:35

 

 

 決め打ちに近い打ち回しで、照の読みの精度を測ろうという目的がまずあった。和了に向けて一直線の打牌は、多かれ少なかれ手牌の情報を場に晒すことになる。照の目付けが京太郎の打ち回しそのものにあるのであれば、常と異なる打風が、あるいは読み違いを誘発できるかもしれない。

 

(平場でこんなんやってたら月子にぼてくりまわされるだろうけど、相手が相手だ。この際しゃァねえ)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 4巡目

 京太郎:{②8⑦⑨東四9發東南③2[⑤]} ツモ:{五}

 

(くっついた)

 

 4巡目――京太郎の親指が擦る牌の感触は、{五萬}のものだった。これで、劈頭に並べた{四萬}の片割れを活かすことができる。

 

(序盤のマタギなんかで引っ掛けられるとは思っちゃいねえが)

 

 かれは意図的に手順を壊しているのであり、和了を放棄したわけではない。これで塔子は四つ揃ったことになる。出足は明らかに遅れたが、無為に他家を楽にさせる心算もなかった。

 

({四五②③[⑤]⑦⑨289發東東南}の形――浮き牌は{2}と{南}。とっくに手放しておくべきは{南}だ。まァ、普通なら)

 

 だからこそ、京太郎は異なる牌を打つ。

 

 打:{8}

 

 と、したところで、

 

「ふぅん」

 

 背後から、鼻にかかったような声が聴こえた。月子の声である。京太郎は振り向きもせず、

 

「なんだよ」

 

 と、突っ慳貪に応じた。

 

「ホットありあり、どうぞ」

 

 いらえる月子の声も、何かを堪える調子である。掠れた声で礼を言いつつ、京太郎は湯気の立つカップを受け取った。別段コーヒーが好きなわけでも常飲しているわけでもないけれども、カフェインはいずれ来る眠気を抑止し砂糖はもしかしたら思考に冴えをもたらすかもしれない。その程度の(ゲン)担ぎであった。

 

「あと梅コブにココアね。それとこれ、お菓子」

 

 四席の左方に配置されたサイドテーブルへ、月子が手際よく飲み物と菓子を置いて回る。京太郎の左手に座す照は、花柄が地に飛んでいるデザートプレートを一瞥するや、心持ち眉目が緩んだ。

 

「これは……」

「ごまどら焼きとごまマドレーヌです」

 

 と、月子が補足した。

 

「あぁー、ごまのお菓子、よく売ってますもんね、このへん」花田が手を打った。

「いただきます」

 

 皿の上に載った2つのマドレーヌと2枚のどら焼きが、瞬く間に照の口の中へと運ばれた。小さい口を開いて頬張る様は、京太郎の目から見てもあまり年上らしい貫禄がない。栗鼠のように頬袋を膨らませる照を何となく場の全員が注視した(咲だけは少し恥ずかしげだった)。

 

「お腹すいてたんですか?」

 

 呆れ混じりに月子が言うと、照が、

 

「ふぉれふぉふぉでも」

 

 と、いった。

 

「なんて?」

 

 顔を引きつらせて月子が問い返した。

 

「……」

 

 照は無言で月子を見つめ、ココアを一口含むと、顎を上下させ続ける。

 咀嚼に専念しているようだった。

 曰く言いがたい沈黙がその場に降りる。

 

「えぇ……と、つもります」

 

 咲が居た堪れない様子で山から牌を自摸った。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:37

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 4巡目

 咲:{三五七七八③④⑥⑥⑧123} ツモ:{北}

 

 {打:北}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:37

 

 

 照が咥内の物を一息に嚥下する。対面の咲が河へ打った牌を流し目で見送りながら、彼女はさらにココアを一口啜った。両手でマグカップを握り温度の高い息を吐く様は泰然としたもので、周囲の目など気にもしていない。

 それから改めて月子を見、徐に言った。

 

「それほどでもないけど」

「そおですか」

 

 月子は曖昧な表情を浮かべて肩を竦め、「それじゃ、お邪魔様」と呟き、場を退いた。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:37

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 4巡目

 花田:{二三四[五]①②⑦67發發西西} ツモ:{④}

 

「ふむ――」

 

 鼻腔を擽る梅の香りを楽しみながら、花田は手牌を前に少考した。といって、切り出す牌に迷ったわけではない。

 

({⑦}は浮いちゃってるけど、この場況――筒子の上はやや安い。この巡目は打{①}としても、翻牌を叩いて打{⑦}……のあとは、どーしよう。嵌{③}と心中するか、萬子の連続形を頼みに愚形を外していくか――ま、どのみち面前で聴牌(テンパ)れる手じゃなさそーな気はしますが)

 

 打:{①}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:37

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 4巡目

 照:{一二二六六九九①③45南南} ツモ:{南}

 

 打:{①}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:37

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 5巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四9發東南③2[⑤]五} ツモ:{東}

 

(自力で引いたか)

 

 暗刻になる四枚目の連風牌を、京太郎は感慨もなく手牌の端に伏せた。

 

 {打:南}

 

(けど、この局――テーマは和了じゃない。うまく遣わねーとな)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:37

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 5巡目

 咲:{三五七七八③④⑥⑥⑧123} ツモ:{西}

 

(んー、{西}かぁ……)

 

 咲は、下家(花田)に視線を送った。

 

(嶺上に()()わけでもないし、使い切れない――しょーがない)

 

 {打:西}

 

「――{西}、ポン」

 

 一呼吸を挟んで、花田が鳴いた。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:38

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 5巡目

 花田:{二三四[五]②④⑦67發發} ポン:{横西西西}

 

 打:{⑦}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:38

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 5巡目

 照:{一二二六六九九③45南南南} ツモ:{白}

 

「――」

 

 打:{③}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:38

 

 

(最初の仕掛けは花田さん、と)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 6巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四9發東③2[⑤]五東} ツモ:{中}

 

 打:{9}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:38

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 6巡目

 咲:{三五七七八③④⑥⑥⑧123} ツモ:{⑥}

 

 打:{⑧}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:38

 

 

(さーて、問題はここから)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 6巡目

 花田:{二三四[五]②④67發發} ポン:{横西西西} ツモ:{中}

 

 京太郎

 河:{四一⑦8南9}

 

 咲

 河:{⑨中2北(西)⑧}

 

 花田

 河:{東19①⑦}

 

 照

 河:{⑨北2①③}

 

(ここからですよ――ほんとに)

 

 {打:中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:38

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 6巡目

 照:{一二二六六九九45南南南白} ツモ:{9}

 

 打:{9}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:38

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 7巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四發東③2[⑤]五東中} ツモ:{7}

 

(被りやがった)

 

 京太郎は、引いた牌を前に嘆息を堪える。不条理に沿って打ったのである。むしろ当然の帰結なのだ。かれの自意識は{7}を手放したがる。けれども場に索子の上はやや高い。一面子を晒した花田は、序盤に{9}を切り落としている。単純に浮き牌でなければ、彼女の手の内には{6}がいる可能性が高い。{西}を叩いた際の彼女の手出しは{⑦}――次巡は{中}の自摸切りである。

 

(聴牌してることも、普通にある)

 

 今局の仕掛けは成就していない。他家に和了を攫われるのは、京太郎も覚悟の上だった。しかし軽々に放銃するわけにもいかない。

 

(じゃないと、莫迦みてえなマネした甲斐がねえものな)

 

 {打:中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:39

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 7巡目

 咲:{三五七七八③④⑥⑥⑥123} ツモ:{[5]}

 

(これは――さすがにもう打てないや)

 

 打:{八萬}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:39

 

 

 上家の咲が花田に聴牌を入れる{赤5}を抑えたその直後、

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 7巡目

 花田:{二三四[五]②④67發發} ポン:{横西西西} ツモ:{發}

 

 花田が三枚目の{發}(ドラ)を引いた。跳満を確定させる一枚である。望外の自摸といえた。向聴数に変化はないけれども、嫌う理由は何もない。とはいえ期待していなかった牌の縦引きに、花田は若干の胸騒ぎを感じた。

 

(ここで引いちゃったかぁ。――正直、出ても叩く気はなかったんですけれども……だいたい、考えてない牌が来ると、そのあとって――)

 

 打:{④}

 

(ヨレるんですよね。うーん、一鳴き、はやまったかな?)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:39

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 7巡目

 照:{一二二六六九九45南南南白} ツモ:{8} 

 

 打:{8}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:39

 

 

 花田の予感が、正鵠を射た。各自順調に手を進めていた序盤とは対照的に、四人の牌勢は急な停滞を見せたのである。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:39

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 8巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四發東③2[⑤]五東7} ツモ:{一}

 

 打:{一萬}

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 8巡目

 咲:{三五七七③④⑥⑥⑥123[5]} ツモ:{八}

 

 打:{八萬}

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 8巡目

 花田:{二三四[五]②67發發發} ポン:{横西西西} ツモ:{④}

 

 打:{④}

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 8巡目

 照:{一二二六六九九45南南南白} ツモ:{四}

 

 打:{一萬}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:40

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 9巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四發東③2[⑤]五東7} ツモ:{北}

 

 {打:北}

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 9巡目

 咲:{三五七七③④⑥⑥⑥123[5]} ツモ:{中}

 

 {打:中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:40

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 9巡目

 花田:{二三四[五]②67發發發} ポン:{横西西西} ツモ:{③}

 

(きらめ・ザ・裏目! あぁ、もうっ――)

 

 打:{③}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:40

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 9巡目

 照:{二二四六六九九45南南南白} ツモ:{⑤}

 

 {打:白}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:40

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 10巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四發東③2[⑤]五東7} ツモ:{8}

 

「――ふぅ」

 

 4巡目に切り落とした{8}を引き戻して、京太郎は場を見渡した。

 

 京太郎

 河:{四一⑦8南9}

   {中一北}

 

 咲

 河:{⑨中2北(西)⑧}

   {八八中}

 

 花田

 河:{東19①⑦中}

   {④④③}

 

 照

 河:{⑨北2①③9}

   {8一白}

 

(ブサイクな河だ)

 

 と、京太郎は己の河を評した。

 既に両面の振聴塔子を落とすほど悠長に構えられる巡目ではない。{78}は確定させるべき面子である。

 

({2}か――)

 

 この巡目の切り出しはほぼ決めていた。となると、最終的な浮き牌は{發}(ドラ)となる。生牌である。残る三枚の行方は杳として知れない。未だ山に眠っているかもしれない。他家が切りあぐねて抱えているかもしれない。対子で持たれているかも知れない。暗刻になっているかもしれない。役牌ばかりは、いくら目を凝らそうともかれにはその当て所を探ることはできない。

 

(少なくとも、照さんの手にはないはずだ……たぶん)

 

 数少ない照の和了が断ち切られたあとの局面で、彼女は打点を持ち越すことはしていなかった。どういう理屈に基づいているのかはともかく、照の打点は完全に何らかの規範に則っている。しかしあいにく、その類例は数が少なすぎて京太郎も確信を得るまでには至っていなかった。現時点ではただの希望的観測に過ぎない。

 

(くそ、切っちまいてえ)

 

 放銃と共に最低でも7700以上の失点が確定する役牌のドラを、京太郎は疎んじた。すでに重なりの期待は失せている。無論、未来の自摸などかれには知りようがない。ただし自摸れる気もしない。こうなると先に切ることが得策であるように思えてくる。

 本来であれば、抱えて沈むことも一考に値する場況である。けれども京太郎はこの{發}(ドラ)を切らねばならない。それも最大限効率的な局面を見据えた上で、振らずに打つ必要がある。

 

 打:{2}

 

(まだだ、まだ、もう少し――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:40

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 10巡目

 咲:{三五七七③④⑥⑥⑥123[5]} ツモ:{4}

 

(塔子がくっついたけど――あふれちゃった。ええと、)

 

 咲は改めて、山に視線を配る。

 

()()()(){②}()()()(){⑥}()()()()()()()。……一枚切れの{四萬}がないと、この手はあがれないけど、たぶん、もう{四萬}はいない。でも萬子は下家の人に切れない。――うーん)

 

 打:{1}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:40

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 10巡目

 花田:{二三四[五]②67發發發} ポン:{横西西西} ツモ:{六}

 

(すばら! 聴牌受け入れ11種!)

 

 打:{②}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:40

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 10巡目

 照:{二二四六六九九⑤45南南南} ツモ:{五}

 

 打:{⑤}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 07:40

 

 

「……打{六萬}じゃないんだ。七対子の目を残すってこと?」

 

 照の打牌を見た月子が、押し殺した声でいった。

 

「それもあるけど、須賀へのケアだな、たぶん」池田が面白げに応じた。「なるほど。あたしにもわかってきた。あれは確かに変態だ」

「変態? 天才じゃなくて?」

「山読みやカウンティングで読めれば天才。そういうレベルじゃないみたい。あれはとんでもなく精度が高い()()()()()だと思う。――どうやら、見てるものが違うんだ」

 

 訳知り顔で頷く池田を前に、月子は渋面をつくった。

 

「いってる意味がわかんないんですけど」

「そうお?」池田が目を瞬いた。「ま、あたしも今のところなんとなくそうかなってだけだし!――うーん、須賀の勝負が終わったら打ってみたいなァ。今日は無理かな?」

「そういえば、あなたも宮永さんとは種類が違う変態だったわ」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 11巡目、

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 11巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四發東③[⑤]五東78} ツモ:{[⑤]}

 

(塔子オーバー)

 

 雀頭となる二枚目の{赤⑤}が、京太郎の手の内で重なった。足が遅い2向聴である。しかし聴牌に向かうには、まず{發}と、そしていずれかの面子を落とさなければならない。

 

(愚形の嵌張塔子( {⑦⑨} )を、嵌{⑥}の受けを残しつつ{⑨⑦}と崩していくのがセオリー、だけど)

 

 京太郎

 河:{四一⑦8南9}

   {中一北2}

 

 咲

 河:{⑨中2北(西)⑧}

   {八八中1}

 

 花田

 河:{東19①⑦中}

   {④④③②}

 

 照

 河:{⑨北2①③9}

   {8一白⑤}

 

(――筒子の枯れが早い。おれの有効牌の{①④}が残り4枚。おれから見えてる{②⑤}が5枚、{③}が2枚、{⑦⑨}がそれぞれ3枚。{⑧}は1枚切れで――{⑥}は生牌。下家()が劈頭に{⑨}置いて、6巡後に配牌から位置が変わってなかった{⑧}を手出しした。{⑧}は残ってても1枚だし、{⑥}はこいつの手のなかに一枚以上――たぶん対子以上ある)

 

 数秒、京太郎は黙考した。

 

(皮算用でしかねーけど、だれかの手牌で暗刻になってないかぎり、{⑧}は山に生きてる。外すなら{四五}か{②③}か{78}――ま、出来合った面子を見て考えるしかねえか)

 

 そして、

 

(どっちにしても、ここが最後だ)

 

 {打:發}

 

 といった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

(スルー)

 

 対面が場に放った生牌のドラを、花田は素知らぬ顔で見送った。

 

 花田:{二三四[五]六67發發發} ポン:{横西西西}

 

(鳴いても打点には変化なし。むしろ受け入れも安牌も減っちゃう。鳴きませんよ?)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

(ずいぶん溜めてた。……聴牌なの? そんな感じ、まだしないけど……)

 

 京太郎が打った{發}(ドラ)への反応は皆無だった。皆不自然なほど静かにその牌が捨てられる様を見た。その事実が、咲にいくつかの情報を与えた。

 

(槓子から外したんじゃないかぎり、すがくんの手にもう{發}はない。お姉ちゃんが()()()の和了にドラを抱えてることも、たぶんない。嶺上にもないのはわかってる。()()()()()(){中}()()()()()()()、新ドラや裏ドラになる場所に{發}はいない。山のふかいところに二枚以上寝てない限り、もうあの{發}は場に出てる。それも対子じゃないのかな? 対子だったら頭じゃないかぎりさすがに鳴くもんね。つまり――)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 11巡目

 咲:{三五七七③④⑥⑥⑥234[5]} ツモ:{三}

 

(下家のひとが残りぜんぶ、もってる。ここから刺さってマイナス24000は、さすがにちょっと頑張らないと巻き返せないし……)

 

 打:{③}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 咲の手出しは{③}であった。慎重な切り出しに、攻撃的な気配は見えない。花田は咲の打牌を回し打ちかオリと睨んだ。

 

(ここに来て聴牌したっぽい須賀くんじゃなくて、わたしへのケア? ムム、なんだか見透かされてる気がしますね)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 11巡目

 花田:{二三四[五]六67發發發} ポン:{横西西西} ツモ:{6}

 

(――きた)

 

 打:{7}

 

(しょーぶですっ!)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 11巡目

 照:{二二四五六六九九45南南南} ツモ:{一}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 07:41

 

 

「あ、掴まされた」

 

 花田が聴牌を入れた直後――照が引いた牌を見た池田が、のんびりといった。

 

「自分でも切ってる四枚目の{一萬}ね」

 

 と、月子が思案げに呟いた。

 

「うーん、親も上家も高そうだし、ここで聴牌でもないのに手拍子で打{一萬}はちょっとないな。あたしならオリる」

「同感なんだけど」月子は苦笑する。「宮永さんがオリたところ、見たことないのよね」

「まァ、さっきのメンチンに向かっといてここでベタオリはないよな」

 

 目を輝かせる池田は、お手並み拝見とでも言いたげだった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 京太郎

 河:{四一⑦8南9}

   {中一北2發}

 

 咲

 河:{⑨中2北(西)⑧}

   {八八中1③}

 

 花田

 河:{東19①⑦中}

   {④④③②7}

 

 照

 河:{⑨北2①③9}

   {8一白⑤}

 

「――」

 

 打:{二萬}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 07:41

 

 

「なぜよりによって生牌……?」

「理屈じゃないんだろ」

 

 唖然とする月子を指差して、池田がからからと笑った。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 12巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四東③[⑤]五東78[⑤]} ツモ:{⑧}

 

(――待ってたぜ)

 

 微笑みと共に、京太郎は安全牌を打ち出した。

 

 打:{③}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 12巡目

 咲:{三三五七七④⑥⑥⑥234[5]} ツモ:{西}

 

 {打:西}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 12巡目

 花田:{二三四[五]六66發發發} ポン:{横西西西} ツモ:{5}

 

(後退は、ない)

 

 打:{5}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 12巡目

 照:{一二四五六六九九45南南南} ツモ:{北}

 

 {打:北}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:41

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 13巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四東③[⑤]五東78[⑤]⑧} ツモ:{白}

 

 {打:白}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 13巡目

 咲:{三三五七七④⑥⑥⑥234[5]} ツモ:{七}

 

 打:{[5]}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 13巡目

 花田:{二三四[五]六66發發發} ポン:{横西西西} ツモ:{2}

 

(この3面張……どれくらい、残っているものか――)

 

 打:{2}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

 ――宮永照は、山から牌を自摸る前に、須賀京太郎の河を見下ろした。

 

 京太郎

 河:{四一⑦8南9}

   {中一北2發③}

   {白}

 

 咲

 河:{⑨中2北( 西 )⑧}

   {八八中1③西}

   {[5]}

   

 花田

 河:{東19①⑦中}

   {④④③②75}

   {2}

 

 照

 河:{⑨北2①③9}

   {8一白⑤二北}

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 13巡目

 照:{一二四五六六九九45南南南} ツモ:{9}

 

「――」

 

 打:{9}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

 このとき、京太郎の牌姿は、

 

 京太郎:{四五②[⑤][⑤]⑦⑧⑨78東東東}

 

 であった。つまり、照が打った{9}を喰えば打{②}で{三六萬}の聴牌が取れる。

 四枚目の{9}である。連風牌の隠れ暗刻を手の内に蔵して、鳴かないはずはない牌だった。

 

(そうだな、そいつは和了牌じゃない。振聴の受けだ。でも、鳴けば聴牌が取れる。たぶん、それくらいはわかってたんじゃないか? 想像くらいはついてたろ――だから鳴かせてくれたんだ。つまり、やっぱり理牌や河からおれの手を見てたわけじゃなくて、感覚的に、どこがおれの欲しい牌かわかってるってことだ)

 

 ――()()()、京太郎は無言で山へ手を伸ばした。

 

(そんなもん――()()()()()

 

 {9}を、かれは一顧だにしない。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

(――――――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

 そして、

 

(――だからって、これは出来すぎだけどな)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 14巡目

 京太郎:{②⑦⑨東四東[⑤]五東78[⑤]⑧} ツモ:{6}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 07:42

 

 

「須賀が自力で聴牌取った」

 

 池田が、ぽつりと言った。これを聞いて目を丸くする月子である。

 

「え、何待ち?」

「{三六萬}。めちゃくちゃ薄いけど、まだ活きてる。――てか、ホラ、伏せ牌やめたぞアイツ」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

(意外とできるモンだ。まァ、たまたま、珍しくツイてただけだろうけど)

 

 自身の運については、ある程度折り合いをつけている京太郎である。これが稀な事例であることは、誰に釘を刺されずともかれ自身重々承知していた。

 

(いいさ。百回に一回だろうが、いまできればそれでいい)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 14巡目

 京太郎:{四五②[⑤][⑤]⑦⑧⑨678東東東}

 

 打:{②}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 14巡目

 咲:{三三五七七七④⑥⑥⑥234} ツモ:{白}

 

 {打:白}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:42

 

 

(追いつかれましたか。やれやれ――すばらなことです)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 14巡目

 花田:{二三四[五]六66發發發} ポン:{横西西西} ツモ:{6}

 

({6}――親の聴牌気配が濃厚なこの巡目でまったく無筋の{36}。これは、さすがにちょっと、すばらくないですね)

 

 打{二萬}もしくは{六萬}で、それぞれ{三六萬}、{二五萬}への張替えが可能である。そして{6}は生牌――。

 

 {打:發}

 

 花田はほぼノータイムで、打發といった。

 

(イチかバチかの12000より、7700を取ります!)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 07:43

 

 

「須賀が{9}を鳴いてたら、{6}はきらめんじゃなくてあの赤毛に入ってたわけか。突然態勢苦しくなったね、あの人」

「須賀くんは、なんで{9}鳴かなかったのかしら。まさか自摸を読んだわけじゃあるまいし」

「単純じゃん。つっきーもさっき言ってたでしょ。同じことだ。それだけ上家を信じてるんだよ」池田がつまらない手品の種を明かすような口ぶりで言った。「意味もなく自分に牌を喰わせるようなことをするはずがない。だから、鳴かない。思い通りには動かされない。そういうコトでしょ。実際それで成功してる」

「なるほどね」

 

 池田の言を聞き、月子は嘆息した。照の実力と異常性への信頼が、京太郎に場の不条理性を勘定に入れた打ち回しを選択させているというわけだった。京太郎を指導する立場としては受け入れがたい話だけれども、なるほど言われてみれば頷かざるを得ないものがある。

 

「じゃあ、須賀くんは宮永さんに一杯食わせることに成功したのかしら。これがやりたかったの?」

「さあ――伏せたり理牌崩したりしてたのは、結局意味なかったわけだし。どーなんだろ」

 

 といって、池田は肩を竦めた。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 そして、

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 14巡目

 照:{一二四五六六九九45南南南} ツモ:{八}

 

 打:{5}

 

 照が山から牌を自摸り、河へ{5}を打つまでの時間は、秒にも満たなかった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

(自摸は、あと、三回)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 15巡目

 京太郎:{四五[⑤][⑤]⑦⑧⑨678東東東} ツモ:{①}

 

(――和了逃し)

 

 河へ打った{②③}が、これ見よがしに京太郎の目に入る。それでもかれは表情を変えず、黙って{①}を場に打ち出した。

 

(山読みなんて、こんなもんだ。枚数の多い少ないなんて、たとえ当たってたところで平気で裏目るもんだ)

 

 打:{①}

 

(――それが麻雀だろ)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 15巡目

 咲:{三三五七七七④⑥⑥⑥234} ツモ:{5}

 

(安牌、あんぱい)

 

 打:{5}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 15巡目

 花田:{二三四[五]六666發發} ポン:{横西西西} ツモ:{①}

 

 打:{①}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 15巡目

 照:{一二四五六六八九九4南南南} ツモ:{七}

 

 花田、京太郎に後れを取る形で、15巡目に照の聴牌が入った。待ちは出れば5200の辺{三萬}――しかし照はすでに今局、己に和了目がないことを悟っていた。

 

 打:{4}

 

({三萬}は、残り一枚。でも咲が引く。触れない)

 

 綾は、むろん13巡目の打{9}であった。あれは照の感覚では、京太郎が鳴くはずの牌だったのである。

 

(たぶん――)

 

 京太郎

 河:{四一⑦8南9}

   {中一北2發③}

   {白②①}

 

 咲

 河:{⑨中2北( 西 )⑧}

   {八八中1③西}

   {[5]白5}

 

 花田

 河:{東19①⑦中}

   {④④③②75}

   {2⑧發}

 

 照

 河:{⑨北2①③9}

   {8一白⑤二北}

   {954}

 

 京太郎の待ちは{三六萬}。花田の待ちは{一四七萬}。

 いずれかが和了る。

 それが照の視る、今局の結末である。

 

(――こういうこともある)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 16巡目

 京太郎:{四五[⑤][⑤]⑦⑧⑨678東東東} ツモ:{五}

 

(超がつく危険牌。――じゃあ、{四萬}を打つのかって話だ)

 

 打:{五萬}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 16巡目

 咲:{三三五七七七④⑥⑥⑥234} ツモ:{三}

 

(回してただけなのに、やたら高くなったなぁ)

 

 打:{五萬}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 16巡目

 花田:{二三四[五]六666發發} ポン:{横西西西} ツモ:{中}

 

(うぅ)

 

 {打:中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:43

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 16巡目

 照:{一二四五六六七八九九南南南} ツモ:{②}

 

 山へ手を伸ばし、牌に触れた瞬間、奇妙な感覚が照の指から腕、肩を抜けて首を這った。

 虫の報せとでもいうべき、それは予兆である。

 

(――{六萬}。さいごの)

 

 と、照は思った。

 

(京太郎の和了牌――)

 

 打:{②}

 

 そして、照の予感は実現した。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:44

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 17巡目

 京太郎:{四五[⑤][⑤]⑦⑧⑨678東東東} ツモ:{六}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:44

 

 

 打:{六}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:44

 

 

 その牌を視た瞬間、

 

(――――――え)

 

 照の思考に、空隙が生じた。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室・キッチン/ 07:44

 

 

「へ」

 

 と、月子が目を白黒させた。何かを口にしようとして、それもままならない様子で池田に訴えかけるような目を送る。

 池田は苦笑いを浮かべ、

 

「――莫迦じゃねーの」

 

 と、いった。

 

「アイツ、16000をフイにしたし! そこまでやるか、フツー?」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:44

 

 

 咲もまた、京太郎が自摸切った{六萬}に、少しならず不意を衝かれた。

 

(あ、あれ? {六萬}、え、あたりじゃないの? あれぇ――そこだと思ったんだけどなぁ)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 17巡目

 咲:{三三三七七七④⑥⑥⑥234} ツモ:{⑧}

 

 打:{⑧}

 

(調子悪いのかな――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:44

 

 

({六萬}、とおりますか――本命だと思ったんですけど)

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 17巡目

 花田:{二三四[五]六666發發} ポン:{横西西西} ツモ:{二}

 

(んー……{五萬}の筋ですけど、{一三萬}が残ってるかー)

 

 打:{六萬}

 

(しょーがないですねっ)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:44

 

 

 今局における、宮永照最後の自摸番が回った。

 

 予想を違えても、照の思考は冷静さを欠いていない。彼女の精神はそこまで脆弱ではない。けれどもどうしようもないすわりの悪さがあって、その違和感は否定しようがなかった。冷徹に卓へ向かう意思とは異なる場所で、照の内なる声が疑問符をしきりに浮かべている。

 

 ()()()(){六}()()()()

 

 打点は11600から12000、京太郎の和了で今局は幕を閉じる。それが既定された結末だったはずである。点差こそ広がるものの、それは照にとってどうとでも挽回できる範囲の出来事でしかない。卓上で発生するあらゆる事象は、照の『感覚』にとっては予定調和的に終結する。

 物語の筋書きのようなものだ。

 その約束された筋道が、唐突に()()()

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 17巡目

 照:{一二四五六六七八九九南南南} ツモ:{九}

 

 彼女が最後に引いたのは、{九萬}である。打{六萬}で満貫が確定し、そして{三萬}が純枯れである以上意味のない打牌だった。とはいえ{六萬}は今巡、完全なる安全牌である。振り替えに何ら不都合があるわけではない。

 けれども、照の感覚は{六萬}が京太郎の和了牌だと告げている。ここで{六萬}を合わせ打つことは、自身の感覚が誤りであったことを認めるに等しい。

 

(刺さることは、問題じゃない)

 

 しかし、京太郎は{六萬}では和了できなかった。このうえで{六萬}を手元に抑えるというのは、照の意地でしかない。なんの意味もない。{六萬}は安全牌である。事実はそれ以上でもそれ以下でもない。

 

({九萬}は、)

 

 照は、()()()()

 

「――」

 

 京太郎

 河:{四一⑦8南9}

   {中一北2發③}

   {白②①五六}

 

 咲

 河:{⑨中2北( 西 )⑧}

   {八八中1③西}

   {[5]白5五⑧}

 

 花田

 河:{東19①⑦中}

   {④④③②75}

   {2⑧發①中六}

 

 照

 河:{⑨北2①③9}

   {8一白⑤二北}

   {954②}

 

(――生牌)

 

 仮に刺さるとすれば、{六萬}が通っており、かつ照の元に三枚見えている以上はタンキしかない。比較的安全度は高いけれども、絶対ではないということである。

 少なくとも、どちらを切っても聴牌が確定している状態で{六萬}とテンビンに掛ける牌ではない。

 

 照は――

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

(はじめてみた)

 

 と、咲は心中呟いた。

 

(――おねえちゃんが、長考してるところなんて)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 十数秒ほどの間だった。

 

 照は、

 

 打:{六萬}

 

 と、いった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 18巡目

 京太郎:{四五[⑤][⑤]⑦⑧⑨678東東東} ツモ:{九}

 

 京太郎は、生牌の{九萬}を、

 

 打:{九萬}

 

 一瞬のためらいもなく切り落とした。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 18巡目

 咲:{三三三七七七④⑥⑥⑥234} ツモ:{⑥}

 

(どうせ和了り目はないけど、海底を人に回すこともないよね)

 

 咲は、嘆息した。

 

「――カン」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 そして、東三局0本場は――

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 宮永咲が手牌を開いた。

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 咲:{三三三七七七④234} カン:{■⑥⑥■}

 

「テンパイ」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 花田煌が手牌を開いた。

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 花田:{二二三四[五]666發發} ポン:{横西西西}

 

「残念、テンパイです!」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 宮永照が手牌を開いた。

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 照:{一二四五六七八九九九南南南}

 

「……テンパイ」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 須賀京太郎は、

 

 東三局0本場 ドラ:{發}(ドラ表示牌:{白})

 京太郎:{四五[⑤][⑤]⑦⑧⑨678東東東}

 

()()()()()

 

 手牌を伏せた。

 

「――親流れだな」

 

 と、静かな口調でかれはいった。

 

 そして卓中央のスイッチを押すと、ぽっかりと口を開けたうろに、13枚の牌を河ごと流し込んだ。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 07:45

 

 

 

 【西家】花田 煌  :21300→22300(+1000)

     チップ:-1

 【北家】宮永 照  :35700→36700(+1000)

     チップ:+1

 【東家】須賀 京太郎:48600→45600(-3000)

     チップ:+1

 【南家】宮永 咲  :-5600→-4600(+1000)<割れ目>

     チップ:-1




2013/2/11:牌譜修正
2013/2/11:ご指摘頂いた誤字・表記を修正
2013/2/12:タイムラインの誤表記修正
2013/2/13:感想でご指摘頂いた牌譜誤り(多牌)を修正
2013/2/20:牌画像変換

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